余録

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余録:霧島・新燃岳の噴火

 享保2(1717)年正月3日の伊豆諸島・八丈島の話だ。空が急に夜のように暗くなり、しばらくの間、島の家々の中は闇となった。その7日後には小雨のように白い砂が降った--そう記録にある▲「日本噴火志」によると、この異変ははるか西南西の九州霧島は新燃(しんもえ)岳の噴火の影響らしい。「霧島山新燃またまた大燃あり」という一連の「享保の噴火」の一つで、この時は「火石にて家屋焼失」と火砕流も発生、死者も出て牛馬の被害は420頭にのぼっている▲「砂交じり焼け石降り積もり候ところ、田畑麦作菜園埋まること四五寸(十数センチ)……ことごとく砂地となり」とは火山灰による農地への被害の記述である。この26日からの新燃岳噴火でも、すでに火山灰によるほうれん草など農作物への大きな被害が伝えられている▲専門家によっては、今度の火山活動はこの享保の噴火に匹敵する可能性もあるという。享保の噴火は約1年半にわたり大規模噴火をふくむ活動が続き、死者5人、寺社多数を含む600戸の家屋が失われた。今度もマグマの上昇次第で大規模噴火の恐れもあるようだ▲気象庁は4年前から噴火警戒レベルを導入したが、今回初めて「居住地近くまで重大な影響を及ぼす噴火」に対応したレベル3の警報が出た。今のところ居住地の避難準備が必要なレべル4の危険はないというが、町を覆う降灰は住民生活をじわじわと脅かし出した▲すでに空港閉鎖や高速道の通行止めなどの影響も出始め、この先いつまで噴火が続くのか分からない住民らの不安はつのる。この火山列島の住人同士、誰にとっても人ごとではない災厄である。

毎日新聞 2011年1月29日 0時23分

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