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【コラム】金子達仁 2011年

指揮官も成長させた価値ある大会

<アジア杯決勝 オーストラリア代表・日本代表>サポーターに笑顔で手を振るザッケローニ監督

 日本にとっては、事実上、史上初めてのアジア杯制覇と言っていい。過去3度の優勝は、勝つことによって得た自信、経験をW杯に持っていけない優勝だった。アジアと世界は違う。選手たちはそう考えていたし、おおむね、その考え方は正しかった。

 だが、カタールでのW杯開催が決まったことで、オーストラリアがアジアに編入してきたことで、日本と韓国がW杯南アフリカ大会でベスト16に進出したことで、アジア杯の意味は大きく変わった。勝った自信を、そのままW杯へ持っていける大会となった。ここでの勝利は、苦しみぬいた6試合の経験は、間違いなく世界で戦う上でも大きな糧(かて)となることだろう。

 この勝利は、日本にとっては5年ぶりに見つけた“解答”でもある。ドイツでの日本は、オーストラリアのキック・アンド・ラッシュに翻弄(ほんろう)され、撃沈された。単純ではあっても破壊力のある彼らのやり方への対抗策を、当時のジーコ監督は見つけることができなかった。

 ザッケローニ監督は見つけた。

 速いタイミングでクロスを放り込まれるために、セカンドボールを意識する遠藤、長谷部のポジションが下がり気味になり、本田や岡崎らとの距離が離れてしまう。よって、攻められるばかりか、自分たちの攻撃も威力を失ってしまう。それが、苦戦の原因だった。ならばどうするか。ザック監督の答えは、岩政の投入だった。

 高さのある選手が最終ラインに入ったことで、オーストラリアの選手には「正確なクロスを入れなければ」という精神的な重圧がかかる。さらに、日本の両サイドバックが位置取りを前目に変えたことで、重圧は物理的にも増した。以後、サイドからのクロスは著しく精度を落とし、日本が受ける脅威は激減したのである。

 韓国戦でのザック監督は、徹底した守りこそ最良の守りであるという、きわめてイタリア的な采配をとり、あわや大失敗をしでかすところだった。決勝での采配は、その教訓を見事に生かし、選手の提案も受け入れて日本人の気質にあった守備強化策でチームを救った。今大会は選手を成長させただけでなく、経験豊富なイタリア人監督をも成長させたのである。こんなことも、過去にはなかった。

 勝利の瞬間、多くの選手が監督の元に駆け寄り、熱い抱擁を交わしていたが、指揮官に対する厚い信頼、敬意が生まれつつあることの現れだろう。自信をつかみ、経験を積み、一体感を増したチームは、南米の強豪といかにして戦っていくのか。7月の南米選手権への出場が、いまから楽しみである。 (スポーツライター)

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