2011年1月19日
人気イベントの闇 人体展、捜査へ
人体展の標本は遺体か展示物か―。厚生労働省が標本について「遺体」との見解を示した「人体の不思議展」。学術的評価もある一方、「怖い物見たさ」の好奇心をあおった展示内容に批判的な見方もある。中国人とされる標本の提供元、構成団体をはっきりと公表しない主催者側…。人気イベントの実態には不可解な点も多く、遺体が「見せ物」になりかねないという倫理上の問題もはらんでいる。
献体提供元、主催構成団体公表せず
「展示されている標本はすべて生前からの意思に基づく献体によって提供されたものです」
平安神宮(京都市左京区)のほとり、京都市勧業館(みやこめっせ)で昨年12月から開催されている同展会場の入り口には、こんな掲示がある。
会場内には、筋肉と骨格がむきだしになった男性とみられる全身標本が十数体展示され、身体の一部や臓器が輪切りにされたものや、血管が露出した呼吸器系標本、胎児の標本など約170点が並ぶ。
半永久的に保存できるという「プラストミック」と呼ばれる技術で特殊加工された標本は、ホルマリンを使った標本とは異なり、湿気やにおいはなく、手で触れることもできる。
プラスチックの人体模型にはないリアルさが興味をひき、会場内は若いカップルの姿も目立つ。入場料は1500円で、学術目的としながらも一角では骨格模型のキーホルダーなどのグッズが販売され、商業目的の様相もうかがわせる。
人体標本の提供元についての取材に対し、主催者側は東京都内のイベント会社が中国・大連の研究施設から借りたもので、遺族の承諾も得ていると回答した。
しかし、献体について具体的な情報提供を求めると、「展示会に関する広報を担当しているだけなので、詳しいことは分からない」と説明。さらに「この件について責任持って答えられる担当者を紹介してほしい」と要請したが、「取材はすべてこちらで受けることになっている」と答えるにとどまり、それ以上の取材は断られた。
また、主催者について、以前は主催団体として東京のイベント会社や広告代理店などが名を連ねていたが、京都展は実行委員会の具体的な構成団体は公表されていない。公的機関は入っていないとみられるが、取材に対し「詳しいことはお答えできない」との説明を繰り返すばかりだった。
展示自体の法的問題について、死体解剖保存法では、遺族の承諾があれば、特定機能病院や医学部などで遺体を保存できると明記。それ以外でも医学教育や研究のために特に必要があるときは、解剖した遺体の一部を保存できるとしている。
同法を所管する厚生労働省医政局の担当者は「『保存』の解釈は難しい」とした上で「あくまで一般論だが、公開展示の時間外は保存に該当する可能性がある。そう解釈すれば、遺体を保存する自治体への届け出は当然必要になる」としている。
開催は死者冒涜
福島県立医大、末永恵子講師の話 「人の死には尊厳があるので、医学研究や教育の自由といえども、遺体を安易に利用することは許されない。標本はすべて中国人ということだが、もしこれが日本人だったらどう思うか。主催者側が説明する遺族の承諾や、標本の由来などは本当なのかという疑問も残る。展示会は遺体の『商品化』という感がぬぐえず、開催自体が死者への冒涜(ぼうとく)なのではないか」
「人間」立証必要
京都府立医大法医学教室、池谷博教授の話 「『保存』という前提があって初めて『展示』が成り立つ。当然、今回の展示会もどこかの時点で保存行為が存在するはずだ。ただ、違法性を問うには、人体標本が本物の人間かどうか立証することも必要。DNA鑑定が最も望ましい方法だが、特殊加工された標本からDNA型が採取できるかどうか、やってみないと分からない部分もある」
(2011年1月19日 07:26)
Category:社会
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