お泊まりデイ 「100億円で8000床」立ち消え 来年度以降「デモル事業」で検証予定

2011年01月22日09時00分

ソーシャルブックマーク

印刷 
(コンテンツ提供:高齢者住宅新聞2011年1月5日号)

デイサービスに関する動きとしては、何と言っても昨年夏に突如浮上した「お泊りデイ」の話題がある。
しかし、ここにきてその話が急激にトーンダウンしている。
2012年改正の目玉にもなると思われたこの制度が失速した理由は何なのだろうか。
そして現在保険外で宿泊サービスを展開する事業者は今後どうなるのだろうか。

デイの宿泊は賛否が両極端

 この「お泊りデイ」の話が浮上したのは昨年8月のこと。
レスパイトケアの一貫として、デイサービスに延長・泊まりサービスを付加させ24時間対応にして行く案が厚生労働省より示された。その予算は100億円。8000床を整備する等計画だった。
 これまで、市場には日本介護福祉グループ(東京都墨田区)が運営する「茶話本舗」をはじめ、介護保険制度外で宿泊サービスを提供するデイサービスや宅老所が存在していた。
保険外のため正確な実態を掴むのは難しいが、日本介護福祉グループの推計では、利用者は1日8000人。
急な泊まりニーズの発生でショートステイが使えない、などといった場合に重宝されていた。
 一方、こうした事業に批判の声も多かった。
その主なものとしては(1)デイサービスセンターが泊まりを行うのは法律的に問題があるのではないか (2)宿泊スペースはデイルームをパーテーションで仕切っただけなどというところが多く、プライバシー確保などの面で問題がある (3)一般の住宅を借り上げそのまま転用しているところが多く、スプリンクラー未設置など防火面で問題がある (4)長期継続しての宿泊者がいるなど、実際には高齢者の住まいとなっている。

基準はどうなる業界中が注目 こうした批判も多かった施設に国が予算をつけることを言い出したため、業界内で賛否双方の議論が噴出した。
既存事業者側からは「我々の行ってきたことを国が認めた」「もっと整備を促進するべき」という意見が出る一方、批判的な見方をしてきた人たちからは「これを期に宿泊スペースの個室化やスプリンクラー設置を義務付け、粗悪な事業者を業界から排除するべきだ」などという声が出た。
業界は「国がお泊りデイの設置についてどのような基準を設けてくるか」に注目したが、その答えはなかなか示されなかった。
 そうこうしているうちに「お泊りデイ」整備の話は急速に失速した。厚生労働省老健局振興課が語る。
 「お泊りデイについては、来年度以降全国でいくつかのモデル事業を行いその制度や導入効果について検証をして行く予定ですが、予算が通るか分からないため、現時点では何とも言えません」。
100億円で8000床整備の頃のトーンとは大きな違いだ。
 お泊りデイ失速の理由のひとつが政局と言われている。もともとお泊りデイの積極整備を打ち出したのは山井和則前政務官だ。しかし管首相の内閣改造に伴い退任したことで整備の機運が低下した。
さらに100億円の予算申請そのものが認められなかったことが追い打ちをかけた。
 「お泊りデイを介護保険適用対象とするか否か、という点につても今後検討することになります。ですので、現時点で保険外で宿泊サービスを提供している事業者については、このままの形で事業を運営してもらっても問題はありません。
また、将来何らかのルールを設ける場合でも、現在保険外で運営しているものを規制するような形にはならないでしょう」(厚生労働省老健局振興課)
 さて、このように現在保険外で宿泊サービスを提供している事業者は、建物の大幅改修などを行うことなく事業が継続できる見通しだ。
しかし、前述したようにこれらの事業者に対しては、批判も少なくない。厚生労働省が、お泊りデイの整備について表明した社会保障審議会介護保険部会では、委員の多くが「品質の確保が十分に行えるのか疑問だ。慎重に議論をするべきだ」という態度を示した。
 こうした中、事業者は入居者のプライバシー・安全性の確保等に十分に配慮しなくてはならない。
また、スタッフが長時間労働にならないよう、人材の確保等にもしっかり取り組んでいくことが重要になるだろう。

夜間帯対応など柔軟性の強化を

 デイサービスについては「日中のみか、それとも宿泊可能か、という両極端な形態に関する議論がなされている。
それよりも夜間帯、早朝帯などニーズの高い時間帯への対応をどうするべきか、という点などをもっと議論すべきではないか」という声も強い。
 デイサービスは「要介護者が家族にいても外出ができる、仕事に行ける」ことを可能にすることを目的にしている。
しかし、現状のように10時~4時などといった預かり時間では、家族は日中のパート・アルバイトの仕事しか出来ないため、家族が経済的に困窮する要因にもなっている。
もちろん、延長することは可能だが、それは日中の利用者が対象だ。
家族が時給の高い早朝・夜間・日曜でも働くことが出来るようなデイサービスの整備促進も必要だ。
その延長上が「お泊りデイ」であるべきだろう。
 NPO法人介護者サポートネットワークセンターアラジン(東京都新宿区)の牧野史子理事長が語る。
 「現在の保育園制度の問題と、デイサービスセンターを廻る問題は本質的に似ています。通常の保育園の預かり時間では、母親がフルタイムで働くことは困難です。
そのため、無認可でも24時間対応をしてくれる保育園のニーズが多いのです。
デイサービスも同様です。要介護者を抱える家族が安心して働けるようにするには、まずは『夕方から深夜まで』など、柔軟性のある時間帯設定が可能なようにするべきです。
日頃通い慣れているデイサービスセンターで宿泊出来れば家族も本人も安心、という点は確かにあるでしょうし、その意見ではお泊りデイに対し多少は期待する面がありますが、泊まり議論の前に、デイサービスセンターをもう少し使い易くする必要があると思います」

日中時間帯の報酬は減額か

 お泊りデイを巡る議論の余波、というわけではないだろうが、デイサービスの報酬単価が引き下げられそうな流れだ。
 「茶話本舗」を例にとってみると、宿泊サービスの利用料は1泊2食付で1600円。
泊まりサービス定員は1日あたり5人なので、仮に定員いっぱい利用者がいても売り上げは1日8000円。
スタッフの給与分にもならない。単体事業でみれば完全に赤字となっている。これを日中時間帯の介護報酬でカバーしている。
 お泊りデイを巡る議論の中で、事業者のこうした収益構造が知られるようになり、厚生労働省側も「日中の時間帯でそれだけ儲かるなら、報酬は下げるべきでは」という考え方が強くなっていったものと考えられる。
 もし、そうなれば、保険外で宿泊サービスを提供していない事業者には大きな痛手だ。
お泊りデイを巡る議論は、全てのデイサービス事業者にとって、夜間や早朝、休日などの時間帯をどの様にして収益にかえていくか、という大きな課題を付きつけたことになる。