「ビーストウォーズ」LDブックレットに掲載された、吹き替え演出の岩浪美和氏のコメント。岩浪氏は「アニメイテッド」でも、吹き替え演出を担当されている。
困っちゃったなぁ~
これ、ビーストウォーズの映像を初めて見た時の正直な感想でした。だって気持ち悪いんだもの、キャラが…!動物なのに可愛らしさのかけらもないし、どっちが敵か味方かもよくわかんないし(特に変身後は)、3DのCGは確かに凄く良くできてるけど、それが余計に血の通わないモノにしてるって印象を受けたわけですよ。TVゲームでセリフ付きのオープニングが延々と続いてる感じっていえばわかりやすいかな?みんな飛ばすよね、あれって━いくら素晴らしいムービーでも、早くゲームやりたいもんね(ゲーム関係者の方ごめんなさい)。
この体温の低そうなゴリラやネズミやチーターやサイや恐竜を人気者にするには、どうしたらいいのか?もしこれが大人だけが見るようなビデオのみのリリースだったり、深夜の放送枠だったらなーんの悩みも無いワケですよ、オリジナルのままやればいいんだもん。苦労なし!少々難しくても大人はわかってくれるし、難解な方が喜ばれるって風潮もあるし。でも夕方の枠だしね、メインのターゲットは幼稚園や小学校から帰ってきた子供達なわけですから。血の通った親しみやすい人物像にすること。まずこれを考えたわけです。
さっきCGだから冷たいってなコト書いたけど必ずしもそうではないはずだし(初期のドラクエやってて親指に十字ボタンの跡が付いたことのある人ならわかるでしょ、なんであんな少ないドットで描かれたキャラクターに感情移入したのか?)、感情移入できるキャラを創造できればハマってくれるハズだってね。
そして改めて全26話を見てみると初期の設定からかなり性格が膨らんでいるんですね。特にラットル、ダイノボット、ライノックス、テラザウラー等は後半の話数になるとかなり遊んでるし(きっと向こうのクリエイターの人達もこいつらが好きなんじゃないかな)、そのへんから逆算して個個の性格付けをしていったわけです。
…と、ココまで書いてきて第1話~第12話のブックレットを読むと「愉快さを追求している邦訳版」とか「ギャグ路線に重きを置いた日本語版」とか書かれていて、ほんとスンマセンって感じです。ただ、闇雲にふざけているわけではないので(ちょっと脱線ぎみのトコもあるけど)、それなりの計算もあるのでその辺のちょい小難しいことを言っておくと…。
サイバトロンはエネルゴンという強大なエネルギー源を巡ってデストロンと争い、コンボイは第26話「平和を守るために…」で悲劇的な最後?を遂げてしまうわけです。はっきり言って「理不尽」な話ですよね。なんでこーなってしまうのか?それはエネルゴンの存在をどう考えるのか?ということなのではないでしょうか。
僕はエネルゴンを「核エネルギーのメタファー」であると考えたわけです。サイバトロン対デストロンの戦いは単純な「正義」対「悪」の戦いではない。進みすぎた文明がもたらした「エネルゴン」を軍事的に利用するのか、平和的に利用するのか、そのイデオロギーの違いによって起こる「争い」なのだ、と。
それは「古いイデオロギー」と「新しいイデオロギー」の対決とも言い換えられるわけですが、その両者の考え方にはそれぞれ問題があり、どちらが正しいと単純に割り切れるものではない。考え方の違う二者の争いには正義も悪もない。ただその対立によって生み出された「戦争」というものをどう捉えるのか?
「戦争」というものは「理不尽」なもの。これは世界的な常識になりつつあります。それは「情報」が行き渡っているからですね。
その昔、敵国は「鬼畜」だと国から洗脳され、お国のために戦って死んでいった。それは情報が限られていたから可能だったわけです。
しかし現在は様々なメディアによって色々な国の人々やその暮らしぶりを知っています。インターネット等を通じてリアルタイムに交流することも出来る。つまり相手の事をよく「知って」いたらそう簡単に戦争なんか起きないわけでしょ。
ビーストウォーズは理不尽な終わり方をしています。あたりまえなんです「戦争」ですから。
全26話を見終わって、そこいらへんを子供達が少しでも感じたり考えたりするきっかけになってくれたらいいな、と思ったんですね。そして「戦争」の「理不尽」さをより際だたせるにはどうしたらいいのか?それは「敵」の情報をより多く提示する事。
現在の社会情勢で勧善懲悪な設定ができるのは時代劇か(「水戸黄門」とか)B級SF(「インデペンデンス・デイ」とか)だけですよね。ステレオタイプの悪役が正体不明の敵。記号としての悪か、情報もなく一方的に攻撃してくる敵。
そのような敵を設定すれば戦いを安易に肯定する単純なお話になるでしょう。
しかしビーストウォーズをそうはしたくなかった。「今」はそんな時代ではない。だからこそ「敵」をより親しめるキャラにしたかったんですね。極端に言えば「敵」を「良い人」にしたかった。
そして戦争に内在する悲しみや矛盾を感じてほしい。そんな想いも込められているんです。
小さなお子さんとこのLDを見ている大人の方にお願いです。「どうしてメガトロンはあんなにおもしろい人なのにコンボイを殺そうとしたんだろ?」って聞いてみてください。そして話し合ってください、「戦争」の事を。
さて小難しい話はこれぐらいにして。このビーストウォーズ日本語版演出の仕事は、そりゃーもー大変だったんっすよ。キャラの変更に伴う関係各位との確執とか、まあその辺の事はあまり詳しく書けないし、僕の独断で起きたことだからね。おもちゃも良く売れたらしいから結果オーライって感じですか。
ただ絶対に成功したかったんですよ。初めて良い時間帯でやるCG連続アニメーションだったし、もし失敗して「だからCGなんてダメなんだよ」とは言われたくなかったから。今放送されてるセル・アニメーションって非常にダメな状態なんですね。制作費は安いし頑張れば頑張るほど赤字になるみたいな状況で、たくさんの人達の犠牲で成り立っているわけです。簡単に言えば儲からない。優れたクリエイターはすぐゲームの方に行っちゃうし。日本のアニメーションもゆくゆくはデジタルな制作環境に移行していかなくちゃならない。
それが優れたクリエイターを守る事になるはずなんです。だから成功したかった。日本のアニメーションが変わっていく過渡期の作品になるハズなんですね、ビーストウォーズは。例のポケモン騒動も事の発端は少ない制作費=少ないセルの枚数で最大限の効果を生むために起きた悲劇なんですから。
そうそうこのLDに入ってる話(第13話以降)は放送時には映像を補正してますがLD版はオリジナルのまんまですから、小さいお子さんは部屋を明るくしてテレビからなるべく離れてみてくださいね。
もう少し裏話を続けましょう。
以下の文章は第1話のアフレコ台本に付けた僕から出演者の皆さんへのお願いです。
出演者の皆様へ
原音(英語版の声優の声質)に惑わされないで下さい。性格設定など大きく変えてあるキャラもあります。声質に関して原音を真似る必要はまったくありません。
それより、なるべく自分のキャラクターが立つような「声」で自由に演じてください。なにせ、メインだけで十人以上いるので、かなり明確に個性あるキャラクター(性格、しゃべり方、口癖、等々)を設定しないと視聴者が判別できません。特にロボットに変身後は、はっきり言って誰が誰だか分からないので、ご自分のキャラが写っているカットには、全てセリフを入れるつもりでいて下さい。
そのため、台本中に(原音なし)の記述がやたらと多くなっていますが、なにとぞご協力を…。
英語版はクールで暗く重いテイストですが、日本語版は明るく楽しい作品にしたいと思っております。
また、それができるベストなキャスティングをしたと自負しております。皆様の力をお借りして面白い作品に仕上げたいとファイトを燃やしております。なにとぞよろしくお願い致します。
日本語版 脚色・監督 岩浪美和
なんだか偉そうです。でも僕の考え方を理解してくれた出演者やスタッフの協力を得て楽しい作品になったんですね。
(以下各エピソード解説部分はカット @管理人)
さていま活字を大にして言おう、
「ビーストウォーズは日本語版の方が絶対に面白いぞ」と!
補足すると、BWのLD「上巻」ブックレットで市川裕文氏が原語版と吹き替え版の差異を解説した上で「二ヶ国語で見よ」と記した事に対して、「下巻」で岩浪氏が「日本語版の方が絶対に面白い」と反論したのが上記の本文になります。
このコメントに対してどう思うか?は各自の判断にお任せいたします。
- だからといってアニメイテッドがそうとは限らないのでは? -- 名無しさん (2010-05-31 22:11:07)
- 当時子供だったが親も結構はまってた(おもにギャグで)そのおかげで玩具もけっこう買ってもらえたし個人的にはギャグ路線は正解だったと思うな -- 名無しさん (2010-05-31 22:59:17)
- 言っちゃいけないのかもしれないけどBWはこれでよかった…と思う。アニメイテッドは酷いねぇ、セル画だから合わないのかもしれないけど -- 名無しさん (2010-06-01 01:05:09)
- ビーストは…まあ、色々あったけど結果は成功だったから置いといて。でもATはそうはいかんぞ、そこまで鬱でもないしキャラデザキモくないし -- 名無しさん (2010-06-01 01:07:45)
- 鬱回は最後まで後味悪いよ。脚本家がマシーンズの人ってのもあるけど -- 名無しさん (2010-06-01 01:13:28)
- あくまでも「参考資料」という事で。 -- @管理人 (2010-06-01 21:11:11)
- 補足すると、BWのLD「上巻」ブックレットで市川裕文氏が原語版と吹き替え版の差異を解説した上で「二ヶ国語で見よ」と記した事に対して、「下巻」で岩浪氏が「日本語版の方が絶対に面白い」と反論したのが上記の本文である。余談だが、この本文に対して市川氏は同人誌上でさらに激しい反論を述べ、後に原語版オンリーの解説ムックの執筆を行なった。 -- 名無しさん (2010-06-01 22:16:36)
- ダイガンダー、マイクロン伝説、スーパーリンクでこの二人どっちもかかわってなかったっけ マイクロン伝説でアドリブのイカトンボが本編で採用されたりスパリンですさまじい話(ほぼ川口敬一郎のせい)あったりしたけど市川なんか文句言ってたの? -- 名無しさん (2010-06-01 23:18:59)
- マイ伝、スパリン等では市川氏は一部の玩具デザイン原案や外伝マンガの執筆などを行なっているが、アニメ本編にはノータッチ。マイクロン伝説の演出については番組開始当初から「無視」のスタンスをとっている。 -- 名無しさん (2010-06-02 22:57:12)
- じゃあ日本語版批判してる人も市川習って無視してるのが一番じゃないか? -- 名無しさん (2010-06-03 18:48:54)
- この項目いらねぇだろ -- 名無しさん (2010-06-03 18:54:53)
- 何度でも書きますが、あくまでも「参考資料」です。内容の是非については、各自の判断におまかせします。 -- @管理人 (2010-06-03 21:27:54)
- 市川氏はTFに限らず海外作品の吹き替え翻訳については文句言うけど、国内製作の作品に関してはあえてコメントしない、そういうスタンスだよ。 -- 名無しさん (2010-06-06 23:06:27)
- 各エピソード解説カットしているが、例のデーブ云々の所だけでもって思う。 -- 名無しさん (2010-06-06 23:38:51)
- アニメイテッドも一応日本で作ってるけど -- 名無しさん (2010-06-07 15:54:08)
- 作画だけだろ。別に海外アニメではそんな珍しくない。 -- 名無しさん (2010-06-09 03:30:49)
- 最近は制作費の安い韓国に丸投げもおおいし日本作画はめずらしい。それにアニメイテッドは演出や絵コンテにも日本人が参加している -- 名無しさん (2010-06-09 22:03:34)
- この人海外作品への吹き替え演出結構やってるけど方向性まったくぶれてない -- 名無しさん (2010-06-29 17:34:09)