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社説:国債格下げ 危機モードに転換を

 日本の長期国債の格付けが引き下げとなった直後、菅直人首相は記者団に感想を問われ「そういうことには疎いので改めてにしてほしい」と答えた。これを大上段に批判するつもりはないが、ほかに言いようはなかったのかと嘆かざるをえない。

 むしろチャンスであった。例えば「国会の施政方針演説で述べたように『次世代に負担を先送りしない安定的財源の確保』が急務であることを裏付けるものです」ぐらいは言うものであろう。

 米国の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は日本の長期国債の格付けを27日、AAからAAマイナスへ1段階引き下げた理由のひとつに「民主党政権には債務問題に対する一貫した戦略が欠けている」ことをあげている。首相が自信なげな様子をみせれば、ますます軽く見られ市場の評価は下がってしまうではないか。

 格付け会社は米国の不動産バブルを見抜けないどころか、不動産関連の債券を過大評価しバブルの片棒を担いだと批判されている。また、国際金融市場を牛耳る米国に甘い、という声もある。そうであったとしても、今回の日本国債の格下げは致し方のないところだろう。

 経済協力開発機構(OECD)によれば、日本の公的債務残高は国内総生産(GDP)比で約200%と先進国の中では飛びぬけて高い。悪い悪いと言われ続けてきたイタリアですら130%ぐらいだ。

 これで危機に陥らないのは日本が貯蓄大国で国債の95%を国内で保有し、海外マネーに頼っていないからだ。しかし、高齢化が急速に進み、貯蓄の取り崩しが進んでいる。あと数年で国内消化が難しくなる可能性を指摘するエコノミストが少なくない。危機が近づいている。

 財政再建にむけ、国は2020年には一般政策経費を税金でまかなえるようにする、つまり、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字にするとしている。しかし、S&Pは、この数字は20年代半ばまで悪化し続け、中期的に大規模な財政再建策が実施されない限り目標達成は無理と指摘している。

 そして、ここが大事なポイントだが、S&Pは日本の政治の問題解決力に疑問符を投げかけ、国債の格下げに踏み切った。われわれはそうした見方は誤りであり、日本の政治が機能不全に陥ったわけではないことを示さなければならない。

 つまりは国会だ。政府は6月までに社会保障改革の全体像と、その裏付けとなる税制抜本改革の基本方針を示す、という。各党とも危機モードに切り替え、いいかげん、結果を出す政治にしてもらいたい。

毎日新聞 2011年1月29日 2時31分

 

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