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2011年1月30日(日)付

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米ロ新条約―障害越え一層の核軍縮を

米ロの持つ大量の戦略核兵器を減らす新条約の発効が確実になった。審議が難航した米上院に続き、ロシア上下院も批准承認を済ませた。批准手続きは最大の山を越し、早ければ2月初め[記事全文]

日体協100周年―国体の是非を問い直せ

冬季五輪、サッカーのワールドカップなど4年に一度の国際大会が集中した昨年は、アスリートたちの奮闘に元気をもらった。スポーツの持つ力を再認識した1年だった。今年は違う意味[記事全文]

米ロ新条約―障害越え一層の核軍縮を

 米ロの持つ大量の戦略核兵器を減らす新条約の発効が確実になった。

 審議が難航した米上院に続き、ロシア上下院も批准承認を済ませた。批准手続きは最大の山を越し、早ければ2月初めにも発効する見通しだ。

 米ロは、発効から7年以内に戦略核弾頭を1550発以下に減らす。一昨年暮れの第1次戦略兵器削減条約の失効で途絶えていた核兵器の相互査察も、新条約発効で復活する。削減過程のより確実な検証が可能になる。

 オバマ米大統領の掲げる「核のない世界」に向けた大きな一歩である。

 米ロはさらに、短い射程の戦術核も含め、大胆に核戦力削減を進めるべきだ。ほかの核保有国も巻き込んだ核軍縮や包括的核実験禁止条約の発効などにも、道を開いてもらいたい。

 しかし、新条約を審議する過程で、今後に克服すべき数々の障害が浮き上がってきたのも事実だろう。

 まず、成立を急ぐため、条約はミサイル防衛(MD)で米ロの立場の隔たりをそのまま残し、あいまいな表現にした。その結果、米上院は批准承認に際し、新条約が米国によるMD配備を妨げるべきでないと決議した。

 対抗してロシア議会は、米国のMDがロシアの核抑止力の脅威となる場合の条約脱退を自国政府に求めた。ロシア首脳は、昨年11月に北大西洋条約機構(NATO)と合意した欧州MDでの協力で、ロシアの立場を反映した仕組みができない場合、新たな核軍拡競争になるとも再三警告している。

 だが、地域的なMDのために、世界の核の9割以上を保有する米ロの核軍縮を滞らせてはならない。イランの核開発問題も注視しつつ、MDでも協力を進めるべきである。

 また、米国側は戦術核を今後の交渉対象にあげる。これにロシア側は、米国が欧州配備の戦術核を撤去することを要求し、宇宙兵器や非核戦略兵器と合わせて包括的に交渉するべきだと主張するなど、慎重さが目立つ。

 しかし、核テロの脅威は米国にもロシアにもあり、戦術核を減らしてより厳格な管理におくことは共通の利益だ。他方、NATOが通常戦力でロシアを圧倒しているのも現実で、包括的な交渉も必要だろう。相互不信をやわらげ、欧州共通の安全保障を構築していくことは、核依存を減らすうえでも欠かせない取り組みである。

 ロシアはアジアにも国土が広がり、米国はアジアに同盟国を持つ。それだけに、今後の核軍縮はアジアの安全保障との関連も深まる。そのアジアでは中国の核を含めた軍備拡張が進み、世界の核軍縮の足を引っ張ることにもなりかねない。そうした悪循環を避けるため、アジアでも核に依存せず、通常戦力の軍拡競争にも陥らない安全保障の枠組みを模索していくべきだ。

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日体協100周年―国体の是非を問い直せ

 冬季五輪、サッカーのワールドカップなど4年に一度の国際大会が集中した昨年は、アスリートたちの奮闘に元気をもらった。スポーツの持つ力を再認識した1年だった。

 今年は違う意味でスポーツ界が節目を迎える。講道館の創始者、嘉納治五郎氏の呼びかけで日本体育協会が1911(明治44)年に創立されて以来、100周年にあたる。

 日本オリンピック委員会が89年に分離独立して以降、日体協は主にスポーツの普及や振興に力を注いできた。事業の柱は国民体育大会の開催、総合型地域スポーツクラブの普及、スポーツ少年団の育成などだ。

 スポーツを普及させ、国民の暮らしを明るく豊かにしたい――。そんな目的で終戦翌年に始まり、都道府県持ち回りで開催されてきた国体が、わが国のスポーツ振興に寄与したことは間違いない。施設・道路建設で地方都市の基盤整備が進んだという意味でも、大きな役割を果たしてきた。

 だが、持ち回り開催は88年から2巡目に入っており、もう役目を終えた、との指摘もある。開催には夏季大会で数百億円の費用がかかる。地域が限られる冬季国体に至っては近年、開催地選びがいつも難航している。どこも財政が厳しい今、開催を引き受けたがらないのは当然だろう。

 日体協は国体を国内最大・最高の総合大会と位置づけ、都道府県対抗、毎年開催の枠組みを変えずにきた。だがトップ選手の参加は少なく、大会への関心も低い。国体は今も「国民のための大会」と言えるだろうか。国はスポーツ振興法で定められた国体の共催者だが、事業仕分けでは「国体への助成は必要なし」とする意見が出された。

 日体協は参加人数の15%減など、改革案を打ち出してきてはいるが、しょせん小手先だ。続けるにしても隔年、もしくは五輪などのように4年ごとに開催する、といった抜本的な改革も視野に入れてはどうか。

 文部科学省は昨年、スポーツ政策の方向性を示す「スポーツ立国戦略」を発表し、地域クラブを軸にスポーツ振興を進める考えを打ち出した。

 これからも国体を続けていくのであれば、国体が地域スポーツのすそ野を広げる基点となってきたか、施設は十分に活用されているか、といった点を具体的に検証すべきだ。その上で、国体と地域スポーツの振興を有効に結びつける手だてを考えたい。

 日体協の会長は今年4月に、現在の森喜朗元首相から、トヨタ自動車会長の張富士夫氏に交代する。

 トヨタは不況下でも35のスポーツ部をすべて存続させてきたが、張氏には日体協100周年の節目にこそ、国体を聖域とすることなく、是非を含めた議論の先頭に立って欲しい。

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