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☆
「あらあら…」
「うわぁ、すごぉい…」
ユリカと小麦が漸くブリッジにたどり着いて扉を開いた時、ブリッジの内部は淫惨な魔窟と化していた。
ブリッジの床一面に夥しい量の粘液が吹きぼれてムッとした淫臭を撒き散らし、あたりには拳ほどの大きさの怪生物が足の踏み場もないほどに蠢いている。
その中心には腹がはちきれそうなまでに膨れ上がったケイトが仰向けになって倒れており、甲高い嬌声を張り上げながら下半身をガクガクと揺らしていた。
「あっ!あおぉっ!!でる、でるぅ!!また産まれちゃうぅぅ!!」
汗と涙と涎でグシャグシャになった顔には満面の笑みが張り付き、産道を異形が通り過ぎる快楽にどっぷりと溺れ、異形を産む悦びに目覚めたケイトは、既に身も心も完全に異形へと変化していた。
「はひぃぃ…。産んでも産んでも全然収まらないぃ…。やめられなぁい……たまらなぁい……」
新たな異形を産みだしきって窄まった腹をケイトは名残惜しそうにすりすりと撫でている。どうせ数分後にはまた子宮いっぱいに異形が詰まることになって震えるような出産の快楽に包まれるのだが、今のケイトにはその数分の待ち時間すら惜しい。
「もっとぉ…もっと産みたいぃ……。『私たち』をいっぱい産みたいのよぉぉ…。うみたひぃ……」
うわ言のように出産を求め、天を仰ぐケイトの視界が二つの影によって覆われた。
「くすくす…。もうすっかり『私たち』になりましたね。ケイトさん」
「最高でしょケイト。『私たち』を産む快感は…」
ケイトの眼前にユリカと小麦が口から触手を伸ばし、まるでケイトを祝福するかのように触手で顔を撫で回してきた。
それに応えるかのようにケイトは触手を掴むとその先端を口へと頬張り、湧き出してくるDNAがたっぷりと含まれた粘液を美味しそうに喉に流し込んだ。
「んっ…ん、ぷはぁ……っ」
ケイトは暫く触手の味を堪能し、やがて名残惜しそうに口から離すと口の周りにこびり付いた粘液を真っ赤な舌で丹念に舐め取ると、見下ろす二人に向ってニッと微笑んだ。
「…うん、最高よぉ…うふふっ」
口を歪めて微笑むケイトの口からも真っ白な粘液塗れの触手が迫り出してくる。
三本の触手は互いに絡まりあってにちゅにちゅと卑猥な水音を響かせ、異形たちは顔を潤ませながら自分の触手を動かし続けた。
「はぁぁ…。産むのもいいけど、これを使って『私たち』も増やしてみたいなぁ……」
「もうすぐ出来るわ。基地に戻れば苗床はよりどりみどりよ」
「やっぱオスにDNA注ぎ込んだら、おちんぽから『私たち』噴き出すようになるんですかね。面白そぉ…!」
三体の異形は基地の中を『自分たち』で埋め尽くす光景を夢想し、その興奮に心震わせながら股下から異形を産み落とし続けた。
その旺盛かつ特殊な繁殖力で人類に直接脅威を与えることになった怪生物は、『(人類を)食い尽くすもの』という意味から『ファージ』と名付けられ、何世紀に渡って人類にとって天敵ともいえる存在として君臨することになった。
これは、その『ファージ』とのファーストコンタクトを行った三人の人間の話である。
終
博士「と、このように、ファージとは他の生物に自らのDNAを注ぎ込み、その生物のたんぱく質を利用して増殖するのじゃ」
助手子「怖いですね先生。もしこんな生物が身の回りにいたとしたら恐ろしすぎでしょ」
博士「ところがじゃ助手子君。このファージはとっても身近に入る生き物なのじゃよ」
助手子「えぇ――っ?!」
博士「もっとも、微生物じゃから人類に寄生して増殖するなどということはないがな」
助手子「なんだぁ。脅かさないでくださいよぉ」
博士「しかも、現在では科学や医学の分野で要注目されている、とっても重要な生物なのじゃ」
博士「殺菌薬としてはすでに実用化までされているくらいじゃからのう」
助手子「とっても有用な生物なんですね。あら?博士、その手に持っている注射器は何ですか?」
博士「ん?これか?これはのう……」
助手子「あれ?何で博士の目、赤く光って……」
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