1企業頼りの危険性。
シリコンウエハー製造大手SUMCO(本社・東京)の新工場建設に伴う伊万里市の工業用水事業で1日、伊万里湾の貯水池からの給水が始まった。悲願の工場誘致のために投入された総工費は170億円。市の負担は60億円で、工場誘致に伴う法人税収増などを返済財源に見込む。ただ、昨年来の世界同時不況はSUMCOも襲い、大規模減産で税収減が避けられない状況に陥るなど環境は一変している。29年という長期債務返済には、景気や一企業の業績に左右されかねない不安もつきまとう。
貯水池整備は、工場進出の絶対条件としてSUMCOが日量2・5万トンの工業用水を求めたことで浮上した。県と事業案を練り上げて誘致競争を制し、2年という異例の早さで完成させて新工場稼働に間に合わせた。
貯水池は容量246万トン。伊万里湾の旧貯木場を堤防で閉め切り、有田川の取水地との間を約8・5キロの導水管で結んだ。11事業所に水を供給する計画で、今は日量0・7万トン、13年度をめどに2・5万トンまで増やす。総事業費の負担内訳は、市と県が60億円ずつ、SUMCOが30億円、国が20億円だ。
一企業のための巨額事業の背景は雇用と税収。06年のSUMCO進出以降、新規雇用者数は900人を超える。07年度の法人市民税は、市税総額の2割にあたる15億4600万円。平年でも数億円単位の税収がある。雇用者の生活を含め、経済効果は相当なものだ。
市は今回の事業も「税収基盤安定のための投資」と位置づけるが、「市の財政を一企業に依存している状態。景気低迷の中で、継続的な償還が可能か」(市議)と不安も漏れる。
市は、当面は金利だけを返済し、15年度から17年間は金利込みで3億3000万円ずつ返す計画。財源は増えることを期待する法人市民税などの一般財源からの繰り入れだ。あくまで試算だが、SUMCOからの税収で2022年度までに投資分を回収できる見通しを持っている。だが、それも景気次第。昨秋以降の景気悪化で誘致企業の業績が悪化することで、市は本年度の法人市民税が41・7%も減少すると予測している。
市の実質公債費比率(07年度)は20・4%で、県内市町では3番目の高さで、財政に余裕などない。好景気時の目算で取り組んだ巨大事業だが、景気悪化で不安が浮き出てきた格好だ。
塚部芳和市長は「景気が回復すれば、償還金以上の恩恵を市にもたらす。長期的視野で取り組む」という。
【写真】伊万里湾を閉め切る形で整備され、SUMCOなどへの工業用水の供給を開始した貯水池=伊万里市山代町
ひびのニュースより
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