ちょっと前に2chのスクリプトがハックされ、その後「2ch関係者」から、「2chは崩壊の危機に瀕している」みたいなリークがニュースサイトに流された。どうせFOXあたりが自虐的に流しているのだろう、マッチポンプでよくやるよ、と思っていたが、いまや真の崩壊が訪れたのかもしれない。規制解除を担当しているただ一人の解除人が辞任を表明したという。解除人は一番面倒で割りに合わない仕事だろうから、何らかの形で報酬を貰っているのだろうと思っていたが、驚いたことに純粋にボランティアだったらしい。逆に削除人とかは、少なくとも上位の者は、2chの利害関係者っぽい。いや~7年間も無償でよくやる。本当に2chが好きでなければできないことだろう。その彼が辞任を申し出たということは、いまの2chは彼が好きだった2chではなくなったということだろう。俺もいまの2chは好きでないから、この点は多分に俺の主観が入っているかもしれないが。 * * *最初に俺が「2chの運営はダメかも」と思ったのは、そのときはあくまで「2chの運営が」であって、「2chが」ではなかったが、最初の大規模規制のちょっと前ぐらいだったろうか。それ以前から規制の頻度や範囲は広がっていた。自分が規制に巻き込まれたので久しぶりに運営板を覗いてみたら、削除人の誰かが「規制の範囲を絞るつもりはない」と公言しているログが目に止まった。このときいまの2ch運営は、専守防衛ではなく、一罰百戒のような攻撃的な姿勢なのだな、と感じた。身を守るための最小限の防御ではなく、2chに悪さをするような人間やISPは、二度とそんな気が起きないように手ひどくやっつける、と。規制の範囲を広げれば影響は大きくなるからISPも困るだろう。相手を困らせることで自分の主張をねじ込む戦術だ。ISP側だって馬鹿じゃないのだから、そんな敵対的・威圧的な相手には逆に態度を硬化させるだろうに…と内心思っていた。強気の相手に譲歩したら次々に譲歩させられるわけだから、そういう相手には同じ力で押し返すしかない。ということで、この状態は長く続かないだろうな、と。 * * *次に2chの終わりを予感したのは大規模規制のときだったろうか。運営板にいたずらの書き込みをした人間に対して「どんなに自由でも、すべて自由ではない、守らなければならないルールがある」みたいな、まるで学校の先生がいうようなことをいっていた。問題なのはそのときの運営側のいう「守らなければならないルール」が、とてもではないが共感を呼ぶものではなかったこと。放置すれば即座に2chの運営に支障をきたすものであれば、多くのユーザーは運営側を支持したであろう。しかし運営板へのいたずら書き込みがそれに匹敵するとは思えなかった。運営が自分たちの絶対性を誇示するための威圧的な行為にしか見えなかった。ユーザーを威圧し、敵に回してどうするのだ。このころから俺は、現在の2chの運営メンバーはコミュニティの運営に素人な人間ばかりなのだなと思うようになった。ネットのコミュニティの運営はいうまでもないことだが、難しい。長年続いたコミュニティがたった一つの事件で崩壊してしまうことも少なくない。コミュニティが危機に瀕したときに、管理者側が威圧的・高圧的な態度をとったコミュニティは例外なくその後崩壊する。即座に崩壊しなくても徐々に人が離れ衰退していく。もしコミュニティ運営にただ一つ真理があるとすれば「柔よく剛を制す」だ。 * * *そんなこんなで現在の2ch運営メンバーは長くはもたないだろうと思っていたのだが、予想に反して長くもってしまった。その代償として2ch自身の命運が尽きようとしている感じだ。考えて見れば2chの利害関係者なら、いくらコミュニティ運営能力が未熟でも、解任・交代はないわけだ。もともと運営能力とは別な理由でメンバーが決まるのだから。しかし能力が伴わない人たちに日本最大の掲示板は運営できないであろう。2chの運営体制の全体像がわからないのだが、削除人と解除人の集団指導体制で、両者の上に立ってまとめるトップが不在なのだろうか。FOXが現場での最終的な決定権を持っている気がするのだが、実際にはほとんど運営の揉め事に介入していないようにみえる。普段は前面に出てこないがここぞというときは介入して微妙に軌道修正をはかる…というのではなく(ひろゆきはこのタイプだったようだが)、本当になにもしない。そうだとすると会社だったら役員会はあるが社長が長期不在ということになり、短期ならともかく次第にその会社は求心力を失い崩壊するだろう。全体を見渡して方針を決めるトップは必要だ。そうでないと各部署が勝手をやりだしてばらばらになる。まあその通りのことが2chで起きつつあるのかもしれない。 * * *組織というのはそのシステムやメカニズムは大事だが、つまるところそういう無機的なものだけでは維持できないものだ。哲学や伝統といった主観的な成分がなければ。無機的なものだけで意思決定できるならこの世に一種類の組織だけあればいいはずだ。そうでないから多種多様の組織が存在する。だいたい役割だけ与えて「仕事しろ」で済むなら、なぜ部下のモチベーションを高めるために、みんなあれこれ苦労するのだ(苦笑)。それにしても運営板を見る限り運営メンバーの発言は感情や私怨に満ちている。運営について話し合うのだから会社でいえば、公の会議と同じだろうに。それなのにまるでサークル仲間の内輪の雑談のようだ。馴れ合いは上手くいっているときは効率がいいが、ひとたび亀裂が入ると途端に機能不全に陥る。公の立場、個人ではなく役割として発言しているのだ、という自覚がない。注)どうもこういうと、お行儀のいい議論、丁寧な言葉づかいと紳士的な姿勢で議論せよといってると勘違いする人が少なくない。「正しい議論=礼儀正しい議論」という幼少児からの刷り込みが、そもそも正しい議論ができない人が多い一番の原因だ。言葉遣いなんざどうでもいいんだよ、ばーか(苦笑 * * *そして致命的な考え違いをしているのは、自分たちの仕事を楽にしようとしたこと。運営というのはサービス部門であり、ある意味ルーチンワークだ。サービス部門が自分たちの仕事を楽にするということは、客の方にそのぶん面倒を押し付けること。客というのはエンドユーザーであったり、同じ会社の別部門であったり。だからサービス部門は自分たちの仕事を楽にしようとしてはいけない。しかし2ch運営たちの発言を見ると、「いくらやっても荒らしが減らない」「すぐに荒らしが再発する」みたいなのが多い。困ったものだ。まるで警察が「いくら取り締まっても犯罪が減らない」とか、学校の先生が「いくら指導しても毎年毎年馬鹿な生徒が入学してくる」と嘆くようなもの。世の中には根本的に解決しようとしてはいけないことがある。火事が起きれば消防車が、病人が出れば救急車が出動する。たとえそれが何百万回繰り返されようと、永久にイタチごっこを続けるしかないのだ。それすらわかっていない。 * * *2chの本当の危機は、スクリプトのハックでもないし、運営メンバーの辞任でもない。ユーザーの支持を失ってしまったことだ。これを取り返すのは恐らく無理だろう。2chがこれから先、今以上に繁栄することはない。最大限頑張っても、いま残っているユーザーをこれ以上減らさないぐらいのことしかできないであろう。掲示板というシステム自体が斜陽だし、なにをやってもしぶとくユーザーがついてきてくれた10年前とは状況が違う。なにやらファイナルファンタジー14で大コケしたスクエニをなぞっているかのようだ。一度失った信頼は戻らない。ともあれ今回のことがきっかけで事態が一歩進むことは喜ばしいことだ。それがプラスの方向かマイナスの方向かはまだ分からないが。追記ボランティアか利害関係者かは関係ないだろうという意見がある。もちろん関係ない。コミュニティの管理能力さえあればいい。問題は本文で述べたように利害関係者は管理能力を評価されて運営のポジションについているわけではない点だ。この場合の管理能力とは、コミュニティを繁栄させる能力。削除や規制を事務的にやる能力ではない。どうすればコミュニティが栄えるかを考えた上でそれらを含めてバランスをとって運営する能力だ。「荒らしを規制する」というのもその一部でしかないのだが、それが管理のすべてだと思い込んでいる視野の狭さに救い難さがある。なんか昭和のSFマンガを思い出してしまう。都市を管理する巨大コンピュータ。住人に快適な暮らしを提供するため、はるか昔にプログラムされた「アラシ ヲ ボクメツ セヨ」という命令を、住人が死に絶え、その命令の意味がなくなっても、ひたすら忠実に実行し続ける哀れなコンピュータ。あるいはもっと卑近なところでは、生徒に給食を全部食べさせることが教師としての自分の全存在意義だと信じこんでる小学校の先生とか(笑)。関連記事:なんか2chの過疎化が一段と進んだような…
>組織というのはそのシステムやメカニズムは大事だが、つまるところそういう無機的なものだけでは維持できないものだ。哲学や伝統といった主観的な成分がなければ。無機的なものだけで意思決定できるならこのよに一種類の組織があればいい。そうでないから多種多様の組織が存在する。同感です