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[25323] 【習作】もう一度、今度は二輪の花で……【北斗の拳(憑依?)】
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/09 10:40
 どうも    ジャキライと申します。
この作品には作者の妄想が多分に含まれています。
 そう言うのが嫌な人は北斗千手殺。
 構わないというモヒカンの方々は北斗羅漢撃な感じで見てやって下さい。












 酷く、頭が割れそうな痛みだった。
喉が焼けつく様に水を望んでいて、そして胸の何箇所がやけに何かを求めていた。

 気が狂いそうな位に必死に何かを訴えて、身が引き裂かれそうだった。



誰かが……俺の事を呼んでいたような気がする。
 最初の声は懐かしさと怒りと哀しみと憎しみが入り混じった気持ちが俺の胸
を満たして、どうしようもなく当り散らしたい衝動を覚えていた。
 二人目と三人目の声には嫉妬と先ほどよりは薄い怒りが滲んだ感情の波が
襲ってきて、そして嫉妬と同じぐらいに畏怖の気持ちが俺を縛っていて、それ
は俺の中では憧憬ではなく、俺の悪意を紛らわせる願望だったんだと思う。
 四人目の誰かの声もした。
 そいつの声を聞いた瞬間、堪らないぐらいの殺意と憎悪が俺の中と外を流れる
のを感じた。引き裂いて心臓を貫いてやりたいぐらいの破壊衝動と願望が襲う。
 俺はそいつが俺の「 」を奪った事が何よりも許せなくて、そして「 」に
俺がなれたら、失わなくて済んだんじゃねぇかって。そんな滑稽で陳腐な仮定が
割れそうな頭の中をぐるぐると過ぎった。

 誰かが……俺を呼んでいた。

そいつの事を俺は唯一嫌いだと思わなかった。そいつは俺にとって唯一守って
やりたいと思えた奴だった。
 俺の心が言っている。
あいつともう一度もっと喋りたかった。あいつともう一度もっと触れたかった。
あいつの夢について聞きたかった。あいつの夢が何であれそれを守りたかった。
あいつを守りたかった。好きだと言ってやりたかった。愛してるって……。
 
 俺の    心が      叫んでる。

 俺の    心が      





…………。

……。

…。





 「……知らない天井だ」
 目を覚まして第三番目の少年の台詞を呟いて起きた俺。何でか知らないけど
お世辞にも綺麗とは言えない部屋、そして隣の窓からは見慣れない景色が見える。
 アレー? って思いながら、とりあえず落ち着くために近くに設置していた
洗面台で顔を洗って、鏡を見た。
 「……誰だお前は?」
 釣り目、針鼠みたいな感じの髪、今は可愛いけど将来的に何だか悪人になりそう
と不思議に思える顔。……あれ? 俺、こいつの顔どっかで見覚えあるぞ?
 「うんっ、起きたかジャギ」
 「へ?」
 扉を開ける音と共に、並みならぬ風貌のおっさんが微笑みを携えて現れた。
いや、おっさんの微笑みなんて朝から俺はno thanky……うん? このおっさん
今俺のことなんて呼んだ?
 「え、あの」
 「朝食はもう出来ている。お前も速く来なさい、ジャギ」
 そう言っておっさんは俺の言葉も聞かずに消える。てか、聞き間違いじゃない?



     え?     聞き間違えジャない?



え?   俺ってば                  ジャギ?



[25323] 第一話『目指せ! 汚物の野望!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/09 10:41
 「はっ、はっ、はっ……」
 急な階段を汗で濡らしながら、一人の少年とおぼしき人物が駆け上がっている。
その者の名はジャギ。十何年後かには、世紀末救世主に殺される予定の人物だ。
 「……これでっ……二十三……往復……!」
微妙な数字で倒れ付すジャギ、我ながら何て脆い体だよって思ってしまう。
 「てか、何でジャギなんだよ……」
確かに北斗の拳や蒼天の拳は前は愛読書だったけど、この仕打ちはねぇだろうと
正直に思う。いや、神様恨んだとしても、こちらの世界ってマジで神様もどき
出てきそうだから心の中でしか言わないけど。
 まず正直なんでジャギになっているのか? と問いただしたい。
別に事故に遭った覚えもないし、覚えているのは昨日北斗の新ゲームやって
レイの声カッケーとかそんな思い出しかないのだ。
 うん、ぶっちゃけ死んだと思しき記憶がない。
 というか北斗の拳の世界に入り込んでる時点で、俺の運命詰んでる気がするが。
 「……核落ちたらどっちにしろ拳王でアボーンじゃねえの?」
 そう。この世界、ぶっちゃけ主人公以外はほぼ死んでる。
下手なモブキャラならモブキャラでモヒカンに消毒されるし、有名所で死なないの
野球(バット)君とリンリンとレイのセクハラ攻撃受けた彼女ぐらいだし……。
 「……体鍛えないとまずモヒカンとかで殺されるって糞ゲーだろ」
 うん、とりあえず北斗神拳覚えるっていう選択肢を捨てる手段がない。
 伝承者争いで頭ポップコーンにされるのは自分の心次第で回避出来るし、
ある意味ジャギになった俺って運が良いんじゃ? いや、運が良いと思わないと
やってられないっす。 運が良いって言ってよ、お師さん……!(※師が違います)
 
 「とりあえず体を鍛えないとなぁ」
 体力がないとこの世界やっていけない。そして体力があれば北斗神拳の習得も
早くなる⇒兄弟の競争に僅差になる⇒彼女が出来る……最後はないか。
 そう妄想しつつ階段を駆け上がるのを一休みしつつ腕立てをしながら、ふと過ぎった思考を口にした。
 「……俺がいなければとりあえず南斗と争わなくても済むんだよな」
 思えばジャギは小物に見られがちだけども、シンを唆したり、外伝ではアミバに
奇跡の村を襲う手段を教えたりと、何かと元凶と言っても過言ではない事をしてる
のだ。けれども……。
 「でも、俺がしなくても誰が別の奴が起こすんだろうなぁ……」
タイムパラドックスを修正する為に、俺以外の誰かがシンを唆すんだろうと予想
してみる。(多分、媚びぬ!聖帝と、俺は美しい!様は反乱起こすし)
 第一、ジャギの存在ってシンの事で省かれたら実際『俺の名』以外じゃほとんど
存在価値ないって思うし……。つうかそれでじゃなくてもユリアに執着してたから
俺が別になんかしなくても勝手にケンシロウに傷作るんじゃね?KING。
 『ケンシロウ』、そう頭の中で単語が浮かんだ瞬間、不意に激痛が走った。
不快感に眉を顰めつつ、額に手を当てながら痛みが引くのを待つ。
 何でか知らんが自分の名前とケンシロウの事を考えると頭に激痛が起きるのだ。
多分推測だが、俺の漫画知識の中でジャギが死ぬシーンと、今のジャギの体が
同調して、自分の嫌いな単語で自分の死ぬシーンがリアルに再現されるんじゃない
かと自分は考えている。
 「……つか俺ってば本当に名前思い出さないとやばいってばよ」
 某主人公忍者の台詞をパロって見るけど、本当に深刻だ。
自分の名前が思い出せないとか、どんな記憶喪失よ。本当……。
「……けどまだ慌てる時期じゃない、か」

 そう、どうやらまだトキとラオウと救世主は寺院に訪れていないのだ。
それならばこれから体を鍛えつつ、フレンドリーに接するイメトレも出来るはず!
 

     俺は世紀末一般人になってやるぜ!     ……きっと。

 



[25323] 第二話『親父の愛が辛くて死にたい』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/09 19:39
 独自の訓練を開始し始めて六日目。とりあえずある程度の世界観を理解した。
1まず北斗宗家の三人が寺院に居ない。
2リュウケンは北斗神拳に関してまったく生活の中でおくびに出すことはない。(※そして未だスキンヘッドでない)
3自分、まだ五歳ぐらいだった。そして、リュウケンの養子
            アレー? 何、この世界?
 まあ時系列的に修羅の国にあの三兄弟がいるんだと思うけど、何で俺はリュウケンの養子になってるんだろうか? 
 リュウケンに関してだが、一番やばいのが俺がそれとなくこの寺院に関して質問しても言葉を濁して説明して、北斗神拳に関しては俺に決して知らせる気がない。


        そう、 俺に関して 知 ら せ る 気がない。

 いや、きっと自分のmy sonにそんな危険な拳法教えてどうすんだjkって言う
気持ちだとは思うんだが、それを身に着けないと俺、世紀末に死ぬよ? パパン。
 ってか何で五歳児なんだ俺? そりゃクソ長いあの階段三十往復もすれば絶対
へばるだろ。と言うよりも五歳児で三十往復も出来た方が驚きだわ!

 「大丈夫か、ジャギ? いきなり一人で蹲(うずくま)ってぶつぶつと……」
 「あっ、な、何でもないよ父さん」
 そう言いながら体を起こして笑顔でリュウケンを見つめる俺。精神のsan値が
地味に減ってくるが、変に疑われて現伝承者のほあたたたた喰らってアボーン☆
よりは確実にマシなので、普通に可愛い息子を演じてる。
 その俺の態度にほっとした顔つきになった後、引き締めた顔でリュウケンは
俺の眼をじっと見つめながら質問してきた。
 「そうか……。最近、外で鍛錬をしているようだが、どうしてなんだ?」
          
              ギグッ! ……来たか。

そりゃまあ、汗かいてべそかきながら階段往復して死に物狂いで腹筋背筋腕立てを
やってたら疑われるの当然だ。
 
 けど、この俺は普通の汚物ではない。ちゃんとこの質問に関する回答はある!

 「……父さん。父さんは僕の事、燃え盛る火事の中から助けたんでしょ?」
 「うぬ、そうだな」

 そう。どうもこのジャギ君、火事で赤ん坊の頃両親を失いリュウケンに助けられた後に、リュウケンの元で育ったという設定なのだ。
 
 食事の時にちょびっと上った話題だが、俺はそれを最大限に今こそ活かす!!

 拳を握りながら、俺は強い目線でリュウケンを見上げると力強く言った。
 「だから……。だから僕、大きくなったら父さんも守れるぐらいに強くなり
たいんだ! 父さんを守れるぐらいに……強く」
 「……おお、ジャギ」

 俺の言葉に、目尻から涙を垂らしつつガシッと俺を抱きしめるリュウケン。
一握りの罪悪感が心を責めるが、こんな理由でもないと危ないから訓練なんて
止めなさいとか言われちゃあ、折角の北斗神拳身につけるまでのマル秘大作戦
 基礎体力を磐石にしてすぐに北斗兄弟に並んでやるぜ! ジャギ様は本当に
頭の良いお方大作戦が水の泡に帰すはめになるからな……。
 そう何やかんやで俺が鍛錬する事に関して親父は何も言うことは今後なかった。
むしろ俺の為に重しのついた服とか手縫いで作ったりしたもんで、それを夜に
手洗い済ます為につい見てしまった時は申し訳なくて死にたくなった。

 そして、現在も結構死にたい状況に陥っている……。


 「ここ、何処だよ……」

 

 そう、鍛錬の為にランニングがてら寺院を出て走りこみをしたはいいが、
      現   在    絶    賛     迷   子   中


 「本気で馬鹿だろ、俺」

 がっくりとうな垂れつつ呟きながら、今日は野宿する事を本気で考えていると、
一匹の犬が寄ってきて俺に元気を出せと言う感じで舐めてきた……泣かんぞ、俺。

 「お前も迷子か? お互い大変だよなぁ、おい」
 そう撫でてやっている時に、遠方からバイクのエンジン音。
 
そういえば未来でも乗っているんだよなー、と呑気に考えていたら。そのバイク、
生意気な事に犬ごと目掛けて自分を轢きそうになった。

 「馬鹿が! てめぇ轢き殺されてぇの……」
 
 「馬鹿はてめぇだぁっ!!」
 文句を言う前に飛び掛って頬に右ストレート。
君がっ!泣くまでっ!殴るのを……いや、自粛するけどね? うん。
 「てめぇ何するんだこの野郎!」
 「うるせぇ! 犬殺す気か! 雑種の方が何百倍も可愛いんだぞ!?」
 「訳わかんねぇこと抜かすなっ、このっ……」



          「はいはーい、 そこまでっ!」

 乱闘に突入五秒前、という時。
 この場には似つかわしくない声が、俺と不良の間を割って入った。

          「今のあんたが悪いよ。この子に謝んなっ」


 大人ぶった子供の声。そして微かに鼻をくすぐる、嫌ではない香水の匂い。
 そして見やれば特長的なバンダナをしている赤いレザーを着た女の子。
リーダー的な人間の隣で微笑みを浮かべながら、俺を見るとニコッと微笑んでた。



       あれ?      誰?        この娘?



[25323] 第三話『お前のような娘がいるか(可愛さ的な意味で)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/09 19:18
 「はい、ココア」
 「お、おうっ、サンキュー……」

とある屋内。 バーもどきの部屋の端でココアを馳走になっている俺。
 息を吹きかけつつ甘ったるいのが口の中に流れるのを感じながら、始終こちら
を眺めてくる女の子に、どうも落ち着かなくて折角のココアの味も一割減な状態だ。
 ……てか何でこの子俺の事さっきからじろじろ見てるんだろう?

 最初に出会ったときも、『その度胸の良さが気に入った!』とか言う台詞で
俺の事を指差して宣言してたし。バイクでとりあえず一泊さしてくれる事になった
次第の流れの中でも、俺の事を見ながら不気味ににこにこしていた。
 
         ……俺の顔って、そんなに珍しい顔か?

 それとなく質問しても、こいつは『え? 私そんな顔してた?』ってとぼけた
返答しかしねぇし。……それに俺も何でか知らないけどこの女の子の顔を見てると
胸が変にドキドキして、妙な気分になる。


 
 (北斗の拳の世界にこんな登場人物いたか? つうかこの体がドキドキするって
事はジャギに関連した人物って事だけど、ジャギに面識ある女性なんてユリア以外
にいんのか?)

 暗中模索と言う状態で頭がフィードバック起こしかけた時、頭に掌の強い感覚が
襲ってきて、俺は思考を一旦遮断してその人物を見上げた。
 「おい、ガキがそんな難しい顔してちゃしけちまうぞ?」
 「……ガキじゃねぇよ」
 「はっ! 大人ぶるってのがガキだって言う証拠なんだよ。……何を悩んでるのが知らねぇが、重く考えるなよ?
 子供のうちからそんな切羽詰った表情してたら、笑顔も上手に出来ねぇぞ」

 そう俺の肩を叩いて、80年代風のリーゼント頭のリーダは階段へ消えてった。

 ……あのリーゼントじゃなければ俺ももっと感動出来るんだけど。
 「ねぇ、ジャギ」
 「あん、何だよ。アンナ」
 そう俺が呼んだ瞬間、途端にこいつは綻(ほころ)んだ顔をした。
 「へへへ」
 「……何だよ、気味が悪ぃな」
 「あ、酷い言い方。……何でか知らないけど、私、ジャギと初めて会った気がしないのよねぇ。こういうのって、デ、デ……」
 「デジャビュか?」
 「そう、それっ!」
 大げさに指を突き出して、我が意を得たと言う満足気なアンナに、俺は何故か高鳴る胸のドキドキを隠す為に無理やり不機嫌な顔で、向けられた人差し指をどけて言った。
 「人を指差すなって言われてねぇのかよ。行儀悪ぃな」
 「暴走族のドン(首領)の妹がマナーなんて気にしないわよ。それにジャギこそ
人の事さっきから睨んでさ。それこそマナー違反じゃん」
 「……元々こう言う顔なんだよ。」
 顔を逸らす俺に、頬を膨らませ若干睨みを利かせていたアンナだったが、直ぐに
笑みを浮かべると、身を乗り出しつつこう言ってきた。
 「ねえ」
 「あん?」
 「私の名前、もう一度呼んでくれない?」
 ああ? と、怪訝な顔をする自分。そりゃ元の体のジャギでも、俺と同じ反応をすると思うぞ? そう思考する俺に、目の前で金髪を揺らす女の子は俺を急かす。
 「ねえ、呼んでよ」
 「うっせえな。つか、何でだよ?」
 何でもよ。と、答えにならない答えに俺は頭を一瞬抱えてから、気恥ずかしい感情やら懊悩やらを頭を掻きつつ一旦収めて、じっと目線を見据えて言った。


               「……アンナ」

 「……っ」
 そう呼びかけると、当の本人はわかりやすい変化で、頬が薄っすらとピンク色に染まって、その後炬燵で眠る猫のように目線を垂らしつつ、微笑んだ。

   
           え   なに  この可愛い生き物

 いや待てよ俺。この年で見た目チルド世代にときめきってどうよ?
つか俺は承太郎先生曰く、大和撫子がタイプだぞ?(※アメリカ人と結婚したよ)
それに俺は二十代だろ? 盗んだバイクで走り出す世代は過ぎているよ?でも逆に
この年齢だから可笑しくないよ?でも俺の精神年齢的に炉利だよ?完璧アグネス拳
の餌食にされちゃうよ? いや、アグネス拳って何だよ。青少年法の魔の手がここ
にも迫ってきてるって言うの? いや いい加減に落ち着けよ、  俺。

 



 


 「……何バカップルやってんだ。あいつら」
 先ほどジャギに殴られた不良Aは、先ほどの件に関して文句を言ってやろうと
隙を窺っていたが。二人の発する桃気(とうき)に機を失われた。




[25323] 第四話『愛など要らぬって声が千の風に乗って聞こえた』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/09 20:34
 後日アンナとリーダーと共に寺院へと送って貰った俺。(※ちなみに犬もいる)
アンナからは『迷子とか子供じゃん』と笑われたが、るせぇと軽い言葉の応酬を交わした後が問題だった。ピンチが訪れた。
 「……ジャギ、今まで何処に行ってた?」
 そう心配な顔と深く険しい皺を携えて、階段の上でリュウケンは俺を迎えた。
  
 ウワー、完璧に怒ってらっしゃる。

どう言い訳しようかと考えていると、横からアンナが飛び出して言った。
 「あのっ! 御免なさい、ジャギのお父さんですよね?」
 「うん? ……そうだが」
 「私が悪いのっ! ジャギを一晩私が勝手に泊まらしたから……」
 君は誰だと言う台詞を遮りつつ、アンナは昨日の事を大まかに説明しだした。
それを聞いてリュウケンの顔の皺は幾分か薄れ、『心配させるでない』と言うお叱りの言葉で済んだ俺。ビバ感謝、アンナ。
 リュウケンと出会って何か雰囲気が悪くなるんじゃないかと心配していた俺であったが、そんな事も別段なかった。
 いや、だってさ? 不良とかそう言うのリュウケン目の敵にしてそうだし。
 余り心配性になりたくねぇなぁと考えつつも、ふぅっと汗を拭う俺をアンナは服の裾を引っ張って注意を引いてきた。
 「うん? 何だよ、アンナ」
 「ねえ、ジャギ……」
     何かを言い含み、口ごもりながら服の裾を離さないアンナ。
アーカワイイナーモウーとか頭の中が花畑になりつつも、このままじゃ埒が明かないのでアンナの頭を無理に上げて言った。
 「言いたい事があるなら、言えよ。ちゃんと聞くからよ」
 その俺の言葉に、少しばかりアーとかウーとか変に呻いてから、勢いよく言った。
 「あっ、あのさ! これからも何度かここに来てもいい?」
 不安と期待を交ぜ合わせつつ尋ねてきたアンナ。……何でそんな事を聞くんだ?

 「……当たり前だろ。変な事を聞くなよ」
 そう返事をすると、花みたいな笑顔をぱあっと浮かべた。……心にドストライク。
 「父さん、良いでしょ?」
 首を向けてリュウケンへと問いかける俺。北斗の寺院は確か原作知識だと女人禁制な気もしたが……大丈夫だよな?(ビクビク)
 「いや、……この寺院は」
 「父さん」
 「う、ん? 如何したジャギ?」
 「僕、父さんが駄目だって言ったら絶縁するから」
 「ぜ、絶縁っ!?」

 驚愕の顔をするリュウケンに、拗ねた顔を作って横を向く。……ふっ、これこそ秘技 愛息子の我侭よ! どうだぁ~ 悔しいかぁ~?

 俺の言葉に頭を悩ました後、……少しぐらいならば、と折れた。……勝った!

  ハッハッハッ! どうよ! 父の心変わりとは恐ろしいものよの~?

 いや、傍目子供の微笑ましい約束事を目の前で見せられたら、極悪人以外なら説得出来ると踏んでたけどね。
 ……某聖帝なら『愛などいらぬっ! 愛などいらぬっ!!』とか言って鳳凰拳の奥義繰り出してきそうだけどな!

 そんな事を考えていると、助けた犬が俺の足元に擦り寄って仕切りに首を擦りつけて来た……雑種犬好きの俺の心をこいつは知ってるな。
 「ジャギ、この子ここで飼うの?」
 「ああ、そうするつもりだ」
 撫でながらアンナの言葉へと返し、リュウケンを見遣ると仕方なさそうな顔を浮かべて首を小さく振っていた。……この手応えだと上々っぽいな。
 
 リーダーの背に乗って帰るアンナを見送りつつ、手を振る俺の横でリュウケンは俺に言った。
 「ジャギ」
 「うん? 何、父さん?」
 「友達が出来たのだな」
 「……ああ、とっても、大切な友達」
 「……そうか」

 夕焼けが真っ黒な針鼠のような頭の少年と、年老いながらも微笑みを携えた僧を照らしつつ、俺とリュウケンはゆっくりと踵を返すと、寺院へ戻った。



 「ねえ、父さん」
 「どうした? ジャギ」
 「少しって、週にどのぐらい?」
 「……三日に二時間ぐらいかな」
 「四日に五時間にしてよ」
 「いかん! 三日に二時間だ!」
 「じゃあせめて五日に三時間は会わせてよ! 何!? 俺に女人禁制の寺院で男色家になれとでも言うの!?」
 「だっ……! 何処でそんな言葉を覚えたんだ! それに俺なんて言葉遣い、私は許さんぞ!」
 




 ギャーギャーと口論する二人の上で、阿呆鳥がやけに喧しかった。












後書き

北斗三兄弟はこの一年後ぐらいに登場します。
 実際ジャギの運命の女性と出会うのは時系列でもっと後ですが、それだと
自分的にやきもきしたので、こう言う出会い方にしました。
 犬に関しても実際の作品には出ます。
描写的に言いますと、カイオウとラオウが飼っていた犬とよく似ていると思ってください。



[25323] 第五話『ギーズ大佐! お助け下さい!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/09 22:34
 
                  (´・ω・`)   やあジャキライです。

   うん、今回の内容はほとんど中の人の説明とこれまでの思考を整理する『まとめ』と、これからの事についての未来予想図しかないんだ。

    けど、この題名を見たとき言葉では言い表せない『ときめき』を、みんなは味わえたとおもうんだ。

 その気持ちを 出来ればこれからも持ち合わせて欲しい。

    それじゃあ、駄文もおなざりに、ここからが本文です。











   





       我輩はジャギである。名前は未だ(思い出せ)ない

何でこんな事になったのか、本当わけがわからない。
 北斗無双でジャギで27分で完クリした事とか、AC北斗でcpuのトキにパーフェクトで勝てた事以外に心当たりはない。
 リュウケンの顔を見た後に、これは夢だと見当つけて朝食終わって寺院で座禅をやって、そんで町の子供に『やーい! お前の父ちゃん、霞羅門~!』とか言われたんで激流を制するは⇒ハーン! セッカッコ! テレッテー 紅の豚さん有難う! とか言う感じで黙らせてから寺院に帰って。

     あ ありのままに起きた事を話すぜ! 気がついたらジャギになっていた。な、何を言っているのかわからねぇ)byトイレの災難の君へ

              本当、そんな心理描写なんで困る。

 今はあの三兄弟がいないようなので割愛するけども、何で俺はジャギなんだろう?
 何故私はジャギであり、ジャギは私なのか? ……哲学だな。

 ベットの上で頭を悩ます俺。というよりも何故だが自分の名前が思い出せぬっ!

自分は父、母、祖父ちゃん、弟を含めた五人家族で、バイクには結構五月蝿くて漫画に関しては二倍五月蝿かったのは覚えてる。
 ってか弟とは別段仲も悪くなかったし、普通に地方の大学で過ごして帰る一般ピープルだった筈なのに何でこんな目に……泣

 「あ~あ! どっかにスタンドの矢かdiscねぇかなぁ!」

 せめてスタンドとか一方通行とか、百歩譲って無限の剣製で良いから欲しかった。
 ここが現実だって認識した瞬間かめはめ波とか色々試行錯誤してみたが……結果は惨敗。リュウケンに見られて痛い子扱いされなかっただけ恩の字だと思おう。

 「……いや、待て、諦めるのにはまだ早い」

 そうだ。この体はどうやら低スペック。けれども鍛えてやればどうだろう?
某中国茶の人だって頑張れば番外編でボージャック辺りと互角に戦えたのだ。

 俺だって今から頑張れば三兄弟は未だしも、いてぇよぉ~!! 様をぎったんぎったんのけちょんけちょんに出来るぐらいはいけんじゃねぇ?
 
 「……となるとやっぱ持つべきは北斗神拳と、南斗聖拳だよな」

 二指真空把(にししんくうは)とか転竜呼吸法(てんりゅうこきゅうほう)やら北斗神拳には魅力的な技がかなりあるので、これは世紀末に欠かせない。
 それに今から南斗と仲良くなっておけば、南斗邪狼撃(なんとじゃろうげき)以外も覚えられる可能性があるのだ。
 そうすれば蒼天の拳のギーズ大佐見たいに銃弾を操ったりと……ああ、夢が広がリング! 実際は北斗孫家拳の技だけど、出は同じだしな!

 重火器だって今から適当に何処からか調達出来るかもしれないし! (方法はどう考えても犯罪行為になりそうなんで思考の片隅においやる)

 それに含み針も馬鹿にされてるが、あれだってカイオウの呼頸虚塞とかを破るには欠かせんし、秘孔を封じる思わぬアイテムになるかも知れないのだ。もしかしたらケンシ……(突然の激痛に身を悶えていますので暫くお待ち下さい)
 ……世紀末救世主が負けてカイオウ乗り込みフラグも有り得るしね!!

 


  よし……決めたぜ。




    俺はこの原作知識とジャギの体をフル活用して、世紀末を生き延びる!

   そして伝承者争いで三人と好感度フラグを斜め上で保ちつつ拳が潰されぬ適当な言い訳を形成しつつ生き延びてやるのだ!

 ラオウ(拳王軍)と救世主(ケンシロウ)の板ばさみとかになりそうで恐いけど……頑張って見せる!

 そうさ俺はやってやる! 俺は世紀末に生きる通りすがりの北斗神拳使い(※仮面はイナゴ印でなく鉄仮面)として生きる!


  世紀末一般人として絶対に生き残ってやる!!         絶対に生き延びてやる!!
 






あとがき

こんな感じで中の人の憑依lifeが始まりました。
 
実際漫画の知識以外は結構鈍めのオタクだと思って貰って結構です。

 けど時折ジャギの癖に主人公補正とか付きそうなんで、汚物の嫉妬でこれからも先行きには数々の困難が与えられます(我二七難八苦ヲ与エタマヘ!

 こんな汚物ですが、これからの作品を暖かく見守って下さい

 デハデハ ノシ



[25323] 第六話『いっしょにとれーにんぐ(前編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 10:10
         


          「ジャーギ♪」

 そんな甘い鈴のような音色と共に、離れがたい睡魔を寄せるシーツを押しのけて金髪の女の子は怠惰を貪る俺の目を見つめる。
 
      「もうっ、早く起きないと駄目じゃない。今日も街の見張りなんでしょ?」

 その問いに俺は、少しぐらい寝過ごしても罰が当たらねぇと言いながら、そいつの腰を手さぐりで抱き寄せて隣に置いた。

 文句の言葉も短く、すぐに甘い吐息を耳に近づけて、そいつは俺の首に細い腕を回しつつ微笑みながら俺の名を呼びかけて頬を舐めた。




          あぁ?                 頬を舐めた?

 そうペロペロとアンナは俺の頬を舐めて……って、うん? この展開どっかで見たぞ!? そうだ……確か二作目は不詳の『マス……。







 

               



               「……起こしてくれて有難うよ」
                     「アンッ」


 べたべたの唾液をつけさせた張本人ならぬ張本犬のリュウ(※ジャギ命名)を抱かかえつつ、不機嫌な目つきで俺は覚醒した。


 


 AM5時ちょっと。雑種犬リュウに飯を用意した後階段の駆け上がり、駆け下りのランニングを始める俺。
 季節は二月を過ぎて秋の中頃。着実に冬は到来しようとしていた。
余談だが、俺がこの犬にリュウと名づけたのも未来へ向けての策略の一つである。

 ラオウの兄カイオウの飼っていた犬と未来の息子の名前を合致させたこの名前、この犬を飼う俺に少しは不和感も薄れるのでは?
 そんなチキン思考で思いついたのだけど……出会い頭に俺の飼っている犬を蹴り飛ばしたりとかしないよね? 兄たま……。

 俺そんな行動取られたら『な、何をするだーっ!』って行動取れんし、『俺は人間をやめるぞ! リュウケン!』とか言われても困る。

             ……吸血覇者ラオウとか、DIOやカーズでも倒せねぇよ

 
   ランニング終了後、リュウケンと朝食(親子のスキンシップ)を済ませ、ランニングを再会……と見せかけ別の修行。

 
 リュウケンにも黙っているが、ランニングと腕立てと背筋と腹筋以外のトレーニングは……実はしている。
                    
                    ……それは。


        
          ……コン     コン     コン     コン    コン    


        「……58、59……71、72」


                うん、突きの練習。

 石の窪みに向けて指を何回も突く練習を繰り返す俺。
 何でこんな事をするかと言うと、自分の名前も思い出せない馬鹿阿呆の癖に昔のジャギの記憶のような物が夢に現れたからだ。
 その記憶の中でリュウケンは木の窪みに向けて何回も人差し指を悪い言い方になるが藁人形を打つようなスピードで打っていた。

 ……赤ん坊の自分を背負いつつ木の窪みに突きとか……傍目から見て呪いの儀式だよな。

 


 とにかくその記憶を見て、あれ? イベント!? とハチャメチャの押し寄せる気持ちで修行を開始したのだが……クソ痛い。

 「……第一これで何の効果あるのか全然わかんねぇぞ」
 
 この修行に関しては凄い気の遠くなるような怠惰な感覚が芽生えて来るが、来るべき世紀末の為にはこの修行だって必要だと
 むりやり自分を納得させて、熱くなれよ、もっと熱くなれよー! と突きを再開する。

                     ……突き指になるな。何時か



 

  そしてお昼ごろ、寺院の階段の下で片手などで逆立ちをしている俺の元に、アンナは弁当をぶら下げつつ笑顔で訪れる。

 正直この弁当と笑顔がないと修行で削られるsan値を補えられない。マジ天使、アンナ。
 どうも兄のリーダーと本格的にこの町を拠点に暮らすつもりらしいが……原作に影響出ないよね? ……出ないよね?)ガクガクブルブル


 そしてお昼もそこそこ俺はアンナと組み手をするのだ。   はいここ重要!




     そう            何故かアンナと       組み手をしているのだ。


   切欠は一ヶ月ほど前にクレージーズとか言う訳ワカメな暴走族にアンナ達の住む場所が荒らされたのが始まりだった。

 それで俺の町の一角にとりあえず場所を移して『あーあ、私が強くなったらあんな奴ら追い払うのに!』とかアンナが言ったのだ。



 「それじゃあ俺と修行するか?」      「え? いいの?」

               閑話   休題



                   


                   うん、こんな感じであっさり決まった。



組み手と言ってもアンナに俺が軽く格闘の初手(これでもこの世界の前じゃ格闘技齧ってたんだ)を教えて、アンナはそれを試すって感じ?

 


     ドサッ          鈍い感じで地面の叩かれる音が響く



 「あー、もう! また一回も触れられずに負けたー!!」
 「いや、アンナも段々素早くなってるぜ? 俺も今日は危なかったし」
 「本と?」
 「俺は本当の事しか言わねぇよ」



 そう言い切ると、不満気な顔をすぐさま笑みに変えて、アンナは持ってきた荷物から水筒を出すと、俺に甲斐甲斐しくも差し出してきた……ええ子や。


 リーダーもアンナが体を鍛える事には口出ししなかった。
 『言っておくけどな、何があったらお前が一番に守ってやらなきゃ駄目だぜ?』と、釘は刺されたけどな。



 そしてそんな感じで軽く色々話をして、日が傾くまで時が過ぎる。

 どうもアンナは兄と暴走族の仲間以外には身内と呼べる者はいないらしい。俺も天涯孤独だからとやかく言わないが、アンナは話題に上ってるとき
ちらっと寂し気な表情が出ていたのが胸を痛めた。

 まあシリアス(笑)な話題は苦手なので、今度どっか遠出でもするか? と言う話題を今日はした。
 行き先はだいだい決めている。目指すはサザンクロス! 今のうちにシンと仲良くなれれば世紀末でも何かと助けてくれそうだし。
 アンナも食いついていた話題なので、幸先は良い……と信じたい。

……世紀末になった時の為に今から植物の種とか安くサザンクロスで買いたいな。



  アンナの笑顔を清涼剤に、今日も中の人物は未来へと頭を悩ませた。









あとがき

 最初に題名の奴のサイトを見たとき、某拳王『体(特に脳)を愛え……』と本気で思った汚物

 とうもろこしとか芋の種を買いだめしたい願望……汚物めも2012年の為に買っとこうかな。



[25323] 第七話『いっしょにとれーにんぐ(中編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 11:00

                    

                 「……何だ貴様は?」








                 「お前こそ何だよ?」







   首元まで伸びた金髪。鋭いブルーの眼光。そして紫を基調とした制服見たいな感じの衣装。






              ……ゴクト様や!     モノホンのゴクト様や!!





                 ……ふっ      興奮し過ぎた。





  何故険悪な雰囲気で睨みあっているかというと、産業で纏めろっていう電波の声に従って説明すれば……。

 ヒロイン属性アンナ
 街の悪人『嬢ちゃん一人でこんなとこ来じゃ、あぶねぇぜ? グェヘヘ』
 通りすがりのシン『ナントゴクトケンッ!』ジャギ『ヤツザキ二シテヤルー!』


 うん、今来た産業って便利だね。


 「……今のは南斗の拳法によく似ていた気がするが?」
 「だったら何だよ?」



               「……知れたこと、貴様が南斗の名を汚す人物か我が拳で見定めてやる」



                            ……は?



        え? ねえねえ聞きまして奥さん?    やぁねぇ、拳で見定めるなんて、最近の若い子は……。





                           本当に待てよ、おい。






   余りの出来事に現実逃避と無意識に体がシンの若芽ながらも鋭い闘気に当てられて戦闘態勢に入ってる俺。え? 詰んだ、俺?


 そんな急な場面展開を、何時かの不良との死闘五秒前の時のように、天使の声が割り込んできた。


 「ちょっ!  何いきなり目の前で喧嘩しようとしてるのよ!」




 

   ……あぁ助かったぜアンナ! そうだ言えっ! もっと言っちまえ!!




 「女……こいつは貴様とは関係ない事だ。南斗に関係のない奴は引っ込んでいろ」
 「関係なくないよ! ジャギは私の大切な人なんだからっ!」
 
 「引っ込め……これは南斗の問題だ。部外者は引っ込んでいろ!」
 
 「何よ南斗、南斗って! ジャギはねっ! 北斗の寺院で生活しているだけであんたの言う南斗になんて関係ないんだからっ!」


 「……北斗?」



 その名を聞いた瞬間、纏っていた闘気を消し去り、眼光を薄れたシン。それには安堵の感情を覚えます。覚えますけども……!
 アンナの言葉に薄っすらプロボーズ的な言葉が混じってた事にも気付かず、こちらを見つめるシンに心中汗でだらだらな中、俺は緊張で爆発気味の頭で思った。




                   これ、結構ややこしい状況に陥っているんじゃねぇか?











(Partシン)


 金髪の女を囲む男達。修行の息抜きに外に繰り出した意味がないと頭を痛めつつ秘孔を外しつつ南斗孤鷲拳を繰り出し、吹き飛んだ男の片隅で針鼠のような男が飛び出し、女の近くを囲っていた男達の方に手刀をくりだしていた。
 南斗の拳はその型の自由さから邪法、そして拳法とは呼ぶには似つかわしい技もある。だが、その男の拳はどちらとも違った。

 未だ幼少で未熟な部分は見れるが、女の元に寄るまでに悪党共の肩を一瞬にして
血を吹かせる技は、洗練された南斗の技の原石を俺に見せた。

 逃げ惑う悪党の背を横目に、俺はその現れた男の目をじっと観察し、こう心中でぽつりと結論付けた。


                  ……この男の目つき、気に食わん。


    まるで泥を塗り固めたように黒く鈍い目。そして南斗聖拳伝承者となる為に日々磨き上げた俺の闘気すら歯牙にかけぬという表情。

        その男のすべてが俺の心の深い部分を苛立たせた。


 俺の構えにすら自然体で向かおうとする事に苛立ちは拍車をかけ、拳を繰り出す機を窺い始めたとき、助けた女の方から邪魔が入った。

 俺の拒絶を含んだ声に女は言った。『北斗』と。
この女の言うことが真実ならば、この男は北斗神拳候補者と言う事になる。


  ならば今一度氷の如く心でこの男の一挙一動をつぶさに観察しなくてはなるまい。

 北斗と南斗、それらは陰と陽。




 何ゆえにこの男が両方を見に付けているのが俺は知らなくてはいけない。
















 あとがき


 「おばちゃん、このとうもろこしとかぼちゃとさつま芋の種くれ!」
 
 「はいよっ、どん位だい?」

 「……全部だ!」

 「えっ!?」

 「それも一台や二台じゃない……全部だ!!」



 アンナとはぐれた事に気付かずやってた中の人のやり取り。
この数秒後に見失ったことに気付いて悪人に見よう見まね南斗邪狼撃しました。
お陰でピンチ絶賛発生中。
 



[25323] 第八話『いっしょにとれーにんぐ(後編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 11:31


        豪華な装飾の一室。     ふかふかのソファー。   そして腕を組みつつ俺とお見合い中のシン。




                        







                            ……性転換しちゃ駄目ですかね?







    この状況の九割五分は俺の責任だ。
アンナが囲まれた状況を見た瞬間に完璧に頭がぷっつんして見よう見真似南斗邪狼撃をだした俺の責任。
 ……そういやグレージーズを見たときも俺の体、全身が沸騰するように熱くなって今にも秘孔突きそうになっていた気がするな……。

 ……精神科医ってこの世界じゃあんまり浸透してねぇんだよなぁ……チクショー。








  「……答えろ。お前は北斗神拳伝承者候補なのか?」
  「……」



  



   ……どうする……どうする……どうやってこの問いに答えるよ!?? 俺!!?




 yes 後々リュウケンに知られる。『何故知ってんだコラ』新一or上顎 最悪 解唖門天聴コースにご案内♪

 NO  よかろう、殺してやる      ナントゴクトケンッ! ⇒ フハハハハッ! ⇒ ナント腰抜けの奥義! ⇒  何分後に死ぬcry



詰んでるジャン





     ……仕方がねぇ。   この原作知識覇者ヘタレの知識   思う存分に披露してやるよぉ!!







   


  「……俺は、父に拾われた子だ。     ……火事で家族を失い、愛する者を失った……それが俺だ」


  そう言葉を切り出した俺に、眉を微動だにせず、シンは聞き入る。



  「……俺は父さんに何かしてやりたがった。父さんを守る為に何か出来ないか
必死で自分に出来ることを探して……ある時それを見つけた」


  「……それは、南斗聖拳に関する書物か?」


  シンの言葉に、頷きつつ遠くを見つめて話を続ける。


  「……父さんは俺に北斗の拳法に関しては話さない。……当たり前だよな、北斗の拳は暗殺拳……息子に話すもんかよ」


  辛そうに(実際話の構成を作るのに脳内がパンクしそうで死にそう)拳を握り締めて、俺は深呼吸を一回、話の終わりを言った。

  「……だから、父さんに黙って南斗の拳法家の動きを盗み見て、それを何万回もやって、さっきの拳が出来た。
……父さんは俺に伝承者になって欲しくない。……それなら、俺は南斗の拳だけでもいいから……」


  


    「父さんを守る為の……父さんの愛に報いるために一つでいいから拳を……」




  


  「もういい」








  顔を上げると、シンは額と目を手で隠しつつ、天井を見上げていた。









          ……え?             しょっとして     ……いけた?





   「……お前が南斗の拳を使う理由は知った。……もしもまた来るときがあれば会いに来い……手ほどき位はしてやる」













        ………………。
        …………。
        ……。

                       
                        ( ゚д゚ )               




 あとがき



 デレシンとか需要あるのかしら?   汚物の頭では理解不能です。

 後第二話ぐらいしてから三兄弟の登場。

 ……今頃聖帝様と妖星様は何をしてらっしゃるのやら……(遠い目)



[25323] 第九話『修行中ロッキーのテーマソング流れたら勝つる』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 16:19


         127 本当にいた汚物 :2011/01/10(月)16:20:00 ID:※※※※※※※ 

           光の速さで羅漢撃繰り出したらどうなるの?






          
           リアルな話するとお前の街が吹き飛ぶ。
           高速で突くほどの質量(約270~590グラム)
           の物体が動いたら壮絶な衝撃波が発生する
           まして地表と衝突したら地球はほぼ崩壊
           お前の羅漢撃で地球がヤバイ





           さらにリアルな話すると相対性理論では物体が
           光速になった瞬間質量=∞(無限大)となるため
           重力崩壊を起こしブラックホールが発生
           それが一瞬で太陽系を含む銀河系を五秒以内に
           飲み込みお前の羅漢撃で宇宙がヤバイ





           また羅漢測をリアルに説明すると光の速さで
           羅漢撃すると、羅漢撃は北斗震天雷を見る。
           羅漢撃の後方は無想転生が、
           そして進行方向には周囲が蒼龍天羅になる。
           そして愛の効果で闘剄呼法が生まれる
           お前の羅漢撃素敵








  


(´・ω・`)  乙こ、これはおつじゃなくてポニーテールだからね!








 雪が降り始めた今日この頃。
 未だにシンとの邂逅がちゃんと成立したのが信じられなくて爪が割れるまで石を突いてみた。痛かった。けど引き換えに石も割れたし万事ok


 


  つか本当に成功したんだな。いや愛に誓う殉星とは知っていたけど、あそこまで上手くいくとは……





  あの後放心状態の俺をリーダーが担ぎつつ帰り、俺はアンナが悪戯で俺の耳に水を入れるまで半ば意識がなかった。



  サザンクロスにたむろっていた悪党達の件も知ってか、リーダーは『俺のチームでも武器買うかな……』とぼやいてた。
 ……確実にショットガン所持フラグじゃねぇの? その台詞


 そんな未来像を嫌にくすぐる出来事も過ぎ去り、とりあえずはシンとまた来週にでも会う予定を企てる俺。
 ……何と言っても確実に南斗聖拳を覚えられるのだ。この機会を失うわけにはいかないだろう。

 リュウケンはというと、最近疲労がたまった表情で文に目を通してたりしていた。……手紙のあて先が修羅の国っぽいんだよな~。

 予測が正しければ多分カイオウとかの事に対しての内容だろうなぁ~と結論づけて見る。今頃ヒョウとカイオウとかどうしてんだろ?

 「……ん? ジャギ、今日は体を鍛えなくてもよいのか?」
 「あ、……父さんが、何だか辛そうな顔をしてたから」
 「私の心配はせずともよい。行ってきなさい」


 文を自分の見えざる所によけて、俺に微笑むリュウケン。……う~む、この調子だと本当に北斗神拳を教えてほしくても無理そうだぞ、おい。





 それとなく、俺は考えた末の質問をしてみた。

 「ねえ、父さん」
 「何だ?」
 「……ちょっと、聞いてもいいかな?」
 「何でも言ってみなさい。私は、お前の父親だぞ?」



 そう俺に向き直って聞く体勢に入ったリュウケンに、俺は言葉を投石した。



  「……もし、俺が父さんを守りたい為に、父さんが歩ませたくない道へ行ったら……父さんは如何する?」

  


  「……っ! ……何故、そんな事を聞く?」



  
 俺の質問に一瞬目を見開きつつ暫し目蓋を閉じてから、リュウケンは質問を返した。 質問を質問で返すなー! とか、今の状況的にネタは追いやる。



  「……何だか知らないけど、胸騒ぎがしたから」



  「……そうか」






  



 冷たい雪が地面に染み込む音が降りつつ、暫し二人の親子の間には無言の空間だけが支配した。





 その時ジャギを演じる中の人は舞台を見るように冷静な感情で思っていた。多分、家族でいられる時間は、もう短いだろうな、と。










あとがき

 


シリアスとか誰得なんだよ。





 これなら一騎当千の世界に行きたかったぜ!(中の人の心の叫び)

   
           


            



[25323] 第十話『ぶらり途中下車の旅ーサザンクロスー』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 20:31
       
      

      三国無双というゲームを知ってるだろうか?














 これは云わばシミュレーションゲームで、農業、技術、工房、商売などあらゆるステータスを五角形にするゲームだと思って貰えばいい。


         ならば世紀末無双というゲームがあると何が重要か?

 俺が思うに 農業、医術、力、兵力、技術を満たす為にどげんかせんといけないと思う。


 ……兵力だけなら拳王軍だけで五角形グラフつきぬけてるからなぁ……。




 今の平和な内にスペイン風邪とかマラリヤに関する薬とか貯蔵しなくてはいけないし、非常食とかも備蓄しとかないといけない。
 ……ああ、あと栽培用の種だ。とうもろこし、じゃが芋、稲(……この世界って粥が主流なのか米がなぁ……。)


 放射能で汚染される訳にはいかないから実質何処か地下になると思うが、それも自分で掘ったほうがよいのかね? 
 つうかどっか荒野の穴とかを開拓して竪穴住居にしたろうか?(手段がなければそうすっけどな!)
 ……ええっと、後は秘孔での治療で出来る医療の限界を探しつつ……。



 「……おい、ジャギ」
 「ちょっとぉ……ジャギぃ」
 「あ? 何だ?」

 書物から顔を上げると、いきなり両方から拳が降り、俺の両方のこめかみにジャストミートした。 こぶしをゴールに目掛けてシュウウウゥ!! じゃなくて



 「ってぇなぁ!! 何しやがんだ!?」

 「拳法を教わりに来たのに、書物にずっと顔を向けてる奴が言う台詞か!」
 
「そうよ! 私も折角シンのお陰で上達してきたのに。ジャギ全然みてくれないじゃん!」


 二方向の怒声にすぐに降参の印で手を挙げる俺。現在南斗聖拳cheating中の俺とアンナ。 ……うん? 何故アンナもしてるかって?






  「ジャギだけ頑張らせないよ! 私だって一緒に修行するんだから!」


 まるでカルガモの子供(そう思った瞬間に蹴りがケツを襲った)のように俺に笑顔を見せて申し出るアンナに、シンは苦笑しつつも了承した。
 
                       




         ……いや、良いのかよ。(まあ、南斗聖拳は広まってるから良さそうだけど)




  「……書物で勉強すんのも拳法の一つだろ?」
  「それは医術の本だろうがっ! ……お前は二兎を追って一兎も得られなくても良いのか?」
 「一石二鳥って言葉があんだろ。さっきまで一通りの事はやってたからリフレッシュがてら頭の体操をやってんだよ」
 
 「……っ! 口の減らぬ奴め……!」


 舌打ちをしつつ腕を組むシン。
  俺は一瞬勝った気分になったが、アンナに持っていた医学書をあっさり抜き取られ頭を叩かれると、怒気のこもった声で言われた。


 「折角教えに来てもらったのにそんな態度じゃ駄目でしょう!? ほらっ、シャキッとするっ! シャキッと!」

  
 



   「あー! あー! ったく、わかったつうの!」
 
 やることが山ほどあんのになぁ、と心中ため息で一杯の俺はちらっとシンを見遣ると、キザな感じで目を閉じ、ふっ……と笑った。……ウワむかつく



 「あんだぁ?」

 「いや……尻にひかれているな、とな」

 「……よし、シン組み手だ。その綺麗な顔を吹き飛ばしてやるよ」

 「はっ……! いいだろう! お前のその顔を少しはマシな顔にしてやろう!」


 



 


 こんな風景が、最近の俺たちの日常だ。
 一度妖星様と聖帝に会ったんだが……それは後日に割愛する。一言感想述べるとありゃ典型的なナルシストとファザコンだ。

 アンナは意外にも筋が良いようで、手甲での闘い方以外に獲物を持った戦い方を最近学んでる……俺追い越されたりしないよな?
 世紀末救世主に七つの傷をつけた奴が筋が良いって言うんだから、これで少しは俺も安心……か?





                ……胸に七つの傷、        か……。





あとがき

 彼女が南斗聖拳覚えた……死にたい。の巻

実際ラオウの側近のレイナとかマミヤとか女傑はいたし、これ位……良いよね?


次回、あの兄弟がとうとう登場



[25323] 第十一話『ユリアが聖母マリアなら、アンナは聖アンナか?』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 23:16
             


         (´・ω・`)やあ   ジャキライです。


うん、『また』なんだ。すまない




今回の話はジャギがサザンクロスに出向いたときの話しか紹介しないんだ。
 上の題名とはまったく関係がないんだよ。



でもこの題名を見たとき君たちはきっと『もんもん』てきな物が過ぎったと思う。



その気持ちを出来れば忘れないで欲しい。











 


 「……美しい顔だ」



 (……さっさと脇にどけてくんねぇかな)



 シンの修行場にあった本を元の場所へ戻す為に一人で廊下を歩いていた俺。

 その途中で真紅の軍服に紫マントと言う、お世辞にもセンスが良いとは言いがたい中世的な声の子供が
渡り廊下の鏡を恍惚気な顔で眺めながら丁度真ん中に佇んでいた。
 完全に通路を防ぐ感じで、声をかけようとしたが、人目でわかる原作キャラの衣装に、俺は声を失ってしまった。
 肩まで届く紅の髪の毛、そして横からでも見て取れる派手な口紅……これ、しょっとしなくても、あれだろ……。


  

                           ……完璧にユダだ。








 余りにもわかりやすい格好、そして台詞に一瞬硬直しかけたのを気合いで立て直し、俺はぶつぶつと何かを呟くユダに耳をすませてみた。




 
 「……ああ、やはり私は今日も美しい。この鏡に映える美貌、そして夕焼けの如く輝く唇、そして……」






                       悪い、無理、シャットアウトだわ。



   げんなりしてもう通り過ぎるかって考えた丁度その時、この男はようやく佇んでいる俺に気がつくと、不思議そうに口を開いた。


  「……なんだ貴様は?」


  「いや、通れないんだが」



 極めて平坦な口調で指摘すると、ああと呟き素直に脇へとどける妖星。
一安心しつつ通り過ぎようとすると、妖星はあろう事が俺の体を上から下に見つつこう言葉を投げかけて俺の歩みを止めた。


 「ふむ、貴様、私の元に来ないか?」

 「はっ!!??」


 余りの出来事に振り返って我を失い叫ぶ。いうぁ……いや、いやいやいやっいきなりドゥーユ事よ!?(某海賊王のバレリーナ口調で変換)



 だが、次の言葉は限りなく俺を安心させてくれた。

 

 「お前の顔、私の隣に並ばせれば私の顔がより美しく引き立つ顔をしているからな。なに、悪いようにはしないぞ? 私は傷つき醜い物は嫌いだが
 お前のように造形が元々そのような顔で、私の美貌を輝かせるのなら私はお前の生活を何不自由なくしてやろう」



           ……よ、良かったあ~!!       ああ、そう言う意味ね!


  元々ジャギの顔って余り褒められた顔じゃないし、それにこいつは美しい物以外に興味はないといっても美と知略の星。
美しさを高める為って言う理由ならば俺を欲するのも納得する。(完全に自画謙遜だけども)


 けれども北斗で修行(予定)する俺としては、これはきっぱりと  だが ことわる(ドヤ?)。


    「……悪いけどな、いきなり人の顔に難癖つける奴に、はいわかりましたって言う奴がいるかよ」

     そう返事をする俺に、高笑いしつつ見下した表情でユダは言う。

    「ハッ!  お前のような下賎の者が、この妖星のユダに逆らうというのか? お前のように、醜い顔をした者がか?」

 そう言ってまた笑うユダ。……醜い醜いって、まだ十歳にもなってない奴に言う台詞じゃねぇだろ?


  もはや怒りなく呆れて困っていると、後方から俺を呼びかける声がした……アンナだ。 怒った表情で俺に小走りに近寄ってくる。

  「ジャギ! 本を戻すだけなのに遅すぎるよ! ……って、誰? こいつ?」

  「……こいつ? だと。……女、お前この妖星のユダを知らないと?」


 眼光を鋭くしてアンナを睨むユダ。少し危険な雰囲気を察知し自然にアンナを守れる位置に動いて、俺は憮然とした表情で言う。

  「……こいつは関係ないだろ」

  「お前には聞いてない…………ふむ、女、中々美しい顔をしてるな」

  「はっ?」

  背中越しに怪訝な声を上げるアンナ。

 ユダはニヤリと口元を歪めると、こう言い放って目の前を通り過ぎた。

 「ジャギと言ったな……今日はその女に命じてお前の事は放っておいてやろう。……だが忘れるな! 私は欲しいものはきっと手に入れる!」



 忘れぬなよと高笑いでシンの部屋へと向かったユダ……。……え、何なのこれ? 俺ってば一方的に因縁つけられた? しょっとして?

 「ねえ、あれなんだったの?」
 
 「……なあアンナ」

 「うん?」

 なんだがもうどうでもよくなりつつ、一番疑問に思った事だけ言った。

 「……俺ってそんなに醜い顔か?」

 その言葉にキョトンとした顔を一旦してから、むっとした表情で俺の頬を両手で挟むと言った。

 

 「ジャギは格好いいっ!! 何言われたか知らないけどこれだけは真実だからっ」

 「何怒ってんだよ?」

 「怒ってない!!」

 そう不機嫌なアンナの態度が理解できず。もう思考をいい加減丸投げにしたくなりつつも、その日はそれで無事に終わった。





  ……翌日 サザンクロスでシンに帰りを告げようとした時。





 「ここにフウゲン(※現南斗孤鷲拳伝承者)が居ると聞いたのですが」
 「おっ、おう……それならあの階段を上って右に曲がった所だ」
 「ありがとうございます」




 そう礼儀正しく会釈して階段を駆け上った子供。……え? あれってもしかして
もしかしなくてもサウザー??

 アンナに少しだけ待って欲しいと出口で告げて引き返すと、シンと軽く会話している先ほどの子供を見かけた。
 「……師は変わりないのか?」
 「ええ、お師さんは変わりありません」

 そうにこやかに微笑んでいる子供……信じられるかおい!!? あんな温和な笑顔を浮かべる子供が聖帝サウザー!? あの!??


 呆然としつつ見守っていたが、衝撃が強すぎて壁にぶつかり二人に気付かれた。
シンに手招きされて自己紹介する事になった俺。いや、本当、数分だけ話す機会があってほとんど見た目のインパクトにやられたけど……。




                 ……うん、この子ファザコンだわ。間違いなく。



  シンがお師さんの事について話題を上らせた瞬間笑顔が増したし……マジでおしいな、誰かサウザー性転換で小説作ってくんねぇかな?
 お前は何を(ry  ……すまん、本当漫画と実物のギャップが激しくてメタパにかかった。

 ……こんな良い子だから性格が急変しちまったんだろうなぁ。そう言う意味ではオウガイもある意味外道だぞ? 本当……。


                            ……何で北斗の師はこんなに海のリハクばっかなんだ?(ため息)








 ……うん、とまあこれ位か? 書き記すべき事は?



 「……独り言最近多いけど、大丈夫? ジャギ?」

 「……色々と心配事が多くてな」

 「ふ~ん……私に言えない事なんだろうけどさ。きつかったら言ってね。私に出来ることをするからさっ」


 「おう、サンキューな」


 アンナの頭を軽く撫でつつ、俺は綺麗に輝く北斗七星を見つつ今一度決意を口にしてみる。



              


                  
                         ……絶対に幸せになるからなコンチクショー
 


 



[25323] 第十二話『書いてて死にたくなる文章ってあるよね……』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 22:53
     
     いや、言い訳するようだが後一話待ってくれ。
     後一話で拳王と聖者登場する)ホアタタタタタタタタタッタオワッター!!
    









「……頭痛が酷ぇ」

 今日は以前にもまして激しい見えない痛みが、激しく自分を狂わせようと襲っていた。

 



     「……み、ず」


 辛うじて意識を保ちながら、引き摺るように動きつつ水場まで辿り着くと、必死に水をすくって飲み、それでやっと幾許か頭痛が引き、安堵のため息を吐いた。
 

 『……くぅ~ん』
 「……心配すんな。なんともねぇよ」
 
 心配気なリュウの背中を撫でながら、深呼吸かでら窓に浮かぶ月と星を見上げる。今日は何時にもまして北斗の星が輝いている。
 「……来る、のかねぇ」
 この頭痛が起こるのは、北斗三兄弟の事を考えた瞬間にだけ起きる特殊な頭痛だ。
 アスピリンはおろか雪の中に頭を突っ込んでも薄れない痛み。水を飲むときは幾らか痛みは気休め程度に収まりはした。
 最近はその事を考えず生活してたが、最近は考えずとも頭痛が起き始めたのだ。
 「……漫画とかだったら来るフラグだからなぁ。俺も修行はしてきたし、多少は何とかする自信は……あるんだけど」
 付け焼刃程度の南斗聖拳は覚え始め、六歳に差し掛かるこの体は南斗の十五代の拳法家の身体能力と互角程度には成長している。
 後はリュウケンを説得さえ出来れば、北斗伝承者候補として成長し世紀末となりアイツが伝承者となる……。
 

                          ……俺は本当にそれでいいのか?


                       なあ?       オマエは本当にそれで       イイノカヨ?







                        お           い?







          「……っ!?」

 何とも言えぬ気持ち悪い感覚が喉にせり上がり、慌てて厠へと向かうと夕食の残りカスが嘔吐物となって全て吐き出された。



        「……ゲホッ! ゲホッ!? 何だぁ……今の感覚?」


    まるで自分の中に自分ではない物が混じっているかのような得体の知れない感覚。……もしかしなくてもこの体のジャギか?


   「なあ? そこに居るのか?」

 情けなく顔色の悪い顔立ちの俺が映ってる鏡へと問いかける。


                     ……目の前の鏡の俺は変わることなく俺の姿をただ映していた。





  「……はぁ~」




 階段の段差に腰掛けつつため息を吐く俺。太陽が頭上を照らす中、俺の心は曇天を纏いながら頭痛と共に胃の辺りを傷ませていた。
 朝に外出用の僧衣を纏いつつ俺に向けた言葉を思い出す。

  


     『……ジャギ。 今日私は大事な用で一日留守にしなくては成らぬ。……明日の朝には帰ってこよう』




   




  「……どう考えても北斗三兄弟が来るフラグ……だな」

 

 修行を終わらせても頭痛が治まらず、苛立ち紛れに転がっていた石ころを持ち上げ軽く手刀を横に入れる。……石には浅く切れ込みが走った。

  


  「断られたら南斗聖拳を見せて、俺の本気をアピールするってのも手だよな」


 そんな事を考えつつ、寄ってきたリュウの頭を撫でながら空をぼんやりと俺は眺めた。……ジュウザは雲を眺める時こんな気持ちなのかね?





  


                      「ぼんやりして、どうしたの?    ジャギ」





   眩しい太陽を背に、影になった顔が俺を覗き込んだ。




 「……ちょっと人生の厳しさについてな」
 
 「何それ? ジャギってばらしくない」

 噴出しつつ笑みを浮かべて俺を見るアンナ。……頭痛が不思議と引いていくのが感じた。

 「……何か悩み事?」

 「……ああ」

 俺の力のない返事に、アンナは少し渇いた笑みを零しつつ、俺に少しだけ儚い笑みを浮かべて言葉を向けた。

 「ジャギってさ、不思議だよね」

 「ん?」




 俺が首を向け、その言葉に疑問の声を上げたが。アンナは独り言のように遠くを見つつ言った。


 「いっつも不機嫌で、ぶっきらぼうで……けど何かを必死で変えようと頑張っててて。……私ね? これでもジャギには何時も感謝してるよ。
 サザンクロスや、前の家でも私が襲われかけた時は、何時も守ってくれた」

 「……んなもん……当たり前な事をしただけだ」


 それでも、と。アンナは柔和な笑みを咲かせつつ俺の頭に言葉を降らした。


 「……時々さ、ジャギは何でも知っているんじゃないかって思うんだ。そんな、何か全部知っちゃって諦めてる目……してるから」



 表情と合わぬ言葉の内容。俺は驚きつつ目をしばかせて、何も言えずにただ息だけを上空へと吐いた。そして……俺は振り絞って言った。

 
   「……御免な」
   「御免な、アンナ」
   「けど、信じて欲しいんだ」
   「俺は絶対に、どんなに嘘を吐いたとしても、どんなに傷ついても」
   「お前はぜったいにまも『やだよ、そんなの』




   



   思考が停止する中、原因の本人は快活に笑って言った。


  




   「言ったでしょ?  辛かったら言って欲しい。ジャギが頑張るなら私も頑張りたい」





   「私は      私はジャギと一緒にどんな事も歩んで生きたいから」










              ……プロポーズの言葉じゃねぇか    それ?





 


     「……ば~ぁか!」
   赤面しつつ立ち上がって叫ぶ俺、その俺の顔色がわかってか余裕の態度で微笑むアンナ……ちくしょう惚れたもん負けかよ。



     



   どう対抗出来ぬか考えたが馬鹿らしくて、この際泣き言でも全部漏らそうかなって気にようやくなれて、俺は言った。


 「……最近よ、頭痛が酷いんだ。今日の朝は頭が割れそうなぐらい痛かった」
 「え!? ……今は大丈夫?」
 「ああ、何でか知らないけどアンナが傍にいると頭痛が治まるんだ」
    不思議だよなと、付け加える俺に、アンナは一瞬顔を上気してから少し考え込むと、顔を上げて言った。


   「ねえ、……目、瞑ってくんない?」
 
   「あ? ……おっ、おうっ」


    な、何だキスフラグか! と緊張の走る俺。憑依前もチェリーな俺に我が世の春が来たアアアア! か?

 とビクビクしながら言われたとおりにすると、頭に柔らかい布状の物が巻かれるのが感じられた……甘い香りが頭上から降りて鼻をくすぐる。


   「……こりゃあ」

   「それ、元々母さんの物だったんだけど、私が生まれた時に貰ってずっと使っているお守り」

   ……それって形見って事じゃないか?  バンダナを脱いで自然な頭部があらわになった新鮮なアンナを見遣りつつ言う。

   「いいのかよ? そんな大事なもん」

   「いいの! それに……」

   「それに?」



   俺の疑問に、ニヤリとしつつ俺を指して言った。

   「甘えん坊のジャギには、私が何時も傍にいるっていう印があったほうがいいじゃない!」
    そう、堂々とした口調で、アンナは言った。


 その言葉に一瞬絶句したと、俺は笑い出し、それにつられてアンナも笑った。



                           久しぶりに自然に笑い声を出せた、そんな運命の日の一日前だった。




 






  



   あとがき







あーあ! ここのジャギ天翔十字鳳でぶっ倒されねーかな!
  



[25323] 第十三話『俺の兄がこんなに恐いはずがない(切実)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/11 10:47
   


         シャッハー!    ついに運命の日(泣)がやってきたぜぇ!



 前回アンナに(愛の)無限バンダナを託された俺。   頭痛も治まりIm happy セット! を字で行く俺(ハンバーガこの世界不味い)
 今まで何ちゃって北斗神拳の訓練をして鍛えられた指と、酷使した足腰は今や虎だって余裕で勝つる(逃げ足的な意味で)
 リュウケンの夜鍋重り服を防具に、スキルに南斗聖拳LEV5を身に着けている俺! ラオウなんて今ならラ王(笑)にしてやる自信があるぜ!
                        ……そう考えてた時期もありました。









             「……きさまは何だ?」










                  うん、御免。調子に乗ってすいまエんでした。 









             コエー!     超コエーんだけど! 拳王!!?







  リュウケンに『今日からお前の長兄と次兄になる若本と土師君だよ。これから北斗神拳を教えるんだランランルー♪』って紹介された後に
 よしっ来るんだリュウ! ⇒あんっ? てめぇ俺の思い出汚す気か? ってきな目線 ⇒ くせぇ! こいつはゲロ以下の)ry






                     う~んっ……ちょっと失敗した気がするっぽい……。










  だいだい何だあの殺気と闘気!? 階段上ってきた瞬間 ダダンダンダンッ♪ ってリアルにターミーネーターのイントロ流れてたぞ!?





 あっ、トキに関しては本当良い子。信じられないよねぇ、この後奇跡の村で木偶人形で秘孔の開発すんだから(※原作の初期設定です)





                うんっ、何があったが細かい描写をするとすると……。












   早朝の寺院の広場、朝食もそこそこに広場の真ん中で片手の小指で逆立ちを行う俺。
 精神統一しつつ三十分間はその状態で瞑想をしていると、階段を上ってくる複数の足音がして、自分は静かに体を反転すると音の方へと近づいた。



 「……ただいま、ジャギ」

 「お帰り、父さん」







  その父の両手は、干草色の髪で鋭い眼光の少年と、黒髪を少し伸ばしている優しげな顔つきの少年の肩に置かれて、二人の紹介をした。








                             ……アレ?  最重要人物いなくね??(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル





  ちょいテンパる俺。な、何故だ!? ……そ、そうかケンシロウまだ幼いし期待の子だから後で来るんだよ! まったくしょうがなぃなぁ~ケン太君は。お兄たん、ホアタッ☆ しちゃうぞ♪ (実際返り討ちだろうけど)




 そんな状態の俺にすり寄って来る雑種犬。……おっ、お前は……リュウ! とネタもそこそこに俺は座って撫てて名前を呼ぶ。
 ……おっ!? ラオウが反応し始めたっ!   よしっオッケーオッケーいいよ君いいよ輝いているよ~。そのまま行けぇー!!






    「……貴様の犬か?」






                       ヒー!!    流石の若本に育つボイスと迫力!! ちょいビビリつつも肯定。



   「……ああ、俺の大切な家族の、リュウだ」








            そう俺が答えると、           そう……答えた後だったんだよ……。







      お兄たま、こめかみに血管が浮かび上がっちゃうんだもん……il|li(つω-`。)il|li






  あれか?  そんなに俺とカイオウを重ねるのが嫌なのか?    アァアアン!?(地面に向かって顔面汗を大放出で)






  舌打ちをして寺院へと入るラオウ……。好感度一気に失っちゃう俺……誰が抗鬱剤を下さい……泣。











 (partラオウ)






                  気に食わなかった。



 カイオウを連想させる犬、そしてタールのように光を失っている瞳と、無駄があるように見せて隙のない肉体、その全てが。




 後でリュウケンに聞けば自分の息子であり、伝承者候補には入れはしないと宣言していたが……俺の直感が告げている。





 あの母者の死を嫌にも連想させた男は、必ず俺の天に対する野望に立ちはだかるだろうと。





 トキは奴と接し『優しく良い子ではありませぬか』とあおったが……、トキよ、貴様は奴の瞳を直視したか?








        あのように死を間近で経験したような瞳の男が、ただの男であるはずがない……。















あとがき

ラオウに警戒されたの巻き


トキと話した中の人の感想

トキ!トキ!トキ!トキぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ジョインジョイントキううぁわぁああああ!!!
あぁハーンハーン!セッカコッ!トラエラレマイ!激流をセイス!命は投げ捨てるもの…ビクンビクン
んはぁっ!歴代の北斗神拳伝承者の中で最も洗練された華麗な技を味わいたいお!ホクトユージョダンジンケンッ!あぁあ!!
間違えた!バスケ食らいたいお!デンショー!デンショー!デンショー百裂拳!かかってくるがいい…ジョインジョインジョイン!!
銀の聖者外伝のトキもかっこよかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
北斗無双出演決まって良かったねトキたん!あぁあああああ!こえぇ!トキ!つえぇえ!あっああぁああ!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…ゲームもアニメもよく考えたら…
ト キ は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!奇跡の村ぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?未来の伝承者のトキが僕を見てる?
未来の『ケンシロウ、暴力はいいぞ』が僕を見てるぞ!アミバが僕を見てるぞ!残悔積歩拳喰らってうわらば!!が僕を見てるぞ!!
アミバのトキが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはトキがいる!!やったよジュウケィ!!ひとりでできるもん!!!
あ、ジョインジョイントキィぎゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあラオウ様ぁあ!!サ、サウザー!!フドラぁああああああ!!!光帝バラぁあああン!!
ううっうぅうう!!俺の想いよケンへ届け!!修羅の国のケンへ届け!







(`・ω・´)   反省はしない



[25323] 第十四話『ガッツポーズでモヒカンの半分が死んだ』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/11 17:39



    
   季節は繰り返されまた秋。そして寺院のご神像が祭られている部屋で向かい合うジャギとリュウケン。



      ……親父ぃ、……何故俺様を北斗神拳伝承者にしねぇ!!?           何故だぁ      !?










       






            坊やだからさ










  うん、間違ってはいない、間違っては。
でも本格的に指導して貰わないと、びっくりするほどユートピア! って叫びながらケツ叩くよ、おい(チリトクダケヨー!






   何度か 俺も父さんを守りたい ⇒ お前に修羅の道を背負わせたくない  ⇒私はあなたの背を見続けてきた!

 
 やり取りはあったけども結局良い反応がなかったからなー    (´・ω・`)ショボーン



 あっ、因みにあの指で岩を何度も突く修行、ラオウとトキもやってた! やりぃ! 俺のやってた事無意味じゃなかった!

 それに月日が少しは経過する事でトキとはある程度仲良くなれた事が大きいな~。




 俺が購読していた医術書を発見

 すまないが見せてくれ ⇒ 喜んで!

 共通の趣味とか……スイーツ(笑い)>何笑ってんだころ)テンハカッサツ!




 うん、まさか医学談義で盛り上がることがあるとは夢にも思わなかったな。



 俺が考案していた針で秘孔を突くまったく新しい治療法の考案を説明すると、感心してくれたし、いケルフラグだな。






  ……ラオウはもうちょっと愛想を覚えようよ。あんなにギザギザハートだと話もろくに出来ないよ。デレがコナ━━━━━(´・ω・`)━━━━━イ…








  「ジャギ、そんな暗い顔してたら折角の気分転換も台無しじゃないの?」


  「……んぁ」


  「駄目だ、完全に思考で行動放棄してる……」



  アンナは何時ものこと、と俺に呆れ顔で濡れタオルを乗せる。   いや、本当に未来での拳王様との好感度は大事よ?


  最近ではシンとも手紙のやり取りする位には好感度あるんだよなぁ……俺とアンナ。


 つか俺どちかと言うと手紙不精だからアンナの方がシンと手紙のやり取り多そうだよな。



  手紙のやり取り楽しい? ←なに嫉妬? ふふん    と言う態度はむかついたけどな! ……すねてねぇよ。




  




 最近南斗で身につけた身の軽さとか見せる為に目の前でバク転⇒ぁ……白とか苺百パー展開とか本当にあったからなぁ……ごちです。



  




  ああ、後問題のいない人物は冬頃に来るだろうと、トキとラオウの会話を盗み聞きして大体見当がついた。




 となるとあと一月、この体をアボーン☆ 張本人が来る……。






 バンダナを締めなおしつつ、頭の痛みを恐れつつ撫でる。……会った瞬間記憶のバックドラフトとかで死んだりしないよな。俺?





 今日もラオウの視線に恐怖してアンナの微笑みに癒されてトキの優しさを肌で感じてリュウケンにアタックして散る。











……俺の世紀末lifeは本当に大丈夫でしょうか     神様?



[25323] 第十五話『北斗の拳×ローゼンメイデン』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/12 18:08

            



             (´;ω;`) やあ ジャキライです







うん、またまたなんだ。すまない


今回のお話は始めてユリアとセクハラ君と暴力に染まったトキと出会った頃のお話なんだ。


けど、この題名を見た時、君達は『ジャギギ』てきな物が頭に浮かんだと思う。




その気持ちはすぐに忘れていいわ





       あ。ちなみに前回の時系列↓

   五歳~五歳半:修行開始 ⇒ アンナと出会う
   六歳~八歳:シンと出会う⇒ 南斗の人と出会う。 ⇒ 南斗聖拳覚え始めました。
   八歳半:頭痛発生(エマージェンシ) 拳君と暴君と会った。




では 投下します。












   『ハァッ』        『ティィヤァ!』          『ヤァ!』

        『オラッ!』           『トリャァ!』





   激しい突きと蹴り、そして拳と手刀がサザンクロスの一室で乱れ飛んでいた。


   「どうしたジャギ!? そんなスローな動きでは蝿も止ま……ウォぉお!?」

   「緩急つけて翻弄させてんだよ! 喋ってる余裕あんなら次の行動読め……ちぃいぃ!?」



   言葉の応酬もそこそこに、危ない所で避ける二人。その小さな嵐の如く猛襲は拳法家としては様になってき始めていた。



  


  だがまだ幼い体にその動きは少しだけ急性で、時間の経過と共に動きに乱れが出始め、そして丁度良く壁にかけられた時計が修行の終わりを告げた。



   「……今日は、ここまでだ」

   「……ああっ、ありがとさん」




  疲労困憊といった表情で向かい合う二人。どちらも強敵(とも)として実力は認めているが、それを表面に出すことは決してないだろう。




    「……二人ともよくやるよねぇ」

    「アンッ」


 そんな様子を(先にトレーニング終わらせた)アンナと腕に抱かかえられたリュウは呆れつつ眺めていた。





   「……おい、シン」


   「何だ?」

   「お前、何か今日は随分機嫌か良くないか? 何か良い事でもあんのかよ?」

   「……! ……お前は時々鋭いな」



  じと目で俺を見るシン。いや、『今日も始めるぞ、ジャギ!』とか滅多に見れない爽やかな顔をしてたからわかりやすかったけどな。


    そんな俺の思考も知らず、ため息をつくと、窓の一角を見つめ穏やかな表情を浮かべるシン。……キモ、と思いつつもつられて見る俺。



       


          ……!  ……そうか、原因はあれか……。




  「……あれ、誰だ?」



  「あの方の名前はユリア……私が密かに思いを寄せている娘だ」









 海のリハクの横に、人形のように鞠を抱えたまま佇む小さな少女。その少女の瞳には何も映し出さてはいなかった……。







   ……あぁ。まあこの時期だとそうだろうなぁ。





 シンと共に少し離れた所でユリアを観察する俺。

 あの様子だとケンシロウとラオウの元へ行くまでは海馬君宜しく心のパズルも直らないだろうなぁ……。


 シンは苦々しい表情で『私も幾度が彼の方に声をかけたのだが……一度として振り向いてはくれない……』と呟いていた……切ねぇ。


 何だかシンの未来のサラダバーエンドが可哀想過ぎるなぁと苛立って衝動的に小石を蹴る俺。あっ、結構飛んだ……ってえええええぇえ!!!?




  


   やべっ……!?   勢い良く飛びすぎてミラクル鞠の下ゴーオオオオオオルゥゥウ!!



   ユリアが機械的についていた鞠は俺の小石による物理的エネルギーの誤差によって転がって……それはリュウを躾けているアンナの元へ。



  アンナは鞠が転がってくるのに気付くと拾い上げてユリアへと持っていく。




 「はいっ!  落としたよ!」

 快活な笑みで鞠を差し出すアンナ。それを動くことなくじっと佇むユリア。

 



   ああぁ、たっ、頼むアンナ。穏便な行動を!!!



 「……」


 「うんっ、どうかしたの~? あっ、もしかして貴方のじゃない? あれ? でもさっき持ってたのって貴方よね?」

 「……」

 「あっ、てか御免ね自己紹介もしなくて! わたしアンナっ! 貴方の名前なんて言うのっ? この場所ってむさい男しかいなくて貴方みたいに
綺麗な子っていないから結構吃驚! あっ、吃驚といえば……」




               ……ナイス! アンナ!!




 ユリアの無反応を不審に思わず、天然さを炸裂して喋り倒すアンナ。それを海のリハクは少し心配気ながらもアンナの事は警戒はしてないようだし
シンも頭を抱えながらもアンナの行動をたしなめようとしない!

 あっぶねぇ~! 聖母に自然な対応出来るアンナばねぇ!!


 
 近づいた瞬間に影とかでボディカードしている南斗の暗殺者とか出てきたら洒落にならねぇし、凄ぇベターな近づき方! うん!
 
 けどとりあえずこのままだとアンナは世紀末まで喋りそうなのでここら辺で止める。


     「……おいアンナ。その娘はさ」


   「え? 何ジャギ……って。あっ」

   「? あ?」

  ユリアに何かを気付くアンナ。俺もつられてユリアの方向を見ると、だ。






   ユリアは鞠を受け取ろうとするように手を差し出していた。




  「……あっ! ごめんごめ~ん! やっぱ鞠貴方のだった!? 私ってば喋ってばっかで御免ねぇ~!」


 俺の顔に出さないながらラオウが北斗天帰掌出してきた位の衝撃を余所にアンナは恥ずかしそうに鞠を渡すと、リュウと供にトイレへ逃げた。





    
    「あ、ありがとうございます……」


    「うぉお!?」

 気付けば涙を流しながら俺の背からリハクが立っていた。恐ぇよ!? 俺の後ろに立つな! (本気でゴルゴ位の腕前が欲しい今日)

    「ユリア様は……幼い頃に言葉と感情を泣くし……けれども……初めて今日、人らしい反応を見せて……」

  
    「は……はぁ……」



  ……まぁ……リハクが泣いて喜ぶのもわかる。……今回偶然でもアンナが声をかけたのがアンナの心の琴線に何かしら電気的な刺激
を与えて、それが結果的に人らしい反応を見せる要因になったのだろう。

  このまま何度かアンナがユリアに話しかけてくれれば、もしかしたらケンシロウと出会う頃までにはユリアの心の殻を脆くする事も可能
なのかも知れん……。……それが未来に影響与えそうで凄い恐いんだけどな。
 疲れ気味に、俺はアンナにユリアの説明をするため追おうと、シンに告げて行こうとした。





    「……おい、シン……って……」


    「……ユリア……良かった……初めて……お前が人らしく動くのを……」



 シンは一部始終を見て達観した様子で泣いていた…………俺がもしアンナと同じ行動で同じ反応してたら俺の事殺すんじゃねぇ? こいつ。







                 閑話




            とある日           とある南斗の修行場



   「これからお前を木偶人形のように倒してやるぅ~!」   「貴様如き俺の南斗聖拳の敵ではない」

                   「喰らぇ~!」       「止まって見えるぞ」
      
                      「ぶぎゃぁあぁああ!?」  「お前如き、南斗聖拳の前にはゴミ屑同然だ」




                 「ふぇえ~。すっごい動き!!」   「……はっ!!?!  ア、アイリ何故ここに!?」

       
                   「へ? いやアイリって」    「わざわざこんな所まで! お前は体が弱いのに無理を!!」

                   「いや、だからちが」     「兄さんがお前を送る! さあ俺の腕の中にっ!」

                    「いやいや、誰かと勘ち」   「南斗究極奥義、断固送妹拳(ダンコソウマイケン)!!」

              
   「きゃぁ! どこ触っ!」    「ああ俺の可愛いアイ「この俺の顔より(さっきまでシンと修行で殴られた)醜く凹られろぉ!!」




あとがき





レイはシスコン 異論は認めよう( ´_ゝ`)



あ、ちゃんと勘違いに気付いて和解したよ。よかったねレイちゃん

セクハラからシスコンへ格上げされたよヾ(*´∀`*)ノ

    



[25323] 第十六話『俺があいつで、あいつが俺で前編(死兆星)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/12 11:43

       最後に覚えているのは降りしきる白い脳の破片と降りしきる自分の血液の雨




      






        そして薄暗くなる景色と走馬灯の最後に君が映っていた











      ---------……こんな所で死にたくないな……---------









        始まりは唐突。


  今日もリュウケンに伝承者候補になりたい事を旨にしつつも断られ。ラオウとトキは外で修行し
自分は独自で修行を開始して小休止で階段上り口付近でリュウへと餌を与えて。



           コツ コツ  コツ         と、   誰かが近づいてきた。



   
      「よっ!   今日も階段を走りこみ?」
 

      「……リーダーと一緒に出かけたんじゃないっけ?」

      「兄貴は兄貴で最近『街の警備任せられて金回り良いから遊んでおけ』ってさ……。暴走族蹴散らしてバイク売り払う兄貴も兄貴だけどね」

      ハハハ、と渇いた笑い声で対応する。リーダー……それちょっと犯罪すれすれだぜ? いいかもしんねぇけど……。



     「……それにしても」

    うーんと背伸びをしつつアンナは空を見上げて呟いた。


    「ジャギと出会ってだいだいこれで五年ぐらいになるんだよねぇ。早いよね本当、月日が矢のように去っていく……」

    「最初はこいつ助けたのが始まりだったよな」

    「そうそう。んで、ジャギは迷子って言う」

    「……それは言うなよ」




   大げさにがっくりと項垂れる俺に、アンナは嫌味のない笑い声でぽんぽんと俺の頭を叩いた……ったく……。



    「そういえばさっき街でかなり仰々しい格好の出迎え? 見たいなのやってたよ。何かのお祭りかな? ジャギも後で行く?」

   
    「祭りぃ? こんな馬鹿みたいに冷え込んでいる日に?」

   
    「冬だって祭りはするんじゃない? ……そういえば私たちどっかのイベントとかに参加した事ないよねぇ……修行ばっかで」



   そう不満気に睨むアンナ。……しょうがないだろ。鍛えないと世紀末では死活問題なんだよ。


   「……いや、それは……すまねぇと」

   「あ~あ! ジャギのせいで体は鍛えられて身軽になっちゃったし! 勉強教わって農業とかバイクの直し方とか覚えちゃったし!
 頭も何かすっきりして、肌も綺麗だし! 本当! ジャギには責任取って貰わないと!!」
   
   「良い事ずくめじゃねぇか!? 何の責任だよ!?」


   俺の言葉に笑うアンナ。本当この子は俺をネガティブにしないため良く笑わせると言うか何と言うか……いや、助かるけど。


   「暇があったら一緒に花火とか見に行こうねぇ~」

   「ああ、暇があった、ら……」










          黒い瞳    芝を刈るように短い髪     そして幼げながらも信を秘めた顔






      それがアンナの背後から幽鬼のように影を引いて俺の瞳に映る。







    あいつは 



                               

                                    あいつは……。







        ……ジジジ            ……ジジジ        ……ジジ






      『嘲嘲(フフ)……この……と……まっ……』        『場所…………そこ……死に……』





     『……いい事…………と言う…………魂を売り……この俺……』    『……貴様に……くるわ……四人の…………』





            『…………終わりだ』









    

         最後(おわり)の日の前に映っていたのは、キラキラと輝く北斗七星  そしてその横に控えめながら輝く北極星





    アンナは俺が迷子の話をすると       得意気に俺の顔を見ながら説明した。

        『迷子になった時は北極星を目印に帰ればいいんだよ! 北極星は、絶対に空で動く事のない星なんだよ!」



 その言葉に俺は『曇っている場合は?』と茶々を入れて軽い掴みあいの喧嘩をして、リーダーに一緒に拳骨を落とされた日を俺はよく覚えている。




    


   それはこの世界での話し、俺が俺でない世界では  君は星の中ですら存在しないものとして世界は紡ぎ続いていた。




   この世界で君はよく微笑み僕の体に君の心臓の鼓動は確かに聞こえていた。僕は君に出会うたびに君が生きてくれる喜びに安堵した。

   
   


   それはこの世界での話し、どの世界とも違う世界  君と僕の出会っていた場所では君は僕が狂ってしまった礎(いしずえ)として紡がれた。







             知らなくて良かった事実。    知らせても貰わなければ良かった事実。    このまま消えればよかった事実。






   君が僕……オレを悪の、極悪の華を育て上げる土であり水であるなどと認める事など出来るはずがなかった。


   



   燃え盛る煉獄が俺の胸を、頭をすべてを焦がす中。





   君の生まれた事実を知った瞬間、激痛は憎悪に。憎悪は悲哀へ変わった。






 修羅よりも   散っていった野党よりも     アイツを憎悪していた気持ちは   たちまちの内に俺自身に向けられ   こう願った。







   

    『……アイツが……きっ……と…………に……なれる……世界を』












  

   ケンシロウが北斗の寺院を訪れた日、ジャギは意識を失った。





[25323] 第十七話『俺があいつで、あいつが俺で中編(北斗七星)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/12 16:54

(partケンシロウ)



          何がなんだかわからなかった








 北斗の寺院へと師父と共に辿り着き、階段が見え始めた頃に発見した二つの人影。

 遠目ながらラオウを少しだけ連想させる顔つきで意外にもトキを思わせる優しげな笑みを女性へと浮かべる、緑色のバンダナを巻いた男。

 
 それに穏やかな笑みを浮かべるお揃いの柄のバンダナを巻いた女性、その男性の良き人なのだろうか?  
 その二人の組み合わせは不思議とお似合いだと思わせる雰囲気を醸し出していた。


    「……ん? ジャギとアンナか……」


  そう付き添う師父が呟いたので見上げれば、師父には珍しく口元に微笑を携えていた。厳格と思っていたが、こう言う表情も浮かべれるのか……。




  そして事は唐突に起きた。師父がジャギと呼ばれた男が近づく自分に気がつき瞳がかち合ったその瞬間だった。



  



    自分の気の所為だと信じたい。だが、今でも思い返してみても、間違いなくその男性は自分の顔を見てあの反応をしたと確信する。


  



   その男性の瞳は一瞬夕焼けのように赤く染まったかと思うと、寺院の静けさを打ち破るように音を立てて倒れたのだ。





   

  慌てて駆け寄る師父。そして仰向けに男性の姿勢を直すアンナと呼ばれた女性。


 


   目尻に涙を浮かべ血相を変えて男性の名を呼ぶ女性と、厳しい顔で脈を取る師父。その一転変わって緊迫した空気は、悪い冗談に思えた。








(partリュウケン)


    「ジャギ! ジャギ! しっかりしてよぉ! ジャギ!」

生気のない真っ青な表情の息子。それを呼び覚まそうと必死に心臓を押すジャギの友人であるアンナ。


  脈を計り、正気を若干失っている娘に気付かれぬようにジャギの秘孔を突く。




 だが信じられぬ事にジャギの体には一切の変化は訪れず、更にその体の体温はどんどんと冷えていくのが感じられた。






     「……師父! 何事ですが!?」







  声の方向へ向くと、修行を終えた直後であろうトキが駆け寄ってくるのが見えた。その後ろから険しい目つきでゆっくりと追うラオウ。

 私のすぐ隣へと腰を下ろし同じように脈に触れ、事の重大さにトキもすぐに知れたようだ。 私は伝承者としての威厳も捨て、力なく言った。




  「ジャギが……いきなり倒れおった」


「……! ……秘孔は?」


  「すでに試した…………だが」



  娘に聞かれぬようぼそぼと今の会話をしつつ、私は娘の手を出来るだけ強くない力でどかすと、ジャギを持ち上げた。


  「ひとまず寺院へ寝かす…………トキ、町の医者へ。ラオウ、ケンシロウを頼む」


  そして階段へ足をかける私の横で、泣き腫らす娘の顔を覗き込むと、答えは予測しつつも問いかけた。

   
  「……駄目と言われてもジャギの傍に居るのだろう?」


 その問いに、娘は当たり前だと言う顔で頷く。その顔は一人の男へと全てを投げ打つ女の顔だった。








        ……ジャギよ       死んでくれるな。




         お前を慕う女を置いて突然逝く気か?


       


             ……私を置いて。











           ……ここは一体何処だろう?

 目の前に広がるのは草木すら生えず生きる物の気配がほとんどない荒野が目前を広がっている。



   自分はそこで座り込んでおり、暫くしてから誰か居ないかと荒野を歩き始めた。




    そしてある大きな建物が建てられていたであろう残骸へと辿り着くと、その残骸の一角に一人の男が座って空を眺めているのが見えた。






      見覚えのあるセンスの悪いヘルメット。  そして一昔前のロックバンドを思わせるトゲ付き肩パットと、腰に下げられた銃。







          「……あんっ。……何だてめぇは?」











         ……いや、あんたこそ何でここにいる?      ジャギ……。



[25323] 第十八話『俺があいつで、あいつが俺で後編(北極星)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/12 18:15

    




      「おい、そこに座れ」             「言われなくても座るよ、疲れたし」    「……気の強ぇガキだな、おい」









   荒野で壊れたブロック塀を椅子代わりに、俺は何故だがジャギと腰を下ろして話している。
  俺がこの訳の分からない場所にいるのと同じく、どうやらこのジャギも訳のわからぬままここに来て、そしてアテもなくこの場所まで辿り着き
気の長くなるような時間ここで時々拳法の練習をしたり空を眺めたりして暇を潰していたようだ。




  「……あ~ん? てめぇが俺様だぁ? ……はっ! おい、クソガキ。嘘をつくにしても、もっと上手い嘘をつけ」


  「いや、本気だって。なんだったらこれまで起こった事聞かせようか?」


  「おうっ、話して見ろよ。随分と暇だったからな。てめぇのホラ話でも機嫌よく聞いてやろう。この北斗神拳伝承者ジャギ様がな」




  長いこと喋ったと思う。……五歳で憑依して修行した事。アンナとの出会い。そしてシンに南斗聖拳を教わった事。ユリアと会った事。
 原作での話し、外伝の『銀の聖者』『天の覇王』『慈母の星』等の話。そして突然ここに来た事。

  この原作の格好をしていて、どう見ても本物のジャギにしか見えないジャギは、俺の話をホラとけなしつつも、いざ話し始めると
割と真剣に聞き入っていた。……シンとの修行で初めて勝った時の様子話すと『イ~ヒッヒヒ!』って小さく笑ったけどな……。




  
 口を動かすのも疲れ果て、ようやく話を終わらせた時。聞き終わったジャギは口元を歪めながら笑うと、静かに口を開いた。



  「……随分と作りこまれた話だがよ。てめぇの話がホラだって言う決定的な証拠があるのを教えてやろうか?」


  「あん? 何処が嘘だよ? こんなに色んな事知ってんのに」



  「そいつはな……」






   ジャギはこちらの背筋に悪寒が走る笑みを浮かべ、言い切った。





         

            「テメェなんぞが『ジャギ』である事を俺様が認めねぇって事よ」








    目の前に突然告げられた銃口。ヘルメットから覗く眼光は壮絶に紅く。俺へと銃弾は飛び出される前に言葉の連弾が飛び出された。





    「おめぇが『ジャギ』? ふざけるな! てめぇが『ジャギ』であって良いはずがねぇ! 恋する女と友に秘密を抱え暢々と日々を生き
今日まで平和を享受していたお前が『ジャギ』!? 
 北斗宗家を高める毒として使われ! あまずさえ誰にも愛されず! 師父に! 兄者に!
 誰からも認められず消えたのが『ジャギ』だ!
 最初から伝承者にする事なんぞ考えてなかったリュウケンのクソったれに騙され拳王の捨て駒として使われたのが『ジャギ』だ!!
 弟なんぞ言う下等な奴に! ただ北斗であると言う理由で血の滲む努力を指先一つで苦痛と怨嗟の道へ進んだのが『ジャギ』だ!!! 
 愛する女に破滅の道を進む運命(さだめ)を背負う為に虫けらなんぞに見殺しにされて! 抗えもしねぇ糞野郎が『ジャギ』だ!!!!
 全部! 全部! 何一つ上手くいかねぇ理由で! 本当に大切なのを捨てて壊しちまった馬鹿が! そ い つが『 ジ ャ ギ 』だ!!!!!
 てめぇが『ジャギ』を背負ってんじゃねぇよっ!!!!!!」









                     声にならなかった。




 荒い息で俺に視線で人を殺せるならばそう願う光を浮かべるジャギに。  俺は何もいえなかった。







   そして俺が何か言おうとした時、荒野の残骸にそびえる入り口であった場所に光が点るのが見えた。






  「……ちっ! 時間が来ちまったが。……まぁいい。救世主様のお陰で俺もこれから何度でもお前に会えるからな」


  「あ!??」


 「いいか? 俺様は地獄の底からてめぇがどうなるのか見届けて、そんで以ってまたここに来たら遊んでやるからよ……俺様からは」






                  




                        「逃げられんぞぉ~!」




獰猛な笑みを浮かべ、そう叫びながら『俺』をつまみ上げてジャギは光の中へと乱暴に投げ込んだ。




    ……不思議な事に、地面に衝突した時の感触には痛みがなく。まるでゼリーが触れるような柔らかい感触が印象的だった。









           「……ジャギ……っ!!」






 目覚めたとき、俺が最初に見たのは涙の跡をくっきりと残しながら開花の如き笑顔を浮かべるアンナ。そして重荷がとれた感じのリュウケン。
   先ほどまでの記憶がおぼろ気な感じながら抱きしめられる俺に、リュウケンは本当に不意に俺へと告げた。






       



      「……ジャギ、お前を……伝承者候補として認めよう」










             工エエェェ(´д`)ェェエエ工!!!!??!!!!?







 



[25323] 第十九話『何を迷う事がある寝取れ! 今は女が微笑(ry』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/12 19:13




         





                   「……よっし! スケバン刑事を修羅の(女の戦い)道へ導いてやろう!」














  時期はユリアがケンシロウにニコポされ、シンが手紙で『ユリアが(他の男に)笑顔で辛い……』って心境の手紙に目を通した時だった。



 どうすっべかなぁと青線引いてユリア見るシンを頭悩まして見て、んでもって離れた所から心配そうに見る小さな女の子を発見したのが始まり。






          



               ……あれって『慈母の星』に出てきた女の子に似てねぇ? てかこの前確か会ったな……。



            アンナが同い年ぐらいだ~ って喜んでて俺も少しだけ自己紹介したぞ?      ……確か……!!






   その女の子を修行で鍛えた視力でじっと血走った眼で見て、プロフィールを脳内へ転送!! 



          

      ……ジャギジャギ   ジャギジャギ    ジャギジャギ(ロード中……)




                               ジャギィ!!(ダウンロード終了)







                名称:サキ
              家族構成:(兄)テムジナ
                役職:ユリアの付き人       
                声優:柴田由美子・雨宮一美
                







                       ……いいこと思いついちゃったぞぉ~?







                 この時の俺はかなり悪い顔つきをしていたと思う。











  (PARTサキ)



  柱の影からあの方をお守りする。

  ユリア様とお話しするシン様。微笑みつつシン様と会話するユリア様。
  ユリア様が笑顔の理由がシン様とお話するからと言う理由では決してない事はユリア様の話題に上る意中の人の名を口にする時、ユリア様
が笑顔になさる様子で見て取れる。シン様もそれを理解してか時折りユリア様が見えぬ方向を向いた時悲しげな表情をなさる。
  ……私のような者が何て恐ろしい事を考えるのだろうと思うけど。私はユリア様がシン様に特別な想いを抱かぬ事がとても嬉しい。

 それは私のような身分の者でも、あのお方のお傍にいられる僅かな可能性を指し示してくださると言う、何とも身勝手な理由からだ。


                 ……私はシン様が好きだ。


 けれど、この気持ちは墓まで持っていく事になるであろう。私のような者はシン様に相応しくないのだから。

 ……小さく痛む胸を押さえ、私はシン様の姿をこの瞳に納めるだけで……。





  


    「……なぁ」







  ひっ! と小さく悲鳴を上げる私。シン様とユリア様に気付かれぬようにと慌てて口を押さえ件の声の主を睨みつける。
 この方は知っている。ユリア様の心を取り戻す為に懸命に話しかけてくださっていた快活な女性の隣りで守りをしていた男の人。シン様がよく
『あいつは突然断りもなく来る迷惑な……!』と文句を口にしつつも笑みをちらつかせる男性の方。



 何の用だと口にする前に、その方に見つめられ私の心は穏やかではなくなった。時折この方の目は全て見通すように見えてしまう。
 そんな事はないのに、時折り物憂げに窓を見遣るユリア様の瞳に重ねてしまうのだ。



   けどそんな心中の感想もすぐに撤回する事になる。このお方は物の怪が鬼のように悪い顔つきになると、私の心をかき乱す事をのたまったのだ。




    




       「なあ、お前あいつの事が好きだろ?」






   ……!?         ……何故この方は私の必死で隠してきた想いをいとも簡単に暴けたのだろうか!?




 私が混乱するのを余所に、その方は、ジャギ様は「ククッ……」と喉から笑うと、私の女を燃え上がらせる種火を放り込んだのです。





      



        「なぁサキ……何故お前が諦める必要がある?」



   「な、何を」


      「俺にはわかるぜ? 自分の身分や下らない事を気にして、シンから身を引こうって腹なんだろぉ?」



   「……っ!!? どうし」



      「勝負もしねぇ内から何故身を引く!? 惚れた男は幸いな事に相手が意中の奴がいる事を知って傷ついてる!! 
    ハートブレイクしている男はその時他の女に優しくされるとコロッ☆と行くんだぜぇ!!!(※テレビで見た知識です)」


   「そっ、そんなふしだらな真似! 私はユリア様の侍女! そのような」



                        「サキィッ!!」



   ガシッ、と肩を掴まれ。私は息できぬぐらいにジャギ様の瞳に吸い込まれ。 その言葉が心の深く深くへと入り込んでしまった。





       「何を迷う事がある!? 何故諦める必要がある!!?」



          


               「 今 は お ま え が微笑む時代なんだ!!」





           「どんな手を使ってもシンの心を奪い取れ!!」














 

   「……あのっ、シン様……」


   「うん? ……あぁサキか、何の用だ?」


   「はいっ、お疲れのようですので、紅茶を……」


   「ああ、有難い。貰おう……ふむ、良い香りだな……」


   「はいっ、有難うございます!(ニコッ)」


   「!? あ……あぁ。(……何だ、急にサキの笑顔を見て胸に高鳴りが……ユリア、私は……)」

 
   「(ニコニコ)『……ジャギ様から受け取った南蛮製の媚薬……少しずつ、少しずつよ、サキ』」











あとがき



 良い子になってもジャギはジャギ。






……恋する女は羅刹よりも怖い。





[25323] 第二十話『ようこそ! 世紀末バーへ!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/13 09:59





           ( -`ω-)ンー>やあ、世紀末バーのジャキライだ。ゆっくりしていってくれ



           



           ( ̄ー ̄)ニヤリ>ここでは今までの人物設定を紹介しよう。勿論、設定の後にはココアのような短編も紹介する






           ホアタ!( ´∀`)σ)Д`)>では、楽しんでくれ。































   ジャギ(中の人?)

言わずと知れた世紀末でケンシロウの名を騙り暴虐を果たし最後は秘孔により爆散された悪役。
  この作品の中では漫画マニア(特に原哲夫作品)である名前だけを何故か失ってしまった大学生が憑依。運命を変えようと必死に動いてる。
 性格はどちらかと言うとチキン。だがアンナが危険な時だけ思考がぷっつんするのでトキが早く医者になって自分を診てくれるよう密かに望んでる。
 幼初期にしてはかなりの身体能力で南斗聖拳の基礎を着実に学び、ようやく北斗神拳を学べるようになった。
 好きな食べ物は醤油と卵のご飯。アンナに洗脳されてココアが好きになった。



    アンナ

『極悪の華』ヒロイン。原作ではジャギと十歳頃に出会い、密かに恋心を秘めつつも作中ではお互いの環境の違いから想いを告げれず死別。
 核が落ち世紀末の発生の中モヒカンに輪姦され瀕死の状態で寺院の階段に向かいケンシロウをジャギと見間違えて息を引き取る。
 この作品では五歳の頃から出会いほとんど幼馴染の関係。そして刷り込みの如くジャギへと好感継続だが、恐ろしい事にキスまで発展してない。
 天然な性格と飄々とした口調であるが、時折りジャギの行動をじっと冷静に観察している。けれど絶対にそれをおくびに出さない。
 作中ではほとんど描写がないがジャギと修行した事により十五歳の南斗聖拳使いと同じぐらいの技量はある。武器は手甲で主にジャギの折檻用
 家族は族のリーダーと二人。以前にモヒカンに襲撃されたのを経験にジャギの手元になるべくアンナを置きつつ町の警備隊へ所属した
 最近はジャギに薦められ家庭菜園について調べている。ジャギの良き未来のお嫁さんである。



  北斗三兄弟

 説明するまでもないが未来の天の覇王と銀の聖者、そして救世主
ラオウに至ってはジャギが普通でない事に薄々気付いており警戒を怠らずジャギの行動と思惑について観察している。
トキに関しては針による秘孔を活性化、仮死状態にする事での安全な手術等。常識を外れつつも理論的な医療の発案にジャギに感服している。
ケンシロウは出会って間も無く人と成りを掴めずにいるが、初対峙の時の瞳の血の如き変化を忘れないでいる


  リュウケン
 
 原作ではジャギを北斗宗家を高める為の毒 『極悪の華』では息子として愛情を注ぎつつも北斗の修羅の道に進める事を最後まで拒絶した。
 物心がついたジャギが言った父想いの発言の甲斐もあり愛情はとても深く、外伝と同じく最初は北斗の伝承者候補に入れる事を否認していた。
だがジャギが倒れた最のうわ言により、揺れていた決意を固める。



  シン

原作ではジャギの悪魔の囁きに魂を売り、ユリアの愛を欲する為にケンシロウと決別の道を歩んだ愛に殉する星の男。
 この作品ではサザンクロスでアンナを助けたときにジャギと対面。南斗の基礎をジャギに教え、共に切磋琢磨する将来の強敵(とも)
 ジャギの計略によりユリアとサヤに対して心が揺れ始め、自分の優柔不断さに頭を抱えている。


  
  ユリア
 
 南斗最後の将であり、世紀末の聖母。ケンシロウと共に世紀末を歩み。そして星となりつつも見守った慈母の星。
 この作品でも原作と同じくケンシロウとラオウを切欠に心を取り戻すが、その前に自分に明るく話しかけてくれた女性(アンナ)の事は
 おぼろげながらもはっきり覚えており、とても感謝している。
 
 


  南斗の伝承者

 ユダ:ジャギの顔を『醜さと言う名の芸術』と賞賛し、自分の手元に置きたいと思っている。アンナも出来るならば欲しいと思ってる。
 サウザー:オウガイに育まれ優しさを損なわず元気に育っている。ジャギの事は『シンが認める使い手』と認識。
 当の本人はどうやって性格を急変させないが頭を悩ませている。
 レイ:南斗でよくアミバに挑まれうとましくも全て返り討ちにしつつ修行中。アンナをアイリと見間違えジャギに殴られた義星           
 非礼を詫びつつ、アンナにアイリを重ね、時々ホームシックになりそうになっている。
 




    ジャギ??


 憑依した中のジャギが『全てが崩壊した後のような世界』の荒野で出会った原作らしいジャギ。
 常に崩壊したビル跡地で星を眺めるが拳法の修行をしている。
 子供のジャギに関してはクソガキと呼びつつも、色々な感情が混ざった瞳でジャギの事を見守っている。








            ( -`ω-)ンー>これは私からの奢りだ。是非これを呼んで暖かい気持ちで眠ってくれ










   血が流れない白い手を組んでじっと横たわる男を見守るお揃いのバンダナをしている女の子


  そして脇に立つ厳格な雰囲気を纏う僧衣の男。




  「……医者は何と」



  「……原因は不明だと言っていました。このような症状は初めてだと」




  そうかと溜息を吐いて頭を垂れるリュウケン。トキはちらっと祈るアンナを見つつ、部屋をそっと出た。



  出た先では腕を組んだままラオウが目を瞑りつつトキへと聞いた。


 「……奴は目覚めるのか?」


 「わかりません。これが病なのか怪我なのか……医者や師父にも不明で」


 「……ふんっ」


 「心配ではないのですか? 兄上は?」

 知れたこと、とラオウは形相を変えることなく呟き。元の人物のいる部屋を一瞥すると、堂々とした口調で言った。

 「天が奴を活かすか殺すか……それだけの事よ」



 トキに有無を言わせぬ口調で、ラオウは修行へと戻る。トキは扉とラオウの去った方向に視線を何度か往復したが、最後は躊躇いつつも
 ラオウを追うように寺院の外へと向かった。……ケンシロウはその様子をじっと離れた場所で見守っていた。









    「……ねぇジャギ。覚えている?」



  優しく天使のような表情で、アンナは眠るジャギへ語る。


   「私が始めて名前を呼んでってせがんた時。ジャギは不機嫌だけど私の言う事を聞いてくれたよね? 私ね、とっても嬉しかったんだよ」


  針金のような髪を梳きながら、アンナは透き通るような涙を流して続ける。

   「……もぅ無理なお願いも……我が侭も言わない……ジャギの言うこと何でも聞くよ?……だからお願い……私のお願い最後に聞いて?
 『目を覚まして』って言うお願いを素直に聞いてよ……ジャギ……!」



   その言葉にも反応せず、ただジャギの口から漏れる吐息は、はっきりと薄れつつあるのが感じとれた。




        それをアンナは理解すると、意を決しジャギへと囁き、目を瞑るとその桜色の唇をジャギの紫色の唇へ重ねた。






         「もう目を覚ます時間だよ。『ジャギ』」







   「……に」







   「……ジャギ!?」





  
 目を瞑りじっと祈りと、アンナの儀式めいた様子への配慮していたリュウケンは、ジャギの微かな声に慌てて駆け寄った。



   「……う、さん」



   「何だ! 何が言いたい!? ジャギ!?」







   「……ん……しゃ」





   蚊の鳴くような声、だがそれは暗殺拳を極めたリュウケンの耳は、はっきりと捕らえていた。



   「北斗神拳……伝承者」




   「……父さんを……守る」







                          「……ジャギ……っ!」







  もはや言葉は不要であり、息子の真なる願いにリュウケンの心は完全に折れた。九歳の男の言葉が、北斗の伝承者の心を突き壊した。






        「……ぁ」






        「ジャギ!!」








 そして、話は冒頭へと戻り物語は始まる。



 これから始まる物語は、北斗の星を目指しながら、北斗の星に見放された男の話。

 そして、その男を導いた。北極星のような女性の話……。






  あとがき





  


 作者を休ましてやってくれ            死ぬほど疲れている

       



[25323] 第二十一話『休んでから投下すると言ったな? あれは嘘だ』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/13 10:26

  




           どうも~!  ジャギに絶賛憑依中の糞ったれだよ~!!



前回までのおさらい! 何故だが知らないけど有耶無耶に伝承者候補になれた俺!!

 


 もう本気で訳ワカメだけど、これでやっと北斗神拳を教わることが出来るよ! イヤッホーウ!! マンマミーヤ! 空っぽの頭が夢広がリング!!





                 そう思ってた時期がありました。









           「今日で俺がお前に南斗聖拳を教えるのは最後だ」










                   ( ̄_ ̄|||) どよ~ん  ……シンがあんな事言わなけりゃなぁ~……。








         「……は!? そりゃまた何で!?」



         「……何でも何も、伝承者候補に正式になったのなら分かるだろう? 南斗と北斗の掟を?」



       「……あっ」




   ああそうだった……。南斗と北斗での試合って殺し合い以外だと禁止っぽかった気がするなぁ……。




  組み手ぐらいでも駄目なの~!? ウルウル! って感じで聞いたけどno! no! no! ってスタープラチナ風に断られ心はオラオラされ状態。




   ぐったりする俺に、若干困った様子でシンは言う。




 「いや、だいだいお前はもうほぼ南斗聖拳の基礎は出来ているんだぞ? 後はそれを如何に自分で極め高めるのかが重要なんだ」

  「え? 本当か!?」

 「お前に嘘を吐いてどうする……。……今日で正式にお前はここを卒業だ……喜べ」


  そう親のように暖かい笑みを浮かべるシンに嬉しさと気恥ずかしさと……そして意地の悪い邪気が漏れ出てこう言った。



  「……本当は時々遊びに来て欲しいんじゃねぇのぉ~?」


  「誰かだっ!!」




   そうやって結構殴り会いしてから別れを告げた。……いや行くけどね? サキに定期的に媚薬渡す約束だし、だんだんロリコンになるのを
 からかわない手立てはないし、ユリアとは友好的なほうがいいし。レイ君とかサウザーの動向見ないと……ユダが最悪にうざいけど。









  あ~あともう一つの問題……。未来の拳王様……俺に物凄い殺気最近向けてて胃に穴が開きそうなマッハストレス状態。







  何かケンシロウに可愛がりした後、俺に強引に組み手させるんだよね。あの人








 女だったら毎日生理状態か? って思うけど。……あの人本気で完膚なきまで叩こうと俺するからな。



 憑依してからすぐ修行した肉体スペックと南斗の動きを見につけてなかったら半身不随になるまで痛めつけられてたぞ……おい。
  何とか避けて避けて 『見える、俺にも敵が見えるよ……アンナ』状態だったけど、調子に乗って気絶したからな、俺。





 あ、ケンシロウは未だ本格的な修行は参加しないのを知ってホットケーキ状態の俺。お古の重りの服を渡したらお礼言われた。やったね! ジャギちゃん!



 トキとも順調に医療の話から友好的な会話を広げることが出来たし、あと羅漢身につけたり、気を纏えたらどんなに良いか……。












           






            ……うん? 気って実際どうやって身につければいいんだ? おい??



[25323] 第二十二話『キムおじさー~ん! パンプリーズ!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/13 14:03


     「きょ、今日からここで修行する事になりました。キムと申します!
 よろしくお願いします!!」










                      ……誰だ?              こいつ……?









 

        季節は秋頃。ラオウの猛攻を受け流しつつも結構殴られ、トキとは柔の雰囲気を保ちつつ組み手しつつ温和な修行。
最近本格的に修行を共に始めるケンシロウには一応連勝中な俺様ことジャギ。





      ……いやねぇ、まあ主人公って言ってもまだ子供だし勝てるの当たり前だけど……ケンシロウが優しいって言う原作設定を知っていると
何処かで手加減する気持ちがあるって知ってるから勝っても心中複雑っすわ~;



  


  最近は修行でアンナと会う日が週に五回から週に三回に減っちまったぞコンチクショー (つд⊂)ウワ―ン



  アンナは俺と会わない日はサザンクロスでシンに教わってユリア達と談笑して勉強とか頑張っているらしい……癒しって本当にアルノネ







   で、件の目の前の人物は何とも頼りない動きを見せて遠くで修行しているキムさん。原作でも外伝でもほとんど知られぬ北斗の修行者の一人。


  拳も潰されてない様子だと本当に才能ないんだろうなぁ~って見つつも、俺はある事に気付く。
その修行の様子を一緒に見てたトキは俺に聞こえるか聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。


 「……動きは良いのですが……あれでは」

 トキはキムの突きの動きで眉を顰めての感想だったが、俺は別の感想を抱いている。それを口にしようとした時、音もなくラオウが現れ言った。

 「トキ、貴様はあ奴がの動きが伝承者候補にするには余りに未熟と考えているな?」

 「え……ぁ……はい……」


 「……ジャギよ、貴様はどう思う?」

 意外にも俺へ意見を促すラオウ。え? これって久しぶりの好感度上げフラグ!? と内心トキメキつつ冷静に意見を言った。

 「……確かにトキの兄者と同じで、動きは粗く北斗の拳を極める素材としては適してはいないと思います」

 「……ふん」

 「ですが」

 「……?」

 俺はラオウの注意が俺に向くのを知りつつも、冷静にこう言い切った。

 「一番の問題は拳に『人を殺す意思』がない事だと思います。北斗の拳は言うなれば肉体を凶器よりも高めた兵器。その肉体に何であれ強い意思を宿していないあの拳では、高めれば一流の拳法家にはなれると思いますが、北斗の拳を身につけることは不可能かと思います」


 「……!」

 「……ほぅ」






 上からトキ、ラオウの反応。感心してくれたって事は少しは仲良くなってくれるって思った証拠だよね!? ね……?





  だが、その幻想をぶち壊すラオウの拳……もどき言葉





    


                           「……貴様、やはり油断ならんな……」








                え?        何で俺もっと強い殺気向けられているの~??:(;゙゚'ω゚'):サムイー??







      そう涙を呑んで、気付けば豪雪となった真冬。予想通りリュウケンは門へとキムを引き連れるとこう言った。



    

      「出て行け! お前に伝承者候補としての資格はない!!」




                            ……じゃあ最初っから引き入れるなよ……何、このSMより酷い仕打ち……?







  そう考えつつもケンシロウと共に俺はハートブレイク中のキムの元へ趣き、ケンシロウの顔面パワー炸裂⇒俺、町まで送るぜ? を実行。






 「……ケンシロウは凄いな、ジャギ。 俺の荒んでいた心を、一瞬にして春の陽射しので解ける雪溶けのように癒してくれた」




  うん。ケンシロウが凄いのは知っている。けどわざわざバイクで送ってあげている俺に何か言う事はないのかなぁ~?  ^^♯
 そんな気持ちはひた隠し。何気ない口調で問いかける。

 「……これからどうするんだ?」

 「そうだな……。何処かの町で自分のしたかった事を、この機にやろうと思う」

 「やりたかった事?」

 「ああ……笑うなよ。昔からパンを焼いて食べてもらうのが……俺の夢だったんだ」
 

 「……笑わねぇよ。……素晴らしい夢じゃねぇか」

 「そうか……ジャギ、お前も意外に優しかったんだな。何時も恐ろしい風貌だったので誤解していたが」

 「ぶっ飛ばすぞ、ナン野郎」




  町まで辿り着き、荷物を担ぎ外へ向かうキムへ、俺は言った。



  「なぁキム」

  「うん? 如何したジャギ?」

  「……お前は北斗の拳法には向いてないけどよ。鍛えれば一流の拳法家になれる才能はあるぜ?」

  「……っ、だが……師父は」

  「『伝承者としての資格』だろ? 言っとくが北斗の拳は邪拳だ。お前の拳は綺麗すぎるんだよ。それをリュウケンは危惧したんだ。
 ……お前の未来を案じてな」
  


   「うっ……嘘だ!!」

                       「嘘なもんか、俺はリュウケンの息子だぜ? リュウケンの事なら何でも知ってる」



   俺の言葉に、キムは歯噛みしつつ顔を下に向けた。 俺は用が済んだとばかりにアクセルを踏み始め、独り言のように続けた。



  「お前は夢を叶えリャいい。……けど拳法家としての夢も追っていいんじゃねか? お前はパンを誰かに食わして笑顔にすんのもいいが
 暴力が支配するような場所じゃお前のその拳が誰かを笑顔にするんだ。そう、お前がリュウケンに真っ直ぐだと思われた拳がな」

   


  「……ジャギ、俺はどうすれば? 二つの夢を、同時に追っても良いのだろうか……?」



  「知るか、勝手に自分で決めろ、馬鹿」




  俺はもう話すことはないと、バイクで寺院へと戻った。





 





  ……いや、一人でも拳法家の味方は多いほうが……ね? 拳王の軍隊相手にする時もしかしたらキムのパン拳法が役立つかもしんないし……。








  あとがき



 キム  パン職人目指しながら自分の目指したい拳法を追う、の巻き





……あとお前の投稿ってスローだよな(笑)って言った友達に関しては絶対に許さないノダ(`;ω;´)



[25323] 第二十三話『こんな睡眠学習はいやだ』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/13 18:39
 


        場所はすべてが荒地となり、草木や生き物の姿は見えぬ荒廃となった世界。まるで核で全て消滅しているようだ。








        そんな世界の残骸の一角のビルの跡地に見える場所で、一人のヘルメット姿の男が子供へと銃を振りかざし怒鳴っていた。



      「違ぇ違ぇ! そんなへっぴり腰で邪狼撃が撃てるか! 手を限界まで反らして腰を安定させながら屈ませるんだ! 馬鹿!!」


      「……ぐっ……ぐ……」


      「何やってやがる!! いいか!? 弓を限界まで引き締めるのを想像しろ! そんでもってその状態で弦が切れるように勢いよく
前へと鋭い突きを繰り出すんだ!! 理想形は衝撃で周囲の奴らがかまいたちで切り刻まれるぐらいのスピードで撃つんだよっ!!」


               「てん……めぇ。それ自分も出来もしないのに調子こいて言うなよ!」



          「あぁん! 何だその口の利き方は!? もう一度この周囲を岩を引き摺って走り回りてぇのか!?」







     ラオウと対戦した後に気絶。そして一日の終わりでの就寝。どちらの状態でも最近ここへと自分はジャギと対面する事が増えた。







    興味深い事にビルの一階部分が修復され、その内部でジャギはソファーに腰掛けて『俺の』現実世界でも人気だったビールを飲んでるのが
 再びこの世界へと『俺』が出現した時に見た印象深い光景だった。
ジャギは『子供の飲む味だな』と飲んだ後に言ったが、その割に全部飲み干していた。



 あの銃口を向けられた時の記憶は現実世界ではまばらにしか覚えていなかったが、ここに来ると再び蘇るらしい。ジャギの剣幕を見つつ考える。

 ここのジャギは俺に『この俺様直々に稽古してやる。有難く思えよ?』と迷惑この上ない指導をしている。……最もここで俺はやる事はないのだが。



  ジャギが最初に指導しているのは戸谷さんの最後の遺作とも言える『南斗邪狼撃』。どこで覚えたのか原作でも結局不明だったが、質問すれば
やはりシンの南斗聖拳の技から盗み取った物だったらしい。最も見ただけで模倣出来るジャギのスペックはやはり北斗の拳と評価出来る実力だ。


   けれど性格はやはり原作通り最悪。見た目が自分の子供の姿だからが暴力までは振るわないが、鬼のように命令して指導を行う。





   
     「駄目だ駄目だ! 全然なってねぇ! 見てろ。こいつが『南斗邪狼撃』だ!」


  
     そう言って崩れ去った壁へと手を後方に反らせ腰を屈みこませるジャギ。そして雰囲気は殺気じみた物から闘う気配へと変わった。



                       「……『南斗邪狼撃』!!」




   一瞬のタメの後に声を上げつつ突きを繰り出すジャギ。その突きは凄まじく、繰り出したジャギの周囲の空気は確かに衝撃波を描き
 そして繰り出した突きと言えば、壁を綺麗に貫通し、荒廃した地平線へと伸ばされた手は汚れすらなく綺麗なままだった。


     

      「どうだぁ! 見たかぁ!!」



  
                子供が自慢するような声でジャギは俺へと振り返る。何度かこのやり取りをしたので溜息をつきたくなったが
 そうすると目の前のデザインが最悪なヘルメットは怒り出すので、素直に頷きながら同じように腰を屈め、腕を後方へと反らす。そして声が上がる。






     「いいか、てめぇは弱いんだ。それを理解しろ! 何年何十年もかかってようやく俺のように技が身につくのを俺がここで教える事で
 数年ぐらいで完璧に身につけられるようにしてやってんだ! 文句言う暇あんならここで何万回も『南斗邪狼撃』の動きを繰り返せ!!
 てめぇのようなふにゃちん野郎を鍛えてやる俺の優しさにむせび泣け! いいか!? てめぇは屑だ! 糞だ! 出来損ないのカスだ!!」



                  「……うるせぇな!! 少しは静かにやらせろ!!」



                「馬鹿め!! 俺様の声なんぞで気が散るなんぞ未熟な証拠だろうが! 心で耳を閉じろ! 頭を空白にしろ!!
 精神を統一するんだ! そんで指先と腕の特異点を気で熱くして弾丸のように突き出せ!! てめぇはまだまだひよっ子だっ!」





                       黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ!!!!!!!








                  「……黙りやがれぇ!!」







   散々馬鹿にされて精神の限界までの怒りは俺の体中を巡り、そしてジャギへと向けて俺の『南斗邪狼撃』は繰り出された。



    

             鋭く風の切れる音。そして衝撃で地面が抉れる跡。




 


          出来た!? と思った瞬間俺の脳天に激痛が走り、俺の視界は地面に横たわった景色へ切り替わっていた。





           「……馬鹿がっ! 俺様の技で俺様の心臓に突きたてようなんざ十年……百年早ぇんだよ!! だがなぁ、少し惜しかったぜ!
   もう少し早ければ俺を殺せたかもしれんなぁ~? どうだぁ~悔しいか~? アハハハハハハハハハッハハハハハハハ!!!!!」



     俺の脳天を殴ったライフル銃を指揮棒のようにしながら耳に煩わしく突くジャギの声。悔しくて悔しくて、俺は口に入った砂利を噛んだ。



     


        「……悔しけりゃ俺を殺せる位に『南斗邪狼撃』を磨け! ……まぁ、てめぇなんぞじゃ一生かかっても無理だがなぁ!
  その悔しさを! 怒りを! 拳へ乗せるんだ!! 聞いてるのかボンクラ!? だいだいてめぇは根性がねぇ!! だいだい……」












         「……何年も見知っている天井だ」


         『アンッ』







    目覚めると寺院の天井。どうやらラオウとの対戦の後に『また』トキかケンシロウに運ばれたらしい。




    現実ではラオウ。夢の世界ではジャギ。俺は涙を垂れ流しつつ蚊の鳴く声で呟いた。





                   「……アンナぁ~ 早く会いてぇよぉ~……」

                                「……クゥ~ン……」




                   尻尾を垂れるリュウの姿がとても切なく映る、とある日の夕方の風景だった。





[25323] 第二十四話『マダンテをジャギスライムは覚えたい』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/13 19:12



            「なぁシン。どうやれば気で飛び道具って操れるんだ?」


            「……お前はあの後で何で五日も経たずに来れるんだ……っ」









               『気』を習得するためにシンへと訪れた俺。そして隣にはアンナも控えさせている。





          一応『気』は北斗の秘伝の技って事はないだろうし……アンナも聞いといて損はないだろ。







          「……俺の拳法が南斗孤鷲拳と言うものだとは知っているな?」

      溜息をつきつつも説明するシンに、同時に頷くアンナと俺。




         「……南斗聖拳は主に肉体と精神を同調させた上で手刀や拳打、そして高等な技で衝撃波を出すことは出来る」


                    


                (;゚∀゚)=3   うんうん。      そんでそんで?





          「……だが、武器に気を纏わせ操る類の技となると、俺の拳法ではそのような物はない」








                     ……(; ・`д・´) ナ、ナンダッテ━━━━━━!! (`・д´・ (`・д´・ ;)











                「……結局ジャギが覚えたかった肝心なもの聞けなかったね」



    落ち込む俺を慰めるアンナ。町のリーダーの新しい拠点となるバーのカウンターに突っ伏す俺。その時苛立ち気にリーダーが下りてきた。



            「……どうしたぁ? リーダぁ……?」



            「どうしたもこうしたも……! この馬鹿、俺に黙って銃を売りさばこうとしてたんだ!」


          「ひっ……! ゆ、許してくれよぉ……リーダー!」



    リーダーに首根っこ捕まえられているのは、懐かしい不良Å。そして手に握られていたのはショットガン……うん? ……ショットガン!?



     「リ、リーダー、それ、貸してもらってもいいか!?」

   鬼気迫る表情と口調に、リーダーは『べ、別に構わないけどよ?』と俺にショットガンを差し出す。





                      ……ジャギが『ジャギ』であるトレードマークのこれなら、銃弾操れるかもしれねぇ……!






         町の外れで二つ分かれた方向に的を設置し、ショットガンを構える俺。それを見守るアンナ。



           「何する気、ジャギ?」



           「いいから黙って見てろって……」


    緊張の一瞬。    ソードオフ・ショットガンを構え、自分の掌に流れる気を銃身へと入れるイメージ。

        
       ……HUNTER×HUNTERのビスケ師匠!  俺に力をお与え下さい……!



    イメージは放出された弾丸を二手に分かれて当てるイメージ。 ……出来る出来る。俺は出来る! 絶対にやってやる! やるんだ!!










                              ……当てろ!!!!









    乾いた銃声が一発。祈り瞑った瞳を開ければ、両端の的の右端と左端に銃弾が僅かに当たった痕跡が         残っていた。







                            ……やっ        ……た?







    「……は、はははは! ははっ!! やったぞおおおおお!!  俺やったぞおおお!!  アンナぁ! 俺やったああああ!!!!」







    「ちょっ、持ち上げないでよ! 恥ずかしいってばジャギ! 恥ずかしいってばぁ!!」







    喜びアンナを抱き上げて回転する俺。そして紅くなりながらもジャギの成功を一番に喜んでるのが口元まで隠せず笑みのまま文句するアンナ






                           「……ひゅ~……。……ったく、若いねぇ~」






       動向を離れて見守っていたリーダーは、お邪魔とばかりにサングラスを装着し、町の警備へと戻るため踵を返した。











 あとがき



   これで自由に操る散弾雨でモヒカン共をぶっ倒せるよ(`・ω・´)



   あとこんなに速い投稿でも「お前、本気出してる?(笑)」って
    聞いてくる友達、もうぼこぼこにしてもいいと思う(`;ω;´)



[25323] 第二十五話『邪狼の産声が胸の中から聞こえた日(前編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/14 10:52


              時系列に関しては大目に見て欲しい……(´・ω・`)










           



           





           けどそう言う注意事項書くと『はww?  許せねぇからww それ逃げてるだけだからww』って言われる(´;ω;`)












       それは何時もと同じ日々の中で突然、運命論で言えば『決定されている』と確定の中で起きた出来事だった。




              思えば兆候はあった。町では骸骨のデザインを施したどうも胸騒ぎがする集団をよく見かけていたのだから。






 隣にすくすくと成長し自分の腰ほどに大きくなっているリュウを引きつれ、町へと向かう昼過ぎほどだった。荒いリュウの舌の音を聞きながら思考。
          修行も一通り終了し、今日はまたラオウにぼこられるか、それともトキと医学談義でもするかケンシロウの肩でも揉むか
 ……いや、アンナと最近喋ってなかった気がするから会いに行ってやるとするか、ちょっとご機嫌とりに小物でも適当に町で買って……。
 と選ぶ品物を決めかねつつ町へ向かう最中、一台のバイクが轟音と派手に煙を吹かして向かってくるのが見えていた。  ……あれはリーダ?





 


                  「どうしたんだよリーダ? 血相変え」









                     「アンナが攫われた……!!」








 

                         ……         ……                  ……は?









    いきなりの言葉に思考は止まり、世界から音と匂い、そして色が一瞬失われた。
 
    我へと返ると俺はリーダーの胸倉を掴んで叫んでいた。



  「何処に!? おいっ! リーダー何処にだ!!?」



  「攫ったのはグレージーズだ! ……けど奴らいきなりアンナを車に拉致しやがって……! 必死に今仲間で奴らのアジト探してるところだよ!」


 
  「……あいつら……!!」









 口から零れる歯の擦れる音。そして溶岩のように熱い塊が脳と心臓へ注がれるのを感じた。隣から鳴き声が聞こえる。 ……鳴き声?





  沸騰しそうな熱を抱えたまま、何かを必死に訴えるように鳴くリュウ。その視線は俺のバンダナに向けられていた。……  ……そうか!!






 
  「おいリュウ……出来るのか?」




  「ワンッ!!」







 同意するように強い一吠え。俺はアンナから貰ったバンダナをヒュルリと解くと、それをリュウの鼻へかざした。



   ひくつく鼻、そしてそれを見守る強面の男二人。短くも長い間のあと、リュウは力強く鳴き、そしてある一方へ走り出した。





                   「……ゥウウウウ!    ワンッ!!」



             「……よしっ!!  リーダー! すまねぇけどバイク!!」


            「いいぜやるよ!!  その代わり絶対にアンナを救うんだぞ!! でないと俺がお前を殺す!!」




        サムズアップするリーダーに見送られながら、俺は矢の如くかけるリュウを追いかけ、バイクのエンジン音を空へ木霊させた。









                 ある程度の距離の後、荒い呼吸で座りこむリュウの先に、怪しげな建物と、骸骨のデザインの見張りが見えた。





            確信を秘めて俺は足を忍ばせて見張りへ近づく。気付かない男。そいつの首筋に手刀を打とうとした瞬間、そいつは呟いた。









 
                           「……あぁ~。ったく貧乏くじだぜ。俺もあの上玉相手にしてぇのに……」













          「おい」





       「……!!?  なっ、何者……ひっ!? な、何だぁお前えええぇえええ!!!??」






        「……ここに……アンナは……いるのか?」








   自分がどう言う表情をしているのか自分で理解出来ない。微笑んでいるつもりだけど、その男はまるで化け物でも見るかのように『俺』を見る。




     「おっ、女の事か!?  お、おおおおお俺は関係ない!! 浚ったのは上の奴等だ!! だから助けて!! 助けて助けて助けて助け」





                                  「黙れ」






   首を軽く押さえただけだ。なのに、目の前の男は瞳孔が開いたまま倒れている。俺は耳鳴りが聞こえる中、その建物の入り口の階段を見遣ると
 騒がしいロックだが何かの音楽が鳴り響く、一方通行の階段を登った。












            


                   目の前には服を引き裂かれ、乳房が見え隠れしながら懸命に抵抗する「    」 それを下品に笑う『 』

 





       前にもこんな光景があった気がする。あの時はただ俺は俺が成長している事に酔い、「   」へ英雄行為(ヒロイズム)した満足感
 だけで鎮圧する事で拳を収め。俺は『 』を殺すまではしなかった。







       だから「   」は死んだ。だから「   」は獣の慰み者にされた。だから「   」は俺に会えずに終わった。









   「   」の声が聞こえる。     何で助けに来たのにそんな瞳をするんだ「   」? 大丈夫だ、何の心配もいらない。



    



     「   」を汚す者。「   」を傷つける物。「   」を悲しませる者。「   」を絶望に陥れる全て。











                  オレが破壊してやる。



[25323] 第二十六話『邪狼の産声が胸の中から聞こえた日(後編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/14 11:45


     最近ジャギに会ってないな~。色々と拳法の修行が忙しかったりするんだろうけど……。









           「おいアンナ。ぼ~っとしてないで店の仕込みやれって」



           「……ふぁ~い」



           「……お前ジャギと会わない時と会う時の態度まるで違うな。兄貴と言えど、ちょっとショックだぞ、おい?」





    兄貴が何か文句を言うのを聞き流しつつ、私は店の中にある苗を種類ごとに分け始める。

  ジャギが『絶対に役立つから! 勉強しろ!』 って農業とかそう言う参考書渡されて最初は興味はなかったけど……悔しいけど面白い



それが影響してか兄貴に「警備以外にもお金を稼いだほうがいいし、私、花でも売ろうか?」と聞くと、お前の好きにしろと言われ、好きにする事に。





  ようやく最近栽培も上手く行き、客へ売れるほどには花と植物の苗は育ち始め私の胸は躍る。


  水と肥料を与えるべき植物に与え終わる。その後は本来の勉学を片手間でし始める。学校に行くほどのお金のない私には、リーダーとジャギ
だけが私の先生だった。……何でジャギ私より年下なのに因数分解とか小難しい事知っている天才なのに拳法家なんだろう? 
 って事は置いておく。それを質問したら、ジャギが焦った口調で『それは言ってはいけない約束だ……!』って言ってたし。




                   「あぁ~あ~……ジャギと会いたいなぁ……」


                   「そればっかりじゃねぇか……お前は」




              「……兄貴も恋人作ればいいじゃん? そんな風に文句言うんだったら」

            「お前が誰かと安心して結婚出来るようになるまで俺は相手なんぞ探せねぇよ。死んだお袋と親父に誓ってな」




              「……え? 作れば?」




            「てめぇどう言う気持ちでその言葉繰り返したんだ? おい? 言ってみろ、おい?」



           米神に青筋が立ち始めたので危険を察知し外へと出る私、陽射しが強く今日は花も元気に育つだろう。 風も気持ちい~……







 
                              




                                「……今だ!!」





                                「え?」



   





       気がつけば何かの薬品を口に当てられ、私は暗転の意識へ落ちる。……そして目覚めるとニヤニヤ笑うグレージーズの姿。







    「……あんたら落ちる所まで落ちたのね。私を誘拐するとか」




    「はっ! てめぇの兄貴のせいでこちとらこの町で堂々と闊歩する事も出来なくなっちまったんだ! お陰で堅苦しい生活なんだぞぉ!!」




    「自業自得でしょうか、馬鹿」





   アァ!? っと拳を私へ振りかざす目つきの危険な男。それを私は培った南斗聖拳の動きですり抜けると背中へ蹴りを見舞わした。





      「がっ……!?」




      「生憎だけどね。あんたらの半分ぐらいなら両腕縛られていてもぶっ倒せる自身はあるよ?」






     武器である手甲も何もないけど、ジャギとシンから教わった動きがこんな屑達に劣ると私は考えてない。




  

       「……けっ……! こいつ女の癖に一端にも南斗使いかよ!」

 
       「だけどこの大人数相手に無傷で勝てるとか思ってないだろうなぁ……?」



    フゲゲゲ! と何処から出しているのかわからない笑い声。確かにこの人数相手だと闘うより逃げる事に全力を尽くしたほうがいい。
 けど逃げる手段は入り口の扉一つ。窓はすべて鉄格子ではめられ、私の拳ではそれを切断出来る自信はない。



     気が前へ集中し過ぎたせいだろうか?  横から襲い掛かってきた男のナイフが胸元を掠め、私の右の胸が露出した。


     湧き上がる口笛、そして貪欲な獣の目。その視線と雰囲気は私の心の奥を震わせ、冷たい血流が動きを鈍くしかけた。






                                「……アンナ」









      その冷たい血流を一瞬にして暖かくする貴方の声が聞こえた。視線へと振り返る私。けど、貴方の様子はまるで変わっていた。







                             「待ってろ……アンナ。……すぐこの『蛆虫』を……全部潰してやるからな」








       貴方は微笑みを浮かべているつもりだったんだと思う。でも貴方の笑みは何時も私に向けられる小さくも暖かい笑みではなく
 裂けるように大きく、そして血が吹き出ているかのように幻視させるワライだった。








   グレージーズの恐怖に慄いた声、そして挑みかかろうとする実力が理解できない愚か者の声、その声に混じって私は確かに聞こえた。

   ……行き先がわからない子供のような声が、癇癪を起こすように泣き叫ぶ声が、空耳ではなく確かに耳に届いていた。






  ジャギは普通の人間には追いつけぬ速さでグレージーズ達の周囲を駆け抜ける。その度に悲鳴を上げて体の至る部分から血が吹き出ていた。



    ジャギが飛ぶ、ジャギが舞う、ジャギが突く、ジャギが凪ぐ、ジャギが斬る、ジャギが……   あれは本当に『ジャギ』なの……?

  私の胸にはジャギが振るう力に対しての恐怖は微塵もなかった。
 けど、ジャギがあいつらを屠りながら浮かべる顔は、私がここへ来た瞬間のジャギの顔に対しての不安感を膨れ上げて……。私は……私は。








                           私は、ジャギへとその足を進めた。










                 醜い虫の悲鳴。この世で最も聞くに堪えない命乞いの声。
         誰の血か不明の血の海の中で、俺は両手に誰かの血が染まった手で周囲の声を聞いていた。





          シニタクナイ、クルシイ、タスケテホシイ、イタイ、ヤメテ、タスケテ、コロシテ






   激痛ならば当然の反応の声。だが、俺はその声を聞きながら天井よりももっと上に輝いているだろう星を見つつこう考えていた。




                      ……あいつは死ぬ瞬間まで、俺に会おうとする中でこいつ達と同じ気持ちだったのだろうか? と






           アア  アア  ヒドク  ヒドク    スベテハムリョクゆえに スベテをハカイする

                 俺は破壊するため拳を構え、そしてその言葉を唱えようと口を動かした。








                        「北斗千手」






                        「ジャギ」









     甘い香り、そして太陽を吸い込んだ金色の色。俺を抱きしめる腕は力強く、そしてその手は小さくながらも俺の手よりも強い。





                    「もういい……もう私は満足したよ? ……だから帰ろう? ここはジャギのいる所じゃないでしょ?」








      



    「……! アンナ! 平気か!? 怪我してないのか!? 何も酷いことされてないよな!? そんな事あったら俺……!」




    「大丈夫、大丈夫だよ。『ジャギ』」






  必死に心配する『俺』を余所に、母親のような笑みを浮かべてアンナが俺を抱きしめる。それに混乱する『俺』の耳元で、アンナはこう囁いた。









     


            『ジャギは私が守るから』












あとがき










 『ちょっとペース落ちてるんじゃない(笑) いや、別にいいよ(笑)
それがお前の全力全開って事でしょ(笑)』





  


  ちょっと三時のおやつ抜いて殴りこみに行く(`・ω・´)






[25323] 第二十七話『Q・M・Z!!Q・M・Z!! 』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/14 21:00




    グレージーズは病院送り。『二度とアンナやリーダー達の前に現れるな。悪さすんな』と釘は刺しといた。

   アンナは何ともなかったようだけど、怖かったせいか俺の傍に頻繁にいる事が多くなった。リーダーは本格的に武器を調度するらしい。

   とりあえず一段落過ぎて何とか束の間の平和へ戻れそうかと思ってたんだ。……思ってたんだよ。













      「グああアアああぁぁっぁああアアああ!! み、耳ガァァああ!! お、俺の耳ガァアアあ嗚呼あぁぁああ!!??!!?」










                     ……やべぇ      余りにもやりすぎだよ   俺(。_。lll)










     うん、何が起こったかと言うと、今日はラオウもトキもケンシロウもリュウケンも何かしらの使用で寺院を空けていたんだよね(´・ω・`)

    
     それで、俺暇だよやっほう(;゚∀゚)=3 って久しぶりにゴロゴロ出来そうかなって思っていたら、空気の読めない道場破り登場(´;ω;`) 

     そんで『俺様、白蛇拳のシバ。おで、強い』『そうですか、白蛇拳凄いですね(笑)』『何笑ってんだ殺すぞ』って喧嘩売られた (つД`)

     戦闘勃発。ジャギのターンコマンド⇒:南斗聖拳
                       :北斗神拳
                       :話術
                       :石油(まだ選択出来ません)


          『敵』白蛇拳のシバ⇒:正拳突き
                    :正拳突き
                    :頭突き






   傷だらけのスキンヘッドで、『アイアムレジェンド』の奴等見たいな格好で手強そうだったけど、直進的で意外と弱い。

   
   いやね? 俺もレベルが上がった証拠だろうけど、それって伝承者に選ばれる確立が上がっているから喜べないんだよね? 


   そんでさ、一時間は避け続けて相手の疲労困憊で自滅待ちしていたら、そいつの言葉にカチン☆ と来ちゃって……。


   リュウケンが拾った孤児とかそう言うのは別に構わなかった。だってそれ俺には関係ないし。けどあの言葉がなぁ……。





             『この避け続けるだけしか脳のない臆病者が!! そう言えば町で貴様が女を引き連れて歩いているのを見たぞ!!
 その女もお前に似て下品で! 無様で! 何処の馬の骨とも知れない体を売るしか能がない×××なんだろうが!! どうだ当たりだろ!?』



                    ……うん御免。つい南斗聖拳でそいつの右耳を削ぎ落としちまった。ちょっとだけ後悔(`・ω・´)  





                         ……しかもその場面丁度帰ってきたリュウケンに目撃されちゃったもん……(`;ω・´)
 やべ……って思っていたら右耳抱えつつ『許さねぇ……! てめぇには何時か復讐してやるからな……!!』っていちゃもんつけられるし……泣






 


        正座する俺。そして厳しい目線で俺を見下ろすリュウケン。



    「……ジャギ、お前が北斗の寺院に唾を吐かんとする者を払わんとした意思は認めよう……だがこの寺院で北斗の伝承者を目指す者が
 南斗の動きを使い避ける事はまだ許すと言え、技を使うことを私は認めてはおらん!」



    「……はい、師父」





   めっちゃ怒られている。……当たり前か、この寺院、北斗神拳覚える場所なのに南斗の技使ったら本末転倒だもん……。






 三十秒ぐらい経過しただろうか? 見下ろすリュウケンの溜息が静寂な空間を木霊する。……破門とか言われないよね?(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル






   「……ジャギ、お前は本当に。北斗の名を、修羅の道を究めんと思っているのだな……先程の動きからもそれは知りえた……。わかった……。
 お前に北斗の奥義、授けよう。これをお前が極めれば、お前もまた北斗の拳を……」








                     え?     ……それって、もしかして……まさか……? そのまさか……!





                  「受けてみよ、そしてその心と身に刻むがいい。北斗神拳奥義『北斗羅漢撃』を……!!」










キ……!!  キタ━━━(´∀`)´・ω・`);゚Д゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)゚皿゚)∵)TΔT)ΦдΦ)#-_-)~ハ~)゚з゚)ё)≧。≦)°.Å)゙・Ω・)^σ^)=゚ω゚)ノ━━━!
















        「で?   ほとんどわからなかったってか?」



        「面目ないっす、sir」






   またこの不思議空間で、ジャギに羅漢で感激。けど速くてほとんど何を極めて言いかわからねぇ 死にてぇ状態の俺 を告白。



   ヘルメットのジャギは一升瓶に入ったアルコールを飲み下しながら「見ただけで体得なんぞお前に出来るか馬鹿」とそっけない。



   


   「……『羅漢』なんぞ糞だ。んなもん覚えるより『南斗邪狼撃』をしっかり覚えろ」

   「いやいや、あんただってケンシロウに使ったんだろ? 使って負けたからって糞ってのは酷いだろ?」


   「糞は糞だ。それにな、羅漢なんぞ極めたって大した得にはならねぇ」



  
  俺の言葉に逆上するんでは? と少し不安だったけど、平然とした口調でそう言いつつ立ち上がると、羅漢撃を繰り出す構えを取った。




   「こいつが『羅漢の構え』だ」


   「……天破の構えのぱくりじゃないの?」


   「馬鹿め、こいつは攻守に関してはバランスは良い技だ。もっとも、俺は『あの時』出来なかったんだ。糞見たいな技だ」


   そう言いながら、突き出した掌を空間を撫でるように動かすジャギ。


   「この状態を維持しつつ『二指真空把』を極める事が出来れば降り注ぐ弾雨も矢も相手の元へ返すこたぁ出来る」

   そう言って、掌を合わせ、喉から呼吸を始めるジャギ。そしてゆっくり押し出すように掌の親指同士をくっつけつつ俺へと説明する。

   「『羅漢の構え』の状態で精神を統一すれば『発頸の法』。高めれば『北斗流弧陣』。もしかしたらシュウの『誘幻掌』も出来るかもな」



   「最高じゃねぇか! 何で糞なんだよ!!」



   「てめぇだからだよ」


   「え?」


   興味ないとばかりに『羅漢の構え』の姿勢を崩し適当に座ったジャギは『俺』へと言った。


   「ジャギに『北斗羅漢撃』は極められねぇ。羅漢撃が極めもしない野郎に『羅漢の構え』なんぞ教えても無駄だろうか?」



   わかったか? と何故か二階まで修復されている建物から飲み物を取りにいくジャギに、俺は無念や憤りの混ざった感情が拳の中へ
流れ込むのが感じた。そして、何故ジャギがそこまで『北斗羅漢撃』を見放しているのかが、頭の片隅でずっと後に解るまで疑問に残った。









あとがき



 とりあえず友人の家まで乗り込んだらカレンダーの来月のこの日に赤丸。


 「愛などいらぬ! 愛などいらぬ!!(泣」って全裸で酒転がしてわめいてたから北斗有情断迅拳で許すことにした(´・ω・`)


 とりあえず仲直り。みんなも頑張っている人を傷つけるような感想はやめようね?(´・ω・`) 汚物との約束だよ?(´・ω・`)

     
   



[25323] 第二十八話『女の愛は一匹の豚を救う』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/15 11:38

  場所はサザンクロスの街道。核戦争の未来が襲来する前のここは、人々の熱気と活気で和気藹々とした空気を醸し出し、自然と心が躍る。
 その街道の人々の川の一角で、人々を惹きつかせる風貌と言ってもさしつかえない女性が三人、人の熱気を和らげる空気を纏い歩いていた。
  
   「何時も屋内にこもっていたら自然と醗酵しちゃうからね。もっと外で元気に遊んだほうがいいよ? 二人とも」

   「け、けどわざわざ抜け出して遊びに出るなどしなくても良かったではないですが! 護衛の一人や二人つけたとしても……」

   「ジャギだったら別に構わないけどさ。女同士でしか楽しめない事ってあるでしょ、サキ? 若いんだから今のうちに色々楽しまないと!」

   「だから! 私は万が一の事があったらと!」

   「万が一万が一考えていたら楽しめる事も楽しめないよ? サキは心配性だって……ほら、もっと自然にスマイル、スマイル~!」

   「しゃっ、くすぐらないで……あっはっはっ! しゃめ! もぉ~! ユ、ユリア様笑ってないで助けて下さい!」

   「……ふふっ。いえ、ごめんなさい。あまりにもサキとアンナが楽しそうだったから。……お邪魔かなって」

 
   からかわれているのはサキ、何時もと違ってユリアの傍にいる時の正装はカラフルで、女としての美しさを控えめにアピールしている着服だ。

   そして腰をくすぐったりなどからかっている、太陽に映える緑色のバンダナの女性、アンナ。その服装は何時もの赤いレザーを基調とした
外出用の服だが、靴だけは何時も着けているブーツでなく、歩きやすいスニーカーで動いている。因みに、お気に入りの靴はジャギの前でしか履かない。

そしてそれほど目立つ服装はしていないが、本来の生まれ育った特性から歩くだけでも清涼で見た物を穏やかな気持ちへと変えてしまうユリア。
 
    今日はアンナに半ば強引に外へと遊びに来ているのだ。


   「まったくアンナ様は……! もしリハク様かジュウザ様に見つかった日にはどうするおつもりですか!?」

   「ジュウザ君ならユリアの事邪魔しないでしょ? ……あぁ、リハクさんならちょっと大目玉喰らうけど……その時はその時で」

   「何も言い訳はないのですか!? もぉ~、今頃寺院では居なくなった事が知れて大騒ぎですよ! 頭が痛い……!」

   「けど、そう言うサキも町の露店のアクセサリー色々物色して買ったじゃん? 凄い乙女チックに見て楽しんでたのは明らか」

   「うっ、あ、あれはそ、その、シ……ゴニョゴニョ……様が褒めてくださるかな、と……」

   「え? 誰に誰が褒められたいって? もう一度意中の相手を言おうか」

   「……///!! ですから!! からかわないと言っているでしょ!?」

   二人の漫才のようなやり取りに上品に笑い声を上げるユリア。周囲の人間はその輪に出来れば入りたいと羨ましそうに見つつ歩き去る。

   「ユリア様ぁ~! ユリア様も何かおっしゃって下さい!」

   「……御免なさいねサキ。でも私、アンナに誘われて遊びに来て良かったと思っているわ」
   
   「……ユリア様?」

   遠くの上空に目線を向けるユリアに、サキは不思議そうに小さく声をかける。

   「……こんな風に友達と露店を回ったり、美味しい物を一緒に同じものを食べたり。……昔の私なら考えられなかった出来事だわ、全部
  そう、こんな風に楽しい気分でいられるのもアンナやサキのお陰。私、とても二人には感謝しているわ。そして二人の周りの人にも」

    微笑むユリアに、アンナは照れたように笑い、サキはと言うと『私は一介の侍女として同然の事をしているだけで』と慌てて答えていた。

   
   そのように穏やかなひと時の中を、遠方から聞こえてくる何かしらの破壊音と悲鳴が突如破壊した。

   慌てるサキ、そして動じる事なく何があったようね。と呟くユリア。そして破壊音のする方を見ながら、行ってみる? と誘うアンナ。


   「危険でございます! もしユリア様にお怪我が起こるようでしたら、この、サキ! サキめは一生罰をお受けするつもりですよ!」

   「ふ~む……その罰って『好きな相手と死ぬまで一生傍にいて胸が幸せすぎて痛すぎる』と言う罰でどうかな?」

   「あら、それはとても魅力てきな罰ですわ……って、話をはぐらかさないで下さい! あっ! ユリア様、アンナ様!! ……もぉ~!!
  真面目にお二人を心配しているのが私だけって、馬鹿みたいですわ!!」


  駆ける三人の女性、暫し走ると開けた場所で一人の大男が闇雲に暴れており、それを必死で押さえつけようとサザンクロスの兵士が手をこまねいていた。

   「何があったの?」

   「あぁ、刑務所に護送中の囚人がいたんだが、何せあの体型だろ? 乗り物にも乗せれないから鎖で引き連れていたんだ。
  けど野次馬の誰かが石を投げてそいつの腕を掠って血が出た途端、そいつがいてぇよぉ~! って叫んで鎖を引きちぎって暴れ出したんだよ。
 今護送していた兵士が取り押さえようと頑張っているけど、あの体型であの力だし、最後には射殺されるんじゃないか? あの囚人」


   ふ~んと暴れまわる男を見るアンナ。額の左にはハートマークが刻まれ、暴れまわる顔つきは殺人鬼のそれだ。けどアンナはこう思った。


                 (……何か、とっても悲しくて痛そうだな……あの人)


   そうぽつりと思っていると、隣で大男を眺めていたユリアは静かな瞳で男を眺めながら呟いた。


    「……あの方、とても凄惨な目ですが、とても苦しそうな光を携えています。……私が癒すことが出来れば良いですか……あの方の耳には」

   「ユリアもそう思う? 何か悲しそうな目をしているよね。けどあの状態じゃ話も聞けなさそうだしなぁ~」

    「お二人ともどのような目でそう思うのですか? ……いえ、ユリア様を疑う訳では決してないのですが……」




        「いてぇよぉ~! いてぇよぉ~~!!」





     (……あぁ~よしっ! 決めたよ! 私!!)



    「ユリア! 私があいつの動き止めるからさ! その間に説得してよ!!」


    「え?」


    「な、何を言っているのですかアンナ様! あんな大男をどうやって!?」

    「サキ、さっき買ったロープ貸して」


    「え? あ、はい……ってもしかしてそれで!? だ、駄目ですアンナ様! アンナ様ったらぁ~!!」


   (いざって時にシンを拘束する為の)ロープを手に持つと、走り出すアンナ、引き止めようとする群衆の声を背に、アンナは暴れる男の
 目の前に立つと、ブンブンとロープを回しながら言った。


                       「……豚を捕縛するのも農家を目指す者の心得……ってね」




      「おっ、おい君よせっ!!」


      「そ、そうだ私たちに任せ……どわっ!?」



  
    慌てて緩慢な動きになったサザンクロスの兵士は大男の手に運悪く当たり吹き飛ばされる。それにあちゃぁと呟きつつも声を張り上げた。


     「ほらほらっウスノロ君! 捕まりたくなかったらこのアンナ様を倒してごらんっ!!」


    
      「いてぇよぉ~!!  いてぇよぉ~!!!」




    形相を浮かべ襲い掛かる大男。その足元をすり抜け、アンナは男の太い右足に瞬時にロープを絡みつかせた。


      「いてぇよぉ~! いてぇよぉ~!!」


    振り返りアンナを叩き潰そうとする男、それも培った敏捷性で金鼠の如く避けると、左足へロープを絡みつかせた。ここまで来ると終わりだ。


      「ほらほら~、そんなんじゃ捕まらないよ!!」

 
      「いてぇよぉ~! いて……っ!!??」



   カクンと体が崩れ倒れる男。ロープは男の右足と左足を縛りつけ、歩こうとした重心を崩す完璧な役割を果たした。倒れる男、近づくユリア。


   危ないと叫ぶ群衆、その声を流しながらユリアは男の顔を上げ、目線を固定して、男へ優しく語りかけた。

    「……貴方は何故そんなに苦しんでいるのです。何がそんなに痛いのです? ……私では貴方の心を癒せませんか?」

  
    「うぅ……いてぇ、いてぇよぉ~……」


  そしてユリアは男の瞳に浮かぶ苦しみが見えた気がした。幼い頃にその体型で見世物として売り物にされた男。そして虐待の内に自分の中に
 凶暴な獣が生まれ育ってしまったこと。今回刑務所に入れられるのも、自分を折檻した主人によって流れた血が、自分の心を壊した事、などを。


   「……辛かったでしょう。怖かったでしょう。私は貴方を傷つけはしません……ここには貴方を傷つけようとする者はおりません……」


   ユリアが流す涙、そして慈悲の瞳を見続け、いてぇよぉ~と叫んでいた男の声は徐々弱まると、正気の瞳へと変わった。


  「……もう、大丈夫ですか?」


  「……はい。……有難うございます優しきお嬢さん。いま……いま私の中にあった凶暴に狂い叫ぶ猪の心は静まりました……」



  涙を浮かべ、ユリアへ感謝する『ハート』。そして起きた兵士達に再び鎖をつけられながら、アンナへサキへ、そして見ていた群集へ深く深く
 頭を下げた。……しかし、運が悪いことに群集の中の意地の悪い人間が騒ぎを起こした男へ制裁を食らわそうともう一度石を飛ばしたのだ。


     「……危ない!」


     「……うっ……!」



   石は容易に男が避けようと思えば避けれたかもしれない。けど自分を癒した女性に万が一でも当たることを考えハートはあえて受けた。

   額から流れ出る血。だがもはやハートは自身を失う事はなかった。



「……これから私は自身の罪を静かに受けましょう。そして美しきお方。もう一度外の空気を浴びる時、貴方へお礼を言いに行っても構いませんか?」



  「もちろんです。……貴方の名前は?」


 

  「私の名前はハート。貴方の未来が、無限の幸で溢れん事を祈ってます」
















    「母も知らぬ、父も知らぬ、故に命もしらぬわぁ!!」


   吹き飛ばされる修行者の一団。北斗の寺院でリュウケンとラオウへ殺気を張り巡らしながら、フドウは吠えていた。





  

  「……くっ、流石は鬼神のフドウか……うん? そこの青年よ、何を」



  「お静かに、今私は『木』と『石』。無となるべく精神を統一してます」



  「いや! 鬼神のフドウの見えぬ柱の影でわざわざする事」


  「お静かに、木は喋ることはない。石は人の目には留まらぬのです」


  「いや、だから」


  「お静かに」


  



[25323] 第二十九話『君の隣で夢を囁きつつ眠りたい』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/15 12:38


                           ------体は羅漢で出来ている



                              血潮は石油で、心は邪悪



                               幾たびの世紀末を超えて惨敗


 
                                ただ一度の七星もなく、


                                ただ一度の幸福もなし。
 
                                  担い手はここに一輪

                                  荒野の崖で華を咲かす


                                ならば、我が生涯に意味は不要ず


                                この体は、無限の羅漢で出来ていた。 










      「……と言う夢を見たんだ」


                 「お前ぇ、この世界が夢見たいなもんだって知ってて言ってんのか?」











    今日は修行も休みつつ、珍しくアンナの部屋へと上がりこみごろごろしている。


   あの事件があって以来自分は何かとアンナの近くにいるつもりだが、逆にアンナが俺の傍で守ってるような気がするのだが、気のせいだろうか?


そんな疑問が頭を過ぎりつつも、アンナは机に向かいつつ植物に関しての図鑑などを観察している。
    ……世紀末で図鑑の六割の植物は死滅するだろうけど。覚えとくのは無駄ではないよ。復活する可能性もあるし……。


  「……アンナ。見てて楽しいかぁ?」


  「いや、ジャギが勉強しろって言ったんじゃないの。それなのに楽しいかって最上級の嫌味なんだけど?」


   「嫌味でザンス」


  「何それ?」


   「……何でもねぇよ」



  この世界は自分の世界の知っている漫画がほとんど流通していないのがネックすぎる。テレビは一部の金持ちの物だし。俺達はラジオ聞くぐらい。

  ネットなんて問題外だ。核戦争起こす技術あるのに何で日本にパソコン流通してねぇんだよ!? あれか! 敗戦国家ゆえにか!?

  
 一つの可能性としてラオウが漫画オタクだったら共通の趣味で仲良くなれるかなとか夢に思ってたんだぞ神様の馬鹿~!!(絶対に無理


   「ジャギ、顔が巡るましく変わっていて怖い」


  アンナにきつい一言でダウンする俺。立ち直っている間にアンナは勉強を終わらせ、童話全集ののっている本を持ってきた。
   
  リア王とかロミオとジュリエットとか昔の有名どころの作品に関してはこちらにも実存している。……逆にこちらに俺の知っている作品は少ないほうがいいんだよな。一騎当千とかねぎマとかジョジョとか『真実愛(トゥルーラブ)』とかが消滅すると思ったら鬱だし……。


   「……このお話ってさ、かなり救いようがないと思わない」


   「え? どの話だ?」

   
   「またぼぅっとしてたでしょ? ジャギ。……ほら、このお話」



   アンナが指した童話全集にのっていたのは『ヒナギク』と題名つけられた作品……アンデルセンって有名だけど知らないぞ、この話?



   「どう言う話なんだ?」



   「……昔ある所に小さい小さいヒナギクの花が咲いていました。その花の香りは小さく、他にも美しい花は咲いていましたが綺麗でした。」


   「……ヒナギクや他の綺麗な花達の前に、ある時一匹のヒバリが降り立ちました。ヒナギクは他の花にヒバリが降り立ち綺麗だろうと
 褒めるだろうと思っていました。他の花達もそう思ってましたがヒバリはヒナギクの前を飛びながらヒナギクの心は金、着物は銀と褒めました」


   「いい話じゃねぇか」


   最後まで聞いて? と念を押すアンナ。その微笑に何故か翳りが見えた気がして、俺の心は少しだけざわめくも、黙って耳を傾けた。



   「……ある時ヒバリは子供達に捕えられました。そしてヒナギクも。……ヒバリの檻の前に土草ごとヒナギクは置かれました。
   捕まったヒバリが少しでも自然を思い出されるようにと……水も、餌も、ヒナギクにもヒバリにも与えず……」


    一旦、目を閉じて何かを考え込むアンナ。僅かばかり静寂を生んでから話は終わりへと続けられた。

   「ヒバリは死にかけたとき、ヒナギクはこの可哀想なヒバリを少しでも癒したいと精一杯の香りを醸し出しました。ヒバリはヒナギクと
  話すことも、意思を通じる事も出来ませんでしたが、ヒナギクが自分のためにその香りで癒そうとする事はわかっていました」


   「……やがてヒバリは死にました。子供達は大声で泣きつつヒバリの為に墓を立ててやりました。けれど、広大な空から切り離されたヒバリ
 の為へと心の中で涙を流し、精一杯の癒しのために尽くしたヒナギクは、雑草の生えた土と共に道路へと無造作に捨てられてしまいました」



    「ヒバリの為に子供達は涙を流しました。生きている間に水も餌も忘れていた子供達はヒバリの墓へと涙を注ぎました。
  けれどヒバリと永遠に居たかったヒナギクに関しては、その墓の側に咲くことすら許されず土ぼこりの中誰の心にも残らず枯れたのです」





    ……パタン、と本は閉じた。俺は聞き終えてから最初にこう感想を漏らした。



   「……下らない話だ」



   「……そう?」



  「ああ、……最悪で、下らなくて、聞く価値もねぇよ……」


   



    「……じゃあ、何でジャギは泣いているの?」



   そう言ってアンナは俺の頬へ手を伸ばし、俺の目から流れている液体を優しく拭った。


   言われるまで泣いている事も気がつかなかった俺。暫し涙が止まるまで時間が経った後、俺とアンナは外へと出かけた。




   月が綺麗な夜だったと思う。アンナは生い茂る草の布団に寝転がりながら、ここ、私の秘密の場所なんだと得意気に言った。






               「……ジャギの夢ってさ、何?」



    そう不意打ち気味に問いかけたアンナ。俺は暫し思考を巡らした後、そっけなく言った。


          「……わからねぇ。とりあえずは、今を精一杯生きるって所かな」


          「ふふっ、何かその答え、おかしい」


          「アンナはどうなんだよ? どんな夢なんだ?」


          「……私の夢はね」



   腕を枕に、夜空に浮かぶ月へと語りかけるように、アンナは言った。






         


                 「『大好きな人と一緒に、好きな場所へ旅をする事』……かな。……お金貯まったらさ、色んな場所を
 見に行きたいんだ。ジャギもさ、良かったらジャギも……ジャギ?」







     「……うん?」



    「大丈夫? また泣いているよ、ジャギ」


     「え? 本当か? ……何でだろうな? アレルギーって訳でもないだろうし……」



    ごしごしと目元を拭おうとすると、駄目駄目とアンナはハンカチを取り出し俺の目元を拭った。そして、俺へと笑顔で言った。





      








           『一緒にさ、夢を叶えようねジャギ』





 



[25323] 第三十話『てめぇは俺の野望のために生きれ!!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/15 19:39



  ついにその日は来た。俺は散々やり取りした手紙を見つつ、手早く準備を後にして立ち上がった。その手に握られるはサウザーの手紙。                 





                時刻は日が昇る前の闇夜。一人のまだ子供の体をしている少年の寝室へと忍び込む怪しき影。

               その影はじっと少年を暗い瞳で見下ろすと、その顔へと鋭く光る指先を向けて……。



                                   ぷにぷに



                                頬っぺたを突付いて、少年を目覚めさせた。



                          「……うっ、何……? ジャギ兄さん?」


                「悪いけどなぁケンシロウ。ちょいと大事な用があるから二日ほど留守にしなくちゃならねぇ。
   師父には何とか適当な言い訳繕っておいてくれよ。帰った後に土産物渡すからよ。何がいい?」

         「……いいよ。この前『珍しい海産物だぜぇ~!』って言われて蟹料理食べてお腹壊したばっかりだし……」


                「うっ、あ、あれは実際悪かったよ……。とりあえず、頼んだぜ! な!?」


     そう言って髪を針鼠のように立てつつジャギは去る。ケンシロウは未だ半覚醒ながらもジャギの頼みは覚えつつ再び眠りへ落ちた。






        「……ジャギ、今日も出かけるのか? この前も外出したばっかりではないか?」

     寺院を出ようとした直後、座禅をしていたトキに見つかるジャギ。

   げっ、と思いつつもジャギは片手で頭を下げつつ、切迫した調子で言い訳をした。

     「トキ、頼むって……! ちょいと本気で出かけないとやばい用事なんだって! ……帰ったら新しい医学書渡すから」

     物で釣ろうとするジャギへ頭が痛むのを感じつつも、生来の優しさからトキはやれやれと微笑みつつ、口を開いた。

      「……わかった。帰った時に師父に取り繕るつもりなら私も一緒にいよう」

                 「助かる……!     それじゃあ行ってくる!!」

            疾風の如く階段を駆け下るジャギ、その束の間、木陰から険しい目線を携えラオウはトキの前へ降り立った。


               「……トキ、奴の最近の挙動、どう見る?」

           「私には修行の気晴らしのために外出しているように見えますが……。心に在る女性の特別な日なのでは?」

          「たわけめ、それだけでは奴が修行を度々抜け出してまで外出する意味が説明つかん」

          腕を組みつつ、未だ上にある星を見上げラオウは謡う。

 「……かつて第六天と冠を名乗りし武将がいた。そ奴も未だ若芽の頃は愚慮を周囲に見せつけ、自身の力を隠していたと言う……」

                        「……ジャギが、そうだと言うのですか? ラオウ」

                 「……奴の瞳には近しき何かがある。トキ、奴は我々北斗宗家へ何時か立ちはだかる。きっとな」










(partサウザー)

   瞳は帯に隠され、目の前には緊迫した空間が包み込む。そして天から降り注ぐ豪雨が緊張する肉体の熱を奪い取ろうと服えとへばりつく。

   今日は自分の鳳凰拳伝承の日。お師さんが挑ませるほどの実力者。自身の拳に知らず知らずの内に力が入るのがわかる。


      ……! 風を斬る音。そして一人、いや三人だろうか? 複数の気配の中で一つだけ強い殺気の持ち主が自分へ襲い掛かる。

    遮られた視界越しにはっきりと刺客の動きが読める。当然だ。お師さんとの今までの修行の日々、それを今発揮できなくてどうするのだ?


    体をねじらせ鳳凰拳の鋭き切れ味を叩き込もうとする。しかし、その瞬間にだ、最悪なことに体を崩すほどの轟音が耳を襲った。

           散弾銃の音!?  伝承者の資格では重火器から自身の肉体を防がなくてはいけないのか?!


   手応えは浅い、確実に次に命を奪ってくるだろう一撃が来る。その一撃に対し集中しかけた時、よく知っている声が焦った声を上げた。


    ……え?  これはジャギ?  ……何?   何を言っている?  ……お師さんがどうしたというのだ?


     その言葉の通りに帯を外すと、荒く息を吐きつつ腹から血を流して膝を付くお師さんの姿が俺の視界へ飛び込んだ。




(partジャギ)


                               ……危なかった!!


            豪雨の中気配を消し待ち続ける俺とアンナ。
          オウガイが現れると急いで町医者を呼ぶように小声で告げて俺は時を待った。

          避けるサウザー そして鋭く拳を振るうオウガイ

    そしてサウザーの殺気が膨れ上がったと確信した瞬間、俺はショットガンを美しく鳳凰の如く舞う二人の横へ着弾させた。


        見込みの通り、サウザーはバランスを崩し、オウガイの腹は裂かれるもまだ治療すれば助かる状態になったのだ!!


        「……え? お師……さん? これは……一体!? それに何故ジャギがここに」

          「後で説明してやるよ! 今はオウガイを早く治療しねぇと……ぼやぼやしねぇで足持て!」

           混乱しているサウザーは素直にオウガイの足を持ち上げる。荒い息で腹の傷に耐えながらオウガイは俺へ言う。

                「……何故、邪魔を……した?  これ、は……息子が鳳凰となるべく……大事な」


                      「鳳凰? 馬鹿が、鵺の間違いだろ。あんた達のやり方だと雛の翼がねじ曲がるんだよ」

             オウガイの声を一刀両断し、俺とサウザーは中の修行場となる場所の寝室へ辿り着いた。




        ……よし、まずは余計な事やらかさないように新膻中(使用者の声がかからない限り動けなくなる)を針で刺す。
                      

                    「……わかっておるのか、お前は伝来からの南斗鳳凰拳の儀式をけが……!!」


               動けなくなるオウガイ、よしっ、次に針で刺すのは定神(気絶するが落ち着く)だ!!


                    「……お師さん! お師さん……!?」


                     「安心しろ、気絶させただけだ。……ちょいと痛みが走るかもしれないしな」


                      「ジャギ……! 貴様お師さんをどうするつもり」

                   「ガダガダ抜かしてんじゃねぇ! 助けようとしてんだから黙ってろ!!」

                          「…………!!!」



        ……よし、雨の所為で傷が熱持ったらやばいから安騫孔(毒素に対する抵抗力が倍加する)を針で定期的に刺す。
   そして極めつけは亜血愁(出血や激痛を止める)を正確に刺すこと……絶対に成功させてやる……オウガイ、てめぇには悪いがな




               てめぇは俺の生き残るための野望の礎になってもらうぜ?






 



  (partオウガイ)




         ……夢を見ていた気がする。


    成人になった愛息子が私のために墓を建てる夢。だがその夢の中で息子は私の愛ゆえに嘆き狂う鳥と化していた。

      私も知っている仁星のシュウを私の墓の完成の為に屠り、そして北斗の星を宿す男に息子は……。




                         「起きたか?」



         目覚めると、そこには荒々しい風貌をしているが、マグカップにココアと不釣合いな雰囲気を持つ男が私を見下ろしていた。


   「医者が早く来て助かったぜ。俺は出血は止めれても傷を縫ったりは上手くないしな。……トキを無理にでも誘うべきだったな」


                           「……何故、私を助けた?」


                      「……少なくともあんたのためじゃねぇ、しいて言うなら……俺のためだ」

               「ほう?」

     私の疑問の声と目線へ見返す男。黒曜石よりも黒い瞳を見せつつ、男は湯気の立つココアを飲みながら、そっけなく言った。


   「……あんたが死んだらサウザーはきっと狂っちまう。そしたら南斗は乱れ北斗と争う。……俺はまだ死にたくねぇし、闘うなんて
   もっての他だ。俺は平和に生きたいんだよ。平和に」


        そう言って液体のすべてを飲み干し、要るか? と問いかける。私が首を振ると扉へ歩きつつ背を向けて言った。

           「あんたがもう一度伝承者の儀式やろうか勝手だがよ……あんたの息子はあんたが思う以上に愛しすぎてんだ。
  ……あんたが本当にあいつの事思うなら、ちゃんと見てやんな。俺は疲れた、後は適当に息子と語りあってくれや」


 


   


    ……私は間違ってただろうか?



    いや、そんなはずはない。私はあの子の瞳の中に極星の“南斗十字星”を見たのだから。


    入り口の前に、泣き腫らしたままの息子が見える。成る程、あの男が若い雛だと言うのもわかる。

 私は苦笑しつつも息子へ笑顔を向けた。息子の笑顔を見ながら時代を背負うこの子に何をしてやれるかと、私は抱きしめつつ考えた。







あとがき





   『センター試験(笑) いや、自分内定もう持ってますから(笑い)
  頑張ってね皆さん(笑) 応援してますから(笑) 本当(笑)』by友人






        懲りてなかったみたい(´・ω・`)
     




       皆の分まで北斗羅裂拳喰らわす(`・ω・´)




          


                           



[25323] 第三十一話『運命の歯車が軋む兆しの見えた日』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/16 10:48



          「……はぁ!……覇っ!!……破ァ……!!……うぉおりゃぁ!!……てぃりゃあああ!!」








           寺院の少し外れた一角で、ソードオフショットガンを構えながら無意味に木へと気合(洒落で非ず)いを入れるジャギ。


       現在、ショットガンから気弾を発射する実験の真っ最中だ。

  銃弾もある程度『気』で操る事も可能になり、調子に乗って考えた末に銃口から自分の『気』を発射する事が出来るのではないかと考えたのだ。


  有言実行を即開始して、一時間はこの完全に徒労とも言えるべき行動をとっている。終いには自分でもよくわからない叫び声を発している。



        「霊丸!」    「ショットガン!」   「か〇は〇波!」
 「ジャンケン、パー!」  「俺の拳が真っ赤に(ry」





        ……そして三十分が経過し、無駄に疲れ果てたジャギはとぼとぼと寺院に戻ろうと思い足取りを引き摺った。
    その道中に何かにつまずいてこけるジャギ、見るとどうにも腹が立つ顔の地蔵が立っており、それがつまずいた原因であった。

         

  この野郎……! 何時もなら気にしない程度なのに、何故か不思議と込み上げた怒りのまま、ジャギは銃口を向け声を上げていた。





   


                                 『ぶち抜いてやる!!』







              石が砕け散る音、そして足元に転がる破片。





      呆然と地蔵を再び見遣ると、地蔵の頭は砕け散っていた。そして……ジャギは銃口を見つめてから、大慌てて逃げ帰った。












        「……嘘、だろ……! 何であそこで出来るんだよ! やべぇ、俺祟られるわ……! 絶対に祟られるわ……!」



                              「……あの」




                     「……あ? ……何だぁ……って……ユリア?」




      目線を向ければ、そこに居たのは不安気な顔つきで俺を見るユリア、何でこの北斗寺院に……? と一瞬の疑問、そして氷解







               「……お願いです! ジャギさん、ケンを助けて下さい!!……ケンは、ケンは南斗の者と……!」








 
 
            ……         ……     ……       ……しまった!! 今日は『あの日』だ……!?




   気付けば時既に遅し、とりあえずユリアにはケンシロウが帰ってきたら知らせる旨を伝え、包帯や治療針をいそいそ用意する良妻ジャギ




      そしてトキに背負われ結構重症なケンシロウが数刻してから現れた……やべぇ……シュウさん本気で御免(泣)



 とりあえず怪我の手当てやって(傷口に薬塗ったら大げさに呻くのがちょい面白い)何故か訪れたアンナ(不思議そうにしてたら何故か蹴られた)
   とユリアと共にトキに試合の描写を説明して貰ったんだが……どうも原作と食い違っててあれれー? って感じた。






                         ……どう言う事かと言うと……。









                        「……サウザー、私はこの子を生かす」


    ケンシロウを宝物のように腕に抱え、じっと玉座に携えるサウザーを透き通った目で見るシュウ、それを影の中じっと聞くサウザー。


                            「この子の瞳には無限の可能性が秘められている、私はそれを潰したくない」



                     「……それは伝来からの南斗の掟を破ってまでお前が望む行動か?」


                                 


                                「無論」




  天を見上げるサウザー、そして重々しく告げる声が闘技場に響いた。






   「……『仁星』のシュウよ。お前の望み、聞き入れてやろう。だが、南斗の掟を破るなら相応の罰……受ける覚悟はあるのだろうな?」




                         「覚悟の上だ、サウザー。お前が望むなら、この両目「待て」……何?」



     いぶかしむシュウを無視し、思慮深く手を顎に添えるサウザー。そしてそれを険しく眺めるラオウ。そして不意に声は現れた。



                    「……ふむ、決めた。……兵よ、前に私が興味を抱いたアレを持って来い……そしてシュウ」


     兵に命令を指示した後、シュウへと向き直るサウザー。それは未だ成年に達さずも、聖帝としての貫禄と風格はある。


             「お前には我が前で薬品を被り貴様が見たと言う光を見えぬようにしよう……そして、私はもう一つ」


                              「もう、一つだと……?」



                 「ああ、貴様が何時か大切な物が出来た時、シュウよ、それを貰おう。それがお前の罰だ」





            サウザーの提案に、暫し考え込んだ後、頷く、シュウ。それを確認し頷くと、兵から受け取った薬品を掲げて言った。



  「……『仁星』のシュウよ。古きしきたりを破りし罰として、貴様の光を長きに渡り封じよう! それは我が南斗の星が潰えるまで……!」

    









                ……え?    何それ?    シュウさんまさかのアイリ状態?  すぐ秘孔突けば直る程度?













             ……何それ怖い










あとがき




  サウザー、その心中は如何に?



最近ネタがなくて困った状態。


半裸の友人(※下半身)をボコボコにしたら『そうだ、もっとだ……! もっと!! 私は、私はここにいる……!!」



   ってインテグラのエロ画像パソコンに貼り付けて勃起しながら言ってたからとりあえず思いっきり蹴り上げて帰った(`・ω・´)




      暫く会ってやんない……(´・ω・`)






[25323] 第三十二話『真夏の空に一滴の星と虹と華と雲を』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/19 18:12
   








                    それは核が降る前の、平和なひと時を過ごしていた時の話。



  南斗の寺院の外れにある広場、そこでジャギ、ケンシロウ、シン、ジュウザ。ユリア、サキ、そしてアンナと言うメンバーが集まっていた。




        「……一体ここに集まって何をする気なんだ?」



        「アンナに聞いてくれ……俺は何も聞いてない」



    疲れた表情のジャギ。シンはそれを見て、最近何かと起きたら横にサキがいたり、修行終わりの水浴の終わりにサキに会ったりする
 自分に何故かデジャビュを覚えた。だが、それに自覚してしまうと何か手遅れになった気がするので慌てて精神力でデジャビュを打ち払った。



         「……それで、一体何を始めようって言うのアンナちゃん? そろそろお兄さん教えて貰いたいな」



            慣れなれしく肩を置こうと手を伸ばすジュウザ、しかし自然の動作でそれをいなすアンナ。つんのめるジュウザに
 ジャギはいい気味だと鼻で笑い、そしてむっとした顔のジュウザと睨み合いになるのを心配そうにケンシロウが目線を向けていた。



                 




                     「今日はね……はい! これで皆で遊ぼうと思って!!」



     そう言って、先ほどからアンナの横で存在感を放っていたダンボール箱は開かれ、六人は覗き込んで思い思いに声を上げた。


                    「えっと……、これは……水鉄砲……でございますよね? シン様」


                   「そのようだな……。何だ? わざわざこれで遊ぶためにここに集まらせたのか?」


                   呆れ顔を向けるサキとシンに瞳を閉じて得意そうに指を立てて反論するアンナ。


               「甘いわね! 水鉄砲だから危険もないしこんな蒸し暑い日だからこそ絶好の玩具なんじゃない!!
    第一こんな風に遊べる機会なんてそんなにないんだから思いっきり遊べる日は遊ばなくちゃ!」



      その言葉に、溜息を吐くシンとサキ、そして段ボール箱をここまで運んできたジャギ。しかし乗り気な声がここで上がる。



            「……面白そうじゃないか。賭けないかシンにジャギ、ケンシロウ。どれだけ避けれるか勝負するのは?」


       賭け   勝負     その言葉に意識を注ぐ男三人。一体どのような賭けをするのか? 次の言葉を待つ。
                         そして緊張する空気を破りジュウザは楽しげに声を上げた。


             「この勝負に勝ったら美しき乙女三人からキ『却下』……わかったよ。だからそんな恐い顔するなって!」



         ある程度予想通りの内容と、そして自身の未だ気付かぬ想いが相乗して険しい声を上げるジャギ、シン、ケンシロウ。

           三人のシンクロした反応に女性三人は笑いつつも恋する女の目を秘めて意中の相手を暖かい視線で見ていた。



         「……でも、まぁ。勝負に関しては乗っても構わねぇな。……なぁシン、ケンシロウ?」


         「ふむ、そうだな……。ジャギ、貴様を完膚なきまで濡れ鼠にしてやろう……ついでにケンシロウ、貴様もだ」


                        「……自分もそうやすやすと負けるつもりはない」




  好きな相手に良いところを見せたき男の性。三人は炎天下の熱気も合わさってか背後に炎を背負いながら火花を散らし始めていた。



       

 「私たち三人は普通にどっちが多く当てれるか競走しようね。ユリア、サキ」


 「ふふっ、そうねアンナ。……これでも私、結構すばしっこいんだから、簡単には当たらないわよ?」

 
  「さ、サキめも命一杯頑張らせてもらいます! アンナ様の凶弾に、ユリア様をおめおめ濡らせはしませんわ!」


  「あら? サキ、貴方も私とは敵同士よ? その方が楽しいじゃない」


  「えぇ!? え……っと。ま、まあユリア様がそれで良いのなら……」


   「いやぁ、こっちは華やかで良さそうだね! 俺もこっちのゲームに『早く来いこの野郎』……おぉ怖……」



     最後ら辺で余計な茶々を入れようとしたジュウザを引き戻しつつ、かくして四人の男は熾烈な激闘。それを勃発した。






                        



      「……うぉお! 破っ!」       「甘いわぁ! 貰ったぁ!!」   「くっ……この!!」


        

              「おぉ~すげぇすげぇ、そんじゃこの隙にあっちへお邪魔『逃げるんじゃねぇ(ない)!』っぶな!!?」





       南斗聖拳や北斗神拳の動きすら使い必死に水を避ける三人、そして悪乗りしつつも我流の拳で避けるジュウザ。
  その気配は死闘にいる闘士の気配そのものであり、水鉄砲で遊んでいる光景とはとても言えない血生臭さか捕えられた。……一方。







        




 二丁の水鉄砲を提げ、木へと足をかけると空を反転しつつガン=カタの如く水鉄砲を放つアンナ。それは出鱈目に打つサキの額へ命中する。

            「……よっしゃあ、当たったよおぃい!」


        「きゃっ!? ず、ずるいですわよアンナ様! 南斗聖拳の動きなんて使われたら勝ち目がありませんってばぁ!」

       「へへぇ~! 勝てばよいのだ、何を使お、ぶっ!?」


        「ふふっ、やった、当たったわ!!」




                   ガッツポーズの隙をつき、楽しそうに命中したのを喜ぶユリア。
    華やかな空気を放ち水をかけあう女性三人。そこには殺気も闘気もなく、平和の象徴と呼んで構わない光景であった。



                            しかし、……神々が悪戯をしたのか、ここで思わぬアクシデントが起こる。




            「しっかし、結構避けられないものだね。服がびしょびしょになっちゃったよ」


          「そうですわね。最近炎天下でしたから、丁度よい涼法でしたわ。けれど服がはり付いて気持ち悪いですぅ……」


          「少しだけ困ったわね。私も、今日こう言う風に遊ぶと思っていなかったから替えの服は持ってきてないわ」




                そう……、水鉄砲をかけあえば当然運動で汗もかくし水で濡れる、おまけに最近までの暑さで薄着


                そう   女性三人とも   う  す  ぎなのだ……!





                 最初に気付いたのはジャギか、シンか、ケンシロウか、はたまたジュウザであっただろうか?


         

                  「よっしゃあやっと三人ともマイナス1点だぁ……って、何処に行くの……ってあらあら」


       得意気なジュウザの脇をすり抜け心なしか顔が赤い三人は着ていた上着を脱いで意中の人の元へと駆ける。


         一瞬の疑問のあと、三人の肌着が濡れている事で合点がいったジュウザは呆れつつその様子を眺め、ふと一つの視線が
 こちらへ注がれているのを感じ、その視線と気配が自分の知っている者だと理解すると溜息を一つ、そちらの近くの木へ寄りかかり声をかけた。




                     「……そんな場所で見張ってないで一緒にどうですか、『リュウガ』?」


                   「……構わん、俺はここでじっと見守っているだけで良い」




    『天狼星』の宿命を持つリュウガ。ジュウザとは血縁上異母兄弟に当たる者。だがその関係は複雑で、リュウガは決して人の目に
 つく場所でジュウザと共に喋ることはほとんどない。



            「構わないではないですか。あの六人の輪にリュウガが混じっても、決して誰も拒絶はしないですよ」


                    「それでも、だ。俺はあいつを影から守れれば構わん。光輝くあいつの影として……」



           そう言って、気配が遠ざかっていくリュウガへ、木立ちに背を寄らせつつ、雲を見上げジュウザは苦笑いを浮かべる。
   そして六人の輪の元へ戻るかと動こうとした時、何時もよりも優しげな声が雲を流す風と共に乗って聞こえた。


         


                           『……誘ってくれて嬉しかった、ジュウザ。……礼を言う』









                      「……おぉい!! ジュウザ、何やってんだ! 続きやるぞ! 続き!!」




                「……ははっ! 俺は流れる雲だ! お前たちの遅い水流なんぞ当たらないよ!!」



             年相応の笑顔を浮かべ、心の中に暖かい灯火が広がるのを感じつつ、雲は暫し風の子となり遊び更けた。











 あとがき



  






      メールの受信ボックス見たら昼で25件ほどあった。



  内容は全部『え?(笑)   何今回放置プレイとか(笑)
    
    汚物ちゃ~ん厳しい~!(笑)』って感じの内容。







   ……無視だな 無視が一番良いよ! |ω・`)




              



[25323] 第三十三話『幽鬼の極悪の激情』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/16 21:41




    ---幽鬼の極悪の激情 または彼は如何にして信ずる事を止めて極悪へ進むことになったか---








       「……う……ちっ……夜明けか……くそったれ」






   朝が来る。その陽射しが自身を覆うヘルメットをすり抜け視界へ襲うのを憎々しく思いつつもどうしようもない事を知りつつ
 体を起こす。柔らかい布団も毛布すらないこの場所では冷たい土と岩だけが自分を眠りに付かせる為の緩和剤にしかならない。

   すべてが憎く、どうしようもなく誰かを細切れにしたい衝動が襲う。どうしようもなく、誰かを撃ち殺したい衝動が襲う。




   その負の感情で体が可笑しくなりそうになるのを自覚しながら、自嘲しつつ朝の鍛錬をおこなう。
 鍛錬の日課はお決まりの技。一人の女の為に身を捧げた馬鹿が身に付けていた技を盗み取り、消し去りたかった奴に掠り傷を負わせた技。


    百回、千回、一万回、十万回、百万回……どれほど同じ動作を繰り返し、どれだけ突きをこの世界で行っただろうか?


    気の遠くなる時間行い、何時しか南斗の将星にすら勝る技に磨かれていたソレ。あの地獄の世界で少しは役立つと思い齧った技。
   
   それが今となっては自分の存在を確立するための要となっているのだから、人生何が起こるかわからないと言っていい。



   「人生、か」


  俺の人生は一体何だったんだろうか?


  長兄が俺に与えたものは『歪み』であり、『最強』の『誇示』だった。

  次兄が俺に与えたものは『妬み』であり、『失堕』の『起源』だった。

  そして……あいつは。




     「……クソだ。何もかもクソだ。そうだ、クソの事なんぞ考える必要がねぇだろ……。考えただけ無駄だ。所詮、屑は屑なんだ」


    それは兄へか? 師か? それとも憎むべき者へか? はたまた自分へと向けての事なのだろうか? それは誰にも知り得ぬ。




    「……何が北斗だ。何が北斗神拳だ。何が父だ。何が家族だ。何が愛だ。何が……何でたって俺様はこうなんだ……っ!」



    憎しみは周囲へ、そして憎むべき相手がいなくなると自分へとまた帰る。それはまた夜が訪れ自分に眠りが来るまでの久遠永劫。




   「……ちっ、下らねぇ。さっさと迎えは来ねぇのか? よぉ、俺の事見てるんだったらさっさと元の場所に戻せってんだ」


      天へ向けてそう声をかける紅の瞳の男。だが何も変化が訪れないのを知ると聞くに堪えない悪態をつき、突きの練習を再開した。








                  ……それからどの位の時が経っただろう?ある日そいつの元にはそれの子供の頃によく似た
 者が男の場所へ訪れた。男は最初からその来訪を知っていたのかもしれない、知らなかったかもしれない、だが男はその子供へ向けて
 自身の身の丈の憎悪を今まで乱世の要として振るってきた抗弁で思いの限りぶつけ、男はその子供が来るまでまた時の流れに佇む。








    最初は遮二無二銃を乱射し、男はその脳天に尽きぬ弾丸を何度も発射し、何度も心の臓へと男は滅びる事を願い引き金を引いた。


   それは引く人差し指の皮から骨が見えるまで続けられ、男の周りの地面には赤い色以外何色も染まらぬまで続けられた。




                            だが、ソレは死ねず自身の怒りと憎しみを抱え存在していた。





     「……ちっ、こんな所に咲いているんじゃねぇよ。……邪魔だろうが、クソったれ、踏み潰すぞ……」





  ある時目の前に見覚えのある建物の残骸が現れ、そこを根城にしていた時、柱の影に何かの花が咲いているのが見えた。


    それは何処かの俺が何処かで嫌いにならなかった奴が心で涙した物語の中の花。どうしようもなく俺のように救いのない花。





   「……けっ! 俺様が同情して水でもかけてやると思ってんのか? あぁ! おい!! んな訳ねぇだろうが!!」





      花に向け怒鳴る自分。傍から見れば何て滑稽だろうかと思うだろう。だが言わずにはいれなかった。




  「いいか!? 俺様はジャギだ! 嫌いな野郎は皆殺しにして! 弱者が死ぬのを喜んで見て! 憎い野郎を貶め名を堕とすのが好きで!!
  あいつ達の中で一番劣っていて! 誰よりもそれを妬み憎んでいて! だから俺は喜んでその道を選んだんだ!!」



 「悔いなんぞねぇ! 嘆く事なんぞあるはずがねぇ! んなもん俺より弱い野郎のするこった!! 俺を馬鹿にする奴は許さねぇ!!」



  男の怒声に、花は静かに揺れる。悲しげに、儚げに、それがどうしようもなく男の胸の中に巣食う何かが動き、男は吠えた。



  『てめぇ見てぇに本気で好きになる野郎を間違えた野郎が、俺様に説教垂らすんじゃねぇぞ!! このクソガキがぁあ!!』






                              パアアアアアン……!!






    



   ……銃弾はその花の横へ着弾し、男は呼吸も荒く、その花を沈んだ目で見つめ、自分の腕が銃弾が起こした埃で汚れたのに気付いた。



   「……ちっ! 貴重な銃弾を花なんぞ撃つのに使って……いや、ここじゃあ弾薬なんぞ眠りゃあ戻ってるか……」


  ぼやきながら男は腕の汚れを払い、それがこびり付いているのに顔をしかめると腰に提げた水筒で洗い落とした。


   その汚れを洗った雫は静かに花のそばへと流れ落ちる。花は微かに喜ぶように男が気付かない内に揺れた。




    「……クソガキが来るまで暇でしょうがねぇや。……精々枯れないように咲いてみろや。……まっ、こんな荒れ果てた場所で
 咲けるもんなら、な……イーヒッヒッヒッハッハッハッハハァ!!! んなもん無理だよな! 無理に決まってるだろうが! おい!?」








     

 
       ……柱の影で花は揺れる。その花は何を待ち咲いているのだろう? 物語の中のヒバリか? それとも何時か許される
 日が来るかわからぬ咎人(とがびと)か? それとも童子か?




    誰も知り得ぬまま、空に星は輝いている。北斗七星が輝いている。そして 小さく北極星が輝きを荒野へ照らしている。





   男は眠る。決して赦されはしないと知りつつも、それを嘲(わら)い審判が来るであろう日までここで旅人へと拳を教え気長に待つ。



   その男が眠る壁の反対側で花は咲いている。微かに香る花は、その男の眠りを暫しでも癒せるのだろうか?




 


    それはきっと知り得ぬ物語、その一輪と、一輪だけがきっと心の中で知りえる物語。それは脅かされぬ星の下でひっそりと消える……。
      



[25323] 第三十四話『軋む歯車は水車の軸を逆にする(仁星)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 10:35





 それは核が落ちた後だったであろうか? 少しばかり薄汚れた部屋の一室にベビーベットが置かれている。
   そのベットに寝ているのは、『仁星』のシュウによく似た顔つきをしている赤ん坊であった。
     「……よしよし、シバ」

     「……あー、だぁー」

    赤ん坊の顔を覗き込み、目蓋が閉じた顔で微笑みを作るシュウに、シバは父へと笑みを浮かべ手を伸ばそうとする。


  「はは、シバよ強くあれ。この時代を強く、強く生き残るのだぞ……」

  「……あのっ、シュウ様」

  「む? どうした乳母よ?」

  「その……聖帝と名乗るお方が、訪れてまして……」

  「何!?」


 慌ててシバを乳母へ任せ、戸口へと急ぐシュウ。目は見えずとも南斗白鷺拳を極めた男には、乱雑した物を避け進むには容易すぎる。


  「サウザー。何用で我が家を訪れた?」

 光を失った瞳の中、はっきりと感じる鳳凰拳伝承者サウザーの闘気、それは相対するだけで感じられるほど昔より成長している。


  (……何と言う気。暫く相見えずいたがこれほど成長しているとは……! 聖帝サウザーに何が……?)

  「……シュウよ」

 重苦しい空気を纏い、サウザーは口を開く。次に出てくる言葉へ身構えるシュウ。サウザーが次に口を開くと、このように言った。

  「赤ん坊を見せてもらっても良いか?」

  「……なに?」

  「見せれぬのか?」

  「いや、それは構わぬが……」

  「そうか」

  シュウの了承を聞くやいなや、シバが眠る場所へ闊歩するサウザー。その心中がわからず焦りつつも後を追うシュウ。
 サウザーは乳母から承諾を得ると、まだ小さきシバを抱き、その瞳をじっと覗き込んだ。
 シバはと言うと、泣くこともせずサウザーを不思議そうな顔でじっと見ていた。暫くその得も言えぬ空気が続いた後、サウザーは息を吐き
 満足そうな笑みを浮かべると、シバを両手で天高く持ち上げ、堂々とした口調で言った。

  「……なるほど、そうか……! お師さん。貴方が守りたき未来、悲願は私の手で完遂する事が出来るだろう……!」

  「サウザーよ。お前は……一体何を言っている?」

  「ふっ……シュウよ、元気な赤子が生まれた事祝福しよう! ……だが、残念な事はお前の妻の事だな……」

  痛い部分を口にされ、少しだけ表情を苦しげにするシュウ。だがすぐ穏やかな顔へ戻ると、こう高らかに言った。

  「いや……我が妻はシバを抱かかえ言った。『この子には貴方の血脈が確かに息づいている。私は貴方と、貴方の息子が時代を支える
 人となる事を今日確信しました』……と。サウザーよ、私は何も悲しんでなどはいない。この子には我が『仁星』の血脈の子なのだから」


  その言葉をじっと聴き終えると、サウザーは『ふむ、そうか……』とぽつりと呟き、シュウの家を後にした。





  それから何月が経った時。シュウは聖帝軍の使いに呼び出されるとサウザーの立つ展望の一角へと立っていた。

  その道中に過ぎったのは昔に交わした約束。シュウは一抹の不安が湧き出つつもサウザーが聖帝十字陵の建設するのを眺める脇へ立ち
 サウザーの呼び出しの意図を考えつつ聖帝の風格がほぼ完成されたサウザーの次の言葉を待った。


「……シュウよ、昔、貴様が北斗の者を助けた時の約束。忘れてはおるまいな?」

   (やはりか!?)

 胸中に浮かび上がるのは昔に交わした約束。サウザーの言葉が瞳に光が点っていた頃と褪せる事なく思い出される。

    『お前に大切な物が出来た時、それを貰いうけよう……』


  「シュウよ、赤子のシバ。それはお前にとって大切な者に間違いはないな?」


  「……っ!!……っ」

 掌に爪が食い込み血が流れる。この言葉に、私が何と答えるか知りつつ、聖帝は口元に笑みを作りこの問いかけをしているのが見える。
  我が子が大切ではないと言えるか? 出来ぬ! 父として男として……そのような言葉は口を裂こうと言えはしまい……!
 だがこれに了承の声を上げれば、サウザーは……私の子を……!

  「……シュウ、私は、シバを……」

 聖帝十字陵を建設する石垣を運ぶ聖帝軍を眺めながら、サウザーは感情を厭わぬ声で天へ静かに言葉を舞わした。


  




   






   「私はシバを、南斗鳳凰拳伝承者として、我が元で育て上げたいと思う」



                    「……何?」


  何をサウザーが言っているのが最初理解が出来ないでいた。自分の最悪の予想はシバを人質として、南斗を乱さんとするサウザーの
 野望に自分を駒にしようとする計略が心の中にあると思ったからだ。
 だがこの言葉の意味をどう捉える? 確かにある意味人質なのかもしれぬ。だが南斗鳳凰拳伝承者にすると言う事は……。


   


   「サウザーよ、言葉の意味がわかって言っているのか? それともこれは何かの悪質な冗談なのか?」

   「真の言葉よ、シュウ。私はシバを、南斗鳳凰拳伝承者として、真の鳳凰拳を最後に知る者として育て上げたいと申しているのだ」


   「……真の、鳳凰拳の……使い手? 最後?」


  


   サウザーの真意が読み取れぬ。南斗白鷺拳を極め、瞳は失いもその者へ心眼でどのような意図があるか読める自信はあった。

   それが今はまったくわからぬ。何を聖帝が考えているのか? 何がサウザーを動かす望みなのか?

   その混乱する中、この男将星サウザーが打ち明けた野望に、私は全身の毛が粟立つ感覚を覚えた。

   




      サウザーの野望。それは何とも鳳凰のように美しく雄大で、何と鳳凰のように偉大で優美なる野望なのか……!



[25323] 第三十五話『軋む歯車は水車の軸を逆にする(将星)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 14:04


   下界を広々と見下ろせるサウザーの立つ展望の一角、そこでサウザーは朗々と自身の野望についてシュウへと聞かせていた。


    「シュウよ、我がお師さん。先代の南斗鳳凰拳伝承者オウガイはこの荒々しき力がはびこる乱世の未来を憂いていた」


      「それゆえに決めたのだ。我は鳳凰拳伝承者としての、最後の勤めを果さんと。それはお師さんも最後には望んでくれた」

    「……先代、オウガイの望み?」


   「そうだ、もしも乱世が訪れた時。我は真の鳳凰と化しこの乱世を命を賭し若き雛鳥立ちが空を自由に舞える空へ戻さんと」


    

       「何!?」



 そう、時は世紀末。海は枯れ、空は乱れ、そして生きとし生ける者に安息の地を得るのは難しくなった。


   更に噂では天を握ろうと北斗のとある者が軍を集めているとも聞く。確かに南斗鳳凰拳、将星、聖帝のサウザーならば収め得る事も可能。
 だがしかし、だがしかし!! それは余りにも危険な行為!  一歩間違えれば天の逆風に鳳凰は力尽き倒れることになろう!!



   「……お前の光失った瞳。奪ってしまった事は詫びる。だがお前の息子の瞳に俺は確かに見た。……あの瞳に昔の私の瞳と同じ
  ……そうだ、私と同じ瞳の中に極星の“南斗十字星”に連なる物を見たのだ。……シュウよ、我が願い、この身を賭し聞き届けてくれるか?
 お前の息子を次代の鳳凰の雛として育て、若き雛達を見届けれる世を私が創り上げられるまで、お前の息子を……」



   
   「『仁星』のシュウよ。これは俺の最初にして最後の願い。お前の息子、『仁星』の血を受け継ぎ、そして南斗十字星を瞳に灯すあの子を
 我が手で育てさせて貰いたい。そして、我が命が尽きたとき。お前は我が言葉の通りその瞳の封を破れ。……幸いにしてあの薬は幾つかの
 秘孔さえ知ればすぐに光を戻せる薬なのだ。我がお師さんを、我が心を救ってくれた恩人が俺に教えてくれた……」


   「きっと、俺はこの乱世を納める礎としてこの翼を失い尽きるだろう。……だが次代の鳳凰の魂が生き続けれると知っていれば、
 俺は何も迷う事なくこの大空を舞える。何も悲しむことなく大空を自由に飛び回り、凶鳥を屠る守護獣としての役目を果たせるのだ」



   
   「暇があればお前の息子に会ってやればいい、お前が望むならばお前の拳を息子へと教えてやってもいい。
  この俺の言葉に邪心があると信ずれば、今ここで我が鳳凰の翼を、シュウよ。……お前の拳で断ち切れ」


   


    「シュウよ、我が願い、どうか聞き届けて貰いたい……!」




   





  

  ……気がつけば我は涙していた。




  

  例え薬品を被り光を失いも、この涙は枯れぬ。








 聖帝よ、お前が極星となり南斗の将星となった事、間違ってはいなかったのだな。




  お前の願い、聞き届けた。シバよ、暫しの間離れる事になるだろう。だが、決して悲しむことはない、恐れることはない。



  お前を育て上げようとする者は、この乱れし天からお前たちを守ろうとする守護の鳳凰だ。誇りを抱き育つが良い。




  決めたぞ、聖帝。私もお前の野望の礎となってやろう。だが、私もむざむざとこの乱世に飲み込まれ押し潰される気はない。


  





  
   息子を、次代の鳳凰を守る為。このシュウ、阿修羅となって闘おう。







 あとがき




 今回は少し短め  



 これからは時系列が色々乱れて紹介するけど許してね(´・ω・`)



[25323] 第三十六話『焼きたて!! ジャギパン。 キムの日々(生地)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 12:48



   今回オリジナルキャラが出ます。そう言うのが嫌な方は、北斗七星点でお帰り下さい。







   とある町へ辿り着き、私はそこで見習いのパン職人として働かせ貰える事になった。
  最初はパンを作らせて貰えるはずもなく日々材料を運んだり、材料器具を洗う日々の毎日が最初の内は過ぎていった。

  だがそれは悔いではない。自分の夢。美味しいパンを作り、お金もないような貧しい子供達のためにパンを売る。そんな馬鹿にされそうだけど
 一人の友人は応援してくれた夢へ向かい、キムはせっせと見習いとしての職務をまっとうしていた。


   「今日もご苦労さん、ほら、売れ残ったパンでも夕飯にしな」

   「ありがとうございました! 明日も宜しくお願いします!」


  袋の中に大きめのパンを何個か入れて貰う。今日は繁盛しているこの店では珍しく売れ残りがあり、そのおこぼれを貰えたと言う訳だ。

   お腹いっぱい今日はたんと食べれるぞとホクホク顔で寝場所へ戻ろうとするキム、しかし道中で獣の唸り声のような物が聞こえた。

   な、何だ? と周囲を見渡すキム。しかし獣の気配も辺りにそのような音源を出しそうな物はない。自分の気のせいであろうか?

 仕切りに首を傾げつつ、気を取り直し歩こうとするとまた聞こえるその音。今度はそれが路地裏から聞こえたとはっきりわかった。


   

   ……正直覗きこみたくない。……だが気になる。


  

  恐る恐る路地裏へ入るキム、そして暗い景色を注意深く見るとそこに横たわる老人の姿を見ることが出来た。



   「……だ、大丈夫……ですか?」


  「……め」


  「……め?」


  「……飯を……くれぇ~」


   そう老人は言うと、腹から先ほど聞こえた音源が発生し、キムはがっくりと体を曲げた。







  




  ………………。
  …………。
  ……。


  「わははははっ!! お若いの助かったわい!! 危なくあそこで力尽きる所じゃった!!」


  「……いえ、……いいですよ。困った時はお互い様、ですから……くぅ」



  袋のパンを出した所、すべて平らげてしまった老人。仕方がない、今日は少ない賃金を捻り出し握り飯ですまそう……。そう考えるキムへ
 腰に提げた瓢箪から何かの液体(酒臭かった)を飲み干すと、老人は手を叩きつつキムへ言った。


   「いやはや馳走になった! このご時世人に施してやろうなんぞ気性の人間はほとんどないからの! お主大したもんじゃ!!」

   
   「は……ぁ、どうも……」


   「どうじゃ、何か礼でもしてやるぞ! ふむ……何が良いかの……?」


   「いや、いいですよ、本当」


   見れば見すぼらしい格好をした背の低い老人。礼と言っても有りがた迷惑な礼をされそうと逃げ帰ろうとするキム。けれど
 老人はそんなキムの様子を呆けた表情の中でつぶさに観察し、こう鋭く切り出した。

   「お前さん、もしかして変わった拳法でも身に付けておったか?」


   「……! 何故、それを」



   思い出すのは北斗の寺院での短い修行の日々。それは未だ忘れえぬ濃い体験であり、老人の言葉に反応しまい事はキムには不可能だった。


   「お前さんの体つきを見てな。わしも昔は色々な拳法修行しておったからなぁ、ある程度解るんじゃよ。しかも特殊な拳法じゃろ? かなり」

 
   「……おっしゃる通りです」


   「そんじゃあ、わしが拳を教えてやろうか?」


   そう自信満々に自分を指す老人に、キムは苦笑しつつ答えた。

   
  「……私は破門された身と言えどそこの拳法家。そうそう他の拳法へ着手するようではそこの修行者へ恥じを晒す事になります……。
  それに自分は職人を目指す身。自分の道を極める事も出来ぬ軟弱者が拳法を習う事など出来ないでしょう」


   では、と、そう言ってキムは老人に一礼するとその場を去る。その背中を髭を撫でながら老人はじっと観察していた。


   翌日だった。材料の買出しを頼まれ道中を急ぐキム、しかし途中またあの老人が現れた事に憂鬱な顔を見せつつもこう言った。

  
  「今日は飯をねだられても困りますよ。こちらも日々の食い扶持を稼ぐのに必死なのですから」


  「いやいや、今日は飯をねだりに来たんではないわい。お前さん、本当に拳を身につけたくはないのか? お主の眼は、どうにもパンを
 作るだけでは満足しておらぬのではないか? うん?」


   そう言われて唇を噛むキム。確かにそう言われるとそうなのだ。あの冬の日ジャギが言った言葉が心から離れない。
  見習いとして働き終えて眠りに着くと、自分が拳を必死に鍛える夢が今も続いており、その熱は心と体を捕えて離さないでいる。



  「……ですが、自分は職人を目指していると昨日も言ったでしょう? 今は拳を習う余裕などほとんどないのです」



   「んなこたないだろ? 職人が二足の草鞋を履けない事があるか? ねぇだろうがさ。お前さんが本当に拳を身につけたきゃあ
 職人目指しながら何とでも出来る。腐らせてんのは夢がじゃねぇ、自分の心さね」



  痛い部分を突きつけられる自分。的を得た発言に自分は俯きつつ老人から逃げ帰るようにその場を去った。……言葉が離れない。



   




  ……夜になった。





 帰り道ぼうっと空を眺めていると、北極星が一瞬いやに煌(きらめ)いたように思えた。






 注意して見ようとしていたら、足元を掬われ地面へ転倒するキム。目を瞑り衝撃に備える……しかし何時まで経っても地面は襲ってこない。







  「ほれ、気をつけねぇと怪我するじゃろうか? 星が今日は一段と綺麗なのは認めるがな。……そういや昔々、星を眺めておったら
 落とし穴に落っこちたドジな天文学者がおったな……。あん時は上から笑いすぎて落っこちかけたわい」




  

  「え……お爺……さん?」








  近くの座れる場所で腰を下ろす老人とキム。手の指をいじりながらキムは自分の悩みを打ち明ける。

  

  「……私は、北斗の寺院で修行者となっておりました」



  「ほほう?」


  「……ですが師から資格なきと破門を言い渡され、私は一人の男に心を洗われ、そして一人の男に道を説かれました」


  「そうかい、そうかい」



  瓢箪から酒を飲みながら聞く老人に、真面目に聞いているのか? と疑問を飲み込みつつ、キムは言葉を続ける。



  「私の迷いはこうです。本当に道を二つ追いかけて良いのか? もし二つとも道を追いかけ両方とも叶わなかった時はどうすれば良いか?」



  「私は自分が正しき道を極めたく北斗で修行する事を選びました。……夢は叶いませんでしたが、別の拳でも夢は叶えれると言われました」



  「きっとそうなのでしょう、けど怖いのです。自分の無力が、自分の弱さが」





  「……フガァ~」




  真面目に話をしているのに、酒のせいが鼻提灯を出す老人。それに遂に自分の堪忍袋の緒が切れ、原因の瓢箪を奪おうと手を伸ばした。




                    ……が。






  「そいりゃ」




  「……!?」







  人差し指を握られた瞬間、自分の体は一回転し地面へ寝かされていた。




  この瞬間理解した。 この老人、自分が気付かぬだけで拳法の達人であると……!



  

   瓢箪から酒をまた一口、天の星を眺めながら老人は言う。



  「お前さんのよわ~い心はよぉく解ったわい。けど、変え様と思うなら行動をせんと何も変わらんよ。んなもん真理じゃろう?」


  「弱いなら強くなれ。無力なら自分の強いと思える力を身につけろ。わしはお前さんが望むなら協力してやるぞ?」





  

  その茶目っ気を含みつつも、仙人のような貫禄さを放つ老人に、自然とキムは敬うように姿勢を正し、名を尋ねていた。






  「……ご老人、失礼ながら、お名前を窺っても?」




  「わしか? わしの名前は寿々(じゅじゅ)老人。
 寿々老人と呼んでくれや。ただの寿々老人じゃ」



       そう言って赤ら顔の老人は、町に天に木霊する笑い声を、長く長く上げていた。




[25323] 第三十七話『焼きたて!! ジャギパン。 キムの日々(醗酵)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 13:56



   「ぅぐ……! ……ぬん……!! はぐ……ぐっ!!」



   「ほれほれ、足腰使って走らんと日が暮れちまうぞい?」







 寿々老人に弟子入りを初め四日目。キムはタイヤをロープで引き摺りながら材料器具を店まで帰っている。


 道中の人々に奇特な視線を受けているのも屈辱的だが、どう考えてもタイヤの上に乗っている寿々老人の重みがタイヤ以上自分を苦しめていた。




  歯を食いしばりつつ眼を血走らせ材料を持ち運ぶキム。後悔が芽生え始めていたが、決めた以上意地でもやめたくはなかった。





  「……お、お疲れさん。……ちょい休んでいいよ?」



  「い、いえ……これも修行……ですから」




  店の主人の優しい言葉に涙が出そうになるも、やんわりと断り買出しへと再びタイヤを引き摺るキム。その背中は哀愁漂っていた。


 



  「ほれほれ、しっかり気張らんかい。大丈夫じゃって、人間一時間睡眠とれば十分次の日には体が動くからよ」



  「……そ……ん、な……わけ……あり……ます、か……!」




 「ほっ? まだ余裕がありそうじゃな? そんじゃあ輪っか増やそうかの」



  「……ぐ……ぬぅ……!?」




  鉄の輪を背中に乗っけて腕立てをするキム。時間は朝の四時頃で、眠ることなくぶっ続けて未だに修行をしていた。



  「ほれほれ後五十回ぐらいで終わりなんじゃからしっかり頑張れ」



  「……六百五十一……! 六百五十二……!!」



  「そうそう頑張れ頑張れ」





  そして時間になると死んだようにキムは横になって眠る。その脇で寿々老人は体を点検するように突き、こう一人ごちる。





  「……ふむ、やっぱ体が未だ硬いのぉ……これじゃあ北斗の技は身につけられん訳じゃわい。……けどまあ今から四年もすれば少しは
 見れるもんになっか……。……ったく南と北のあ奴らも
 わしをこき使いおって、わしゃあ終わりの時まで寝ておりたいってのに」
  



    ぶつくさと愚痴を言いながらも、正確に肉体の疲労を消す秘孔を突く老人、そして掌を翳すと見えるものには見える気が溢れ出て
 キムの体へと流れ行くのが見えた。そして一瞬の内であっただろうが?


 赤く汗ばんでいた肉体は一瞬にして一日の始まりに耐えうる体力を取り戻せたのだった。

  キムの疲弊した顔には穏やかさが戻り、荒い息遣いも静かな寝息へと変わった。



  「こいつの気性は生真面目じゃからのお、どの拳法おしえてやるべきかのう? 南斗の技は南斗の技で乱世を駆けるに少しきついしのぉ。
 こりゃやはり古来の失われた技を直伝するしかねぇか……はぁ~、本当、面倒臭い仕事を引き受けちまったなぁ~」


   そうぼやきながら星を見る寿々老人。その口調は愚痴を言いながらも表情は楽しげであった。


  「さてさて、この世界でこの男は何を成し、何を掴むのかの?     なあ『南斗星君』『北斗星君』何百年以来かの? 
 こんなに楽しいのは? お主らは楽しくないかもしれぬがわしは楽しくて仕方がないわい。これからの時代、どんな武士(もののふ)の
 魂が世を立て直そうとし、または握ろうとするのかの? 天の行く末がわからない事がこんなに面白いとはなぁ」



   そう楽しげな声へ変えて星へ語る寿々老人。その顔には神々しさが見え隠れしていたが、幸いにも誰もそれに気付くことはなかった。




  「何百回も繰り返す常世の中で、まさか見るにたえない穢れた魂が真理を啜(すす)っただけでこんな奇跡が起こったんじゃ。
  これからの未来が未知で満ち溢れているなんぞ、これから先にも滅多に見れぬもんじゃぞ?」



 
  「この男の世話は任せた。だからそっちはそっちで頼んだわい。わしゃあこの男に教えられる全てを教えてやるわい。
  この寿々老人改め『南極老人』の秘技、とくと見せてやるかのぉ、覚悟しとけな? キムよ」




   カラカラと笑いつつ老人は瓢箪から尽きぬ酒をまた飲み干し天を見上げこう詠った。





    


  




  「常世(とこよ)廻る(まわ)る星月に」


  「願いし詩は天をも知り得ぬ詩を紡ぎゆ」


  「ゆえに天は詩となり詩は天となりけり」




 





 あとがき



 神様が修行についたと言う感。 キムよ、パン拳法を進化せよ。



……音沙汰のない友人




……これは嵐の前の静けさか?





[25323] 第三十八話『追い求める貴方の背中がとても寂しい』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 17:07


(partとある女性)



  貴方に対し恋心を抱いていたのは何時からだったでしょうか?


  貴方が私を野犬から助けてくれた出来事。 それとも逞しい背中を見た時?


  何時も何かを強い意志を秘めていたあの方の瞳。私はそれに対し心奪われていました。


  貴方はきっと私の事など、毛ほどにも何も感じないかもしれません。


 それでも構いません。この想いは、貴方を思うだけで満たされるのですから





 (ジャギ)



  出来事の始まりは南斗の寺院の建物でユリアへと会いに行っていたアンナを見つけようとしていると、溜息をついた女性を見かけた時。
 その女性に原作でショッキングな出来事ランク5には入るエピソードで見かけた女性だったのに気付き、俺は頭を抱えかけた。


 ……こいつリハクの娘のトウだ。


 確かラオウを愛するようになったのは野犬に襲われかけたのを助けられた……からだったか? 最近もうろくに原作知識おぼろげにしか
 思い出せないからやばいぞ、おい。こんな事だったらちゃんとメモしときたかったけどそれリュウケンやラオウとかラオウとかラオウとか
 に見つかるとやばいから出来なかったんだよなぁ……。あぁ~ちくしょ~!
 そんな思考で頭が一杯になっていると、その娘はジャギへと気付き、声をかけた。


 「……あっ。貴方は確か、ユリア様によく会ってらっしゃる……?」

 「ジャギだ。後、俺はアンナの金魚の糞なだけだよ。ちなみにラオウとトキの兄者の弟でケンシロウの一応兄って身分だ」


 自己紹介の半分は聞き流していたが、『ラオウ』の言葉に関しては目の色が変わったのが見えた。

 
 ……いや、趣味悪いとは言わないけどさ? 流石にラオウはきついって……あの人興味あるの天と(一応)ユリアだけだろうし……。


  しかも、この子ラオウの前で自害するスクールデイズ言葉だぜ? と心中穏やかじゃない目つきでトウを見るジャギ。

 そんなジャギを意に介さず、頬を少し染めて、ジャギへと質問するトウ。

 「あの……ラオウ、様が何か好きか……ご存知ありませんか?」


 その言葉に、未来の展開を知っているジャギとしてはどう変えようか脳みそが軋む音が空耳で聞こえつつも、何とかしようと決断する。


 






 (partトウ)

 ドカッ、と音立てて私の隣に腰を下ろすジャギ様。
この方の素性……と言うか性格は私に関して言わせるとユリアの良き兄様のジュウザ様と同じく捉えられない方だと思う。
   
  何時も離れた場所で、ユリア様に何時も笑顔で気さくに声をかけるお方を守れる位置で不機嫌そうに聞いているお方。
  
  誰であれ男性であれば人目見ると惹きつかれないことがないユリア様に関してさも普通の人と同じように接する事の出来るお方。
  
  そしてユリア様も歯牙にかけない態度であり、あの赤の色彩の装飾が目立つあのお方の事だけは子供のような態度へ戻るお方。


  それは私のように多分恋しているお方なのだろう。だからユリア様の魅力にも何とも思わずあのお方の側にいるのだ。


   「……兄者はな。……何て言うか、複雑なんだよな」

   「複雑、でございますか?」
 
  ああ、と苦笑いを浮かべるジャギ様。私が首を傾げると、少しだけ慌てた口調でこう言った。

   「好きな物……って言っていいのか知らないけどよ。……あいつが好きなのはあれだよ」

   「……?」

  そう言って指を上へさすジャギ様。上、と言っても空があるだけだ。一体このお方は何を言っているのだろう……?

  「兄者が望んでいるのはな、いいか? これは俺が教えたってのは秘密にして欲しいんだが……それは天だ」


   「……天」


  「ああ……。兄者は天を握るのが夢だ。その為なら、どんな物も捨てる決心をしている。友も、兄弟も、師も、……無論恋人もだな」


    

                 ……っ!!?



  「……お気づきでしたのですか?」


  「……前にあんたが兄者を見ていた表情を見てピン……とな」


  そう顔をそむけるジャギ様に、私は顔を俯かせる。それは想い人が私の事を一生見てはくれない事を知ったせい? それとも分かりやすく
 こんなにも自分の想いを見抜かれた事を恥じてだろうか?


  「……俺は兄者の夢を知っている事を知られたら、多分殺されるだろうなぁ」

  「そんな!! まさかラオウ様に限って……!」

  「そのお前が恋するラオウ様に限ってなんだよ。兄者は自分の夢を他の奴には知られなくないだろうから……特に俺に関してはな」

  面倒臭そうな表情で、緩んだバンダナを締めなおしながら嫌そうな声を上げるジャギ様。耳を塞ぎたかった。

  「天を握りたい。この世界で一番強く在りたい。そりゃ夢としては立派だがよ。それゆえに全部捨てるってどう考えても不可能だろ?
 兄者ははっきり言って大馬鹿野郎だ。自分の考えが一番素晴らしいと考えている大馬鹿野郎」


                 


                   パンっ




  ……気付けば私はジャギ様の頬に赤い紅葉を植えつけていました。

  「……いて」

  「も、申し訳ありません! わっ、私は」

 
  「わかってるって。好きな野郎の夢を馬鹿にされたらそりゃ怒る。俺だってそうする、誰だってそうする」

  頬を撫でながらジャギ様は立ち上がる、そして、少し悪魔めいた笑い顔を浮かべると、私へ問いかけた。

  「そんで? その好きな奴の夢を邪魔したくないってんならよ。いっその事速いうちにけじめつけてみたらどうだ?」
  

   そう言って立ち上がるジャギさま。そして、探し人なのであろうお方がユリア様とサキを引き連れこちらに向かうのが見えた。



   「ジャーギ! 遅いってば、何やってんのよ!?」


   「るせぇなぁ……こっちも散々探したんだぞ……ったく」


  ジャギ様がその方を見る顔つきは一見不機嫌そうな顔を崩さないが瞳はとても優しさを帯びているのがわかる。これは私も一途に想う
 気持ちがあるからこそわかるのだろう。ユリア様もそのような相手と何時か沿いどけるのでしょうか?


  




    私は、私のけじめをつけよう、この恋が、あなたの夢に邪魔ならば。










  「……ラオウ様っ!!」


  「……む」


  振り返る強き瞳の私の恋する方。私は気持ちを保ちつつ、声を放つ。

  「何時しか前は野犬から救い頂きありがとうございます! 私は……私は貴方の事が好きです!」


  その言葉に、瞳を閉じる私の勇敢なる騎士であるお方。私はこの魂魄の想いを乗せ声を放った。

  「どうか私の想いに応え「断る」……っ!」

  「俺はお前の気持ちに応える事は出来ない。俺の夢の為」


  あぁ……そうだ、『これでいい』私の儚い想いの芽は、ここで散る。もはや私の心に傷はない。


  「……いえ、有難うございます! 失礼を致しました!」


  私は今涙を浮かべないで笑ってられているだろうか? いや、きっと目尻に涙がたまっている。どんなにあの方に無様に映ったか。

  足早に駆ける私は風と同化する。胸が苦しい、息が……、そう気持ちと体が滅茶苦茶で足がもつれ、私は地面に衝突しようとした。……した。


  「……おっと、女の子がそんなに泣きそうな顔で走るのは見ていられないな」


  「……ジュウザ様」

  「何があったのかい? 俺は可愛い美女の悩みは何でも聞いてあげ」

  「ジュウザ様!!」


  うおっ!? と声を上げるジュウザ様の胸に飛び込み泣きじゃくる私


  今だけ、今だけこの方の胸で全ての苦しみを吐き出そう。この雲のようなお方ならば、私の涙も雨にして忘れてくれるだろうから。

  寺院に戻ったときまた私は悲しくなるだろう、けれどサキが、ユリア様がいる。私の苦しみをあの方たちはきっと受け止め共に泣いてくれる。


   



   



    私は何も寂しくない。寂しいのは、夢を追い求める貴方の背中










 あとがき





       


       羅漢
          うま



[25323] 第三十九話『羅漢の構え』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 20:20



 汗が荒野へと染み込む。空に輝く太陽が自分の水分を奪う。足には自身を縛る大きめの岩がつながれている。






    「……マコ兄ちゃん」



 瞳から流れるのはこの境遇に対する涙、そして必死に呼びかけるは、自分が愛する兄の名前。それを必死に囀った。


    「……マコ兄ちゃん……!!」



    







    「お前ぇ、子芝居する余裕あんだったらもう一つの足にも岩くくり付けてもう一週走らせてやろうか?」



    「わかりました、ちゃんと走りますでございますジャギ様」







 
    荒野の世界で走りこみを行うジャギこと俺。目の前で監視されながら大きく一周して走りこみ、息は絶え絶えになる。


    「おし、次は『南斗邪狼撃』を一万回繰り返せ」



   その言葉にうんざりして、俺は少しだけ怒気を含んでジャギへ向けて言った。


   「あのよぉ……。もう何十回その動作やってると思ってるんだよ? もう飽きて飽きて……」



     「……んだとてめぇ? なら、一回この壁へ向かってやってみろや」



   低く危険な口調に変わるジャギの声、だがその言葉へと俺は受けて立ちこう調子よく言った。



   「おう、やってやるよ!……南斗邪狼撃!!」





  そう言ってもはや体に自然に馴染んでしまった突きは、軽く空気を裂いて壁に音も無く吸い込まれると壁を無音で貫通した。


    
   どうだ? と自慢気な顔を浮かべる俺に、ジャギはじっと貫通した穴を見てから、軽く俺の頭を殴って言った。


 

   「馬鹿が、よくここの部分を見ろ。……上に面して下の部分は凸凹になってんだろ? こんなんじゃ極めたって言わねぇんだよ」





   「あのなぁ! 何千回、何万回、何億回だよ!? 少しは別の事教えねぇと俺あんたからケツ巻いて地平線の彼方まで逃げるからな!」


  


   「立ち向かうって選択肢はねぇのか、てめぇには」





   ヘルメットを押さえ頭を痛めつつ溜息をはくジャギ。そして億劫そうに俺を見ると、こう投げやりな口調で俺へ言った。



   「……んじゃあ、特別に『羅漢の構え』を教えてやるよ」



   「おっしゃあ!」



   ガッツポーズをする俺に、とても呆れた視線をジャギは向けていたが俺には気になりはしない。やっと新しい事が出来るのだ!




   ジャギは俺を真正面に立たせると、ショットガンで肩を軽く叩きつつ言った。



   「……んじゃあ構えてみろ?」



   「……うっし!」



  言われたとおり俺は腰を屈ませ膝を曲げる。そして気合を入れて目と腕に力をッ込めると、腹に力を込めて掌を空中で強く翳した。


   「ほう? 一応、さまにはなってるってとこか?」


   
   「そりゃあ憑依した時に羅漢撃出せるか練習してたからな。どう言う原理でああ言う突きを出すのが不明だけど、構えは練習したぜ?」


   
   俺の言葉にそうかよ、と興味のない声を上げるジャギ。まあ、こいつが俺の言葉に何か興味を抱いている様子ってほとんどないけどな……。


   暫く俺の構えを見てから、ジャギは目つきを険しくすると、銃口で俺の掌を指してこう言った。


   「まず姿勢はどうやら出来るらしいから、体勢を維持しつつ掌をゆっくり回転させろ。回転している間は絶対に気合いを全身に巡らせろ。
  休んだり、少しでも気合いを抜いたと俺が思ったら俺様がてめぇの背中をこいつで思いっきり叩いてやるからな」
    
    そう言って、ショットガンを目立つように振るジャギ。だが言葉の説明に分かり難い箇所があり、俺はそれを指摘した。


   「回転って、どう言う風に?」


   「太極拳の円の形だよ。ああ言う風にして気を巡らせる感じだ。お前の世界だとテレビや映画とかでわかりやすく説明してんだろうか?」



   ジャギの言葉に頷くと、言われるままに気合を入れたまま掌を回転させ始めた。……十秒経過した。……五十秒……二分経過しただろうか?




   「……ぬっ……!? ……っ……!?」


  
   何故こんな簡単な動作なのにこんなに汗が大量に出ているのだろう? 混乱する俺に嫌な笑い声を立てながら説明するジャギ。



   「ヒッヒヒヒヒ!! わからねぇって面してんな? 当たりめぇだよ。人間同じ動作を数分間力を込めたまま普通は出来ねぇもんさ。
  けど兄者達だったら平然とこれ位やれるぜ? まっ、お前には出来ないと思うがな。俺様を感心させれるか? 出来ないだろ、おい?」




   馬鹿にしているのが丸っきり分かる口調。俺は吠え面を拝ませてやると決意すると体全体に一層気合を込めて掌をゆっくりと回転させた。








   ……一時間が経過。







  欠伸しながら寝っ転がるジャギ。太陽に晒されながら汗の雨で地面に水溜りを作りながら懸命に千回目ほど掌に気合を込めて回転する。




   「……そん位出来りゃあ上出来か? おい、もう止めていいぞ」



   「……ぷはぁ……ぜー……! ……ぜー!!」


   
   「ふん……根性だけは認めてやるよ」



   ジャギの言葉に、自慢気にニヤリと笑う俺。だが、すぐ俺の表情を絶望へ突きつけるようにジャギは平然と言った。



   「そんじゃあ岩乗せて腕立て一万回やれ。心配すんな、やっている間に多分また目が覚めるだろ」



  



………………ジャギ……さん




……ジャギ兄さん






     ……ガバッ……!





  「……ジャギ兄さん。凄い魘されていたが……?」



  「……なぁケンシロウ」


  「うん? 何だい?」



  「……今度俺が夢の中で魘されていたらよ。秘孔突いてても良いから起こすか、または俺の掌に何か武器持たせてくれ。頼むわ……。
  ……あの野郎、次に出会ったときはあのヘルメットぼこぼこに変形させてやってそんでもって……ブツブツ」



   
  「……(……修行のやり過ぎか?)」



 おどろおどろしい雰囲気で何事かに呪詛の声を上げるジャギ。その兄の姿を見て、若干兄としての尊敬が薄れそうな感覚にケンシロウは陥った。



   だが、ジャギの願いも虚しく、魘されている時はどんなに秘孔を突こうとも目覚めず、そして武器を持たせようが夢の中でジャギが
 いくら頑張ろうと、ヘルメットのあの世紀末に波乱を増長させた男には掠らせる事すら出来ずに負けるのだ。





   「弟なんぞに頼ってんじゃねぇ!! 自分の力で俺を殺して見ろ!!」



   「うっせぇ! 絶対にてめぇはぶっ倒す! 例えバズーカ砲使ったとしてもてめぇはぶっ倒す!!」


   「自分の拳で俺を打ち倒せって言ってるんだ馬鹿野郎!!」





   今日も殺伐としつつもある種平和的な修行が、ジャギの夢の中で行われるのであった。







   「……へい……わ……な訳ある……か」








   何かそう呻く声がしたが、それは気の所為である。










 あとがき




 これから少し色々と時系列の中で起きたちょっとした出来事描き終わったら
第一部の最終回を執筆するつもり。




  三日ほどで終わる事を期待……!(`・ω・´)





[25323] 第四十話『運命の風が追い立てる邪の火』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/19 08:06

 

                パリィイン……!!







 「糞がぁ!!」


  ここはグレージーズの隠された基地。そこでは何とか治療により五体とも復活出来た不良集団が怒りに任せ騒いでいた。

 体は完治出来たものの心に負った傷に関しては癒せない。事実、グレージーズを脱退した数も少なくはなかった。


 「これも、これも……全部あのリーゼンドと糞野郎の所為だぞ、がああああぁあああああ!!!」




  怒りだけで突き動かされる男、そいつが思いっきり投げたナイフは大きく孤を描き攫おうとした女に似たモデルのポスターに刺さった。



  「……けどよ、もうあの町で騒ぎを起こすのはやめた方がいいんじゃねぇのか?」


  「てめぇ何弱気な事言ってんだ!? あの男の体を全身丸焦げにしてやって女を目の前で犯しながら笑ってやらねぇとこっちの気が
 治まりはしねぇんだよ!! それとも何か!? みすみす俺達に負け犬として終われって言うのかよてめぇは!!?」


  「うっ……わ、悪かったよ。二度と言わねぇ……二度と……」



  胸倉を掴まれて無言になる特徴的なヘルメットを被る男、その男に舌打ちしながら今のグレージーズの首領になった男は周りへ叫んだ。


  「誰が良い案はねぇのか!! この中であいつらを地獄に叩き落としてやれる良い方法はよ!!」



  「んな事言ってもよ、あそこの族のリーダーも警備隊長として最近警護付きで見張りやってるから襲うのは少し難しいぜ?
 ……それに女も女で南斗の拳法身につけてるから、この前の一件で不意打ちで攫うの難しいと思うし、男に関しては糞強いしよ……」


  「だよな……。あの野郎一人で俺達瀕死に追い込んだんだぜ? ありゃあ化け物だよな……」


  「そうそう。俺ちびってあの時何か解らず血だらけだったぜ?」


 情けない意見しか出せない部下達にこめかみから血管が浮き出て切れそうになる首領。その時、先ほどの弱気な男は再度言った。


  「な……な? やっぱり無理だって……。もう大人しく別の町へよぉ……」


  「面白そうな話してんなぁ?」


  その時、扉から聞こえて突如現れた見知らぬ声。一斉にして振り返りその男へ意識を集中させるグレージーズ達。


  「……てめぇ達が地獄へ落としたいってのは……針鼠見たいな風貌したバンダナ巻いている男で間違いはねぇよなぁ……?」



  「てめぇ何処から入って来やがった!? 見張りはどうした? 見張りは!?」



  「んなもん俺の拳法で切り刻んでやったよ……未だちょっと息はあるがな」



  ざわ、ざわ……! とどよめくグレージーズ達。首領だけは殺気を帯びたまま柔らかい口調で尋ねた。


  「なあ? 何の用でここに来たんだ? 下らない用事だったらよぉ、こっちは今忙しいんだ。また後にして……」


  
  「俺の用はお前達がさっきから騒いでいた内容と同じよ。あの鼠頭を地獄の中へ叩き落したいって内容よ……!」


  
  「……ほうっ?」


  
  憎悪と殺意を含んだその言葉に、殺気を少しだけ薄らいで手頃な場所に腰かけると首領はその顔をフードで隠した奴へ尋ねた。


  
  「てめぇそいつに何の恨みがあんだよ?」



  「……あの野郎、俺様をコケにした挙句。俺の大事な耳を切り取りやがった。同じように耳を奪い取るんじゃ俺様の気が済まねぇ!!
  全身を細切れにして女の前でそれを見せ付けて、絶望に落ちた女を犯して男と同じようにじっくりと体を細切れにしてやらねぇと……!」




  その男の言葉に溜飲が下がる気持ちが首領には浮かんだ。成る程、この男も糞野郎に煮え湯を飲まされた同士か。……首領は言う。


   「そんじゃあお前どんな良い計画があるんだ? 三人集まっている時はあの野郎共襲うのはきついぜ?」



   「……あそこの奴等はどう格好つけて振舞っても族の寄せ集めだ。今の内に適当な奴そこに侵入させて時期を見計らって分離させる。
  ……そして男が絶対に気付かないと見計らった時、俺様の手であの糞野郎の体をこいつで切り刻んでやるよ……!!」



  そう言って、腰に提げた双剣を取り出すと、手元にあった瓶を瞬時に細切れの硝子へと変えた。口笛を吹く首領。腕はあるらしい……。



   「……中々良い計画だな。……で? 誰をスパイとして送るんだ? 俺達はほとんど顔が割れてるから無理だぜ?」


   「……心配はいらねぇ……『こいつ達』を使う」




  指を鳴らすと、その男が入り口から入ってきた場所からぞろぞろと屈強そうな男達が入ってきた。みな何かしらの拳法を齧っている体だ。




  「……道場を破って引き連れた奴達だ……こん中から一人少しは頭の回る野郎を送り込んで、機を見て一気に叩き潰す……!!」



 

  拍手する首領。そして悪意で歪んだ笑みを張り付かせ高々と言った。



  「よし、最高だ!! それじゃあ俺達は今まで通り武器の調達『お前は要らん』……あ? ……おい、何だと?」




  「お前は要らん、その首領の座、俺に渡せ。お前じゃあの男を潰すのに力不足だ。すぐに俺にその地位を渡せ」




   ピキ    ピキ……!!    浮き出た血管をそのままに、血走った目で首領はフードの男を睨みつけて近くの剣を取った。




   


   「……ちょっと拳法齧っているだけの屑が俺様に調子こいた口利きやがって……! 俺様はグレージーズの首領を担ってんだぞ!!
  この意味がてめぇにわかるか? 解らねぇよなぁ!!? 俺様だってよぉ……てめぇ一人殺せる程の腕前はあんだよ!! おらぁ!!」







   飛び掛るグレージーズの不良。振りかぶったサーベールはフード男の脳天を叩き割らんと叩きつけようとする。だが……声は響いた。
  悪意に満ち、自分が憎むべき物をすべて絶望に落としてやらんとする男が紡ぐ邪悪な声がサーベールが触れるか触れないかで響いた。





  

     「馬鹿が……『白蛇獄水』!!」







  グレージーズには何か何だが解らなかっただろう。一瞬にして空中で首領の上半身と下半身は分かれてしまったのだ。





      「……あ、ば……?」







   ドガッ……!! と叩きつけられる首領。分かれた下半身を不思議そうに見つつ、その瞳から生気は永遠に失われてしまった。






     「ひいいいいいい!!?」    「首領! 首領!?」   「こ、こいつも本気で強い拳法使ってやがる……!」




     ほとんどの男はそいつに前に全滅した時と同じほどの恐怖をフードの男に感じた。そして思ったのだ。







                              ……こいつならあの『男』を殺す事が出来る……!!   と。








   「あ、あんたが今から俺達のリーダだ!!」      「お名前を、名前をお聞かせ下さい……!!」






     「俺か!? 俺様の名前は……!!」







    サーベールは偶然にもフードを少し切り裂き、その切れ目を掴んで男は脱ぎ捨ててグレージーズへ叫んだ。
     その男の傷だらけの顔には、新しく出来た生生しい傷跡が、無くなった右耳を異様に際立つように照らしていた。





   「俺様は白蛇拳のシバ!! 今から貴様達のボスとしてここに君臨する!! 気に食わない奴等は今すぐ出て行け!! そして誓え!!
 あの『男』を殺すと!! あの『ジャギ』と名乗るバンダナ野郎が大切にする物を叩き壊すと約束しろぉ!!!」









        オオオオオオオオオオオオ雄オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ悪オオオオオオオオオオ!!!!!!






   その瞬間、悪意の運命の風は決まった。あの幸福へ向けて進もうとする二人を喰らおうとする、運命の追い風が……。










    「……馬鹿馬鹿しい、俺はもう降りるぜ……これじゃあ命が幾つあっても足りやしねぇ……実家でも継いだほうがマシってもんだ」





    その中に、一人だけコソコソ抜け出す男がいた。その男こそ『極悪の華』でジャギの部下として唯一運良く生きていた部下Aだった。



[25323] 第四十一話『すこしまったり蜜柑でも食べながら(男星編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/18 12:01



 季節は真冬、至る場所で雪が積もり道行く人々の吐息は一瞬にして白色へと変わる。

 舞台はサザンクロス。その一室では世にも奇妙な光景が生み出されていた。









  「……なぁシン」


  「……何だ?」


  「……俺が言おうとしている事わかると思うけどよ……いや、言わせろよ? 絶対に遮るなよ? ……絶対に似合わんだろ、これは」


  「……言うな」



  頭痛を抑えながら、炬燵の中で疲弊しきった顔をするシン。






                  ……炬燵、そう、炬燵だ。




 サザンクロスの豪華な一室、そこでは大量の蜜柑が積み上げられた大型の炬燵が中央にでんと佇んでいた。……正直、部屋とは合わない。






  「お前よぉ……少しは断れよ。何が悲しくて男だらけで炬燵入ってんだよ? 全国のシンのファンクラブの女性が泣くんじゃねぇか?」


  「あるのか!? そんなのが!?」

 
  「……探せばあるんじゃねぇの? お前、モテるし」



 ……いや、俺には心に決めた女性が……と真面目に苦悩するシン。世紀末さえない平和な世なら苦労人として過ごせただろうに(ホロリ)


   その二人へと声をかける男達。


  「……本当に何で俺達男で炬燵入っているんだ? トウに、ユリアに、サキちゃんやアンナちゃんもいないなんて俺耐えられないぜ?」

  「ジュウザ……蜜柑食べすぎだと思うんだが?」

  「サウザーにもその文句を言えよ、ケンシロウ。どれだけ蜜柑積み上げていると思うんだよ?」

  「……(黙々と蜜柑を運ぶレイ)」

  「ふん、沢山あるのだ。そう文句を言うと自分の度量が伺い知れると言うものだぞ? ジュウザ?」


  そう、何故か知らないがジャギ、ケンシロウ、シン、レイ、サウザー、ジュウザと言う異様なグループが炬燵で蜜柑を食べるカオスな
 状況へ陥っている。もしこの面子で食べているのを未来の世紀末を生き抜く者が一人でも見かけたら驚愕で反射的に拳法を繰り出すだろう。


  「……サキにねだられて購入したのだ。それに興味を持ったのはお前たちだろうが!? 何故俺に文句を言う!?」


  「いや、女っ気が全然ないから? むさ苦しすぎるだろ。この面子」


  「まあ、それには同感するがなジュウザ。俺も出来るならアイリと……」

  「シスコン、そっちの蜜柑寄越してくれ」

  「誰がシスコンだ!!」

  「……反応している時点でシスコンって確定じゃねぇか」

  その言葉に詰まるレイ。呆れた顔つきのジャギに、ケンシロウは疑問を口にした。

  「……兄さん、しかし、何故炬燵に蜜柑なんだ?」

  「……いや、定番だろ炬燵に蜜柑は? なあ、お前ら?」

  「俺はこのような庶民の習慣など知らん」

  「いや、俺も知らんぞジャギ? ……何故だか不思議と落ち着くがな、この炬燵と言う代物は……」

  
  「何か安心してあったかいから自然と眠くなりそうだよなぁ~、これ」

  
   「そうだな……この暖かさ、まるで妹の」
   「うむ……それには俺も同意しよう。……この暖かいぬくもり、お師さんを」

  『それはねぇわ(ないな)』

 誰が誰の発言かはさておき、のんびりとした空気が周囲を漂う。これ程平和なのは夢ではないかと秘孔で確認したい今日この頃。


  「そういや、シン。お前伝承者に、もうなりそうなんだろ?」


  「うん? ああ……ジュガイは肉親が死んで錯乱したからな……。師フウゲンも体の具合が最近良くないらしい。俺を正式に伝承者に
 した後は何処か遠くの場所で養生すると言っていた」


  ふーんと相槌を打ちつつ、原作とのずれに気付かぬまま蜜柑を頬張るジャギ。それを馬鹿にしたように笑いつつサウザーは言う。

  「くく……鼠のように頬に詰め込むのは中々の見世物だな。おいジャギ、もう一度やって見せろ」


 「……お前かなり性格変わったな。いや、良いか悪いかさておき」

 
  「当然だ。お師さんに誇れるように、俺は王者として君臨するのだから」


 何と言うか、サウザーはサウザーなんだなぁ……と呆れつつジャギは疲れた目線で見る。その一方で蜜柑をお手玉のように扱いながら
 ジュウザは軽い曲芸を蜜柑で見せていた。蜜柑を瞬時に頭をのせたり、一瞬にしてばらして垂直に蜜柑の果肉を積み上げる……などだ。



   「……食べ物で余り遊ぶなよ、ジュウザ」



   「おいおいケンシロウ! そんな堅い事言っていたらジャギ見たいな顔になっちまうって! もっと俺みたいに軽く振る舞え!」


  「お前本当いい加減にしろよ。……てかお前に最近気になっていた事あんだけど、聞いても良いか?」


  「うん? 何だジャギ、良い男のモテる秘訣とかが? それだったら特別にお」


  「お前最近トウと付き合っているって聞いたけど」


  「……っ!?」


 蜜柑のお手玉を失敗するジュウザ。……こりゃ聞いて良かった。……ふっふっ、どうだ~、当たって悔しいかぁ~!?



   「……そうなのかジュウザ?」

   「いや、いや違うぜ? 俺は特定の女性から愛されない、皆から愛される雲のジュウザだ!」

   「知っているか? 拳法家って嘘をつくと鼻がピクピク動くんだぜ?」


   「嘘だろ!?」


   「ああ、嘘だ。だが間抜けは見つかったようだな……俺様は嘘吐きがでぇっ嫌いなんだ!!」

   
   「お前たち、もう少し落ち着いて食べられないのか?」


    呆れたように蜜柑を丁寧に剥きながら食べるレイ。こいつ……意外と上品だったのね……食べ方。



   「そう言うお前は誰か好きな相手がいねぇのかよ、レイ?」


   「俺はアイリの他に大切な物はない」


   「……うわ、こいつ開き直りやがった」


  ドン引きする俺。……もういっその事俺がマミヤ引っ張ってレイの元へ引っ張ってやろうか?
   



   「……そういえば、これ程南斗の者がいると、足りない人物も目立つな」



  そのケンシロウの言葉に、先ほどまで和やかだった空気が微妙に凍りつく。



    「……まあ『仁星』のシュウだっけ? あいつは確か嫁さんと一緒にいるんだろうさ。愛妻家らしいって聞いたしな」


    「……そうだな、あ奴は今は妻と共にしたい時期であろう」


    「え、いやそれも違わなくないが、あの」

    「南斗五車星……と言ったか? あいつ達もあいつ達で南斗の未来を守るために色々と大変なのだ」

    「そうだな、俺達も見習わないとな」


    「いや、だから一人忘れていないか? 確か『よう」

    「そう言えばジュウザ、ファルコって奴がいたな。あいつはここには来ないのか?」

    「ああ、あいつはあいつで忙しいんだ……けど、嫌っているわけではないから安心してくれよ」

 
    「いや、だからさ」





                            


                                バンッ!!!

          「ほぉ? お前達。この『妖星』のユダを差し置いて何やら面白い事をしているではないか?」







     『(……出やがったよ、くそ)』



   げんなりとするケンシロウを除く男達。それを耳に突く笑い声を立てながらユダは言った。


     「このユダを招かぬ宴などまことに詰まらない物はないだろう!! 我が美しさでこのむさ苦しい空気も華やかにしてやろう!
   皆よ! この『妖星』のユダの美と優しさに涙するがいい!!」





     『(だからこいつを参加させたくはなかったんだよ……)』





    噂をすれば影、男どもの挽歌はなおも続く、一人、心は男なのか女なのか解り難い者はいたが……。







  あとがき



 炬燵が家にないんです……(´・ω・`)






 ココアで我慢するよ……(´;ω;`)





  


    



[25323] 第四十二話『すこしまったり蜜柑でも食べながら(女星編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/19 18:13


      季節は真冬。そして少しだけ小さい部屋の中には炬燵。




     そこにはデジャビュを覚える中四人の乙女が蜜柑など啄ばみながら食べていた。







  「……いやぁ~恋する乙女の力の勝利だよね。こんな風に炬燵購入してくれるシンの太っ腹には感謝しないと」



   「……アンナ様。それ、シン様を褒めていらっしゃるのですか? それとも馬鹿にしているのですか?」


  「サキ……落ち着きなさいって……」

  
  「……(静かに蜜柑を口に運んでいるユリア)」



    乙女四人。アンナ、サキ、トウ、ユリアの四人組は炬燵に入り込みながらぬくぬくと外界と切り離された天国を満喫している。


    「こんな寒い日は炬燵でのんびりするのに限るねぇ~。ジャギも乗り気で蜜柑を必死で購入してたし」

  
     「凄く良い笑顔でダンボール箱の蜜柑抱えていましたよね……あのお方ころころと性格が変わるのでよくわかりませんわ……」

   
    「捉えどころのないお方、ですわね。もっとも、ジュウザ様とは似ても似つかぬ方でございますけど」

    
    「……あら? トウ、貴方もしかして……!?」


    「へ!? いや、ユリア様? ち、違いますよ? 私はあのように女っ垂らしで格好よくて、見ていると危なっかしい方など」


    「後半それ褒めてるんだけど」


  アンナの秀逸な突っ込みと、ユリアの優しげな笑顔にグウの音も出ないトウ、だが意外にも反撃の言葉がサキから飛び出した。



   「そう言うアンナ様とユリア様がどうなのです? ジャギ様とケンシロウ様との今の所のお関係は?」


    「へ? 私と……」


    「ケンと私? そうね……ケンは優しい人よ? 少し言葉数が少ない時はあるけど何時も見守ってくれているってわかるの」


     「あっ、それわかる~! 口じゃあ絶対に出さないけど絶対に何時でも危険から守ってくれる位置なんだよね」

   
    「そうそう! それで申し訳なく思って、時折り自分でも嫌になるの……けどそう言う時は黙って私の隣にいてくれるの」


     「完全に一緒!! 絶対に慰めたりしないんだよね。時折り黙って手を繋いだり、頭撫でてきたりはするけどね」



    「わかるわ……ケンも本当一緒。兄弟だからかしら? あっ、でもケンはジャギさんとは血縁はないと言ってたわね……」



     「一緒に暮らしてたら性格も似てくるんじゃない? だいだい、私達も似たようなもんでしょ? 気持ちは?」

  
    「え?」


    「私はジャギが苦しそうな時は黙って一緒にいてあげるし、辛かったら居れるときは何時までも居ようって思うもの。
  それってどちらも同じだって気持ちじゃない? 私もユリアも、ジャギもケンシロウ君も一緒って事なんだよ」


   「……ふふ、そうね。アンナの言う通りだわ。私達、一緒って事ね」


   「そうそう! 一緒一緒~! ……あれ? 二人とも赤い顔してどうしたの??」


    


                          「いえ……」    「……ご馳走様です」







            不思議そうな顔で顔を見合すユリア様とアンナ様。


    お二人とも……本心で言ってますからこっちが照れてしまいますわ。





   「……私たちも頑張らなくてはいけませんわね……トウ」

   「そうね、サキ。……貴方の方が先輩ね、何が良い方法はある?」


   「……ふふ、実はそんなトウの為にとっておきの用意をしているわ……この琥珀色の液体を一滴……想い人の飲み物へ」


   「まあ……! サキ……貴方も悪ね……」


   「ふふ……トウに言われたくはないわ……」











   


   「……!!?  な、何だ今の悪寒は?!」

   「し、シンも感じたのか? 何だろうなぁ……風邪か?」


   「……ユダが歌い始めたからじゃねえの? てか誰か止めろ! あいつらを止めろ! おいケンシロウ! 北斗神拳使え! 俺が許す!!」


   「え!? いや、駄目だって兄さん!!」


   「アイリ……この炬燵を持って帰れば喜ぶだろうか……!」

   「レイ、貴様の望みは潰えた。これはお師さんと俺の所有物に相応しい!」



   「フハハハハハハハハハ!!  俺は……美しい……!!」



   「お前達……!!  ……よかろう……殺してやる!!」


   「ひぃぃいいいい!! や、止めてくれシン!! た、頼む!!  (誰が収拾つけてくれよ本気で!!)」




   
   宴は夜遅くまで続く、一つは恋の炎を広げつつ、一つは戦火を広げさせ。








 あとがき





  悪い、ブラックコーヒー頼むわ






[25323] 第四十三話『俺、声変わりしたら戸谷さんか大塚さんで』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/18 19:46
 

  




   「ふぁいひゃきっ、しゅれしぇんほ!!(はいっジャギ、プレゼント!!)」



   「……いや、有難いんだけどよ。どうしたんだよ、その口は?」



  
   「ふぇ? ふぁんへほふぁいほ(えっ? 何でもないよ)」



   「何でもない訳あるか! 何でそんなに舌が切れてんだ!? こっち来い! すぐ冷やして手当てすっから!!」



   「ふぉふふぁ! ひはへへはへふぁんへ……ひゃきっはらふぁらひぃ~!(そんな! 舌で手当てなんて……ジャギったらやらしい~!)」


   「何を想像してんだ! 何を!?」



   「……お前ら何で意思疎通出来ているんだ?」


  リーダーの突っ込みを受けながら、俺は頭を痛めつつニコニコと舌を出すアンナへ注意深く消毒と氷で冷やした。

  ……アンナの奴、涙目でひは~い(痛~い)って言ってたが……自業自得だろうが! 俺の見えない所で怪我をするなっつうの……。



  しかもプレゼントなんだが……その、あれだよ。本当頭が痛むんだけどよ……ヘルメットなんだよ……ジャギのトレードマーク。

  何でこれ選んだのって後で聞いたら、バイクで事故って頭怪我したら大変だから……。うん……まあ頭を怪我する前にヘルメットは
 被っておけば安全だよ? この体の人は頭怪我してからヘルメット被ってんだけどな! しかも理由は最悪な方の理由だがよ!!


  前に貰ったプレゼントは確か結構綺麗な石(パワーストーンだって聞いた)のブレスレットでセンス良いなぁって見直してたのによ……。
 何でよりにもよってジャギのトレードマーク(汗) これも運命の修正力だっけか? 俺そんなん要らないから! 核もノーサンキュー!
  あ、ちなみに俺アンナ以外からだとプレゼンと貰ったのって言うとリュウケンからだと『お前に父として最後の……』って前置きの後に
 数珠貰ったのと(父さん……数珠って)トキが俺にくれた自作の秘孔に関するノート(これ下手した凄い貴重じゃね?)かな……。


  一応数珠とブレスレットは両手首に付けているけどな。何か格好良い<おいらに力をくれるって気分。


  第一話し戻すけどアンナの怪我は何なんだ? 自己練であんな風にはならんだろうしプレゼント作成とか? ……んな訳あるか。
 だとすると何でだろう。気にかかるとしたら今日ラオウの兄者が凄い天を睨みながら珍しく憂鬱そうな顔をしていたが……関係、ないよな?


  「……ひゃき、ふせひふふぁい?(ジャギ、嬉しくない?)」


  「あん? 嬉しくないはずがねぇだろうが。そんな泣きそうな顔すんな。ほら、被るから、どうだ? 格好良いだろ?」


  「うんっ、ひゃき、ひょっへほふぁっこひひ!!(うんっ、ジャギ、とっても格好いい!!」


  「おう、有難うな」


  「……いや、だからお前ら何で意思の疎通出来るんだよ? 今のは解りやすかったけど」


  「……アベックパワーとかっすよ。多分」


  「……お前いたのかよ」


  「……酷いっすよ、兄貴」


 リーダーと不良Aの漫才を背に、ジャギとアンナは桃色の雰囲気を出していた。











     

  場所と時間はそれより打って変わってサザンクロス。



  アンナからのプレゼントの翌日にシンの元へ訪れたジャギ、もはや慣れ親しんだ関係なのでノックもせず中へ入ったのが問題だった。

       「……すまん」


                     「……」            「……」



   「いや、本当すまん。俺もうちょっと後で来るから、それじゃあ『南斗千首龍撃!!』……うぉおおおおおお!!?」            



    サキとシンが接吻かましている最中に扉を開けたジャギ。本気で扉越しに殺されかけ体の至る部分に浅い切り傷が出来た。



 


  「……それで、何の用だ? これで詰まらん用事だったら……貴様、覚悟しておけよ?」


  「いや、本気な話でよ。……最近情勢が不安定でさ、核戦争が起きそうってのは知っているだろ」


  その言葉に真面目な顔で頷くシン。そうなのだ。最近どうにも露米辺りが何か雲行きが怪しいとニュースで流れている。
 普段の俺の世界なら流しているが、この世界だと終末の時計の針が重なるのがあと一秒前程だって知っているので内心ビクビクものだ。


 「前にも俺が何度が言ってたと思うけどよ。地下にちゃんと物資は保存しているのか?」


 「勿論だ。二年程前から医療器具に食料に技術設備。ありとあらゆる対策は万全とさせている。……サウザーにも言ったのだろう?」


 
 「言ったさ。けど土地柄なのか、あんまり地下の格納庫って少ないらしいんだよな。最も、ちゃんと万事差し支えないって自信満々に
  言い切ってだし、サウザーなら多分大丈夫だと思うけどな」


 「ふむ、なら大丈夫ではないか? 何をお前はそんなに心配しているのだ?」



 「……核が落ちたら俺の知り合いの内何割が死ぬかもしれねぇだろうが……」


  ああ、と頷き理解したシンは、優しい光をジャギへと浮かべる。


 「……お前はそう言う奴だったな」


 うっせえと顔が少し赤くなるのを感じながら反撃の言葉を探る俺。そして先ほどの場面を死を覚悟でネタにする事にした。
                   ……断己双砕拳!(主に自分は肉体的な意味で、シンは精神的な意味で)


  「……まあ安心したぜ、やっている事はちゃんとやっているってわかったから。……さっきの光景も含めてな」


  「言うと思ったわ……! 貴様こそ、アンナと何度か接吻はしている仲なんだろうが! 俺は見たことないがきっとそうだろ!」



            

                    ……?   俺    が          アンナ        と?



  「……何で俺と、アンナの話になるんだ?」

  「戯けめ……! 俺に話を振っておいてしらばっくれる気か? お前とアンナは恋人同士だろう? 見えない所でしてるに決まって」


  「……違うぞ」


  「は?」


  「……俺、は。アンナとキスした事……ねぇ、し。……好きだって……言った……事、も」




        



   ……ジジ                ……ジジ





   『……自分の心が何を変えたいって叫んでいるか聞いてあげないと!』
                            

                          『へへ、ここ秘密の場所なんだ』             『何時か夢を叶えたいの!』


               『ジャギ』


         『ジャギ』                        『ジャギ』









  「……おいっジャギ!!」


  「……うぉっ!? 何だシン、近いぞ!?」

  「お前大丈夫か? ……顔が真っ青だぞ?」


  「え?」


  シンに言われるまま鏡を見る俺。そこには真っ青で汗を貼り付けている酷い顔の『ジャギ』の顔があった……やばい、吐き気がする。




  「……悪い、シン。俺、邪魔したし帰るわ……」

  「あ、ああ……本当に大丈夫か?」



  平気だ、と言いながら少しだけ平衡感覚を失いつつもシンの部屋を後にする俺。……何なんだろう? 一体この感情は何なんだろう?


  酷くムカムカする。いや……酷く憎んでいるのだ……一体ナニを……?




             オレハ                 ナニヲ……?






  「……ジャギ」


  「……アンナ?」


気がつくと、俺はサキと町をうろついていただろうアンナに抱きしめられていた。吐き気が収まる。俺はさっきまで何を感じてたんだっけ?



  「……なあアンナ」


  「何、ジャギ?」


  「……俺、今のままで良いのかな? 変わったほうが、良いのかな?」

  俺の口から勝手に出てきた言葉、それをアンナはきょとんとしてから、向日葵のように笑顔で言った。


  「……ジャギはジャギだよ。変わっても、どんなに変わって見分けがつかなくても変わらないよ。私は解るから安心して」



  「……そうか」



  アンナに抱きすくまれ聞こえる心臓の音は子守唄のように安心した。


  俺はどうしたら良いのだろう? 漠然とした不安は、アンナの側だとまるで気にならなくなった。









 あとがき




 ポスト見たら雪見大福入ってたんだ。




 『御免ね☆ 汚物ちゃん☆』by友人



 ……(´・ω・`)ムシャムシャ>まあ、もうちょっとしたら許そうかな



[25323] 第四十四話『虎? 声優繋がりで山羊をだな……』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/19 09:37


      



   「トキ、ジャギ。こちらへ来い」





  




  師父リュウケンにトキと共に呼ばれたジャギこと最近針を飛ばす事を練習する苦学生ならぬ苦汚物の俺様。……ジャイジャイキーンとか言いそう。

 ……西斗月拳の操孔針(そうこうしん)覚えること出来たらもう言うことないんだがなぁ……むずいんだよ、命中させんの。
 しかも戦闘中に使うとかレベルSぐらいむずいよね。どうやってヤサカさんはあんな技を……『気』か? いいえ血筋です。




  「……伝承者を決める日も近づいてきた。トキ、ジャギ、お前達にはこれと闘ってもらおう……」



   うん? これ何か原作で似たような台詞あったな……? あっ、思い出した。この後にでっかい虎が来るって……げぇええええ!?

  ちょっ、滅茶苦茶でかくないか……? どこの動物園から仕入れてきたのよ師父さんよ!? 虎が可哀想だろうが! こんな場所何かに……(泣)


  檻から出され、のそり、のそりとこちらへ歩み寄る殺気立った虎。いや、わかるぜ? いきなり大自然を謳歌していたと思ったら
 こんなスキンヘッドの男なんぞに囚われて、こんなアミバ化するかわからん男と極悪面の男の前に出されたんだ。……俺でも切れるな。


  
           グオオオオオオオオオ!!?※ジャギ意訳(何メンチ切ってんだこの野郎!!?)



  そう吠える虎。……うわっ凄いわやっぱトキさん、平然と自然体で佇んでいる。俺? 怖くて意識半分手放しているに決まってるジャン☆

  ……真面目に考えるか。確かこの虎と闘うの伝承者としての資格があるか師父が見極めるためにやってるんだよな?

  俺どう言う事すればいいんだ?? 虎殺したら殺したで『お前って所詮その程度なんだね(笑)』って言われそう……今何か凄いむかついた。

 うしっ、なら最近着実に練習して来てヘルメット野郎をグウの音を出さないように成長をほぼ仕切った(※本人は何も言ってない)
 洗練させたこのジャギ様のアレを見せてやろうとすっかぁ!!









(partリュウケン)

 伝承者を決める日。それは着実に迫っている。

 自分の体もそうそう長くはない事を告げておる。この四人の内誰が一番相応しいか決めるか?

 ……ケンシロウ。思えば遠き昔に過ごした閻王の面影をあの子に感じた。あの男にある意味一番期待をかけている……過去の憧憬も含め。

 ……ラオウ。日増し周囲をひれ伏させる程の剛拳を身につける男。あ奴の瞳には計り知れぬ『何か』を秘めている。……もはやこの我が眼力でも
 遠くあの男が子供の頃だった時の心を見透かす力は残っておらん……。……最悪我が拳をもって封じるべきかも知れん……。

 ……トキ。北斗神拳を習い、自身を唸らせる程に洗練された拳を身に付けた男。だが、時折りその気性の優しさが後々に災いになるのでは?
 と危惧すべき点でもあると考えている。今も虎と対峙している行為がそれを遠まわしに告げておる。

 

 流石、と言うべきかもしれん。座禅を組み虎を澄んだ瞳で見るこの男の眼光には、荒々しき獣を治める御仏に通じる力を備えている。
 虎は現に怒り狂った気を鎮め、トキに対してはもはや上機嫌の猫のように撫でられるほど大人しくなっている。……見定めるのが難しい。
 








  ……ジャギ。私の息子として愛し育てた男。拳法を身につけた理由は私を守護せんと言う何ともいじらしい気持ちゆえ力を身につけた男。
 周囲からはその風貌で知らぬ者から時折り怖がられるが、この子の優しさは親として十分に知っている。
   だが、成長し初めたジャギに、私はどう言う心持ちで接すれば良いのか何時しか困惑している自分がいるのに気付いていた。
時折り自身の意中の女に会いに行くジャギ、南斗の寺院へ勤しみ南斗伝承者候補者と交流を深めていたジャギ、南斗の拳を身につけてたジャギ。
 ラオウの拳に倒れる前に自分から誤って気絶していたジャギ、トキと医術の道で深い才を見せたジャギ、一度として怒りを見せぬジャギ。
 ケンシロウに実の弟のように接していたジャギ。兄に対し敬服の意を見せつつも何処か傍観するような様子を見せていたジャギ。
 気がつくと銃を携え拳法の構えを練習していたジャギ。針を飛ばし秘孔を突く技を自分で試行錯誤して得ようとしていたジャギ。
 ……お前の奇行とも卓越とも言える行為に、私はどう言う感想を抱けば良いのか始終解らず仕舞いだった……。

 
  ……ジャギ、私には遠く離れた場所に、お前が行ってしまった気がする。……私はお前を伝承者候補にした事……それは……それはもしや。



 トキの切羽詰まった危機を上げる声がする。すでにトキに敵意を見せなかった虎はジャギへ狙いを定め爪を振るったのだ。
 避けるジャギ。だが顔に浅くは無い切り傷が出来た。……やはり無謀であったのだろうか? 私の心中穏やかではない視線とトキの心配気
 な視線の中、瞬時にジャギは立ち上がると一呼吸の後に……。







                    ……気配が                  変わった。







  ……あれは、『北斗羅漢撃』の初動の構え。なのに何故だ? 何故こうも心をかき乱される程の気がジャギから溢れ流れている?
 直接その気を当てられてないトキさえも冷や汗を流している。これではそれを直に浴びる虎は早速どうにかなってしまうだろう。

 ……暫し硬直しジャギの目の前で震えていた虎は、数秒の後に元の檻の中へと尾を逆立て逃げ去った……もはや二度とジャギには近づくまい。


 しかし、今の異常な気の濃さは何だ? 何時の間にあのような気配を身につける変化が、お前の心に何があったのだ? ジャギ。

  ……ジャギ、我が息子よ。先ほどの、しいて言うなら『羅漢の構え』とも言うべきだろうか? お前があの構えをした瞬間にだ。





   


     ……まるで怒り涙して狂うビンドラ・バラダージャ(十六羅漢)がお前の姿を借りて構えているように思えた。











  (part中の人)


  ……ふぃ~ あっぶなかったぜ!?



 いきなり虎が飛び掛られて爪が顔を掠った時は流石に死ぬかと思ったよ☆
 けど羅漢の構えって便利だな! この前森で構えやって精神統一して気合い入れたら鳥が慌てて飛んでいったから虎にも通じると思ったんだよ!


 いやぁ~! これで俺も少しは師父に見直されつつ伝承者候補から穏便に離されるってもんよ! ……いやぁ~、良かった良かった!!









  ……本当に、これで良いんだよな?











(あとがき)



 阿羅漢:「仏」になれず「地獄」へ堕ちる事も出来ないと言う論書がある。
      また、その位のまま輪廻転生するとも言われている。
     中国、日本で仏法を維持する事を誓った十六人の弟子を「十六羅漢」
    と呼び崇拝され、第一回仏典編集に集まった五百人を「五百羅漢」と
    称し尊敬される事も盛んであった。

    京都市中京区の六角堂には羅漢像とその周りに邪鬼があるのが見れる。




[25323] 第四十五話『エンド・オブ・ザ・ワールド』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/20 11:58




   「……暇だな……死ぬほど暇だ……死んでるんだろうけどよ」









  太陽が罅割れた荒地を照りつける。風はなく、生きる物が佇んでいれば二日とたたず脱水症状や熱中症で命を落とすだろう。

  そんな熱線を受けながら、平気な様子で長すぎる時間に億劫そうな声を上げるヘルメットの男。



  「……バイクがありゃあ少しは暇つぶし出来るか? ……走り続けても、この場所じゃあ何処へ行っても似たような景色……か」



  建物の中には復元された物以外にも、『あいつ』の記憶の中にあった読み物や食べ物飲み物も置かれている。
 だがそれは一時凌ぎの暇つぶしでしかなく、ほとんどの書物と言える書物は読みつくしてしまったジャギは、こうして建物に背を預けて
 銃を解体、そしてまた組み立てると言う作業をゆっくりとしながらとてつもなく膨大な時間の無用さを体へと噛み締めていた。

 これでおよそ五千九百六十二回目の組み立て作業が終了。仕方が無いから突きの練習を再開するかと立ち上がる男の鼻に、何かが漂った。



  

  「……ちっ、未だしぶとく咲いてんのかよ」




 そう気だるく男は柱の影へ近寄る。建物からほんの少し離れた影に咲いている。小さく儚く、自分とは対極の位置で佇んでいる弱い花。



  「……花でも喋る相手にはましか、……世の中サボテンに話しかける馬鹿もいるってんだから驚きだよな? おい」


  花の隣に座るジャギ。銃を適当な位置に立てかけて、何を言おうか少し迷ってから、こう切り出した。


 「……俺はよ、伝承者候補になる前はほとんどスラムのガキと同じ扱いだった」


 「一日食うのにもやっとでよ。ごみ漁る事もあったんだぜ? ……この北斗神拳伝承者の俺様が、だ。……笑えるよな、おい?」

 「食えるもん探して誰にも奪われないようにして……それを見る周囲の目線が憎くて憎くて仕方が無くてよ……その頃リュウケンに拾われたな」


 「最初はこいつも俺を売りさばくが何なりするかと思ったんだが……。……美味い飯、暖かい部屋。……俺は単純に、あの野郎が良い奴
 なんじゃねぇかって思って……。あいつの頼みを引き受けて伝承者候補って奴を引き受けちまった……笑えよ、ま、花に笑えって言っても無駄か……」


 「……同じように修行している奴等、……そいつらに俺は何時も勝てなかった。年下のあいつは何かしら俺を不憫そうに見て手を抜いて負けるのが
 丸わかりでよ。……俺は最初わかってたけどよ。何時か気付きたくねぇから都合よく見ない振りしたんだ、……馬鹿野郎だな、本当に」


 「結果はこの様……。俺様はあの野郎に頭を吹き飛ばされて終わりだ。……何も可笑しくねぇ、ただの盗賊と同じただの屑野郎だ。
 ……俺は別に自分のやった事を後悔する気はねぇ。……一つ、あるとすればだ。別に決してそんな事はねぇんだけどよ」


 「……平行世界とか、言うのか? 『あいつ』の部屋にあった漫画に描かれてた……、……あの世界の漫画ってあんな風に目が異様に
 でかい女を描いたら受けるのか? 俺はあんま生理的に受け付けないんだがよ? 『コブラ』って作品の女は好みだったがな……」


 「……脱線したな。いや、どうせ独り言見たいなもんだから勝手に全部話すけどよ。その平行世界って場所にも、もしかしたら俺がいるって
 のが最初ちょっと驚いたな。SF作品なんぞ、俺は手をつける機会なんぞなかったからな……。『タイム・マシン』だっけか? ウェルズの作品……」


 「……そんであれだよ、その平行世界の一つに、俺に似た俺を愛した馬鹿野郎がいて、その馬鹿野郎はある意味憎めない奴だった、としてだ」


 「……その馬鹿が死んだ事で俺に似た俺は狂っちまうんだよ? ……この俺様がそんな事で狂うかよ。北斗神拳伝承者の俺様が
 『愛』にも『恋』にも発展してない女の事で狂う、だと? お笑い種だな……。
 『ジャギ』はそんなセンチメンタルじゃねぇ。『ジャギ』はそんなに純粋な生き方なんぞ出来るはずがねぇんだ……」


 「俺様は悪だぞ? そんな俺が最初は善人でしたなんて言われたってんなもん俺からすりゃ核戦争なんぞなかったって言われるぐらい
 信じられねぇ話だよ。……何だ? 俺がこんなに自分の事ペラペラ喋るのが嬉しそうって感じで揺れるんだな……てめぇは」



 「……ああ、そんでよ。少しだけ気がかりってのがよ。その俺に似た俺が馬鹿の所為で狂ったとして、よ。その馬鹿が、俺に似た俺を
 狂わせる……『運命の女』(ファム・ファタール)って言うのか? 確かよ、俺には蚊帳の外だったが、あの三兄弟の喜劇を作る要因も
 『運命の女』(ファム・ファタール)だったんだっけか? ……こんな共通点をあいつらと同じように持ちたくは正直ねぇがな……」



 「……んでその馬鹿が狂って死んで。死ぬ間際にそいつの事を思いつつ、あいつを憎んで……。俺と同じようにあの世へ行って苦しんで
 苦しんで責め苦を受けてよ。……そんで以ってあいつからすりゃあ迷惑な話だ。俺だってそこまでやらねぇな……考えた奴はいかれてるよ」


「その全部憎んでいる野郎に、『お前を好きだった奴はお前を悪役に仕立て上げるのに死んだ』って突きつけるんだ。……そいつは元々
 純粋でその馬鹿の事も別段嫌いではなかったから後はもう大変だな。もう今までの憎しみなんぞ屁で神へと呪詛の言葉を吐く」


 「……後はありゃあ亡者じゃなくて修羅だ。神を屠らんとする悪魔と化して地獄の鬼を餓鬼を阿修羅漢の拳で散らせつつ神へ叫ぶんだ。
  『俺の名を言ってみろ! 俺を愛した女の名前を言ってみろ!』……ってよ」



 「……悪魔が居る事が証明されれば、神が居る事の証明にもなる……だっけか?  ……そんであいつは虫やもっとおぞましい何かに
 なろうと何千年、何億年経とうとあいつを救う事だけを魂に刻んで生き続ける」


 「俺は、そんな俺に似た俺に救いがあんのかって思うんだよな……」







 「……もう少しで世紀末だ。……そうすりゃ俺様もようやくこんな糞つまらねぇ場所からおさらば出来るだろうさ。……てめぇもその時は一人だな」







  ……その男の語りはなおも続き、気がつけば日も傾きまた夕日が見える。



 「……まあ良い暇つぶしになったし、……ほら賃金として水かけてやるよ。俺は優しいだろうが? うん?」


 水筒から花に被せるには少し多い程の水をかける男。花は水圧で少し曲がってから起き上がると、苦しそうに少しだけ揺れた。



「……ヒーッヒヒ! 一週間分はそれで凌いで見ろよ。……まっ、本気で枯れそうになったらまた暇つぶしも兼ねて水かけてやるよ。じゃあな」


  嫌な笑い声を天に響かせビル内へ戻る男。……男は知らない、その花は男が真の意味で見放さなければ枯れない事を、男は知らない。




  



 今日も北斗七星と北極星が輝く下で男は眠る。仄かに花の香りが世界が埋め尽くすような気の所為を感じながら。









 あとがき


 





  昨日の話、某友人とは別の人が『最近行進速度異常な小説、チラ裏でやってるよ』
って話の流れで出してきたんで、それ俺だよ! (;゚∀゚)=3
 って言ったら『じゃあ某友人紹介してよ(笑)』って言われたので
 冗談だって直ぐ流してしまった……(´・ω・`)

 ……あんな奴紹介したら恥じかくだろjk


 ……友人の野郎……(`;ω;´)



[25323] 第四十六話『荒野にて』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/19 20:11


     元ネタ『渚にて』:ネビル・シュート作
           内容:第三次世界大戦後北半球の汚染された地へ
             海軍スコーピオン号がモールス信号が発信
             された人がいない場所のメルボルンへ向かい……。













   「……いてぇ」
   

   「…………ぷっ」


   「おい、アンナ……見る度に何度も笑うなよな」

   「……くくっ……いや、だって何か間抜けだもん。その包帯巻いている姿! ヘルメットでも被ったらマシになるかもよ?」

   「あーはいはい。どうせ見れた顔じゃねぇんだ。ヘルメットだろうと包帯姿だろうがほとんど変わり映えしねぇって」


   「……私はどんな姿でも好きだけど?」

 
   「あんがとよ」


   そう礼を言うとえへへと照れたように笑うアンナ。こいつのこう臆面もなく素直に褒める性格は正直嫌いではない。

  何故包帯を巻いているかと言えば虎に飛び掛られた時の爪傷が化膿したのが少し腫れたのだ。それを大げさにアンナが慌てて(涙目で)
 俺の顔全体を包帯を巻いてミイラ男にしてほっと一安心した後、自分でしたのにその姿がツボにはまったようで俺を見る度笑うのだ。


  「……今度笑ったらその頬っぺた餅みたいに引き伸ばしてやるからな」


  「あっ、お餅最近食べてないよね。後で買いに行こうか?」

  
  「そうだな……醤油付けて網焼きだよな、やっぱ」

 
  「え~? よもぎ餅の方が美味しいけどなぁ」


  「へいへい両方買ってきますよっと、……さっき俺ら何の話してたんだ?」


  「え? 大した事じゃない…………ぷっ!」


  「あっ!? また笑いやがったなこの野郎~!!」


  「ひはひひはひ!? ひふはっふ~!(痛い痛い!? ギブアップ~!)」




  「……お前ら何時でもイチャつけて、こちとら胸焼けしそうだわ」


  カウンターでの俺達のやり取りを見てそう戻ってきた途端呟くリーダー。その手には結構大きめの荷物が抱えられている
 ……ん? それってもしや!? 俺が求め続けていた念願の……!?


  「……リーダー、それ、もしかしてアレか?」

  「ああ……。お前無茶な注文すんなよな? こんな代物普通の場所じゃ売ってねぇから危ない所まで綱渡りしたぞ? ……まあお陰で
 違法製の武器とか取り上げられたから結果オーライだがよ……」


  そう疲れ果てた声で呟くリーダーを尻目に、俺はようやく手に入れたコレに頬擦りしつつ心から喜んだ。これさえ、これさえあれば……!


  「……ソレってそんなに喜ぶ代物なの?」


  「アンナ……兄貴として忠告するがな。……もうちょい男は選べ」


  「あっ、大丈夫。兄貴とは比べ物にならないから」


  「表出ろ」


 後ろの方で和やかではない会話をアンナとリーダーがしている気がするが、これさえ……これさえあれば後はもう俺の仕事ほぼ終わり
 みたいなもんだ! ……後は無事に世紀末生き残ってラオウさえ何とかケンシロウがしてくれたら……な。





  ……数週間は経ち、まだ顔のむくみが酷くて少しイライラし始めた頃(シンは俺の顔見た瞬間噴出しかけたから殴りつけたよ)に、
 どうも雲行きが怪しいのが寺院からも見て取れた。
 その雲を見た瞬間途轍もなく胸騒ぎを感じた。まるで……何か手遅れになりそうなそんな感覚が自分の胸を過ぎった。

 

 

  ……穏やかじゃねぇな。……アンナの様子、心配だな。


 そう抜け出そうかと思っていた時、リュウケン……師父へと呼び止められ中で少し話しをする事になった。




  「ジャギ……この十数年、お前は私の期待以上に力を身につけたな」



   俺に背を向けてそう語る師父。……何だろう? 拳を潰すのは未だ先だし、それに何だか様子が可笑しいな?


  「……お前は昔言ったな。私がお前を進めたくない道へ言ったらどう考えるか? ……と。……今だからこそ答えが言える気がしたのだ。
 ……私は、お前をこの道へ進ませた事を後悔もあるが……感謝していると」


  「……師父?」


  「……ジャギ、お前は突然の兄弟にすら当たり前のように兄弟として接し、驕る事も反発する事もせずここまで過ごした。
 お前の心は昔からまるで変わらぬままのように、私の錯覚でなければ思う。……ゆえにお前の真偽をかけ、この問いに答えて貰いたい。
 北斗の拳を身につけ、お前はこれから先私の元へ離れたら……お前はその拳で何をしたい?」


  その言葉に暫し思考してから、『俺』は本心でこう返すことにした。


  「……俺は、……俺はこの拳で何かをしようとは思わない」

  
  「……では、何故身につけた」

  
  「……俺の前で師父が危険な目に遭ったら俺は拳を振るう。目の前に大切な人がいたら拳を振るう。……それだけで俺は十分……!!?」


   気がつけば一瞬にして、俺は師父に……『リュウケン』に抱きしめられていた。その目からは止まることない涙が流れていた。


   
  「……師父」


  「すまない……」

  
  「……何でだよ。何で謝るんだよ……」


  「すまない……!!」


  ああ、何故だろう? 以前も同じ事を『師父』から言われた気がする。何時かの光景で俺は謝る『リュウケン』にそう言葉を返した気がする。



               ……俺は……                  ……オレは……






   「……ふんっ、家族ごっこも大変だな?」


   「……」


   「……貴様の父親も愚かだな? お前に勝手に期待を背負わせ」


   「ラオウ」


   「ぬ?」


   「……師父の事を悪く言うな。『二度と』。……それ以上言ったらただじゃおかねぇ」


   「……!! 弱き分際で何を……!」


   拳を振るうラオウ。だが、『今』だけは何故かその恐ろしい威力を秘めた拳も受け止める事が出来た。……ヒドク何カガ辛カッタ。


                     ギギ……!             ギギ……!

   「ぬぅ……!?」


   「退けよ」


  頭痛が酷く耳鳴りがする。半歩下がったラオウの脇を通り俺は階段を駆け下った。トキとケンシロウが途中にいた。


  「あっ……ジャギ兄さん。今は結構外も危なくて……」

 
  「悪い、それでも早く行かねぇとやばい気がするんだ。トキの兄者、ちゃんとアレは持ってるよな?」


  「あ、ああジャギ。だが」


  「悪い、急が……ねぇ……と」



 頭を割りそうな痛み。そして胸を鋭く突く特点部分の激痛。吐き気と闘い『あいつ』の元へ急ぐ、その時リーダーが最近引き入れた
 奴等が俺の元へ走ってくるのが見えた。


  「どうした?」


  「あ、じ、実はジャギの兄貴のお連れなんですけど、ビルの屋上で待つって知らせを持ってきて……」


  「は? 何でお前らにそんな報告させてんだよ?」


  「た、多分吃驚させたいとか……」


 その言葉に痛む頭を何とか堪え、『あいつ』ならサプライズとかでビルで何かするかもな……と考え俺は気にしなかった。

   何も疑問に思わずビルの内部へ入る俺。黴臭い香りが嗅覚を刺激する。……本当にこんな場所で待っていると言うのだろうか?

  

    何だ?    俺は何か大変な間違いをしでかそうとしてないか?   だとしても一体何を……?


  「……この上です。俺達はここで待ってますから」


  「……あっ、ああ悪い」


  タイミング悪く思考を遮る声。俺は気分が悪くなるのを包帯越しに顔の化膿している部分を刺激させて痛みを発生させて
 誤魔化しながら俺は扉を開けた。……? 何だ誰もいねぇ……











                            ドガッ……!!!           …………ドシャッ……ッ!!






   「……やっ……! ……ざま……見ろ!」

   「気……抜くな! こ……強い……使うって……しだ!!」

   「ああ!!…………どめに額を銃で……」

   「ま……そいつ……やる! こい……耳の……からな! ……終わりだ!」





  ……何だ?  ……何で俺は頭から血を流して倒れているんだ?

  ……あいつは、前に寺院へ乗り込んできた白蛇拳のシバ……?

 ……ありゃあ俺の銃……俺に……向けて? ……死ぬのか? 俺?

  
  ……待て……よ         ここ   で ……おれ 死んだ   ら  誰  が   ……「   」 を   まも







                            パアアンッ!!!!












    「……よう、お目覚めが?」




  気がつけば、何処かで見た事のあるビルの屋上で俺は悪魔のような瞳で見下ろすジャギに睨まれていた。 
  そして、ジャギは地獄の底から響かせるような声を上げて、まるで『あの時』のようにこう台詞を俺の前で響かせた。






  
                 「フッフッフッフッ……! この時を待っていたのだ…………!」





[25323] 第四十七話『極悪の芽』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/20 10:45



  他の建物に比べると少しだけ高層のビル。そこでは空気を罅割れさせながら勝利の笑い声を雄叫びに近く発する顔が傷だらけの男がいた。


  「ざまぁ見ろ!? それだけ額が割れちまったら流石に死ぬよなぁ!  ……けど拳法家ってのは俺の経験上脳天に銃弾食らわしても
 しぶとく生きる野郎は生きるからな……。そう言う訳でてめぇには俺様の満足感の為にこの白蛇獄水を受けて細切れに」


  「ど、首領!!」


  「何だいきなり!? こちとらようやく望みが叶うって時なんだぞ!?」


  「そ、それがどうも核が落ち始めたって情報が入って……! 早くどっかに避難しないと巻き込まれて死んじまう……!」



  「何だとぉ!?」


  舌を打ちながら怒声を上げるシバ。そして顔中の包帯から僅かに露出した額の傷口から血を垂れ流し倒れふすジャギへ唾を吐いてから
 獰猛な笑みを浮かべて小馬鹿にした口調で言った。


 
 「……けっ。まあ構わねぇか……。やべぇ事が収まったら女を探し出してこいつの分細切れにしてやるよ。おい、聞こえているかよジャギ?
 てめぇはここで核に巻き込まれてお陀仏! あの世で自分の女が犯されて細切れになるの見届けろや! ヒハハハハハハハハハハハ!!」



  悠然と立ち去るシバは気付かなかった。ピクリとも動かなかったジャギは、扉を閉める寸前に指が一瞬何かを掴むように動いたのを。











  「……おいっ!! どけよ! 俺はアンナの元へ行くんだ。行かなくちゃいけねぇんだよ!」


  「……何故行く必要がある?」


  「はぁ? てめぇ何を!」


  「何を焦っている? てめぇはさっき俺の見間違いじゃなけりゃ銃弾で額が割られて死んだはずじゃなかったか?」


  「……! 五月蝿ぇ! 死んでいようか何だろうか俺はアンナを助けなくちゃならなぇんだよ!!」


  何がこんなに苦しいのかわからない。何がこんなに切なくて涙が出ているのわからない。ただ無性にアンナの元へ行きたかった。


  そんな俺に『ジャギ』は深く深く溜息を吐く。まるで見飽きたと、失望したと言う風に俺に向かって溜息を吐くと呟いた。


 「……やっぱな。てめぇは駄目だ、ひよっこだ。……『また』駄目に決まっている。お前じゃ駄目だ。……諦めろ。どうせ手遅れだ」


 「何が手遅れなんだよ!? 早くあの白くて輝くもん出せよ!! 俺は、俺はアンナに」


        




       「アンナアンナって五月蝿ぇんだよ!!? おい『ジャギ』!! てめぇは何処まで女々しいんだ!! あぁ!!?」




  ……あ?    ……いや、俺は確かに『ジャギ』だ。……けど何故かそんな口調ではなかった。……まるで、……そうまるで。


   俺の思考を見透かしたように、突如ジャギは俺に胸倉を掴み問いかける。


  「……おいお前、『お前』の名を言ってみろ」


  「……俺は、ジャギに……憑依……」

  
  「……『お前』の名を言ってみろ……!」


  「……お……れ……は」


  「そうか……」


  ジャギは呟くと俺の胸倉を離し、自分の胸の傷を見せ付けた。……仄かに七つの胸の傷が……輝いている?


  「……この胸の傷を見ても誰だがわからねぇのか?」


 





              ……ジジ              ……ジジ     ……ジジ         ……ジジ







   記憶が逆再生される。





  あれは大学生の俺。悪ふざけが多い友達とゲームセンターで北斗の拳で対戦をして勝どきの声を上げている俺と台パンしている友達。
        ……こいつは確か大学一年頃の話だ。

  あれは高校生の俺。北斗のキャラクターで名前が似通っているのでそのあだ名で呼ばれている俺が見える。そのあだ名をつけた奴には
  復讐する為におにぎりの具をわさびに入れ替えた。……その後の展開は想像に任せようと思う。


  あれは中学生の俺。家族と一緒にオーストラリアへ旅行した光景が見える。思春期のせいか家族写真で嫌そうに離れている。
 弟も若干嫌そうにしているのが見えるが、それを父と母ともに宥められ一緒に写真を撮っている……懐かしいなぁとぼんやり思う。


  だんだん小さくなっていく俺、そして俺の姿は消えて、山羊や狼などの動物。蛇やノミなど小さい生物が映し出される。


  ……そして最後に小さい頃のジャギの姿が俺に映し出された。




  ……ジャギがリュウケンに育てられている光景。これは憑依する前の姿なのだろう。すくすくリュウケンの愛情を受けて純粋に育つジャギが見える。


  そして五歳児、六歳児……子供に自分が孤児だとからかわれ泣いているジャギの姿。多少不憫に思いつつ四年ほど歳月が流れ……。




                          ……何だこの記憶は?



  ……何故アンナに出会う前にトキとラオウが訪れている? 何故その後にアンナが出ている? 何故ケンシロウの首を『俺』は絞めている?


  何故ラオウとトキに劣等感を感じジャギは屈辱を? 『俺』の記憶ではないのか? これは並行世界とでも言うのか?


 アア、記憶の整理と、記憶の進み方が追いつかない。ジャギはこのまま成長してアンナと再会していた。……何故『再会』なんだ?

 アンナはリュウケンとも他の兄弟にすら接しない。当たり前だ、以前に出会ってなければこのようなはずだろう。……待て、待てよ?


 ……動悸が激しくなる。脳が沸騰するぐらい熱を持つ。……この記憶は俺の予想が当たっているなら……『正しい』のではないか?



  激しく暴れ狂う心臓。激痛が飛び交う頭。それに苛まれながら俺が見た光景。世紀末が訪れた瞬間……アンナが   「    」が。






  アア   アア   何でだ?   何でお前が死ななくちゃならない?   死ぬのは『俺』だけで十分なはずだ。




   呪われろ   呪われろ   リュウケン   ラオウ     トキ   そして ケンシロウ          神よ



   ノロワレロ   ノロワレロ   ノロワレロ   俺を   俺達をあんな目に遭わせたスベテよ  ノロイ果テルガイイ




   ノロワレロ  ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ



   「    」を 「アンナ」を 『アンナ』を     ……誰があんな目に遭わせた?      ……それは俺達だ。


   
    

                        スベテの元凶ハ               ……オレダ……!!










   「……よぉ、思い出したがよ」

 嗚咽して跪く俺に。ジャギは静かに語る。その言葉が混乱する俺……『ジャギ』には一番きつかった。


  「……そうだよ。てめぇは憑依した奴かも知れねぇがな……。元々『ジャギ』なんだよ。……もっとも俺様とは違う世界らしいがな」


  「……あ…………ン……」


  「あ? 何が言いてぇ?」









                           「……アン……ナ」






  その『ジャギ』の掠れた声に、ジャギは仮面越しでもわかるほどの怒気を膨らませ『ジャギ』の腹部を思いっきり蹴り飛ばした。




  「がっ……!」



  「……何処までてめぇはしぶてぇんだよ!? お前は守れるもんがあった癖に守れもしなかった負け犬だろうが! そんでもって
 それを知りもせず、ぐだぐだ周囲を憎んで、挙句の果てに真実を知ったら修羅と果ててもう一度やり直そうって言う甘ちゃんだろうが!」


  「……アン、ナ……アンナ……!」



  「もう手遅れだろうが!? 『正しく』前と同じ展開だ。おまけでお前の愛しい奴は、今度は細切れになるサービスもついてるかもなぁ!!
 どうせ何回何度やり直そうと『ジャギ』なんぞが救おうなんぞ出来るはずがねぇだろうが!? よーく思い出せ! 思い出してみろあの時を!?
 お前に何が出来た!? 寺院で倒れ付したてめぇの恋人の屍を抱きしめてやるしか出来ねぇ! そして元凶のグレージーズ共を全員
 殺しもしねぇで部下にして寺院を爆弾で破壊して。見ろ! 結果はこの俺様と同じだ! てめぇは俺よりも更に悪い運命しか辿ってねぇじゃねぇか!?」



  「俺は……俺は」



 「お前は無理だ!! 屑だ! カスだ!! 転生して別の世界で普通に過ごしてこの世界の知識を反則技で得ようとしたってなぁ……
 お前が『ジャギ』である限りあいつを救えやしねぇんだよ!!!!っ!!!」



  「……ジャギ……」


  「……何だぁ!?」


  怒鳴るジャギに、『ジャギ』は……『俺』は言う。何時の間にか包帯は外されて、額の傷は星のような跡を作っている。



 考えてみた。『ジャギ』の苦痛が、悲鳴が、怨嗟が、憎悪が流れ込みながら必死で考えた。

それはアンナの事。アンナの名前を最初に呼んだ事。アンナと最初に組み手の練習をした事。アンナと最初に約束をした事。
 
  アンナと一緒に夢を語りあった事。アンナに……アンナに俺が抱き始めていたこの感情さえも『ジャギ』の感情だと言うのか?


   違う、そんな事はない。俺は、あくまでも俺だ。『ジャギ』の魂はあるかも知れない。けど『俺』はどうあっても『俺』なんだ。

  アンナは俺に言ってくれた。どんなに変わろうと、俺は変わらないと……!



   ああ、そうだ。何を迷う必要性があったのだろう? そうだ、俺は行こう。『ジャギ』を倒し、アンナの元へ行こう。








  「ジャギ……『俺』の名を言ってみろ……!」






[25323] 第四十八話『極悪の蕾』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/20 11:45


  

    核の反動で混乱する町、それはほとんどが地獄絵図を描いている。



  「リッ、リーダー!? こっちは弾が尽きちまったぁ!!?」


  「焦ってんじゃねぇ! バリゲートさえ破れなくちゃそう簡単に暴徒は襲ってこねぇよぉ!! ほらっ! 替えの弾だ!」


  「へへ、ありがてぇ……! けどジャギには感謝しねぇと! 万が一核で混乱したら頑丈な建物使ったほうが良いって言われてたからなぁ!」

  
  「おうっ! だから俺達はここで暴動が治まるまで絶対にここを守れ! 俺達で妹とあいつの帰る場所を守るんだ。気張れよてめぇら!」

  
  『イエッサー!! リーダー!!!』


 グレージーズの襲撃に遭ったリーダー達。いち早く危険を察知したリーダの機転と、ジャギの助言の甲斐も相まってすぐに拠点
 へと信頼できる仲間を全員集めると襲撃にすぐ応戦したのだ。


  (……アンナとはタイミング悪くはぐれちまったからな。頼むぜジャギ……妹を前みたいに救い出してくれ……頼むぞ!!)


  二人の安否を気にしながら、周囲へと激励をリーダーはし続ける。戦いは始まったばかりなのだ。










 舞台はヘリポートの屋上。ジャギと俺は睨みあいを続けていた。

 「……面白ぇ、……まぁ俺様を殺せば確かに戻れると思うぜ? ……そらっ」


 腰に提げたショットガンを俺の足元に投げるジャギ、馬鹿にしたような口調で俺へ言った。

 「こんな物はもはや必要ない……」


 「……そうかよ? なら俺が使っても構わねぇよな」


 「……使え、無理をするな」


 そう意地の悪い笑みを浮かべて口にするジャギ。……楽しんでやがる、こちとらジャギと遊んでいる時間はねぇってのに……!


 ソード・オフ・ショットガンの引き金を引く俺。無論、先ほど蹴りを喰らわれた時に秘孔を突かれた訳でないのでこちらに銃口は向かない。

 余裕な雰囲気で腕を組み俺を見ているジャギへ、俺は引きかねを引いた。





                           ……カチ、カチ。





  「……イーヒィヒヒ!! これは何だ? うん?」

 悪戯が成功したように銃弾を見せ付けるジャギ、……これ位は想定済みだ!


  俺は気を巡らすと、ジャギの顔目掛けて声を放った。



           『ぶち抜いてやるっ』


  



        ……カチ                    ……カチ




  「……!? 何で『気』の銃弾が??」


  俺の焦り声にジャギは呆れた声を上げて、衝撃の言葉を口にした。



  「当たり前だ……。てめぇの銃弾を気で操作したのも。気の銃弾を発射させたのも全部俺がやったんだからよ」


  その言葉に驚愕する俺。ショットガンが手元から零れ落ちる音が耳元に木霊しながら、ジャギは説明を続けた。


 「本来『気』は非情でなければ身につけられないが、北斗宗家並みの才能か血筋がなければもっと使えねぇってお前漫画で知ってるだろうが?
 ……もっともてめぇは都合よく……いや、仕組まれたのか? まあどっちでも良いがその様子だと忘れてたみたいだがな……」


 「……だが良かったな? 俺様さえ殺す事が出来たらそいつも以前のように使えるぜ? この北斗神拳伝承者の俺に『情』なんてもんは
 欠片もあるはずがねぇからな! お前も願ったり叶ったりだろうが?」


 嫌な笑い声、そして嫌な顔つき。俺は精神を落ち着かせて構えを取った。……『羅漢の構え』を。それを見てジャギは鼻息を呆れつつ出す。



 「……また『羅漢の構え』かよ。いいぜ? お前がそんな付け焼刃の北斗神拳で俺様の邪狼撃を防げると思ってんなら……なぁ!?」



   不意打ち気味にジャギは南斗邪狼撃を繰り出す。防ぐ事も出来ず未だ先ほどの腹部の衝撃が疼く腹に鋭い突きが当たる。……思わず嘔吐した。



  「……ぐぇええ!……!?」


  「だから言っただろうが! 手加減しなけりゃ今頃てめぇの腹部は俺様の拳で風通しの良い穴が出来ているはずだぞ! 感謝しろや!?」



  ズキズキと痛む腹。もう立ち上がりたくないと体が訴える。けれど……アア、けれどもだ……! 『アンナ』の笑顔が俺を動かす……!



  「……『羅漢の構え』……!」




  「……貴様……!」



  ジャギが纏う殺気が増幅する。けれども俺は負けれない。負けてしまったら、『また』アンナを絶望へ堕としてしまう!



  「……いいぜ、てめぇがそこまで調子に乗るならよ。こうだ……」


   そう言って復元したガスタンクから石油を垂れ流すと、持っていたマッチでヘリポート全体が火の海へと包まれた。
 ……いや、火以外にも白く小さく輝いている光が見える。ちょうどジャギが立つ後方で点滅している。……あれが現実への出口だ。


  「……次で終わりだ。俺様の『南斗邪狼撃』か、お前の『北斗羅漢撃』か……あと一つ付け加えるとな……てめぇの体、ジャギの本当の
 体ではないんだぜ、知っていたか? ……どうやら気を上手く扱わしてやろうって事でどっかの北斗の血筋の体を赤ん坊の時に融合させて
成長させたらしいぜ? ……違う世界の俺とは言え気分が悪いもんだよな? おい」


  「そんな下らねぇ話しはいい……。さっさと来いよ……ジャギ」


  「……そうかよ。……準備は良いか? 『ジャギ』」


 南斗邪狼撃の構え、北斗羅漢撃の構え。


 一人は愛する者も涙する者すらなく、ただ世を唾棄すべき物と嘲いつつ死した。

 一人は死して愛と涙を知り。世を呪いつつ再来と救世の未来を願いつつ生きた。

 一人は幽鬼として願う。ただただ、世界にいる憎むべき者に絶望が下される事。
 一人は修羅として願う。ただただ、世界にいる愛すべき者が救世を下される事。


  どちらも真逆ながら純粋にそれを願っていた。ただどちらも生き方は逆だった。



  「……ああ、後もう一つ、言うことがあった」

  「なんだよ……喋っている間に燃やされるぞ……てめぇ」

  「それはお互い様だろ? ……お前の好きな奴よ、知っていたか?」


  






           
             


        「『そいつ』もどうやら転生してる身らしいぜ?」









  
   「なっ?」

  思わず崩れる構え。それを口元を歪め哂い好機とばかり叫びジャギは言った。


  

  「かかったな……!                  南斗邪狼撃!!」





  しまった、と思った時は手遅れ。体を焦がさんと包み込もうとする炎を切刻んで消しながらジャギの突きが迫り来る。




   ここで死ぬのか?   ここで終わりなのか?     俺は……                  俺は……!!








      




     俺は……アンナに……未だ何も伝えてねぇじゃないか!!!






[25323] 第四十九話『極悪の根』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/20 21:41

(part???)


  最初に物心ついた時に覚えていた風景は。森林を抜けた先にあった小さな草原。それはすぐに私の秘密のお気に入りの場所になった。

  小学生、中学生、高校生に成長。父と母に私を溺愛する兄に育てられ私は不自由なく幸せに過ごしていた。……何の不満もない日々。
  そう、何の不満のない日々なのに、私の心には何だか何時も穴が開いているような感覚がぼんやりする時に時折感じられた。

  きっとこれは誰もが感じる物なのだろう。私は自分で納得しつつ高校でも友人を作ってそのまま大学へと進学する。……そんな時だった。

 切欠は日本のオタク文化が好きな友人が持っていた漫画。結構奇抜なセンスの絵に暴力描写が多い作品。私は最初それに目を通した時は
 少しだけ引いたけれど、その作品の中に一人だけ目を惹く人物がいた。

 奇抜なデザインのヘルメット。それは主人公に倒される悪役の一人。何の変哲もないストーリを盛り上げるためのやられ役の一人。

 だけどそれを見た瞬間。何故だが胸が締め付けられて……私はネットも通して全作品を購入し、スピンオフの作品も病的に購入した。

  


        ……そして見つけたのだ。     ……『貴方』を。



 その作品で『わたし』は輪姦され死ぬ寸前までの描写が描かれていた。それは拙い絵のはずなのに一瞬現実的な嘔吐感が迫るほど
 鮮明に自身の記憶がフラッシュバックして襲い掛かった。
 震える腕を押さえつつページを巡る。そしてその場面を差し掛かり、私は驚愕した。





  ……私が最後に出会えたと思う『あなた』は『あなた』でなく。『あなた』は私と最後に言葉すら交わせなかった真実に。





  気がつけば私は秘密の場所へ赴き号泣していた。家族に心配される程私の顔は家に帰った時は酷かった。……でも私はこの時決意した。



  もう一度『あなた』に会いたい。もう一度、せめて今度は『あなた』へ好きだと告げたい。……私はそう心から魂から願った。






  ……私は別段クリスチャンでも無かった。教会へ礼拝しにいった事はあったけどそこまで信仰が深い訳ではない。


 けれど、私の祈りは通じたらしい。気がついた時私はあの時の如く、兄の背中にバイクで走っていた。

 そして何日が町を走り……           やっと      「あなた」がいるのを見つけた。


 あの時不審に思われるほど私は顔から喜びを隠せなかった。当たり前だ、ようやく出会えたのだから、ようやく再会したのだから。

 

 ……「あなた」も以前と様子は何処か違うのは知っていた。もしかしたら別の人なのかもしれない、私の事など何とも思わないかもしれない。


 それでも「あなた」に「わたし」は全てを捧げる。「あなた」が「わたし」を呼んでくれた時にそう誓ったのだ。

 これから「わたし」は『アンナ』として振舞おう。何時か「わたし」で振舞えるその日まで。……だからこそ、……だからこそ……!!







  「ヒッヒッヒヒひ……!  迷子の迷子の子猫ちゃんは何処でちゅか~!? 細切れにしてあげまちゅから出ておいで~!」

  「そうだぜ~! さっさと出て来いよ! もう袋の鼠なんだからよぉ売女がぁ!! さっさと出て来やがれや!!」



  





  



       ……「あなた」が「わたし」を見つけてくれるまで、「わたし」は生き延びて見せる。












  迫り来るジャギの手刀。あと十五cmぐらいか?  そんな冷静な思考の片隅で走馬灯のように今までの風景が思い出されていた。


  ケンシロウに勉強を教えたこと。ラオウとの組み手の猛攻で一度も手を出すことなく気絶した事。トキと論議を交わしつつ秘孔の研究をした事。
   ……残り十cm。
 リュウケンに見守られつつ重しの服で走っていた事。アンナと初めてバイクで運転してリーダーに見つかり叱られた事。
   ……残り八cm。
 シンと組み手の最中、余りに白熱しすぎてフウゲンに共に叱られた事。ジュウザやアンナと共にケンシロウとユリアへ悪戯した事。
   ……残り五cm。
  様々な出来事。本来在り得るはずはなかった出来事。泣きたくなるぐらい幸せに思えていた日々を   『俺』は失くすというのか?



  ……だ            ……やだ         ……嫌だ        ……嫌だ!!      嫌だ!!!




 『ジャギ』なんぞどうでもいい! 『俺』はこれからアンナと一緒に歩んで生きたいんだ! 



 頼む!!    『俺』の体よ今だけ力を貸して欲しい!!    『俺達』がきっと幸福で包まれる華となる為に!!



                    ……『幸福の華』とならんが為にこの拳よ光を超える程の疾風の突きを繰り出してくれ!!







        



                     『北斗羅漢撃!!!!!!!』








   ……刹那、炎が一瞬揺らめきかき消えそうになった。



  ……ジャギは腕を突き出し邪狼撃を繰り出したまま硬直。そして『ジャギ』は片足を突き出し羅漢の構えのまま硬直していた。









                       ……最初に動いたのは『ジャギ』だ。






   
 跪く『ジャギ』。その体の両脇からは血が流れている。……致命傷か? いや、……未だ余裕はある。……ヘルメットのジャギは




                   ……ピシッ



  「……やりゃあ出来るじゃねぇか」




                  ……ピシッピシピシ……!!



  「そうだ……てめぇに足りないのは『非情』だ……あの俺を殺した糞野郎と同じとはな……因果なもんだぜ……自分を殺す事で
 てめぇはようやく半人前だ……どうだ? 今の気持ちはよ」


     喋りながらもヘルメットの皹は広がっていく。業火がジャギを包みながらジャギは明日の天気を占うような口調で『ジャギ』へ告げた。


  「……憎み、恨み、妬み、嫉み……『お前』はどうやら最後の最後で捨てれて良かったじゃねぇか……とっとと行けよ? 
  何もたもたしてやがる? 惚れた女の元へ行くんだろうが」


  
  振り返る『ジャギ』。疲弊しながらも、『ジャギ』は何故だか理解していた。ジャギは『俺』に羅漢撃を習得させたかったのだ……と。

 
   「……ジャギ、お前……」



  

   「あー!! ったく五月蝿ぇ野郎だ一々!! さっさと行けよ!? お前は何で最初に走る練習してたんだ!?  えぇ!?」



   「え……」






                   「『あいつ』を今度こそ助ける為に早く走れる為なんだろ? 馬鹿が!!」







        ……ああ、そっか。      ……そうだな『ジャギ』    『俺』……馬鹿だったよ。





  「……行ってくる……もう、二度と会えないのか……な?」


  「だろうな。こちとら清々するぜ、クソガキのお守なんざ」


  「……ありがとな、ジャギ……」

  とっとと行け……。 そうぶっきらぼうにジャギは言い残し……   業火の中へ飲み込まれ見えなくなった。



  ……待ってろ、今すぐ行く                                         アンナ













 「……ギャハハハハ!!! もう逃げられないなぁ~おい!? どうした!?  命乞いして俺様のしゃぶれば少しは寿命も延びるぜ?」

 「ヒヒヒヒヒヒ!……!! まあ、てめぇが死ぬのは決定事項だけどな! ……気に食わねぇ目つきしやがって! 
 てめぇ今の自分の状況わかってんのか!? 今からてめぇは俺達に犯されてその後指を一本一本切った後、てめぇの大事な部分切り落とすからなぁ!!」


 目の前に迫るモヒカン達。


 折角「あなた」から貰った手甲も身を防ぐのに壊れてしまい、私の体は長時間の抗戦で満身創痍だ。



 でも未だ私は前のように穢されてない。未だ前のように弱いままではない。


 死ぬ一瞬まで私は「あなた」が来るのを信じている。

 「あなた」の名を呼び続けて見せる。








  「……ギ」

  「あぁ? 今更遺言でも吐く気か? いいぜ聞い」

  「ジャギ」

  「あぁあああん!!??」

  「ジャギ……!!!」

  「……!!  この状況で死んだ野郎の名前なんぞ吐いてるんじゃねぇよ、このクサレカス女がああああああぁぁああああ!!!!」







                            パアァン!!!






   「……あ……び……づ?」

  
  アンナに飛び掛ったモヒカンは、訳もわからず脳天が破裂したまま倒れる。
 そこへ降り立つ特徴的なヘルメットの男。両手首には数珠と特徴的なブレスレットを嵌め、ショットガンを提げている男。



  男はヘルメットを外し、それと同時に緩くなった包帯は解け男の顔は露になった。




 それをもしも未だ閻王が生きていれば驚愕しただろう。その顔は髪の毛を幾分伸ばし、額に星の傷を作った若い霊王の顔をしていたのだから。





  
 いきなり建物の中へ入ってきた男に混乱するモヒカン達。アンナの元へ降り立った男は、アンナを抱き寄せ名前を連呼した。



  「アンナ」  「……ジャギ」  「……アンナ」   「……ジャギ!」  「アンナ!!」   「ジャギぃ!!!っ!」


 抱きしめあう男女。お互いの顔には涙が流れ、どちらも、もう何処へも行かせないとばかりに強く抱きしめあっていた。
 そして掠れ声で男は、その女へ強く強く囁いた。



         「……アンナ! アンナ、俺は……お前の事が好きだ……! 愛している……!!」


  その男の言葉に、女は泣いてぐちゃぐちゃの顔で嬉しそうに、そして幾許かの怒りや哀しみなどの感情を含め言い返した。


            「ひぅっ……! うっ……!!  言うのが、遅いんだよ……馬鹿ジャギがぁ……!!」







   「……てめぇら何を俺等を無視してやがんだぁ!!?? そっちの男はてめぇの新しい男か!? 助けに来たって事かい!!」


  モヒカン達にはわからない。それが『ジャギ』であった事は。だが、そいつらは自分達の命が風前の灯である事に残念ながら気付けなかった。


  「……アンナ、すぐに終わる。……待っててくれるな」

 抱きしめながら頷くアンナ。しかし、離れないでね? と懇願するアンナへと、ジャギは力強くこう返した。

  「当たり前だろ? ……いいかよ、アンナ……俺様は誰だよ」


  「……! うん……そうだね!!」


  向日葵の如く微笑むアンナの笑顔を久しぶりだと感じるジャギ、そしてモヒカン達へ振り返った表情は悪鬼の如き笑みへ変わっていた。



  「よう……随分……舐めた事してくれたよな? 約束を忘れたとは言わせねぇぜ……?」


  「ハァ!? て、てめぇなんぞ知るかよ!!」

  「……い、いや待てよ? そ、その額の傷、も、もしかして首領があの野郎へ放った銃弾の跡じゃあ……!!?」

 
 ざわめくモヒカン達、だがもはや手遅れだ。モヒカン達は世紀末誕生の際に一番手を出してはいけない人物を手にかけようとしたのだから。



  ジャギはモヒカン達全員へ木霊する声で             叫んだ。







 
「……   お  前   ら !!!!    俺   の   名  前  を  言  っ   て   み  ろ !!!」





   






  あとがき


  
  トキの話は第二部で紹介します



  トキ好きの皆さん  怒らないでね(´・ω・`)



  まあもっともこの作品が好きな人は全部のキャラクターが
 好きだと思ってくれると信じてる……(´・ω・`)





[25323] 第五十話『極悪の華』【第一部完】
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/21 09:35


    
   


   その台詞を叫んだ瞬間、男の周囲の散乱物は吹き飛ばされていた。まるで見えない力を男が身に纏い散乱物を飛ばしたように。



  その咆哮に怯えモヒカンの一人は錯乱しかけるも未だ残っている理性で全員へ叫ぶと命令した。


    「なっ、何してやがる!!!?  あ、相手は一人だ! 全員で蜂の巣にしろやあああああああぁああ!!」



   その言葉に従ってモヒカン達は刃物、銃弾、槍、鈍器。ありとあらゆる自分の獲物でその男を亡き者にせんと飛ばした。



 だが、男は普通ではなかった。男は何かの奇妙な構えをする。そして背後に居る女を傷つけぬ意思を体で表示し、見えない壁を作りつつ唱えた。





   『二指真空把(にししんくうは)』





 その瞬間にだ。男に迫っていた全ての武具は停止したかと思った瞬間、逆再生のようにモヒカン達の元へその凶器が返っていった。




    「ぶげ!!?」    「へばっ!?!」       「ぎょぶふ!!」  「もがび!?」   「ぐれぇげぇ?!!」




   運の悪い者達は顔と心臓に投げた銃弾や刃物を受け死に絶えた。その光景に慄き「化け物……!」と呟くモヒカンへ男は呟く。




 「……俺が化け物なら……てめぇらは『餓鬼』や『畜生』共だ。……『前』は俺は甘過ぎた。……今回はお前らを一人も逃がしはしねぇ!!」

 男の殺気と怒気はモヒカン達からは男が巨大化するような錯覚を見せた。それを見て逃げ出すモヒカンを見て、男は叫んだ。




           ……言っただろうが!!っ!!         『逃げられんぞぉ~!!』



 男が向けた銃口は逃げるモヒカンの上を通過する。しかしまるで意思を持つかのように銃弾はモヒカンの頭上で一瞬に降下し、脳天を貫いた。



  「……あ、わわわあわあわ……に、人間じゃねぇ……!!  あ、悪魔だ……!! な……何でだ!? お、俺達の他だって
 盗みやったり女を犯す奴がいるじゃねぇか!! ……何で俺達だけ」


  「ああ、そうだよ……」


                                 ガチャ


  モヒカンの頭に突きつけられる銃口。額の星のような傷が生生しく輝きながら男は言う。


  「てめぇらのような奴等が、これから生き延びていく……てめぇらのような奴等がこれから先暴力で時代をのさばっていく……!!
 ……だからこそ俺は悪魔になってやる。てめぇら全員を屠り、俺が愛する奴だけを微笑(わら)わす時代を作ってやる……っ!!!」



  
  そう魂からの独白を発する男に、モヒカンは恐怖で最後に漏らした言葉はこうだった。



   「ひ、ひぃ悪魔が微笑んで」



   『ぶち抜いてやる!!』




  見えない銃弾は、恐怖に染まった男の顔面を吹き飛ばした。









 すべてのモヒカンを消し飛ばしたジャギは、隅の方へ移動させていたアンナへと心底心配した声をしゃがみつつかけた。

  「……アンナ……!! ……平気か……!?」


  「うん、言われた通り目と耳瞑ってたよ。……これからどうするの?」


  「ああ、とりあえずリーダーのも……!?」


   迫る殺気、反射的に腕を振るうジャギ、そして次の瞬間にはジャギの腕には鋭い矢が突き刺さっていた。


  ジャギの名を叫び悲鳴を上げるアンナ。ジャギは放った人物を睨みつけながら名前を呼んだ。



   「……シバ!!!っ!」             「……久しぶりだなぁ!! 北斗の屑野郎……ジャギ……っ!!!」



   血の飛沫を上げジャギは矢を抜き取る。そして恐ろしいほど低音でジャギはシバへと言い放った。



   「……これから貴様を生き地獄……いや、それすら生温ぇ……!! 本物の地獄を味あわせてやる……!!」



   「……面白ぇ……俺様の進化した白蛇拳……受けて見やがれ……!!」


 怨嗟と憎悪を含んだ声を上げるシバ。二人は場所を移動すると、運命の悪戯か? 世紀末発生の荒れ狂う天候の中で対峙しあった。


 荒れ狂う風が吹く。腰へ提げた双剣を煌かせシバは歪んだ笑みで言った。

 「……その銃を使おうがな。俺の白蛇拳は銃弾すら弾き飛ばせる程に成長したんだ……!! てめぇなんぞ……」


                            ガシャ……!


 「こんな物はもはや必要ない……!」


 ショットガンを地面へ投げ捨てるジャギ。それは真の意味であり、殺意の意思を裏返しで秘めた意味でもある。銃でお前は殺しはしない、
 アンナを絶望へ陥らせようとしたお前は俺の拳で殺す。その意思がその言葉には秘められていた。


 だが、シバには気付けない。挑発だと単純に思い怒気を膨らませたシバは双剣を構え飛び交い、構えないジャギへ飛び交い修練の拳を振るった。






                          『白蛇獄水!!』



 それは刀剣。白く煌く刀身のリーチを活かし蛇の如く相手へ投げ体を両断し死に至らしめる白蛇拳の最終奥義。


 勝った……!! シバは確信した。だが……。



  
 「……ジャギ……飛んでる」


 見守っていた女の視線と声に、シバは投げた状態で上を見上げる。そして驚愕と恐怖で顔を凍りつかせた。
  ジャギはヒバリの如く空を舞い、以前モヒカン共を亡き者にせんとした拳を今存分に自分達を絶望へ陥れた全ての憎悪を込め放たれる。







                          『北斗千手殺!!!』






  大量の秘孔を突かんと猛打する拳。その拳の嵐に一陣の白蛇は衝撃で耐え切れず地面へ体勢を崩し無様に倒れた。
 だが、シバは自分の体に痛みも異常も起きていないと感じ、すぐさま起き上がりジャギへ振り返り言葉を投げかけよう……とした。



      「はっ! 何処も痛くねぇじゃ……ね、べ……? 出で出でヴぇヴぇヴぇヴぇ??!!??!!」



  「……龍頷(痛覚神経を剥き出しにされる)頸中(強烈な痛みを持続的に感じる)下扶突(強烈な痛みを持続的に感じる)を突いた。
 ……暫くてめぇの罪を後悔しろっ! ……そして……」


  ジャギは持っていた針を気を纏い投げ、ある一箇所へと刺した。


  「……命門(突いてから一分後に死ぬ)を突いて……終わりだ」



 
 

 





  



 ……一つの燃え盛るビルがあった。そのビルから炎に包まれた男が現れ……やがて柱の影にある花へと幾分が火が消えた状態で座った。




 「……よう、……これで俺の役目も御免だな……ようやくだ」


 「……あの野郎、間に合ったかって? ……はっ、当たり前だろうが? あいつはこの日の為だけに鍛えたんだろうからな。
 だがこれからだろ? あいつの兄弟は俺の時のように野望を実現する為に動く。あいつはどうする気かね……ヒヒ! これからが本当の
 地獄の始まりよ……! 俺様は地獄の底で見守るぜ……」


 そう花に語る男の下へ、一匹の犬が近づく。……その犬は数年ほど前に行方を晦ましていた犬のリュウであった。
 そのリュウは男へ近づく度に人間の影が濃くなり、やがて砂塵が吹いた後には背の曲がった老人の姿となって立っていた。


  『……勤めをちゃんと果たしたようじゃな?』


  「……やっとお迎えかよ……遅ぇんだよ」

  
  『……ふぅ~、何故お主のような者が北斗の星を胸に宿しているか不思議じゃわい。……お前さん、今回の働きもあってか
 等活地獄へ降下。そして刑期も減るようじゃわい』

  「……けっ、どうせ一億年が九千万年に減るぐらいだろ?」

 
  『人間時間で27億270万年じゃ……。お前さんの罪の重さを考えるとこれ程の減刑は初めてじゃぞ? わしも目を疑ったわ……』


  「とっとと連れて行けよ……。……あ、一つ良いか?」

  
  『うん、何じゃ? ……望む物があるのならば、罪なき物じゃぞ?』


  「……こいつ、俺がいなくなると一人ぼっちだろ? どうにかしろよ」

 
  『……うん? ほぉ、これは……。……良し、ならばお前さんの側へ置いてやれ、世話の間は刑罰もないように取り計らってやる』

  
  「そうかい、そうかい、ありがとさん」


  『……ったく……難儀な男じゃ』



 体が下へ下へ引っ張られる感覚が迫りながら、男は隣に咲く花の根元を守るように手で覆いながら、小さく最後に呟いた。



 「……せいぜい抗って見ろ…………クソガキ……」













  「……よしっ、荷物は全部積み終わったな?」

 寺院の階段近く。核の影響で半壊した寺院が上を見ると良く見渡せる。
 
 ヘルメットを被る『俺』。そこに「   」はいない。


 バイクには必要な弾薬や針、医薬品は重量オーバーぎりぎりまで積み、ヘルメットの中でやり過ぎたか? と苦笑する。


 これから宜しく頼むな。と、リーダーから貰ったバイクに挨拶している時、「   」が颯爽とバイクに乗って現れた。






  「お待たせっ!!  ジャギ!!」




 向日葵のように笑顔で俺を見る「アンナ」。その腰には俺の命令で扱いやすい軽い拳銃を二丁。そして新しい手甲を身に付けている。


  「……カウボーイ見たいだな。改めて見るとよ?」


  「……そう言うジャギはどう考えてもヘルメット被っていると悪人にしか見えないけど?」


  「うっせぇな……被ってないと色々困るんだよ……」


  そう弱気な口調の俺に、アンナは小さく笑い声を囀ってから、こう慰めた。


  「……ふふ、じゃあジャギの顔格好良いから、私だけにしか見せないようにするって事で!!」

  その言葉に呆気に取られる俺、微笑むアンナに俺は釣られて微笑むしか出来ず、だからこそ穏やかな気持ちでこう返した。







   「……アンナ、『愛してるぜ』」


   「うんジャギ、私も『愛してる』」




 これから先、本当の世紀末の困難が俺達を襲ってくるだろう。

 死にそうな目に、危険な目に、アンナを巻き込んで……けど、俺はもう昔の『俺』ではない……今の『俺』は『アンナ』がいる。


  アンナの手を一瞬強く握ると、バイクのハンドルを強く握って輝く夜空へ叫んだ。




  「……ぶっ飛ばすぜ!!   アンナ!!」


  「うん! ぶっちぎろう!! ジャギ!!」








           


          『あの北極星を目指して!!!』











 あとがき



 色々と批判もあるだろうけど第一部完。

 トキはどうなった? とかリュウケンとラオウの闘いは? とかは
明後日から南斗邪狼撃(一日一話投下)で執筆します。
皆様、ここまで読んでいただき真に有難うございました。
 これから世紀末編へ突入しますので暖かく見守って下さい。








   





   



  ……もはや北斗百烈拳を放つ余裕しかない(´・ω・`)



[25323] 第五十一話『秘孔を突かれた男。その名はジョニー!?』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/23 18:57
         


                (ゝ∀・*)ノやぁ    ジャキライです。


      (っ´∀`っ)  今回は今までの人物設定、及びこれから登場する人間の事も兼ねて紹介します。


                 
                (σ・∀・)σ 勿論最後には第一部最終回裏で何が起きていたのかも説明するね









                 (´;ω;`)  ……じゃ   どうぞ







              



  ジャギ(極悪の華)

  この作中の主人公。自分の頭崩壊エンドと、拳王による塵エンドを防ぐ為に第二部でも必死に運命と闘っている。
  現実世界では大学生と過ごしている男であったが、遠い前世では『極悪の華』のジャギであった事が判明。
  何の因果がアンナの死の真相を知り神と相打ちになる覚悟での直訴が功を成し『極悪の華』世界で人類滅亡まで地獄で刑期を終了すると
  新世界で微生物から動物まで転生、そして主人公の体になってもアンナを救うと言う目的だけは決して忘れる事はなかったヒーロー。
  アンナの最初の悲劇は回避出来たが、『ある人物』との対峙から運命から未だ逃れられてない事を知る。その事実を知ると
  前世の感情と今の感情を複雑に絡ませながら、愛する人間を救うために『ある決意』をする事になる。
 原作とほぼ同じ衣装。両手首に数珠とアンナから貰ったブレスレット。そして頭にバンダナを巻いている霊王顔。
 蒼天の拳の霊王の顔になっているのは神のせめてものサービスであるらしい。


  アンナ

 『極悪の華』 作中のヒロイン。
 
 世紀末による、ある意味災害で死亡したジャギの恋人。『ある人物』との出会いからジャギが自分を守る為に『ある決意』をする事を
 感じ取り、自分でもジャギを守る事が出来る事がないかと必死で探している健気なジャギの未来の姉さん女房。
 第一部でジャギと同じように転生をしていた事が判明。理由は自分が最後に出会えていたと思ったのがジャギではなかったと言う理由から。
 現実世界で読んだ北斗の拳の作品の知識と、鍛えた南斗聖拳と装備している拳銃やジャギからの受け売りによる『生き残る為に何でも使う』
 精神で世紀末が降り注ぐ運命の試練から抗おうと決心している。
 北斗の拳の描写だと、健康的で少し瞳が大きいアイリと言う感じ。特徴的なバンダナと赤いレザー。二丁拳銃とシングルアクションアーミーを装備。



 『ある人物』

 占い師、これだけで北斗の拳ファンからはだいだい解ると思うので以下省略。
 ジャギとアンナにある啓示を報告し、遠い場所で二人の安否を祈っている。
 この世界が普通の北斗の拳世界と違う事を知る貴重な人物。原作とのずれによる起こるであろう事を憂いつつ二人の動きを見守る。


  
  サウザー率いる南斗聖帝軍

 師オウガイのバットエンドを回避した事により、オウガイの意思を託され(汚物が)理想の鳳凰として世紀末を守護せんと活躍する。
 『仁星』のシュウを拠点での指導者として任せ、鳳凰拳伝承者に仕立て上げようとシュウの息子のシバを乱世へ連れ鍛えている。
 オウガイが見たと言う予知夢の事も考慮に入れ、ラオウの動向を警戒しつつユダの最近の挙動不審も王者の貫禄で観察している。


  ラオウ
  
 近作のラスボス。原作と等しき天を目指す覇者だが、『ある女性』と遭遇した事がラオウの心にとある変化を僅かながら起こしている。
 この作品でもユリアを手に入れようと考えているが、自分の側近の双剣のレイナが自分に特別な想いを抱いているのに気付いている。
 天を握ると言う野望は変わらないが、その野望の事を考えるたびに、昔言われたある出来事が離れない世紀末覇者ラオウ。



  アミバ
 
 ある意味今回の作品の一番の敵。
 昔レイにより手酷くやられた事や、奇跡の村でトキとも同じように対峙した事もあって深く劣等感などの負の感情を抱いている。
 拳王軍に参入し、自分を馬鹿にした奴達に復讐、願わくば世紀末で思い通りに出来る力を得たいと考えている。




  ジャギ(北斗の拳)
 原作最後でケンシロウに怒拳四連弾(どけんよんれんだん)を喰らい、今までの悪事を償う為等活地獄で刑期を過ごしている。
 この作品では孤児でスラムの生活をしている時に不良をのしていたのをリュウケンに見込まれ伝承者候補になったと言う設定。
 地獄から引っ張られ極悪の華のジャギに『非情』さを教える為、数年間影の師として『ジャギ』に南斗邪狼撃を極めさせた。
 夢に近い精神世界で咲いていた花を共に、地獄で『ジャギ』がどう運命と闘うのかを嘲笑いつつも見守っている。










   --------聖者の誕生--------



それは突如の地鳴りであった。ケンシロウとユリアを連れて『ある荷物』を抱えてシェルターを目指す私達。
 目指す道中逃げ惑う恐怖を張り付かせた人々が脳裏に焼きつき、私はこう言う時何も出来ない自分の無力さを噛み締めていた。
 
 「……兄さん、早く、行かないと」

 「……わかっている」

 駆け足でシェルターを目指す三人。私はある程度平気だが、女性でもあるユリアには、そこまでの距離も辛く荒い息遣いが耳に届いていた。
 平気か? と目線を向ければ、その視線に力強い笑みを向けるユリア。……やはり強い人だ。私の心には少しだけ報われぬ痛みが走る。

 そして辿り着いたシェルター、そこで見た光景はある意味では私達には絶望であった。

 「す、すみません……! こ、この中には後一人……いえ限界で二人までです! それ以上乗れば扉が閉まらなく……!」

 不安で怯え泣く子供達を抱かかえる年長の女性の言葉に、唇を思わず噛み締めるケンシロウ。そして自分でも不安であるだろうに
 その肩をしっかり支えるユリア……。その光景に神秘的な雰囲気を思うと同時にジャギから『ある物』を渡された際の場面が思い出された。





 ……場面は核が落ちる三週間前、座禅を組み精神統一する私の元へ小さくはない荷物を担いできたジャギ。

 私はどうしたのかと尋ねると、それにジャギは答えはせず荷物だけ投げるように渡してこう質問を返した。

 「……兄者、兄者はケンシロウとユリアに幸せになって欲しいと思うか?」

 「……何だいきなり? そんな事は当たり前だろう?」

 私が心中の深い所でユリアを想っている事はジャギも見抜いている筈、何故唐突にそんな事を尋ねるのだろうか? 

私の疑問を余所に言葉を続けるジャギ。その瞳は全てを見通しているように錯覚させる。

 「ならよ……。話しは変わるが、……これはトロッコ問題って言う倫理テスト見たいなもんだが……もしも、兄者とその二人がいて
 一人だけ犠牲になったとしたらよ……兄者は自分を犠牲にするのか?」

 私はジャギの意図は読めないが、その質問に真剣に返す言葉を探した。ジャギが無意味にそう言う質問をする事はないと思ったからだ。

 「……するだろうな。私も犠牲にはなりたくないが……二人は愛し合っているのだから」

 「……兄者も男前だから何時か好きな奴と巡りあうとしてもか?」

 「プッ……! あ……いやすまない。……男前なんて初めて言われたな」

 私の思わず噴出した様子にも、ジャギは包帯の奥から苦笑いしか覗かせず、そろそろ私の元を離れる雰囲気が現れだした。

 「……その、よ。そう言う状況に陥りそうになったら『それ』を開けてくれ。あ、言っとくがユリアとケンシロウと一緒にいる時は
 必ずその荷物を持つようにしとけよ? それで危険な時だ。
 ……それ以外ではなるべく開けないでくれよ?」

 「……ジャギ? お前は何を……」


 『約束だぜ? 兄者』

 何故か、最後の力強い言葉に、私はジャギへ問うのを止めざるを得なかった。


 ……そして私は無意識に『それ』を開封し……見た瞬間、ジャギの思惑を理解し、私は二人をシェルターへ突き飛ばした。


 「……ト、トキ兄さん……!?」

 
……ケンシロウ、ユリア……すまない。

だが、詳しく話している時間はない。だ私は大丈夫だと言う力強い笑みを、閉める直前に見せる事は出来たと思う。
 頑丈な扉が閉まる音。それを確認し、地響きを立てて迫る死の灰の音が迫っているのを背後から感じると、急いで私は『ある物』を
 被った。……ジャギよ、お前の考えは読めたぞ? 私がもしコレを早く開けていれば他の者へ渡していたかもしれないからだな?
 私はそこまで分かり易い性格だったかな、と笑みを浮かべつつ『ある物』越しに死の灰が迫るのを視認しながらジャギの声が聞こえた気がした。



    『……あんたは何時でも分かり易いよ。今頃気付くとは……兄者、腑抜けたかぁ?』



    (……ふっ、ジャギ。……その通りかもしれんな……)


 死の灰に飲み込まれながら、空耳かも知れぬジャギの呟きに、トキはそう最後に頭の中で言葉を返した。









     -------二週間後-------




 ……放射能値が安全レベルまで下がるのが点灯ランプで表示される。

 そのランプの意味を理解した子供は喜びの声を上げる。けれど、ユリアは依然として暗い表情で俺の顔を見遣っている。
 ……大丈夫だ。 俺は力強くそう頷くと、ユリアは少しだけ口元に笑みを作る程は元気が出たらしい。……俺は扉を開ける為一呼吸置く。
 
 ……扉を開けた瞬間、そこには倒れ付す兄の姿が飛び込むかもしれない。いや、それよりももっと悪い光景が……。
 俺はその最悪の想定を振り払う。大丈夫だ……最後に兄が見せた笑みは達観の笑みでなく、何かを秘めた微笑だったではないか。

 引き摺るようにして扉は開く。白い死の塵が一瞬舞い上がりかけ、すぐに落ちた。……扉を開けても、誰もいなかった。
 
  ……!? ……いや、待て! 何か引き摺るようにして出口へ向かった痕跡が見える。隣へ来ていたユリアも瞳に期待の光を宿す。
 ……俺は頷くと、ユリアを連れ外へ向かった。……もしや、もし俺の期待が正しければ……! ……あの外の向こうには……!!





  ……外は荒廃。廃墟が点々と並んでいる光景にユリアが俺を掴む力は一瞬強まる。そして辺りを見渡し、俺は硬直した。






                        あれは……                    あれは……!!




    


                              「…………や、やあ…………!」




    照れた表情を見せながら、少しだけ頬が痩せこけているのが見て取れるも元気な様子のトキ兄さんがいた……!!


 ユリアと共に抱きしめつつ、俺は至極真っ当な疑問を口にする。……何故トキ兄さんは無事だったんだ?

 その俺の疑問に、一瞬詰まった様子を見せてから、トキは隣にぼろぼろになった袋状の物を指し、こう言った。

 「……ジャギが……ジャギが私に……『放射能防護服』を渡してくれたんだ」


 「……!! ……ジャギ兄さんが……! !?ジャギ兄さんは何処に!?」

 「それも含めて伝えたい事がある。……ケンシロウ……一先ず」

 「……?」

 「……生きて……生きてまたお前達に会えて私は幸せだ……っ!!」

 そのトキ兄さんの言葉に、俺は目頭が熱くなるのを感じながら、この優しい兄の体を思いっきり抱きしめた。







                              鉄の聖者       誕生











   


    あとがき



 




ジョニーは結局ケンシロウに秘孔を突かれたのでしょうか?

 私はそれを考えると五秒間眠れません(´・ω・`)





それと、その他版へ変更した方が良いんじゃ? って言われたけど
 どうするべきでしょうか? 皆さんのご要望に従うことにします。


 



[25323] 第五十二話『どんなに不器用でも変わらない』【第二部開始】
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/23 18:52

   
  

       「どうやら……! 天はこのラオウに生きろと言っている……!」









  北斗寺院のとある一角。その場所で死闘を繰り広げる、リュウケンとラオウ。
 七星点心を使いラオウに後僅かで敗北を付かせる一歩まで近づかせるリュウケン。だが皮肉にも、病はリュウケンの勝利を嘲笑った。


  
  「……神よ、今しばしの命を!」


  「褒めてやろうリュウケン! 我が拳の糧となるがいい!」

 迫り来るラオウの拳。その自身の命を刈り取ろうとする死の気配に、ただリュウケンが思うのは何か? その疑問に答えず、拳は迫る。

 



 ……いや、未だ神は居たらしい。その拳が後僅かでリュウケンに触れるか否かで突如の咆哮がラオウの拳を止めた。







 

                   



                       「ラオオオオオーーーーーーーーーーーウウウウウウ!!!!!!!」








  ピタ。 止まるラオウの拳。そして首を捻れば般若の如く顔を歪めたジャギが迫っていた。……後方からはトキの姿も見える。
 その光景に分が悪いと感じたのか興醒めしたのがわからない。だが、事実ラオウは止めを刺さず、リュウケンから身を引いた。


  「……命拾いしたなリュウケン。……我が授けた束の間の命、楽しむがいい」

  「……ま……て、……ラオ」










  (partジャギ)


  ……危機一髪だった!!


 リュウケンを横に寝かせながら未だ収まらない動悸を落ち着かせつつ思考するジャギ。
 アンナをリーダーの場所へと返し、無事に再会出来た喜びを味わいつつ一旦寺院へ戻る事にした俺。
   (リーダーは少しだけ右腕に銃創を負っていたが『こんなもん唾つけてりゃ治る』と余裕だった)
 道中に、核の被爆地に近かった場所から鈍い動きで歩いてくる防護服の人間を発見し、それがトキの兄者だと理解すると合流。
   (一応放射能残ってるといけないから少し離れてくれよ? と言うと何とも言えない表情が防護服から見えたのが印象的だった)
  そして寺院へ辿り着き、トキの兄者と(勿論防護服は脱衣済み)俺で師父の安全を確認しようとして、何とか間に合った訳だ。



 (……実際間に合った訳じゃないけどよ。けど……史実をかなり捻じ曲げない為には、俺には……俺にはこうするしか)

 「ジャギ……約束を……果たしに来てくれたのか」

 え? と俺が何とか出血だけでも止めようと針治療をしている最中に言葉を投げるリュウケン、そして微笑み言った。

 「……私を守ってくれる……例え他に何が含んであろうと……子に恵まれぬ私には……その言葉はとても嬉しかった」

 静かに涙を流しながら……『師父』は……『リュウケン』は呟く。俺は何時しかただじっと……動かず『父』の瞳を見ていた。


 「……ジャギ……私は北斗伝承者候補の中で……お前を伝承者にする気はないと思っていたと言ったら……お前は」

 「師父」

 『俺』は全部を『リュウケン』が言い切る前に、その手を握ると言った。

「俺……俺は嬉しかったよ。『師父』の拳を学べて、『師父』の学んだ事を一緒に学べて……俺、今まで幸せだったよ……」

 『俺』の名を『父』は呟く。何で今更なんだろう? 何故死の間際にしかこれ程赤裸々に伝えられないのだろう?
 この今伝える言葉は『ジャギ』の言葉か? 『俺』の言葉か? 考えている間にも握る『父』の手から徐々に力が失われていく。


 「……ジャギ、もはや……目も……霞んできた。……トキ、お前もまた私の息子。そして今はいないケンシロウも……私の」


 


  「…………私の…………」





 反射的に『俺』は『父』へ気を流れ込ませようと手を翳す。そしてトキも必死で脇で一たび力を与えようと秘孔を突く。
 それは功を成した。リュウケンは、父は生気を取り戻した瞳を浮かべ、二人へ微笑みながら今わの言葉を呟く。

 
 「……ジャギ、トキ……北斗の掟を忘れないでくれ。出来るならば……ラオウの拳を封じる事を……頼めるな」

 頼めるか? と聞かないのは、最後の最後に『リュウケン』が『師父』が信頼を見せる、精一杯の態度なのだろう。

 トキは力強く返事を返す。俺はヘルメットを脱ぎ捨て、もはや息子の顔ですらない事も忘れ涙を流しながら叫んだ。


 





          「ああ……ああ!! 約束する!! だからよ『親父』!! 死ぬなよ!!」







  魂からの『ジャギ』の懇願。それに最後に瞳を開き、『ジャギ』の頬へ手を伸ばしつつ穏やかに呟いた。



                      「……『息子』よ、すまない……すまない…………」








                                『ありがとう』








                   「……師父? ……師父……親父……親父……!! と、……う……さん」











  それは自分が少しだけ変えた史実の風景。そして最後に霞 羅門。第六十三代北斗神拳伝承者リュウケンは幸せだったのか?

 それは誰も知り得ない。だが、その最後の顔は眠るように穏やかでいた事をここに執筆する。

 尚、この世界の史実で居合わせた人物のトキは後に語る。

 あの時私はいなかった。いたのはただ愛を伝えるのが不器用な父と息子、その別れだけであり、私はいなかった……と。











  「……ジャギ、サザンクロスへと行くのか?」


  「ああ……準備もあるから一週間ぐらいしてからな。……兄者はどうする? いっその事伝承者になっちまえよ」


  そのジャギの本音なのか冗談なのか判別し難い問いに、私は苦笑を以って答える。

 「……いや、師父の決まりを破ってまで私は伝承者になろうとは思わん。……ここで苦しんでいる人達の救助を手伝ってから
 ケンシロウとユリアが戻ってくるのを待とう」

 「……兄者の事だから不眠不休で救助活動するんじゃねぇのか? たいがいにしておけよ? 折角死の灰被らずに済んだんだからよ。
 それが元で体ぶっ倒れたら本末転倒だろうがぁ」

 そのジャギの言葉に降参のポーズをとるトキ。やれやれとした表情をヘルメットから見せるジャギに、トキは鋭く切り出した。

 「……そう言えばジャギ。……何故私だけに防護服を渡したのだ? まるで予知していたかのように」

 「すまん、兄者」

 遮り謝罪の意を込めて片手だけを出すジャギ。辛酸を舐めたような声を出す。

 「……全部済んだら言う。……それで勘弁してくれねぇかな?」

 その雰囲気から聞かれたら困ると言う気を出されると、トキはもはや再度同じ問いで困らせる気にはなれなかった。
 ましてや方法はどうあれ、このどうにも威嚇するような格好をした弟は自分の命の恩人であるのだから……。……そういえば?

 「……もう一つ尋ねたい事があるんだが?」


 「あん? 手短に頼むぜ、アンナの奴へすぐ戻るって言ったから心配して……」

 「先ほどは状況が状況で細かく確認はしなかったが、お前の顔が変わって」

 


 「さいなら」

 


 「ジャギ!?」

 私の質問を最後まで聞かず、ジャギはバイクの排煙を多量に流しつつ私から去って行った。




                             ……まったく……困った弟だ……。




 ……ジャギ、お前と私が師父から承った約束……何時か果たす時が来るだろう。……我が兄との約束もある。


 



       ……それまで、少しであるがお別れだ。













 あとがき




検討の結果二月に入ってからその他版へ移る事にします。皆様もご了承下さい。






後某友人が『北斗の拳TS化したら激カワってボルゲだよな(笑)』って言ってた。






  ……あいつ北斗の世界でも最後まで生き残るんじゃねぇ?(´・ω・`)








[25323] 第五十三話『ドスジャギィ狩り装備』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/24 12:11
 
  

                   西暦199X年!    



                地球は核の炎に包まれた!!





                     だが!!!






                人類は死に絶えてはいなかった!!!!  










       ここはとある荒地、黒煙が立ち上っている村が見渡せる通路の横でいかつい格好のモヒカン達が騒いでいた。

 モヒカン達の周りに散らばっているのは強奪品の食料・武器・衣服などの生活に欠かせぬ物ばかり、奪った食料を片手に声を上げるモヒカン。

 「ヒィイイハアアァ!! 最高だぜ! 食料庫なんぞ洒落た物があったお陰で一ヶ月は当分食い物には困らねぇ!」

 「笑いが止まらねぇよ! あの村、今度寄った時にも襲おうぜ! ついでに良さそうな女もいたから次はよぉ……」

 「おお、そうだな!! 今日の所は欲張るといけねぇと思って物だけで我慢したけどよ。もはや俺達を邪魔する奴はいねぇんだもんな!」


 「ああ!! 今は俺達悪魔が笑う時代なんだぜ!!」


 哄笑を上げながら騒ぐモヒカン達。だが、最後の言葉を区切りに宴は終わりを告げる。モヒカン達のたむろする上方から、突如
 小馬鹿にしたような口調、それでいて上空に輝く太陽から降ってきたように声が上がったからだ。


「ふーん? それじゃあ悪魔退治をするのにこっちは別段理由は要らないよね?」


 その声に、誰だ!? と困惑の声と共にその声の持ち主の居る方向へと見上げるモヒカン達。
そこには、緑色のバンダナを巻いた金髪の女性。両手に拳銃を掲げながら不敵な笑みを浮かべてモヒカン達へ太陽を背に見下ろしていた。


 正体が女だと理解した瞬間。モヒカン達は下種な笑みを浮かべ口笛を吹きながら驚かせやがって……等と呟きつつ声をかける。

 「おい女! 何の用で俺達に用があるんだ!? あっ、食料だな!? それだったらてめぇの体で交換してもいいぜ?」

 そう厭らしく提案するモヒカンへ、金髪の女性……アンナは返事を返す。     
 「う~ん……折角のお誘いだけど、私、あんた達見たいな集団が死ぬ程嫌いなんだよねぇ……。だからさ……」

 ガチャ……構えた拳銃を一人のモヒカンの頭へ定めつつ、悪戯気な口調で言った。

 







                       「鉛の弾と交換って事で」


 そう呟き、呆気なくモヒカンの脳天に血の華を咲かせた。

 どよめくモヒカン、そして女を仕留めろと焦った調子で手元に置いてある武器を取ろうとする。だがアンナの初動の方が速い。

 空中へ跳び体を捻りながら二丁の拳銃を地面にいるモヒカン達へ定めるとフルオートで連射する。
 銃弾の雨はモヒカン達の七割の頭へと確実に命中させ、アンナが地面へ華麗に着地する時には、モヒカン達は三、四人しか残ってなかった。


 「い、いかれてやがる……!? こ、この女!」

 「落ち着け馬鹿! ……へへ、いい腕しているけどよ、そんなに撃ったらもう弾なんぞねぇケベッ!!??」

 そう馬鹿にした口調のモヒカンは、アンナの一発の銃声と共に額に穴が開いた。

 「うん、今ので最後の一発」

 何気ない口調でそう喋るアンナに、モヒカン達は殺気を漂わせながら刃物をちらつかせ震える声色で言った。

 「……このアマ、ここまでしてただで済むと思ってねぇだろうなぁ? 切刻んでやるだけじゃ済まねぇぞ!!」

 「おうよぉ! 弾のねぇ銃弾なんぞ鉄屑と同じだ!! 弾丸がまだあっても替える暇なんぞ与えねぇ! てめぇの手斬り飛ばしてやる!」

 「……いや? 銃弾はもう空だよ。だけど……」



 そうモヒカン達へ平坦な口調で呟き二丁拳銃を何気ない動作で地面へ落とす。そのアンナの不気味な程の冷静な態度に思うように
 襲い掛かれないモヒカン達へと笑みを浮かべながら、アンナは両手を拳銃の形にしてモヒカンへ向けると、言い放った。


 「……悪魔を倒すのに、私にはこれで十分」


 その言葉を聞き、生き残っているモヒカン達は大声で笑いながら罵声を上げた。

 「ケッケッケケケヶ!! このアマやっぱいかれてやがる!」

 「そうだなぁ! ……馬鹿にしやがってこのアマ! ……気が変わったぜ、喜んで腰振らせる位になるまで犯してや」




 


                     『……北斗蛇欺弾(ホクトジャギダン)!!!』





 その悪役めいた台詞が男達の最後の言葉になる。

 上空から聞こえた声。それと共にモヒカン達の脳天へとあらかじめ狙いを定めたかのような銃弾が貫き、モヒカン達の生命を永遠に絶った。
 その銃弾は普通の直線の軌道を描く物理的エネルギーすら欺いて、蛇の如く空中を自在に動きモヒカン達へ着弾したのだ。




 「……ジ・エンド……なんてね」

 拳銃の形を作った人差し指に息を吹きかけながら、そう口にするアンナ。
 モヒカン達の屍を通り越し、銃弾を放ったいかついヘルメットの男は疲れた声でアンナへと声をかけた。

 「……頼むからよ、無茶はしないでくれ。俺様が一人で片付ければ済む話しじゃねぇか」

 「まぁまぁジャギ! 私だって早くこの拳銃使いこなしたいし! だいだい私、結構格好良かったでしょう?」

 「……そう言う事を言ってるんじゃねぇっつうの。……ったく、頭がいてぇ」

 ジャギと呼ばれた男は溜息を吐きながらヘルメットの頭部を押さえる。空いた片手には先ほど銃弾を放った所為で未だ少しだけ銃身が熱い
 ソードオフ・ショットガンが太陽に照らされていた。


 サザンクロスへ向かう道中。増え続けるモヒカン達によって阿鼻叫喚を上げる町の人間の懇願に、何度かこの二人は似たような事を
 行っていた。その度にジャギはアンナの果敢にモヒカン退治する場面で胸中穏やかじゃなく、ほとんど父親のような気分を過ごしていた。


 「……だいだいこれで五度目ぐらいだろ? もう銃の扱いも慣れただろうが?」

 そう口にしつつ銃弾を替えようとするジャギの耳に、物陰から殺気に満ちた歯軋りの音が届き、アンナだけに気付かせる合図を目で送る。

 「けど、リロードするまでに南斗聖拳で避けていると不意打ちされる危険がやっぱり付いて回るんだよね。……昔の水鉄砲で
 遊んでる時見たいには上手くいくはずがないよね。……あの時の必死なジャギの顔……楽しかったなぁ」

 過去の記憶に浸りつつ、アンナは悟られぬように、お尻の方に差していたシングルアクションアーミーのグリップを握った。



                         「死ねぇ!! てめ」



 
                     


                  「北斗邪技弾!(ホクトジャギダン!)」

                 「jade give!!(緑を喰らえ!!)」


 ……投擲用のチャクラムのような物を握り締めながら、ジャギの気弾と、アンナの銃弾の錆びへとモヒカンは散っていった……。


 「……そのネーミングセンス。ちょっとどうかと思うんだけど?」

 「アンナの決め台詞もだろうが。何だ『緑を喰らえ!』って?」

 「いや、銃弾喰らって死ぬ瞬間多分緑色が視界を満たすかなぁと。私が死んだ時って最後に何か緑色の帯状の物が」

 「悪い、俺が悪かった」


 悲痛そうな声で謝罪するジャギのヘルメットを撫でながら、アンナはと言うとシングルアクションアーミーを貰った時の回想を浮かべた。












   「……おぉ、助かったよ若い娘さん。もう下敷きになって二日位経っておったからな、駄目かと思ったよ」

  「おじさん、その割りには余裕がありそうだね」


 兄貴の元へ一旦帰ってから付近の救助活動及び物資の収集。兄貴は「心配かけやがって……!」と泣きながら私を抱きしめ、苦しくて
 申し訳なさが立った。そして今、家屋に潰れていたおじさんを引っ張り出して話しこんでいる最中である。


 「……うち銃砲店を営んでいたんだけど、この騒動で大半盗まれたり壊れたりでもうまともな品残ってなくて終わりだわ……。
 ……まぁ悔やんでも仕方が無いから別の町で昔のように品物の修理屋でもしようかねぇ」

 「それがいいよ。私の兄貴、少ししたら実家のある場所へ帰還すると思うから一緒についていけば?」

 「そうすっか……。お嬢ちゃんは一緒にいかんのかい?」

 その言葉に、私は好きな人を脳裏に映しながら笑いつつ言った。

 「……放っておけない人がいるから」

 「そうかい……。おぉそうだ! これ、箱の中で入れてたんだ。よけりゃあ持っていってくれ!」

 そう助けたおじさんは頑丈そうな箱の中に入れていた鈍く銀色に光拳銃を取り出した。……これって西部劇とかに出てくる銃だよね?

 「いや、私はもう(兄貴から貰った)拳銃二丁あるし」

 「遠慮すんな! せめてものお礼だよ。それにな……こいつはとある曰くつきの品物でよ……」

 怪談話でもするように、突然低音で話をするおじさん。

 「……何でも昔刑事だっだ男が、とある組織を壊滅させる為に使った呪いの銃だって話なんだよ……! しかもその銃は放てば
 百発百中なんだが、撃つたびに命を削ると言われ……!」


 「いや、いらない」


 そんな危険な代物を渡すな、と、すぐさま踵を返そうとするとおじさんは慌てた声で言った。

 「すまんすまん! 冗談だ!! ……けど遠距離でも八割程で命中出来る優れもんだってのぉは間違いねぇんだ。……本当に要らんか?」


 そう涙目で訴えかけるおじさんに、アンナは呆れと疲労の声を上げて、承諾するしかなかった。



  「良かった良かった!! 銃弾は全部で六発しか撃てんから気をつけてなー」


 そう声を投げかけるおじさんを背に、私は鈍く不気味に輝く拳銃を見上げつつ、小さく舌を出して心の中で呟いた。



   


           (……呪いだが何だか知らないけど……こっちだって普通の女じゃないんだからね)







    緑色のバンダナを微かに揺らし、アンナはジャギの背を追う。

 そしてこうも思う。貴方の力には及ばないけど、この銃弾の数だけ貴方の命を救えればいいな、と。















    あとがき


元ネタヒロモト森一作『シングルアクションアーミー』


 


 『武死道』の刀も出せたらいいなぁって思っている。






[25323] 第五十四話『潜入! サザンクロスの策動!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/25 19:14





                           「いっ! いてぇよぉ~! いてぇよぉ~~!!」





                      「ひぃ~ひっひっぃ~!! どうだぁ~! 悔しいかぁ~! あっはっはっはっは!」





                    「……(猿轡を噛まされつつ絶対零度の視線でジャギの事を半眼で見ているアンナ)」






   さて? 何故このような状況に陥っているのか? 時間は半時間前へと遡る。






  「……何だ? 門の前が騒がしいなぁ」

  「とりあえず言ってみようか? 正門からしか入れないでしょ」




 五日間でおよそ三十回程のモヒカン集団を殲滅しつつ、ようやく見えたサザンクロス。

 お風呂入りたい!! と声を上げるアンナへ溜息を吐きつつ、頑丈に塀で囲み頑丈な拠点となっている場所へ辿り着いたまでは良かった。

 ……入り口で何やら口論している声。そして遠方からでも視認出来る巨漢が困ったように両手を振っているのが見える。……あいつは?

  
 「……KINGの命令です! 私を一度でも地面に倒せるならば構いませんが、それ以外では通す事は出来ません!!」

 「頼むから通せ! 俺は別に構わん、だが息子と妻だけでも中へ通してくれ! 食料ももはや尽きかけているんだ!!」

 「……っ、申し訳ないですが無理な物は無理です!! ……申し訳ない」


 入り口を塞ぐように立っているのは、見覚えのある豚に似た体型、それと顔に鮮やかに見えるハートーマーク……ハートだな、如何見ても。


 「……あれってハート……だよね?」

 「だな……何で入り口で門番やってんだ? ……おいそこのお前、何が如何なってるか教えろ」

 近くにはテントを建てている人間がちらほらと見え、手近な人間へと顔を近づけて質問するジャギ。

 「……え? ひっ!! お、お助け下さい!! しょ、食料なら渡しますから!」

 「……俺はモヒカンと同程度に見られてんのかよ」

 「すいません、この人こんな風だけど偶にしか取って食いやしませんから」

 「まるで時々やっているような言い方すんな! アンナ!!」

 その漫才のようなやり取りを見て、危険性がないと判断したのが質問をした男は冷静になるとジャギへと口ごもりながら答えた。

 「あ、ああ……どうも二日前は被災した避難民も快く町へ入れてくれてたようなのによ。……何故か知らないけどいきなり門番が
 立たされて『私を倒せない限り町へは入れません!』なんて言うんだぞ!? おまけにあいつに挑んだ人間全員返り討ちだよ……」

 「……あいつ、誰が挑んだ奴、殺したか?」

 「あっ、それはなかったな。昨日から『この私を地面に転ばせる事が出来れば入れてあげても宜しいですよ』って難易度下がったし」

 その言葉に腕を組んで思考するジャギ。シンが考えるはずはない、それにハートが本気を出せばここにいる人間を血達磨へと
 容易く変えるだろう。ならサザンクロスに奇妙な異変が確実に起きているという事だ。となると……。


 「私、ちょっとハート君に聞いてくるね」

 「あん……、…………は!? おい、ちょっと待て!!?」

 埒が空かないとハートへと駆け寄るアンナ。……ったくあいつちょっと脳筋になってんじゃねぇのか!?




  ……ドサッ!! 吹き飛ぶ男。唇は若干切れ、悔しそうに男は地面を叩く。

「……くそっ! 何なんだあいつの体は!? まるで割れない風船見たいに拳がめり込んで、そして腹だけで歯が立たないなんて……!」

 その男の言葉を聴きつつ、ハートは腕を組みながら溜息を吐く。

 「……はぁ~、貴方がたでは私を倒す実力には及びません。……誰が私を倒せる実力を持ってる方はいないのですか!?」

 「ここに一人いるけど」

 切願するハートに聞こえてきた、若い女性の声。何処だと首を振って見渡すと、自分の下から声が上がった。

 「ここ、ここ! そんなにウスノロだと足にロープかけて転ばせちゃうよ?」

 「ははっ、勇敢なのは結構ですが私はウスノロじゃぁ」

 その時、ハートの笑顔は過去の情景が過ぎった事により、真面目な顔つきへと変貌した。

 「……も、もしやアンナ様ですか? ……そう言えばあの時正気を失っていた時も同じ事を言われ……そのバンダナ、顔つき……」

 「思い出した? 私の他にユリア、サキの事。後、石から身を挺して守った事も覚えている?」

 「おおっ……! やはり、貴方でしたか!」

 ぶわっ! と涙を滲ませ膝を付きアンナへ握手するハート。それは先ほどまでの威勢さを金繰り捨て、若干体も小さくなったように見えた。

 「……頼みます。どうかKINGを! サキ様を助けて下さい! もしくは頼れる方へ連絡して貰っても構いません! どうか!!」

 「……話が見えねぇなぁ。何が起きてんだ、今このサザンクロスによぉ?」

 そう目つき悪く近寄るジャギ。ハートはアンナを守るように巨漢に似合わぬスピードで立ち上がってアンナへ声をかける。

 「アンナ様、お知り合いで?」

 「……あっはっはっは……警戒しなくていいよ。ジャギもそんなに睨んでいたら凶悪犯だと思われても仕方がないでしょ?」

 「……生まれつきだってんだ。この目は」

 投げ遣りな口調で吐き捨てるジャギ。だがアンナが呼びかけた声で、ハートがジャギを見る顔が変わる。

 「……もしやKINGが話していたジャギとは貴方の事ですか? ……おぉ! ようやくこの国を救う手立てが生まれましたよ!」


 「いや、だから話しが見えねぇんだって! 何が起きてるのが詳しく話せや!」

 自分だけで一喜一憂をしているハートに痺れを切らして怒鳴るジャギ、アンナの介入もあってようやく落ち着くと、ハートは語り始めた。






  


  ……核戦争によって荒廃へ追いやられた世界。幸いにも被爆地を免れたサザンクロスでしだが、核の影響で起きた自然災害だけは
 防ぐ事は不可能です。地震、火災、そして悪天候による風害、冷害……だが、KINGは冷静でした。

 『……女、子供はすぐに地下へ避難させろ! 動ける男はバリゲートの強化を急げ! 絶対にサザンクロスの民一人残らず救うんだ!』

 KINGの冷静な判断と指示によって、それはもぉ国民の九割は救われたと言っても過言ではありません。
 
 私の入っていた刑務所……もう機能はしていませんが、そこからも人手を頼まれ人一倍の筋力がある私も救助活動、防壁強固へと
 尽力を尽くしました。……その甲斐もあってかKINGへと賞賛も兼ねてKINGの下で働くことを許されたのです。
……何故私がKINGと呼ぶのかって? そりゃあこのサザンクロスの指導者は勿論シン様ですから。私だけかもしれませんかKINGと言う
 呼び方がしっくり来るんですよ。……KINGは余り嬉しくなさそうでしたが。

 ……話は戻しますがサザンクロス復興がほぼ完了は一週間と経たず終わる事が出来ました。核の猛威にすら負けず人々が活気を戻し
 笑顔を見せながら修復や商店を出しているのをKINGは見下ろしつつサキ様へこう話すのを盗み聞き……いえ、耳に挟みましたね。

 

 『サキ……核により世界は新しい時代となった。……だが人々の笑顔は変わらない……サザンクロスは私の宝だ……』

 『ええ……シン様、私も嬉しいです。貴方が善政を志し、笑顔で民を守っているのが……』

 『……サキ、このサザンクロスも我が宝だが。私にはそれ以上の宝がある』

 『……? それは何ですか?』

 『……サキ、お前だ。お前は私の后となって貰いたい。お前は女王だ、この国の女王にしてやる』

 『……っ! ……私のような、下賎な身分でも……愛してくださると?』

 『何を言っている、お前の暖かい笑顔があったからこそ、今の私がここにいる。力こそが正義! いい時代になったものだ。
 強者は心おきなく好きなものを自分のものにできる。サキ、お前は私の者だ。ただ一人、俺の愛する者……。下らぬ身分の違いや
階級制度などもはや、この時代に必要ない。ただ俺はお前だけでないと駄目なんだ。……俺を愛していると言ってくれ』

 『……っ、シン様……!』

 『様は要らん……ただのシンで良い』

 『……シン、愛しています。一生お傍に……!』

 『……サキ、俺もだ』

 ……まあこの後、私はこのような体ですからすぐに見つかって二人にお叱りの言葉を長々受けましたが、本当に幸せそうでした。
 ……そして突如悪夢が襲ったのです。……悪夢が……。







 
 


 仲睦まじくサザンクロスの民からの感謝の品物の中にあった宝石類をサキへ渡すシン。幸せそうに微笑むサキ。
 ハートはそんな二人をにこやかに見ながら手の届かぬ汚れた場所へ雑巾を手に掃除をしていた。……そしていきなり扉は開け放たれた。


 「……KING。ご加減はどうですかね?」

 「む? バルコムか……何用だ、私は今サキと……」

 「いえいえ、そのままで結構。大したお話ではございません」

 ……思えばこの時私は異変に気付きサキ様の傍にいれば良かったのです。そうすれば……少なくともあのような事には……。

 「KING、あなたの優れた政治能力、感服します……。地下で行っている資源の再生活動。そして貴方自身の強さにもねぇ」

 「……何が言いたい? バルコム」

 不穏な気配を察し、サキ様の前へ立つKING……それがいけませんでした。

 「だが、そんなサザンクロスの王となる貴方にも意外や意外、致命的な欠点が生まれてしまうとは! ……そう、貴方の愛するお方が
 今まさに命を握られている状態になるとはねぇ……!」

 なっ!? と声を上げKINGが振り返った時には既に遅く、サキ様の背中へともう一人の副官ジョーカーがサキ様を捕えていました……。

 「……バルコム……っ!! 貴様ぁ!!」

 ノンノン。指を振りながら冷静な顔でそう呟きバルコムは続けました。

 「許して欲しいとは言いませんが、私もKINGに実力で勝つのは難しいのでね。これも貴方が悪いのですよ。そう、貴方が」

 「俺の……所為だと……!?」

 「そう……豊富な資源、そして残っている戦略兵器に安定した食料を確保出来る場所。……そして貴方の統率出来る地位は
 喉から出る程欲しい物でね……。……他の者も賛成していますよ。もっとも一人だけナリマンが反対していましたが……今の貴方の
 状況のようにサキ様を殺すと脅せば快く承諾してくれましたよ。……本当、やり易くて助かりました」

 「……このままでただで済むと思っているのか……! 貴様……殺してやる!」

 「怖いですね……ですが指一本でも私に触れようとしたら……貴方の想像通りです」

 「……シン……! 私の事は構わず、グッ!?」

 「大人しくして貰いましょうか? 女性にこちらも手荒な事はしたくない」

 「や、やめろ!? サキを少しでも傷つければお前達全員……!」

 「……ええ、ですからお二人には別々の場所で幽閉さして貰います。……ご安心を、サキ様には手荒なことはしません。
 ……『貴方達』が可笑しな事をしなければ」

 その時、隙あればジョーカーに飛び掛ろうとしていた私の心も機敏に察していたのでしょう……恐ろしい奴です。

 ……私はすぐに命令で入り口の門番としてKINGとサキ様から隔離されました。そして奴はこの国をゆっくりと自分達の思い通りに
 しようと企んでいるのです……。







 「……なる程……シンの善政が皮肉にも奴等の嗜虐心を煽っちまったって訳か……」

 「……酷い話だね! ……それで、どうやってサキとシンを助ける?」

 「まず、私が無傷でお二人を通したら奴等の兵が間者を送られたと気付かれてしまいます……八百長でも私を倒さないと……」


 その言葉に、俺は荒い鼻息を一つ出して……哂いながら呟いた。


 



 
 「……何だ……これ程簡単な事はねぇ……おいハート、アンナ、耳貸せ……」









 ……そして話しは冒頭へと戻る……。





 (な……なる程、わざと出血の多い場所を切り大げさに倒れさせるまでは理解しました。……そしてこの国に悪意ある人物と
 思わせて何食わぬ顔でバルコムに近づこうとは思いも寄りませんでした……!)

 血だらけで叫びながらも、ジャギの巧妙に心の中で感心するハート。そしてジャギはハートの頭に足を乗せ哂いながら考える。

 (とりあえずバルコムと手を組む振りをしてシンとサキの居場所を聞き出す。……サキの奴をまず助けねぇとシンが動けねぇからな)

 そう思考展開の中、ジャギは冷たい視線が自分の後方、握っているロープの場所から感じているのを必死に無視していた。

 それはジャギの奴隷役として猿轡を噛まされているアンナの視線だった。

 (……別に良いんだけどさ、これってあんまりじゃない? とりあえず我慢するけど、ジャギ……終わったら覚悟しなさいよ!!)

 三人のそれぞれの思惑を受けつつ、サザンクロスの入り口の兵達はその様子を見てから大きな声で言った。




            「……開門!! 二名、サザンクロスへの入門を許可する!!」













 あとがき




 ジャギはシリアスだと大塚さん、名台詞で戸谷さんだと思う。





 ……アンナに声優付けるとしたら俺のイメージだと石橋 けいさんかな?





  



[25323] 第五十五話『アサシン・ジャギードⅡ』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/28 19:05

   サザンクロスの兵の間を通り、不穏な気配を発しつつ表情の読めぬヘルメットの男が首輪をした女を引き連れ歩く。
 
  それを遠巻きに見物するサザンクロスの住民。ざわざわと声が入り混じりつつ男は傍目平然とした様子で歩いていた……歩いていた。




  『……避難民を迎え入れるのが突然途切れたと思ったら何だあいつは? どう考えても悪人じゃないか……』


  『しかもロープで引き連れているのは金髪の娘は奴隷か? 何て可哀想に……』



    『これからサザンクロスはどうなるのかしら……統率者のKINGは突然体調を崩したと伝えられたばかりなのに……』



    「……ねぇマーマ? 何であの人ロープで女の人を連れているの?」


    「こ、こらっ!? 指を差しちゃいけません!!」


 ……最後の台詞を言った小さな男の子と母親の声は、はっきりと自分達にも聞こえた。

 『……お~ぼ~え~て~なさいよ~……ジャギィ~!!』

 (……俺全部終わったらどっちにしろ殺されるんじゃねぇのか? おい!?)


 現在統率者となっているだろうバルコムかジョーカーに接触する為に、あえて悪人になりきり堂々と歩いているが、アンナの怒りに満ちた
 低い呟き声が霊王の体のスペックの所為かはっきりと耳に聞こえてしまい無性に何処かへとバイクで逃げ去りたい気分だった。








   「ひっ……お、おやめ下さい! む、娘をどうするつもりなんですか!?」

 「あ~! うるせぇ~な! バルコム様のご命令だ! 綺麗な女は全員城に集めるようにとのご命令なんだよ!」

 ……如何にも悪人面のサザンクロスの兵士服をパツンパツンに破けそうに来ている大男が父親と娘らしき人間へ脅迫している。
 ……と言うか放射能でこの世界の一部の人間は巨大化するのか? と呆れた感情が襲ってくるが、その思考はとりあえず置く事にした。

 「お、お願いします。父は体が弱く私の助けがないと……!」

 「あん~? 体が弱いだぁ~? そんなら大変だなぁ~?」

  大男の声が異質になる。……このままだとあいつ父親殺すな。どう見てもその通りです、有難うございました……じゃねぇだろ!!?

 「は、は『それじゃあよ、俺様が介助しなくて済むようにしてやる』……え?」

 女性は不意に声をかけた俺へと顔を向ける。兵士服を着た男も同時だ。……少し緊張するが止むを得まい……ジャギ、行きまーす!!

 「おい、お前」

 「な、何だお前は? 私の娘、ジェニファーには指一本触れ」

 「俺の名前を言ってみろぉ!!」

 胸倉を掴み、二人の見えない所で仮死状態にする秘孔を突く……よっしゃあ! ここでアミバッたら俺自殺もんだった!!

 「お父さん? ……お父さん!?」

 嫌ぁ~! と悲鳴を上げて息をしていない父親へ寄り添う娘……自分でやっといて何だが胸が痛いな……大男は自分でやりたかったなぁと、
 残念そうに背中に背負っている大鉈をいじっていた。……あいつ俺が手を出していなかったら絶対に娘の親の体割ってたな……。
 ……てか、このジェニファーってアニメで見た気がするぞ? もっと勇ましかった気がするんだが……俺の気のせいか?

 「人殺し! 人殺し!! お父さんを帰してよぉ!!」

 「黙れ」

 定神(気絶するが落ち着く)を突き背負う俺。……アンナの視線が更に冷たくなって俺の胃の痛みも増す……泥沼にはまってるな。

 「おい、お前。偉い偉いバルコム様の所とやらに、これ運ぶんだろ? 案内しろや。俺様も用があるんでな」

 そう言うと、俺様も同じ穴のムジナだと観察して納得したのが素直に道案内をしてくれた……見ていた見物客の視線が本気で痛い……。







  


  「……ふむ……我が軍に入りたいと?」

 「お前さんがここの新しい指導者って事はよ、シンの糞野郎は地位を追放されたって事だろうが? 俺はあの野郎の下なんぞ
 死んでも働きたくねぇが……まあ、あいつ以外なら俺様は構わねぇからな」

 「……KINGとはどう言う関係だ?」

 「昔あの野郎に一生残る傷を負わされたのよ。……なんならこのヘルメット脱いで見せてやろうか? ……もっとも俺様の顔の傷
 を見た野郎を、生かしておく気はないがな……!(※前世的な意味で)」

 「いや、結構だ……ふむ、願ったり叶ったりだ。ハートを倒す程の実力があるならば拳法の実力は合格だろう。……最も私に対して
 危害を加える意思があれば別だが……」

 その言葉に、ジャギとして俺は手を振りつつ答える。

 「俺は俺に対して危害を加える野郎以外は襲わねぇよ。……シンに関してはこの顔の傷の礼をどうしても返してやらないと
 如何しても収まらねぇがな……! おい、あの野郎何処なんだ?」

 「安心するがいい。あいつは地下に幽閉済みだ。この二日間水も食料も与えていない」

 「……少し軽いんじゃねぇか? 俺様ならきつい拷問を長時間じっくりと与えるぜ」

 「いやいや、KINGの強さは侮れないのでね。お前も一回厳しくやられたのなら実力はわかるだろう? 今は女を盾に大人しく
 しているが、それでも何をしでかすかわからないから厳しい監視を続けてる」


 「……女? あの野郎に好きな野郎がいたなんて初耳だな?」

 「それは同然だろう。公然は避けて密愛していた関係だったからな。私も最近知って切り札として得たカードだ。
 ……KINGに忠実な部下として今まで従っていたが、本当にあの裏切られたと知った時のあの顔は今でも愉快だ!」

笑い出すバルコム、自分も口元に笑みを浮かべ頷いているが心中反吐が出そうな気分だ。……『ジャギ』ならどう思うのかな、こいつを……。

 「……女の方は美人か?」

 「おいおい! 気持ちはわかるがあの女は手強いぞ? 私達の物になればシンを自由の身にしてやると言っても首を振らん!
 手を出そうとしたら首筋に短剣を突きつけて『私はシンだけの物!』と言われ困っている所だ……」

 その話を聞き、最近感化されたのが、『ジャギ』の昔の感情が湧き出たように、俺の頭に素晴らしい事このうえない知恵が出てきた。

 「……なぁ、その女がお前の事を愛せばよ。シンの野郎は絶対に絶望に堕ちるよな?」

 「……何だ? どうやら良い案があると見えたか?」

 フッフッフッ……と笑いながら、人差し指をギラリと立てると、俺はこう言った。

 「奪い取れ……。今は悪魔が微笑む時代だぜ……?」






 俺が出した提案。それは自分が相手を思い通りに出来る秘孔を知っている(※実際知っているけどね)事でサキへ施すと契約。
 契約の代償として俺様にこの街で自由に民の生殺与奪の権利とかそう言うのを約束させた……恐ろしいほど楽勝だったな……。


 秘孔を突くのは相手の精神状態が一番弱くなっているだろう夜にした方が良いと言うと、わかった。それまで休んでくれと個室
 へ案内。……まあ扉の外側、部屋の中でも気配がするから軟禁状態だ、実質。


 猿轡と首輪を外すと、思いっきり大声でアンナが怒鳴ろうとするのがわかったのですぐさま手で口を押さえる。

 暫しモガモガ言っていたが、俺の目線を理解すると体の力を抜いて大人しくなった。……正直話が早くて助かる。
 アンナへと潜んでいる気配へ気付かれぬように話し合いをする。

 『……で、どうするの?』

 『夜になったらサキの元に案内して貰ってから助け出す。……アンナはその間シンの正確な居場所を探ってくれ』

 『了解、……後で色々文句があるけど、一先ず置いて……今どんな状況?』

 『……外に見張りが二人、部屋の中に二人気配がする……。……アンナ、すまねぇけど頼みがるんだが……』


 『……何?』


 「おい、お前脱げ」

 「アイアイサー」

 いきなり上半身を脱ぎ、形の良いブラが見える……って……。

 ……ッ!? ……気をとり直してそこぉ!! 


 部屋の中にあった堅そうな小箱を思いっきり視線が濃くなった場所へと振りかぶる。……天井からコウモリのような男が二人落ちてきた。



 「……これってドラゴンパトラって奴の部下?」

 「いや、ドラゴンとパトラだろ。……生きてるか? こいつら」

 いや、アンナの裸見ようとした時点で死罪も確定だけどな。と考えつつ蹴って反応を確かめてみると生きてた……しぶてぇな。


 「殺すか?」

 「考え方物騒過ぎない? ……とりあえず縛ってベットの下に詰めとこうよ」

 「秘孔で目を覚まさないようにしとくぜ。……永遠に目覚めさせないようにするのは駄目か?」

 駄目、と言われ舌打ちしつつベットの下へ蹴りながら入れた。……とりあえず外にいる二人組みもどうにかしなくちゃ……って、おい!?
 何故上半身ブラジャーだけのままでドアノブに手をかけてやがる!? アンナ!!!??

 「……何しているんだ、アンナ?」

 「いや、色仕掛けで外の二人を中に入れて気絶させるプランで」

 「却下だ却下!! 早く上の服を着ろ、馬鹿野郎っ!!」

 そんな怒らなくても……とブツブツ呟き先ほど脱いだ上の服を羽織るアンナ。……視界に移ったブラジャー越しの胸の形
 とか焼きついてこちとらそれを脳から削除するのに必死だ。

 「それじゃあ、潜入捜査に参りますか!」

 「……その手に持っているのは?」

 「え? 見ての通り銃だと気付かれるからブラックジャックだけど?」

 ……アンナの手に握られた、結構威力がありそうな重り袋。俺はもはやソレに関して口出しする事は放棄した。







  「……おい、酒が欲しいんだがよ?」

  「あん? 部屋の中にある物で我慢……ボフッ!?」

  「……! 貴様何スバッ!?」


  「ふっ、他愛もない」

  「……正規軍って所か? ……ライフル提げてる所を見ると下手な行動したら発砲されるな……気をつけろよ?」

  「了解、BIG・BOSS」

  「……誰だよ」

 気絶させた正規軍を部屋の中へ入れると、適当に自分のサイズに合っているのが一人いたのでその服へ着替える自分。

 着替え終わった自分に『似合う!』と褒めるが、……まさか最中は覗いてねぇよな?

 内部の中を堂々と歩く自分。ヘルメットは外しているので俺の事を知る奴はいないから容易に出歩ける。……前の顔ならアウトだな。悪人面だし

 「途中でここの女中の服を見つけられたのもラッキーだったね。ゆったりしているから武器も隠し易いし」

 「……あぁ、まぁな」


 色々と話し声を聞いてい見ると、バルコムに従っている人間と、疑問視している兵士が別れているのが聞こえる。
 当然かも知れないな。……バルコムが指導者になったら恐怖政治になるのは確実だ。だけど誰が何処で聞いてバルコムの耳へと届く
 か知れない恐怖で誰も手出し出来ないでいる。
 そう言う風に誰が誰の命令に従っているのが疑心暗鬼の状態を長く続けて洗脳させようって腹なんだろう……胸糞悪ぃ……。


 「……あれ? あそこにいるの、サキの兄さんじゃない? 私、見た事あるよ」

 アンナの声に意識を戻す俺。……あれは言葉通りテムジナ? 何をあそこでこそこそやっているんだ?


 「……おい、何をやっている?」

 「……! いえ、私は何も」

 「嘘を吐きやがれ、正直に言えば今なら許してやる事も……痛ぇ!?」

 「だからっ、何ですぐそう言う態度で接するのよ!?」

 アンナの蹴りが膝の泣き所へと当たる。涙目な俺を無視しつつテムジナへ声をかけるアンナ。テムジナはと言えばアンナと面識が
 あるので一安心しつつ話し始めた。

 ……サキが幽閉されて二日。このままではバルコム達にサザンクロスは支配されてしまう。それはバルコム達が手中に収めるまでは
 極秘の扱いだったが、一人の密告者によりテムジナは対抗勢力を作る為に伝達役を請け負ったと言うのだ。
 密告者はナリマン。素直にシンの善政に満足し、サキと仲睦まじくサザンクロスの未来を創り上げるだろうと予想していたのも束の間
 バルコムが提案した今回の謀反。自分がサキに昔よく世話を焼いて貰った(シンに上げる菓子の味見役など)事を材料に
 自分は承諾をしたが、バルコム達の政治ではサザンクロスはおろか自分の率いる軍隊もいずれ崩壊させられる。あいつはそう言う男だ。
 何とかしようと考えていた時、サキの兄である自分が目をつけられたと言うのだ。


 「……近日中にバルコム達へと闘いを挑むつもりです」

 「止めとけ、あっちは戦闘の一応スペシャリストだ。……今日で何とかサキとシンは助け出すからよ。門にいるハートを安全な
 場所に待機させといてくれねぇか?それと俺達の荷物ここまで持ってきてくれ。 ……安心しろ、すぐに片付ける」

 「……! お願いします」

 涙目で頭を下げられ去っていくテムジナ。……『ジャギ』の時も、これ位優しく出来る器量があれば良かったのにな……。

 湧き上がる後悔。それを振り払いつつサキが監視されているだろう厳重な部屋も発見。……入り口にはライフルで厳重な監視を
 施している……やはり夜まで待つしかないか。

 「……後は地下か。……シンの事だからくたばりはしねぇと思うが、精神的に結構きついだろ。……何とか連絡出来ねぇか?」

 「……それじゃあ、私がその役目引き受けるよ」

 女中の姿で申し出るアンナ。その目は強い意思で輝いている。……暫し言葉を出せない俺。……アンナの頭を撫でる。

 「……危険だぞ。シンを監視するんだ、余程の実力者が警備についている」

 「……シンは私の南斗聖拳の先生だよ。せめて借りを返さないとね」

 そう気丈に笑うアンナ。……あぁ、たくっ……何だってこいつは……こんなに……俺より強くて、儚いんだろうか?

 「……約束しろ。シンに伝えたらすぐ俺と合流しろよ。絶対だ」

 「うん、ジャギも……死んだら絶対に許さないよ?」

 
 わかっている。……それはこっちの台詞だと言いたい。

 ……サキを助ける。シンを助ける。同時に行わないとどちらかに危害を奴等は平気で行う。だったら二人で同時に助ければいい。
 
 ……その役目を引き受けさせられる程信頼しているのは……俺にはアンナしかいないのだ。

 アンナ以外俺には信用出来る物などこの世に存在せず、アンナ以外の物など俺にとって二の次だ。

 
 ……二人は願う。もしも永遠に切り離せぬ手錠があるなら、……自分達へ付けて貰いたい……と。

  




 ……見張りの兵士達に秘孔で先ほどまでの記憶を忘れさえ元の位置へ正す。時間は夕日が沈み、空は黒へ変色し始めた。




 「……アンナ、準備は出来ているか?」

 「勿論、シンを助け出したら、サキを助け出したジャギの元へ合流。簡単簡単!」

 「……やっぱりシンの事は放って置かないか? あいつ自分で如何にでもなるって」

 「ジャギ?」

 低音で有無を言わせぬ声で自分の名前を呼ぶアンナ。……解った。こうなったら自分の任務を完璧にやってみせらぁ。


 時計が十時を指し、鐘が鳴る。丁度約束の時間だ。

俺とアンナは同時に呟いた。






              『ミッション・スタート』











   あとがき

 今更だけど、アンナのバンダナってメタルギアの無限バンダナだったら最強なのになって思った。




 某友人? バカデミー賞のインドの踊りやってる所を携帯動画で送ってきた。




    ……地味にうざくて上手かった。(´・ω・`)





  



[25323] 第五十六話『一夜が織り成す火蓋』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/27 13:59



  地下の石油精製工場地。辺りにはまばらに警戒態勢をとる警備の兵隊。それを見下ろす影は猫のようにしなやかに飛び移る。



  きな臭い通路を発見すると影は暫く時間を置いて警備の兵士が一人だけになるのを見計らい、その兵士の頭上へ飛んだ。

 「……ジャーマン」

 その兵士の場所まで約七・八メートル。ブリッチのように体を反らせ、拳を腰へ構い呟く、そして兵士は声に反応し上を見上げる。
 自分の上から落ちてくる影に驚愕し、武器を構えるか危険を周囲へ察するかの判断に数コンマを要する。それで時は既に遅かった。


 「……ナックル!!」

 猫のように体を反転させ拳を振りかぶり兵士の脳天に直撃させ着地したアンナ。あわれ兵士は意識をそのまま刈り取られた。

 ガッツポーズを束の間、意気揚々とアンナは目的の通路へと小走りで進むのであった。










 「……ここか? その例の女の部屋は」

 「ああ、本当に上手くいくのだろうな? もしも失敗したら」

 「安心しろよ。この秘孔を突いた瞬間、目の前にいる奴を例外なくそいつは愛する。俺に任せておけ」

 時間丁度にバルコムと同行するジャギ。アンナに関しては別の人間(俺のいない所でジェニファーがアンナに協力してたらしい。
 ……俺と昼に別行動していた時に何があったのだろうか? 謎だ……)が身代わりをかって出たので、部屋に待機している。

 ……重く軋む音を響かせると光ない部屋に物憂げに椅子へ座っているサキが見つかった。……相当疲労しているな、無理もねぇが。

 俺が部屋の中に踏み入れると、警戒するように立ち上がるサキ。……ヘルメットしている所は見せた事なかったな。

 「……てめぇがシンの女のサキか?」

 俺が声をかけるとサキは驚いたような表情をする。気付いてくれたか……。安堵しつつもきつい口調で続けるジャギ。

 「後ろの野郎の命令でな、今からてめぇには『俺の言う通りにして貰う』勿論、抵抗しようが無駄な事だ。俺様はてめぇなんぞ
 死んだ所でどうでもいいが、シンの奴を苦しませる事が目的なんでな。いいか?『絶対に抵抗』するなよ?」

 「……何故貴方のような下劣な人間に従わなくてはならないのですか? 私の命はシンの物。貴方には従いません」

 流石サキ……。俺の言葉に察してくれたのか、予想通りの態度をとってくれる。激しい敵意の目線。まさかバルコムも俺とサキが
 知人とは思うまい。……更に一歩近づく俺。サキは声を張り上げる。

 「離れなさい! ……それ以上近づけば、私は……」

 「甘いわ!」

 頃合と考え、針を飛ばし椎神(動きを止める、歩行を困難にする)の部分へ刺す俺。硬直するサキへ近づき顎を持ち上げながら
 下卑な笑い声を上げて顔を近づける。そして気付かれぬようにサキへ言った。

 「ヒーヒッヒヒ! どうだ、動けまい!『シンにはお前を助けると伝えてる』」

 「くっ……おのれ……! 『私は今からどうすれば?』」
 サキの囁きに、俺は気付かれぬように演技もそのまま言葉の中に含ませ指示した。
 
「これからてめぇは俺様の手により愛する奴の事も忘れ、『目を開けた時はそいつが愛する』野郎だ。どうだぁ? 悔しいか? ヒヒヒ!」

 そう声を上げ俺が首筋へ指を突きたてると、サキは『目を瞑り倒れた』。それを幾分不安そうに眺めバルコムは声をかける。

 「……本当にこれで私を愛するのだろうな?」

 「ああ……。もっとも俺は部屋を出るぜ……他の奴等も間違って視界に入ると危険だろうが? 出したほうが良いだろう……」

 「そうだな。……お前達聞いただろ! 私を残し後は全員出ろ!」

 控えていた兵士達は命令に従い部屋を出る。そして俺もちらっとサキに上手くやれと思いつつ見てから、部屋を出た。





 

 (partバルコム)

 遂に私が新しいKINGとなる時代が来た。
 
 KINGをただ処刑すれば民の大半が反抗と考え、私の地位も危ぶまれる。だが、私を女が愛すればシンは愛の喪失により狂ったと
 人々は考えるだろう。私のKINGとしての未来は今日、この日によって決まるのだ。……女へと声をかける私。

 起きろ、と声を告げると体を震わせ瞳を開けるサキ。……シンが愛する女にしてはそれ程魅力的だとは思わない、だがこんな女
 でも私の地位の為には存分に振るえる道具だ。……今からその玩具としての使用を考えると笑みを隠せなくなる。

 「……バルコム……様」

 うっとりとした声を上げる女。素晴らしい……あの男は私と同質の人物だと信用したのは正しかった。……無論、私の地位を確立
 する為にあいつには後で寝込みにでも襲撃をしよう。……あのような目の男は駒に使えても信用は出来ない。
 私の元へゆっくりと近づく女。私は茶番に付き合おうと両手を広げる。……この女が次に私へ愛の言葉を囁いた時、KING……貴様は。





     「……言ったでしょう? 私はシンの物よ」



 ……胸に激痛を与えるほどの熱。……短刀? ……これは? ……え?








  



 目の前にるのは特徴的な禿げが目立つ男。左手にはボウガン、右手に大振りの剣を携えて笑いながらアンナに声をかけた。

 「ハハハ! お嬢ちゃん。KINGを助ける勇敢なナイトと言った所か!? 最もこのスペード様の拳技を受け切れればの話しだがな!」


 「……うっさい禿ヤロー」

 誰がハゲヤローだ! と大きく剣を凪ぐスペード。それを横っ飛びで避けつつ提げた拳銃をスペードへ放つアンナ。

 「キカーーーーーーン!!!」

 だが悉くそれはスペードの剣に弾かれ、スペードは拳銃の装填を許す暇を与えず改造したボウガンの矢を連射し、アンナを追い詰めていた。

 「……駄目だなー、これじゃあ」

 「ハァーハハハハハ!! 本当にな! お前の実力では駄目だ!」

 (……こんな奴、すぐに倒せる実力じゃないと……ジャギを守れないよ)

 アンナは連射するボウガンを巧みに飛び回り避けながら、昔シンに教えを受けていた時の事を回想する。






  
 「……いいかアンナ? お前は力では他の男には劣る。それは理解してるな?」

 「まぁ、流石に拳で壁を砕いたり斬ったりは出来ないね。私は」

 「だが、お前は他の物にはない長所がある。それはまず長時間動き回れるタフさと、そして敏捷性だな。それを上手く活かせば
 お前は南斗聖拳の力と総合し、より強くなれる。……まず如何にして相手より勝る部分があるか考えろ」








 シンに言われた事。私がこいつに勝る所……。



 既に二丁拳銃の弾は撃ち尽くし、スペードへ一撃を決めるのは難しい。近距離で倒せなくもないが、ジャギに心配をかけたくない私
 としては、なるべく無傷でこいつを倒したい。

 ……まず冷静になって見ると、シンを自由に動かせれば良いのだ。無理にこいつを倒さなくても、戦闘不能に近くすれば良い。

 そう私は判断を下すと、後ろに提げていたシンクロアクションアーミーを引き抜き、それを『ある場所』へ向けた。
 ……これが成功すれば相手に痛手、少なくとも動きを鈍らせれる。……呼吸を落ち着かせ、機を見計らう。……ボウガンが迫る。




                          ……今だ!!






 「……ハァーハハハ! 何処を狙ってんだガァア!?」





 成功した。アンナが『天井へ向けて撃った』銃弾は、予測通り跳弾するとスペードの油断を突き右目へと着弾した。


 怒り狂うスペード。これで猪猛突進で襲い掛かれば私のカウンターで楽々と倒せる。……そう確信した時、鳥がスペードの前を横切った。

 ……鳥? 如何して? と疑問に思う私。だがスペードにはそれが何なのか理解したらしい、血を右目から流しつつ、私へ苦悶と怒り
 に満ちた声で叫んだ。

 「……くそっ! 一先ず引いてやる!! だが今度会ったらてめぇを俺様の手で殺してやる! 忘れるなよ!!」

 
 そう言って隠し出口であろう場所からスペードは鳥と共に抜け出した。……何が起こったのだろう? 一体……。

 アンナは冷静に考えたが答えは出ず。とりあえず目的を遂行しようと厳重に封じていた扉のレバーを引いた。

 軋む音を立てて開く扉。埃を上げ開いた奥には、空間を歪ませる程の殺気と憎悪を帯びつつ座る、シンが佇んでいた。

 だが、その空気すら、女性にとっては関係ないとばかりに、楽天的な声をシンへかけた……少し悪戯気な響きを含ませながら。


 「ハロー! 助けに来たよ。シンデレラ」


 「……っ!? お前は……アンナか!? ……と言う事はジャギが助けに……」


 「うん、サキはもう救出済みだと思うよ」


 「そうか……良かった……本当に良かった……!」

 深い深い安堵を滲ませ、言葉を吐くシン。それを穏やかな眼差しで見ていたが、思い出したように少し焦った口調でシンへアンナは言った。

 「あっ! すぐシンを助けたらジャギと合流するんだった! シン、急いで!」

 「あ、あぁ……。……アンナ、……こんな時だが聞いても良いか?」

 「何!? 早く急がないといけないんだから……」

 「……聞き間違えちゃなければ、さっきシンデレ」

 「早く!!」

 「いやっ、待ってくれ!?」
 
 アンナの一段と増した走りを、シンは途中に自分を止めようとするバルコムの部下達を南斗孤鷲拳で払いつつ追いかけるのであった。









  部屋から聞こえる汚い男の悲鳴。部屋を出た瞬間にジャギは兵士達を一瞬にして秘孔を突き気絶させた後にそれは聞こえた。
 すぐに部屋の中へ戻るジャギ。そこには『正気の』サキと、胸に短刀を刺された状態で混乱するバルコムがいた。
 バルコムの体は泰山寺拳法により体を鋼鉄化させられる。別に自分の北斗神拳。南斗聖拳には通じないと思うが万全の策を取りたかった。

 自分の思い通りになり完全に高揚し油断した状態。それはサキの非力な力でも容易に短刀を刺せる絶好の機会だと踏んだのだった。
 それに今回の件の被害者はシンとサキ。自分が代行するのは趣旨違いだともジャギは考え、今回の策で進めようと考えた訳だ。

 「……よぅ、バルコムさんよ? 自分が利用されたと感じた今の気分はどうだ?」


 「かっかっが……貴様……最初から裏切って……」

 「元から俺はシンの友人だよ。……最もてめぇのような三流野郎に罠に嵌められたんじゃ、シンも腑抜けになったとは思うがな」

 「はっはっはっ……?! ふぅ~ううう……!!」

 「泰山流拳法の華山鋼鎧呼法か? ……無駄だ。そんな心臓に刃物刺された状態で呼吸法なんぞ出来ねぇよ」

 「くっ……ぐぅぅうう!!?」

 既に俺の背中へと逃げたサキ。その脇を鈍い足取りで逃げようとするバルコム。俺はシンが来るまで秘孔で動きを封じるか考えた矢先
 そのバルコムの前に突如瞬間移動のようにジョーカーが現れた。……拳法なのか別の何かなのか不明だな……こいつの技。

 「……ジョ、ジョーカー……! 手を……貸して……!」

 「ふむ……良いだろう、お前は一応同じ軍人だ」

 「あ、あり」

 「両腕でなく、右手だけで勘弁してやろう。自分の止めは自分で刺せ」

 え? と声を上げる暇もなく、ジョーカーが飛ばしたトランプは、バルコムの右手を切り落としていた。

 悲鳴を上げ血を噴出す右手首の部分を押さえるバルコム。俺はサキを後ろに庇いながらジョーカーの意図がわからずも警戒する。

 「……拳王軍との内通。それに今回のお粗末な軍政政略……お前の行動を黙認していたがな、バルコム。お前では統率者の資格はおろか
 軍人でさえ真っ当に出来まい。三日も経たずこの様な無様な結果に終わるのが良い証拠だ」

 「お……前は! 裏切るのか、私を!?」

 「裏切る? 私はお前に行動に『賛成』は示したが、『同盟』した覚えはない。サザンクロスは私の計算が正しければやがて
 拳王軍に侵略される。……どちらにしろ此処に長居する気はないのだよ。私は」

 始終氷のような表情でバルコムを見ていたジョーカー。そして今まで油断なく構えていた俺へ華麗におじきすると言った。

 「中々の拳法、感服しました。……ですが惜しいですね、駒として使うには貴方の性格は難儀過ぎるようだ」

 「……てめぇはこれから如何する気だ? 俺様は言っておくが、この瞬間からお前は危険人物だと判断するぜ」

 「褒め言葉と受け取っておきましょう。既に準備は仕上がっております……安心を、軍人は貴重な物資は残しておく物です……では」

 そう言い残し、未だ苦しんでいるバルコムを残しジョーカーは消える。……消化不良だな……無理してでも殺すべきだった気がするぜ。


 「……ジョーカー!? ジョーカー!? くそぉ! くそぉ~~~~~!!!!!」

 血走った目で立ち上がり、鬼気迫る表情で俺を睨みつけ、残った左手で俺を指しバルコムは叫ぶ。

 「いいか!? 私はここで死ぬ……だがなぁ! 『我々』は何時かこの世界を統率する。あの裏切り者が良い例だ!!
 お前が信じる者、絶対に裏切らない者!! 何時か貴様も必ず裏切られ俺と同じ結末を味わうだろう!! ヒヒヒヒヒヒヒヒ……!!」

 「……慣れているよ、とっくによぉ、そんなのは」



 タイミング良く駆け寄ってくるシンとアンナが見えた。バルコムはもはや年貢の納め時だと観念したのだろう。鋭い手刀を構え走る
 シンを睨みつけ、左手だけで妖鬼幻幽拳を繰り出そうと走り、叫んだ。

 


   「何故だ! 何故俺様の計画は失敗したぁ!?」


   

                         『南斗飛龍拳!!!』


   「……貴様には愛する者を守ろうとする欲望……執念が足りん!!」



  最後にバルコムは原作通りげぼう゛ぁ、ばぼば!! と断末魔を上げてシンの手によって命を絶たれ今回の反乱は幕を閉じた。

 ……だが、ジョーカーが残した不気味な不安がサザンクロスへと残る。これに関しては南斗の三割程の部下と兵器を連れて
 去ったジョーカー達を倒さぬ限り晴れる事はないだろう……。











  「……おいガキ共! この果物は俺様が先に買おうとしてたんだ! 引っこんでろ!!」

 賑わっている商店。その一つで大男が子供相手に凄みを利かせている。泣きそうな顔で、『でも……母さんが好きな物』と引かない子供。

 「てめえの親の事なんぞ知るか! 早くどかねぇとぶっ倒」

 「ねぇねぇお兄さん、ちょっといい?」

 「あん? ……何だよ女。お前も欲しいのか? ……へっへっへ、俺の相手してくれるんなら考えても」

 「ふん!!!」


                           キ------ン☆!!!!


 「……あっ……た……!?」

 とある部分を両手で押さえて倒れる男。それを見た女性は拍手。見ていた男性達は腰を引きつつ自分の事ではないのに痛そうにしていた。


 「……子供相手に見っともないったら……おばさん! 私はそっちの果物五個お願いね!」

 ありがとう! とお礼を言って立ち去る子供に手を振りつつ、果物を抱え多少の注目を浴びたアンナを待つ、一人の幾分強面の男。

 「待っていた? 早く果物二人の所へ持っていこう」

 「……お前はよ。もう少し厄介事は放って置けよ。……俺の心臓がもたねぇ」

 「良い事してるだけじゃない。こんな事で心臓駄目にしないの!」

 ケラケラと笑うアンナへ、ヘルメットを脱いで素顔のジャギは額の星の形の傷跡を撫でながら異様に疲れた顔を作る。

 ……バルコムが死んだ後。あっさりとシンによってサザンクロスの政治は戻り、今回のような事が二度と起こらぬように政策も
 見直されるようになった。……二日は呑まず食わずなシンだったが、『これ位は修行中は何度があった』と俺の心配も余所に
 すぐに問題点の改善へ取り掛かっていた。……サキの事になるとべた惚れだな、本当に。

 ハートやナリマン、テムジナ率いる反抗勢力に関しては昇格、そしてバルコム側の兵士は追放と言う形に収まった。
 もっともバルコムの率いていた兵士達はほぼジョーカーの手中にいたらしいのでほとんどがあの時にサザンクロスを去ったらしいが……。


 「……未だ何か起こりそうだよな。……頭が痛いぜ、ったく」

 「けど、『今回』は沢山味方がいてくれるじゃない。大変だったら助けて貰う。簡単でしょ」

 「……言ってくれるよなぁ、お前は」

 アンナを撫でると嬉しそうに笑う。……こいつがいると何でもやれそうに思えるから安心する。……こいつと離れ離れになるなんて
 考えられない。そんな事は万に一つでも起こりえないように、俺はもっともっと強くならなければ……。そうだ、もっともっと。

 アンナが小さく焦った声を上げる。意識を戻し何が起こったか確認すると紙袋が避けて果実が転がっていた。

 安心しつつも果物を拾おうとすると、目の前にローブとフードで顔を隠した正体不明の人物が果物を拾い上げた。

 「あ、ありがとう」

 「すまねぇな、拾ってくれて」

 礼を言い、受け取ろうとする俺とアンナ。だが、そのローブの人物は無言で俺達を観察している。……何だ?






  

   「……『輪廻を破壊し異邦人』と『原初の死兆星を負う方』……間違いないですね」






  ……あ? 何を言っているんだ。こいつは……? だが、嫌な予感がする。先ほどの願いを吹き飛ばすような、嫌な予感が。

 ジャギとアンナ。二人へとフードをその目の前の人物は外す……女性だ。そしてじっと二人を静かに吸い込まれるような瞳で、女性は告げた。



  
   


  



     「……お二人に告げに参りました。『死の運命(さだめ)』が、貴方達に迫っております」











  あとがき



 




Is this the rakangeki? (これは羅漢撃ですか?)

 

 No, This is a pen.   (いいえ、これはペンです)


 OK, but, IS this the RAKANGEKI?(わかりました。なら、これは羅漢撃ですか?)

 No! This is Yuria.  (いいえ! これはユリアです)




[25323] 第五十七話『星の予言の詩』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/28 12:03



   昔、シンと対峙しあっていた時と同じ場所のホテルの一室で、俺はアンナと共に息苦しさに包まれた部屋で女性と向かい合っていた。

 予言士、そう言っているがアサムに一刀両断された奴とかの事では決してない……ましてや、あいつは男だったし。

 ……こいつはサクヤ。確か拳王軍に彗星の如く突如来訪した予言士。その正体はガイヤの実妹、黒山陰形拳のもう一人の伝承者……
 と説明はされているが、俺からして見ると胡散臭い人間の一人でしかない。

 「……それで? 俺とアンナが死ぬってのは如何いう了見だ?」

 「……詳しい話の前に一つ確認が。貴方はジャギ……それで間違いないですね?」

 その言葉に頷く俺。それを見ると深い溜息を吐くサクヤ……いきなり溜息を吐かれるとこっちも少し腹が立つぞ……っと話しが逸れた。
 サクヤは暫し黙考を続けてから、重い口を開いた。

 「……私の正体を……『貴方達』は知っている。……それも間違いないでしょうか?」

 その言葉に一瞬冷静さを失いそうになる。何故知っているんだ? ……いや、それはまた置いておこう……俺達は頷いた。

 「お伺いしても?」

 「……お前はサクヤ。黒山陰形拳伝承者の一人。ガイヤの実の妹……知りたかったら教えてやるが、おめぇ拳王と聖帝に」

 「間を割って殺されるのでしょう。存じて居ます」

 俺が先ほどからペースを崩されている意趣返しとして意地悪く先の事を言おうとしたが出鼻を崩される。しかも尚悪いことにこいつは言った。

 「ですが、もはやその『未来はほぼ消えています』これからの貴方達には役には立ちのしない物の一つです」

 「……え? 未来が消えているって、如何言う事?」

 今まで観察に徹底していたアンナは疑問の声を上げる。……アンナも俺と同じく転生している。そりゃ俺と同じ疑問は持つだろう。

 「……まず、初めから話すべきでしょう。私は核が落ちる一月前までは、砂漠の村で暮らしていました」

 



 ……夜空を見上げ星の動きを見ていた自分。そこへ突如若い青年とおぼしき者が現れました。
 当たり前のように私に気配を悟らせず現れた美しい風貌(今は思い出しても顔ははっきり思い出せない)の青年はこう言いました。

 『……預言の従者……報われなき愛に倒れし者……汝に託そう』

 そう青年は言葉を紡ぎ、私の額へと指が触れると辺りの夜の闇は太陽が出現したかの如く輝き……私にはある景色が流れ込みました。


 



 「……思えば、あれは神が何かだったのでしょう。……私は身動き一つ、あの時はただじっと意識を保っている事が精一杯でした」

 「……それで俺達の事を知った……と? 眉唾もんの話しだが、俄かに否定出来ねぇな」

 「私達がこうして居るのも奇跡とかそう言う類だもんねぇ」

 アンナは楽天的な笑みを浮かべ声を出す。少しだけ雰囲気が和らげた気がするが、サクヤの言葉はすぐに空気を元のように重くした。

 「……貴方達の出来事もその景色の中で知りました。……貴方達の行いを私は否定する気はありません。……ですが肯定も出来ない」

 「あのよぉ、もう少しストレートに言ってくれて構わねぇぜ? 俺もこっち側で長年生活しているが、未だ前の世界での知識は
 持っているから頭はそんな悪くねぇつもりだ。……アンナはちょい天然だから良いとしてな」

 「ねぇジャギ、その言い方だと私が少し頭が悪いって言い方見たいだけど?」

 「実際そう言う行動し過ぎだろ……痛ぇ!? つねんな! つねんな!!」

 「話を戻しても?」

 サクヤの強い口調に姿勢を戻す。雰囲気を戻した俺達に少しだけ息を吐いてから……俺達には顔面を叩かれるような言葉を吐いた。

 「……貴方達が知る未来。……それは貴方達が星の動きを大きく変えた事により崩れ、最も悪ければこの世界その物が滅びます」


 『……え(は)?』

 俺達の愕然とした呟きに構わず、サクヤは続ける。

 「……小さな例では、貴方達がついこの前助けた女性。あの女性は本来KINGの軍勢によって死ぬはずでしたが、KINGは焦がれた
 愛により穏やかな人物になり、彼女は勇敢な気性にならず普通の女性に戻りこの地で暮らすようになりました」

 俺は記憶を掘り返す。……確かにジェニファー……原作ではジーナ村の女戦士のはずだったが、『ここ』ではシンが暴政を
 する筈もないので戦士になる必要はなかった。……テムジナもそう言う意味では同じようにシンの運命の犠牲者だった……。

 「……ある意味一番最悪の行為は……貴方達が南斗鳳凰拳の前代の師を救ってしまった事です」

 「はぁ!? 何で俺達がオウガイを助けた事が最悪の行為なん」

 「多くの命を救った。……ゆえに多くの命が奪われる。……その様な光景を見た事は?」

 その言葉にあ!? と口を押さえ青ざめるアンナ。俺が心配して声をかけると、弱弱しく言った。

 「……『わたし』が高校の時見た映画で知っている。飛行機事故を予知夢で回避した主人公と主人公の周囲の人間が
 『運命の修正力』で次々死んでいくって話し……!」

 






   ……    ……!!!!??     っておいおいおいおい      まさか     まさかよぉ!!?





 「……到来すべき星と消える星が崩れ去り、大いなる宇宙が崩れ去ろうとする。……このままではお二方、いえ、我々の
 周囲の人間が全て破滅の未来を辿ります。……お二人の知っている知識の未来よりも、更に悪い未来に……」







 ……暫く何も言えなかった。……言えるはずもなかった。……俺、アンナ、……そして昔過ごした仲間が……全員死ぬ?
 そんなのは御免だ。俺が死ぬのは未だしょうがないと割り切れる。……だがアンナだけは、アンナが『もう一度』死ぬ? そんなの……




 「……けど、知らせに来たって事は運命を回避する術はあるんでしょ? 映画でもそんな方法はあったよ? ……記憶曖昧だけど」

 アンナは顔色を幾分取り戻し、そうサクヤへ問いかける。……! そうだ、態々破滅を伝える為だけに来たって事はねぇだろ!

 「……方法はあります。……まず変えてしまった星の軌道は戻せません、それは神だろうが悪魔だろうと万理の絶対です」

 「……まず、星々の未来を変えた人物から運命は災いを振りかざします。覚えはないですか? ここ数日波乱や凶兆に遭った事は?」

 「……そういや大した事はなかったとはいえ、サザンクロスに向かうまでの間はモヒカンに出くわした数は尋常ではなかったな。」

 「……確かに世紀末だからって納得していたけど、あれは可笑しかったよね。着いたら着いたでシンとサキが拘束されたし……」

 ……それらも全部運命の修正力の所為ってのか? ……冗談じゃねぇぞ。

 「……話を少しだけ戻しますが、貴方達が前代の南斗鳳凰拳伝承者を救った事により、聖帝は文字通りの聖帝としての星の輝き
 となりました。……私個人は素晴らしいと感じますが、それによりリュウロウ・カレン等の南斗聖拳108派の方達の死の定めは
 貴方達へ降り注ぐ結果へと陥っています。……もしくは南斗の強き星達に全てが降りかかろうと……」

 「お、おいおいちょっと待て? リュウロウ……は確か南斗流鴎拳の使い手で、カレンは南斗翡翠拳伝承者だっけか? 
 二人とも外伝の作品の人間だろ? 何でその運命が……」

 「外伝……と言うのは解りかねますが、この世界の星は多くの星で構成されています。……今の私には時折複数の位置を星が
 交差したり、あるはずない場所に星が出現しているのが……今までにない星の変化の現れです」


 ……って事はあれか!? 外伝作品も全部巻き込んでの回避した概念的な『死』が俺とアンナに降りかかるってのか!!?


 「……え? それってほぼ詰んでない? ……私もうギブアップ寸前なんだけど、何か話し聞いただけで無理ゲーって感じ……」

 頭を押さえるアンナ。……いや、待てよ? ここで疑問が浮かび上がる。

 「……いや、サウザーがまともになったとしても。ラオウ……の兄者が戦争するだろう? そう言う回避は不可能な争いの中で
 普通なら死ぬべき人物が死んだりとかするんじゃねぇのか?」

 「……本来ならそうなのでしょう。……ですが星の動きはもはや大きく変わってしまった。背負うべき星は背負えなくなった……
 と言うべきでしょうか? ……一部を除けば他の人物に正史の災厄が降る事はもうないでしょう……それだけは安心を」

 ……正直、俺とアンナにも死の運命ってのが降らなければ尚良いんだけどな。

 俺の表情を見据えてか、言葉を続けるサクヤ。

 「それは無理な願いです。……貴方達は投石を起こした張本人。……ましてや一番の原因は、そこのアンナ……貴方です」

 「え? 私?」

 自分を指して鳩が豆鉄砲を喰らった表情でサクヤを見る。頷いてサクヤは続けた。
 「……貴方は『原初の死兆星』を負う方。それを免れた事がこの世界の歪みの切欠となるのには十分だった……」

 「ちょい待て!? アンナが『原初の死兆星』ってのは如何言う意味だ!?」

 「言葉の通りです。貴方の付き人は最初に死兆星を負い、そして死んだ……。『ここ』では見なかったかもしれませんが、本来
 はそれが軌道すべき運命の流れであった……。『あなた』が運命を破壊する事を望み、結果命を救えました。
 ……ですが終わりではない。これからも貴方達が一緒の限り災厄が続きます。そう、『貴方達が一緒の限り』」





                  


                      ……あん?           ……俺と、アンナが……一緒……なら?








 気がつけば俺は立ち上がりサクヤへと鬼気を纏い睨んでいた。

 「……如何言う意味だ? アンナと俺が一緒にいれば……アンナが死ぬと?」

 「……『死を逃れし者』、『死を変えた者』。両者が側にいれば『死の運命』は引き寄せられるでしょう。……間違いなく」

 「……俺達が離れれば……『死の運命』とやらは襲って来ないのか?」

 「……身に起こる災厄は軽減します。……お二方が一緒では間違いなく突如何かに命を奪われる。死を逃れられない病が発症する。
 不可避の自然災害に襲われる……もっと恐ろしい何かが」


                         「黙りやがれやぁ!!!」




 我慢出来ず冷静さを欠いて、俺は反射的に置いていたカップをサクヤに一歩間違えれば命中するように蹴り付けていた。

 押さえるように、俺の怒りと不安を失くすように横から俺を抱きしめるアンナ。……これを失くせと。俺にとって、命より大事な……嘘だろ?


 「……私達が、離れて過ごせば一人でも何とか切り抜けられる位の出来事で済むんでしょう? ……簡単だよね、ジャギ? ジャギは
 誰にも負けない位に強いし、私だって普通の男よりも腕っぷしは強いんだからさ、楽勝だよ……だから泣かないで? そんなに」


 ……アンナに言われるまで、俺は涙を流している事に気付かない。それをじっと見守っていたサクヤは、押さえた声で言った。

 「……もう一つ、伝える事が……ご安心を、これは吉兆です。……巨星の落墜と共に、お二人の運命は解放されると、私に
 神託を告げた方は最後に言いました。……巨星とは」

 「ラオウ……かよ。……なる程な、って事は救世主様にすぐさま倒して貰えば良い訳だ。簡単じゃねぇか」

 焼け糞気味に言い放つジャギ、だが頭をハンマーで殴られたような衝撃が次の言葉で襲う。

 「……北斗七星を宿す宿命の男の手により終わる事……これも予言の一旦です。……そしてお二人にこれを伝える事は
 心苦しいですが、運命の始まりは約一年後からなのです」


 「はぁああああ!!? って事は何か!? ケンシロウが行き倒れになってリンと出会うのはこれから一年後だってのか!?」


 「ええ。……今から半年後に軍編を整えた拳王軍は聖帝軍と激突し合い両者痛み分けにより一旦撤退……。
 その半年後に北斗の宿命の男子と、南斗の慈母の女子の下に波乱の使者訪れ運命の時を告げん」

 「……波乱の使者?」

 「貴方です。……ジャギ」

 「あ?」

 サクヤは俺を見据えて言った。

 「……貴方が北斗の子の元へ訪れ七つの傷をつける切欠を起こします。……そして貴方は非情さを伝える為……地に倒れ伏す光景
 を私は目にしました、……逃れられない真実かは……解りませぬが」











  「……サクヤ、てめぇはこれから如何するんだ? 拳王の元に行くのかよ?」

  「……もはや私に予知の力はほとんどありません。……星の告げるまま旅をしようかと思います」

  「……ガイヤの事は良いのか?」

 「構いません……兄の死の兆しは見えております。……諭しても聞きはしないでしょうから……さようなら、未知の未来の中に
  貴方達の幸福がある事を……祈ります」

  「……けっ、とっとと失せやがれ」

  「……何処かで良い相手が見つかる事を祈るね。……まあジャギ以下の男が見つかる事は多分ないと思う……イタッ!?」

  「おめぇは減らず口が多いんだよ!」

 拳骨を繰り出すと涙目で睨みつけるアンナ。……サクヤは最後に一瞬だけ微笑を見せ、夕日の沈む方向へと去って行った。


 「……約一年半、お前と会っちゃいけねぇってよ」

 「一年半の間に別行動していたほうがベターって事でしょ? 会っちゃいけないとは一言も言われてないじゃん?
 サザンクロスで決められた所で手紙置いて定期的に連絡を取るって方法もあるよ? あと伝書鳩とか?」

 「何で最後疑問系だ? ……ああ、モヒカンに食われる可能性もあるか。……まあシンに手紙預けてもらうのが一番かく、じつ……」


  俺が言い切る前に、アンナは俺の胸元に飛び込み抱きついていた。……顔を震わせて泣いている。……こんなにも、アンナが小さい。


 「……いや、だよぉ……離れ、たく、ないよぉ……ジャギぃ……!!」


 「……っ」


 「せっか、く……やっと一緒にいら、れるって……ずうっと、ずっとお爺ちゃんお婆ちゃんになるまで……いっ、しょに……!
 何で? 何でなの!? 何で今更ジャギと離れなくちゃいけないの!?」


 「……アンナ」


 「運命なんてそんなの如何でも良いよ! 私は……私はもう……はなれたくないよぉ……! ジャギ……ジャギ……!!」



 





  泣きながらしがみつき、俺の事を呼び続けるアンナに。俺はずっとアンナの名を呼びながら、アンナが泣き疲れ眠った後に
 星を見上げて……決意をした。

 ……そうかよ。てめぇが、『運命』とやらが襲ってくるならかかって来やがれ。……俺は『ジャギ』だ。……『俺』はジャギ。

 ……この一年の間に俺は悪魔になる。神すら屠る悪魔となる。……旅の中でアンナの兇刃となるスベテヲハカイしてやる。


 






  ……アンナ     お前だけは俺が守る。           ……お前の笑顔は     ……お前だけは











  あとがき

     ジャギ>俺の名前を言ってみろ。
      汚物>ジャギ様ですね? レギュラーですか? ハイオクですか?
     ジャギ>俺の名前を言ってみろぉ!
      汚物>わかりました。レギュラー満タンですね。お煙草は回収しますか?
     ジャギ>北斗千手殺!
      汚物>わかりました。ヘルメットの方はお拭きになりますか?
     ジャギ>……頼むぅ!!
      汚物>ありがとうございます。レギュラー満タン完了しました。お支払いは現金、カードどちらにいたしますか?
     ジャギ>こいつはどうだぁ!
      汚物>わかりました、ジャギメダルでのお支払いですね。
     ジャギ>北斗羅漢激!!
      汚物>有難うございました! またのお越しをお待ちしております!!




  こんな夢を見た。……俺疲れてんのかな(´・ω・`)








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