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妊婦に遠い“無痛”分娩 国内実施2.6%

(2011年1月15日) 【中日新聞】【夕刊】【その他】 この記事を印刷する

背景に医師不足や痛み美化

 お産の痛みを麻酔で和らげる“無痛分娩(ぶんべん)”と呼ばれる出産法の普及が進まない。出産の6割とされる米国をはじめ欧米では一般的だが、日本は2.6%と極端に少ないことが厚生労働省の初の調査で判明。背景には、医師不足や「痛みに耐えてこそ」という根強い意識もありそうだ。

 「痛みが軽く、余裕を持って産めました」

 昨年11月2日、埼玉県川越市の埼玉医大総合医療センター。茂呂仁子さん(34)は出産直後とは思えない元気な様子だ。前回は陣痛中に意識を失ってしまい、出産の瞬間を覚えていない。激痛への恐怖もあって無痛分娩を選んだという。

 無痛分娩は、痛みを脳に伝える脊髄(せきずい)のすぐ近くにある「硬膜外腔」に、細いチューブで麻酔薬を注入する硬膜外無痛分娩という方法が一般的。感覚は鈍るが体は動かせるので、赤ちゃんを押し出す「いきみ」はできる。痛みによる血圧上昇も避けられるため高血圧や心臓病がある妊婦に向くという。

 田中ウィメンズクリニック(東京)の田中康弘院長は「お産の痛みは体を切られるレベルに近い。懲りて産みたくなくなる人もおり、無痛分娩は少子化対策になるかもしれない」と話す。

 だが、厚労省研究班が昨年まとめた初の調査では、全国1176施設が2007年に手掛けた出産計約40万件のうち、無痛分娩は1万件強(2.6%)にとどまった。調査した埼玉医大総合医療センターの照井克生准教授は「無痛分娩の要望は増える傾向にあるが、安全に実施できる麻酔科医や産科医が不足している。産科医が技術を学ぶ機会はほとんどないし、麻酔科医にとっても少ない」と要因を分析する。

 実施にはリスクもある。低血圧や頭痛などの副作用が起きることがあるほか、出産時間が長引くケースがある。緊急対応が可能な医療機関で、技術に習熟した医師による管理が欠かせない。費用面でも通常の出産より高くなる。

 一方「おなかを痛めた方が愛情がわく」という考え方も強く、「とがめられそうで」夫の親に言い出せなかった女性もいる。

 生活コラムニスト、ももせいづみさんは「妊婦が1つの選択肢として、メリット、デメリットを考えた上で選べるようになればいい」と話している。