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社説:大都市の自治制度 多角的に地域像議論を

 「地方発」の、のろしである。春の統一地方選を前に、大都市圏の地方制度の見直しに向けた議論を地方側が積極提起している。

 橋下徹大阪府知事は広域行政を一元化する「大阪都」を掲げ、新潟では県・市を舞台に合併構想も浮上している。それぞれの構想には疑問や課題も少なくないが、道府県と政令市の二重構造による行政が矛盾を抱えていることは事実だ。あり方を議論する契機と捉えたい。

 一連の議論に火を付けたのは橋下知事だ。行政が重複しがちな府と大阪市を堺市を加え再編し「都」に広域行政、市を分割して設ける複数の「特別区」に住民行政を分担させる大阪都構想を提唱している。自身が代表を務める地域政党は大阪府、大阪市、堺市の3議会選挙など統一選に向けた公約を発表、15年春に同構想を実現するプランを掲げた。

 橋下氏は二重行政廃止に伴う行革効果も強調しているが、大阪市の平松邦夫市長は「市をつぶす構想」と猛反発している。一方で片山善博総務相が「住民の行政チェックが難しくなりかねない」と都構想に懸念を示したのに対し、橋下氏は特別区に中核市並みの権限を持たせるとして「チェック機能は強化される」と反論している。

 大阪は経済の地盤沈下が進み、閉塞(へいそく)感を強めている。広域行政の一元化を成長戦略の起爆剤とする橋下氏の主張にどこまで説得力が伴うかが、問われる。

 大阪都と特別区の財源、権限の実際の配分や、府・市の借金、特別区の議員数をどうするのか。橋下氏が将来目標とする「関西州」が実現した場合、州都機能をどう考えるかなど、より具体的な説明が必要だ。現状では住民の判断材料が十分提供されたとはなお、言いがたい。さらに議論を深めるべきだろう。

 愛知県知事選、名古屋市長選でも「中京都」構想が論点のひとつとなっている。新潟では県知事と新潟市長が県市合併による「新潟州」を提起した。やや唐突な印象は与えるが地域の「自己決定」を掲げ、県と政令市が共闘した意味は大きい。

 府県とその域内の大都市は、戦前から権限争いを繰り広げてきた。結局、東京は都制が敷かれ、他の大都市は政令市が制度化された。だが、二重行政や、人口100万を超すような大都市がキメ細かな住民自治の受け皿にふさわしいか、などの問題点はかねて指摘されていた。

 こうした改革の実現にはもちろん、立法措置が必要だ。「道州制」の是非など、国全体のビジョンという視点も欠かせない。地方発の動きを一過性のものと捉えず、与野党も多角的に議論を進めるべきである。

毎日新聞 2011年1月31日 2時31分

 

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