何かがおかしいブリーチ
何かがおかしい鰤。
虚夜宮〈ラス・ノーチェス〉。
数多の虚の頂点に立つ大虚達の本拠地にしてその象徴。
虚圏でも最も強大な虚達に護られた砦は、例え護庭十三隊の死神でさえ容易には近付く事は出来ない。
難攻不落の名を千年以上も冠して来た要塞の最奥。通称玉座にて。
そこには一人の男が静かに腰掛けていた。
藍染惣右介。今より遡ること一月前、尸魂界に宣戦布告を果たした大逆人である。
此処に彼が居る事。玉座を占有している事。
それだけで誰もが理解する。この男が虚圏を掌中に制した事を。
かつて。それ程遠くない昔、玉座に腰を下ろす事が出来たのは一人の王だった。
大帝バラガン。虚の神を名乗る最上級大虚〈ヴァストローデ〉。
強大無比な、正に神の如き力を誇った最強の亡者を。
彼は完膚無きまでに下した。まるで、赤子をあやすかのように、いとも簡単に。
大勢は崩れた。虚だろうが死神だろうが関係無かった。その時より男は。
藍染惣右介は虚の王となった。
「死にたい・・・」
男は頭を抱えていた。完全に俯き、目は虚ろだった。
明らかに尋常では無かった。その言葉通り、本当に死を望んでいるのかもしれない。
何故此処まで追い詰められているのか。
無様というだけでは語り尽くせない彼の姿は。虚圏の王、藍染惣右介とは余りにもかけ離れていた。
一体何があったというのか。万人が衝撃を受ける様な哀れな背中。
平素の彼を知る者達からすれば目を疑う光景である。だが、蓋を開けて見ればどうという事は無いのだった。
本当に些細な理由だった。実の所、誰も理解していないのだ。真実を。
では、少しだけ。ほんの少しだけ覗いて見るといい。鉄壁の霊圧にとり囲まれた、彼の「心」を。
もう許してくれ。何度思いだせば僕は。
『驕りが過ぎるぞ、浮竹』
その言葉をそっくり返してあげたい。
なんで『僕』はあんなにも上から目線なのか。
繰り返し再生される映像。擦り切れる程巻き戻されたシーンは、コマの一つ一つまで鮮明に焼き付いている。
そして極め付けは、締めの一言だった。
『私が天に立つ―――』
「ああ・・・」
もう駄目だ。
僕はもう、もう。ヴぉくはもぉぉおおおおおおおおおおお!!!
「死にてぇよおおおおおおおおおおおおおあおおおおおおあああああああああああああ!!!!」
ゴロゴロ。
転がった。恥も外面もかなぐり捨て、一心腐乱に。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロごろごろごろごろGOROGOROGOROGOROGORO!!
「どんだけぇ!? 僕って真剣にどんだけぇええええぁああああ!?」
僕は啼いた。唯只管に啼いた。
哀しい事ばかりの人生だったけど。最高にキツイ思い出はあれより他に無かった。
そうです。ぶっちゃけちゃいますと僕って実は。躁鬱病なんです。上がった後にガン下がりするんです。
なんと! 藍染様は不治の病に陥っていた!!
「ああ、いけない。もうこんな時間に」
一頻り転がり尽くした後(勢いのあまり部屋の角に頭をぶつけて溜飲を下げる)、懐中時計を見ると約束の時間が迫っていた。
もうすぐ人と会う約束をしているのだ。正確にはヒトじゃないけど。
勿論、呼び出したのは僕じゃなくて『僕』だ。
・・・・・・。『僕』って紛らわしいな。そうだ、自称から取って『私』にでもしよう。
つまりは『私』が部下を呼び出したという事。今後の為の重要な布石を打つ為らしい。
僕としては今すぐにでも尸魂界に出頭してめんごしたい所なんだけど、余りにも手を汚し過ぎている。
仮に全裸手錠付きで帰ったとしても、万象一切灰燼と為されるに決まってるし。
まぁ、辿り着く前に十中八九嬲り殺されるだろうけどね。
この状態の僕は弱い。かなり。
別に戦闘力が皆無って訳じゃないんだけど、それでも『私』と比べると激しく劣ってしまう。
良心的に見ても下位の隊長格、日番谷君位の力しかない。
最有力はギン。次点でバラガン。後はノイトラ、グリムジョーって所だろうね。
僕を恨んでる人達なんて数えたら際限が無いんだよねぇ。言ってて悲しくなるけども。
兎に角、降伏は無しって事。『私』に従うの癪だけどこのままつっ走るしかないってね。
中二な性格や語り口以外は優秀なんだよ『私』も。
ではでは。時間が無いので面談っと。本日の相手は―――
今日の僕の予定
・ウルキオラに会う
・薄ら笑いを浮かべる
・中二言語を羅列する(←ココ重要)
※時折、ギンや要がふらっと来るので警戒。
「ウルキオラ、かぁ・・・」
別に嫌ってる訳じゃ無いんだけどね。
実際、十刃〈エスパーダ〉の中じゃ一番マシな部類だし。粗雑なヤミー達とは育ちが違うって思う位。
何故か知らないけどやたら従順なんだよなぁ。
良い子なんだけど、ねぇ。何か怖いんだよ。
無表情だし。目元にライン入ってるし。指先黒いし。響転〈ソニード〉迅すぎるし。
余計な事をする馬鹿(誰とは言わないけど)よりは数百倍マシだけど。
「はぁ、鬱だ・・・」
何時まで愚痴っても仕方無い。さっさと会って命令してご飯食べて寝よう。
懐から手鏡を取り出し、ワンタッチで開く。
オールバック確認。上着の開き具合、胸の見せ具合OK。頬杖良し、足組み完璧。
最後に瞳をキリッ―――
「藍染様」
「」
目の前に彼女はいた。
少し動けば口づけさえ出来そうな距離に。
第4十刃〈クアトロ・エスパーダ〉ウルキオラ・シファー。
虚夜宮最強の女の無表情は、今日も変わらず肝が冷える。
いい加減に響転で近付くのは勘弁して下さい。漏れます。