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天声人語

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2011年1月31日(月)付

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 このあいだ年をまたいだと思ったら、はや睦月(むつき)も限り。梅の紅白が一輪、もう一輪、寒さに向けて開き始めた。冬将軍が列島の空をくっきり二分した今月の言葉から▼かのタイガーマスクが奈良県天理市の児童養護施設にも参上した。その正体は施設内の年長の子らだった。年少者を思ってのささやかな贈り物に、施設の院長中島道治さんは「他人の分を奪ってでもたくさん食べたい年ごろの子たちが菓子を食べずに取っておき、小さな子にあげる優しい気持ちを育んだことがうれしい」▼自殺率が1位の秋田県で、防止に取り組む僧侶の袴田俊英(はかまた・しゅんえい)さん(52)が、「昔は、優しかったけどつながりがきつすぎて、つらい部分もありました。かつての優しさと、手に入れた自由や快適さをうまく調節できないかなと思っているんです」。新しい絆を模索する▼福祉施設で作られた食べ物をネット販売するサイトの代表木村知昭さん(35)は、善意や同情だのみでなく商品力で勝負をかける。「障害者を助けようという気持ちでなく、いい商品だと思ったら買ってほしい」と▼パズル書「頭の体操」で一世を風靡(ふうび)した心理学者多湖輝(たご・あきら)さん(84)。沈滞気味の若者に「人間、アイデアですよ。世界が認めるのは、いいとこどりで総花的な日本的合議式から生まれる提案ではなく、突拍子もないアイデアです」▼去年の入選作から選ばれた第27回朝日歌壇賞の一首に大阪の西野防人(さきもり)さんの〈六二三(ろくにいさん)、八六八九八一五(はちろくはちきゅうはちいちご)、五三(ごさん)に繋げ我ら今生く〉。忘れ得ぬ日々。意味不明を言う若者の少なきを願いつつ。

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