これまでの放送
アンコール放送 ウイルスでがん消滅!がん治療最前線
遺伝子を改変することで「正常な細胞では増殖せず、がん細胞だけで増殖する」というウイルスを作り出し、がんの治療に用いる研究が進んでいる。例えばヘルペスウイルスの3つの遺伝子の働きを止めることで、がん細胞だけで増殖でき、感染したがん細胞が免疫の攻撃を受けやすくなる。現在、3つの遺伝子を改変したこのウイルスを使って、悪性脳腫瘍に対する臨床試験が始まっている。ウイルスを使った全く新しいがん治療に迫る。
放送日
2011年1月29日放送
ゲスト
 藤堂 具紀
東京大学医学部特任教授
 黒崎 政男
東京女子大学教授
放送内容
がんを殺すウイルス
ヘルペスウイルスを使ったがん治療に注目が集まっている。ヘルペスウイルスには80以上の遺伝子があり、細胞がウイルスを排除するのを止める働きがあるものや、免疫から逃れるものもある。こうした遺伝子を巧みに働かせることで、ヘルペスウイルスは人の体内で増殖することができる。そのため、遺伝子を人工的に改変することで、病原性をコントロールすることができるという。このコントロールしたウイルスをがん治療に利用する試みが進んでいる。
遺伝子改変でがんを殺す〜ガンマ34.5〜
ウイルスの遺伝子改変でがん治療ができるという可能性を示したアメリカの研究グループは、遺伝子ガンマ34.5に注目。これには細胞を自滅させない働きがあるが、改変しその働きを止めると細胞は自滅し、ウイルスは増殖できなかった。一方、がん細胞は、細胞が自滅する機能に異常があるため、改変したガンマ34.5が感染しても自滅しない。ウイルスはがん細胞内で増殖し、やがてがん細胞を殺す。そして周りのがん細胞に感染を広げることでがん細胞を殺すことができるという。
遺伝子改変でがんを殺す〜ICP6〜
ウイルスが増殖するとき、ICP6遺伝子はDNAの合成に必要なたんぱく質をつくる。ICP6を改変してその働きを止めたウイルスが正常細胞に感染すると、ウイルスは増殖しない。一方、がん細胞は無限に増殖するため、たんぱく質を持っている。ICP6の働きを止めたウイルスががん細胞に感染すると、DNAを合成できないはずのウイルスはがん細胞のたんぱく質を利用して増殖。こうして周りのがん細胞に感染し、増殖することで次々とがん細胞を殺していくという。
遺伝子改変でがんを殺す〜アルファ47〜
東京大学医学部では、遺伝子アルファ47に注目した新たなヘルペスウイルスを開発。アルファ47を改変したヘルペスウイルスは、がん細胞を殺すことができるという。この働きを利用してつくられたのがG47デルタだ。実際に人のがん細胞にG47デルタを感染させると、がん細胞が変形し、壊れて死ぬことがわかった。マウスを使った実験では、ガンマ34.5とICP6の2つの遺伝子を改変したウイルスに加え、アルファ47を改変したG47デルタでは、がんが縮小することが確かめられた。