中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 特集・連載 > 農は国の本なり > 記事一覧 > 2月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【農は国の本なり】

第2部「農地転用の闇」読者の声 優良農地を次代に残せ

2009年2月27日

読者から届いた手紙やはがき

写真

 2月1日から連載した「農は国の本なり」第2部の「農地転用の闇」には、多くの読者から反響が寄せられた。トヨタの工場が立地する自動車産業の心臓部、愛知県豊田市の優良農地が転用されてできた20ヘクタールの倉庫群。税金の無駄遣いや、農地を守ろうとしない国や自治体には、厳しい意見が大勢を占めた。一方で、農業が成り立たない現状で、農家や地主への同情、苦悩する農業委員、倉庫転用をめぐる地元住民の賛否など、さまざまな声があった。

◆矛盾ない法規制を

 2月1日付朝刊1面に「優良農地に倉庫群」と大きく報じられたニュースは、農業経営について学ぶ私には信じがたく、農業への希望を打ち砕かれるような気持ちになった。

 勤め先の税理士事務所で農家から相続税の相談を何度か受け、分かったのは「農業振興地域はまず農地転用できない」という事実。まれに認められるのは、地主の身内が自宅や店舗を建てる場合、あるいはそう見せかけて転売するような悪質なケースだった。

 「複雑にからむ利害の上に農地の番人たちは立たされている」という現実の中、どうしたら国民の問題として共有できるか。やはり、法に基づいた国の役割が大きいのではないか。国に対して「矛盾を無くすこと」を切実に望みたい。(愛知県海部郡、農業経営アドバイザー、山田若奈、30代)

◆しわ寄せが農業に

 市街化区域になったから倉庫群ができた、と思っていたので、記事を読んでびっくり。

 農業を始めて最初にぶち当たった壁が自動車産業が支える地域の考え方。そのしわ寄せが農業に色濃い。新聞に取り上げられたから言えるが、経済がこういう状態になって農業が見直され、本来「おかしい」はずのことが、やっと「違うんじゃないか」と言えることを、ありがたく思う気持ちもある。

 狭い地域で、農業を取り巻く環境にたて突くには、勇気がいる。意見を送ろうかすごく迷った。ただ、これから先もコツコツと米作りを頑張っていきたい。日本の国の本だと誰もに言ってもらえるように。(愛知県豊田市、農家)

◆子孫の将来が心配

 4年前、愛知県から長野県に引っ越し、農家になろうと地域の農業研修に通い、実践に励んできた。そんな時に、私の隣接地が工業団地になる、という説明を町から受け、土地改良がなされた農振農用地で、まさか、という気持ちだった。町は「耕作放棄地が多く、余剰農地に企業誘致した方が活性化する」「農地以外を整地すると造成費用の負担が大きい」と説明し、私は質問した。「そんなに農地が余っているのなら、なぜ私に農地を貸してもらえないのですか」と。町は「貸し料が安く、手続きに面倒も多い」というような返答だった。

 食料自給率や農家の現状、食の安全を考えたとき、こんな状況で子どもや孫たちの将来は大丈夫か、と心配になる。農家を支える施策を国に求めたい。それが、そんなに難しいことなのか、ならばなぜこんな農業にしたのか、疑問がいっぱいわいてくる。(長野県上伊那郡、匿名男性)

◆個人農家つぶすな

 一般の企業に勤めた後、父の後を継ぐ形で農業をはじめ、6年。周りも田んぼがつぶされ、大きなお店ができる計画がある。ライスセンターを営んでいるので農家と話す機会が多いが、稲作の将来が不安で、田んぼを手放す人が少なくない。70歳近い人たちが今後のことを考えると、米を作るよりその方がいいと言う。寂しい限りだ。補助金も大規模農家集中で、個人農家は切り捨て。いくら大規模農家が多くなっても、稲作面積にも限界があり、やはり自分の田んぼは自分で、が基本だと思う。個人農家がもう少し夢をもって稲作できる農政を望みたい。(岐阜県美濃加茂市、農業経営男性、30代)

農振農用地が転用されてできた物流倉庫群。右上はトヨタ高岡工場=1月24日、愛知県豊田市で、本社ヘリ「まなづる」から

写真

◆転用判断 悩む農業委員

 農業委員として、農家の問題や農地行政の一端を背負っているが、今回の記事で豊田市の農業委員の苦悩がよくわかる。

 大手自動車や電気産業などが立地する県内有数の工業地帯である私の地元にも昨年、大きな面積の農振農用地の除外申請があった。

 それは、物流施設を建てるための除外で、転用申請では、市の企業誘致課も入った事案。市は低額な農地の固定資産税より、安定した多額な法人税が入ることを優先し、企業立地を進めようとしているようだった。

 われわれ農業委員会は、そこを許可してしまえば、次から次へと申請が出ることを恐れ、何日も熱心に協議した。その結果、たまたま申請書類に不備があることを理由に、いったんは取り下げさせることになった。

 しかし、再度、書類を整えて申請されたとき、どう判断したらよいのか、悩んでいる。市のトップダウンで転用を進められれば、農業委員が存在する意味はなくなってしまう。

 農業委員会は、農地を守り、新しい農業の後継者を育てる役割を持つ。だが、農業者の高齢化、後継者不足などの現実を目の当たりにする中で、他人の土地の転用申請を判断するのは、大変つらい。

 転用のための農振除外申請について、判断基準を協議しているが、逆に規制を緩めることも考えなくてはいけないと思っている。(静岡県西部、農業男性、50代)

◆国の無策あきれる

 「下がり続ける食料自給率をどうにかしなければならない」。国が発行した教科書では、そう習ったが、その国が今回のような事態に何の対応もしないとはあきれた。農業は経済面で、工業より不利なことは明らかなのに、それを国が助けていかないのでは、食料自給率が上がるわけがない。農業の上に工業、サービス業があり、その上に私たちの生活がある。そのことを私たちは考えていかなければならないと思う。(愛知県豊橋市、男子高校生)

◆食守る政策推進を

 行政にはしっかりしてほしい!につきる。日本の食を守る!ということを縦割り行政ではなく、真剣に取り組んでほしい。また、工業に偏りすぎるのは危険だと思う。農のある暮らしを守る政策をお願いしたい。今後、豊田市だけでなく他の地域も農地転用がどうなっているのか特集してもらいたい。(愛知県知立市、主婦島尾友香、30代)

◆安易な転用なくせ

 家で食べる程度に農業をしているが、周りの農家の話を聞いても農業は全くコストに合わず、辞めたいと思っているのがほとんど。だから効率が上がるように、手間が省けるように、農地・用水を改良し面積拡大してきた。なのに、たった8年で転用するとはドブに金を捨てるようなもの。農業収入と地代収入を考えた場合、誰しも地代収入を考えたくなる気持ちも分かるが、農地改良は税金を投入している。安易な転用をしてはいけない。(石川県、無職男性、59歳)

◆許されない裏切り

 農地転用は地主が拒否すれば行われなかっただろうし、農業委員会もなぜ農振農用地除外申請を認めてしまったのか。地主にとって、多額の賃料は魅力だろうが、今回の問題を見ると「先祖代々の農地」なんて虚言だということがよく分かる。

 市場原理主義のもとでは農地転用は合理的と解釈されるのかもしれない。しかし、このやりきれなさは何だろうか。しかるべき農家や公的な団体が農地を確保できる仕組みをつくるべきだ。(愛知県、大学生男性、21歳)

◆住民は問題自覚を

 倉庫群は実家にほど近い場所だが、残念なことは住民の問題意識が低いこと。むしろ「農地にするより倉庫にしたほうが合理的だろう」という意見が世代を問わず、圧倒的多数だろう。自動車産業が支える自治体の、構造的問題ともいえるのではないか。

 しかし、昨年来のトヨタショックで、コスト面での合理性や大量生産を突きつめていったとき、予想もしない不況で想定外の事態に直面する可能性があることが、誰の目にも明らかになった。今回の倉庫群の問題は、豊田市が抱える問題の本質を突いたものであるとも感じる。(愛知県豊田市、大学生木原将志、24歳)

◆意欲的生産者守れ

 転用された農地で耕作する農業法人「中甲」が作るお米を注文し、また近くにある体験田で田植えや稲刈りをしたことがある。

 税金を使って整備した農地が、簡単に大企業の用地に転用されていることに憤りを感じる。作物ができるようになるまでに土を作るのは、相当な年月も労力も費やしたはず。このご時世で倉庫が不要になったから、と更地に戻しても、農地の復活は簡単ではない。

 中甲は、飼料米の実験もし、若い人も多い意欲的な生産者。にもかかわらず、赤字経営に追い詰められてしまっている。先進的、意欲的な農業の取り組みを守り、食料自給率の向上を本気で考える農政に転換してほしい。身近で起きていることに驚き、これではいけないという気持ちで、初めて投稿させてもらった。(愛知県日進市、団体職員加藤優美子、50代)

◆時代に応じ方針転換も

 近隣住民だが、農地の埋め立てが始まった時、危惧(きぐ)どころか「ようやく、生活の利便性が向上する」と思った人も少なくない。ショッピングモールができることを夢見た。結果は違ったが、その場所に的確な利用法を見いだしたにすぎない。

 血税を投入しているために転用に批判的な記事だが、過去の方針に固執するのは、今や不要な高速道路やダムを作り続けるのと同じ。食料自給率の向上が騒がれているとはいえ、周囲には減反のためのコスモス畑が至る所にある。

 世の中の状況を把握し、皆が必要としている方向へ迅速な方針転換も必要だ。(愛知県豊田市、男性会社員、45歳)

◆地元でも疑問なく

 愛知県豊田市高岡地区出身です。見慣れた田んぼに巨額の税金が投入されていたことは、全く知らなかった。実家は農家ではなかったので、田畑が学校用地になったり、倉庫になったりするのに疑問も感じず、ただ近代化と受け入れていた。今回のように、企業寄りの転用であることや、結局は税金の無駄遣いとなったことは、残念としか言いようがない。それにしても、なぜ今ごろこの事実が発覚したのか。もっと早く糾弾されるべきだった。(愛知県岡崎市、主婦稲垣みさこ、30代)

 

この記事を印刷する

PR情報



おすすめサイト

ads by adingo




中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ