余録

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余録:エジプトのホールインワン

 エジプトのカイロ郊外。ピラミッドの周りにあるゴルフ場では「ホールインワン」がよく出た。さてはピラミッドパワーかと思ううちに、知人が目の前で「ホールインワン」を達成したのには驚いた▲打球はショートホールを囲む林に入ったようだが、皆で探しても見つからない。そのうちにエジプト人のキャディーがグリーンに上がって「あった、あった」とホールの中から白い球を取り出した。木にはね返って入ったのか、とても不思議なホールインワンだ▲もう20年も前の話だが、相次ぐ「快挙」について「キャディーがこっそり球を拾って入れるんでしょう。ご祝儀ほしさに」と言う人も多かった。「快挙」の達成者とエジプト人には失礼な見方だが、推測通りの例もあったらしい▲親切で優しく、そして貧しい。それがエジプトの庶民だ。失業率は10%前後で物価も高い。08年の食糧危機では公営店のパンの大きさが半分になり、生活はさらに窮乏した。国連推計では1日の生活費が2ドル(166円)以下の貧困層が総人口の約2割を占めている▲人情穏やかなナイルの国で抗議行動が盛り上がるのも当然だ。30年も大統領の座にあるムバラク氏は、夜間外出禁止令まで出して辞任を拒んだが、全閣僚更迭などで乗り切れるかどうか。権力を手放すことを真剣に考える時だ▲国民の信を失った権力者の末路は哀れである。79年のイラン革命で失脚した故パーレビ国王はエジプトに身を寄せた。「王の中の王」と称した権力者の落魄(らくはく)ぶりをムバラク氏も目に焼き付けていよう。小手先のごまかしは不信を増幅するだけ。政治もゴルフもフェアプレーが肝要だ。

毎日新聞 2011年1月30日 0時01分

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