NECが、中国の聯想(レノボ)グループと合弁会社をつくり、そこにパソコン事業を移管することになった。レノボは、米IBMからパソコン事業を買収した企業で、パソコンの普及に大きな役割を果たしてきた日米企業のパソコン事業が、中国企業の傘下に入ることになる。
はじめは趣味の道具とみられていたパソコンがビジネスに不可欠のツールとして使われ始めたのは30年ほど前のことだった。IBM製のパソコンが大ヒットしたのがきっかけで、それに採用されたCPUと呼ばれるインテルの演算用半導体と、マイクロソフトの基本ソフト(OS)が、それ以降、世界標準となる。
一方、日本では、日本語の表示という問題があったため国産メーカーが独自仕様のパソコンを開発した。その中でトップシェアを握ったのがNECで、一時は技術的にも世界最先端を走っていた。
しかし、IBMが90年に、日本語表示をソフトウエアだけで可能にする製品を開発し、海外でつくられたパソコンが日本でも使えるようになった。
日本語の障壁が取り払われたことにより、海外の安いパソコンが日本に流入し始める。CPUとOSは同じものを使うわけで、基本性能は変わらない。そのためパソコンは、価格競争の時代に入る。
今ではインターネットの画面上で、仕様を選択して注文すれば、中国の工場で組み立てられたパソコンが宅配されてくる。パソコンのビジネスは、流通業と言ったほうがいいような業態となっている。
そして、すでに海外でのパソコン事業から撤退しているNECは、国内のパソコン事業についてもレノボとの合弁に移すことになった。
デジタル化により、部品を買ってくれば容易に他のメーカーと同じ性能の製品がつくれるようになった。パソコンは、どのメーカーのものを買っても大差がない汎用(はんよう)品になっている。スマートフォンやタブレット型端末も、パソコンと同じ道をたどるだろう。
技術の開発段階では力を発揮しても、汎用化した段階になると苦戦するという日本企業の例は、NECのパソコン事業に限らない。
得意分野を伸ばし、他社が追随できないようにする。部品や材料、製造装置の分野で日本企業が優位に立っているのは、そうした努力の結果だろう。
成長の軸足となるよう主力事業に経営資源を集中する動きが、日本企業にも広がっているが、経営はスピードも重要な点だ。NECのパソコン事業を教訓に、経営者は事業の改革に取り組んでもらいたい。
毎日新聞 2011年1月29日 2時30分