芸術家・岡本太郎氏(1911-1996)の代表作といえば昭和45年(1970)に開催された大阪万博のシンボルタワー「太陽の塔」。日本モンキーパーク(犬山市)には、同氏が大阪万博の前年に建設した「若い太陽の塔」がある。長らく間近で観ることができなかったが、3月20日~4月6日、一般公開されることになった。
それにしても、なぜここに岡本作品が残されたのか?謎を探るべくモンキーパークにレッツ・ゴー!(2010年3月14日取材)
「お待ちしていました!」
名鉄犬山駅からバスで5分、日本モンキーパークの第1ゲートに到着すると同園の広報担当・山西智子さんがとびきりの笑顔で迎えてくれた。山西さんの案内で遊園地へと向かう。まもなくしてイベントが行われる催事館の前に到着した。
「ここから入ります」と山西さんは催事館脇の扉を開けた。一般公開時もこの扉の前が見学希望者の集合場所となる予定。今回、公開前に特別に取材を許された。扉の向こうには山道が続く。
ハイキングコースであったことを伺わせる整備された山道を登っていくこと数分、右に曲がると木立ちの向こうに巨人のように佇む塔が見えた。「若い太陽の塔」だ。樹木に囲まれて少し猫背で建つ姿は宮崎駿アニメ「もののけ姫」に登場するデイダラボッチのようだ。
小高い丘の頂上にすっくと建つ塔に対峙した。曲線を描いた青い3本の鉄骨支柱、その頂上に金色に輝く太陽。
太陽の顔は「太陽の塔」の中央部や「グラスの底」などで岡本氏が造形したおなじみの顔だ。
顔の後ろには銀色の球体がある。太陽の下の支柱から赤、青、緑の角状のものが「人の腕」、あるいは「翼」、あるいは「植物」、あるいは「炎」のように天に向かって伸びている。塔直下に螺旋階段があり、塔中央付近の円形の展望台へとつながる。
「これは、まさに太陽の塔ですね!大阪万博のときに小学生だった私たちの年代にはタマリマセン...」
しばし絶句した後でようやく言葉を吐き出した私に、山西さんは「ウチの親も長坂さんと同年代で、同じようなことを言ってましたよ」とにっこり。
この「若い太陽の塔」は高さ26メートル。ちなみに「太陽の塔」は65メートル。展望台は地上7メートルの位置にある。太陽の顔はポリエステル製で直径4メートル。顔の周りの炎は11...。
この塔が完成したのは昭和44年(1969)、大阪万博の前年のことである。日本モンキーパークの当時の名称は「犬山ラインパーク」だった。同年、同園は大阪万博のプレイベントとして「万国博と世界お国めぐり」を開催。そのシンボルとして岡本氏が製作したのが「若い太陽の塔」だった。
塔の近くには岡本氏の制作意図が書かれた記念碑がある。
「ひろびろとした丘の上に ゛若い太陽"が生まれる 日に日に新しく生まれ変わる
我々の生命の象徴(シンボル) 金色(こんじき)に輝く顔はおおらかに バイタリティを放射する 赤 青 緑の粧(よそお)いは 濃い青春の彩(いろど)りである 岡本太郎」
当初は動物園エリアの「ヒヒの城の丘」に設置されたが、「動物園ゾーンに人工造形物があるのは相応しくない」などの理由から移築を検討。自然公園法に規制された飛騨木曽川国定公園内にあるという立地条件から、数年間は移転先が決まらなかったが昭和50年(1975)に展望の良い現在の地に移転した。
移転後は塔近くまでをケーブルカーで結び、周辺にはバーベキュー場もあった。平成15年に、塔までの道の維持管理などの問題から間近での公開を中止した。
「その後も園内やその周辺から塔を観ることができて当園のシンボルでした。今年は当園の開園50周年、上海万博開催の来年が岡本先生の生誕100年を迎えることから特別公開することにしました」と山西さん。
公開を前に塔周辺の整備をするボランティアを募ったところ定員を超える175人が集まったという。
改めて「若い太陽の塔」を観る。晴天の中に輝く塔は無機質の造形物とは思えない燃えるような生命力を放っている。ここで私は本ブログで取材した名古屋市北区の久国寺の岡本太郎の作った梵鐘を想起した。
1965年=久国寺梵鐘、1969年=若い太陽の塔、1970年=太陽の塔
こうして制作年代順に作品を並べていくと「芸術家・岡本太郎」の魂がめらめらと燃え広がる過程を見る思いだ。
螺旋階段を登る。
展望台からは広い園内と犬山市街地や濃尾平野が見渡せる。
上を見上げると太陽の顔があった。「若い太陽の塔」の膝に抱かれながら、一緒に世界を見ているようで幸せであった。
一般公開時には、岡本氏が同園に残した作品「坐ることを拒否する椅子」も塔の近くで見ることができる。
日本モンキーパークは昭和35年(1960)創業。総面積50万平方メートルで遊園地と動物園からなる。遊園地の遊戯機は35機、動物園のサル類は70種類以上800頭。
「若い太陽の塔」公開期間中は催事館で「仮面ライダーワールド2010」も開催(6月27日まで)。
動物園ではサルの出産ラッシュでかわいいサルの赤ちゃんたちが見られそう。昭和の香りが残る日本モンキーパーク、この春は世代を超えて楽しめそうだ。
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