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[15536] 【習作】弟子と転生と双子の兄(リリカルなのは+オリ主・オリキャラ)
Name: 山田◆9425fdd8 ID:a309e446
Date: 2011/01/07 03:06
 オリジナル主人公とオリキャラが活躍する予定です。

 ギャグメインで書きたいと思っております。話の都合上、シリアスがたまにあります。
 原作キャラはある程度崩壊があるかもしれません。


 話を練りながら、ちまちまかいていくので、更新が遅くなったりします。
 あと、ちょくちょく小さな設定が変わるかもしれません。







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 キャラ紹介
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 主人公
 梅竹 俊也
 厳しい師匠たちにしごかれている少年。基本的に面倒くさがり屋。
 師匠であり育ての親が、裏の家業の人。主に、人間に害のある怪物の退治や超常現象を解決する仕事についている。俊也はその弟子で、毎日のように修行を受けている。俊也曰く、あれは修行じゃない拷問だ。あと、家事もやらされている。師匠曰く、生活が楽で弟子を取ってよかった。
 苦労人であり、トラブル巻き込まれ体質。それを師匠に買われて、弟子になった。
 「平穏が欲しい……」
 「他人を蹴落とし、平和をつかむのが俺の目標だ」

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 オリキャラ
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 神代 健太
 実は転生キャラ。とある理由により、リリカルなのはの世界に転生してきた。永遠の14歳(中二)。
 自分がオリ主人公であることに疑いを持っていない。どうしても、なのはたちにフラグを立てたがっている。
 思っていることを口に出してしまう癖があり、そのことから周りから変人と見られている。
 学業はクラス一で、スポーツも優秀なのだが変人故にもてない。
 日課は、公園で瀕死のオコジョ探し。
 魔法が使えたらSSSランクはいくと信じているが、どうすれば魔法が使えるのか未だにわかっていない。まだ未知数。俺最強を信じて疑っていない。
 俊也から聞いた、武術修行に手を出そうか迷っている。本人は御神流を学びたがっている。俊也の家の裏家業については何も知らない。古武流術程度に思っている。
 翠屋も含めて原作キャラへのアプローチはことごとく失敗している。本人が女の子を目の前にするとあがるため。
 「フラグktkr!」
 「ハーレムとは言わないから、二生に一度くらい彼女が欲しい・・・・・・」


 八神 つばさ
 八神はやての双子の兄。この世に妹さえいれば、他は何もいらないというどがつくほどの妹バカ。
 どれほどかというと、妹のためなら死ねる。妹のためなら世界を滅ぼしたって良い。それほどである。
 ちなみに、この性格は闇の書とかの影響を受けてはいない。天然である。
 話すのが苦手であり、あまり人と話さない。とは言っても、全く人と関わらないのも寂しいので、声をかけられたら答える。だが、話の途中でたいていの人はその妹への溺愛ぶりに逃げるので、俊也と健以外で最後まで話を終わらせた人はいない。そのため、最近では俊也と健以外で人と話そうとは思っていない。二人もいれば充分といった感じである。
 妹は兄のことを仕方がない人だと思いつつも、自分のことを大切に思ってくれているとわかっているために、悪い気はしていない。けど、怒るときはちゃんと怒っている。
 「妹は正義!」
 「本からおまけが飛び出してきた・・・・・・」


 タマ
 俊也の師匠の相棒。兼、梅竹家の飼い猫である。実力は師匠と同等であると言われている。
 近所の猫からは姉さんと呼ばれ慕われている。近所の猫のボスではないが、相談役である。
 何百年と生きた猫又で、日本を長年見守り続けた猫。世界を旅したこともあり、知識が深い。
 猫又は百年ごとにしっぽの数を増やしていく。そのため、しっぽの数で年齢がだいたいばれてしまうので隠している。人前に出るときは一本である。
 力を出す事にしっぽの数を増やしていく。俊也は修行の時に三本まで見ているので、少なくても六本はあると見ている。
 年齢にしつこく聞かれると怒る。
 「歳について聞くんじゃないよ」
 「猫又っていうのはしっぽを増やすたびに力が増んだよ。さあ、あと私は何本残しているかな?」



 梅竹 松(うめたけ まつ)
 俊也の師匠。世界で五本指にはいるほどの実力と言われている。
 今まで、弟子を取るつもりはなかったが、俊也の自然とトラブルに巻き込まれ、生き延びるという一連の出来事を見て、気に入り弟子にする。
 最近の趣味は弟子いびりとなりつつある。
 また、可愛い物好き。
 世界の脅威(軍とかではどうにもならないもの)を取り除く仕事に加え、私立聖祥大学の理事長を務めるほど、仕事のできる女性。
 名前のことを言われると怒る。
 「一度目は我慢するわ。けど、二度目は許さないわよ」
 「きゃわ~~、可愛い子がいっぱい!」

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 原作キャラ
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 リニス
 フェイトを育て上げる役目を果たして、プレシアとの契約が切れ、フェイトたちの前から去った後、たまたま地球に降り立った。
 しばらくして、命が消えようとしたそのとき、大虎(とらハ)に見つけられ、俊也の手によってよみがえった。
 その後、帰るところもないので梅竹家で飼われることになる。
 魔力を持ち、戦闘能力があるところを見込まれて、タマから俊也と一緒にジェルシード集めをするように言われる。
 つっこみ役の予定。
 「地球っていったい・・・・・・・」
 「ふみゃ~~ん、おこた最高です~~~」


 大虎
 猫としてタマを尊敬している。山の野良猫たちのボス。いろんな所に顔が利く、海鳴の動物たちの顔役。タマの名前を出せば俊也がいろいろ手伝ってくれるので、上手く使っている。面倒見は良いので周りから慕われている。
 『姐さんによろしくお願いします』
 『久遠~、帰るぞ~』



[15536] 第1話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:a309e446
Date: 2010/12/31 04:18
 日が沈み、もう夜中だ。こんな日はさっさと帰って、お風呂に入って暖まり、布団に入って幸せになりたい。
 そうだというのに、俺は夜中に町中を歩いていた。俺に課せられた仕事の一つ、町の見回りというやつだ。正直面倒だからやりたくはないが、やらないと上から怒られてしまう。何もない。そう思っていたのに始めて間もないのに、とんでもないものと遭遇した

 日々穏やかな生活を過ごしていきたい。

 そんな夢を見ていた日が確かにありましたとさ・・・。

 「グルォォォォォオオ!!」

 現在、目の前で怪物が甲高い叫びを上げている。相手の言葉がわからずとも、何を言っているのかわかる。

 「喰ったろかーー! だな。食欲が旺盛なのはいいことなのか?」

 できることならペットフードで我慢してもらいたいものだ。人を食べておなかを満たすのは賛同できない。しかも、自分がエサならなおさらだ。

 「何落ち着いているんですか!」

 側にいる相棒が、冷静に現実逃避している俺に大声で言う。威嚇している怪物よりも俺の体からにじみ出るやる気のないオーラが気になったようだ。
 いや、だってさ。まさか初日からこんな大物にであうとはおもっていなかったんだもの。さすが俺の悪運といったところか。

 「とりあえず、退治をしましょう。あなたはこういうのが得意なんですよね?」

 「一応やるけどさ。自信はない! ……帰る?」

 「帰りませんよ!」

 「だってさ。師匠たちも付き添っていない、初めての全てを任された仕事だぞ。自信なくして良いじゃん」

 「・・・・・・普通は張り切りません?」

 「そんな心がけ、どこかに忘れてきたよ」

 だってさ、みんな強いんだよ。師匠とかそのお仲間さんとか、絶対人間超えているよ。それに比べてみれば俺は弱者だ、雑魚だ。と言うわけで帰りたい。けど、帰ったら殺されそうだ。なぜなら俺は弱者だからだ。・・・・・・なんていう説得力だ。涙が出てくる。

 「確かに、私も腕試しで戦ってみましたけど……」

 軽くあしらわれていたよね~。異世界の魔法とか、いろいろみれて俺はおもしろかったけど。

 「私、一応そこそこ強いと思っていました……」

 地球に来たのが運の尽きだ。一般人はそうでもないけど、ちょっと裏を見てみると恐ろしく強いのがわんさかいるからな。その存在を隠さなきゃいけないほどのが。

 「と、ともかく、がんばりましょう!」

 まあ、半人前の俺と異世界の使い魔という心配のつきないパーティーだけどやるしかないか。

 「がんばるしかないのか・・・このまま逃げ帰ったら、師匠たちに殺されるしな」

 「何ですか、その逃げ場のなさは?」

 「気にしたら負けだよ。この世界に入って学んだ大きなことは、諦めることだ」

 「退廃的過ぎじゃありませんか!?」

 「とりあえず、あの怪物の中にある魔石を確保しますか」

 目の前の怪物もそろそろ空腹が限界らしい。牙をむきだして、よだれを垂らしている。

 「いくぞ、リニス。突っ込めーー!」

 「打ち合わせでは、私はサポート役で俊也さんがメインですよね!?」

 「ゴー、ゴー!」

 そのまま、俺は怪物へと向かう。刀を抜き、いつでも振るえる構えを取りながら相手との距離を縮める。

 「結局あなたが突っ込むんじゃないですか!」

 後ろで猫の使い魔が大声で何かを言っているが放っておく。まじめな子はからかうのが楽しいな~。最近の俺のささやかなオアシスです。

 早く終わらせて、家で夜食でも食おう。そして、さっさと寝よう。


 この俺、梅竹 俊也(うめたけ しゅんや)がこの事件に巻き込まれた経緯を説明するには一日ほど時をさかのぼる必要がある。







 授業終了のチャイムが鳴り響く。これで、今日の授業も終わりだ。

 ……平穏な時間が終わり、俺の悪夢が始まろうとしているのだ。ああ、帰りたくないな。

 「よっ、俊也、これから公園に遊びにいかねえ?」

 俺がこれからの苦難を想像して絶望してると、何とも脳天気な友人が声をかけてきた。

 「何だ、神代 健太(かじろ けんた)、性格 バカ、職業 変人」

 あだ名は健(けん)で、奇怪な行動が得意。

 「何、そのプロフィール!? そして誰に紹介しているの!?」

 「これがこの学校からおまえに対する評価だが、何か問題でも?」

 「問題あり過ぎだ!」

 「何をそんなに騒ぐ必要があるのか。ほら、みんなが俺の言葉に頷いているだろ」

 バカという辺りで、クラスメイトたちがゆっくりとうなずき始め、変人のところでは大きくうなずいていた。

 「もしかして、俺って取り返しのつかないところまで来ている?」

 まさか今更気がつくとは遅すぎる反応だな。そんなことは一年の頃から誰もが気がついているというのに。

 「いやいやいや、俺は大丈夫だ。なぜなら俺はオリ主。女性から嫌われることなんて無いはずだ」

 何かぶつぶつ言っている。言葉の端々は聞こえるが相変わらず言っていることがわからない。たまに聞いたこともない単語を言うので、誰も知らない異国の言葉に聞こえる。

 「相変わらずの電波だね」

 後ろから声をかけられたので振り向く。

 「つばさか。どうした、おまえから声をかけるなんて珍しいな」

 もう一人の友人が近づいてきたのだ。その友人の名前は八神つばさ。つばさは一人を好んでおり、俺や健が声をかけない限り誰かと話をしようとはしない。しかも、こっちから声をかけない限り、口も開かないという筋金入りだった。
 それだというのに、今日は珍しくつばさから声をかけてきた。

 「なに、今日はスーパーで卵が安いんだ」

 「……それがなにか?」

 いきなりこいつは何を言い出すんだろう。話題を振るのが苦手だからって、突然卵の話をするのは無いと思う。

 「わからないの?」

 「はっきり言って、説明不足だ」

 たいていのクラスメイトは、意味不明なことを言われて逃げてしまうらしい。言葉数が少なすぎるのがやつの難点だな。それでも、根気よく話を聞こうとする俺や健にしか、つばさが話をしようとしない。そんなことを他人から聞かされると、もしかして俺とこのバカがおかしいのかと思ってしまう。まあ、深くは考えないことだな。
 それから、つばさは大きなため息をついた。やれやれといった感じで説明をすることにしたようだ。このような態度も、つばさが他人から敬遠される理由の一つらしい。

 「卵が一パック10円だ。これは破格だ。とんでもなく安い!」

 何とも熱の入った主張だろう。何もこのようなときに発揮しなくても良いと思う。普段とのギャップに、周りで様子を見ていたクラスメイトが引いている。

 「そしてお一人様一パック限り! これが何を意味しているのかおまえにはわかるか!?」

 「……スーパーの客引きか?」

 とりあえず答えを言っておく。卵が一パックは安すぎる。それでは利益をとれない。それなのにその価格で売り出すと言うことは、客を呼び寄せたいのだろう。一人一パックがその証拠だ。

 「バカだよおまえは! 健以上のバカだ!」

 「なぜ俺に振る!?」

 さっきまでぶつぶつ言っていた健がつばさに言う。しかし、今はそれどころじゃない。

 「ちょっと待て、俺が健以上のバカとはどういうことだ? この上ない侮辱だ!」

 「おまえも待て!」

 健がうるさい。今は人としての尊厳を獲得するための戦いをつばさとしているんだ。おまえは黙っていろ。

 「確かに、健以上は言い過ぎたよ。謝る」

 「おまえら、俺に恨みでもあるのか!?」

 相変わらず健はうるさいな。ともかく、謝ってもらったからにはこれ以上言うのも野暮だろう。つばさは卵をどうしたいのか聞くこととする。

 「俺放置!?」

 うるさい第三者は放っておこう。

 「一人一パックということは、俺一人では一パックしか買えない。もっと欲しいから手伝え」

 なんて言う傲慢な頼みだ。それに従う義理はない。

 「残念だが、卵一パックは俺も欲しい。故に断る!」

 俺は家の家事を任されている。もちろん食事もだ。だから、卵が安いと言うことは俺にとっても有益な情報だ。得することを他人に渡すことはない。

 「俺の家は二人家族だ」

 「だからなんだ?」

 俺の家も大人が一人と猫が一匹の大所帯だ。おまえのところよりも一匹多いぞ。

 「それは多いのか?」

 ギャラリーが何か言っているが気にしないでおこう。

 「だが、妹はいないよね」

 でた。こいつの病気が始まった。
 実は、健もつばさも顔は良いし、頭も良い。それなのに、健は変人という理由で、つばさはこの病気が理由で周りからだめな人扱いされている。

 「病の妹のために、ささやかだが卵を届けてやりたいという気持ちはないの!」

 教室中に響き渡る大声で、つばさが叫んだ。それに対して周りは慣れたもので、また始まったという顔でつばさの方を見ている。

 「うるせえ! だったら、妹を連れて、買いに行けばいいだろう。それで二パックだ」

 「正気か!? 車椅子に座った妹を、激安の戦いの渦に放り込めと? 貴様は鬼か? 悪魔か? 人でなしか?」

 やばい、この人怖いよ。自分の欲しいモノは自分で狩ったらどうだと、提案しただけでなぜここまで言われなければならないのだろうか? 目が血走っていてすごい迫力だ。だが、それくらいでへこたれる俺ではない。とは言っても、病気の家族を持ち出されたら、これ以上言うのも気が引ける。

 「だったら、俺がつきそうよ。ついでに荷物も運んでやる」

 ギャラリーこと健がつばさにこんな提案をしてきた。だが、つばさはそれを拒否する。

 「黙れ! 貴様はどうせ、妹が目的だろう! そのまま家に上がり込んで、不届きなことをするつもりだろう!」

 つばさの言葉に健が焦って応える。

 「ち、違う。ただ単に楽しく会話してフラグを立てようと」

 そこまで言って、口を押さえる。健はしょっちゅう考えていることを、思わず言ってしまうことがある。それで、自爆ばかりしているのだから懲りないやつだ。

 「そんなフラグとか意味不明なことを言っているやつが信用できない! 例えだ、例えとして、一億七千五百三十七万八千九百七十五歩譲ったとして、俊也は許そう。だが、おまえはだめだ。八百億歩譲ったところまでシミュレーションしてみたが、やっぱりだめだ」

 「それだけ譲歩しても、俺はだめなの!?」

 「いやいやいや、俺だとしても一億歩も譲る状況なんて、きっとこないだろう」

 俺は果たして一億歩も譲ってもらおうためにはどんなことをすればいいのか。想像もできない。

 「そんなことを無いぞ。俊也だったら、手足を自らの手で切り落とし人生を妹に捧げると誓うなら、窓の外から一目見ることは許してあげる」

 「グロイしハードル高すぎるだろ! そこまでしても、一目っていったい!?」

 「そこまでしても、俺は一目見ることも許されないのか……」

 つばさの妹への溺愛ぶりは、病気を取り越してやばい呪いにでもかかっているかと考えてしまうほどだ。

 「あの~~」

 そんなとき、一人の少女がこちらに声をかけてきた。

 「高町か、どうしたんだ?」

 俺たちが三人で話しているときに声をかけてくる人がいるなんて珍しい。たいてい、一メートルは誰も近づかないというのに。
 高町なのは、周りからは運動が苦手でちょっととろい子というイメージがあるが、俺はそうは思ってはいない。この輪に入ってくるところ辺り、勇気がある人だ。以前も初対面の女の子のために相手に向かっていったこともある。

 「八神君は、商店街にあるスーパーに行こうとしているんだよね?」

 どうやらつばさに話があったようだ。

 「ああ、そうだ。今朝のチラシに卵の安売りが書いてあった」

 こいつは毎日朝のチラシをチェックしているらしい。妹のことと言い、何ともまめなやつだ。俺は朝刊を読むだけで精一杯だというのに。

 「確か、そのスーパーって、午前中に安売りが終わっちゃわなかったっけ?」

 そのとき、俺を含めた三人の動きが止まった。考えてみればそうだった。卵の激安売りが小学校が終わる時刻。つまり、午後以降に残っているはずがない。
 時計を見ると、もう三時過ぎだ。残っていたら奇跡だ。

 「あ、あれ? わたし何かひどいこと言っちゃったかな?」

 「そんなこと無いわよ。なのはは真実を言ったまで」

 「けど、梅竹くんたちにはそれは残酷だっただけだよ」

 側にいた高町の親友たちがそっと、高町の肩に手を置く。

 「なのははこの争いを止めたのよ。それは立派なことなの」

 「そうだよ。なのはちゃんは、勇気のある行動をしただけ。もっと胸を張って良いんだよ」

 その後、クラスに残って今までのやりとりを見ていた人たちが、ぞろぞろ帰って行った。そして、誰もいなくなって初めて、俺たちの体の硬直が溶けた。

 「おまえの所為だ!」

 つばさの拳が健にぶつかる。

 「理不尽?!」

 そのまま健は吹き飛び、大きな音を立てながら机とともに倒れ込んだ。

 「俺に謝れ! むしろ、妹に謝れ!」

 「今までのやりとりで、俺は妹に何したよ!?」

 なんか乱闘が始まった。いつものようにくだらない争い事だ。明日には二人とも忘れて元通りでいるだろう。だからみんな止めないし、放って帰ることにしたようだ。これがうちのクラスの日常と言っても良いだろう。

 「何ともおかしなクラスだ」

 「「「おまえが言うな」」」

 残っていたクラスメイトが俺に一斉に言った。はて? 俺におかしなところはあっただろうか? わけがわからない。

 「・・・・・・ああ、疲れた」

 これから、修行だというのに、もう精も根も尽き果てたかのような感覚だった。
 気晴らしに窓から外を見る。
 空はどこまでも青かった。




 あとがき

 リリカルなのはの世界で、オリキャラ中心でいきたいと思っております。
 積極的になのはたちに関わるのは、一期の中盤くらいかと考えております。




[15536] 第2話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:a309e446
Date: 2010/12/30 02:04
 あれから帰路についた。これから、修行が待っている。正直、苦しいのはつらいが、必要なことはわかっているし、日々強くなっていることは実感しているので、受けるしかない。
 修行開始まではまだ時間はある。今日は師匠の仕事が忙しいので、その相棒が見てくれることになっている。その人は時間に厳しく、早く来すぎると怒る。寝っ転がりながらのんびりしているところを邪魔されるのが嫌いなのだ。
 そんなわけで、気晴らしに町内を散歩しながら帰ることにした。

 曲がり角を曲がったそのとき、足に何かがぶつかった。正面に人はいないので、誰かを蹴ったわけでもなさそうだ。何を蹴ったのだろうと、下を見てみると、そこにはきらきらと輝く石があった。
 何なのかと、気になって拾ってみる。表面はすべすべで、青く透明なきれいな石だ。ガラス玉かとも思ったが、よく見てみるとそれとは決定的に違う点を発見した。

 「……魔力がある」

 その中心から魔力がわき出していたのだ。魔力とは魔法を使う際の源となる力のことだ。普通、魔力は万物に宿るという。物質であったり、生き物であったり、大気であったりだ。それらに含まれる魔力の量というのはだいたい決まっている。ものであるなら特にだ。稀に生き物で肉体に宿る魔力が通常より高かったりするものは、魔法使いの才能があるという。目の前にあるのは物質で、宿っている魔力の量が、普通の鉱物とは桁違いだ。

 「魔石かなんかか?」

 師匠に見せられて、今までにいくつか魔石を見たことがある。それでもここまで大きな魔力は初めてだ。そんなものがこんなところに転がっているはずがない。師匠だって見逃さないはずだ。それがここにあると言うことは、最近ここに落ちたのだ。
 人為的なのか、自然なのかわからない。

 「これは面倒なことになったかな」

 魔力の扱いを知らないものが持てば、暴走するかもしれない。持ち主の石にかかわらずにだ。それほど、この石に眠っている魔力は膨大で強力だ。何かの意志に触れ、吹き出すかしれない。魔力の扱い方を知っている人間が持てばまだましかもしれない。少なくても周りを巻き込んで大惨事が起こる心配はない。悪用するにしても、この辺りでバカをするほど命知らずはいないだろう。何たって、この町には師匠がいる。
 ともかく、このことを報告した方が良いだろう。
 そう考えて、家に帰ろうとした。けど、

 「……もしかして、俺に回ってこないよな?」

 師匠は何かと忙しい。世界中を飛び回って、悪霊、悪人や怪物退治など危険な仕事をやっているし、俺の通っている学校の理事もやっている。それで、俺に家事を押しつけるほどだ。
 ちなみに、俺の修行はその仕事の合間に見て、それ以外は師匠の相棒が見る。
 と言うことはだ。もしかしたら、この石以外の魔力を持ったアイテム探しに、俺がやらされるのかもしれない。
 師匠は仕事ができて、修行をゆるめるような優しさは持ち合わせていない。つまりだ。俺の負担が増えると言うことだ。

 「……見なかったことにしよう」

 そこまで考えて、俺は今まで何もなかったことにした。
 石なんて拾わなかったし、魔力を持ったアイテムなんてわからなかった。
 石をポケットに放り込んで、俺はそのまま山へと逃げていった。





 山まで来て、木陰で休むことにした。この山は猫が仕切っているらしい。詳しいことはわからないが、そのようだ。だから、この山ではよく猫を見かける。
 のんびりしていると、猫が姿を見せた。

 『おっ、あんたか』

 「お久しぶり」

 俺は猫の言葉がわかる。これは師匠の相棒にたたき込まれた。何年も前から学んだかいがあって、今では動物の言葉はたいていわかる。

 『ちょうど良かった、来てくれ』

 猫が近寄ってきて、俺の手をかみながらそういう。

 「いてえよ。いったい何だよ」

 良い感じで、まどろんでいたというのに、痛みで眠気も吹き飛んだ。そのことに腹を立てて言うが、相手は対して気にもしないで、俺の手を咥えて引っ張る。

 『あっちで新入りの猫が死にかけているんだ。助けろよ。あんた姐さんのところに住んでるんだろ?』

 「しらねえよ。おまえこそ、ここら辺のボスなんだろ? おまえが助けろよ」

 猫なんだかトラなんだかわからない名前のくせに、なんと情けないことを言っているのか。人に頼らず、猫でどうにかするべきだと思う。

 『できたら、こんなこと頼まないよ』

 「う~~~」

 面倒くさくて渋っている俺に、大虎という猫が言う。

 『姐さんに言いつけるよ』

 「わかったよ。畜生!」

 決して逆らえない上下関係がある。このことをちくられたら後が怖いので手伝わないわけにはいかない。
 気が乗らないが、今日は面倒事が多い日らしい。そろそろ、いろいろあきらめなければならないようだ。





 大虎につれられてきてみると、大勢の猫がいた。円陣を組んでいるように座っていて、その中心に猫が一匹倒れている。
 どうやら、倒れている仲間の猫が気になって集まっているのだろう。この山の猫は仲間意識が強い。

 『俺らじゃなかなかうまくいかなくてな。できることなら病院まで連れて行って欲しいんだが』

 病院とはこの山の猫たちがお世話になっているところだ。たいてい獣は人間や病院を嫌うものだが、そこは別らしい。院長の人柄や野生動物を無料で治療するところに多くの猫たちが感謝しているようだ。
 仕方なく、その猫を抱えて病院まで運ぼうとした。だが、その猫を見て気づいた。

 「これ、もう手遅れだな」

 すでに治療が間に合わない段階まで来ていた。傷が見あたらないところから、おそらく衰弱だ。後まもなくで息を引き取る。相手の生命エネルギーを感知する修行もしている。緩やかだがゆっくりと命の灯火が消えようとしていた。
 病院まで運んでいる時間もないし、間に合ったとしても手の施しようがないだろう。

 『やっぱりか……』

 大虎もうすうす感づいていたらしい。傷が無く、息があることからかけてみようと言ったところだろう。だが、遅かった。
 せめて墓でも作ってやろうと、辺りを見渡す。日当たりの良さそうな場所と、何かきれいな花でもないかと探してみる。
 何か掘るものでもないかと、荷物入れの中を思い出す。そうしている内にあることを思い出した。
 ポケットに入れていたあの石だ。

 「助かるかもしれないな」

 『本当か!? さすが姐さんのとこの舎弟だな。頼りになる』

 舎弟か。確かに弟子だけど。まあ、今は良いか。

 「今日はおまえは運が良い。本当に運が良いな」

 ここまで見てしまったら、何もしないというのも目覚めが悪い。命が失われるときまで面倒くさがっている場合ではない。このために日頃からつらい修行を受けている。
 俺はポケットから石を取り出し、精神を集中させた。
 辺りが膨大な光に包まれ、奇跡が起きた。







 「ただいま~」

 俺はいつも通りの様子で家の戸を開ける。この家は古風な家だ。木製で、入り口も引き戸ではなく、横にスライドするタイプだ。畳の部屋が多く、台所がフローリングではなく地面という古き良き日本住宅と言ったところだ。

 「おや、お帰り」

 声とともに一匹の猫が出てくる。

 「タマさん、迎えを言いに来るなんてめずらしいじゃないか」

 「今日はちょっとね」

 今の言葉も間違いなく目の前の猫から発せられた言葉だ。目の前の猫はタマという名前で、この家に住んでいる師匠の相棒だ。さすがと言うべきか、タマさんは普通の猫じゃない。猫まただ。つまり、猫の妖怪で、百年以上生きた猫が人の言葉を話せるようになったもの。その強さは師匠並みで、俺の逆らえない人の一人、いや、一匹だ。

 「ところで、その鞄の中に隠している猫はなんだい?」

 げっ、ばれた。
 実は、さっき助けた猫が鞄の中に入っている。特殊な方法で助けた猫なので、病院にそのまま渡すのもどうかと思い、とりあえず家まで持ってきたのだ。

 「早く出しておやり、かわいそうじゃないか。そんな息苦しいところで」

 「さすが猫には優しい」

 自分も元猫なだけあって、猫だけに優しい。その優しさを少しだけ、自分にも分けてくれないかと思う。

 「早くおし!」

 しっぽをぴしゃんと床にむち打ちながらタマさんが叱ってくる。これ以上機嫌を悪くさせられると、今夜の修行が怖い。さっさと出すことにしよう。
 俺は鞄から猫を出して、そっと床に置く。床に置かれた猫をタマさんはじっと見つめる。

 「ふむ、ちゃんと息はしているようだ」

 とりあえず怒られることはないらしい。それはそうだ。猫を救ったのだ。猫好きのタマさんに怒られる道理はないはずだ。

 「だめだね。治療の仕方が雑で、所々でまだ完治していない部分がある」

 そういって、タマさんがぎろりとこっちを睨んだ。相変わらず採点が厳しい。これでも、かなりがんばったんだけど。

 「まあ、今回はこれ以上言うのは止めておくよ」

 助かった。どうやら、今日のタマさんは機嫌が良いようだ。いつもなら、復習もかねて、何時間も講義を聞かされるというのに。
 タマさんはしっぽの先を、未だに眠り続けている猫に当てる。そうして、タマさんは生命力をしっぽに通して送った。

 「これで、もうじき目が覚めるよ」

 どうやら、あの一瞬の間に完全に猫を治したようだ。その手並みは鮮やかと言っていいだろう。

 「さすがっすね」

 「あんたもこれくらいできてもらわなくちゃ困るよ。わたしたちが教えているんだから」

 「えーーっ」

 どっちかって言うと戦う方を集中的に鍛えられている。確かに治癒も少しは習ったけど、おまけみたいなものだと思っていた。

 「全部できなくてどうするんだい」

 と言うことは、師匠は全部できるのだろう。戦っていることしか見ていないが、あれは師匠の実力の一端のようだ。全くもって恐ろしい。
 すると、今まで眠っていた猫が目を開けた。本当に完治したのだろう。さらには体力も回復させるとはさすがと言っていい。何百年と生きている猫または俺とは格が違う。

 「それじゃあ、その子はあんたが面倒見るんだよ」

 そういって帰ろうとするタマさんに、俺は待ったをかけた。

 「ちょっと、完治したならのに返してやった方が良いんじゃない!?」

 元々そのつもりだった。わざわざ、これ以上負担を増やすつもりはなかった。ただでさえ気むずかしいタマさんがこの家にはいるんだ。

 「じゃあ、その子を放り出すって言うのかい?」

 「別にそうは言ってないよ。この町には猫御殿や猫山があるしさ。どうとでも生きていけるだろ?」

 この町は本当に動物に優しい。新入りのために集まってくれる大虎たちが住む山や猫好きの子供がいる大きな屋敷がある。さらには犬好きの子供が住む大きな屋敷とそろっていた。ネズミの救済地は知らないが。

 「猫の一匹や二匹、養う甲斐性が無くてどうするんだい」

 「俺の負担が増えるって」

 学校だけじゃなくて、家事もやっているし、修行もこなしているんだ。毎日大変だって言うのに、これ以上やることが増えるのは勘弁してもらいたい。

 「何を言っているんだい。あんたが助けた命だろ? あんた以外の誰が面倒を見るって言うんだい」

 「なぜそれを……」

 驚いた。なぜそこまで詳しく知っているのかわからない。けがを治したところまでは予想できても、命まで救ったことはわからないはずだ。蘇生などまだ習っていないから、使えないことはわかっているはずだ。あれからまっすぐ帰ってきたから、大虎が言いに来たと言うことはないはずだ。ここらへんじゃ誰も知らないはずだ。猫の情報網が優秀だとしても、もう少し時間がかかるはずだ。

 「私が気づかないとでも思ったのかい? あれだけの魔力を使ったというのに」

 「うっ……」

 さすがタマさんだ。いろいろ鋭い。長年生きているだけのことはある。

 「それに、その子はそんなに手間がかからないよ。ねえ、いい加減喋ったらどうだい」

 タマさんに声をかけられて、今までおとなしく俺たちを見ていた猫が、口を開いた。

 「どうしてわかったんですか?」

 猫が喋った!? いや、タマさんと話している時点で驚くことは間違っているんだけど、この猫しっぽは一つだよ。猫またじゃないのにどうして喋れるの!?

 「私の目は節穴じゃないよ」

 「キャッツアイとか?」

 「ふざけたこと言うんじゃないよ」

 猫の爪が一閃する。遠く離れているというのに、爪によってできた真空刃が、俺の顔を襲った。

 「目が! 目がーーーー!!」

 顔にダイレクトヒットした。顔が痛くてたまらない。
 冗談の通じない人だ。

 「だ、大丈夫ですか?」

 「やべえ、久々に優しい言葉をもらった!」

 師匠やタマさんは俺が苦しんでいても表情一つ使えないって言うのに、この猫は心配してくれた。ちょっとうれしい。

 「この子はね。使い魔だよ」

 使い魔? 確か、西洋方面の?

 「そうだね。動物に魔力を与えて、知恵をつけるんだよ。この子が普通の猫以上の魔力を持って、私たちの会話を理解している風だったからピンと来たよ」

 「さすが猫。そういった機微がわかるのね」

 「猫だけじゃないよ。私はいったい何年生きていると思っているんだい」

 「年齢のことに触れられると激怒するくせに、どうしてそういうこと言うのかな?」

 「ああん、何だって?」

 「何でもないです。はい」

 聞いただけで猛獣が逃げ出しそうな声色で言う。そういえば、年齢がいくつか気になって、しつこく聞いて半殺しにされたこともあったな。
 猫またの年齢って気になるんだよね。最低でも百年は生きないと、なれないって言うし。百年ごとにしっぽが一つずつ増えるからしっぽを見れば良いんだけど、タマさんはそれが嫌で妖術でしっぽ隠してるから。一本にしか見えない。

 「そうです。私は使い魔です」

 どうやら助けた猫は西方からやってきたらしい。なかなか珍しいな。会話もできる高等な生物が生き倒れていたなんて。

 「それはその……」

 その辺の事情は言いにくいらしい。口を開こうとしない。

 「およし。その子にはその子の事情があるんだよ。あんたも男なら深く詮索するのは止めて、そっと側に置いてやり」

 さすが年の功。言うことが違う。
 けど、それを九才の少年に求めるのは酷じゃない?

 「例え未熟でも、戦場に出るからには一人前だよ。相手はそんなこと待っちゃくれないし、理解もしてくれないんだから」

 別に好きで戦場に出る訳じゃないんだけど。て言うか、強制的だよね?

 「口答えするのかい?」

 「ほら」

 本日二度目のタマさんの爪が俺を襲った。

 「それで、あんたの名前はなんて言うんだい?」

 ちょっ、もがき苦しんでいる俺は無視ですか?

 「はいっ、リニスです」

 この子頭がいいや。逆らっちゃいけない相手と理解して、即答した。
 見つけた魔力の固まりと言い、新しい家族と言い、これからいったいどうなっていくんだろ?
 とりあえず、目が! 目がーーーーーーーーーー!!

 「うるさいよ!」

 ちょっ!! おいうち!!?






 あとがき

 喋る猫さん登場。
 て言うか、冒頭で出てたリニスです。
 トラブル体質の主人公は、フェイト関連のフラグをまず立てました。
 健涙目ですね。
 ちなみに、主人公は原作キャラといくつかフラグを立てている。そのことに嫉妬する健と主人公のやりとりを書いてみたいと思っています。



[15536] 第3話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:a309e446
Date: 2010/12/30 02:10

 新入りも増えたことだし、今日の晩飯は豪勢にいくとしよう。
 そう考えながら、俺は晩飯の食卓の準備をする。
 タマさんの好きな鮭を使った炊き込みご飯、味噌田楽、大根の味噌汁、サワラの西京漬けを用意していく。
 タマさんは魚が好きで、何かと食事は魚中心になってしまう。師匠がいると肉料理が多くなるのだが、今日は仕事らしく帰ってはこないので、タマさんの希望が尊重される。

 「やれやれどっこいしょ」

 タマさんが、席に着く。それにしても、若く見られたいのなら、そういった発言は控えればいいと思うのは俺だけだろうか?
 口に出すと顔をひっかかれるので黙っておく。今は、味噌汁を運んでいる途中だ。残念、汁物を持っていなければ言えたのに。

 タマさんは正座で座り、箸を持っていただきますを言う。そして、箸を上手に使いながら、食事を口に運んでいった。
 それにしても、猫が箸を使うところはシュールだ。あの肉球でどうして箸が持てるのだろうか?

 作法がわからないリニスは、なるべく失礼の無いようにと、タマさんをまねしながらそれにならっている。だが、どうしても箸がつかめない。
 なぜ? と首をかしげて何度も挑戦している。だが、どうやってもつかめない。
 そりゃそうだ。
 あんなのタマさんにしか無理だ。

 「無理しなくて良いぞ」

 「い、いえ。大丈夫です」

 タマさんができるのだから、自分もがんばればできると思っているようだ。そのがんばる姿はどこか哀愁が漂う。それはそうだ。猫の手で箸を使おうとする行動はどこか悲しみを感じさせるからだ。

 「あきらめるんだ! タマさんは別格なんだ、あれは猫の形をした別のの何かだから! そんな無理をしないで!」

 「おかしなことを言うんじゃないよ!」

 タマさんの爪が俺の顔面を襲う。

 「うぎゃああああっ!」

 タマさんいたいよ。そのうち、顔に消えない傷の跡ができるよ。

 よし、今は何も持っていない。引っかかれても大丈夫。

 「これなら」

 リニスの姿が変わる。猫の姿から人の姿に形を変えた。

 「これでこれが使えます」

 得意げな顔をして箸をつかむ。人の形になったため、ちゃんと箸をつかむことができた。
 まあ、手がでかくなったしそりゃあできるよね。
 箸をつかんがことを確認して、リニスがやったと言った、顔をしている。
 何だろう? ここはほめてあげた方が良いのだろうか?

 「凄いじゃないか」

 ちょっと棒読みだったけど、俺の言葉にリニスは満足したようだ。

 「私だってやればできるんです」

 何だろう。この猫、なでくり回したい。さすが猫、小動物を見ているような感じにさせられる。
 けど、元は猫だけど、今は人間の女性の姿。しかも年上っぽい。帽子もしてるし、なでるのは遠慮しておいた方が良さそうだな。
 ちなみに、リニスが猫の姿から人の姿に変身したことには、これっぽっちも驚かない。だってタマさんもできるし。人に変身できる悪魔や妖怪とかを見てきて、俺もその辺の感覚は麻痺しているらしい。無理にでも驚いた方が良かったかな? けど、今更遅い気もするし。
 リアクションに悩んでいると、リニスは持つことができた箸を使って、ご飯をつかもうとする。けど、なかなかうまくいかない。力加減を誤って取りこぼしてしまう。まあ、初めての猫に箸を上手く使えったってむりだよな。

 「スプーンかフォークでも使うか? それとも、猫の姿に戻って口をつけても良いぞ」

 「いえ、大丈夫です!」

 なにやらプライドというものがあるらしい。俺の意見を拒否する。
 食事で苦労したって、おいしく食べられる訳じゃないんだから、楽な方を選べばいいのにと思う。
 リニスはがんばるが何度もご飯をつかめないでいるので、ちょっと無理矢理にスプーンとフォークを渡した。最初は渋っていたが、どうやっても扱いこなせない箸にあきらめて、最終的には使うことにしたようだ。スプーンとフォークはちゃんと扱いこなせるようで、その二つをうまく使って、幸せそうにご飯を食べ始めた。

 「これおいしいですね」

 「喜んでもらえて何よりだ」

 タマさんはあまり表情を変えないで食事を取るので、こういった反応は素直にうれしい。まあ、ちゃんとタマさんも最後まで残さずに食べてくれるので、喜んでいることはわかっているが、もっと師匠みたいに顔で表現して欲しいものだ。

 「和食は初めてかい?」

 「はい」

 なるほど、普段は洋食、もしくはキャットフードか。この家は和食ばっかだからいやというほど食えるぞ。……たまには洋食も食べたいな。

 「西洋かぶれは嫌いだよ」

 「このグローバルの時代に何いってんの?」

 師匠なんて、一年の半分も日本にいないのに。そういえば、師匠の料理は動物を豪快に丸焼きにして、塩振って豪快にかぶりつくものだったな。あの料理法は正直どうかと思う。そういえば、あれは和食なのか? 洋食なのか?

 「うるさいよ!」

 目が! 目がーーーー!!!



 食事も終わり、修行の時間。これから、修行場まで行って、基礎訓練と実戦訓練。師匠とタマさんは実戦訓練に重点を置いている。理由は、見ているのは暇だからそうだ。……基礎訓練に重点を置いて欲しい。普通、基礎から固めるものではないだろうか? 100%の悪意がそこにはある。

 「良い機会だね。リニスも見にきな」

 「はい。わかりました」

 何だろう。そこにはっきりとした主従関係がある。さすが動物の本能と言ったところか、ありゃあ絶対逆らったりしないな。リニスもさっきの条件反射に自分で驚いているようだ。

 「そうだ。言い忘れていたけど、拾ったやつ以外の魔石をちゃんと回収しておくんだよ」

 ……もう一度お願いします。

 「聞こえなかったのかい? そのポケットに入っているやつ以外のものもちゃんと回収しろってことさ」

 「何で知ってんの!?」

 まだ、あの石はタマさんに見せていないはずだ。よくわかるな、それが石だと言うことを。見た目すら当てるとはさすがタマさんと言ったところか。

 「別に石だって限ったことじゃないよ。魔力のあるものを魔石っていっただけさ」

 「なるほど。けれど俺がそれを持っているってよくわかったね」

 「今のあんたに蘇生なんてできるわけがないからね。それくらいのものを使わなくちゃできないだろ」

 うわ~、ほめられているかけなされているのかわからない。

 「自分で考えな」

 「は~い」

 とりあえず、気のない返事を返す。タマさんの目は何か言いたげであったが、気をそがれたのかため息をついた後、そっぽを向いた。

 「やっぱりこの石、他のも集めなくちゃいけないの?」

 「当たり前だよ」

 今度は俺が盛大なため息をはく。うすうす考えてはいたが、やはり避けられない道らしい。やることが増えて嫌になる。これが楽な仕事なら別にこれほど嫌ではないが、重労働であると予想できる。魔法関連なんて、たいていそうだ。疲れるばかりで、利益がない。

 「それで、幾つくらいあんのかな?」

 「二十ってとこらじゃないかい?」

 「そんなに?」

 「飛来した魔石はそれくらいだったと思うよ。今はなりを潜めて詳しくはわからないけど、落ちてくるときに一瞬感知できたから、たぶんそれくらいさ」

 先はかなり長いってことか。
 この石、使ったからわかるけどかなりの魔力をもっている。こんなたいそうなものを半人前の俺が一人でできるとは思えない。タマさんに手伝って欲しいけど、さっきの口ぶりから俺一人でやれと言っている。

 「タマさんは手伝ってくれないんですか?」

 「あんたが死んだら、手伝ってあげるよ」

 うわ~、きびしい。本気で助けてくれない顔だよ。師匠もそうだけど、タマさんもたまに出す課題は容赦ないしな。

 「そんなにやな顔をするんじゃないよ。今回は私以外が助けてやるからさ」

 「えっ? やったあ!」

 タマさん以外ってことは、中部の忍者かな? それとも東北のイタコ? 関西の陰陽師? それとも、北海道や中国の方? タマさんよりは弱いけど、みんな俺よりは強いんだよな。頼りになる。

 「リニス、手伝っておやり」

 「私ですか?」

 「ちょっと待った!」

 「いちいち、うるさいね」

 リニスがどれだけ強いのか知らないけど、京を守っている陰陽師や忍法を使う忍より強いと言うことはないと思う。とりあえず反対してみる。できることなら、プロに頼みたい。なぜなら、俺が楽だからだ。

 「わかりました。お世話になっている身ですから、私にできることは何でもします」

 張り切らなくて良いんだよ。人生は適度に怠けて、適度に遊ぼうよ。自分から苦労を背負い込む必要はない。

 「私は実戦も得意なんです」

 止めようぜ。そういうことを言うのは。リニスは戦闘に不向きってことにしておけば、もっと楽な人が来てくれるかもしれないんだから。

 「そのときは、あんた一人だよ」

 「よし、リニス。二人で一緒にがんばろう」

 「あの、その性格、疲れません?」

 「いいや、こんな自分がちょっと好きだけど」

 「そうですか……」

 なんか、俺の行動にリニスがあきれ始めたけど、そんなことは関係ない。俺は俺の道を突っ走るのみだ。

 「じゃあ、あんたの実力を見るのもかねて、あんたもこれからの修行に参加しな」

 「わかりました」

 あ~あ、し~らね。リニスはとんでもないことを言い出した。タマさんの修行に参加することがどういう意味なのかまるでわかっていない。今更止めても手遅れだから、やる気満々なリニスに何も言わないでおこう。せめて、少しでもその気持ちが続きますように祈ってあげる。

 そして、修行場に移って五分後。リニスは涙目になって俺に助けを求めに来ましたとさ。
 めでたしめでたし。

 「にゃにゃにゃーーーーーーーーーー!!」

 おおっ、必死で逃げている。昔の俺を思い出す。

 「次、俊也がきな」

 選手交代、早くないっすか? まだがんばれるでしょ。

 「無理です~~~~~~!!」

 涙目で見ないでください。こっちが悪いことをしている気になるから。自分から言い出したことですよ。



 それから、リニスにとっても、俺にとっても悪夢のような時間は過ぎ、本日の修行は終わった。

 「にゃ、にゃ、……よく続けていられますね」

 「まあ、毎日のことだしね」

 つらくはあるけど、少しは慣れた。慣れたくはなかったが、人間の適応能力とは恐ろしい。

 「ま、毎日にゃんですか?」

 「毎日さ。それにしてもリニス、疲労の所為か言葉が猫に戻っているよ」

 「にゃっ!」

 ははははっ、かわいいかわいい。それにしても、後輩ができるだけで、こんなにも違うものか。苦労をともにしている友人がいると思うと、あんなにつらかった修行が少し楽しかった。
 ふむ、これってもしかしたらタマさんの思惑にはまっているのか? 嫌だ! 俺はぐうたらに生きるんだ! 修行なんて楽しくない!

 「とりあえず、今日はここまでだよ」

 「は~い、今日もありがとうございます」

 「あ、ありがとう、ございます……」

 う~む。修行をつけてくれた礼もなかなか言い出せないところも、昔の俺を見ているようだ。本当に和む。

 「それでリニス。あんた、見たこともない術を使っていたけど、あれはなんだい?」

 あっ、それは俺も気になった。空中飛んだり、魔法陣を描き出しての魔法はきれいだった。日本にも陰陽術とかあるけどそれより幻想的だった。

 「あれが西洋魔法ってやつじゃないの?」

 「違うよ。私も何百という魔法を見てきたけどね」

 何百か。さすが何百年も生きる猫又。桁が違う。もしかしたら何千年かも。まさかね。

 「あれは初めてだよ。それに、魔法の系統ともどこか違うようだ」

 どうやら、タマさんの知らない技術があったらしい。タマさんはとても長生きに加え、道楽で諸外国を旅したりもするらしい。そのときに、いろんな国の裏も見学するらしい。それにより、タマさんの知識は膨大だ。地球で知らないことは、ないと言っていいほどにだ。タマさんが知らないと言うことは、それほど異端なものらしい。俺は気にならなかったけど、さすがタマさんだ。抜け目がない。

 「あ~、はい。それはその~」

 リニスがなかなか話そうとしない。どうやら、言って良いものかだめなものか決めあぐねているようだ。そんな煮え切らない態度に、タマさんがいらつき始めてきた。

 「まどろっこしいね。さっさと言いな」

 「あれ? 無理矢理聞き出すのはいけないんじゃなかった?」

 食事前に確か俺にそんなようなことを言っていたはずだけど。

 「それはそれ、これはこれだよ」

 なるほど、自分には適応されないってことだな。さすが師匠の飼い猫。言うことが違う。そんな自分主義なところがすてきだ。
 ちなみに、決してほめてはいない。

 「あう~~~、俊也さ~~~ん」

 「やめて! そんな捨てられたような猫のようなまなざしをこっちに向けないで!」

 そんなことされても、俺にできることなんて何一つ無いから!

 結局は、タマさん相手に俺たちがかなうはずもなく、リニスの身の上について聞くことになった。
 とは言っても、リニスがミッドチルダという異世界の出身で、落ちていた石がロストロギアと言う広大な宇宙の古代遺産と言うやつらしいとのことだけだ。どうして、異世界の使い魔がこの地球に来たのかは、タマさんは聞かないことにしたらしい。
 ちなみに俺は話半分に聞いていた。訳の分からない言葉が出たら眠くなりませんか? そして、難しい話になったら頭が理解することをやめませんか?

 「ミッドチルダか、聞いたこと無いね」

 「右に同じく」

 「数々の次元世界の中で、最先端の魔法技術を持つ世界ですね」

 どうやら、とんでもなく大きなところらしい。行くつもりは全くないからどうでも良い情報だが。きっと明日には忘れているだろう。

 「地球に害のある存在なら、いずれ戦うことになるかもしれないね」

 「あの~、怖いことは言わないでください。かなりの戦力を持っているところですよ」

 しかし、タマさんが負けるとは思えない。そして、何かの拍子で戦争になってしまいそうだ。SFでよく見る宇宙戦艦に、師匠やその仲間たちが立ち向かう。
 ……沈む沈む、船が沈むよ。はっ! 多くの命が星になるシーンが見えた。

 「ともかく、そのエネルギー結晶体はクリスタルって言うんだな」

 「ロストロギアですよ! 私の話を聞いていました!?」

 「およし!」

 「はい?」

 いきなりどうしたのだろう。タマさんが大声を出した。

 「別に異世界に私たちが合わせる道理はないよ。ここは、地球。魔石、もしくはエネルギー結晶体と呼び」

 さすがこだわりのある猫。他に譲ると言うことはしない。

 そんなこんなで、俺とリニスの魔石集めが始まった。
 面倒くさいな~~~。





 あとがき
 リニスは仕える主人もいなければ、育てる子供もいないので、気を張る相手がいません。
 そのため、動物っぽいと言うか、弱々しい態度を見せることにしました。
 タマさんは強いです。かなり強いです。けど、ジュエルシード集めを手伝ったりはしません。弟子があたふたしているのを見てるのが好きです。





[15536] 第4話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:a309e446
Date: 2010/12/31 04:20
 世界の終わり。今日はそんな日に最適だ。
 校舎の校門前で、俺は絶望をかみしめていた。

 「盛大に晴れているけど」

 ああ、登校してきたつばさに冷静につっこまれた。今日はなんて日だ。

 「失礼だね。人の顔を見て苦虫を噛み潰したような表情をするとは」

 いろいろあるんだよ。いろいろさ。
 こう気分が落ち込んでいるときは、あの騒がしいやつに元気を分けてもらおう。つばさに健の居場所を聞く。

 「そういえば、年中幸せそうなやつはどうした?」

 「ああ、先に教室に入っているはずだけど」

 途中、雑談しながら。とは言っても、愛する妹についてつばさが話すだけだが、俺たちは校舎に入る。そして、自分たちの教室のドアを開けた。

 「キタ―――(゜∀゜)―――!!!」

 そこにバカはいた。なんだか、言葉にすら表情が浮かび上がっている。どういったテクニックで発声しているのだろうか? あいつは結構多芸だ。

 「さすが春だ。バカに拍車がかかっているな」

 「うん。けど、今日はいつも以上に絶好調だね」

 テンションがいつもより高い。ここまで高いのも珍しい。

 「今日がその日だ。淫獣降臨! 超常現象発生! 俺は夢を見た!」

 夢一つでここまで幸せになれるあいつは、世界一だと思う。口に出す言葉から、ろくでもない夢のはずなのに、どうしてここまで幸せになれるのかわからない。

 「夢を見たと言うことは、俺にも魔法使いとしての才能がある! 今日から始まる魔法少年リリカルたけし!」

 あれは末期だ。

 「だめだあいつ。もう手遅れだ」

 「元々手の施しようなんてあったの?」

 確かにそうかもしれないが、できることなら助けたいじゃん。友達として。
 まあ、魔法少年と言っている限り、そこら辺は絶望的な気がしてきた。

 「あいつは、今日何か大切なものを失った気がするな」

 「ちょくちょく落としてはいるが、今日はひときわ大きいね」

 まあ、犯罪には走らないように願うことくらいはしてやろうと思う。

 俺は今日から、師匠たちの課題で鬱だというのに。少しでいいから、元気を分けて欲しい。

 「同時に何か良からぬものに感染しそうじゃない?」

 「……確かに」

 あいつを遠目で見て、楽しむことで元気に換えようと思う。つばさも健のテンションの高さはたまに役に立つとのこと。クラスメイトも同様で、このクラスの名物となっている。
 変態とはさみは使いようというやつだ。






 机にすっぷしながら、授業が始まるのを待っていると、クラスメイトが次々と登校してくる。扉を開けた瞬間、健の姿を見てびびってしまうが、慣れたものですぐに冷静を取り戻し、苦笑しながら席に着く。
 その様子をぼけーっと見ていたら、一部の生徒が俺に近づいてきた。

 「ちょっと、あれはいったい何があったの?」

 バニングスだ。月村と高町も側にいる。どうやら健のテンションが高い理由について知りたいらしい。
 本人に聞けばいいじゃないかと思うが、話しかけづらいらしい。確かに、あのノリに入り込むには勇気がいる。周りの生徒も気にはなっているようで、健や俺の様子をちらちら見ている。
 最近気がついたことだが、健とつばさに関しては俺を通して、話をするようなシステムができているようだ。健の意味不明の言葉と、つばさの妹への強すぎる愛に、一般人はついて行けないようだ。そこで、二人と会話のできる俺が選ばれたらしい。先生も俺を通して二人に伝えようとするから困ったものだ。理事長のところの子供というのが効いているらしい。何かと頼りにされる。

 「ねえ、聞いてるの?」

 違うことを考えていた。目の前の人を放り出して、関係のないことを考える辺り、昨日言われたことがズシンと来ているな。ああ、いろんなことから逃げ出した。

 「鬱だ。死のう」

 力を抜いてうなだれる。

 「ちょっと! 人の顔を見て死のうなんて良い度胸じゃない!」

 「ちょっ! いたたたた!」

 頭をつかんでアイアンクローを決めてきた。マジでいたい! 師匠たちとの修行で、痛いことに離れているはずの俺が叫んでしまうほどの力だ。
 バニングスは本当に一般人だろうか? そもそも人であるのか?

 「なんか失礼なこと考えているでしょう!」

 「なっ!? なぜわかる!?」

 心が読めるなんて師匠じゃないか。あれほど怖い女性は一人で十分だというのに。

 「あんたは顔に出るのよ」

 なんてこった。これからはポーカーフェイスの訓練をしよう。

 「そろそろギブ! 頭痛い! 中身が出ちゃう!」

 なんだか頭がぼやけてくる。頭の痛みが鈍くなってきた。
 これはかなりやばいんじゃないだろうか?

 そういえば、似たようなことが一年の頃にあった。






 時はさかのぼって、俺が一年生のとある日それは起きた。そのとき俺は、昼休みに何をすることもなくただぼーっとベンチで座っていた。
 日に照らされて、何も考えずに気を楽にしているのはとても気持ちが良く、時間のあるときはよくしていたものだった。

 「貸しなさいよ!」

 「いや!」

 突然、二人の大きな声が聞こえた。なんだと思って、声がした方向を見てみると、二人の少女が言い争いをしていた。俺と一緒のクラスにいる月村とバニングスである。
 それを見つけて、俺はどうしようかと困った。相手は女性。男の俺が出て行ったら、話がこじれそうで怖い。理由もわからない第三者が出ていって、二人の神経を逆なでするかもしれない。それに、女性の争いは巻き込まれるととんでもない目に遭うことを知っていた。子供らしくないが当初七歳でも、すでに師匠の影響で大人の世界に足をつっこんでいる。今でもそうだが、思考がやけにドライだ。
 ともかく、女性の言い争いに参加することは気が引けた。後に子供の内では、そんな心配は全くの杞憂だと言うことを知るが、当初はそう信じていた。

 とりあえず、原因を探ろうと二人の様子を見続けていると、どうやらヘアバンドが原因だと言うことに気がつく。月村のしていたヘアバンドを、バニングスが奪い取ろうとしていた。けんかの理由を理解して、次に二人の関係について考えてみた。
 友人同士の些細なけんかかとも思ったが違った。当時の月村は、内気で他人の顔色ばかりを見ていた。他人と関わろうとはせずに、誰かが話しかけようと近づくとその場から逃げ出すようにどこかに行った。対して、バニングスは、わがままなお嬢様と言ったところだ。何でも実家が有名な会社で周りからは希有な存在としてみられて、距離を置かれていた。入学式のリムジン横付けが効いたらしい。本人も気が強く、気に入らないことは許さない性格で、人との輪になじめずにいた。つまるところ、二人とも友人らしい友人がいないところが、俺から見た当初の二人だった。
 現状をくみ取り、俺はベンチからたった。ふざけあっているわけでもなく、本気のけんかだと言うことを知り、どうにかしなくてはと思ったのだ。それに、今にも二人は手が出そうになっている。現に、ヘアバンドをお互いの手が引っ張り合っていた。
 俺が二人に近づこうとしたそのとき、二人の間に少女が割っては言った。高町だ。月村をかばおうと月村を背にして、バニングスとにらみ合っている。これは良い事態だと俺は考えた。女性の説得は女性に限る。俺は正直ヘアバンドにあまり価値を見いだして無く、どうして喧嘩のかわからなくていたほどだ。良い解決がなされるかもしれない。
 俺は安心したが、その安心は一瞬で壊れた。
 一言二言言葉を交わした後、バニングスと高町がとっくみあいの喧嘩をしたのだ。
 何でそうなると、心の中で絶叫したが、苦悩している暇はない。より状況が悪化したと、二人をあわてて止めに入った。
 それが最悪の結果を生んだ。三人にとってはそうでもなかったらしいが、俺にとっては最悪だった。
 俺は高町のバニングスの間に入った。そこに、今まさに相手を殴ろうとしていたグーが俺に直撃したのだ。
 あごと、あばらに。
 当時から師匠に鍛えられてはいたが、それを避けることはできなかった。相手が女の子と侮っていたこともあるが、直前で急に拳が伸びてきたからだ。
 彼女たちは俺に何か恨みでもあったのだろうか? 入学時の自己紹介から一週間、俺は何もしていないはずだった。
 二人の拳はかなりと言っていいほど強力だった。高町の拳はあごに入り、俺の脳を揺さぶった。バニングスの拳は俺のみぞおちに入り、肺の空気が一気に抜けた。
 その衝撃に俺は耐えられずに意識を手放した。

 次に目が覚めた場所は保健室のベッドだった。ずいぶん長く気絶していたらしい、目が覚めたときに高町とバニングス、月村が側に来て、後ろにはその保護者もいた。
 口々に謝られた。本人からも、保護者からもだ。
 俺はとりあえず言った。

 「おまえら、格闘技とかって習っている?」

 「なっ、習ってないよ!」

 「か、軽くパンチしただけなんだからね!」

 二人は否定したが、未だに俺は信じていない。五年もたてば、高町の拳は鉄をも貫けるだろうし、バニングスの拳は岩をも砕けると思う。
 そういえばそのとき、後ろで高町の兄が引きつった笑みで目線をそらしていたけど、何だったのだろうか?
 俺の気絶した後、高町とバニングス、月村は仲直りをしたようだった。男の子を自分らの手で気絶させてしまったこともあって、良い感じで頭は冷えたらしい。喧嘩は止まった。協力して先生たちに助けを求めたりしたおかげで、いつの間にか嫌な気持ちはなくなり、俺が目をさめるのをまつ間に話をしたりすることで、相手のことが理解できたらしい。
 三人はすっかり仲良しさんだった。
 微妙に疎外感を受けたり、ちょっと悲しい気持ちになったが、変なことを言ってまたトラブルが起きてあれなので、ぐっとこらえることにした。
 その後、しばらくして理事長がやってきた。俺の師匠であり保護者だ。三人の保護者がこれでもかというくらい頭を下げている。

 「お気になさらずに。その程度で気を失っているあの子が悪いんですから」

 そのとき、師匠と目があった。瞬間、俺の最期が見えた。言葉にできないほど大きい殺気が俺にたたき込まれた。ピンポイントでたたき込んできたのだろう。誰もその殺気に反応していない。
 俺は、震えが止まらなかった。今日はなんて厄日だろう。

 「梅竹君、大丈夫? 震えているよ」

 様子が変わった俺を心配して、月村が声をかけてきた。

 「ああ、うん。これから地獄を見るんだ。俺」

 「何言っているの?」

 俺の言葉にバニングスも不思議がっている。今、一瞬で身内にしかわからないやりとりがされた。周りがわからなくて当然だった。

 「心配してくれてありがとう。もう大丈夫。私が見ておくからあなたたちはもう帰って良いわよ」

 師匠に見てもらう方が危険です。むしろあなたが帰ってくださいとは、言葉にすることができなかった。

 「でも……」

 それでも心配そうな周りに、俺はこういわざるを得なかった。

 「だ、だ、だ、大丈夫。理事長と帰るから心配しなくて良いよ」

 多少声が震えたが、みんなわかってくれたようだ。俺のことは師匠に任せ、みんな家に帰ることにしたようだ。
 全員が部屋を出て、扉が閉まる。それを見届けてから、師匠がこういった。

 「わかっているわよね」

 「わかっています……」

 その後、師匠に……



 「はっ!」

 「きゃあっ!」

 なんてことだ。恐怖に回想が打ち切られた。

 「いきなり声を上げないでよ。び、びっくりするでしょ!」

 「いや、夢見が悪くてな」

 て言うより、俺は何でこんな夢を見たのだろうか?

 「梅竹君。大丈夫?」

 俺のことを心配そうに月村が声をかける。うん、師匠と違って、クラスの女子は良い子だ。その親切さが俺の心を潤す。

 「なんか夢を見ていたんだけど、どうしてだろ?」

 首をひねっていると、月村と高町がバニングスの方を見ていることに気がつく。
 もしや、と思って、あることに行き当たる。

 「もしかして、さっきのアイアンクローが原因!? あれって走馬燈だったの!?」

 まさか、俺を生死の境に送るほどの威力がバニングスの右手に宿っているとは思わなかった。

 「ち、違うわよ! あんたが急に寝ちゃっただけでしょ!」

 「いんや、完全に落ちていましたね。はい」

 師匠とタマさんの一撃にも気を失わずにいられるのに、どうして少女の一撃にはあっさり負けるのか。

 「もしかして、リンゴを手で握りつぶせる?」

 バニングスなら鉄をも圧縮できそうだ。

 「私みたいなか弱い女の子にそんなことできるわけ無いでしょ!」

 「か弱い!?」

 「そこに驚くなーーー!!」

 予想外すぎることだったんで、思わず声が出てもしょうがないじゃん。
 ちょっと、高町と月村。あわてて顔をそらしても、バニングスのか弱い発言で驚愕の表情になっていたことは見逃さなかったぞ。

 「こんなことになったのも、元はと言えばあんたの所為でしょ」

 はて? 俺の所為だったのか?
 なんだか、ずいぶん昔のような感じがして思い出すことができない。もしも、俺に原因があったら、謝らなくちゃいけないな。

 「すまなかった」

 「えっ?」

 「えっ、て言われても。おまえがおれの所為だったって言ったんだから、こうして謝ったんだけど」

 「うっ、けど、あなたを気絶させちゃったのは私だし。こっちこそ………ごめん」

 おおっ、バニングスが謝るとは珍しい。しかも、顔を赤らめてだから少しかわいいと思ってしまった。

 「そ、そんなことより! あいつは何でうかれてんの?」

 そういって、バニングスが健の方を指さす。
 あいつ、まだやっていたのか。
 俺が生死の境をさまよっていても、浮かれ続けられるなんて素晴らしい。あいつの妄想はとどまるところを知らないな。

 「何でも、今日のあいつの脳内お花畑は満開らしい」

 「い……いつものことなのね」

 多少引きつった表情で、バニングスが言う。

 「ああ、いつも以上のことだ」

 いつものこと、で通じるほど、あいつの行動はワンパターンだ。例え、より奇怪な行動を取ろうとも、いつものことであるのだ。つまり、根っからの変態なのである。

 「そう」

 バニングスはこれ以上言わない。どうやら、聞きたいことはそれだけだったらしい。
 たったこれだけのやりとりをするために、ずいぶん長い遠回りだった。どうやら、俺が原因だから反省はしておこう。でも、後悔はしない。たぶん、またやるから。

 「それにしても、あいつは本当に幸せそうだな。一度、頭の中を見てみたいよ」

 くよくよしたりしないところは健の良いところだ。見習いたいものだ。そうすれば、師匠たちの修行が楽になるかもしれない。
 ……何も解決していない気もするが。

 「なんか、見たら感染しそうで怖いわ」

 「けど、興味はある」

 さぞかし、きれいな花が咲いていることだろう。嗅いだら幻覚が見え、食べたら間違いなく死にそうだが。

 「あんたも物好きね」

 「そうか? 友人のことをもっと知りたいと思うのは当然だろ? おまえはそうじゃないのか? 高町や月村のことはもっと知りたいだろ?」

 もしかしたら、俺は人よりずれているのか? こういった感覚だけは普通の人と同じだと思っていたが。ずれていたら、ちょっとショックだ。
 俺の質問を聞いて、バニングスの顔が真っ赤になった。

 「なななっ、何言ってんのよ!」

 「あれ? 違うのか?」

 「そ、そんな訳じゃないけど……確かに、なのはたちとは仲良く……」

 だんだんと湯気がたち始めた。どんどん顔の赤みが増していく。
 大丈夫か? そのうち何かがはじけそうで、心配になってくる。

 「はいはい。梅竹君もそれくらいして」

 そういいながら、月村がバニングスを落ち着かせ始めた。さすが親友と言ったところだろう。バニングスは落ち着きを取り戻しつつある。

 「梅竹君、あまりアリサちゃんをからかっちゃいけないよ」

 なのはに注意された。別にからかっているつもりはないが、気分を害してしまったのかもしれない。とりあえず、善処しよう。








 あとがき
 主人公となのはたちとの関係。
 三人は親友同士で、俊也とは友達といった感じです。
 俊也と健太とつばさの、仲良し男グループ。
 なのはとアリサとすずかの、仲良し女グループ。
 主人公が属している仲良し男グループをメインにいきたいと考えております。



[15536] 第5話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:d06740f4
Date: 2010/12/31 04:19
 バニングスたちとの話も終わって、いつも通りの日常が始まる。俺はいつも通り普通に授業を聞いていた。昨日から家族が増えたって、学校でやることは変わらない。学んで、遊んでだ。
 それにしても、授業が始まっても健のやつは終始そわそわしている。まるで、もうすぐおもちゃが手に入るので、楽しみで待てない子供みたいだ。
 確かに、自分たちは子供だが、健のあの調子はいつもとは印象が違う。健は授業中は静かで、たまに居眠りをするほどおとなしい。まれに先生に見つかって怒られたりもする。それでも、テストでは全科目百点なのだからすごいものだ。
 ともかく、朝から健の様子はおかしかった。

 「あいつ、何かあったのか?」

 つばさもそう思ったらしい。休み時間、俺に何かあったのか聞いてくる。

 「俺は心当たりがないけど」

 朝来たらすでにあんな様子だった。昨日のうちではそんなことなかったはずだ。

 「俺もだ。ついに精神に異常をきたしたか?」

 「奇行は目立つこともあるが、ある一定の線内で収まっているかと思ったが。・・・・・・かわいそうに」

 「そうだな。だが、心の病とはいえ、病だ。いつか治ることを信じて待とうじゃないか」

 「おまえ、医者志望だろ。どうにかしてやれよ」

 つばさは病弱の妹のこともあってか、小難しい医学の本を読んだりもしている。

 「えっ、移ったら怖いじゃん」

 「確かに、それは怖いな」

 「だろ?」

 自分があんな状態になったらと思うと恐ろしい。つばさの言うとおり、このまま見守っていた方がいいのかもしれない。

 「あんたたち、言いたい放題ね」

 後ろから声がかけられた。振り返るとバニングスたちがいた。どうやら俺たちの会話を聞いていたらしい。

 「まあ、健だしな」

 「この扱いは当然といえよう」

 俺たちの意見は決まっている。健だし、放っておいても大丈夫だというわけだ。

 「あんたたちね……。言いたいことはわかるけど」

 「「わかるんだ」」

 どうやら、健はクラス内でも同じ評価らしい。やたらと頑丈なイメージがあるようだ。まあ、馬鹿は風邪を引かないという言葉もあるしな。

 「うるさい! それでも、話くらいは聞いてあげようって気にはならないの? あんたたち、友達でしょ」

 何という優しい言葉だ。あの健にそんな優しいことを言うなんて、聖女様かと勘違いしてしまう。いや、ないか。聖女に失礼かもしれない。

 「いま、ものすごく失礼なことを考えなかった?」

 「いやいや、そんなことないよーーーー」

 「その棒読みは何!」

 危ない危ない。なかなかこのお嬢様は勘がいいぞ。まあ、バニングスの言いたいこともわかるので、ここはとりあえず健から事情を聞くとするかな。

 「わかった。ツンデレ様の言うとおりにしておくかな」

 「ツンデレって何よ!」

 ツンデレに反応した。侮蔑の言葉かと思ったようだ。俺にくってかかる。

 「健から教えてもらった言葉だ。普段攻撃的なのに、さりげなく優しい、そんな少女に向けて言う言葉らしい」

 健が言うにはこういうのをツンデレと言うらしい。何かが間違っているような気もするが、辞典を調べてみても出てこないからおそらくこうなのだろう。辞典に出てこないから間違いなのかとも聞いてみたが、正式な言葉と言っていた。とりあえず、理由はわからないが何かと使いやすそうなのでこの言葉を使うことにした。
 改めて考えてみると、なぜかバニングスにしっくりとくる言葉だ。ツンデレとは。

 「誰がツンデレよ!」

 「ぴったりなような気がするが」

 「「うんうん」」

 「すずか! なのは!」

 バニングスの後ろで二人が声に出してうなずいていた。隣をみてみると、つばさも黙ってうなずいていた。どうやら、彼女はツンデレで確定のようだ。

 「ごめん、アリサちゃん。なんだか納得できて……」

 「まあまあ、アリサちゃん。そこまでひどい言葉じゃないようだし」

 「納得するな! それにすずか。さもツンデレが当然なようなことを言うな!」

 後ろで新たな争いが勃発したようだ。今度は俺は蚊帳の外らしいので、放っておいて健の方に向かう。

 「ちょっと待ちなさい! あなたが発端でしょ!」

 俺は一直線に健の方へ歩いて行く。

 「無視すんなーーー!」

 後ろから叫び声がするが気にはしないで置く。
 俺は健のそばに来て、声をかける。

 「健、挙動不審もいいが訳を話せ」

 「挙動不審はいいの!?」

 なんだか、後ろのギャラリーがうるさい。バニングスよ。ツンデレを否定しなくていいのか? ここできちんと拒否しないと、今後言われ続けることになるぞ。
 けど、注意はしない。ツンデレと言われるようになる方がおもしろそうな気がするからだ。俺が発端なのはもうどうでもいいことだ。
 俺はバニングスを無視して話を進める。

 「訳がわからないと、おまえはただでさえ変な子供が、ただの変態になってしまうぞ」

 「何、そのランクアップ!?」

 「どちらかと言えば、ランクダウンな気もするな」

 それにしても、さすが健だ。変な子供というところは否定する気がないようだ。人としていろいろ間違っているかもしれないが、それでこそ健であるべきだと俺は思う。

 「さあ、これから何があるのわからないが、訳も知らなければおまえが変態か変態じゃないかで評価がつけにくい。早く訳を話しておまえが変態であることの確信をくれ」

 「おまえはどうしても俺を変態にしたいらしいな」

 「そうだ。もう少しで、おまえを変から変態にできるんだ。そうすれば、おまえはクラスが認める変態になれるんだ」

 俺は自信満々に言う。

 「おまえなあ」

 俺の堂々とした態度に、健はあきれた表情だ。

 「俺は変じゃねえよ」

 『えっ! 嘘!?』

 健の反論にクラス中が驚愕に包まれた。

 「全員から否定の叫びだと!?」

 「……危ない危ない。もうすぐで意識を手放すところだった」

 「おまえは驚きすぎだ!!」

 だって、おまえがあまりにもおかしなことを言うからだ。おまえが変じゃないなんて、世界を根本から覆すことだぞ。

 「ともかく、何があったか話せ。俺はもう疲れた。早く決着をつけたい」

 「疲れすぎだろ」

 もうすぐで気絶するところだったんだ。それくらい甘く見ろ。おまえの言葉は肉体にも精神にも多大は負荷を与えたんだ。
 健も疲れたように、訳を話そうとする。だが、なかなか説明がされない。
 それというのも。

 「あのな、なんて言ったらいいのか。けど、言うと大変なことになりそうだしな。条約とかにも違反しそうだし」

 にやにやしながら訳のわからないことを言ってくる。

 「ロス……この単語言ってもわからないか。時空……、これもわからないよな。説明しにくいな」

 何か想像してうきうきしているのがわかる。それがわかるだけに、今の健の行動は腹が立つものだった。
 とりあえず、今やるべきことは一つだ。

 「はっ!」

 「ぐふぁっ!?」

 俺の渾身の一撃をやつにたたき込んでやった。きれいに決まり、健はそのまま気絶をした。健は自分の席に座っていたため、事情を知らない人が見れば、気絶ではなく居眠りをしているように見える。

 「容赦ないな。気持ちはわかるが」

 つばさもやりとりを見ていたようで、俺の行動をとがめることはしなかった。
 そしてチャイムは鳴り、俺たちは自分の席に戻っていった。

 そして、日常が始まる。

 「放置でいいわけ?」

 バニングスが気絶している健を見て、こう聞いた。
 その問いに対する答えは一つだ。

 「良い」

 何も問題はない。
 少ししたらすぐに復活する。

 「それもそうね」

 健の生命力にはクラス中が知っている。すぐにそれを思い出して、自分の席に着いた。

 そして、先生が教室に入ってきて次の授業が始まる。
 先生は気絶している健を一目見た後、ふざけすぎないことを俺とつばさに注意して、授業を始めた。
 教師もこのような出来事になれている。なんていいクラスだろうか。
 その後、数分して、健の方を見たら。何事もなかったかのように授業を受けていた。その顔は引き続きにやけていたが、どこも痛そうにしていなかった。
 自分でやっておきながら、一般人のくせに丈夫だなあと感心した。






 そうして、本日の授業がすべて終わる。

 「もう少しだ」

 授業が終わり、帰りのHRが始まる。健はそれが終わるのを今か今かと待ち望んでいる。
 どうやら、健にとってのお楽しみは放課後にあるらしい。
 だが、このままかえってもらっては困る。あいつにはまだやるべきことがある。
 俺は机に手をかけ、いつでも飛び出せるように準備する。

 「よし、待っていろ。俺が今助けてやるかなら」

 帰りのHRが終わったと同時に健は帰ろうと鞄を持って、全速力で教室から出ようとする。
 そこで俺は急いで、出口に回り込んだ。全身をバネに、一気に踏み込む。事前に体を少し浮かせていたから、行動への入りが早く決まった。瞬時に健の前に回り込む。

 「うおっ、縮地!?」

 いきなり目の前に現れた俺をみて、健は驚いたようだ。同時になんか、たいそうなことを言う。ただ、一気に踏み込んだけだ。そんな瞬間移動、俺にはまだできない。
 驚愕している健に俺は言う。

 「待て。まだ帰るな」

 「なんだ? 今の俺は忙しい。話なら後で聞いてやるから、また明日にしろ」

 「そういうわけにもいかない。今しかできな話だからだ」

 どうやら何か別のことを考えていて、重要なことを忘れているようだ。それを今思い出さしてやる。

 「今日はおまえ。掃除当番だろう」

 そう言われて、健はピクッと反応する。
 本当に忘れていたらしい。自分がこのまますぐに帰ってはいけないことを。今すぐにでもちゃんとやらなきゃいけない仕事があるのだ。

 「……明日じゃだめか?」

 「だめだ。今週はずっとだ」

 このクラスでは週ごとに当番が変わる方式をとっている。そのため、今週は俺と健の班は教室の掃除当番だ。

 俺はロッカーからほうきを取り出し、それを突き出す。健は口を開いて、説得しようとするがすぐにやめたようだ。俺が何を言われても引かないとわかったからだろう。つきあいは長い。言葉を多く交わさなくても、答えがわかるのだ。そうして、健は少し考えた後反転して走り出した。

 掃除から逃げた。

 そんなことは俺が許すはずがない。俺の負担が増えるからだ。
 今、俺たちは教室内にいる。教室の入り口のそばに俺がいるから、俺をどかさない限り外に出ることができない。だが、教室には前後で入り口がある。もう一方の入り口にいくのかと思った。だが、健は教室の奥へといく。
 健の行動はより逃げられなくなるはずだった。だが、あの表情はあきらめた時の表情ではない。何か決心した男の目だ。
 まさか!?
 俺の考えは合っていた。健は、教書鬱の窓に手をかけて、そのままジャンプして窓の外へと飛び出した。

 「ちょっ! ここ二階!」

 クラスメイトの叫び声が聞こえる。

 「やりやがったな」

 正直、ここまでやるとは思わなかった。そこまで、掃除をしたくないのだろうか。ちゃっちゃとやれば数十分ですむ話なのに。

 「俺は誰にも止められない!」

 落ちる途中で健が叫んだ。そのまま、きれいな受け身をとって二階からの着地に成功していた。ちょうど、窓の下は平地だったためきれいに受け身がとれたようだ。見たところどこか痛めた様子もない。
 健はクラスでも身体能力がトップクラスだ。だが俺ほどではない。俺は師匠たちの修行で鍛えられているから当然と言えば当然だ。俺の方が自分よりも上だと知っている健は、力ずくで通ることをあきらめ、離れた位置にある窓から外に出ることを選んだ。
 いざというときの判断力も早い。飛び降りるまでの迷いがなかった。自分の身体能力なら二階から飛び降りても大丈夫だと判断したのだろう。実際に成功したし、どこで覚えたのかきれいな受け身も成功していた。
 本当にその才能を、違うところに生かせないのかと思ってしまう。

 「だが、甘い!」

 おまえにできて、俺にできないことはないんだ。
 すでに俺は窓の近くにきていたので、そのまま健の後に続く。

 「おいっ、無茶なことすんなよ!」

 窓から飛び降りた俺をみて、クラスメイトが叫ぶが。すでに、俺は地上に落ちていく途中だった。
 落下の衝撃で体を痛めないように、衝撃を逃がすように着地する。
 修行柄、高いからの落下は慣れている。受け身をとった健よりスマートに着地した。
 すでに、校門へと走っていた

 二階から飛び降りるまでに差が生まれていたため、すでに健との間に二十メートルほど差ができてしまっていた。
 普通なら追いつく距離ではない。健は体力もクラスでも上部に食い込んでいる。普通のやつならあきらめているだろう。
 しかし、俺は普通ではない。
 日頃から修行を続けている俺はクラスで一番だ。たとえ健があいてといえども、この距離の差なら追いつく自信がある。
 足運び、フォーム。師匠たちから習ったとおり、全身に力を込めて一気にかけ出した。
 まだ子供でパワーがない俺は素早さを武器にしようと動きには必要以上に鍛えている。
 そんな俺はすぐに健に追いついた。
 健も全速力で走っていたのに、すぐに後ろから追い越され、回り込まれる。

 「速すぎるだろ。チートか?」

 「相変わらずおまえの言葉は日本語かわからなくなるな」

 「だが、今日の俺は誰もとめられない!」

 「おまえ、さっき俺に気絶させられていただろ」

 「そんな昔のことは忘れた!」

 「昔じゃねえ! さっきのことだ!」

 都合のいい頭だ。たまにうらやましくなる。
 どうやら健はやる気のようだ。俺相手によくやるものだ。

 「うなれ! 俺のゴッドハンド!」

 健が強硬手段に出るが、俺は軽くあしらう。

 なんて素晴らしい神の一撃だろうか。

 健の攻撃など、タマさんに比べれば止まっているようだ。
 拳を払い、重心を崩して、地面にたたきつける。
 こうなった時点で、すでに俺の勝利だ。身体能力は俺の方が上だ。それに、戦闘訓練も受けている。俺にかなうはずがない。

 「さあ、掃除しようね。良い子だから」

 健の襟首をつかんで、引きずっていく。否応なく俺は健を引きずっていく。日頃修行でなれている。子供の体重、それくらいなら走っても楽々と引きずっていける。まあ、それをやると地面との摩擦で健が悲しいことになるけどな。

 「ま、待て! そこに輝かしい、うふふであふふな青春があるというのに見逃せと言うのか!?」

 「おまえまだ九才だろ? 青春に執着するな」

 青春が灰色過ぎて、あの日を取り戻したい中年でもあるまいし、そんな見苦しいのを見せるな。
 いや、こいつの場合はかなり特殊か。そんな中年でもここまで見苦しい状態にはならないはずだ。

 「俺は! 俺は淫獣を助けてフラグを立てなきゃいけないんだ!!」

 はいはい。電波はいいから手を動かそうね。じゃなきゃ、帰るのがより遅くなる。

 「放せ! 俺は、ジュエルシードを集めなきゃいけないんだーーーーー!!」

 「宝石の種って、おまえ、金のなる木も信じるタイプか?」

 そんな楽してお金が手にはいるわけがない。富を築きたかったら地道にこつこつ働くしかないのに、そんなずるをしようとするな。

 「ちげーーーーー!!」

 絶叫がこだまする。だが、どんなに泣き叫ぼうが、俺のやることは変わらない。同じ掃除当番として、健に掃除をさせるだけだ。

 「あんたたちはいつも元気ね」

 「おっ、バニングスたちは帰りか?」

 「ええ、私たちは塾があるから」

 放課後、校庭で遊ぶため、すぐに帰らない生徒もいるが、そうはせずにかえって遊んだり、塾に通ったりする生徒もいる。やることをやったら、後は好き好きというわけだ。俺たちはまだやることがあるので、帰ることはできない。

 「じゃあな」

 「うん、ばいばい」

 「またあしたね」

 月村と高町とも別れの挨拶をする。

 「ちょっと待て! 俺も!」

 「だから、おまえは掃除だって」

 「それじゃあ遅いんだーーー!!」

 それから、暴れ回る健を教室まで連行するのに、時間がかかってしまった。

 その後、あきらめずにどんな手を使ってでも逃げ出そうとする健を止めるのに時間がかかって、帰るのがとても遅くなった。
 今日から帰ってから仕事だというのに、やっかいなことをしてくれたものだ。放課後の休憩時間が無くなった。今度健になにかおごらせようと心に誓う。



[15536] 第6話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:d06740f4
Date: 2010/12/30 20:55
 学校での掃除も終わって、俺は帰宅した。魔石探索の仕事ができたから急いで家事を済ませて、時間を割かないといけない。
 玄関から自宅へ入って、そのまま台所に行く。夕ご飯の用意をしてから、魔石を探しに行こう。仕事だからって家のことをちゃんとしないと、後でタマさんに怒られてしまう。
 いつも通りちゃちゃっと食事の準備をして、居間に向かう。
 一緒に仕事をする、昨日から増えた同居人を呼びに行く。

 「リニス~、魔石探しに行くぞ~」

 あれ? そういえば、リニスって年上か? それとも年下か? リニスは敬語で話しかけていたけど、いくつなんだろ?

 そういえば、なんかいろいろあったみたいで、深く過去について聞いていなかったけど、こういったことも知らないな。普段困らない程度に知っておいた方がいいな。
 けど、どの程度までなら聞いたらいいのだろうか?

 「リニス~、どこだ~」

 これからどんな付き合いしていけばいいのかと考えながら、リニスを探し続ける。

 (……まあ、どうでもいいか)

 いろいろ考えるのが面倒になって、気を遣うことをやめにする。
 リニスがいないから、どうでもいいことを考えてしまった。
 いったいどこに行ってしまったのだろう? 散歩かな?

 俺が家中を探していると、そこにいた。

 「zzzz……」

 こたつの中で、とっても気持ちよさそうに寝ている。その表情は極楽の世界にいるようだった。

 「やっぱりおまえも猫なんだな……」

 使い魔とか言ってはいても、結局は猫なんだ。こたつの魔力には逆らえないらしい。

 もう春なのだが、うちはこたつをまだ出している。というより、一年中出してある。
 なぜかと言えば、タマさんが好きだからだ。これ以上のわかりやすい説明はない。

 「お~~い、起きろ~~」

 起こそうと、ほおを突っつきながら声をかける。

 「ふにゃ~~」

 そしたら、邪魔しないでと言わんばかりに手で止められる。
 なんだろう、この愛玩動物は。いざというとき大丈夫だろうか? これから仕事なのに。
 このまま眠り続けられても困るから、早く起こすとしよう。そっと声をかける。

 「あっ、タマさんが怒っているぞ」

 「ねねねねね、寝ていませんよ!」

 タマさんと聞いて、リニスは飛び起きた。昨日のことがトラウマになったのだろうか、声が震えている。その気持ちはよくわかる。

 「冗談だ。タマさんは縁側でひなたぼっこ中だ」

 うちの猫は幸せな生活を送っているなと感じさせられる。

 「だますなんてひどいですよ!」

 「こたつで寝ていたやつに言われたくない」

 どうせ、俺が帰ってくるまでずっと寝ていたのだろう。
 うらやましい。三食昼寝付きなんて。俺も猫に生まれれば良かった。

 「このこたつというのがずるいんですよ……」

 「そうだな。こたつは誰も抗うことができない魔力を持っているな」

 皮肉を込めて、ものすごくいい笑顔を作ってそう言ってみる。

 「何ですか、その顔はー!」

 俺のからかいに向きになって応える。
 うん、まじめなやつをからかうのはおもしろいな。

 「何にやにやしているんですか!」

 タマさんや師匠は逆に手玉にとられるから、こういった反応はとっても楽しい。

 「よし、じゃあ魔石探しに行くか」

 「話は終わっていませんよ~」

 「あはははは……」

 聞こえない聞こえない。ともかく出発しよう。

 「待ってください~」

 こうして俺たちは、魔石探しに行く。





 二人で町中を歩いて魔石を探索する。

 「どこにあるんでしょうね」

 「やっぱり道ばたに落ちているんじゃない」

 そこら辺にきらきらしたモノは落ちていないかな~。

 「……探しているものは大変なものなのに、ずいぶんとレベルの低い話になりましたね」

 「結局は危険物とはいえ落とし物だし」

 「まあ、銀河からの落とし物ですね」

 「そこら辺に落ちているから危ないんだろうけどな」

 「そうですね~」

 とっても優雅な探索が始まった。
 自分が言うのも何だけど、もっと緊迫しなくちゃいけないのではないだろうか?
 リニスものんびりしているのは、まだこたつの魔力が抜けていないせいだろうか?
 おこた、恐るべし。



 あれから、二時間も探した。

 「全然見つからないな」

 「そう簡単には見つかりませんよ」

 「誰か拾ってくれないかな」

 そして、交番に届けてくれないだろうか? そうしたら、交番に通うだけですむのに。
 無理だろうな。魔石って、見た目ただのきれいな石だし。

 「拾われたら困るんじゃないですか?」

 「暴走する可能性があるが、見つけやすくていいじゃないか」

 「良くないですよ!」

 「死者が出なければいい」

 「……被害をなくすようにがんばりましょうよ」

 もう暗くなってきたから、帰ろうか。
 なんか、子供の探検の域を出ていないような気がする。
 けど、夕飯作らないとタマさん怒るからさっさと帰ろう。
 と言うわけで今日は不発に終わった。
 こんな探索なら毎日続けても良い。




 夕食かねてタマさんに今日のことを報告する。

 「大丈夫だよ。あんたの悪運ならすぐに見つかるよ」

 なんか呪いの言葉で返された。反論できないのが何とも悲しい。

 「俊也さんは運が悪いんですか?」

 「そうだな。魔石を拾うところとかな。……あと使い魔拾ったり」

 「ああーー……」

 こいつは、自分がトラブルという自覚はないのだろうか? 最後は小声で言ったが、ここえなかったのか? それともいやなことは聞かなかったとか。その耳是非とも欲しいな。
 使い魔を拾うって、結構まれだと思うのだけど。

 「あんたの悪運は才能だよ。自信を持ちな」

 「不運を誇りたくないな」

 どちらかと言えば、平穏に生きたいです。

 「あんたもいずれ通る道だから、今のうちに自力での事件解決には慣れておきな」

 超常現象に巻き込まれない道でお願いしたいです。

 「そういえば、お師匠さんとはまだあっていませんね」

 「ああー、国際組織の偉い人で、忙しい人だからね」

 日々、魑魅魍魎から世界を守っている。さらに、学校の理事長までしているんだからなかなかあえない。

 「それは大変そうですね」

 まあ、いなければいないで静かなんだけどね。
 タマさん同様に家事ができない人だから、家が汚れて家事に手間取ってしまう。
 うちの人たちは意外にだめ人間です。

 「今夜も見回りしなよ」

 「マジで!? しばらく修行は抜き?」

 タマさんの言葉に俺は心躍る。

 「まあ、喜んでいられノも今のうちさ」

 「何その呪いの言葉!? すっごく怖いんですけど」

 「あんたが大きなトラブルの前に平穏に生きられるはずがない」

 「なんて説得力のある言葉! 思わず涙が出てきそうになる」

 「大変なんですね~」

 ・・・・・・幸せそうに焼き魚をほおばっているところ悪いけど。あんたも手伝うんだぞ。
 何自分は関係ない香って顔をしているんだ? その幸せそうな顔がむかつく。

 「ふふふ、その顔が苦痛にゆがむときはもうすぐだぞ」

 「・・・・・・あんたは言葉の意味がわかって言っているのかい? その前にあんたがひどい目に遭うのに」

 タマさんが呆れたように何かつぶやいているけど、とりあえず放っておこう。
 トラブル早く来いと重いながら味噌汁をすするのだった。

 ・・・・・・あれ、何かおかしい?

 その疑問は、深夜に怪物に襲われるまで気がつかなかったのだ。




[15536] 第7話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:d06740f4
Date: 2010/12/30 20:55
 俺達は夜の見回りに行くことにした。

 「今度は見つかると良いですね」

 「見つかるなーーーーー!!!!!!」

 「そんな熱心に祈らないでください!」

 俺は心の底から願った。何事もなく、平穏に終わることを。
 俺は未だ魔石を持ち続けている。いざというときに治療に使えそうだと言うことで、非常手段として使えそうだからだ。だから、分かる。この魔石は大きな魔力を保有している。これが暴走したとしたら、とんでもない大きなトラブルとなるだろう。それに対して俺は無事でいられるかというと否だ。ひどい目に遭うのは目に見えていた。

 「何事も決して楽にとはいかないんですから、ある程度はあきらめましょうよ」

 「あきらめてたまるか! 俺は人生を楽に生きられるなら一切の妥協はしないぞ!」

 「あなたって、心底だめ人間ですね」

 今頃気がついたのか。遅いな。

 「ともかく、行きますよ」

 「イヤ~~、助けて~~、襲われる~~」

 「私は襲いませんよ!」

 俺はリニスに引きずられるように連れて行かれる。どうやら腕力はリニスに分があるようだ。魔力で強化でもしているのだろう。
 それにしてもリニス、俺が誰かに襲われるのは確定なのか?
 その相手とは話し合いで解決できればと思う。だめだと何となく分かりつつも、そう願ってしまう。

 「それで、どこを探しましょうか?」

 「そうだな。町中歩き回って補導されても仕方ないから、山の方でも探してみるか」

 いろいろ社会を飛び級しているとは言え、自分は小学生だ。警察に見つかったら補導されるのは確実。トラブルはなるべく避けなくてはいけない。

 「そうなんですか。それじゃあ、山の方に行きましょう」

 よしっ、やった! 何とかだますことが出来た。

 俺は心の中でガッツポーズを取る。なぜなら、山の方がジュエルシードがある可能性は低いからだ。
 高純度な魔力を持ったモノは自然と人などの生き物を引きつける。魔石が落下してきて一日とは言え、もう誰かが拾っている可能性は高い。だから、本気で魔石を捜すとなると人が帰宅している夜に、一軒一軒魔力の反応があるのか確認するのが一番の近道だ。そのため、人気のない山に行くのは効率的ではない。 

 みすみす修行をサボれる理由をつぶしてなるものか。

 早く手を打たないと大変なことになるのではないかとリニスは言っているが、自分の知ったことではない。何より俺が一番だ。腐っていると言うなら言うがいい。

 「あると良いですね~」

 見事にリニスをだますことに成功した俺は、一緒に人気のない山へと入っていくのだった。






 山へは行ってわずか五分。悲しいことに目的のものが見つかった。

 「運が良いですね。すぐにみつかりましたよ」

 「運が悪いですね。見つけちゃいましたよ」

 「えっ!? 探してたんですよね?」

 「探してはいたけど、見つけたくなかったよ畜生!」

 目の前には三メートル以上の体躯の獣がいる。こんな大きな獣が平和な日本に野生として生息しているはずがない。牙をむきだして、俺達に威嚇している。今にも飛びかかってきそうだ。

 「なんでいるんだろうね~?」

 「じゃあ、何で探そうと思ったんですか?」

 「愚問だな。静かなところでサボろうとしていたに決まっているだろう」

 「そ、そうですか・・・・・・」

 山中なら大丈夫だと思っていたのに、大きな誤算だ。
 俺は今まで、魔石は全部町中に落ちて誰かが拾っているものだと思っていた。だけど、町だけに限らず、山の方まで広い範囲で落ちていたんだ。それを山に生息する動物が拾って、見事に暴走状態になったというわけか。そこにちょうど良いところに俺達がきたって状態だな。なんていうタイミングだ。

 「さあ、見つけたことだし帰ろうか」

 「帰りませんよ。見つけたならちゃんと持って帰りましょう」

 「だが、もう拾われてあの獣?さんが持ち主になったようだ。盗みは良くないよ」

 「安全のために回収すべきです! なんか、放っておくと町に出てきて人を襲いそうな雰囲気ですよ」

 「そうだな。今まさに俺達が食われようとしているし」

 「そういうこと、怖くなるからいわないでください!」

 よだれを垂らして、ずいぶんおなかがすいているようだ。大きくなった分、大きなご飯が必要そうだ。それに、いきり立っているせいかずいぶん燃費が悪そうだ。これは、栄養価が高いものが必要だな。是非とも、こんな子供じゃなくて別の誰かを獲物に定めて欲しいものだ。

 「良いですから、ロストロギアを回収しますよ」

 なんか、リニスが息巻いている。意外にも好戦的な正確なようだ。さすが山猫と言えよう。俺とは違うようだから、全面的に任せたいが、そうもいかないのだろう。後でタマさんにばれたら面倒だ。
 あと、一つ気になることがあった。

 「なあ、リニス」

 「何ですか?」

 「ロストなんとかってなんだ?」

 「あなた、今まで私の話って聞いてましたーーーー!!!」

 「すまん、自分に関係のない話は興味ないんだ」

 「関係ありますし、興味が薄くても人の話はちゃんと聞いてください!」

 どうやら、ロ・・・・・・なんとかは魔石のことらしい。なるほど、覚えておこう。リニスのいた・・・・・・国?では、魔石のことを・・・・・・・・・エナジーボールというんだな。

 「ちゃんと覚えていてくださいよ」

 「すまん、俺達は何の話を話をしていたんだ?」

 「グーで殴りますよ!!」

 だって、自分の人生で役に立つとは思えない。こんなのより、新しいレシピの一つでも覚えていた方が生産的だというものだ。

 そのとき、月夜に照らされた陰が俺達に迫る。
 それに反応して、俺とリニスは瞬時にその場から飛び退く。目の前の怪物が我慢しきれなくて飛びかかってきたんだ。今まで待っていたのは、リニスの怒声と迫力に警戒していたものだが、それを含めても自分が勝てると思ったらしい。動きに容赦がない。

 「こえーこえー」

 若干棒読みで、怪物の牙と爪から逃げる。動きは驚くほど早いが、単調でどうしてもよけられないことはわけではない。
 俺は敵の攻撃を

 避ける

 避ける

 避ける

 避ける

 避ける

 「ちょっとは反撃してください!」

 「無理無理、よけるので精一杯」

 攻撃しようとしたら、隙が出来てやられてしまう。避けて攻撃するなんて、そんな器用なことは自分が絶対的優位に立ったときにしかできない。

 「フォトンランサー」

 声とともに、俺に襲いかかっていた怪物が吹き飛ばされる。振り返ってみると、リニスの側にはヒカルたまのようなものが浮かんでいる。自分は今まで見てきた経験から、それが魔力を圧縮した玉だと分かる。さっき怪物に襲いかかった光の槍は、あのたまから発射された、魔力のレーザーだったのだろう。

 「おまえ・・・・・・ただの愛玩動物じゃなかったのか!?」

 「誰が愛玩動物ですか!?」

 いやだって、こたつでまどろんでいるおまえの顔はそうとしか思えないぞ。

 「ていうか、私の魔法は昨日見せたでしょう!」

 そういえばそうだったな。タマさんに泣かされている様子しか、印象に残っていなかった。まさか、おまえが戦えるとは。昨日の様子はまさに猫に追われるネズミだったぞ。

 「よし、おまえに全部任せた」

 ここはお強いリニスさんに全部任せてしまおう。

 「あなたも戦ってください。私だけじゃきついです。忘れているかもしれませんが、これでも昨日は生死の境をさまよっていたんですよ」

 「そうだったな。しかし、それは完治したはずだ。俺のこの手によって」

 「だからそれだけの腕があるんだから、戦ってくださいということです。ロストロギアの力を受けた相手は強いんですからね」

 「また新出単語か。もっと順を追って説明して欲しい」

 「人の話を聞いてーーーー!!!」

 なんか、リニスが騒がしいが、ロストほにゃららと言う新しい言葉を突然使ったリニスが今は悪いと思う。俺は悪くない。
 そんなこんなしているうちに、吹き飛ばされた獣が起き上がり、こちらをにらんでいる。
 見た感じ、どこにも傷はついていない。さっき光が当たった場所も何事もなかったかのようにきれいだ。ダメージは受けてないようだな。相手もさっきの出来事を気にしていない。闘志はそがれていなかった。

 「ア~~、これは一筋縄には行かないな」

 「さすが、古代の秘宝ですね。まさかここまで強くなるとは」

 仕方がない。俺は護身用に持ってきた小太刀を抜いて、身構える。やらなきゃやられそうだし、ここは気合いを入れて相手に挑むしかなさそうだな。

 「やっとやる気になってくれたんですね。長かったです」

 「お疲れ様。なんか疲れた顔をしているよ」

 「・・・・・・誰のせいだと思っているんですか?」

 「不条理な世の中だと思います」

 「あなたが一番不条理です」

 こうして、俺の仕事が始まったとさ。

 「昨日から始まっていたんじゃないですか?」

 「気にしない気にしない」





 あとがき

 やっとプロローグに繋がったといったところか。
 序盤はさっと終わらせるつもりだったのに、ずいぶんと時間が掛かってしまった。
 次は戦闘シーン。
 戦闘はさっと終わらせて、また日常的なことを書いていきたいです。



[15536] 第8話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:d06740f4
Date: 2010/12/30 21:06


 「グルォォォォォオオ!!」

 目の前で怪物が甲高い叫びを上げている。相手の言葉がわからずとも、何を言っているのかわかる。

 「喰ったろかーー! だな。食欲が旺盛なのはいいことなのか?」

 できることならペットフードで我慢してもらいたいものだ。人を食べておなかを満たすのは賛同できない。しかも、自分がエサならなおさらだ。

 「何落ち着いているんですか!」

 現実逃避している俺にリニスが大声で言う。威嚇している怪物よりも俺の体からにじみ出るやる気のないオーラが気になったようだ。
 いや、だってさ。まさか初日からこんな大物にであうとはおもっていなかったんだもの。さすが俺の悪運といったところか。タマさんの予言通りだったのが悔しい。

 「とりあえず、退治をしましょう。あなたはこういうのが得意なんですよね?」

 「一応やるけどさ。自信はない! ……帰る?」

 「帰りませんよ!」

 「だってさ。師匠たちも付き添っていない、初めての全てを任された仕事だぞ。自信なくして良いじゃん」

 「・・・・・・普通は張り切りません?」

 「そんな心がけ、どこかに忘れてきたよ」

 だってさ、みんな強いんだよ。師匠とかそのお仲間さんとか、絶対人間超えているよね。それに比べてみれば俺は弱者だ、雑魚だ。と言うわけで帰りたい。けど、帰ったら殺されそうだ。なぜなら俺は弱者だからだ。・・・・・・なんていう説得力だ。涙が出てくる。

 「確かに、私も腕試しで戦ってみましたけど……」

 軽くあしらわれていたよね~。タマさんに泣かされていたけど。そういえば、珍しい魔法は見ていて楽しかったかも。

 「私、一応そこそこ強いと思っていました……」

 地球に来たのが運の尽きだ。一般人はそうでもないけど、ちょっと裏を見てみると恐ろしく強いのがわんさかいるからな。その存在を隠さなきゃいけないほどのが。

 「と、ともかく、がんばりましょう!」

 まあ、半人前の俺と異世界の使い魔という心配のつきないパーティーだけどやるしかないか。

 「がんばるしかないのか・・・このまま逃げ帰ったら、師匠たちに殺されるしな」

 「何ですか、その逃げ場のなさは?」

 「気にしたら負けだよ。この世界に入って学んだ大きなことは、諦めることだ」

 「退廃的過ぎじゃありませんか!?」

 「とりあえず、あの怪物の中にある魔石を確保しますか」

 目の前の怪物もそろそろ空腹が限界らしい。牙をむきだして、よだれを垂らしている。

 「いくぞ、リニス。突っ込めーー!」

 「打ち合わせでは、私はサポート役で瞬さんがメインですよね!?」

 「ゴー、ゴー!」

 そのまま、俺は怪物へと向かう。刀を抜き、いつでも振るえる構えを取りながら相手との距離を縮める。

 「結局あなたが突っ込むんじゃないですか!」

 俺は怪物に一気に接近する。これでも、武術を習っている。怪物の脚力には負けても、間を外した踏み込みは相手には一瞬で移動した様に見えるだろう。その証にあいては眼前に迫った俺に反応できていない。
 俺はその隙を逃さず、小太刀を振り下ろした。

 キィィィィン!

 振り下ろした小太刀は、怪物の毛皮に直に振り下ろされた。
 そして、

 「うそぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 鋼が毛皮に負けて、きれいに折れてしまった。

 別に油断をしていたわけではない。ちゃんと握りも強く、脇も締めていた。師の教えに基づいて、刃を振るっていた。いつもなら大岩くらい簡単に切れる太刀筋だった。
 それでも刃が負けてしまった。岩をも切る刃が易々と負けてしまった。
 ということは、相手が岩よりも硬い存在だったということになる。

 そこまで考えて、俺は後ろに飛んだ。懐に入っておきながら何も出来なかった俺に、怪物が爪を振り下ろしたからだ。
 ちゃんとよけたために、怪物の行動は空を切る形となった。

 俺は相手の防御力を確かめるべく、また懐に入ろうとする。サイドにステップしながら相手の正面には立たず、横へと行く。そんな俺を追おうとするが、俺の後ろで魔法の準備をしていたリニスが先ほど撃ったのと同じ、光の矢を放つ。
 それは怪物の動きよりも速く、顔に衝突する。その衝撃に怪物はひるみ、大きな隙が出来た。
 その隙に乗して、俺は一気に距離を詰め、拳で殴った。

 「いってえ!」

 殴って後悔した。かなり堅いと思っていたが、思った以上に堅かった。本気は出してはいないとは言え、腕がしびれるようにいたい。しかも毛皮がカミソリのようになっていて、拳が赤い線がいっぱい入っている。
 自身が持っているわずかばかりの魔力やら気で守っていなかったら、ひどい怪我になっていただろう。
 こういうときは悔しいながらも、タマさんたちの修行を受けていて良かったなと思う。

 「手詰まりだから逃げねえ?」

 「もうあきらめるんですか?」

 「だって、一撃目から武器破損だよ。おまえの魔法も全然効いていないし」

 さっき顔面に衝突した魔法はたいしたダメージになっていないようだ。ちょっと毛並みが乱れている程度だし。

 「・・・・・・時間を稼いでくれれば大きな魔法を撃てるんですが」

 「それも無理っぽい。攻撃で足を止めることが出来ないんだったら、防御し糧がないんだけど、あんなのの一撃を受けたら死んじゃう。攻撃はよけるしかない」

 「綱渡りですね」

 「それが子供の力だ」

 「・・・・・・今は普通の子供から逸脱していることは言及しないでおきます」

 「何を言う。俺はこんなにもか弱い子供なのに」

 「どこがですか!」

 俺達は軽口を叩きながら敵の攻撃をよけている。幸いなことに攻撃自体はさほど脅威ではない。リニスも俺も避け続けていられる。とはいっても、あの防御力をどうにかしなくては、どうにもならないが。

 「か弱い子供はロストロギアを操ったりしませんよっ・・・・・・てああっ!」

 「どうした、そんな素っ頓狂な声を出して」

 「俊也さんはロストロギアを使えましたよね」

 「・・・・・・ロストロギアって何ですか?」

 「あーーー、もう! 魔石使えましたよね?」

 「ああっ、使えるぞ。ちゃんと分かりやすい言葉で言ってくれればいいのに」

 「・・・・・・その件は後でちゃんと話し合いましょう。ともかく、魔石を使えば、倒せるんじゃないですか?」

 「そんな危険なものを気軽に使って良いのか?」

 「私には気軽に使いましたよね!?」

 「そうだな。俺も気がついてはいたが、リニスからの振りを待っていた」

 「命がけで待たないでくださいよ。もし気がつかなかったらどうするんですか?」

 「そのときは、俺の中でリニスの評価に『使えねぇ』の烙印が押されるところだった」

 「喜ぶべきか、悲しくなるべきか分かりません」

 なんか複雑そうな顔をしているリニスを尻目に俺は魔石を取り出す。

 「使い方は?」

 「逆に私が教えて欲しい暮らしです!」

 「使えねぇ」

 「烙印押されちゃった?!」

 ともかく柵木を上手く使わなくちゃいけない。けれど、リニスみたいな魔法をおれは使えないんだよな。リニスに使ったときは、治癒系の術を使う感じでやったけど、まだ師匠たちから攻撃系の術は教えてもらっていない。
 教えてもらったのは、応急処置的な人体治癒と身体強化くらいしかない。改めて考えるとレパートリーが少ない。もっとまじめにいろいろ勉強しておけば良かったかなと、ちょっと後悔してしまう。
 仕方ない。柵木を使って身体強化を行うか。見よう見まねで、リニスのまねして暴発したら怖いし、下手に魔法を使わない方が良いだろう。高純度の魔力を使うときはなるべく慎重になった方が良い。やるのは俺だし、失敗したらイヤだ。
 けど、身体強化をするにしても素手で殴るのも怖いな。手が痛いし、怪我刺さってもイヤだ。
 じゃあ、これしかないか。

 折れた小太刀の柄に魔石を持ってくる。

 「リニス、時間稼ぎ頼む」

 「そ、そういうのは、あと3秒早く言ってくだ、むぎゅ!」

 リニスが俺への攻撃をかばって、代わりに攻撃を受ける。怪我にはならなかったが、それなりに痛かった用で、顔を押さえて悶えている。
 うん、相手の攻撃がたいしたことなくて良かった。

 俺は続いて集中して、魔石の魔力を引き出していく。引き出した魔力を折れた小太刀にまとわせてる。そしてそのまま、鋭利な刃物をイメージする感じで、魔力を形成していく。

 「よし、魔力の刃を作ったぞ!」

 折れた刃が元に戻った。今度は鋼ではなく、魔力の刃として。

 「あまり、おもしろみはありませんね」

 「がんばった俺にひどくない!?」

 リニスにだめ出しされた。

 「似たようなこと、結構誰も出来ますよ」

 「それは俺も分かっているけど、少しくらいほめてくれたって良いでしょ」

 「いつものお返しですよ~だ!」

 あんな素直な子がすれてしまった。誰がこんなひどいことを・・・・・・。ちなみに突っ込みは受け付けない。

 「ともかく、俺も攻撃手段が出来たことで、行くぞ!」

 今度こそと怪物に向かっていく。
 やっぱり、動きはたいしたことがないようで、フェイントを加えたら、懐に入ることが出来た。

 「うおりぁ!」

 そのまま刃を突き立てた。

 パリン!

 また折れてしまいした。
 さすが素人の浅知恵。ちゃんと出来ていなかった。結構もろいようだ。

 「・・・・・・はあっ」

 リニスが盛大にため息ついた。俺も気持ちが分かります。さすがにもう疲れた。

 「落ち着け焦るような状態じゃない」

 「落ち着いています。悲しいくらいに」

 「見るんだ。さっきは傷つけることは出来なかったが、今度は傷をつけることが出来た」

 折れてはしまったが、多少は刺さった。その証拠に、怪物は刃を突き立てた場所から、血を滴らせている。

 「わずかな傷ですね」

 「そうですね」

 何メートルもの怪物に、すぐに折れた小太刀で作った刀傷なんて些細なものだ。致命傷とは言い難い。

 「大丈夫だ。ちりも積もれば山となる。こつこつやればいつかきっと」

 魔力で作った刃だから、砕けてもすぐに治すことができる。
 俺は怪物をあきらめずに切りつけて行く。

 その甲斐あっていくつもの傷をつけることが出来た。最初にあった頃は茶黒い毛並みだったが、所々赤黒くなっている。これも地道な作業のおかげだ。
 このまま行けば何とかなるか。そう思ったとき、

 「ウォオォォォォォォォ!!」

 雄叫びとともに怪物の体が光る。体から出た光は、傷をつけた場所に集まっていく。

 「ま、まさか・・・・・・」

 集まった光は次第に薄れ、赤黒いシミはなくなっていった。

 「治癒能力だと!?」

 俺の今までの苦労は泡となって消えた。すがすがしいほどきれいにだ。

 「今まで、何をやっていたんでしょうね?」

 全くだ。俺は苦労していったい何をやっていたんだ。思わず笑ってしまう。

 「・・・・・・ククク」

 「俊也さん?」

 「こんの畜生がぁぁぁぁあぁ!!」

 「俊也さん?!」

 もうどうでもいい。この忌々しい怪物をたたきのめす。何より、さっきのあいつの勝ち誇った顔が心底むかついた!!

 武器はもう捨てて、魔石による肉体の強化を最優先にする。それも、体全体じゃなくて拳だけ。動きは相手に勝っているんだ。今更強化する必要はない。拳だけに全てをつぎ込む。
 魔石の魔力が拳にものすごい勢いで注がれていく。高純度の魔力に何もしてなくてもつぶれそうになるがそれもどうでも良いことだ。

 「うらぁぁぁぁぁああああ!!!」

 きしむ拳を感じながら、敵を殴りつける。

 「グルァァァ!」

 俺の一撃に怪物が吹っ飛んだ。
吹き飛んだ巨体が大木にたたきつけられる。そのまま倒れた怪物に追撃を仕掛ける。

 殴る

 殴る

 殴る

 殴る

 何度も拳をたたきつけた。殴りつけるたびに獣の鳴き声な様なものが聞こえた。少しは効いているようだ。

 プシュ

 だが、先に明確な悲鳴を上げたのは俺の拳だった。手から血が噴き出した。
 やはりやつの防御は強固だった。魔力で固めても、絶対的なダメージを与えきることが出来ない。

 「けど、そんなの関係ねえ!」

 俺はもう拳を振り下ろすしかなかった。
 それしか手段がなかった。かまわず続ける。

 「グルアアァ!」

 怪物もただ殴られ続ける訳じゃない。反撃をしてきた。
 だが、俺も獣のようなやつと始めて戦う訳じゃない。振り下ろされる爪は、逆に腕をつかんで力の限り投げ飛ばす。襲いかかる牙は、あごをつかんで投げ飛ばす。

 殴る殴る殴る!

 俺の一方的とも言える攻撃が続く。
 しかし、それでも怪物を倒し着るに至らなかった。
 何十、何百と殴ったか分からない。もしかしたら、思ったより多いのかもしれないし、少ないのかもしれない。

 相手は立ち上がる。息を切らしているところを見ると、先ほどよりもダメージは大きい。だけど、倒せなければ意味がない。
 俺の方はもう腕が上がらない。腕全体から血が出ている。どんな状態なのか考えたくはないな。

 まだがんばれば戦えないこともないが、俺はここで終わりだ。
 次にバトンタッチだ。

 「いつも」

 そう、今まで特大のをぶちかますために力をためていた相棒に。

 「それくらいまじめにやってください!」

 リニスの力の限りに放った魔法が怪物にぶち当たる。
 俺の攻撃で消耗した体力と、ぼさぼさになった毛皮ではそれに耐えきれない。

 勝負は決した。






 魔力の光が晴れると、そこには大きな犬と光り輝く石があった。石は見たことがある。魔石だ。
 血まみれの手で魔石を拾う。これで2つめだ。こんなに苦労して1つなんだ。イヤになってくる。道のりは長そうだ。

 魔石を回収したところにリニスが近づいてきた。大きな魔法を使ったせいか、どことなく疲れた表情をしている。

 「リニス、今度こそお疲れ」

 「お疲れ様です。それより、傷大丈夫ですか?」

 血まみれだ。見た目から無事であるはずがない。だけど、それは大して問題じゃない。

 「ああ、これくらいなら」

 また魔石で拳に魔力をまとわせた。みるみるうちに、傷がふさがっていく。

 「簡単に治るし。魔法って便利だよね」

 「心配して損しました!」

 なんか逆に怒られた。がんばったというのに、何という仕打ちだ。









 あとがき
 なんとか戦闘シーンを終了。
 今後、もっとギャグな戦闘になってくる予定。
 まじめな戦闘描写は疲れます。自分はだめな人間ですから、ふざけないとやっていけません。本当にだめですね。
 今回の敵は主人公が苦戦はしましたが、我らがなのは様ならディバインバスター2,3発で昇天させる相手です。主人公は現時点ではあまり強くはないですが、ジュエルシードを集めて行くにつれて強くなっていくでしょう。




[15536] 第9話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:d06740f4
Date: 2011/01/04 00:27

 やっとこさ魔石を1つ回収して、帰宅することにした。体力的にもう一戦は無理だからタマさんのも許してくれるだろう。

 その帰り道にあいつに出会った。

 「・・・・・・何であいつが?」

 家に帰る途中で、健を見かけた。つまり、小学生。小学生をこの時間に外で見かけるのは珍しい。と言うより、外にいる理由が思い浮かばない。
 俺なんかは特殊だけど、健は一般人だ。夜中に外に出る用事はないだろう。

 「なにやってんだ、あいつ?」

 それにしても行動が妙だ。曲がり角で身を隠しながらちらちらと向こう側を見ている。変質者の見本のような行動をしている。他人だったら、即通報ものだな。
 友人をが警官のお世話になるのもイヤだから、仕方が無く声をかけることにした。
 リニスには猫に戻って、家の屋根にもでも控えてもらう。側にいる女性は誰かと聞かれたら、説明するのも面倒しな。

 「健、何やっているんだ?」

 「うおおっ!?」

 後ろから声を変えたら、健がこちらがびっくりするほど驚いた。
 まさかこれほど驚くとは思わなかった。それほどやましいことがあるんだな。こういった状況では、俺はいったいどういった対応を取ればいいのか?

 「おまえ、何でこんな所にいるんだよ」

 「それはこっちの台詞だ。俺は味噌を切らしたから買いに行くだけだ。おまえがここにいる方がおかしいだろう。なんかこそこそしているし」

 とりあえず、自分に関しては適当なことをいっておく。俺が家の家事をやっているって健は知っているから何とか押し通せるだろう。

 「そっか、おまえって家事やっているんだよな」

 どうやら納得してくれたようだ。理解が良くて助かる。

 「それで、おまえは何があったんだ?」

 「俺はだな、・・・その・・・・・・」

 なんか急にどもり始めた。俺が警官だったら、すぐに保護者を呼び出して交番で三者面談だな。

 「いったい何を見ていたんだ?」

 答えない健を置いておいて、覗いていた方を見てみる。

 「ちょ、まって!」

 そこには医院があった。あれは見たことがある。たまに大虎にぱしられた時に、怪我した猫を運びに行く場所だ。

 「確か、槙原動物医院だったな」

 何かと猫と、そして動物と縁がある俺はあそこにはちょくちょく行く。野生動物の怪我を無料で治すということで有名な場所だ。院長さんとも面識がある。

 「おまえ、まさかストーカーとか・・・・・・」

 確か、院長さんは若くてきれいだったな。他の人も女性が多かったような・・・・・・。

 「ちょっ! 何を誤解しているんだ!」

 俺らまだ小学生だぞ。そんな偏愛に目覚めるには早すぎるだろう。しかも、夜遅くまで行動を観察ほどの徹底ぶり。

 「・・・・・・ボスと呼んで良いか?」

 「何のボス?! どういった意味で?!」

 「もちろん倒すべき変態の頂点として」

 「ちげえから! それに医院の人はみんな帰っているから」

 「行動まで把握しているのか。おまえのその徹底ぶり、逆に感服するわ~」

 「おまえはなぜそういった方向に持って行く?! 明かりが全部消えていれば分かるだろ!」

 健に指摘されて改めて医院の方を見てみると、確かに明かりは全部消えているようだ。だが、それだけじゃ安心できないな。

 「いやいや、安心できないぞ。すでに侵入を終えて、中にいた人を縛り上げているかもしれないな」

 「俺ってスネー●? 段ボールは常備していないぞ」

 「ああ、蛇のようにこうかつなのかもな」

 「まんまの意味じゃないし。それに、だったら俺は何で医院の前で見張っていたの?」

 「いろんな性癖の人が世の中にいるものだ」

 「そんな性癖無いよ! ていうか、さっきからなんで犯罪よりの思考」

 それは職業病だな。
 ともかく口からは何とも言えるものだ。すでにおまえは医院の前で不審な行動をしていたんだ。疑うところはたくさんある。

 「確認する意味も含めて、中に入ってみるか」

 ちゃんと目で見て確認しなくてはな。それが一番早いし、いつまでも憶測でいっても仕方がない。

 「なら、俺もつきあうよ」

 ・・・・・・自白したな。

 「さあ、警察に行こうか。おまえは進入する機会をうかがっていたのか。よく分かった」

 「はめたなおまえ!」

 「今なら俺も警察の前、10メートルくらいまで付き添ってやるから」

 「それ、付き添ってるっていわないよ」

 「だって、俺が警官の側に行ったら補導されるじゃん」

 「おまえだって、悪いことしてるだろうが。違うよ。俺はただ、フェレットの監視をしたかっただけだ」

 「フェレット?」

 そういえば、何度かフェレット探しに付き合わされたな。

 「おう、これからリリカルな戦いが始まるんだぞ。魔法少女合戦だ」

 だめだこいつ。末期になっていやがる。ここまで手遅れだとは思わなかった。
 力説するところに手の施しようがないと感じる。

 「おまえな、魔法少女なんているわけ無いだろ。そんなものは幻想だ」

 未だ魔法少女なんて可愛い存在は見たことがない。高笑いしながら魔法をぶっ飛ばす、おばさんなら何度か見たことはあるが。

 「そんなこと無いって。ジュエルシードの暴走とか町で起こるんだよ」

 まだそんなことをいっているのか。妄想するのは勝手だが、それを行動に移すのはどうかと思う。

 「はいはい。窓のない病室まで案内してあげるから。それとも黄色い救急車が良かったかな」

 「おまえ、ひどいな」

 「ひどいのはおまえの頭だ」

 「分かった。ともかく、もう少しだけ待ってくれ。そしたら全部分かるから。こうなったらおまえも巻き込んでやる。別段、人が多くても問題はないだろう。おまえ、達観しているところがあるし、そこまで動じないはずだ」

 何ともしつこい。今日の健の様子はひどいから、さっさと家に帰らせようと思ったのに抵抗が強いな。
 仕方がない。こうなったら、少しだけ付き合ってやるか。

 「仕方がないな。そこまで言うなら、一緒にいてやるよ」

 「ありがとう恩に着る!」

 なんか感謝された。そこまで医院に執着するのはいったい何なのだろうか、逆に気になった。何が起こるのかも気になるし、あそこに何があるのかも気になる。

 「あれ?」

 「どうした?」

 なんかお目当てのものでも見つけたのだろうか?
 けど、健の視線はこっちを向いている。

 「今まで、暗くて気がつかなかったけどさ」

 「・・・・・・・」

 「おまえって、何でそんなに血まみれなの?」

 「そおい!」

 「ブファッ!!?」

 まずい。とっさに気絶させてしまった。そういえば、俺は今血まみれだった。傷は治したとはいえ、血痕はまだ残っている。そうだ俺は今、健以上に危ない人だったんだ。

 「何やっているんですか?」

 今まで屋根で待機していたリニスが降りてきた。

 「何、気にするな。証拠隠滅だ!」

 「その言葉を聞いて、気にしないというのが無理です!」

 確かに、俺も気が動転しているようだ。まさか、健に俺の変なところを指摘されるのがこれほどショックとは思わなかった。

 「ともかく、こいつも調子が悪かったようだし、家で安らかに眠らせよう」

 「なんか、息の根を止める感じになっているんですけど、大丈夫ですよね?」

 「大丈夫だ。きっとたぶん」

 「ああっ、不安です」

 その後、リニスの不安に反して、何事もなく健を家まで送り届けた。もちろん、家の人に事情を説明するのは面倒だから、窓から侵入して部屋のベッドに寝かせておいた。
 これくらいなら、魔法が使えるリニスと協力すれば簡単にできる。

 「・・・・・・今までで始めて、チームワークを発揮した作業をした気がします」

 「気のせい気のせい」

 「・・・・・・気のせいにしておきます」






 あとがき
 健の魔法少年フラグを叩き折った主人公。
 魔法世界に入るきっかけを1つ失った健は、これからどうしていくのでしょうか?



[15536] 第10話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:d06740f4
Date: 2011/01/05 00:56
 「つ~か~れ~た~~~」

 あれから、健を部屋まで送り届けた後、家まで帰ってきた。
 戦いと変人の相手で大いに疲れた。さっさと風呂に入って寝よう。

 「成果はどうだったんだい?」

 「タマさんの言うとおり、一個見つけてきましたよ~」

 「そのようだね。ずいぶん苦戦したみたいだね」

 俺の血みどろな服を見てそういう。まあ、出血は止まっているけど、見た目重傷だしね。まだ腕全体がちょっと痛い。

 「腕をみしてみな。ちゃんと直してあげるよ」

 おっ、タマさんさすが。素人の治療じゃちょっと完全じゃないんだよな。

 「あれ? 私の時はちゃんと治しましたよね?」

 「他人のは遠慮無く体をいじれるんだよ」

 「性根が腐っています!」

 リニスは体がきれいな状態で衰弱していたから、体力を戻すだけで簡単だった。それに対して、俺のは腕全体の裂傷だから、治すのが難しいんだよ。もっと上手い人にやってもらわないと、傷跡が残ってしまう。
 けど、理由はきちんといわない。なぜならその方がおもしろそうだから。
 講義しているリニスを放っておいて、タマさんに腕を治してもらう。
 その腕は見事なもので、一瞬で腕全体をすっきりした。やっぱり、年の功というべきか。見事な手並みだ。
 後は、風呂に入ってきれいにしよう。服はもうだめだな。捨てよう。






 風呂から出てくつろいでいる。体も温まったし、もう寝ようと思う。疲れたから本当に眠い。

 「それでは、お休みなさいです」

 そう言ってリニスが寝に行く。
 ・・・・・・はて、リニスに部屋とか渡したっけ? 昨日は気がつかなかったけど、寝床とかって必要だよな。タマさんが自分でやる人だから気が回らなかった。

 「そういえばリニスって、どこで寝ているの?」

 毛布も貸した覚えがないな。タマさんがやってくれたのだろうか。本人も気にしていないし。

 「私はあそこで寝ていますよ」

 そう言ってリニスはあれを指さした。そう、こたつである。

 「おまえだめ人間の典型じゃん! なに、こたつで生活しているの!」

 こたつで食っちゃ寝している。そんな生活を送っていて良いのか。正しくは否だ。

 「いいんです。こたつは暖かいですし、ちょっと暑くなったら体を涼める魔法もありますし」

 「そんな魔法の使い方をするな!」

 「あなたに言われたくないですよ!」

 なんてうらやましい。じゃなくて、けしからん魔法だ。こんな魔法の使い方をするやつをこのままにしておいて良いはずがないな。

 「仕方あるまい。こうなったら、俺の部屋に来い。予備の布団と毛布とか出してやるから、それで寝ろ」

 「いいんです。おこたがあればそれで十分です。私は猫なんですから、これが普通なんです」

 「おまえは人に化けられるものとしての誇りとかないんか?」

 「おこたの前には誇りなんて、ぽいっと投げ捨てちゃいます」

 なんて猫だ。欲望に忠実だ。
 それにしてもおこたとはすごいな。ここまで猫を狂わすとは。

 「おまえだけがいい生活って悔しいじゃん! 俺より幸せなやつは許せない!」

 「本音が出ましたね。そんな人には負けませんよ!」

 「ふっ、先輩と新入りの格差を見せてやる」

 「おこたの前には上下関係なんてありません」

 一度決着をつけなくてはならないようだ。この新入りは生意気にも先輩である自分よりもいい生活を送ろうとしている。冷暖房完備の机付きベットなんて、他と手お天道様が許しても俺が許さない。
 ああ、これは嫉妬だ。たとえ醜くても、理不尽であっても俺はそれに立ち向かおうと思う。それが俺の信じる道だから。
 これから戦いが繰り広げられる。梅竹家の家庭内戦争だ。俺は命をとして、挑もうと思う。

 「・・・・・・勘違いしているようだからいっておくよ」

 2つがぶつかり合おうとしたとき、今まで傍観していたタマさんが声に出していった。

 「あれは私のものだよ」

 「「いろいろとすみませんでした!!」」

 二人でタマさんに向かって土下座をした。
 俺達は勘違いしていた。こたつは、家は、全てはタマさんのものであるのだ。師匠がいない今は、この家のピラミッドの頂点に立つのはタマさんであるのだ。タマさんが白を黒というのであれば、俺達は疑問を持たずにうなずくしかないのだ。

 「・・・・・・それじゃあ、寝に行きましょうか」

 「・・・・・・そうだな。今日は無理だけど、明日は干した手の布団を味合わせてやるよ。あれもこたつとは違った良さがあるからな」

 「それは楽しみですね」

 歯医者はすごすごと部屋にこもるしかない。梅竹家の家庭内戦争は始まる前に第三者によって終結へと導かれるのであった。

 そういえば、タマさんは自分の部屋で布団しいて寝ているよな。もしかして、タマさんもちょっと悔しかったとか?
 やっぱりみんな、他人の幸福は悔しいんだな~。

 ちなみにタマさんは人間の姿になれますよ。なんていったって、猫又ですから。人間の娯楽は人間の姿でするのが一番楽しいってことで、ちょくちょく人間の姿になっていることがある。まあ、たいていはひなたぼっことかこたつで丸くなってばかりだから、猫でいる時間の方が多いけどね。






 翌日になって、いつものように学校に行く。
 教室に入ると健が机に突っ伏していた。

 「今日はずいぶん静かだな」

 先に来ていたつばさに何かあったのか聞いてみる。昨日まで、あんなにもはしゃいでいたのに今日は火が消えたかのように静かだった。

 「さあ、僕も来た時にはこうだった」

 つばさも何があったのか知らないようだ。と言うことは、朝か昨日の夜辺りに何かあったのだろうか? 気になるから聞いておこう。

 「どうした、何かあったのか?」

 うなだれている健に問いかけてみる。そしたら、ゆっくりと顔を上げて、生気のない表情で答えた。

 「昨日、俺は、フラグを立て忘れたんだ・・・・・・」

 「あれ? 昨日はおまえ、部屋で寝ていたはずだし、何もなかったよな-」

 「なぜ棒読みなんだ? そして、なぜ寝ていたことを知っているんだ?」

 どうやら昨日の行動は忘れているらしい。俺の一撃が良い感じで記憶を奪ったようだ。俺、ぐっじょぶといわざるを得ない。

 「そうなんだよ。昨日、俺はいろいろやろうとしていたのに、気がついたら朝、ベットで眠っていたんだ。俺は何であそこで眠ってしまったんだーー!」

 俺が止めに入らなかったら、動物医院で何をするつもりだったのか、とても気にはなったが、もう未然に防がれたことだ。もう問い詰めるのはよそう。

 「そうか、とてもつらいことがあったんだな。仕方ない、今日は帰りにでも何かおごってやろう、何がいい?」

 「・・・・・・なんか、今日はやたらと優しいな」

 良いことをしたとは言え、多少は悪い気持ちはある。もっとスマートな方法があったのかもしれない。お詫びもかねて、何かおごるくらいいいさ。

 「気にするな。つらいことがあったときは甘えろ。俺で良ければ付き合うさ」

 「おまえ~~~」

 なんか、涙目で抱きつかれた。鼻水がつきそうだが、今回は抵抗しないでおこう。
 これくらいやっても良いだろう。

 「おい、あれ何やっているの・・・・・・」

 「あいつらの行動はいつも分からないな」

 「どういった関係なんだろ?」

 「・・・・・・・なるほど、あれがバラというものですね」

 「腐女子歓喜!」

 ・・・・・・なんかクラスでおかしな噂が立とうとしている。これは無理矢理でも引きはがした方が良さそうだな。

 「うおぉぉぉ、ぐすっ、ひぐっ・・・・・・!」

 号泣!? さすがに俺でも引くわ。
 昨日、あいつの中でいったい何が起こる予定だったのか。
 きっとろくでもないことが起こるのだったのだろう。
 お願いだから、犯罪には走らないで欲しい。






 学校も終わって放課後だ。これから健と鯛焼きでも食べに行こうと思う。健がトイレから戻ってくるのを待つ間、せっかくだからつばさも誘おう。

 「つばさも鯛焼きを食いにいかね?」

 つばさの方をぽんと叩いて聞いてみる。つばさはゆっくりと振り向き、いつも通り淡々とした表情で答えた。

 「おごりなら」

 小学生にたかるとは・・・・・・まあ、たまには良いけどさ。

 「ついでに妹の分も」

 「小学生の財力にどれだけ期待しているんだ!」

 俺の財布は寂しいぞ。態度はともかく働いているからある程度はお金を持っているけど、しょっちゅう複数人におごるほどのお金はない。

 「冗談だ。妹の分は僕が出すよ」

 無表情で冗談を言わないで欲しい。本気に聞こえるから。

 「いつも仲良いね」

 そんな俺達に珍しく月村が話しかけてきた。側に高町もいる。

 「あれ、バニングスは?」

 一人足りなかったから、聞いてみた。三人でいないときは珍しい。

 「今、もどってくるの待っているの」

 そうか、それでちょっと時間つぶしに俺達に声をかけたというわけだな。月村とはバニングスたちほどではないが、俺は三人と少し仲が良い。あの事件で知り合いはしたが、お互いやはり男同士、女同士がいいようでそこまでは仲良くはならなかった。まあ、まれに話をする程度の仲だ。友人ではあるが、親友ではないといった形かな。

 「そうだ、二人ともこれから俊がおごってくれるのだけど、一緒にどう?」

 「ちょっ! 一気に三人プラスはきついぞ!」

 月村と高町におごるのなら、必然的にバニングスもついてくるだろう。となると、俺がおごる人数が合計六人になる。

 「決して安くはないんだぞ。三人も増えるくらいなら、おまえの妹分を買った方がましだ」

 せめて一人分ならまだましだ。一気に二倍の量になると損失感が半端無い。

 「分かった、妹の分も頼むよ」

 「更に増えた!?」

 なんてやつだ。このために月村たちを誘ったんだな。そのしてやったりといった表情がとてもむかつく。

 「それで、何おごってくれるのかな?」

 「乗り気なの?!」

 まだ良いともいってもいないのに、おごってくれてありがとうといった笑顔を向けてくる。なんだろう、みんなが俺の財布を狙っている。

 「鯛焼きだそうだ」

 「臨海公園のかな? あそこの鯛焼きっておいしいよね」

 高町も乗り気だ。その屈託のない瞳は、俺がおごってくれると信じて疑わないものだった。みんな小学生だ。あまりお金は持っていないから、こういうときは素直に甘えてくる。

 「ぐぬぬぬ・・・・・・」

 「あきらめろ。今更だめですと言えないだろう。男の甲斐性を見せるんだ」

 元凶がいうな。

 その後、バニングスが戻ってきて月村から話を聞くと、やったあ、と弾んだ声を出した後、こっちを向いて笑顔でありがとうと礼を言ってきた。
 その周りの棚からぼた餅が降ってきたかのような笑顔を見て、なんだか腹が立ったからつばさにデコピンで仕返しをしてやった。

 「行為を素直に受け止められないとは君は偏屈だね」

 「うるさい」








 あとがき
 まだ3日目なのに、10話しか進んでいない。こりゃあ、ペースを上げないと。
 主人公は家事をしているので、お金は主婦程度には持っています。
 師匠たちの仕事を手伝っているので、ちょくちょく駄賃ももらっています。
 とはいっても、たまに豪華な料理を作ったり、家の人にアイスとか買っていると無くなってきます。武器や道具の手入れとかもありますし。
 7人におごっていたらすぐに財布は底をつきてしまいます。
 



[15536] 第11話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:d06740f4
Date: 2011/01/04 00:42

 六人で臨海公園まで行くことになった。六人なのに、七人分の鯛焼きを買わなくてはないとはこれいかに。
 六人並んで俺達は歩いている。六人も並ぶと、通行人の邪魔だな。まあ、今は学校の帰宅時間で反対方向に行く人がほとんどいないから良いけど。

 あのあと、トイレから帰ってきた健が月村たちがいるのを見て、また挙動不審が始まった。手を使って変な動きをした後、今は隅っこでひっそりとしている。相変わらずこいつの思考が分からない。
 一瞬イヤかと思って、今回のメインは健だから女子がいても良いのかと聞いたみた。そしたらうわずった声を上げて、喜んでと答えた。と言うことは月村たちがいても問題はないのだろう。

 「良かった。日直日誌を持って行って帰ってきたら、ご褒美が待っていたなんて。日頃の行いが良いおかげね」

 「えっ?」

 全面的におごる俺のおかげだというものそうだが、バニングスの日頃の行いが良いという場所に疑問を覚えた。まずいとは思っても、こらえきれずについ声を出してしまった。

 「その言葉は何~~!!」

 「ちょっ! バニングス様、その右手を下ろしてください。ものすごく怖いです!」

 バニングスの右腕にあるアイアンクラッシャーが、今まさに俺に襲いかかろうとしている。ワキワキと動いている指も怖いが、目が笑っていない笑顔がもっと怖い。

 「まあ、今回はおごってもらう立場だし、許してあげるわよ」

 ふう、おごらなかった場合は俺はやられていたんだな。たった百円程度で命が買えたと考えたら得したのかな? 得したんだよね?
 バニングスが腕を下ろしてくれたのだから、怒りは収まったのだろう。それを見てほっとする。まったく、いやな汗をかいた。

 「ああ、品行方正な俺がこんな目に遭うとは、日頃の行いは当てにならないな」

 「「「「「ええっ!!?」」」」」

 俺の言葉にみんなが本当に驚いた表情で声を上げた。

 「おまえの口からそんな言葉が出るなんて・・・・・・世も末だな」

 「自分の言動を見つめ直して、そういうことを言えよ」

 「あんた大丈夫? 熱でもあるんじゃないの? いつもとおかしいと思ったのよね」

 「寒気とかある? 頭がぼーっとしない? ちゃんと頭働いている?」

 「あまり心と体に悪いことばかりしちゃいけないよ」

 みんなひどい。まさか、ここまで滅多打ちにされるとは思わなかった。似合わないとは感じてはいたけど。
 俺ってそこまで、ひどいことを今までしてきたっけ・・・・・・記憶にないなぁ。

 「自覚無いのかよ!」

 「失礼な。自分に都合の悪いことは忘れているだけだ」

 「なお悪いわ!」

 健、メインの座から引きずり下ろすぞ。まあ、今更誰がメインか分からない状況だがな。






 そうこうしているうちに公園についた。ついて早速、鯛焼きショップを見つけて注文することにした。

 「チーズカレー、お願いします」

 「また色物かよ!」

 「お兄ちゃんと同じ趣味の人がいたなんて・・・・・・」

 うるさいな。俺はこれが好きなんだよ。この味が分からないとはかわいそうなやつだ。これを食べるために、わざわざこの店に行ったりするほどなのに。

 「僕も興味があって食べてみたけど、あまり合わなかったな。あっ、お姉さん、梅クリームちょうだい」

 「つばさ、おまえも相当だぞ。俺はもんじゃ味でお願いします」

 「「「三人ともおかしい」」」

 俺達の注文に女性陣が揃って突っ込みをした。
 この店はいろいろとおもしろい味を作るからおもしろい。まあ、チーズカレーにかなうものはまだ見たことがないけどな。

 「ありがとうね。この味を分かってくれるのはうれしいよ」

 いえいえ、お姉さんの素晴らしい創作するものにはいつも感心させられる。もっと評価されるべきなのに、なかなか評価されていない。是非、この味で全国チェーンで展開してもらいたいものなのに。

 「新しい味を試してくれる人が少なくてね。こっちも困っているんだよ」

 ちょっと困った風にお姉さんが言う。残念なことにこの味は一般受けしていないらしい。不思議だ。

 「僕らくらいしか買わないんですか?」

 つばさが気になったようで聞いている。

 「そうなの。君たち三人と、あと、・・・・・・お兄さんくらいかな」

 なんか、最後の方は顔を赤らめて小さな声で言っていた。いったいどうしたんだろう? 変なことを利いた風でもなかったとおもうけど。
 なんか、健が小声で、「こんな所にもフラグを立ててやがる」と言っていたが何か知っているのか?

 「そういえば、妹の分はどうする?」

 「冷めるから帰りに買っていく」

 人の金だと思って好き勝手いっている。淡々と説明するつばさが少し憎らしい。
 その後、女子3人はチョコとクリームとあんこという、どこにでもありそうなものを選んだ。

 「がっかりだ」

 「何でがっかりされなきゃいけないのよ」

 「わざわざここまで来て、そんなどこでも食べられる味を選ぶなんて」

 「前に挑戦して、失敗をしたんだけど・・・・・・」

 「何であれがおいしいのか未だ分からないんだよね。どうしてお兄ちゃんはあれがおいしいっていうんだろう?」

 ふむ、そのお兄さんとは是非話がしてみたいな。趣味が合いそうだ。






 ベンチに座ってみんなと話でもすることになった。なんか、健が真っ先にベンチの端へと座る。前から思っていたけど、あいつは女子が苦手なようだ。理由は何でだろうと思うが、聞くのもはばかるので聞かないでおこう。
 そういえば、最近奇妙なことがあったらしい。そのことについてでも話してみるか。

 「そういえば、昨日の夜に道路が破壊されていたらしいな」

 「ひゃ!」

 昨日の珍現象について話すと、高町が鯛焼きを吹き出した。

 「ちょっと、どうしたのよ!」

 「大丈夫、なのはちゃん」

 「・・・・・・だ、大丈夫」

 突然吹き出した高町に、バニングスと月村が心配して声をかける。高町はむせながらも、大丈夫だと答える。

 「おまえ・・・・・・今この状況でその話題か?」

 なんか、健が怪訝な顔をして言う。何か、おかしな話だったか? クラスでも有名な話だったけどな。

 「そんなおかしなこと言ったか? 何でも、コンクリートが砕かれていて、すごい様子だって聞いたけどな」

 「僕が登校するときに見たな」

 「えっ、そうなの?」

 「うん、どうやったらあんなことができるのか不思議だったな」

 「いったいどういった感じだったの?」

 つばさが現場を見たらしい。それに月村とバニングスが興味あるっていった感じで聞いている。俺も興味がある。誰がやったのか分からないが、俺もそのうち調べることになるかもしれないからだ。

 「道路や塀が粉々で、なにか粉砕機で破壊されたって感じだったな」

 「そ、そんなになの?」

 「かなりひどかった。けど、不思議なことにそれだけのことがあったって言うのに、周りは気がつかなかったんだよ」

 「犯人を誰も見てないってこと?」

 「そうらしい」

 不思議なものだ。俺達みたいに山谷かで騒いだって訳じゃないのに、町中でそんなことが出来るとは。

 「何も見ていないってことはどうやってやったんだろうな。もしかして魔法とか」

 「もう、そんなわけ無いじゃ」

 「あはは、非現実的だぞ」

 俺が冗談交じりでそう答えたら、ちょっと笑われて返ってきた。最近、魔法を見たばかりだから、そうかなと思ったんだけど、たぶん違うよな。

 「・・・・・・」

 「なのはちゃん? さっきから元気ないね」

 「気分でも悪いの?」

 言われてみれば、さっきから高町が静かだった。そんな高町を心配して、2人が声をかける。何かあったのだろうか?

 「だ、大丈夫大丈夫! そ、それよりも早くうちに行こう!」

 なんか焦ったように元気に振る舞っているな。なんか、目が泳いでいるし。
 まあ、深くは詮索しないでおこう。何か面倒事が出てきても困るし。

 「なんか用事でもあるのか?」

 「なのはちゃんちでフェレットを飼うことになったから、それを見に行くんだ」

 「昨日森で見つけたのよ」

 そういえば、一昨日森でリニスを見つけたんだよな。何という偶然。
 どうやら、今日はそれを見に行くつもりだったらしい。その予定をねじ曲げてでも俺におごらせようとした三人に感服してしまう。まあ、公園に行った後、翠屋にいっても十分時間はあるけどね。
 どうでも良いが、フェレットの言葉に健が反応していた。そういえば、健はなぜかフェレットを探していたな。興味でもあるのか?

 「梅竹君たちも来る?」

 高町から誘いがあった。その誘いはありがたいが、一緒に行くことができない。

 「ごめん、もうそろそろ帰らなくちゃいけないんだ」

 「そっちも何か用事があるの?」

 「帰って、家事しなくちゃいけない」

 鯛焼きを食べに来て結構時間をつぶしてしまったし、早く帰らないといけない。布団を取り込まないといけないし、料理もしなくちゃいけない。

 「あんたもたいへんね」

 「まあ慣れたし、趣味みたいなものだし、結構楽しいぞ」

 料理とか最近こり始めた。自分一人で楽しむものじゃなくて、タマさんや最近ではリニスがいるから、作った反応を見るのが楽しいんだよな。

 「家に一人増えたし、やることが増えたな」

 「一人増えたって?」

 「ああ、うちにもう一匹猫が増えたんだよ」

 しまった。人に変化できるから一人と言ってしまった。どうにも、うちの動物たちは人間味があるから猫扱いしにくい。流ちょうにしゃべるし、人になるし。

 「新しく猫飼い始めたんだ」

 猫という単語に月村が興味を持ったようだ。そういえば、月村は町でも有名な猫好きだったな。一度行ったことがあるが、すごい数の猫がいた。

 「そうなんだ。梅竹君の家にはタマさんがいたよね?」

 「ああ、相変わらず悠々自適に暮らしているよ」

 「ふふっ、猫はそんなものだよ。そういう所が良いんだよね」

 さすが猫御殿に住む人だ。猫が好きで好きでたまらないといった感じだ。

 「ちょっと待ちなさい。犬も良いわよ」

 ペットトークにバニングスも参戦してきた。自分もペットを自慢したいという意気込みが見て取れる。
 俺は別にそこまで猫とかに執着がある訳じゃないだけどな。愛玩用と言うより、戦闘用っていった感じだ。まあ、リニスは愛玩って感じがあるかもしれないが。
 ともかく、俺は早く家に帰らなくちゃいけないから話を止めてもらって、家路につくことにした。二人はもっと話したいといった顔をしていたが勘弁してもらった。
 いつか月村に飼っている猫を見せてと頼まれた。まあ、リニスも猫としてあそこに顔を出すのは良いことだろう。今度連れて行ってあげよう。
 俺は参加できないが、二人は行ったらどうだと提案してみた。
 つばさは家で待っている妹に早く会いたいと拒否。つばさは相変わらずのようだ。
 健はとても行きたそうにしていたが、俺とつばさが行かないならと渋々ながらやめたようだ。何に恐れているか知らないが、もっと度胸を持てと言いたい。
 俺達は女性陣と別れて、それぞれの家まで帰ることになった。









 あとがき
 健のへたれっぷりがなかなか書けないな。
 自分の予定ではもっと女の子の前で緊張しまくる役なんですけどね。そして、男の友人とかの前では饒舌になるという女性慣れしていない普通の男の子って感じを書きたいんですけどうまくいきません。まあ、がんばってみます。
 俊也はあまり魔力を感じるのは得意ではなりません。魔法も得意ではなく、魔力もそんなに持ってはいないので、自力で「はっ! 魔力のぶつかりを感じる・・・・・・」と言った芸当は出来ません。リニスは目の前の問題児で手一杯です。タマさんは傍観です。と言うわけで、俊也が魔法少女たちに出会うには偶然しかないわけです。




[15536] 第12話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:d06740f4
Date: 2011/01/08 03:18
 あれからみんなと別れた後、買い物をして、家事をして、食事を終える。
 そして、お茶をずずっと飲んで、ほっと一息。
 ああ、この時間が一番安らぐ。

 「サボってないで、早く行っておいで」

 そんな心地良い時間も、易々と踏みにじられる底辺の存在です。わずかばかりの幸せな時間をありがとうございました。

 俺は一気にお茶を飲んで立ち上がる。うだうだしていても怒られるだけだ。準備をして早く家を出よう。
 武器も持って行きたいが、小太刀は昨日折れてしまった。けれど、また魔力で刃を作れるだろうと思って一応持って行く。
 俺の武器は今のところ小太刀だけです。本当に心細いです。
 昨日タマさんに、小太刀がだめになったことを言ったら、新しいのができるまで待っているように言われた。

 準備ができたところで、相方を見つけに行く。食後、姿を見ていないがどこにいるのか分かる。まだ三日目だというのに、あいつの行動が読めるようになった。
 リニスの所まで迎えに行く。

 「ふみゃ~~ん」

 あいつはこたつに入って幸せそうにまどろんでいた。
 駄目猫の道を順調に歩んでいる。こいつが異世界の使い魔だと言っても、十人中十人は絶対に違うと答えるだろう。
 それほどまでに、今のあいつの顔は緩んでいる。こっちが呆れてしまうほどだ。

 「おい、外に行くぞ」

 俺はリニスの耳元で言った。すると、リニスはこたつの布団に顔をうずめて答える。

 「外は寒いですよ~」

 こいつ・・・・・・。

 こいつにこそ、サボるなと声を大にして言いたい。
 食後でおなかがふくれたせいだろう、すごく眠たそうにしている。さっきの言葉は寝ぼけているせいだと信じたい。
 戦闘力は俺より若干高いが、こんなのと命を共有しないといけないと考えると頭が痛くなる。

 「起きないか~」

 いらだってきた俺は、人差し指で顔をぐりぐりしながら起こそうとする。
 すると、眠りにつこうとしたことを妨害されて、リニスは迷惑そうな顔をする。なんか不思議な気分になってくる。いらだちとも言えるような、安らぎとも言えるような、何とも言葉にしにくい感情だ。

 「こんな時、俺はどんな顔をいいのか分からない」

 俺が困っていると、やっと俺の行動に対して体で反応した。

 カプッ

 リニスに指をかじられた。
 ちなみに痛くはない。甘噛みというやつだ。
 邪魔した相手に威嚇の意味でやったのだろうけど、眠気が強いようで力が出なかったようだ。

 「・・・・・・ハムハム」

 俺の指をかみ続ける。痛くはない。むしろくすぐったい。
 いい加減、ふりほどくなり、怒るなりした方が良いのだろう。けれど、どうも最適な第一声が思い浮かばない。

 「ハムハムハム・・・・・・・・・・・・・あっ・・・・・・」

 しばらくかんでいたら、目が覚めてきたのだろう。はっきりとした目で、目と目があった。

 「・・・・・・・」

 俺が何を言おうか思案していると、リニスがぱっとこたつから出て、人の姿になり、キビッとした姿勢で立ち上がった。その間は一秒にも満たなかっただろう。素早い行動だ。

 「さあ、行きましょうか」

 「・・・・・・・なあ」

 俺が今までの行動について、問いかけようとすると、

 「さあ、行きましょう。早く行きましょう。すぐに行きましょう」

 俺の後ろに周り、背中をぐいぐいと押してくる。

 「さっきなんだけどさ」

 「気のせいです。何も見ていなかったんです。ただの夢です」

 「いや、夢を見ていたのはおまえだろう」

 「あーーあーーあーー、聞こえませ~~~ん!」

 とりあえずからかった方が、おもしろい気はしたが、なんか手痛い反撃(暴力)が寄贈だからやめておいた。
 さすがに、出発する前に重傷を負うのは勘弁してもらいたい。

 まあ、別に今からかう必要もないんだしね。
 これは良いネタをつかんだ。

 「な、何か寒気がします」

 「大丈夫か? さっきから引きつった表情しているし、言葉も変だぞ」

 「そんなことは分かりませんよ!」

 「だるかったら、またこたつで休んできても良いぞ」

 「放っておいてください!」

 今のところはこれくらいで良いだろう。
 俺達は、また夜の見回りに行った。






 昨日は山に入ったら、すぐに魔石を見つけてしまった。だから、今度は町を歩いてみようと思う。

 「そうして町で遭遇するパターンですね。分かります」

 「リニスさん、不吉なことを言わないでください。嘘から出た誠って言葉を知っていますか?」

 「冗談を言ったつもりはありません。そっちこそ、私たちの目的って覚えていますか?」

 「そんなものは忘れました。・・・忘れたいです。・・・・・・お願いです、忘れさせてください」

 言っているうちに、だんだんと鬱になってくる。だって、戦闘ってかなり痛いんだよ。昨日だって、拳で殴りつけるとき腕が砕けるんじゃないかと思うくらい痛かった。治療しても、次の日まで痛かった。
 逃げられるものなら逃げたい。それが俺の前提だ。けれど周りが許してくれない。
 まあ、無料で衣食住、それに学校にまで行かせてもらえるんだから、家の仕事もしなくちゃいけないよな。ちなみにあの家には法律というものは存在しない。そんなものは超越した存在があそこには住んでいるからだ。
 あぁ、俺の人生は波瀾万丈だな。

 「こんな俺の心をいやしてくれるのは、この澄み切った暗い空だけだ」

 天を仰ぐように両手を挙げ、伸びをし、空を見上げる。ああ、今日も闇は深くてすがすがしいな。

 「もうちょっとポジティブな対象物を選びませんか?」

 「夜にどんなポジティブなものが存在すると?」

 夜はネガティブなものが多いと思う。けれど、深夜になるとテンションが上がったりするのはなぜだろう? 眠気を超えたときに何かに目覚めるよね? 自分は小学生だけど、付き合いや仕事でたまに徹夜することがある。そのときの経験からいろいろ考えてみる。

 そんな風に、ボケーッとしながら夜空に癒されていると、視界に大きな影が過ぎった。

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 俺が見たものはどうやらリニスも見たようだ。二人で、顔を上げながら固まっている。
 二人の間に沈黙が広がる。今が夜だからだろうか。その沈黙がより深く感じる。

 「・・・・・・帰ろうか。何も変なところはなかった」

 「いえいえいえ、今何か私たちの頭上を通り過ぎましたよね?」

 「何だ、まだ寝ぼけているのか? 夜も遅いし眠くなるのは仕方がない。早く家に帰って休もうな」

 どうやらリニスも調子が悪いらしい。二人とも昨日の戦いの疲れがとれていないようだ。これは、早く休息を取らなきゃいけないな。

 「どうやら、鳥にロストロギ・・・・・・じゃなくて魔石が宿ったようですね。追いましょう」

 「見てないぞ。俺は鳥なんて一切見てないぞ」

 「現実逃避してないでください」

 「なんかカラス辺りが拾って、巨大な鳥に変化したやつが、この町の夜空を旋回して、獲物を探している所なんて見ていないぞ!」

 「状況分析もできているじゃないですか!」

 状況が理解できているからこその現実逃避だろう。

 「見つけてしまった以上、回収しないとタマさんに怒られますよ」

 確かにその通りだ。この状況で帰ったりなんかしたら、タマさんに殺されてしまう。実際、巨大な怪鳥が町の上空にいる。いつ人が襲われるか分からない状況だ。すぐに対処した方が良いことが分かる。
 だが、どんな状況があろうとしても、この敵は駄目だ。それには理由があるんだ。

 「・・・・・・言っておくが、俺は空が飛べないぞ」

 「えっ・・・・・・・・」

 二人の間に静寂が走る。俺の答えをリニスはまったくだに予想をしていなかったようだ。目が点になっている。

 「本当ですか・・・・・・?」

 空を飛ぶなんて、魔法使いが使う上級の魔法だぞ。普通なら、せいぜい脚力を強化して大きな跳躍ができる程度だ。俺がその方法を使っても、十メートル超えれば良いところだ。これでもこの年にしてはそこそこの成績だ。とは言っても、鳥の飛ぶ高さに届くわけがない。

 「本当だ。ていうか、おまえは空飛べるのか?」

 「できますよ。空を飛ぶ程度なら」

 「何だと・・・・・・。よし、わかった、おまえが俺の本当の敵だ!」

 「なんて言いぐさですか!」

 こいつずるい! 空を飛べる使い魔なんて、鳥の使い魔を除けば世界でも稀だ。こいつがそんな希少な存在だったなんて驚きだ。

 「おまえは駄目な子だと信じていたのに・・・・・・・」

 「私、一応優秀の部類ですよ。弟子も取ったことがありますし」

 こたつでまどろんでいるおまえを見た俺は、その言葉を信じることができない。きっと世迷い事だろう。

 「魔石で身体能力を強化して、跳躍することかはできないんですか?」

 「ジャンプって・・・・・・、空中で軌道修正もできないのに、避けられた終わりだろう。着地前の落ちている時なんて格好の的だし」

 空を飛べるのに、おかしなことを聞いてくる。そんな隙だらけの行動をしたら、一気に食われるだろう。

 「そうですよね。う~~ん・・・・・・何か攻撃手段とか無いんですか?」

 「自慢じゃないが、俺が使える特技なんて2つくらいだ。身体強化と治癒だけ!」

 「誇って言わないでくださいよ・・・・・・」

 新米ができることなんて数が少ないよ。修行もだいたいは基礎訓練と実戦訓練だけ。術議の習得はずっと後らしい。
 今覚えても、扱いこなせないからだとタマさんたちは言うけど、まったく手段もないのはどうかと思う。俺の攻撃方法なんて、近づいて殴るか斬りつけるかの二択だ。

 「使えませんね~」

 こいつ、昨日の仕返しに声を大にして言いやがったな。よし、そのケンカを買った。明日の食事にわさびを練り込んでやろう。日本の食文化の衝撃を思い知らせてやる。

 「じゃあ、私が突っ込むので、援護射撃とかお願いしても良いですか?」

 「だから、おまえは俺に願望持ちすぎだ。遠距離攻撃なんて一切持っていないと言っているだろう」

 射撃魔法、なにそれ、どうやって使うの?
 何度か見たことはあるが、使い方なんて分からない。
 以前、あこがれて、こっそり手のひらを前に突き出して、えいって叫んでみたことがある。
 むなしさと悲しさが出てきたのには驚いた。俺はその瞬間を一生忘れないだろう。

 「・・・・・・はぁ、分かりました。使い方を教えます」

 やれやれといった表情で、ため息じりに言っている。
 なんか、屈辱だ。俺が駄目なことに対して、まさか、リニスにため息をつかれるとは。

 それから、簡単に使い方の説明がされた。
 その話を聞いて、俺はぽかんとした表情になってしまう。ちなみに理解できたのは、魔法を使うにはかなりのセンスが問われる作業らしいと言うことだ。俺の苦手な項目だ。才能がねたましい。

 「少ない魔力は魔石で代用しましょう。では、魔石を使って試しに撃ってみてください」

 なんか困った子を面倒見るような態度で接しられた。ふむふむ勉強になる。それにしても、まさかリニスに魔法の説明をされるとは。
 そんな教育好きなリニスの明日のご飯は、カラシのはさみ揚げだ。楽しみにしよう。

 「魔力弾の射出と同時に私が飛び出します。良いですね」

 「分かりました。目標をセンターに入れて、だな」

 「手をこっちに向けないでください!」

 ごめんごめん。何となくやってみたくなっちゃってね。悪気はあったんだ。

 「ともかく、早く済ませましょう」

 その意見には賛同だ。今回は俺が遠くで魔法弾を撃っていればいいんだ。意外と楽そうだぞ。

 「それじゃあ行くぞ」

 「分かりました」

 俺は魔石から魔力を引き出して体に巡らせていく。それから、腕を砲身に見立てるかのようにして、手のひらに魔力をためていく。
 手のひらに魔力のたまが形成されていっているのが分かる。
 後は、これを敵に狙いを定めて撃ち出す。これで、俺にも魔法が撃てるはずだ。

 「・・・・・・」

 手のひらを、空で旋回している怪鳥に向けた。敵の動きから、一秒後の位置を、軌道を予測する。最初の一発は敵の体勢を崩すためのおとりだ。後に続くリニスが本命なのだ。俺はできるだけ怪鳥あてようとするだけでいいんだ。初めての射撃魔法で、正確に当てようとは思っていない。今できる限りのことをすればいいのだ。
 これはリニスも分かっていることだ。表情を見るとそういった決意のようなものが感じ取れる。あれは、自分で仕留めようとする目だ。
 俺は思いっきり、魔力を撃ち出す。リニスを信じて。

 「発射!」

 俺の言葉とともに魔法が発動した。

 「!!!**!##*###??%%&&%%%」

 同時に、光の奔流に襲われて、俺は盛大に吹き飛んだ。

 「なに自爆しているんですかーーーーー!!!!」

 ・・・・・・魔法制御って、難しいね。ぐふっ・・・・・・









 あとがき
 意外?に弱い主人公。
 防御が高くない生物(人間や獣程度)なら楽に勝てますが、人知を越えた化け物には弱いです。根本的に火力が足りません。
 とは言っても魔法使いに全くと言って敵わないわけではありません。魔法には弱いですが、武術には強いです。
 あとリニスの強さに関してですが、現在は俊也の体を通して流れてくる魔力で戦闘しており、俊也が弱いと力が出なくなってしまいます。そんなわけで、二人は現時点でなのはたちより弱いです。



[15536] 第13話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:d06740f4
Date: 2011/01/29 05:11


 体中が痺れるように痛い。
 俺は失敗してしまった。勝手に魔法ができるような気になって、調子に乗って自分ができる以上のことをやった。その結果がこれだ。

 「大丈夫ですか?!」

 吹き飛んで、倒れ伏している俺の側に来て声をかけてくる。

 「何で、あんな盛大に自爆ができるんですか?」

 俺はさっき射撃魔法を使おうとした。だが、大きな魔力は俺の手のひらに収まらなかった。時間をかけてじっくり魔力を練ったのが原因のようだ。魔力の制御が甘かったせいで、すぐに暴発してもおかしくない状況まで来ていた。更には魔力をためすぎて、魔力弾は大きくなりすぎていた。その結果、撃ち出されたときに、圧縮された魔力は炸裂して、発射と同時に爆発した。

 「・・・・・・リニス」

 「なんですか?」

 顔をリニスに向けて俺はゆっくりという。

 「俺が死んだら、明日からの家事を頼んだよ」

 俺は遺言を言った。師匠にタマさん。何の恩も返せなくてごめんよ。俺はもうここまでだ。

 「なに最後みたいな言い方をしているんですか! 大きな傷は見当たりませんし、あのとき防御の姿勢を取っていたことを見ているんですからね」

 なんだ、見ていたのか。確かに俺はそこまでひどいダメージを負ってはいない。もう普通にたてる。
 所詮は俺のちんけな魔力で作った魔法弾だ。命を落とすことはないとしても、大怪我をしていたかもしれなかった。あの瞬間、とっさに防御していなかったら、腕が吹き飛んでいたかもしれない。
 危機が迫ると身を引いて、防御を取りながら回避行動を行うようにと、師匠たちから仕込まれていたのが幸いした。思えば、師匠たちは魔法とかは教えなかったが、回避行動と身に危険が起きた時の判断を集中的に教えてもらっていた。ちゃんと修行は役に立っていたんだ。ちょっと感動した。

 「え~、一人でやり遂げてくれないの~」

 むくりと起き上がって不満を言う。

 「平気そうですね」

 「まあ、危なかった。治癒が使えなかったら動けなくなっていたかもしれない」

 かなりの痛手は受けたけど、魔石の力を借りた回復で何とか持ち直すことができた。さすが、師匠たちが最初の方から丁寧に教えてくれた術なだけある。いろいろなところで役に立つ。
 「まだ戦い始めてもいないんですけどね」とリニスが言っているが無視しておこう。

 「とりあえず、射撃魔法はもうやめておこう。また自爆はしたくない」

 「あきらめるのが早いですね」

 「自慢じゃないが、今日中に習得できる自信がない」

 「本当に自慢にもなりませんね!」

 慎重にやってもあの結果だ。もう一度やっても、成功する気がしない。

 「となると・・・・・・他に手はあるんですか?」

 「思いつかないな」

 「すがすがしい顔して言わないでください」

 なにもなくなると逆に晴れやかになるんだよ。何にしても俺は全く戦力にならない。そして、リニス一人じゃ無理そうだから、もう帰るしかないんだよね。
 ああ、残念だ。残念だ。・・・・・・いやっほーー!!
 いけない、いけない。思わず心の中でガッツポーズを取ってしまった。

 「あれを放っておくのですか?」

 「だって、手は無いじゃないか。おまえ一人じゃできないんだろ?」

 「・・・・・・うう、昔なら一人でも何とかいけるんですが」

 「知識はあっても、技術はあっても、魔力が足りないんじゃたいしたことないな」

 「あなたの魔力が少ないのがいけないんです! 私たち使い魔は、主の魔力によって、強さが左右されるんですからね」

 なんか、俺にだめ出しに来た。まあ、俺は弱いから仕方ない。おそらく以前の主は魔法使いとして優秀だったんだろうな。俺は師匠たちが言うには、一般人と大して魔力の保有量が変わらないらしいし。今だって、魔石の力で何とか魔法を使っている位だ。と言っても本当にたいしたことのない魔法だが。
 なんか、俺ってかなり駄目だな。ちょっと考えてへこんだ。
 ともかく、今の俺達二人では空を飛ぶあいつには敵わないことが分かった。なら、さっさと帰って駄目だったことをタマさんに報告しよう。手がないんじゃタマさんも納得してくれると思う。・・・・・・納得してくれると信じよう。
 きっと俺達の代わりにタマさんが対処してくれる。大丈夫だ。俺達とは違ってタマさんならあれくらい何とかなる。すぐに片付けてくれるだろう。
 俺は家に帰ろうと後ろを向くと

 『まだ、諦めるんじゃないよ』

 「うおっ! タマさん?!」

 いきなりタマさんの声が頭の中から響いた。これは確か念話だったな。魔力とかで心の声を発信して、伝えたい相手に言葉を贈る術だ。

 『タマさん、何か手があるのですか?』

 普通にリニスも使ってきた。ちなみ、俺は使えない。相手の居場所を遠くから把握して、正確な場所に魔力で信号を発信するなんて、俺には難しすぎる。何とか受信はできても、送信はできない。平然と使っている二人を目の当たりにすると、仲間はずれな気分になってくる。これは、少しまじめに魔法の勉強をした方が良いかな。けど、あまり魔法と相性良くないんだよな。

 『今回は仕方ないから私も助言してあげるよ』

 『ありがとうございます』

 俺は静かに二人の会話を黙って聞いている。この場に俺に発言権はない。しゃべれないというのがこんなにむなしいとは思わなかった。まあ、声に出して言えば側にいるリニスには普通に聞こえるし、タマさんも遠かろうと聞くことはできるだろう。だから、しゃべっても良いのだけど、何となくそんな雰囲気はじゃない。リニスは言葉にして相手に意志を伝えていないから、俺だけ独り言のようにしゃべるという何とも悲しい光景になるからだ。

 『魔力を使った飛び方を教えるよ』

 おおっ、これは良い魔法だ。空さえ飛べれば、空を飛ぶ怪鳥と渡り合うことができる。初めてだからそんなすいすい飛べないだろうけど、何とか同じ土俵にはたてる。
 本来ならリニスから教えてもらう手もあったんだろうけど、リニスは感覚で空を飛んでいるから言葉に説明しづらいらしい。だから、俺に引こう魔法を教えることができなかった。何という才能、何という憎らしさ。やっぱり、今度のご飯は食べてびっくりの、檄辛料理だな。

 『まずは、体全体に魔力をまとわせな。そのときに体全体の魔力が均等になるようにするんだよ。じゃないとね・・・・・・』

 ちゃんとした言葉にして分かりやすい説明がされる。一つ一つの行程に理屈があるようで、タマさんはそれを丁寧に説明してくれる。長生きしているタマさんは知識が豊富で、物わかりが悪い俺にも詳しく説明してくれる。

 『その後は、重力など無いような感覚で、魔力を使って体全体を押し上げな。魔石の魔力もあるんだ。魔力が少ないあんたでも、力不足はないはずだよ』

 「よし、何となく分かった。じゃあ、試しにやってみよう」

 とりあえずやってみよう。がんばれば何とかなる。それにしても、みんな俺の魔力は少ないって言ってくるな。もしかして、いじめ? 確かに少ないけどさ。

 「不安なことを口走らないでください。もっと真剣にやりましょうね」

 「なんと失礼な。俺はいつでも真剣だ。ただ、思いに能力がついてこないだけだ」

 「がんばって、訓練しましょうね。才能は努力で塗り替えられるんですから!」

 ともかく、今は実際に空を飛んでみよう。これにはちょっとうれしくなる。魔法を間近で見てきたものとしては、空を飛べるのは夢のようなことだからな。生身で風を感じることができるようになる。これは今まであこがれ続けていたものだ。俺も師匠たちと同じように空を飛べるんだ。
 気が走りそうになりつつも落ち着いて丁寧にやろうと心がけながら、飛行魔法を使い始まる。
 魔力を身にまとい、全体を浮かせていく。タマさんから習ったことを思い返しながら、慎重に作業を進めていく。

 フワッ

 体が浮き始めた。

 やった。

 体に感じた浮遊感に感動しながら、今度はもっと高く飛ぼうと操作する。目指すは敵がいるあの高度まで。

 「行くぞ」

 「はい」

 二人は地上から足を離れる。そうして、敵に向かおうとした。
 だが、

 「あぎゅら、ごぎゅら、ぶけら!!!!」

 「きゃーーーーー!! 俊也さんの手足が変な方向に!?」

 均等に宙に浮かすことなんてできやしませんでした。
 手の先が早ければ、腕は遅く。足が遅ければ体早く。といった感じで、体の部分事の移動速度は点でばらばらだった。それがもたらす結果が、体の部分部分が、外れると言うことだった。

 「ぜ、・・・全身が脱臼した・・・・・・」

 「大丈夫ですか?!」

 「体を・・・・・・くっつけてくれ・・・・・・」

 「待っていてくださいね」

 危なかった。もう少しで骨が折れているかもしれないところだった。体の関節のありがたみを今知った。体の関節が外れるだけですんだ。それにしても、折れなくて本当に良かった。折れたら明日から家事ができなくなるしな。
 その後、リニスに脱臼を治してもらった。どうやら応急処置の知識があるようだ。間接をはめていってくれる。これで何とか助かった。これは感謝して、明日は激辛料理はやめにしておくかな。俺は自分の利益になる行動をしてくれたら優しくなる。そんな人として駄目な自分が結構好きだ。

 『やっぱりそんな結果になったね』

 「予感がしていたの?!」

 タマさんはこの結果を予測していたらしい。それなのにそんなことをさせていたなんてひどい。

 『魔法を上手く使えなかったようだからそんな予感はしていたよ。けど、絶対失敗すると思っていたらといったら嘘になるね。基礎は鍛えているんだ。できる可能性はゼロじゃないはずさ』

 射撃魔法は使えなかったけど、治癒の魔法は使える。確かに、基礎は練習しているからな。タマさんも賭けをしてみたらしい。

 『説明だけでも、できる人はできるからね。実際空を飛べたら有利に運ぶし、使えたら使えたらでもうけものだと思ったんだけど・・・・・・』

 「ふむ、なるほど。俺はそんなタマさんの期待を見事に裏切ったと」

 『口の減らない子だね』

 けれどやっぱり俺には難しすぎたらしい。簡単な魔法なら使えるかもしれないが、それが決め手になるとは思えないんだよな。肉弾戦でも昨日は大して効かなかったほどだし。

 『じゃあ、今度はもう少し簡単なものにするよ』

 「おっ、さっすがタマさん」

 『今度はしっかりとやるんだよ』

 心外だ。俺はちゃんとまじめにやっているというのに。ただ、俺の技量では足りなかっただけだ。

 『次は魔力で足場を作ってそれを踏み台にする方法さ。わずかな時間、魔力を固体化するだけだからそこまで難しくないはずだよ』

 おっ、それなら俺も使えそう。魔力の制御は難しいけど、常に形を維持する必要はない。どうやら固形化するタイミングは自分で決められそうだし、短時間で良いと来た。起爆性を持たせる必要もない。一瞬だったら何とかなりそうだな。踏み込みで間合いを詰める練習は気が遠くなるほどやったし、自由にできるようになるまで修得している。さっきより可能性は格段に高いはずだ。
 タマさんからやり方の説明がされる。
 空中に足が乗るほどのブロックを生成して、それで踏む込めばいいとのことだ。その足場は体を支えるほどの強度を持たなければならないけど、それさえやり遂げれば時間はほんの一瞬で良いらしい。それに、そこまで大きくなくても足さえ乗れば良くて、力を込めることができればそれで十分なようだ。他にも慣れてくれば、体をバネにして持ち上げることで足場の負担を無くし、強度も少なくて良いなど、いろいろテクニックはあるらしいが、それはまた今度のようだ。今はとにかく、ちゃんとたてるものを作ること。それが肝心のようだ。

 「よし、今度こそ行くぞ」

 「今度こそやってくださいね」

 『いい加減成功させな』

 なんか、周りを敵で囲まれた気分だ。たった、空を飛べることができないだけでこの状況は悲しくなってくる。他にも空を飛べない人はたくさんいるというのに、仲間が全員空を飛べるだけでこの立場なのは泣けてくる。

 これは失敗できないな。

 俺は魔力で足場を作り、それを踏み台にして空へと飛び立とうとした。

 その瞬間、激痛が走った。

 「うぎゃーーーーーぁっ!! 小指を角にぶつけた!!」

 「なにしているんですかーーーー!!」

 空中に作った魔力の足場を踏もうとした瞬間、誤って足をぶつけてしまった。思い描いた位置に作ることができず、位置がちょっとずれてしまったのだ。その結果、足を思い切りぶつけてしまい、最悪なことに小指にぶつけてしまった。これはかなり痛い。
 俺は苦しみにもだえながら、地面をごろごろと転がる。はっきり言って今までの中で一番痛いかもしれない。なぜ小指をぶつけてしまったのか、親指だったらいいのにと、訳の分からない考えが頭を過ぎる。

 『はぁーーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・・・・』

 頭の中から、タマさんが今までで聞いた中で一番大きなため息が響いた。『何でこんなのを弟子に取ったんだか』とか、後悔の言葉まで聞こえた。俺も何でこんなにもできないのか知りたい。別にふざけてはいない。重要なことだから何度でも言う。
 俺はふざけてなんかいないんだ!

 「ふざけているようにしか見えません!!」

 さすがにここまで体を張ったギャグはしないぞ。小指をぶつけるなんていう、過酷な拷問まで受けるほど、俺は笑いに体を売ったわけではない。
 ともかく、これも駄目なら他の方法をとるしかない。なにも邪魔をするものがいない状況でこうなんだ。戦闘中なら、体の至る所をぶつける自身はある。さすがにそれに挑む度胸はない。どんな拷問より苦痛だと思う。
 俺がタマさんのありがたい助言を聞こうとしていると、無慈悲な言葉が告げられた。

 『いくつか手は教えたから、後は任せるよ』

 「そんな、まだ1ミリたりとも有利になっていない!」

 『死ぬ気でがんばりな』

 「励ましの言葉よりも、逆転の策をくださーーい!!」

 俺が止めようとしても、それを無視してタマさんは念話を閉じた。むなしくも、俺がどれだけ叫ぼうともタマさんに届くことはない。

 「逆転の手を二回も無駄にしておいてそれはないんじゃないですか?」

 「だが、全然役に立っていないぞ」

 「・・・・・・もう少し、魔法を使う練習をしましょうね」

 なんか、困ったものを見るような目で見られた。だって仕方ないじゃないか。どうにもうまくいかないんだから。俺もここまで来てふざけているわけではない。まじめにやった結果がこれなんだ。誰も好きで痛い目にあったりなんかしない。

 「それで、どうするんですか? 本当に手がありませんよ」

 手詰まりと言ってもいい。俺が空を飛べない限り、攻撃が届くことはないのだ。攻撃があたら無ければ俺は戦力にならない。たとえ空を飛べるリニスが向かっても、前回と同じように決め手に欠けていずれ負けてしまうだろう。
 リニスは空が飛べる。だが、俺は空が飛べない。ここが一番の問題点だ。片方が空を飛べる状況で、敵をやっつけるほどの一撃をたたき込まなくてはいけないんだ。

 ・・・・・・あっ。

 「? どうかしたんですか?」

 閃いた。確かにこれなら、片方は空を飛ぶ必要はない。更には、敵を倒すほどの一撃をたたき込めるかもしれない。少なくても相手に大きなダメージを与えるはずだ。

 「何か、思いついたんですか?」

 「いやいやいや、だがしかしリスクもでかい」

 「思いついたのならやりましょう」

 「ちょっと待って、考えさせて」

 「だけど、それしかないんですよね」

 なんか、リニスが俺の考えを聞いてもいないのに推してくる。俺が戸惑っているところを見て、自分にはあまり害はないことに気がついたのか? さすが獣。第六感が優れている。まさにその通りだった。

 「分かった。これしかないよな。タマさんからあれだけ助言をもらったのに、駄目だったと帰ったらなにされるか分かったものじゃない」

 タマさんは若干怒っているようだった。呆れの方が大きくてあのような態度だったが、このまますごすごと帰ったら絶対お仕置きをされる。
 こうなったら、どうあっても魔石を獲得して帰るしかない。
 俺は覚悟を決めて、リニスに作戦を指示する。

 「俺をあの怪鳥まで浮かせることはできるか?」

 「できますけど、魔法を使い続けると私が動けなくなってしまいます。一対一では勝てませんよ」

 今のリニスでは魔法を使いながらの戦闘は無理なようだ。子供とは言えど、決して軽い訳じゃない。人を浮かせるのは慎重にやらなくてはならなく、以外と操作が難しい。俺がさっき操作を誤ったから、どれだけ難しいのかは分かる。

 「それで十分だ。俺をあいつの元まで送り届けてくれ」

 「・・・・・・何か考えがあるようですね。分かりました」

 リニスはそれだけで納得してくれた。俺を信じてくれたようだ。
 俺の体が浮き、そのまま速度を上げて空を行く。
 未だ空を飛び続ける怪鳥に向かっていく。
 このまま距離を詰めていこうとした。しかし、途中で予想もつかないことが起きた。

 「キシャアアアアアア!!」

 怪鳥が襲いかかってきた。

 「ちょっ、何で!!?」

 怪鳥は一直線に向かってくる。口を大きく開けて。
 その様子を見て思い至った。怪鳥は俺をえさだと思っているんだ。今まで怪鳥は獲物を探していた。だけど、夜で人は外にあまり出かけていない。それに、鳥目であることが夜で目が見えなくなっていた。怪鳥は獲物が見つからなかったのだ。
 そんな状況に俺が向かってきた。わざわざ目が見える範囲内にと。しかも、それほどスピードはなく、格好の獲物だったに違いない。さながら俺のことを羽虫のように思えただろう。

 な~るほど。俺が狙われるのは必然だった訳ね。
 こんな状況なのに、やけに冷静になる。なぜなら俺にはどうしようもない出来事だからだ。俺の体の主導権はリニスにゆだねられている。俺自身が回避行動を取ることができない。リニスが怪鳥の動きに気づいて逃がそうとするが、相手の方がスピードは上だ。逃げられない。
 もう、結果は決まっていた。

 パクッ

 「えええええっっっっっっっ!!??」

 怪鳥に丸呑みされた。一瞬で口は込んだ動きは、さすが野鳥と言うべきだろうか。俺はのどごしで味わわれ、食道を通り、胃の中へと運ばれた。
 食べられる経験は初めてだ。できることなら一生体験したくなかった。

 食べられてしまったが、とかされて糞になるのは困るので勘弁してもらいたい。俺は消化液を魔力の鎧で防ぐ。体を浮かすことはできないけど、身にまとわせることくらいならできる。これで防御すればしばらくは消化されない。けれど、長くは持たないから、今すぐにでも脱出しなければならない。

 体にとりつくだけで良かったんだけど・・・・・・
 まあ、こうなったら仕方ないか。体内でも何とかなるか。いつまでもここにいたら消化されてしまう。
 すぐにでも決着をつかせてもらおう。
 俺はこいつに勝てる方法をリニスから教えてもらった。そう、素晴らしい射撃魔法魔法を。
 今度は全身から魔法を打ち出すように、体の周りで魔力を圧縮。ぎりぎりまでため込んだところで、

 俺は一気に

 撃ち出した!

 ・・・・・・爆音が身を包み、体が衝撃に包まれる。最初とは比べものにならないほどの激痛が体に走る。予めこうなることは分かっていたから、防御の姿勢を取っていた。だけど、それを上回る痛みだった。
 衝撃で口から体が放り出される。体内で、後ろではなく前に投げ出されたのは不幸中の幸いだろうと。口の逆だったら、俺は人として終わっていたかもしれない。と、自分を慰めてみる。

 「自爆を得意技にしないでくださーーーーーーーい!!」

 リニスがなにやら下で叫んでいるが知らない。さすがに全身爆発は堪えた。
 俺は煙を上げながら地上へと落下するのであった。

 側では怪鳥も口から煙を上げながら落ちている。体はぴくりとも動かなく、どうやら気絶しているようだ。

 本来なら、爆発前に小太刀で傷をつけて衝撃を直に与えるつもりだったが、内部から攻撃に移っただけに思った以上のダメージを与えることができたようだ。ああならなければ、羽毛で衝撃を防がれていたかもしれない。
 果たして、あの出来事は良かったことなのだろうか悪かったことなのだろうか? 少なくてもまた腹の中に突撃する気はなかった。

 地上への落下前に飛んできたリニスに受け止められる。対して、怪鳥はそのまま地面にたたきつけられて力尽きたようだ。落下地点には気絶したカラスと魔石が転がっていた。
 これで、俺達の勝ちだ。魔石も回収したことだし、ちゃんとうちに帰れる。

 「うわっ、くさい・・・・・・」

 失礼なやつだ。確かに胃の中に入ってくさくなっているのは分かるけど、そんなにいやな顔をするとは。
 まあ、家に帰ったら真っ先に風呂に入ろうと思う。今日も疲れた。早く風呂に入って寝たい。

 「なんか、毎日が綱渡りですね」

 「そうだな。いつか落ちそうだ」

 「笑えないですよ」

 転んでも良いが、落ちないようにしたい。俺に幸せが訪れますように。
 たまには、怪我をしなくてすむ戦いをしたいものだ。









 あとがき

 汚い花火だ。
 今回の話で俊也は新しい技を習得できました。その名も「じばく」。
 自爆を覚えて戦い方が広がった俊也はいずれ大活躍してくれるでしょう。
 とりあえず、死亡フラグを立てておきます。このフラグを活用する予定は今のところありませんが、この技はいつか使えたらなと思っています。



[15536] 第14話
Name: 山田◆9425fdd8 ID:d06740f4
Date: 2011/01/29 18:57


 あの戦いはかなりのダメージを負ってしまった。自分の治療もままならなく、リニスにいくらか助けてもらいながら回復をした。今回は何とか倒すことができたけど、いい加減自分の力不足を痛感してくる。まだ始めて二匹だけだが、出会う敵が全員自分たちよりも上だからだ。

 「基礎も大事だけど、幾つか技を覚えてないとやっていけないね」

 タマさんから自分の修行を次の段階に進めることを言われた。魔石を回収して帰宅後、風呂で汚れを落として、タオルで髪を拭いているところに声をかけられた。
 ・・・・・・脱衣室で気配を消して現れないで欲しい。こういう場所では俺も無防備になるから、いきなり気配がするとかなりびびる。

 「リニスはまだ入っているのかい?」

 「もう少し温まってきたいとか言っていたけど・・・・・・」

 俺が風呂から出るときにそう言っていた。俺を受け止めたときに臭いが移ったようで、リニスも少しくさくなっていた。それで、帰ったらすぐに二人で風呂に入った。
 俺は出てくるのが遅いなと、耳を澄ませた。そうすると、中から物音が聞こえる。

 水のチャプチャプしている音が聞こえた。

 あいつ、泳いでいやがるな。師匠の趣味で風呂が結構広い。そのことにリニスは少し感動していたな。
 俺は怪鳥の胃液のにおいを取ろうと長風呂だった。そんな俺が出て、体を拭き終わって着替えても、まだ風呂の中で遊んでいる。
 少し呆れて、もう放っておこうかと思ったが、なにやらタマさんから話があるだから、リニスも引っ張ってこよう。
 扉をがらっと開けて、中に入る。

 「にゃ! にゃんですか!?」

 いきなり戻ってきた俺を見てびっくりしている。顔を上げて泳いでいたのを止めて、すぐに立ち上がってその場を取り繕うとする。こいつは泳いでいたことがばれていないと思っているのだろうか?
 すでにとろけきった表情で湯船につかっているのを見ているんだ。今更何に驚けと言うのだろう?

 「さっさと出ろ。もう臭いも取れたし、いいだろ」

 「ああっ、つかんで持ち上げないでください!」

 ぬれた猫を両手でつかんで持ち上げる。今は猫の姿だから、楽に持ち上げることができた。
 あいつは自分の世界に浸ると猫の姿になることを知った。こたつに入っているときの他に、ひなたぼっこ、入浴時と布団に入っているときは猫の姿になる。そのときは決まってだらける。そんな姿を見ると、使い魔だ何だと言いながら、所詮は猫なんだなと実感する。
 俺はリニスをつかんだまま浴室を出る。脱衣所に置いておいたタオルを持って、リニスの体を拭いていく。

 「ちょっ、自分で拭けますよ!」

 「気にするな。ついでだ」

 「気にしますよ!」

 自分でやった方が早いような気がしたから、自分でやることにした。タオルでごしごしと体を拭いてやる。

 「あっ、ちょっと気持ちいい。慣れていますね!?」

 「たまに動物の面倒を見てやっているからな」

 タマさんや大虎に言いつけられて、怪我した野生動物の面倒を見たことも何度かある。人間慣れしていない動物の体を洗ってやるとき、下手だと暴れ出すから、上手になるしかなかった。少しでも気に入らなかったら、ひっかいたり、かみついてきたりするからだ。

 「けど、私の体を蹂躙されている気がするんですけど」

 「なんかものすごくひどいことを言われている気がする!」

 わざわざ吹いてあげているのに。俺の苦労をねぎらって欲しいくらいだ。

 「やっぱり、自分で体を拭きまーーす!」

 「もう少しで終わるから、静かにしていろ」

 最後までタオルでしっかりと拭いてやった。その後、俺はそのままふてくされていたリニスを引っ張って、いつの間にかいなくなっていたタマさんを追って、居間まで移動した。

 「遅かったね」

 「リニスが暴れるから時間が掛かった」

 「ううっ、けがされてしまいました・・・・・・」

 何を言う。ちゃんときれいにしてやっただろうが。それなのに、何をいつまでもぐずぐず言っているんだ。
 まだ何か言いたそうなリニスを、タマさんは無視して話を再開する。

 「さっきの話の続きだけど、あんたにもそろそろ技を覚えてもらおうとしようか」

 「流されちゃいました!?」

 何だ、リニスは突っ込み待ちだったのか。それは悪いことをした。今度は気づいたらちゃんと突っ込んでやろう。ボケに突っ込まないのは世の中の礼儀に反すると、健も言っていたしな。
 今はリニスのことはそっとしておいて、タマさんの話を聞こうとしよう。技の鍛錬に入るという話だ。

 「私は猫だから、人に技を教えるのは向かないね。もうすぐで松が帰ってくると言う連絡が入ったから、帰ってきたら教えるように言っておくよ」

 「えっ!? 師匠が帰ってくるの?」

 思わず複雑な表情してしまう。いろいろ教えてもらえるのはうれしいが、なるべくなら教わりたくないような、どっちともは言えない気持ちになる。

 「俊也さんのお師匠さんは、松さんと言うんですか?」

 リニスは新しく聞いた名前について興味があるようだ。師匠はこの家の家主。居候のみとしては挨拶をしておきたい人物だろう。

 「リニス、一言言っておく。本人の前で松と名前で言うんじゃないぞ」

 「えっ? 何でですか?」

 「フルネームだと、松竹梅の逆なのが気に入らないらしい。松と何度も言うと、遠慮無しにぶん殴られるぞ」

 俺はそれを何度も経験している。そのたびに吹っ飛ばされるのは、痛い思い出だ。師匠はあまり面識のない人でも、名前のことを深く追求されると怒るからな。あと、名前が古くさいのも気に入らないらしい。

 「言っておくが、実力はタマさん以上だぞ」

 「絶対、良いにゃせん!」

 体をぴしりとさせて、大声で答えた。声もうわずっている。リニスはタマさんに修行でぎったんぎたんにされていたから、師匠の力も想像がつくのだろう。自分じゃ到底敵わない相手だと言うことが。

 それにしても師匠が帰ってくるのか、これはいろいろと覚悟を決めないといけないな。








 翌日、俺は家の和室に正座して時が来るのを待っていた。

 「あの、タマさん。俊也さんは何をやっているのですか?」

 「あの子は命を迫り来る脅威を立ち向かおうとしているんだよ」

 「えっ、お師匠さんが帰ってくるんですよね? 脅威って・・・・・・」

 「命が掛かっているのさ。それは真剣になるよ」

 「い、命!?」

 なにやらリニスが騒いでいるが、俺はこれから来る相手に備えなければならない。やり方を間違えれば、どうなるか分からない。こっちだって命がけだ。

 「ただいま~~!」

 来た!

 玄関の方から、戸が開く音と声が聞こえた。タマさんたちがいる状況で,そんなことを言うのは一人しかいない。快活な声が家中を響き渡る。それと同時に、俺の額を汗が伝うのが分かる。

 「みんなどこ~~」

 一拍おいて、また声が響き渡る。靴を脱いで、玄関に上がったのだろう。そしたら、一直線までこっちまで来る。師匠は気配を読める。自分たちがどこにいるのかすぐに分かってしまう。どこにいても同じだ。迷わずに、自分たちの所まで来るだろう。

 たたたたっ、

 廊下を歩く音が聞こえて、自分たちがいる部屋まで来た。いつの間にか、タマさんはリニスをつれて部屋の角にいる。あれは避難だな。つまり助け船はない。
 側でリニスがなにやら困った顔をしていた。状況が見えていない。それはそうだ。師匠とはまだあったことがないからだ。まあ、すぐに驚くことになる。

 「俊ちゃ~~~ん! ただいま~~~!」

 幸せそうな顔をした師匠が、勢いよく戸を開けて部屋に入ってきた。
 だが、それに付き合っている余裕はない。

 「はっ!」

 俺は両手を畳にたたきつける。

 バンッ!

 その衝撃で、畳がはじけ飛ぶ。箸が宙に上がり、俺の前で壁の様な姿勢へとなった。

 「にゃっ!? あれは?」

 「へえ、畳返しだね」

 俺の突然の荒技にリニスが驚きの声を上げて、タマさんが感心の声を上げた。
 これはテレビなどの資料を見て、自分で編み出した技の1つ。たたきつけた衝撃で畳をわずかに浮かした後で、箸に指を引っかけて一気に起き上がらせる。それを一瞬で行えば、独りでに畳が起き上がったように見えるだろう。自分なりに畳返しをやっみた。どうやらうまくいったようだ。
 畳を立てたことにより、師匠と俺の間に障害物ができた。これで、師匠の動きを少しでも阻害できれば儲けものだ。
 やったと思ったが、実行してみてそれは失敗だと気づいてしまった。
 目の前に畳があることで、視界が妨げられてしまった。こうなったら、次に何が起こるのか分からなくなってしまう。視界が極端に狭まると恐怖が襲ってくる。畳越しに死に神以上の存在がいると思うとその恐怖は格別だ。
 些細な同様をしている暇もなかった。
 なんと、畳から手が飛び出してきたんだ。

 「うげっ!?」

 後ろに飛ぼうとしたが間に合わなかった。見えない場所からの出現に、動揺してしまったのが敗因だ。ただでさえ避けられないものなに、防御を取ることもできなかった。

 無防備な体に腕が巻き付かれた。そのまま締め付けられるように締まり、同時に畳が力によってばりばりと砕かれていく。

 「俊ちゃん! 寂しかったよ!」

 畳の後は俺の番だった。

 「うぎゃーーーーーーー!!!」

 全身の芯から砕ける音がする。体中の力が抜けて、感覚がゆっくりと消えていく。

 「ちょっ!? 俊さーーーーーーーん!!」

 「南無」

 リニスの悲鳴が聞こえて、タマさんの念仏が聞こえた。

 それから、師匠が俺にほおずりをしながら、なにやら仕事の愚痴を延々と言っていた。詳しい内容は覚えていない。それどころじゃなかった。
 しばらくして、俺は解放される。だが、師匠の縛りが解けても、俺は自分の足で立つことができずに、床にドサリと倒れ伏した。

 「だ、大丈夫ですか!?」

 「だ、大丈夫じゃないが・・・・・・耐えきってやったぜ」

 「何ですか、そのやり遂げたぜって顔は?」

 だって最後まで気を失わなかったのは初めてなんだぜ。ここで笑わないでどこで笑うって言うんだ。

 「そうだね。いつもなら、数秒と持たずに気を失っているから。あんたも成長しているんだね。よくやったよ」

 珍しくほめられた。達成感と感動で涙が出てきそうになる。
 おれ、今までがんばったよ。

 「ここで、今までのがんばりが評価されるんですか!?」

 「もう、ゴールしても良いよね?」

 俺はやるだけのことはやった。ゆっくり休んでもいいんじゃないだろうか?

 「ゴールしちゃ駄目です! 命を諦めないでください!」

 「後は私に任せてゆっくり休みな」

 「休んじゃ駄目ですってば!」

 けれど、体の自由は戻らない。むしろ大切なものが離れていくような気がしてくる。

 そこで、師匠は俺達に突っ込みをしている猫を目にとめた。今まで、俺のことばかり気にしていて、いることは知っていたが気にしなかったのだろう。俺を優先してくれてちょっとうれしくは思いつつも、それ以上の痛みを受けているから感謝はしない。
 師匠はリニスを見て目の色を変えた。師匠は重度の猫好きだ。稀に猫を拾ってくることもある。だけど、その愛され方に耐えられたのは今まではタマさんだけで、他の猫たちは一日と経たずに逃げている。
 つまり何が言いたいかというと、師匠は可愛い猫を見つけると凶器と化すのだ。その威力は俺がこうして立てなくなるほど。

 「いつこの子来たの? 可愛いじゃない!」

 「にゃにゃ!??」

 矛先が変わったことに、リニスは動揺を隠せないでいた。おろおろと周りを見渡すが、いるのは倒れ伏している俺と、距離を取り始めたタマさんだけだ。俺は役に立たないし、タマさんも今の師匠に何を言っても駄目だと言うことは分かっている。こうなったら、被害を受けないように、離れるしかないと言うことも知っていた。
 リニスを助けられるのは誰もいなかった。

 「一緒に行こうぜ・・・・・・」

 ・・・・・・・あの世へな。

 俺とおまえは相棒同士、運命共同体だ。おまえもついてきてくれ。
 青ざめたリニスが後ずさりしながら何とか逃げようとするが、興奮した師匠はそれを逃がそうとしない。リニスと師匠では実力が違いすぎる。

 一瞬で師匠がリニスに抱きついた。そのまま、言葉で形容しがたい抱擁に包まれる。

 「みにゃーーーーーーーーー!!!!」

 リニスの叫び声を聞いて、俺は満足して目を閉じた。




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