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【農は国の本なり】

第2部・農地転用の闇 番外編1 隣の水が使えない

2009年2月18日

自然農法にこだわり、野菜を育てる森和也さんの農地に用水はなく、雨頼み。近くには用水がある優良農地が耕作放棄されている=愛知県大府市で

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 「農は国の本なり」第2部は、愛知県豊田市の物流倉庫群を舞台に、土地改良で生産性を高めた優良農地が次々転用され、農業の基盤が揺らいでいる現状を描いた。国は自給率向上を掲げながら、多額の税金が注がれた優良農地の転用もまた、許していた。トヨタショックで工業の成長神話が崩れた今こそ、農地のあり方を根本から見直すべきだと考える。 (第2部取材班・秦融、寺本政司、太田鉄弥)

 なだらかな丘陵の畑から、工場や住宅地を間近に見渡す愛知県大府市。森和也(39)は雑草に覆われた畝から伸びている菜の花に似たイタリア野菜を摘み、口に放り込んだ。

 「えぐみがないでしょう。自然の中でたくましく育つと、野菜本来の優しい味になる」。農薬も、肥料もやらずに育てる「自然農法」の特長という。

 森は食品卸会社に勤めつつ、休日になると取引先のイタリアンレストランで修業した。「おいしい物を食べたい」と追求するうちに食材の大切さを知った。4年前、会社を辞めてアルバイトで生活費をまかないつつ、自然農法に挑戦した。

 「市販よりも断然、おいしい」。そう自負して持ち込んだ最初の年こそ、シェフに「まだまだだな」と突き返されたが、丹精して土を耕すにつれ、認められた。いまは県内と東京の6つのイタリアンレストランが使ってくれている。自らの畑を「自然農園あぐりーも」と名付け、年間を通じて50種類以上を収穫する。店の客にも「ニンジンを食べられないうちの子が食べた」と好評という。

 生活を安定させるため、農地の広さは1町(1ヘクタール)が目標だが、容易ではない。

 高齢化で耕作をやめた地主から借りることができたのは、大府市と東浦町の4カ所を足してようやく6反(0・6ヘクタール)。畑から畑への移動は軽トラで5−10分かかり、用水路もない。

 「広くて水もある農地を新入りが借りられることはまれ。遊休農地となるか、転用されてしまう。新入りはみな、雨頼みですよ」。苦笑いする森だが昨年の夏、その悲哀を思い知った。

 「この天気図じゃ、まだしばらく降らないか」

 毎晩、パソコンで週間天気予報を見るのが習慣になっていた。7月中旬の雨量が極端に少なかったためナスの成長が止まり、実がつかない。隣の遊休農地には用水路があるが、自分は使えない。ずらりと並ぶ晴れマークをうらめしく眺めた。「頼む」。8月半ばをすぎてようやく雨が降ったが、収穫量は半分ほどに落ちた。

 同じころ、大府市内ではトヨタ系の工場が、かんがい設備の整った優良農地を埋めて工場を拡張する工事を始めた。6・6ヘクタールもの広さ。“高根の花”に土砂が投げ入れられ、埋められるのを見るのはつらく、憤りすら感じた。

 昨年11月、初めての息子が生まれた。今月にはバイトを辞めた。まだ苦しいながらも農業で、妻と息子を養おうと考えている。

 日本が海外の食料を買えなくなる日が来れば、自国の農地が頼りになるだけに、農政の矛盾を強く感じている。「いまの国は、次の世代のことをちゃんと考えているんでしょうか」

 =文中敬称略

 【大府市の農地転用】 6.6ヘクタールの工場建設予定地は2007年4月に市が除外を認め、東海農政局が転用を許可した。転用目的は豊田自動織機長草工場の拡張。市は「工場建設により活力ある地域農業の確立が可能になる」としている。市内では07年に農振農用地15ヘクタールが転用された。

 

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