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天声人語

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2011年1月29日(土)付

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 白魔と闘う地方には申し訳ないが、ねずみ色に染まった道や田畑を見て、早晩とける雪の方がまだマシかと思った。宮崎、鹿児島県境の霧島連山・新燃岳(しんもえだけ)が噴火し、風下に大量の火山灰や噴石が降った。鳥獣の病に続く、南九州の災難である▼52年ぶりの爆発的噴火で、火口の衝撃波が彼方(かなた)の窓ガラスを震わせた。字面も不気味に、空振(くうしん)と呼ぶそうだ。空模様と同様、大地のご機嫌にも人知は及ばない。だからこそ、防災と民生に人事を尽くすべし、為政者には一時の気の緩みも許されない▼まさにその人が、またぞろ余計な「空振」を広げた。日本国債の格下げに対する菅首相の第一声、というより無反応である。にこやかに「そういうことに疎いので」と言われては、力も抜ける▼財政再建の決意を世界に発信すべき好機にこれだ。空振どころか無気力な空振り。ただの言葉尻ではなく、政治センスを疑う。周辺は「民間の判断にいちいち反応しない」とかばうが、市場をなめる者は市場に泣かされる▼わが国債の信用は、中国のそれと同じになった。少子化で財政は好転せず、国ぐるみの反転攻勢もねじれ国会で望み薄との見立てである。不用意な発言で国債の価値が下がれば、金利が上がり、ローンを抱える人が苦しむ▼首相は投資家が集うダボス会議へと向かった。「疎いので」はもう禁句、国会で棒読みした官僚語も通じない。リーダーの覚悟から絞り出す言霊だけが、深く響くだろう。一発逆転は望まないけれど、菅さん、くらしの雪景色に灰まで降らせてはいけない。

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