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[25132] タケルちゃんの逆襲 ~Takeru's Counter Attack~
Name: ごじゃっぺ◆cedeedff ID:f61f25af
Date: 2011/01/21 16:08
はじめまして

今回、初めて投稿します。
初めてのことなので、至らないこともあると思いますが、どうぞ宜しくお願いします。

この物語は、マブラヴ オルタネイティヴ本編後、やっぱみんな一緒が良いんだ!という作者の我侭な思いの下、
タケルちゃんにもう一度“あの世界”で生きてもらいます。

作中の設定などは、本家のものを使わせていただいてます。
・・・・かなり作者の好み、勝手な考えが反映されていますが、あしからず。
オリジナルな部分も顔を出すこともあります。――が、平に御容赦を

気楽に読んでいただければ幸いです。



[25132] タケルちゃんの逆襲 ~Takeru's Counter Attack~ 第1話
Name: ごじゃっぺ◆cedeedff ID:f61f25af
Date: 2011/01/04 17:01

――閃光が爆(は)ぜる。
大切な仲間(ひと)がその光に飲み込まれていく。オリジナルハイヴの核と共に――

たくさんの戦友(とも)と共に出撃した横浜基地。
そこに無事帰還したのは社霞と白銀武、2人だけであった。そして、白銀武を因果導体としてしまった原因である鑑純夏が息を引き取ったことで、白銀武は因果導体ではなくなっていた。香月夕呼と社霞に見送られながら、白銀武は光につつまれ “元の世界”へと戻った。
戻ったはずだった――



◇ ◇ ◇ 《Side of 白銀武》


 暗い深海からゆっくりと浮上するように、かつて“恋愛原子核”はたまた“因果導体”と呼ばれた男、白銀武は目を覚ました。

 ――ん・・・んぁ?

目を覚ますと、見慣れた天井があった。・・・・・あれ?
なぜだかとても懐かしいと思っている自分に気が付いた。おかしいな、と思いつつ体を起こした瞬間――

 「――っ、ぐっ!?」

とてつもない頭痛が襲ってきた。そして流れ込んでくる大量の情報―――

 「っくぁ・・・つぅ~・・・」

それは、何度目になるかも分からぬループ、“BETA”という生物と戦っている世界、オルタネイティヴ計画、訓練生として入隊したこと、12・5事件、横浜基地防衛戦、甲21号作戦、横浜基地防衛戦、桜花作戦。たくさんの人間が死んだ。そして大切な仲間、かけがえのない戦友である彼女たちもまた・・・
いつの間にか、目の前が涙で霞んでいた。

 「――なんだ、今の・・・夢なのか?」

夢にしてはやけに鮮明に覚えているな・・・と思ったが、あまりにも大量の情報が流れ込んできて混乱しかけていた頭を落ち着けるため、とりあえず起きようとベッドに手をつくと―― むにゅっ、とベッドではない柔らく暖かな感触があった。

 「んぁ?」

なんだ?と思いつつ、その感触がした方を向くと(もちろん、ムニュムニュと感触を確かめながらである) 見知らぬ少女が、寝ていた。

・・・・・

 「いやいや、見知らぬじゃねぇっての。この顔はさすがに知らないはずが無いだろ・・・」

隣で寝ていたのは、ガキの頃から一緒で家が隣で部屋も向かいの幼馴染“鑑純夏”であった。起きる予兆なのか、悩ましげに体を動かしている。

 「純夏~?・・・爆睡中か」(まだムニュムニュしている。無意識に)

なんで純夏が俺の隣で寝てるんだ?昨日なんかあったっけ?いきなり一緒に寝ちまうようなイベントは何もなかったはずだ――

 『んぅ・・・ん~・・・・・・・へ?』(無意識にムニュムニュ)
 『・・・タ、タタタタタケルちゃん!?』

つーか、何で俺たちは制服を着たまま寝てんだ?

 『はわ・・・はわわわ・・・・・』(ムニュムニュ)

てことは何?さっきのは夢じゃない?もしかして、また戻ってきた?いや~・・・そんなバカな。あれ?それに確か、あの世界じゃ純夏は・・・ってことは夢?

などとブツブツ独り言を言っていたが、俺は何かを感じていた・・・
が、俺は気付いていなかった。こうして一人考えを巡らせているうちに、情け容赦の無い明確な殺意が迫ってきていることに――

 「――っ!!」
 『な・・・な・・・なな・・・』(ムニュムny・・・)

急に悪寒のようなものを感じ、全身に鳥肌が立った瞬間――

 『なにするかぁぁぁぁ~!!!』
 「へ?」

まったく予期していなかった怒声&凄まじい衝撃が襲った。

 「チョバムッ!?」

不可解な悲鳴を残し俺は星になっ・・・・・・・てたまるか。

錐揉み回転しながら吹っ飛んでいたが運よく背中から壁に激突したものの、後頭部をしたたかに打ちつけたがダメージはほとんど無いようだ。

 「あがぁ~~~~~・・・・・って、あら?あんまり痛くない?」

心なしかガッシリとした体になっている気がする。だとしたら俺は・・・・・・いや、今はそれより――

 「す、純夏・・・さん?」

いつの間に起きたのか、全身から禍々しいオーラを出し先ほどからこちらを睨み付けている幼馴染に恐る恐る声をかけてみる。

 「――ッ!!」
 「――うぉっ!?」

もの凄い形相で睨まれた。マジこえーヨ・・・内心ビクビクしつつも、俺は標的との接触を試みる。

 「い、いきなり何しやがる純夏!」(あ、どもった・・・)
 「うぅ~~~~~。それはこっちの台詞だよっ!起きたら隣にタケルちゃんが居るし、タケルちゃんはその・・・む、むむむむ胸をも、揉ん・・・触ってるんだもんっ!」
 「は?・・・あ~・・・」

そういえば起き上がるときに何か触った気がする。まったく意識してなかったから、正直なところ覚えていないのだが、微かな感触が手に残っている気がする。俺はまた無意識に、その感触が残る手を握ったり開いたりしていた。

やはりアレは言っておかなければならないな、と思い純夏の方を見ると、純夏は布団を手繰り寄せ、それで体を隠すようにし涙目で頬を紅く染めて「うぅ~~~~~」と唸りながら睨んでいる・・・・ちょっと可愛いのがムカツク。

 「なぁ純夏、念のため確認しておくが、それが不可抗力だって分かってくれるよな?」
 「・・・・・」
 「あ、そーそー。これもお約束だから一応言っておくな?オマエ、もう少し胸は大きくなっ――」

ここまで言って初めて俺は気付いた。純夏から出ていた禍々しいオーラが先ほどよりも膨れ上がり、今にも爆発しそうなことに――

 「タ~ケ~ル~ちゃ~~ん・・・?」

ついに純夏がユラリと立ち上がった。

 「――!!ちょっ、ま、待てっ!落ち着いて話し合おうぢゃないか!暴力で解決なんて良くないっ!や、やめっ――」

直後、BETA突撃級顔負けの直線機動で、距離を詰めた純夏から繰り出されるは、伝説の――

 「バカ――――――――!!!」
 「ファント――――――――――――ッム!!!」

断末魔の叫びは、かつて封印された“左”の名だった――
ドスッ!という音と共に腹に伝説の左が直撃した。この衝撃にはさすがに耐え切れず、俺の意識は急速に闇の中へと落ちていった。


◇ ◇ ◇


懐かしい声を聞いた気がする――

 『―戦って生き残ったことを誇りなさい』

それは、自分を一から鍛え育ててくれた人の声に似ていた。

 『・・・白銀は強いな・・・・・』

それは、戦場での別れの間際、互いの胸の内を語り合った上官の声に似ていた。

 『あんたなら大丈夫・・・しっかりやんなさい!』

それは、未熟だった自分を叱咤激励し、背中を押してくれた先任の声に似ていた。

 『私の弱さを・・・許せ・・・・』

それは、死の間際に抱えていた思いを伝えてくれた、大切な人の声に似ていた。
 俺は―――

 『―――あんたは“この世界”の救世主よ』

それは、親友を犠牲にしてまで、人類の未来のためにずっと苦しんでいた人の声に似ていた。
 俺は救世主なんかじゃ・・・・・・
ただ、誰かを失って進む道じゃなくて、みんなで進んでいける道を――――――――


◇ ◇ ◇


 「――ちゃん・・・タ・・・・――タケルちゃんっ!」
 「―――んぁ・・・・・・あ?」

ユサユサと体を揺すられる感覚で、ゆっくりと意識を取り戻した。ズキズキと痛む腹をさする。パンチで気絶するって・・・・

 「いたたたた・・・・・・」
 「あははは・・・・だいじょ~ぶぅ~?」

さすがにやりすぎたと思ったのか、申し訳なさそうにこちらを覗き込んでいる純夏の顔が目の前にあった。

 「さ、さすがにファントムはきついぞ・・・っと――」
 「まぁ自業自得だよねぇ~。あ、ほら、なんか落としたよ~」

壁に手を付きノロノロと立ち上がると、その拍子に制服のポケットから何かが落ち、気付いた純夏がそれを拾い上げた。

 「これ・・・・・・」
 「ん?それって――」

落ちたそれは、幼き日の俺が純夏にプレゼントした“サンタウサギ”だった。

 「?――っ!う、ぐぅっ!?」

拾い上げたサンタウサギを眺めていた純夏の様子が突然変わった。――苦しそうに頭を抑え、崩れ落ちそうになる純夏を慌てて支える。

 「おいっ、純夏っ!どうしたんだ!?」
 「うぅ、ううううっ・・・・」

 純夏は呻くだけで返事はしてくれない。

 「急にどうしたんだよ・・・おい!純夏っ!!」

純夏をベッドに座らせると、俯いた拍子に長い髪に隠れて見えなかったうなじの辺りが見えた。首筋には少しだけ肌と違う色になっている部分があった。

 「ん?コレって――――・・・・・・――っ!?」

と、何かを思い出しかけたとき、再度強烈な頭痛が俺を襲った。そしてまたも流れ込んでくる大量の情報―――それは戦いの記憶であった――

 「つぅ~~~~~っ!?・・・・・嘘だろ・・・まさか、また―――」

俺はそこで思考を中断し、本来なら初めに確認すべきだった事を思い出した。
閉じられている窓の前に行き、深呼吸をする――

カーテンと一緒に勢いよく窓を開け放つ。と、最初に飛び込んできたのは埃っぽい空気と強い風だった。強い風で思わず目を閉じてしまったが、目を開くとそこにあったのは見慣れた幼馴染の部屋ではなく、壊れた戦術機に押しつぶされた家と廃墟と化した街並みだった――そして先ほどより鮮明に蘇る記憶――

 「はは・・・はははは――夢じゃねぇ・・・ははは・・・・」

 何故か、笑いが込み上げてきた。アレは夢じゃなかった。
何回もループして――BETAと戦って――そして皆は・・・・でも、これなら――

 「ははは・・・やり直せるのか・・・ははは・・・・なら、今度は――」

今度は、皆を護る――前は夕呼先生に迷惑かけまくったからな・・・今回は本当の救世主になって護ってみせる。
―――みんなが居なくちゃ俺が幸せじゃねぇんだよ!
そう考えたとき、不意に後ろから抱きしめられた。今この場所でこんな事を出来るのは一人しかいない―

 「す、純夏!?」
 「あははは・・・やっぱりタケルちゃんはタケルちゃんだね~」
 「――え?いや・・・んな事より、お前・・・」

言葉を続けることが出来なかった。純夏が人差し指で唇にそっと触れたからだ。

 「解かってるよ、タケルちゃん。自分の体の事は自分が一番よく―――」
 「・・・・」
 「でもね・・・大丈夫だよ、今度は――」

そこで純夏は言葉を切り、もう一度ギュっと抱きしめてきた。そして――

 ――ありがとう、タケルちゃん。今度は大丈夫だよ――

 「――っ!?」

純夏の声が聞こえた。いや、正確には聞こえたわけではない――声は、頭の中に直接響いてきた。俺は純夏の方に振り返ろうとしたが、純夏はガッチリ抱きついて、背中に顔を埋(うず)めていたので表情は見えなかった。

「今の・・・プロジェクションか?・・・・・じゃぁ、やっぱり純夏は――」
 「うん。首のパーティション見たでしょ?」

あぁ――と、頷いたが動揺が隠せないでいた。その動揺は、純夏には手に取るように分かってしまうのだが。
そんな俺に純夏は静かに、だが、しっかりとした口調で武に語りかけた。

 「タケルちゃんは確かに前の“この世界”を救ったんだよ。それは間違いないことなの――タケルちゃんは救世主だったんだよ、本当に。」

純夏の言葉は温かく、心に染みるようだった。

 「でも、その代償は武ちゃんにとってとても大きいものだったんだよね?」

そうだ・・・まりもちゃん、伊隅大尉、速瀬中尉に涼宮中尉と柏木、207のみんな、そして純夏も――みんな死んでしまった・・・・

 「でもタケルちゃん、本当はみんなを助けたかったんでしょ?だからまたここに戻ってきたんだよ、きっと」
  (――?俺は因果導体じゃなくなったはずじゃ・・・・確か、あのとき霞が)
 「うん。タケルちゃんを因果導体にしちゃってたのは私だったから。私が死んじゃったから、タケルちゃんは因果導体じゃなくなって終わるはずだったんだけどね~。あ~あ、戦いを終わらせてあげたかったのに・・・・もう、ホント我侭なんだからタケルちゃんは~~~」

 それまで少しシリアスな口調で話していた純夏が、急に呆れたような口調に変わった。

 「へ?」

この変化に対応できずマヌケな声を出してしまい、それも加えて更に純夏は呆れたようだった。

 「も~~・・・・しっかりしてよぉ~。タケルちゃんたちが、みんなを護りたいって強く思ったからループが起きたんだと思うよ?」
 「え――俺、たち?」
 「うん。他の並行世界のタケルちゃん達だよ。どこに居てもタケルちゃんはタケルちゃんだよね~~~考えることが一緒だもん」

あはは~、と純夏は笑っている。なんかよく分からんが、やり直せるというのならやってやろうじゃないか――

 「そうそう、それでこそタケルちゃんだね!」
  (純夏よ、頭の中の言葉にまで突っ込まないでく――「ふっふっふ~」れって・・・はぁ~~~・・・・あ、そういえば――)

 「なぁ、さっき何で倒れたんだ?」

色々あってすっかり忘れていたが、それは最初に聞こうとしていたことだ。

 「あ~~・・・うん。アレはサンタウサギを見たら記憶の流入が起きて、量子電導脳に一時的な負荷が掛かったみたい。もう平気だよ~」

と純夏は武から離れて手をパタパタ振りながら答えた。

 「そうか――」

良かった――と続く言葉を飲み込んだのだが、純夏がニヤニヤしながらこちらを見ていたので、俺は無言でスペンっ!と脳天に軽いチョップを喰らわせてやった。

 「った~・・・・・んふふ――」

チョップを喰らった純夏は頭を押さえたが、すぐに笑い出した。それに釣られて俺も笑い出した。

 少しの間お互いに笑っていたが、笑いが収まり深呼吸をした純夏が俺を呼んだ。
そして――

 「それじゃ、行こうよ――」

と告げた。ただ簡潔なだけの言葉だが俺には十分だった。俺は純夏のその言葉に静かに、けれど力強く頷いたのだった――



[25132] タケルちゃんの逆襲 ~Takeru's Counter Attack~ 第2話
Name: ごじゃっぺ◆cedeedff ID:f61f25af
Date: 2010/12/31 14:21
◇国連太平洋方面第11軍横浜基地・正門前桜並木◇ 《Side of 鑑純夏》


タケルちゃんと並んで、彼の英霊たちが眠る桜の木の前に立っていた。その木には前回までのループで死んでしまった仲間たち、A-01のみんなや元207小隊のみんなも眠っている。
・・・・私もここに眠ってるのかな?

 「今度こそしっかりやってみせます。だから、見ていてください――」

タケルちゃんは一緒に戦った仲間たちを思い出し、そう呟いたみたい。声は聞こえなくても、私には分かっちゃうんだよね~~。あはは・・・・
そして私は目を閉じて――


   ――みんな、今度は絶対に大丈夫だよ――


声には出さずに心の中で言った。
それに、元の世界でクラスメイトだった頃に始まったタケルちゃんをめぐる女同士の戦いもある。前回のループでは武は純夏しか見ていなかったので、周りのみんなに少なからず寂しい思いをさせてしまったことを悔やんでいるのかもしれない。
それにしても、どこに居ても色恋沙汰が発生してしまうタケルちゃんは、やっぱり恋愛原子核なんじゃないかなぁ~と、しみじみ思った。
 
 「さて――」

英霊たちへの挨拶を済ませ、次にやるべきことと言ったら“あの人”に会うことだろう。
横浜基地副司令にして、タケルちゃんがこの世界で戦っていくために、必要不可欠な人物――香月夕呼博士に。

 「なぁ純夏――霞に伝えてくれないか?救世主が来たぞ~って夕呼先生に言ってくれってさ。たぶん、あの部屋に居るはずだから」

タケルちゃんは、ニヤリと悪戯をする子供のような笑みを浮かべながら言った。そしてそれは、私が高いレベルのプロジェクションとリーディングが可能だから出来る裏技。

 「りょ~か~い。え~と、霞ちゃんは――っと。あ、居た×2」

そして、私はタケルちゃんと同じような笑みを浮かべながらプロジェクションを開始した――
うっしっし~~。霞ちゃん驚くかな~~~



◇地下19階◇ 《Side of社霞》


香月博士の執務室の隣にある薄暗い部屋。そこが私の場所。部屋の中央には、ボンヤリと青白く光るシリンダーがあり、私はいつものようにそのシリンダーのそばに立っていた。
しかし――

         ――そのシリンダーには何も入っていない――


ふと、何かを感じシリンダーから意識を外した瞬間――はっきりとした映像が頭に流れ込んできた。

 「――っ!!?」

これは・・・プロジェクション?
その映像には始めに二人の少年と少女が登場し、あとから十数人の女性が出てきた。中には自分の姿もある。他にも知っている顔は居た――この基地の訓練部隊と特務部隊の人たちだ。
――そして、その映像はBETAとの戦いだった。さっきの映像に映っていた人たちが次々と傷つき、一人、また一人と居なくなっていった。そして、最後に残ったのはあの少年と自分だけ。あの少年は少女を抱き泣き叫んでいた。
その映像が終わると、すぐに次の映像が入って来た。また戦いの映像かと身構えた霞だったが、それは杞憂だった。

 「――?・・・・・・あ―――」

再びあの二人が登場し、彼らの周りには他の面々も居る。彼らはいずれも笑顔だった。もちろん自分も。今度は香月博士も居る。だが、その映像の最初に映った二人は見覚えが無かった。誰だろう?と考えた瞬間・・・・・

 「はじめまして。俺はシロガネタケル。こっちがカガミスミカだ。宜しくな~」
 「こんにちは、霞ちゃん!よろしくね~~」

考えたことに返事をされ、ビックリしてしまった。
映像もいつの間にか見覚えのある場所に移り、そこに居るのも最初の二人だけになっていた。二人が居るのは基地正門前の桜並木だ。
そしてその少年、シロガネタケルが――

 「これから行くよ。みんなを、この世界を救うために――」

微笑みながら、そう告げた。

 「だから夕呼先生に言ってくれないかな?救世主が来たから迎えに行こうってさ」
 「霞ちゃんごめんね?でも、お願い!!」

初対面の人間にいきなり「基地の副司令を連れてきてくれ」なんて言われても普通は従うはずが無い。だけど――

 「分かりました」

と答えた。しかし、それは霞だけが判断できる要素があったからこその返事だろう。

 「ありがとな。んじゃ正門で待ってるぜ!」
 「ありがと、霞ちゃん。またあとでね~」

そこで映像は消えた。
私は一度だけ空っぽのシリンダーをそっと撫でたあと背を向け、その部屋を出て行った。



◇香月夕呼執務室◇ 《Side of 香月夕呼》


自分のデスクに腰掛け、自他共に認める天才は、数式のようなものがビッシリと並んでいるプリントを握り沈思黙考している。周りには同じようなプリントが所構わず散乱している。

 「・・・・・」

悪態を吐いたり喚いたりしても何も解決しないのでやらないが、内心はそうしたい気持ちでいっぱいだった。私がやらなければならないことは00ユニットの完成、ひいてはオルタネイティブ第4計画の完遂である。
しかし、00ユニットを造るのに必要な半導体150億個を手のひらサイズにした、量子電導脳を作ることが出来ないのだった。
何が足りないっていうの!?あたしの理論は完璧なはずなのに――

 「はぁ・・・」

本日何度目になるか分からない溜息をついたとき、隣室と繋がっている扉が開いて、その子が部屋に入ってきた。

 「あら、どうしたの?社」

その珍しい来客は私の問いかけには答えない。
そのまま社は無言で私の傍まで来て、ポツリと呟いた。

 「この世界を救ってくれる人たちが来ました」
 「―は?」

天才の頭脳をもってしても、社が何を言っているのか理解できなかった。

 「社、どういう――」

事か?と聞こうとする言葉を遮って社が白衣の袖をそっと引っ張り、

 「博士を呼んで来てくれと言われました。正門で待っているからと」

社にしては珍しく強引に引っ張って行こうとしていたので、夕呼は息抜きも兼ねて付き合ってみることにした。――まだ私は知らない。本当に世界を救うことが出来るかもしれない人間が自分を訪ねて来ていることに――

 「ちょっ・・・分かったから引っ張らないでってば」

そう言っても社が袖を離すことは無かった。
なんだか子連れのような・・・・・・・・・これ以上考えるのは止めよう。自分で考えて虚しくなってきた・・・・



◇正門付近◇ 《Side of 武》


 「・・・まだか?」

門兵に見つからない位置で夕呼先生たちが来るのを待っている。

 「そんなに早くは来れないでしょ~。地下19階なんだよ?」
 「まぁ、そうか・・・・」
 「それよりさ~~霞ちゃん、あんまり驚いてなかったね」

そう。最後の自己紹介のあたりは、ほんの少し驚かせようと思っていたのだが、あまり驚いていなかったようだった。ちょっと悔しい・・・

 「だな~。でもあとで謝っとかないとな・・・あんま見たいもんじゃないだろ、アレは」
 「そだね・・・・・・あ、アレ。来たんじゃないかな?」

と、純夏が正門の方を見ながら言ったので見てみると、白衣に身を包んだ人影と黒い服に身を包んだ小柄な人影が基地施設から出てくるところだった。

 「お、ホントだ。んじゃ、行きますか―」
 「お~~!」



◇横浜基地正門◇ 《Side of 夕呼》


社に引かれ、わざわざ上まで出てきたのに正門は門兵以外に人影は無かった。

 「何よ。誰もいないじゃない・・・」

社に愚痴っぽく言ってしまったことに後悔したが、わざわざ連れ出したのだから何かあっても良いんじゃないか・・・と思っていたのだ。少し期待していたが仕方ない、気分転換だと割り切り、また仕事に戻ろうかと考えていると社が袖を引いた。

 「――来ました」

社はそう言って桜並木の方を指差した。釣られてそちらを向くと、こちらに歩いてくる二つの人影があった。

 「―――あれがシロガネタケルとカガミスミカ?」

ここに来るまでの道すがら、どういった理由で連れ出したのか聞いたのだが、「二人が呼んでいました」と答えただけで他のことは喋らなかったが、二人とは誰か?と尋ねるとシロガネとカガミとだけは答えたので、一応は名前らしき情報はある。

 「――はい」
 「そ。アレが救世主ねぇ~。どんな奴なのかしらね・・・・」

そう言った私の表情は、自分では分かっていなかったが、久しぶりに活き活きとしたものだった。



◇ ◇ ◇ 《Side of 武》


俺と純夏が正門に近づくと、門兵が出てきたが夕呼に止められたようで大人しく待機している。余計な事は省略したかったので、俺にとっては有難かった。

 「どうも。夕呼せ――香月博士。白銀武と――」
 「カガミスミカね?」
 『はい』
 「で、あたしを呼んだって話だけど。何のために?」

夕呼先生は怪訝な顔で尋ねてきた。それもそうだろう。この世界では初対面の人間に急に呼び出されたのだから。

 「ありゃ、聞いてませんか?世界を救うためですよ」
 「・・・・・どうやってかしら?」

その問いに、一拍おいてから答える。

 「第4計画の成功をもって―」と。
 「・・・・・・」

夕呼先生は先ほどよりも顔をしかめるだけで、何も言ってこないので俺は一気に畳み掛けることにした。

 「計画は順調ですか?・・・第5計画、そろそろヤバイんじゃないですか?」
 「・・・・・っ!?」
 「空の上の船とか・・・あぁ、半導体150億個の件もありましたっけね」

半導体の話は、彼女の頭の中にしか無いはずの情報なのか、その言葉で先生の表情は急変した。

 「必要なら今すぐに協力しますよ?」

と表情はニヤリとさせながらも、心の中で純夏に謝りながら言った。純夏を00ユニットとして扱うことに抵抗がある。純夏は、幼馴染で大切な存在なのだから――

 「・・・・いいわ、ついて来なさい」

しばらく考え込んでいたようだった夕呼先生は俺たちに背を向け言った。
やけにあっさりだ。霞にリーディングさせていたのか?と思ったが、すんなりと入れるに越したことはないので、武は何も言わなかった。
それから少し歩いたところで武はこれから行うであろう身体検査を思い出し、先生にバレない程度の声で純夏に話しかける。

 「なぁ純夏。身体検査とかどうするんだ?」
 「――え?ん~・・・ハッキングしちゃえばどうにでもなるよ?」

心配しまくっている俺を余所にして純夏は事も無げに言う。

 「それでも血液検査とかあったらさすがにヤバいだろ!?」
 「あ~それもたぶん大丈夫だよ?あはは、タケルちゃん心配しすぎ~」
 「そうかよ・・・」

こいつ、自分がどれほど重要な存在か分かってんのか?と心配になったが、それ以上は何も言わずに先生の後を追った。



◇香月夕呼執務室◇ 《Side of 武》


 「4時間近く検査やら何やらやってたのにケロっとしてるわね」
 「まぁ俺は何度もやりましたからね。さすがに慣れましたよ。」

事も無げに言ってのけたが、正直ちょっとだけ疲れている。

 「さて、さっさと本題に入りましょうか。」
 「その前に一つだけ確認させてください。今は2001年の10月22日ですか?」

これだけは確認しておかなければならない。まぁズレていることはないだろうが。

 「ええ、そうよ。」

良かった。日にちが違っていたら、またおかしなことになっちまう。

 「で、一体何が目的なの?」
 「先程も言いましたが、オルタネイティヴ第4計画の成功とBETAとの戦いに勝利することです」
 「どこで計画のことを知ったのかしら?」

やはりこの人には全てを知っておいてもらわなければならない。俺は傍らに立つ純夏と一度だけ目を合わせ、お互いに頷きあう。そして――

 「始まりから全て話しましょう。少し長くなりますがよろしいですね?」

夕呼先生は無言で頷いた。

 「まず始めに。俺は元々、この世界の人間では無いんです―――」


◇ ◇ ◇


 「――というわけで、先生に会いに来たわけですよ」
 「そう・・・」

全てを話し終えると、夕呼先生は「そう――」呟いてから黙り込んでしまった。

 「あの、夕呼先生?信じられないようなら霞に確認してもらってください」

それなら少しは信じてもらえるだろう。

 「・・・・・あたしを呼ぶために社にプロジェクションしたのよね?」
 「は~い!あたしがやりました!!」

俺が返事をする前に、純夏が手を上げてアピールした。しかし、夕呼先生は不思議そうな顔をしている。

 「あんた、ホントに00ユニットなの?」
 「え?それはどういう・・・」

思わず口を挟んでしまった。

 「00ユニットにしては身体検査も血液検査も人間とほとんど変わらないのよ。00ユニットの00って、どんな意味なのか知ってるんでしょ?」

 俺は夕呼先生の言葉に頷く。生態反応ゼロ、生物的根拠ゼロ。それが00ユニットの名前の由来のはずだ。
それなのに、普通の人間と変わらないって・・・・・どういう事だ?
00ユニットであるはずの純夏ならハッキングである程度は誤魔化せるかもしれないが、血液検査までは――そもそも00ユニットって・・・・・

 「ふっふ~。だから大丈夫だって言ったでしょ?タケルちゃん」
 「鑑、何かやってみて貰えないかしら?00ユニットとしての力を見たいの」

純夏に説明するように求めても無駄だろうから実践させるのが手っ取り早いか。

 「あ、リーディングとプロジェクション以外でよ?それは他でも出来るんだから」
 「わっかりました~!ん~・・・じゃぁ何かデータ送りますね?」

そうか、夕呼先生を納得させられるようなデータを送れば、信じてもらえるかもしれない。

 「・・・・・そうね。とりあえず、やってみてちょうだい」
 「は~い。・・・送りました~」

夕呼先生が手元のコンピュータをいじっている。データが送られたのは間違いなさそう――てか、それより純夏の身体はどうなってんだ?

 「――すごいわ!これハイヴのデータじゃないの!?ヴォールクなんて目じゃないわ」
 「はい!前の世界で私が引き出したんです。」
 「いや、それより純夏の身体は・・・・」

どうなってるのか気になるじゃねぇか・・・・教えてくれって・・・

 「あぁそれは、この世界の鑑の身体と前の00ユニットとしての鑑の身体が統合されたんじゃないかしら?――まぁ、そんな状態じゃ00ユニットなんて呼べないけど。生態反応があるんだから」

画面を見ながらサラッと重要な事を言わないでくださいよ、夕呼先生・・・・・

 「え?それじゃあ・・・・この世界の純夏は死んでなかったって事ですか!?」
 「うん、たぶんそうかも。ほとんど生身みたい。あはは~」
 「あはは~って・・・オマエね・・・・」

どうなってるんだ、これ?状況がかなり違うぞ。まぁ純夏が居る時点で薄々気付いてはいたけどさ・・・・

 「あの先生。隣の部屋の――」
 「・・・・・・ねぇ、このエックス、エム、3って何かしら?」
 「え?――あぁ、それはエクセムスリーって言います。戦術機のOSですよ」
 「OS?」

前のループで俺が考えた概念を基にして作られたOS、XM3があれば戦術機での戦闘がかなり楽になることは証明済みだ。

 「え~と、俺がやっていた戦術機の機動を他の人でも簡単に出来るようにした新OSを作ってもらったんです。」
 「へぇ~~~。使えるの?」
 「ええ。訓練兵の吹雪でベテランの撃震を圧倒できました。それと実戦で訓練兵が本土防衛軍を相手にしても全員無事に帰還しました」
 「――凄い物を作ったみたいね。さっすが、あたし・・・それとも考え付いたあんたが凄いのかしらね?」
 「まぁ、夕呼先生の協力が無ければ作れませんでしたから。どんなものかシミュレーターで試してみましょうか?データは純夏に書き換えてもらえばすぐでしょうし」

夕呼先生の協力が無ければ、XM3は完成するはずが無かった。

 「そうね。じゃぁ、あんたたちの処遇は白銀の腕前を見てから決めましょう」
 「え?また訓練兵からかと思っていたんですが・・・・・」
 「あたしはそれでも良いけど・・・時間、ないんでしょ?腕の良い衛士を余らせておく程の余裕はないの。それに証拠をここまできっちり見せられたら、あんたたちを疑うのは時間の無駄でしょう」

なるほど。
俺としても初めから衛士になれるならやれることが増える。アイツらとの対面は先送りになっちまうけど・・・・・この際それは仕方が無いな。
みんな・・・・頑張ってくれよ――

 「ねぇねぇタケルちゃん。みんなが心配なら、私が訓練部隊に入ろうか~?」
 「――は?・・・いや、でもお前――」
 「それも含めて、あとで決めましょ」
 「・・・・・・分かりました」

俺は釈然としないまま夕呼先生の言葉に頷いた。

 「ふふ――じゃあ鑑、データの書き換えとサポートを。あんたにならシミュレーターのメインコンピューターの代わりができるでしょう?」
 「もちろんです!!」

純夏は元気良く敬礼した。
俺は大丈夫なのかと思いつつ、シミュレータールームへと向かった。



[25132] タケルちゃんの逆襲 ~Takeru's Counter Attack~ 第3話
Name: ごじゃっぺ◆cedeedff ID:f61f25af
Date: 2011/01/09 02:20
◇シミュレータールーム◇ 《Side of 夕呼》


 「タケルちゃん、ハイヴ攻略戦を想定していくよ~?」
 『――了解だ』

鑑純夏がデータの書き換えをしつつ情報処理を行っている。驚異的な速さだ。さすがは量子電導脳、といったところか。
今日、突然あたしの前に姿を現せた白銀武と鑑純夏。
この世界でこれから起こることを知っている人間と、あたしが開発を夢にまで見たオルタネイティヴ第4計画の要である00ユニット―― (生体反応も生物的根拠もゼロではないけれど) だという。
それにしても・・・・・“白銀”、ねぇ~・・・・

 「まったく・・・とんでもない事になったわね――」

彼らに聞こえない程度に呟いた。
想定外もいいところだが、正直ありがたい。
白銀の話では、このまま進展が無ければ今年の12月24日に、第4計画は廃止され第5計画に移行するのだという。
研究は行き詰っていたが、彼らが現れたことで解決したも同然だろう。決して楽観は出来る状況では無いのだけれど・・・・・・

 「香月先生、準備完了しました!」
 「そ――なら始めてちょうだい」

鑑から準備完了の報せを受け、私は思考を一時停止した。
まずは見せてもらおうじゃない。新OSと白銀の力を――



◇ ◇ ◇



――シミュレーターを見た結論を言おう。白銀の実力は予想以上だった。
OSの力もあるだろうがフェイズ2とはいえ、ハイヴを単機で攻略してしまうとは。脱出中に自滅したのは気を抜いたからだろう・・・・
しかし、それを抜きにしても余りある実力だ。

 「あ~~ミスっちまった・・・くそ~・・・・・」
 「あはははは!タケルちゃんダッサ~~~」
 「うるせー!」

言い合っている姿は年相応だが、相当な修羅場を潜り抜けてきているのは確かなようだ。
そしてXM3――確かに現行のOSとは比べ物にならない。
衛士の命令に対する即応性が向上し、その命令を常に監視して任意に選択と解除を行えるようにしている、のかしらね。
戦術機程度の並列処理ならアレの失敗作でも十分過ぎる。アレなら、すぐに用意できる。
データは鑑が持っているし、さっそく作って伊隅たちで試そうかしら――

 「――先生、どうでしたか?」
 
凄い――素直にそう言うのは少し癪だったが、認めないわけにはいかない。
それくらいの実力があった。
OSをA-01に使わせると言うと、白銀はすぐに承諾したが、もう一つ提案をしてきた。

 「――207B訓練小隊にも投入してください」
 「・・・・・・伊隅たちには渡すつもりだったけれど、訓練部隊にも?」
 「はい。あいつらには早めに慣れもらいたいんです。配属はA-01なんですしね・・・・それに、あいつらは強いですよ――」

そう言う白銀の表情はどこか愁いを帯びていた――そういえば前は全員死んでしまったと言っていた。
鑑の方を見やると、悲しげな、けれど優しい笑みを浮かべ白銀を見つめている。

 「――分かったわ。OSに関してはそうしましょう。それで、あんたたちの処遇だけど・・・・・」
 「俺にA-01と207のOSの教導をやらせてもらえませんか?」

驚いた。白銀がそんな提案をしてくるとは思っていなかった。
しかし、あのOSの能力を最大限に発揮出来る衛士が、白銀しか居ないことを踏まえると、それが適任かもしれない。

 「・・・・・彼女たちには強くなってもらわないといけませんから――」
 「そう――分かったわ」

さて、それらも含めて彼らにどう動いてもらうか決めましょうか――



◇香月夕呼執務室◇ 《Side of 武》


シミュレーターを終え着替えた俺は再び夕呼先生の部屋に来ていた。

 「それであんたたちの事だけど、白銀は大尉で登録したから。とりあえずA-01と207のXM3の指導をするってことでね」
 「た、大尉ですか!?」
 「ええ。少しでも上の立場が良いのは、身に染みてるんじゃなかったの?遅かれ早かれ、いつかはA-01に入るつもりなんでしょう?」
 「・・・・・分かりました。それで構いません」

いきなり大尉っていうのには驚いたが、低いよりは良い。基地司令に計画の廃止を告げられたときに身に染みたからな。伊隅大尉と同じ階級か・・・なんか、変な感じだな・・・・・

 「で、鑑。あんたは207に入んなさい」
 「はい。ありがとうございます!」
 「え・・・・・・マジで入るの?お前」
 「うん!だって早くみんなと仲良くなっておきたいし。それに私が居た方がタケルちゃんも馴染みやすいと思って。みんな階級を気にしちゃうでしょ~?」

――確かに。前は同じ隊だったから打ち解けられたが、今回は別の隊どころか上官で教官だもんな・・・打ち解けるのは難しいかもしれない。ここは純夏に任せてみるか

 「分かった。でもお前、無理するなよ?」
 「大丈夫だよぉ~」

大丈夫って・・・・あのな~・・・・・・

 「鑑は少し違うメニューで動いてもらうようにするから大丈夫よ」
 「あ、やっぱりそうなるんですね」
 「え~!?香月せん・・・博士~私そんなに運動出来ないわけじゃないですよ~?」

能天気に運動神経のことを心配しているだが、俺はそんなことを心配しているんじゃないんだよ?純夏さん・・・・・

 「あのねぇ~・・・・・・あんた自分がどういう存在か分かってんのォ~?」
 「――え・・・・00ユニット?」
 「便宜上は、ね。そんなあんたに何かあったら元も子もないでしょう」
 「は~い・・・分かりましたぁ」

本当に大丈夫なのか、心配になってきた・・・・まぁ、純夏も(たぶん) バカじゃないと思うから(というか思いたい・・・・・) 無茶はしないだろう。

 「それじゃ今日はこの辺りにしてきましょう。他に必要なものは後で届けさせるから。あ、部屋は――」

そんなこんなで配属も決まったが、話やシミュレーターなどで時間も遅くなったので各隊との顔合わせは明日にすることにした。



◇横浜基地・廊下◇ 《Side of イリーナ・ピアティフ》


私は先程、香月副司令に呼び出され、新たに着任した大尉にIDやら書類やらを届けに行ってきたところだ。
彼に会う前の私は、大尉というからには私よりも年上か、近い年齢の人物かと思っていたのだが、実際に会ってみると私より年下。たしかに年齢は近いかもしれないけど、まだ少年といえるような年頃だった。
あの年で大尉という階級に就いていることに疑問を抱いたが、「彼は凄腕の衛士よ――」という副司令の言葉と、同時に見せられたシミュレーターの映像を見て、納得せざるを得なかった。
彼の配属は副司令直属らしいので、いずれゆっくり話す機会もあるだろう。先程は少しだけしか話せず、内容も事務的なことのみだった。
もっと話してみたいという気持ちが、私の中にあることは確かなようで、彼と別れてからも何故か気になっている。自分で考えたことに軽く動揺した。
“一目惚れ”などという考えが、頭をよぎったのだ。初対面とはいえ自分が上官、しかも年下の少年にこのような考えを抱いてしまうとは。自分でも気付いていない魅力があったのかしら――?
これ以上彼のことを考えていると、今日の残りの仕事に影響しそうな予感さえする。
私は無駄な努力とは知らずに、頭からその考えを追い出そうとするのだった。

そして私は知る由も無い。彼がかつて“恋愛原子核”と呼ばれていたことを――



◇横浜基地・白銀武自室◇ 《Side of 武》


ふぅ・・・なんか帰ってきたって感じだな。
また同じ部屋で良かった。純夏の部屋は俺の部屋の隣。ここには隣との窓は無いから、窓越しに話すことは出来ないけど――
夕呼先生は純夏とOSの作成に取り掛かってくれたから、明日には出来ているかもしれない。俺が手伝えることは無いって言われて追い出されたけど。
今日はもう休んじまうか?それとも、ピアティフ中尉がIDを届けてくれたから、自由に行動できるようになったし散歩でもしてみようか。
することが無いのも今だけだろうから、何かしようと思ってみたものの、何も思いつかない。これが前の世界だったらゲームとかやってたんだろうな――
そこで俺はふと、何かを忘れているような気がした。頭を捻ったが、出てきそうで出てこない。
な~~~んかやり残しがある気が・・・・・・・

「あ・・・・・・霞――」

すっかり忘れていた。会いに行かないと――



◇地下19階・シリンダー部屋◇


さ~~~て――霞は・・・・・・・・・・・いた。
前回までと同じように青白く光るシリンダーの前に佇んでいる。ああして純夏と一緒に居てくれたんだよな―――?シリンダーが空っぽ!?どういうことだ・・・
あ――いや・・・・それよりも、まずは―

 「――よう」
 「・・・・・」

ははは、今回は逃げなかったか。

 「はじめまして、だな。俺は白銀武だ。」
 「・・・・霞・・・・・社霞です」
 「さっきは、いきなりで驚いただろ。ゴメンな?」
 「・・・大丈夫です」

微かに表情が動いた。霞とも長い付き合いだからこそ分かる。
霞はちょっと困ったような顔してる。本当は驚いたな?

 「えっと、今日は来られないと思うんだけど――」
 「純夏さんは先程来ました」

あら・・・・・純夏のやつ、夕呼先生の手伝いで来られないと思っていたが、先に来ていたか。

 「そっか。それじゃ霞!これからヨロシクってことで、握手だ!」
 「・・・・・・握手」

なんと。遠慮がちにだが、そっと手を差し出してくれた。
感動だ・・・・・

 「お、今度はすんなり握手できたな」
 「・・・・・」
 「あ・・・悪い。今度は、なんて意味不明だよな」
 「気にしていません」
 「そっか――これからいろんなことがあるだろうけど、ヨロシクな」
 「はい」

握った霞の手は小さかったけれど暖かかった。
・・・・シリンダーのことは夕呼先生に聞くか――

 「じゃあ俺、夕呼先生に用事があるから行くな?」
 「はい・・・・またね」

おおっ!!霞からまたねって言ってくれた!素晴らしい進歩だ。

 「おう。またな~」



◇香月夕呼執務室◇


シリンダーのことを夕呼先生に聞くために執務室に移動したところ、夕呼先生はコンピュータに向かい何か作業をしていた。
純夏は――ここには居なかった。別の場所で作業しているのかもしれない。

 「あら、どうしたの?」
 「霞に会ってきたんですけど・・・・隣の部屋のシリンダー、なぜ空っぽなんですか?」

前のループまではあアレに入っていたのは純夏だったが、純夏は生きている。だから空っぽなのには頷けるが・・・空のシリンダーを置いておく理由は無いだろう。

 「あぁ、あんたも知ってのとおり、アレには人間の脳髄が入っていたわ」
 「――やっぱりそうだったんですか!!ではなぜ空に――」
 「だいぶ前に活動を停止したわ――もっとも、生きているのが不思議な状態だったのだから、いつ死んでもおかしくはなかったのだけど」

詰め寄りそうになった俺を夕呼先生は制し、何でも無いように告げた。アレに入っていたのは純夏だったんだぞ・・・・・・

 「社が読み取れたのは恐怖や憎悪の色だけだったわ。他には何も――」
 「・・・・純夏では無かったんですね?」

俺の問いかけに、夕呼先生は軽く肩を竦める。

 「さぁ?とにかく読み取れたのがそれらだけだったから、判断のしようが無かったわね」
 「そうですか・・・・・・?――でも、それじゃ先生の研究が――」
 「00ユニットの素体候補なら問題は無いわ。もっとも、あんたたちが来てくれたから必要無くなったんだけど」

その言葉に、俺はハッとした。そんな俺を見た夕呼先生はスッと目を細めた。

 「あら、それも知っているのかしら?」

夕呼先生の言葉に、俺は静かに頷いた。
・・・・・そうだった。A-01の皆は00ユニットの素体候補でもあった。それにシリンダーの中身が、仮に純夏ではない他の誰かだとしても、もうどうしようもないことだ。
誰なのか分からないのは仕方が無い。
純夏は今、生きている。――そう割り切ろう。

 「――すみませんでした、押しかけて。部屋に戻ります」
 「そ。オヤスミ」

明日から忙しくなるだろう。気持ちを切り替えて今日はさっさと寝てしまうか。



[25132] タケルちゃんの逆襲 ~Takeru's Counter Attack~ 第4話
Name: ごじゃっぺ◆cedeedff ID:f61f25af
Date: 2011/01/15 00:55
10月23日 (火) 朝 ◇横浜基地グラウンド◇ 《Side of 純夏》


今日から私は、207B訓練分隊に配属された。やっと、みんなに会えたよ~~。
タケルちゃんは相当気にしてたから、私が入って少しでも安心させてあげないとね。

 「――鑑。貴方が特別だっていうからには、期待しても良いのよね?」

207B分隊長――榊さんが声をかけてきた。
私の紹介はとっくに終わり、今は軽いランニング(と言っても10km・・・・全然軽くないよ~~泣) のあとの休憩中。神宮司教官が、ちょっと長めに取ってくれてるみたい。
・・・・・私の体力が無いからじゃないよね?みんなと少しでも話せるように、だよね?
ちょっと特別だから任せて!とか言わなきゃ良かったよ・・・・・

 「とてもすごく期待・・・・・」
 「彩峰さん、あんまり期待してるように見えないよ~~~」
 「ぶんぶんぶん」

・・・・・擬音を口にされると、なんか悲しくなるね。
確かに、基礎訓練では足を引っ張るかもしれないけど、戦術機の訓練なら足手まといにはならないのに・・・・
初めてこの世界に飛ばされてきて、こんな訓練を受けさせられたタケルちゃんは、どんな気持ちだったのかな・・・・・・やっぱり大変な思いをしたんだよね――

 「ふふふ。彩峰も本心では期待しておるのだろう?」
 「そうなの?」

あははは、彩峰さんも変わらないよね。私も彩峰さんを相手にしてるときの、振り回されてるタケルちゃんの気持ちが分かったかも・・・・・
そして御剣さん――冥夜、また宜しく。前の世界で、タケルちゃんを護ってくれて、ありがとう。
今度は私たちが、みんなを護るよ――必ず。

 「――うん。必ず力になるよ!タケルちゃんも居るし――」
 「「?タケル、ちゃん・・・・・?」」

しまった・・・と思ったときには、すでに遅かった。
みんなの表情が一瞬の間を置いて、不適に笑ったように見えたのは、気のせいじゃないと思う。

 「鑑。貴女が言うように、私たちの仲を早く深めるには、お互いのことをよく理解する必要があると思うの」
 「え・・・・・?うん、そうだね」
 「――たまには良いこと言うね」

いつの間にか、榊さんが私の脇に立っていた。そして反対側には彩峰さん。しかも、彩峰さんは榊さんの意見に賛同している。これって凄く珍しいことだよね?

 「榊さん、彩峰さん。無理に聞くのはよくないよ~~」

と言いつつ、私の正面に立ってとても聞きたそうに見上げてくる壬姫ちゃん。絶対に聞きたいって表情だよ・・・

 「皆、あまり無理強いするでない――」
 「・・・・御剣さん?どうして私の後ろに立ってるのかな・・・・・」
 「――ん?何、大した事ではない故、気にするでない」

・・・・・絶対聞きたいでしょ?さり気なく逃げ道を塞いだよね、御剣さん。
う~~~~~~どうしよう。みんなもすぐにタケルちゃんには会うけど、ここで喋ると大変なことになるかもって、私の勘が告げてる。
けど、少しでもタケルちゃんの事を話しておいたら、すぐに打ち解けられるかもしれない。
その可能性に賭け、私がタケルちゃんの事を話そうとしたとき、神宮司教官が訓練に戻れ――という号令をかけたので、みんなは教官にバレない程度に、渋々といった面持ちで訓練に戻っていった。
助かったけど、後々怖いような気がするよ・・・・・



昼前 ◇白銀武自室前◇ 《Side of 神宮司まりも》


先程、夕呼から連絡があった。
207B分隊の訓練が戦術機の訓練に移行すると同時に、新たな教官を迎えての訓練になるというもので、その教官となる衛士が着任したから挨拶くらいしておけ――というものだった。

 「まったく・・・・・・説明くらいしてくれてもいいのに」

しかし、戦術機の訓練で教官を入れ替えるなど聞いたことが無い。とはいえ上官である彼女の命令には従わなければならない。
私は釈然としないまま、着任した衛士の自室まで来ていた。

 「白銀武大尉、ね・・・」

加えて夕呼に、『あんたが好きそうなタイプだわね~』などとニヤニヤしながら言われたが、そんなことを気にしてはいられない。上官なのだから失礼のないようにしなければ。

挨拶をしようと部屋の扉をノックした。――が、少し待っても返事は無い。
もう一度ノックしようとした時、不意に後ろから声をかけられた。



《Side of 武》


早朝というよりも早い時間、夕呼先生から呼び出され(起こしてくれたのは純夏。とてもすごく眠そうだった)、純夏の代わりにXM3の最終調整をして訓練などの打ち合わせをし、
午後に207との顔合わせとA-01との演習を入れてもらい一先ず休もうと自室に戻ってくると、そこに懐かしい人物が居た。

 「あの・・・・・」
 「――っ!?」

声をかけると、驚かせてしまったのかビクッと肩を震わせこちらを向いた。

 「すみません。驚かせてしまいましたね」
 「い、いえ。――白銀大尉でありますか?」

・・・・・泣きそう。感極まって思わず抱きつきたくなったが、必死に押さえる。
この世界では初対面なのに、いきなり泣いたんじゃ格好悪い。

 「はい。白銀武です」
 「失礼しました。神宮司まりも軍曹であります。第207衛士訓練小隊の教官を務めております。」

――お久しぶりです、まりもちゃん。また・・・よろしくお願いします。
いろんな事があったけど、まりもちゃんのお陰で成長できた部分もある。どんなに感謝してもしきれない人物の1人だ。
自己紹介も兼ねて軽く挨拶をすると、まりもちゃんは予想通り敬語を使った。今度の世界では、俺の階級が高いから当然のことなのだが、背中がむず痒い。
まりもちゃんに敬語を使われるのは変な感じだ。

 「――軍曹、香月博士から聞かされたと思うんですが、207B分隊の戦術機訓練は俺が受け持ちます」
 「は。―――あの、理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
 「・・・え・・・・・博士から聞いていませんか?」
 「はい。教官を入れ替える、としか・・・」

ありゃ。
夕呼先生、説明するのが面倒くさかったんだな。まったく――

 「俺と香月博士が新しい概念を組み込んだ戦術機のOSを開発したんですけど、それテストを207B分隊でやろうということになったんです。」
 「新OS、ですか・・・」

新OSを開発したからテストさせろ、なんて言っても納得できないよな。まりもちゃんにどういうものか軽く説明しておいたほうが良いだろう――


◇ ◇ ◇


 「――確かにそれは従来のものとは異なりますね」
 
ごく簡単な説明しかしなかったが、大体は理解してもらえたようだ。まりもちゃんには、すぐに詳細な説明を受けてもらうのだが・・・・・今はこれで十分だろう。

 「納得しました。ご説明ありがとうございます」
 「――このくらい楽勝っすよ、まりもちゃん」
 「ま、まりも、ちゃん・・・?」

――あ。しまった・・・・つい呼んじまった。まりもちゃん固まっちゃってるよ・・・

 「す、すいません。俺の知り合いに同じ名前の人がいたので、つい――」
 「はぁ・・・・・そうでしたか」

すっげ~~~複雑な表情してる・・・・咄嗟に吐いた嘘 (まぁ嘘ではないけど)、もとい言い訳が厳しかったかな?

 「――コホン。それと夕方にA-01が市街地演習をやるんですけど、軍曹も指揮車両にて香月博士とモニターしてもらいます」
 「?・・・・・了解しました」

夕呼先生からの指示を伝えると、彼女もさすがに戸惑っているようだった。訓練部隊の教官が実戦部隊の演習に、指揮車両でとはいえ参加するんだから無理もないか?

 「今はこのくらいですね」
 「は。では――」
 「あ、そうだ・・・・・・・・・軍曹、昼食は済ませましたか?」

思わず声をかけてしまったが、何も考えて無かった。咄嗟に昼食に誘ってしまったけど、どうしよう――
――てか、あれ?・・・俺ってこんなキャラだっけ?

 「いえ。まだですが・・・」
 「なら一緒にどうです?俺も午後の訓練に顔を出すつもりでしたし。それに――」
 「?」

まりもちゃんと久しぶりに会ったから、嬉しくて舞い上がっているのかもしれない。もう少し話していたい――
早く昔の距離感に近づけたいっていうのもあるけど、これから一緒に戦っていく仲間になるんだから、親密になっておいて損は無い――って建前を装備しておく。

 「――軍曹の教え子のことを聞きたいので」
 「分かりました。ご一緒させていただきます」

まりもちゃんと連れ立ってPXに移動しながら、我ながら良い口実を思いついたな~~と密かに思った。



《Side of まりも》


PXまでの道中、白銀大尉に207B分隊のことを話していた。
夕呼には聞かされていなかったが、白銀大尉は207の彼女たちと同い年だという。
話している最中に気付いたのだが、どうやら大尉は207B分隊の背景を知っているようだ。そして、今日から配属された鑑純夏とは面識があるようなのだ。
鑑を207Bに紹介したときに起きたことを話していたのだが、大尉は「あいつアホか」と仰っていた。

 「――まさか、そんなことを言うとは思ってなかったですよ・・・・」
 「ええ。ですが、そのおかげで直に打ち解けたようでした」

ふと、何か考え込むようなしぐさをした大尉が、意を決したように私に向き直り言った。

 「軍曹。頼みというか、お願いがあるんですが――」
 「は。何でしょうか?」
 「これからは俺に敬語を使わないでもらいたいんです。もちろん部隊外の人間がいるときは敬語で良いんですが・・・」

何を言っているんだ?この人は・・・・・

 「ダメ、ですか?」
 「――え・・・・・あ・・・いや、しかし・・・・」

何を言われるかと身構えたのだが、まさか敬語を使うなと言われるとは思わなかった。何と答えて良いか迷っている私に、大尉は両手を合わせて懇願してくる。
これぞ、まさしく必死というやつではないのか。

 「お互い、夕呼先生に振り回されている同士ということで納得してくれません?」
 「・・・・・・・・・・・・・」

長い沈黙。大尉はジ~~っとこちらを見ている。私は多少、混乱しているので視線を彷徨わせている。
懇願してくる彼と目が合うと、その視線に耐え切れず目を逸らしてしまった・・・・・・
私は何でこんな反応をしているのだろう。こんな――
内心かなり複雑だったが夕呼に振り回されている同士なら、と思うところもあったし、何より必死にお願いしてくる大尉の姿が子供のようで・・・・可愛いと思ってしまった。

 「はぁ~・・・・・わかりま・・・いえ、分かったわ」

私はついに根負けして大尉のお願いを承諾してしまった。

 「本当ですか!?いや~、良かった~~~」
 「――そ、そんなに喜ぶこと?」
 「ええ!それはもう!!!」

そういう大尉の顔は本当に嬉しそうにしていて、承諾して良かったと思ったのは内緒だ。



午後 ◇横浜基地・グラウンド◇ 《Side of 武》


まりもちゃんが207B分隊に召集をかけた。懐かしい顔ぶれが駆け足で集まってくる。冥夜、千鶴、壬姫、慧。美琴はまだ入院中だったっけ。
そして純夏もいる。
まりもちゃんにバレない様にニヤニヤしてやがる・・・・あんにゃろう・・・

 (あ、ヤベ・・・泣きそう・・・・・)

綺麗に整列したみんなを見ていると、胸に熱いものがこみ上げてきた。前の“この世界”では、まりもちゃんを含め全員を失ってしまった。だが今度は必ず護ってみせる。
――そう密かに誓った。

 「本日付けで着任された、白銀武大尉だ。大尉には貴様たちの戦術機訓練の教官を担当していただくことになる」
 「「――っ!?」」
 「白銀武です。みなさんの教官をすることになりました。――よろしくな」
 「「よろしくお願いします!!」」

まりもちゃんに命令され、彼女たちが順番に自己紹介をしていく。みんな多少緊張していたようだった(純夏は普段通りだった) が滞りなく終わった。
・・・・・冥夜の様子が少し変だったような気もするが――

 「あの、大尉。発言をよろしいでしょうか?」
 「あぁ――どうぞ」
 「教官を入れ替える理由をお聞きしたいのですが」

さすが委員長。質問してくると思ってたよ。そりゃ気になるよな。

 「今はまだ言えない。Need to know だよ、分隊長。まぁ戦術機訓練に移ったら、嫌でも知ることになるんだけどな」
 「――了解しました」

余計な事を考えて戦術機訓練にたどり着けなかったら本末転倒だ。今は、目の前の総戦技演習に合格することだけを考えてくれ・・・・・

 「では貴様らは訓練に戻れ!」
 「「はい!」」

みんなが訓練に戻った後、俺はしばらく訓練を見学していることにした。
前はあの訓練に混ざっていたと思うと少し寂しい気持ちになったが、前回同様に時間は限られている。短縮できるところは可能な限り短縮したい。

 「軍曹。彼女たちを必ず総戦技演習に合格できるようにしてください」
 「――了解。でも新OSのこと、あの子たちに話さなくて良かったの?」
 「教えても良かったんですけどね。余計なことを気にして演習に落ちたらどうしようもありませんから・・・・・」

教えない方が気になるんじゃないの?という、まりもちゃんの言葉には苦笑するしかなかった。





[25132] タケルちゃんの逆襲 ~Takeru's Counter Attack~ 第5話
Name: ごじゃっぺ◆cedeedff ID:f61f25af
Date: 2011/01/15 01:55
10月23日 (火) 夕方 ◇横浜基地・市街地演習場◇ 《Side of 伊隅みちる》


昼すぎに副司令から、

 「夕方あんたたちに模擬戦やってもらうから~~~」

という突然の命令を受け慌てて準備したのだが、予定の時刻を過ぎても一向に始まる気配が無かった。

 『大尉~、一体いつになったら始まるんですか~?』
 『そ~ですよ~』

不満の声を漏らしているのは、我が隊の突撃前衛長である速瀬水月中尉と強襲掃討の涼宮茜少尉だ。

 「速瀬、涼宮。無駄口を叩いてないでいつでも始められるように準備をしておけよ?」
 『『りょうか~い』』

まったく・・・
しかし速瀬たち程では無いにしろ、隊員全員が同じことを思っているのは間違いないだろう。

 「01からCP――涼宮、副司令から何か連絡は無いのか?」
 『――いえ、何もありません。先程から呼び出してもらっているのですが、少し待つようにと言われるだけで・・・』
 「そうか――」

CP将校の涼宮遙中尉を呼び出し、副司令から何か連絡はないかと期待したのだが、当てが外れてしまった。
どうしたものかと頭を抱えていると、1台の指揮車両と1機の戦術機をレーダーが捉えた。

 「涼宮、アレは――」
 『いや~悪いわね~~。待たせちゃって』

こちらに向かってくる指揮車両から通信が入り、網膜に映し出されたのは先程から連絡を取ろうとしていた香月副司令だった。
言葉とは裏腹に、彼女の声は悪いと思っている様子は感じられない・・・・・まぁ分かってはいたが。

 『ちょっと準備に手間取っちゃってね~。さ、始めましょうか』
 「ふ、副司令!始めると言われましても、我々はまだ模擬戦の内容を知らされていないのですが・・・・・」
 『あら、言ってなかったかしら?内容は―――』
 『『―――なっ!?』』

副司令から模擬戦の内容を聞かされた我々は全員が息を呑んだ。何故なら、その内容というのは――

 『副司令~、ホントにやるんですか~?』
 『な~によ速瀬~~。文句あるの?』
 『だって私たち全員であの吹雪と戦え、なんて・・・・・』

そう――私たちに与えられた命令、それはA-01と先程副司令と共に現れた一機の戦術機“吹雪”との模擬戦闘だった。
これは速瀬が納得しないのも無理はない・・・・私も納得はしていないし。
吹雪は第3世代の機体で、実戦配備も想定されている機体ではあるが、私たちが乗る“不知火”に比べると性能的にも見劣りするというのは誰もが知っていることだった。
その吹雪一機を相手に9機の不知火で戦えというのだ。

 「副司令これは――」
 『伊隅、これは遊びじゃないの』

抗議しようとする私の言葉を遮って副司令は言う。

 『あの吹雪を普通の吹雪と同じに考えない方が良いわよ?』
 「・・・・・・了解」

副司令がここまで言うということは、何かあるのか・・・・・
たとえ不満があろうと命令には従わなければならない。私は思考を切り替え、ヴァルキリーズ各機へ模擬戦の開始に備えるよう指示を出した。



◇市街地演習場・指揮車両◇ 《Side of まりも》


 「――夕呼、本気なの?」
 「当たり前じゃない。遊びでこんなことをやってる暇なんて、今の私たちには無いわよ?」

無意味なことは絶対にしない夕呼が、こう言っているのだから何かしらあることは予測できるのだけど・・・・・

 「それにしたって、吹雪と不知火を戦わせるなんて。それも多対一で」
 「あの吹雪をただの吹雪と思わない方が良いって言ったでしょ?そ~ね~~・・・・斯衛のエースが乗ってる武御雷――くらいには思ってもらっても良いんじゃないかしら」

夕呼の言葉に私は首を傾げるだけだった。吹雪と武御雷では、性能的な差があまりにも大きい。
それなのに夕呼は、武御雷と同等の力があると言った。一体どんな手品を使ったのか・・・・・それとも、搭乗している衛士が特別なのか・・・・

 「ふふふ、始まれば分かるわ。――白銀、準備は良いわね?」
 「――っ!?」

夕呼が吹雪へ回線を開き、その衛士を呼び出した。呼び出されたのは、先程まで私が受け持つ207Bの訓練を見学していた人物であった。

 『――はい。いつでも行けますよ』
 「ちゃんとやんなさいよ」
 『了解。――しかし相変わらずムチャやりますね、夕呼先生』

夕呼、また何かやったのかしら・・・・・振り回される方の身にもなって欲しいものだけれど。
はぁ・・・今更かしら――

 「あら、そうかしら?」
 『不知火の余剰パーツとかで吹雪を組み上げて、OSの換装と調整もやらせるなんて・・・・それも一日で。整備兵に恨まれるんじゃないですか?』
 「そう?――彼ら、妙に生き生きしていたと思うんだけど?」

今朝、夕呼が珍しく格納庫に出てきていて何を企んでいるのかと思っていたが、そんなことをやらせていたのかと呆れてしまう。
――が、今はそんなことよりも聞きたいことがある。

 「夕呼!あの吹雪に乗っているのって、白銀大尉なの!?」
 「そ~よ~。まぁ見てなさい。面白いことが起こるから―――」

そう言った夕呼が、私のかつての教え子である涼宮遙中尉に戦闘開始を指示。

そして―――私は信じられないような光景を目の当たりにするのだった。



《Side of 武》


夕呼先生との通信を切り、網膜に映る機体情報に目をやる。
今のところ異常は見られない。けど、搭乗前に夕呼先生が言っていたことを考慮すると、戦闘の長期化は避けたい。

――とは思うものの、相手は“あの”ヴァルキリーズ。そう簡単に勝てるはずは無い。XM3を積んでいるとはいえ、こっちは吹雪で、あっちは不知火。しかも9機も相手にしなきゃならない。
普通なら勝てるはずないけど、俺は何とかなるような気がしてる。
どうやって攻めようか考えていると、戦闘開始の合図が出た。俺はレバーを握りなおし、深呼吸を一つ。

ど~~~れ、いっちょ行ってみっか。



◇横浜基地・市街地演習場◇ 《Side of速瀬水月》


 「――くっ・・・・・なんなのよ!アレ!?」

模擬戦開始からすでに20分ほど経過しているが、相手の吹雪は未だ無傷のまま戦闘エリアを縦横無尽に動き回っている。むしろ跳ね回っていると言ったほうが良いかもしれない。
そのくらい異常な動きをしている。

 『平面挟撃(フラットシザース)!相手は1機なんだ!囲んで仕留めろ!!』
 「――っ、了解!!」

伊隅大尉の言葉どおりにやれれば、状況はここまで悪くなってない。ってゆーか、とっくに終わってるはずだって話よね。
速攻で撃墜してやるという意気込みで、戦闘開始と同時に一番槍を務めた私たちB小隊だったけど、あの吹雪が見せた変則機動に全く対応できず、逆に僚機1機が撃墜され残ったのは私だけ。
もちろん他の小隊にも被害が出ている。残っているのは伊隅大尉と私と風間に柏木だけだ。
決して油断していたわけじゃないのに吹雪1機にこの有様・・・・

 『02!そっちに行くぞ!!』
 「!!」

あの吹雪は、こちらをあざ笑うかのように攻撃を完璧に避ける。
決して広くは無いはずの市街地なのに、それをまったく感じさせないような機動をしているのだ。

 「――なめんじゃないわよっ!!」

吹雪は01 (伊隅)と06 (柏木)からの攻撃を回避し、私が待ち構えている細い路地に飛び込んできた。
――突撃砲を掃射。が、吹雪は倒壊したビルの壁面すらも足場にして回避する。
しかし運悪く、着地した足場が崩れ機体のバランスを失い、しゃがむような格好で地面に落下し受け身を取ろうとしている。

 「ラッキ~~貰ったわ!」
 『決めろ!速瀬――!!』

戦術機は倒れそうになると受け身を取ろうとするために数瞬、衛士の操作を受け付けない。その硬直時間に仕留められる。
そう判断し、さっきの掃射で空になった突撃砲を捨て、装備を短刀に切り替えつつ水平噴射跳躍(ホライゾナルブースト)で一気に間合いを詰めて撃墜、模擬戦終。私たちの勝利!!
そうなるはずだった。しかし――

 「――な、なんで動けんのよぉ~~~!?」

あの吹雪は有ろう事か、しゃがみ込む姿勢のまま、こちらに噴射地表面滑走(サフェーシング)。
受け身を取らずに突っ込んできたのだ。(とある衛士の言葉を借りるならば、“しゃがみ動作キャンセル前ダッシュ”である)
そして吹雪も突撃砲を捨て短刀を装備――けど、まだこっちの方が速い。私は迷い無く突っ込んでいく。
相手が短刀を装備する一瞬の隙を狙い、最大噴射(ブースト)で一気に間合いを詰めとどめの突きを繰り出す――

 「――うそ!?」
 『速瀬――!』

必中であるはずの突きが僅かに届かない。吹雪は攻撃が当たる直前に、逆噴射で減速しタイミングをズラしたのだ。
更に相手は、空振りした私の不知火の腕を避けながら伸ばしている方の肩に手をかけ、そこを軸に片手で倒立。軸にした腕を伸ばす反動をも利用し、逆立ちの姿勢のままで機体を上空に跳ね上げた。
ほんの一瞬だったが、機体にかかる戦術機一機分の重さに不知火は前方に転倒しそうになる。

 「なんなのよ!その動きは~~~~~~!?」

今まで積み重ねてきた機動データを、根底からひっくり返すような有り得ない機動。
全速で振り返ろうとするも、転倒を避けるために不知火は一瞬だけ操作を受け付けない。
それが決定打になった。背後から強烈な衝撃を喰らい前のめりに転倒。そして――

 『速瀬機、機関部に被弾。致命的損傷、大破』

私が撃墜されたことを告げる遙の通信を聞いた。
・・・どうなってんのよ、アレ。あんな凄い機動をやられちゃどうしようもない。
模擬戦が終わったら副司令に突撃ね。どんな手品を使ったのか聞かなくちゃ・・・・・そんなことを考えながら、私は終了の合図を待つのだった。



《Side of みちる》


私は焦っている――
こんなに焦っているのは、大尉になりA-01の指揮を執るようになってからは、初めてかもしれない。それほどまでに、追い詰められていた。
横浜基地最強と言われ、日本国内でも中隊規模では最高クラスの9機の不知火が、たった1機の吹雪に。

 『た、大尉――!』
 「――っ!?」

ヘッドセットから聞こえてくる柏木の声は切迫している。
それもそうだろう・・・・私と柏木で追い込んで、速瀬が止めを刺すという作戦で動いたのだが、速瀬が待つ路地に吹雪を追い込んだものの、肝心の速瀬をやられてしまった。
次の作戦を考えようにも、吹雪が肉薄してきている。全力で応戦しなければ確実にやられるだろう。考えている余裕などない。
残る僚機、04 (風間)と06 (柏木)に命令を出し、私は吹雪に接近戦を仕掛ける。

 「――04、06は接近するな!連携して叩くぞ・・・・・!!」
 『『了解!!』』

先程までの戦闘で、あの吹雪に射撃や遠距離からの攻撃は、ほとんど意味を成さないことが解かった。
機動性が違い過ぎる。はっきり言って当たらない。いや、当てられないのだ。
速瀬との接近戦で見せた機動をやられたのでは、勝ち目があるとは思えなくなっているのだが・・・・私も指揮官として、部下に情けない所は見せられない。
意を決し、吹雪に突撃しようとしたとき、不意に“吹雪1機に不知火9機が全滅”という最悪の結末が頭を過(よ)ぎったが、私はそれを必死に振り払い突撃していった。



《Side of まりも》


戦闘が開始されてから私はモニターから目が離せず、食い入るようにあの吹雪の動きに見入っていた。

 「――すごい」
 「ふふ、当然よ。」

思わず出た呟きに夕呼が反応した。

 「・・・・・何をしたの?」
 「ただ白銀の言うとおりにしただけよ」
 「え?それってどういう――」

ことか、と聞こうとする私の言葉を遮り、夕呼は楽しそうに告げる。

 「まぁ今は見てなさい。あとで説明してあげるから」

そう言われては黙るしかない。
――それにしても、こんなに楽しそうにしている夕呼を見るのは久しぶりかもしれない・・・・・彼のおかげなのかしら。最近の夕呼は何か思いつめていたようだったから、これは良い事なのだろう。
モニターに視線を戻すと、白銀大尉の乗る吹雪が速瀬中尉の乗る不知火に肉薄し、先程までよりも凄まじいアクロバット機動をして彼女を撃墜したところだった。

 「な・・・・・・・」

開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのか。
私の顔を見た夕呼が爆笑しているが、それに腹を立てる気も起きない。
夕呼が施した何らかの細工が凄いのは確かだろうが、白銀大尉の腕前も相当なものだ。
横浜基地はもとより日本でも最強の部類に入るであろうA-01を、吹雪単機でここまで追い詰めているのだから。

 「さて・・・・そろそろかしらね――」
 「?―――あ!」

夕呼が何かを言いかけたとき、モニターに映っていたのは白銀機が近くに居た伊隅機とドッグファイトを繰り広げているところだった。

 (あの伊隅大尉ですら追い込まれている・・・・・・あ!撃墜され――)



 ――バシュ・・・・・・ドガン!!!!



突如、演習場に爆発音が鳴り響いた。

このまま行けば伊隅機を撃墜する、というところで白銀機の動力部付近から黒煙が噴出、続いて爆発した。
その爆発で右側の跳躍ユニットも失った白銀機は、機体バランスを失い前方に倒れるが、勢いが強すぎてそれだけでは収まらず、地面を何度も転がり最終的には倒壊したビルに頭から突っ込んで動きを止めた。

私は、その光景をただ呆然と見ているだけだった。

 「――涼宮、演習中止よ―――白銀、無事なら返事しなさい!」
 「!!」

呆然としていた私の意識を引き戻したのは、いち早く吹雪に呼びかけた夕呼の声だった。
そうだ、白銀大尉は――!?

 「白銀、応答しなさい!白銀っ!!!」

夕呼が何度も呼びかけるが何の応答も無い。
最悪の事態が頭をよぎりかけたとき――

 『・・・・・・・・あ、あが~~~~~~~~~~』
 「――へ?」

なんとも気の抜ける声が返ってきた。どうやら最悪の事態だけは避けられたようだ。

 「白銀、無事なのね?」
 『・・・・・あー、はい・・・たぶん。頭をぶつけたときに・・・・少し切ったみたいですけど・・・あと、身体中が痛いっす・・・・・』

無事だということが分かったためか、夕呼も身体から力を抜いたようだ。

 「そ。今そっちに救護班が向かっているわ。じっとしてなさい」
 『・・・・・了解』

救護班!?出動が早いのは良いことだが、あまりにも対応が早すぎるように感じる。まるで、あの爆発が起きることを知っていたような迅速さだ。
そう言えば事故が起きる直前に夕呼は――

 「夕呼っ!あなた、あれが起きるって分かっていたの!?」
 「ええ。ここまで酷いとは思ってなかったけれど。それでもある程度は予測していたから白銀にも伝えておいたわよ?」

夕呼の言葉に、またしても私は驚いた・・・今日は本当に驚いてばかりだ・・・・・

 「当然でしょ?急造品の機体にあんなメチャクチャな機動をやらせるんだから」

夕呼の言っていることは分かる。
だが、分かっていたのにやらせるとは。最悪の事態にならなくて良かったものの、一歩間違えれば大惨事だ。
あれほどの腕前を持つ衛士を失うことは、人類にとって看過できない事だろう。
そんな私の心情を察したのか、夕呼は溜息を吐きつつ言う。

 「これは白銀が言い出したことなの。あたしはそれに協力しただけよ?」
 「え・・・大尉が・・・・?」
 「そ。あいつがどうしてもって言うから手を貸してあげたの」

夕呼に協力させるとは・・・・・白銀武という人物は私が思っている以上に凄いのかもしれない。
考えに耽りそうになったが、ちょうど大尉を無事に回収したとの報告が入り安堵した私は、それまで考えていたことを忘れていた。



[25132] タケルちゃんの逆襲 ~Takeru's Counter Attack~ 第6話
Name: ごじゃっぺ◆cedeedff ID:f61f25af
Date: 2011/01/21 16:08
10月23日 (火) 19時頃 ◇医務室◇ 《Side of武》


 「あ~~~、酷い目に遭った・・・・・」

やっぱり夕呼先生の言うとおりムチャだったか・・・
マジ機動で30分くらいは耐えられるはずって言っていたから、まだ大丈夫だと思って油断していた。まさか、あんなに早く壊れるとは・・・・・
急造だから仕方ないとはいえ、爆発はないだろ爆発は・・・・・
まぁ、あれだけ転がって軽い脳震盪と打撲&掠り傷で済んで良かったと言うべきか?
新OSの力を見せるっていう目的は達成したから問題は無い・・・・こんな怪我は想定していなかったけどな――

そういえば、さっき夕呼先生とまりもちゃん、それに伊隅大尉が様子を見に来てくれた。
伊隅大尉は近接格闘戦を繰り広げていたときにドカーンと爆発して、転がっていったから心配してくれていたそうだ。転がってきたときは思わず避けてしまった、と苦笑していた。
そりゃまぁ避けるよな~~~~。戦術機がサッカーボールよろしく凄い勢いで転がって来るんだもんな。

俺を見た伊隅大尉は、最初は本当に驚いていた。
あんな機動をしていたのが、こんな若い衛士だったのかって。――驚きすぎて夕呼先生にからかわれてたけど。
とりあえず夕呼先生が、ヴァルキリーズにOSの簡単な説明はしておいてくれるらしい。詳しいことは明日あんたがやれ、と言われてしまったが。
まりもちゃんにも、あんな機動を教えることは出来ないから大尉よろしく、と言われる始末。
伊隅大尉も似たようなもので、ヴァルキリーズの面々はかなり悔しがっているそうだ。中でも、速瀬中尉と涼宮が相当悔しがっていたらしい。

――ゾクッ

・・・・・あれ、悪寒がするよ?明日も酷い目に遭いそうな予感――
明日も大変そうだ・・・・時間はいつもよりだいぶ早いが身体中痛いし寝ちまうか。医務室のベッドは柔らかくて気持ちいいし――


◇ ◇ ◇


――――んぁ?・・・・・人の気配がする・・・・

 「ん・・・・」
 「――あ、ごめ~ん。起こしちゃった~~?」

ボンヤリとしたまま視線だけで周りを見回すと、枕元に純夏がいた。いつもの笑顔でこちらを覗き込んでいる。

 「・・・・・おま・・・・な・・・」
 「――お前、何してんの?」

言いたかったことを言い直して確認してきたので、俺は適当に頷いた。すると純夏はあきれたように盛大な溜息を吐いた。

 「も~~。心配して見に来たんじゃないのさ~~~~」
 「――ん・・・あぁ・・・・」
 「部屋に戻ってこないから心配したんだぞ?」
 「・・・そ、か。悪かった――ふぁ~・・・・・」

睡魔が活動を再開したようだ。急速に眠気が襲ってきた。
そんな俺を見た純夏は優しく微笑み、お休みタケルちゃん――そう言っていたような気がした。



夜 ◇白銀武私室前◇ 《Side of 御剣冥夜》


あの者は、まだ部屋に戻っていないようだ。何度か様子を見に来ているのだが、全て空振りに終わっている。
・・・・・今日は諦めるしかないのか。
少し雰囲気が変わってはいるが間違い無いだろう。第一、私があの者を他の殿方と見間違うなど、あるはずが無い。
あの者が何故このような場所に居るのか、それを問い質せねばならぬ。だが――生きていてくれて良かった・・・・・タケル。

教官に紹介されたときは、驚きのあまり心臓が止まるかと思ったほどだ。
まったく・・・・いつも私たちに心配ばかりかける。

 「ふふ――」

自分でも分かるほど顔が緩んでいる。
誰かに見られでもしたら頭でも可笑しくなったのかと思われてしまうかもしれないが、そのくらいなんともない。それほどまでに私は嬉しいのだ。

しばし待ってみるも、戻ってくる気配は無い。何か用事があるのかもしれぬ。過去はどうあれ、今は上官なのだ。あまり遅くに尋ねるのも気が引ける。
そうして私がタケルの部屋から離れようとしたとき、不意に声をかけられた。
声の主は、今日我ら207B分隊に入隊してきた鑑純夏であった――



◇鑑純夏自室◇ 《Side of 純夏》


御剣さんとあんなに喋ったのは、私の知る限りこの世界では初めてだと思う。
タケルちゃんのお見舞いから帰ってくると、タケルちゃんの部屋の前に御剣さんが立っていた。
どうしたのかと尋ねると、タケルちゃんに話があるけど居ないからどうしたものかと悩んでいたそうなので、今日は戻ってこないということを教えてあげた。
どうして私が知っているのか聞かれたので、私が香月副司令の特別任務でタケルちゃんと一緒だからだと答えたら、予想以上に驚かれたけど一応は納得してもらえたみたいだった。

そして私がうっかり「タケルちゃん」と呼んでしまったところから、話の流れは急変した。
上官をそのように呼んでは失礼ではないかという御剣さんに、私はずっとそう呼んでいるから直せないよと言っちゃったのが不味かった。
その言葉で御剣さんの表情が変わった。
“ずっと”とはどういうことなのか聞かれ、まさかループの事なんかを言うわけにはいかないので、私は返答に困った。
御剣さんに最適な返答をするために、心の中で謝りながら御剣さんの思考を読んでしまった。

 「――御剣さんもか~~~・・・恋愛原子核って凄いよ、香月先生・・・・・」

おもわず、記憶として情報だけはある別の世界の恩師の名前を呟いてしまった。
この世界では、御剣さんと“白銀武”という人は、お互いに知らない仲では無いようなのだ。とにかく、それを知ってしまったので話を合わせるのは簡単。
自分は幼い頃から彼と一緒だったと告げると、御剣さんも彼の幼い頃を多少知っていると答えた。
そこからはお互いの思い出話になった。その内容は、もちろん彼の話題。
話題は尽きることが無く、いつまででも喋り続けられそうだったけど、時間も遅いため日を改めてということで、今日のところはお開きになった。
予想外の出来事ではあったけれど、御剣さんとの仲が一気に進展したことは確かだと思う。

私は明日からの訓練と、いつまで経っても衰えることを知らない、とある“恋愛原子核”に頭を悩ませながら眠りにつくのだった。



10月24日 (水) 午前 ◇ブリーフィングルーム◇ 《Side of みちる》


隊全体が、何となく浮ついた雰囲気に包まれている。
その理由はやはり昨日の模擬戦と、その後にあった副司令の説明だろう。あの模擬戦は終始とんでもないものだった。
副司令が作った新OS“XM3”。それの実用試験と我々へのお披露目を兼ねていたらしい。
新OSのテストに我々が利用されたと知って、初めは難色を示した隊員たちも、昨日の模擬戦の結果を踏まえると文句は言えないようだった。

まさか吹雪1機に、副司令直属の部隊である我々がいいように翻弄され、模擬戦は吹雪の大破で終了したものの、内容では完全に負けていることは隊員の誰もが、負けん気の強い速瀬ですら認めている。
まだ私しか顔を合わせていないし、名前も聞かされていないので、あの吹雪の衛士のことを皆が口々に噂しあっているのだが、それ聞く限り自分たちと同年代という予想は全く聞かない。

 「幾多の戦場を潜り抜けてきたベテランだと思うわ・・・・・」
 「顔に十字傷とかあって、髭を生やしたゴッツイ顔のおじさんとかですか~?」
 「そう!本当は前線で戦っていて、腕を見込まれて副司令に引き抜かれてテストパイロットになったんだけど、本心では部下を残してきた部隊に戻りたくて。そんなときに昨日の模擬戦を命令されて大暴れしたとか」

と、まぁこんな感じで、他の噂も似たり寄ったりだ。
白銀大尉には少し、ほんの少しだけ同情する。
あまりにも変な方向に予想して、本人を見たときに驚きすぎて副司令にからかわれるのが目に見えるようだ。昨日の私のように・・・・・
そんなくだらない話を聞いていると副司令がいらした。私は敬礼を命じようとしたのだが、副司令はそんな私に手をひらひらと振って止めた。

 「それじゃ、あんたたちがお待ちかねの人を紹介するわ。――入ってきなさい」

全員の視線が扉に集中し、入ってくる人物を待ち構える。
そして扉を開けて入ってきたのは、頭に包帯を巻いた若い男だった。私以外の全員が口をあんぐりと空け、目が点になっている。
――昨日の私もこんなマヌケな顔をしたのかと、今更ながら恥ずかしくなってきた・・・

 「白銀武大尉です。A-01連隊に配属になりました。よろしくお願いします」
 「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
 「――ぷっ!あははははは!!あんたたち、驚きすぎじゃないの?」

ほら見ろ。やっぱり笑われたじゃないか――

 「いや、だって・・・・・若い・・・」
 「十字傷・・・髭・・・・おじさん・・・・・・?」

あまりの驚きっぷりに副司令は爆笑、白銀大尉は苦笑している。
この状態がしばらく続いたが、副司令がやっと回復し驚いていた我が隊の面々も落ち着いてきた頃、速瀬が副司令に質問した。

 「副司令、昨日の説明の続きをしてくれるんですよね?」
 「ええ。白銀がね~~~」
 「――え?副司令が説明してくれるんじゃないんですか~?」

このことは昨日、白銀大尉の様子を見に行ったときに聞いていたので、驚かなかったのだが・・・・・

 「白銀の方が特性を正確に理解しているのよ」
 「副司令が作ったOSなのにですか!?」
 「作ったのは、まぁ・・・・あたしみたいなものだけど、基礎概念を考えたのは白銀よ」
 「「―――っ!?」」

この事は私も知らなかったので、他の隊員と同じように驚いた。
昨日の簡単な説明だけでもXM3の有用性は理解できたし、模擬戦での結果も相まって凄いものを開発してくれたと喜び、改めて副司令は天才なのだと思ったのだ。
それなのに、あのOSを考え付いたのは副司令では無く、更には技術畑出身の人間でも無い、私たちと同じ衛士。しかも同年代の若者だったとは・・・・・

 「そういうわけよ。分かった?」
 「・・・・・了解」
 「それじゃ、あとよろしく~~」

そう言って副司令はさっさと出て行ってしまった。残された白銀大尉に自然と視線が集まり、それを受けた彼は苦笑しながら肩を竦めていた。



《Side of 武》


XM3についての説明を始める前に、全員の自己紹介を済ませようと伊隅大尉が提案してくれた。
忘れようとしても忘れられないメンバーなので失念していたが、“この世界”では初対面なのだ。それに、よくよく見れば中には見たことが無い顔ぶれもある。
おそらく前回のループで、俺がA-01に配属になった頃には殉職してしまっていた人たちだろう。
そういう訳で、伊隅大尉の申し出を快く受け入れ全員の紹介を聞き終えた頃、タイミングを見計らったかのように彼女が現れた。

 「「――じ、神宮司教官!?」」
 「お待ちしていましたよ、軍曹」
 「遅くなって申し訳ありません、大尉」
 「丁度良いタイミングですよ」

予想もしなかったであろう人物の登場に、ヴァルキリーズの面々はまたもや驚いている。驚かせてばかりで、申し訳ない気持ちになってきた・・・・・

 「ど、どうして教官がここに!?」
 「伊隅大尉、私はもう貴女の教官では――」
 「まぁまぁ。良いじゃないですか。いつまで経っても教官は教官ですよ。俺も伊隅大尉の気持ち、分かりますよ?」
 「はぁ・・・・・分かったわ」
 「それで――どうして教官がここにいらしたんですか?」

伊隅大尉の言葉を引き継ぐように宗像中尉がまりもちゃんに質問した。

 「私も白銀大尉に呼ばれたのよ。訓練兵に新OSを使うから説明を聞いておけと」

まりもちゃんが言った理由に、納得したように頷くヴァルキリーズだったが・・・・・それだけじゃないんだよね、実は。
――また驚かせちゃうな・・・・207Bが任官したらまりもちゃんは手が空く。腕の良い衛士を余らせておく理由は無い。そんな余裕も無いしね。
とすると、選択肢は一つしかないでしょ?

 「それだけじゃありませんよ――軍曹にはいずれ戦線に復帰してもらいます。配属はもちろんA-01、伊隅ヴァルキリーズに」
 「「――えぇぇぇ!?」」

あれ、なんでまりもちゃんも驚いているんでしょうか?まさか・・・・・
そこで、ふと脳裏に浮かんだのは高笑いする白衣を纏った魔女の姿――

 「ち、ちょっと大尉!私も聞いてないんですけど!?」
 「あ~~・・・・・・・香月博士の仕業ですね」

そう言うと、まりもちゃんだけでなくヴァルキリーズの面々も納得したのか苦笑していた。
夕呼先生がどういう人物なのかは全員しっかり理解しているようだ。

 「そういう訳で、軍曹にも早めにOSに触れておいて欲しかったので、わざわざ来て貰いました。――って事で良いですね?」

全員が頷いたのを確認し、そろそろ本題に入ることにする。
それじゃ、サクッと説明してしまいますかね――



午後 ◇シミュレータールーム◇ 《Side of 水月》


午前の座学で新OSの説明を受けた私たちは、さっそくシミュレーターでの慣熟訓練に入ることになった。
一昨日から、例の吹雪と平行して突貫でシミュレーターの換装作業をしていたらしい。
まだ全てのシミュレーターの換装は終わっていないらしいけど、こんなに早く触れられるとは思っていなかったから嬉しい誤算だ。

・・・・昨日の吹雪の衛士、白銀武――階級は大尉。
圧倒的な強さで伊隅ヴァルキリーズが手も足も出ずに完敗。歴戦のベテランで、厳ついオジサンタイプかと思っていたのに蓋を開けてみれば、茜たちと同い年の少年だった。

 「やっぱりズルよ・・・・インチキだわ・・・」
 『速瀬中尉、さっきからそればかりですね』
 「だって悔しいじゃない!XM3搭載型だったとはいえ吹雪にボロ負けしたのよ!?――絶対リベンジしてやるわ!見てなさいよ~~白銀!!」

茜の呆れたような顔が網膜に映った。
――ちなみに彼の呼び方については、親睦を深めるという名目で一緒に昼食を摂ったとき本人からお達しがあった。
彼もヴァルキリーズのやり方を知っていたのか、

「敬語なんか使わなくて良い。名前も呼びやすいように呼んでくれ」

と言っていたので上官のありがた~いお言葉に従わせてもらっているわけ。堅苦しいのは苦手のようだ。

 『戦闘で性的快感を得る速瀬中尉は、白銀大尉との熱いひと時が忘れられないと・・・・』
 「む~な~か~た~?」
 『――って、麻倉が言ってました』
 『うえっ!?』
 「ぬぁ~~んですって~~~~?」
 『い、言ってませんよ!?』

性的快感を得たりはしないが、あの一戦が忘れられないのは事実だった。だけど、それは全員が同じだと思う。
私たちを圧倒し、OSも開発したという白銀武。私は少しだけ興味が湧いていた――
そんなおバカなやり取りをしていると、管制室の遙から通信が入りシミュレーターが起動した。
コイツを使いこなせるようになることが、彼に追いつく近道だろう。私はいつもより気を引き締めて訓練に臨む。

 「さ~て、行くわよ~~~~~!」



《Side of涼宮遙》


白銀大尉から渡された訓練メニューは今のところ、とにかく新OSに慣れてもらう事に重点を置かれていたので、今日の所は好きなように動かしてもらうことにした。

 『なによ、これ~~~~~~~』
 『こ、これはっ――!?』
 『――っ!?遊びが・・・・無さ過ぎる!!!』

みんな、なかなか大変そう。
――水月だけじゃなくて、伊隅大尉や宗像中尉ですら驚きの声を上げているのだから、かなり大変なのだろう。
もちろん、茜たち新任の娘たちも悲鳴を上げている。頑張ってね、茜――

私は、全員分の操作ログと機動データを纏める作業があるけれど、白銀大尉の代わりに来てくれたピアティフ中尉が居るので、すぐに終わってしまうだろう。
神宮司軍曹も今日は私たちの訓練に加わっているので、みんないつもより気合が入っているように感じる。
香月副司令に呼ばれ、今ここには居ない天才衛士の噂話をしながら私たちは作業を開始した。



夜 ◇白銀武自室◇ 《Side of 武》


夕呼先生に呼び出され、前回のループまでの話をしているうちに日が暮れてしまった。
A-01の夜間の訓練には出たのだが、今は慣らしが始まったばかり。
特別やることは無く訓練が終わったので、さぁ部屋に戻って寝るかと思い自室に戻ると、そこに思わぬ来客があった。

 「大尉。夜分遅くにすみませぬが少々お時間を宜しいでしょうか」
 「――あ、あぁ。構わないが・・・・・」

それは、御剣冥夜だった。
“この世界”では、まだほとんど関わりが無いはずの彼女が何故このタイミングで俺を訪ねてきたのか。
疑問は多いが、とりあえず俺は冥夜を部屋に招き入れた。

 「大尉は・・・この基地に来るまでは前線で戦っていたとお聞きしたのですが」
 「――え?あ、あぁ。そうだが?」
 「いつ・・・・・大尉はいつ国連軍の衛士になられたのですか?」
 「それはどういう―――!?」

冥夜の顔が酷く切なそうに歪んでいる。今にも泣き出しそうなほどに。
あ号標的に侵食されても、最後の最後まで気丈に振舞っていた、あの冥夜が――

 「あの日――3年前・・・・京都が墜ちたあの日、――私たちの前から姿を消し、消息が分からぬそなたを!・・・必死に探していた・・・・・探していたのだ、タケル――」
 「――っ!?」
 「生きていてくれたことは、嬉しい。――だが!何故それを知らせてくれなかったのだ!?私はっ――」
 「お、落ち着けっ!とりあえず落ち着いてくれ、冥夜!!」
 「――!・・・・・・す、すまぬ――」

俺に掴み掛かって己の気持ちを吐露してくる冥夜の迫力に圧され、つい名前を呼んでしまったが、そのおかげで冥夜は少し落ち着いてくれたようだ。
だけど、これは――どういうことだ・・・・・?
俺と冥夜は面識が無かったはずなのに、冥夜は俺を知っている。
少し待つと、冥夜も落ち着いてきたようなので、今度は俺から話しかけることにした。

 「3年ぶり――ってことになるのか」
 「・・・・・うむ。そうだ――その間、私たちがどのような思いで――」
 「私たち・・・?」
 「私と姉上に決まっておろう。月詠たちも心配しておったのだぞ」
 「――姉上?・・・・・って、煌武院悠陽殿下!?」
 「うむ、そうだ――?どうしたのだ、タケル?今更驚くようなことではあるまい」

冥夜の言葉に、俺は曖昧に頷くことしか出来なかった。“この世界”の俺がまさか、殿下と知り合いだとは・・・・・
マズイな。この世界の俺もとっくに死んじまっていると思っていたから、特に気にしてはいなかったが、この世界の俺は前までの世界とは違う立場に居るようだ。
・・・・・あとで夕呼先生のとこだな、こりゃ――

 「とにかく・・・昨日そなたを紹介されたときは心臓が止まるかと思ったぞ」
 「そいつは悪かったな」
 「ふふ――」

不意に冥夜が笑い出した。
その様子に首を傾げる俺に、冥夜は理由を説明してくれた。

 「いや、何。姉上の悔しがる姿を思い浮かべてしまってな――」
 「――ん?」
 「やはり私とそなたは絶対運命で結ばれているようだ。姉上よりも先にそなたを見つけることが出来たのだからな」

絶対運命、か・・・・・・久しぶりにその言葉を聞いたけど、冥夜が探していた白銀武は俺じゃ――

 「めい――」
 「――タケル!私は必ず総戦技演習に合格して、そなたが待つ戦術機訓練にすぐに行く。だから待っていてくれ」
 「お、おぅ・・・・・」

冥夜の気迫に圧され、俺は何も言えずに頷いてしまった。その後も言い出すタイミングを失ってしまい、俺は何も言えなかった。
それ以前に・・・・・俺は冥夜に何を言うつもりだったんだろうな――
冥夜が「お休み」と残し部屋を出て行ったあと、しばらく考え込んでいたが埒が明かず俺は夕呼先生のところへ走った。

後日、調べてもらった結果を聞いて俺は愕然とした。

――まずは俺の親父、白銀影行は帝国斯衛軍に所属していた。ちなみに階級は少将だったそうだ。
その縁で俺は幼い頃から殿下や冥夜と一緒に遊んでいたようなのだ。そして京都がBETAの進行を受けた折、親父は撤退作戦の殿を務め戦死。
このとき親父が搭乗していた銀色の瑞鶴は帝都では有名らしい。(これは冥夜に聞いた)
俺は親父の実家がある横浜に疎開させられたらしいのだが、BETAの進行があり行方知れずになったようだ。
とりあえず、俺の行方は夕呼先生に拾われ、戦術機適正値が異様に高かったため衛士になり、特殊任務に放り込まれていたことにしたとか。
突っ込みどころが多い気もするが仕方ないだろう。

この世界の白銀武の生死は分からなかったのだから――





[25132] タケルちゃんの逆襲 ~Takeru's Counter Attack~ 第7話
Name: ごじゃっぺ◆cedeedff ID:f61f25af
Date: 2011/01/27 11:40
10月25日 (木) 午後 ◇射撃訓練場◇ 《Side of 榊千鶴》


今日は神宮司教官が別件で訓練に来られないとのことで、午前中は自主訓練を行っていた。
今は、白銀大尉が教官役として訓練を見てくださっている。
頭に包帯を巻いていたので気になって尋ねてみたのだが、どうやら訓練中の事故で負傷したらしい。

 「榊~~~!」
 「――!はいっ!!」

今まで静観していた大尉に突然呼ばれ驚いたが、返事をして呼ばれた方を見ると白銀大尉が手招きしていた。
私は駆け足で彼の下に向かう。

 「射撃動作で気になったことがある。みんなを集めてくれ」
 「了解。――射撃止め!分隊集合!!」

私の声に反応して、隊員たちが駆け足で集まってくる。
全員が集合したのを見て、白銀大尉が話し始めた。

 「今見ていて思ったんだが、みんな訓練に慣れすぎて間違ったところに意識が行ってしまってると感じた」
 「――どういうことでしょうか?」
 「構えてから撃つまでが早すぎる。射撃場に慣れた撃ち方になってしまってるんだよ」
 「「――?」」
 「今は生身の訓練だけど、ここで変な癖をつけると戦術機に乗ったときに悪い影響が出る」

彼の言葉に私を含め、全員が聞き入っているようだ。

 「戦術機に搭乗した場合、本来は人間が行っている判断とか動作が自動化や高速化されているだろ?だから今の射撃動作だと、反射的にトリガーを引いてしまってムダ弾を増やすことになるだろう」
 「「・・・・・・・」」
 「IFFがあるから味方誤射は無いかもしれないが、戦場で動きを止めて撃つことは滅多に無い。遮蔽物だってあるだろう。しかし一呼吸遅らせれば、的確に状況を把握する余裕が生まれ正確な射撃が出来る」

そこまで考えて訓練していなかった。
私たちが何を目標にしているかを考え効率良く訓練しろ、ということか。

 「と、言うわけで・・・その辺を気にしながらやってみてくれ」
 「「了解!!」」

ただボーっと見ているだけかと思っていたのだが・・・・・
やはり衛士ともなると見るところが違うのか、今まで意識していなかった事を指摘された。これからの訓練に生かさなければ――

 「――んふふ・・・・・さすがだね~」
 「――ふふ。当然であろう。あの者ならば」

訓練に戻る際に、鑑がポツリと呟いたのが聞こえた。それに同意する御剣の声も。
あの二人、今朝になってから妙に仲が良くなっていた。
鑑とは昨日知り合ったばかりだが、彼女の人懐こい笑顔や自己紹介のときのアレもあり、少しずつではあるが確実に打ち解けている。
しかしあの二人は、事情を知らなければ、昨日知り合ったとは思えないくらいだろう。
何があったのか気になるところではあるが、今は大尉に教えて頂いたことを無駄にしないよう訓練に集中しよう――



◇横浜基地・シミュレータールーム◇ 《Side of 涼宮茜》


今日の訓練は、神宮司軍曹も参加して行われている。
ここにいる全員にとって、神宮司軍曹は恩師。だけど、それ以上に怖・・・・・コホン。

神宮司軍曹――神宮司教官と一緒に訓練をすることに戸惑っていたのは、私だけでは無いと思う。
新任の私たちは、数ヶ月前に戻ったような気持ちだったけれど、先任の速瀬中尉や宗像中尉、伊隅大尉すらも緊張していたみたいだった。
神宮司軍曹は初め、私たちに敬語を使おうとしたけど、全員から「それだけは止めてくれ――」という懇願を聞き入れてくれて、以前と変わらない調子で接してくれた。
でも、そこで教官が放った一言に、私たちは度肝を抜かれた。

 「――着任初日の白銀大尉にも同じことを言われたのよ」

その一言に、まず宗像中尉が喰い付き、そこから他の面々も次々と教官に質問を浴びせた。
最初は毅然とした態度でいた教官も、質問が次第に際どい物になっていくにつれ、その態度を崩し、最後は照れたような表情から無理矢理に表情を引き締めたようで、宗像中尉たちを追い払っていた。
・・・・あんな表情をする教官を見たことが無かったので驚いた。
白銀大尉の話だと、神宮司軍曹もA-01に配属されるそうなので、今後も軍曹が訓練に参加することになると思う。より一層、訓練に気合が入る。
私も千鶴たちに負けないように、しっかり訓練しなくちゃね。



夜 ◇横浜基地・PX◇ 《Side of 武》


久しぶりに207の訓練に参加した。参加――と言うと語弊があるか。訓練兵としてではなくて、教官としての参加だったしな。
あいつ等、相変わらず良い腕をしてやがる。技術的な面では、ほとんど言うことは無い。
俺は自分の過去の経験から、所々アドバイスするくらいしかなかった。戦術機に乗ることを意識させて訓練していけば良いのかな・・・・・
さっさと戦術機に乗って欲しいんだけど、そうもいかねぇもんな~~~~。どうしたもんかね~~~

 「――白銀?」
 「・・・・んぁ?――げ」
 「げ――とはまた、ご挨拶ですね~~。大尉殿?」
 「あははは。やだな~~~、そんなこと言うわけ無いじゃないですか」

いつの間にか、午後の訓練を終えたらしい伊隅大尉たちがPXに来ていた。
俺の周りに勢揃いしているのに、気付かない俺って・・・・・

 「まぁ良いわ・・・・・ここ座るわよ」
 「どうぞどうぞ――」

速瀬中尉が俺の向かい側に座ったのを皮切りに、他のみんなも思い思いに座り食事を始めた。
なんか懐かしいな・・・・この人たちと食事するのも。

 「どうですか?アレは」

食事も進み、落ち着いてきた頃を見計らって、みんなに感想を聞いてみる。

 「――どうもこうも無いわよっ!!」
 「・・・・口に物を入れたまま喋らないで下さい・・・飛んでますよ、速瀬中尉」
 「そんなことより!」
 「水月~~。ちょっと落ち着きなよ~~~」

涼宮中尉に言われ、ズズ~~~~~っと、お茶で口の中の物を飲み下した速瀬中尉。
そんなに興奮しなくても良いと思うんだけど・・・・

 「コホン――本当にとんでもないモノを造ってくれたわね。アンタと副司令は――」
 「まったくだ。今まで蓄積してきたデータを軽々と超えてしまったのだからな」
 「信頼性も問題は無さそうですしね。シミュレーターで体感して分かりましたが、あの機動は急造の機体でやるものではないですね。せめて、ちゃんと整備をした機体じゃなければ危ないですよ」

宗像中尉の指摘に、俺は乾いた笑いをするしかなかった。
仕方ないじゃんなぁ?あの模擬戦で不知火を使ったんじゃ意味ないし、かといって撃震なんか余っているわけも無い。
だからハンガーの隅に転がってた吹雪のパーツと、不知火のパーツを使うしかなかったんだけどな・・・・時間が足りなかったんですよ・・・・・

 「とにかく!早くアレに慣れないと話にならないわ!!」
 「あぁ――全シミュレーターの換装は、いつ終わりそうなんだ?」
 「そうですね~~・・・・明日か、遅くとも明後日には終わると思いますよ」

そうか――と短く頷いた伊隅大尉は、止めていた箸を再び動かし始めた。
シミュレーターの換装は純夏とピアティフ中尉にやってもらっている。
ここに来てから、純夏には動いてもらってばかりだから体調が少しだけ心配だ。――少しだけだぞ?

 「私たちの不知火への搭載はいつ頃になるのでしょうか?」
 「そっちは夕呼先生が指示を出してくれてるみたいですよ。もうしばらくかかると思いますけど、来月の頭には終わってるはずです」
 「そうですか――」
 「実機に乗ったときに扱えないんじゃ仕方ない。今はシミュレーターで慣れておかないとな、祷子」
 「はい」

午前中だけA-01の訓練に参加して、俺は軽く指導したんだが、そのときの感じだと予想以上に早く慣れてくれそうだった。
最初こそ転倒や障害物への激突が目立ったが、訓練をを繰り返すにつれ、目に見えて動きが良くなっていた。
ま、さすがヴァルキリーズってとこかな。
午後の訓練は見てないけど、良くなっているのは間違いないはずだ。

 「あの~~大尉~~~」
 「――ん、なんだ?涼宮」
 「キャンセルとかコンボっていうのがまだ――」
 「使ってれば分かってくるよ。今はOSに慣れることだけに集中してくれ」
 「・・・・・説明が面倒くさいのでは?」
 「んな――!?違いますって!キャンセルとコンボは説明して出来るようにはなりませんよ。自分でやって慣れるしかないんですってば」

なんてこと言うんだ、宗像中尉。・・・・ちょっとだけ思ったけどさ。

 「むぅ・・・・やっぱり慣れるしかないかぁ~~~」
 「――茜。さっさと慣れて白銀をギャフンと言わしてやれば良いのよ!」
 「そうですね――よ~~し、頑張るぞ~~~!!」

速瀬中尉が何やら物騒な事言ってるな。
涼宮も、なんか妙なヤル気スイッチがONになった気がするけど・・・・まぁ良いか。
早く慣れてもらうに越したことは無いからな。

 「――あ、そうだ・・・・白銀大尉、お聞きしたいことがあるのですが、宜しいですか?」
 「・・・?――なんですか?」

宗像中尉が何か思い出したように尋ねてきた。俺はノンビリお茶を啜りながら聞いていたのだが――

 「どうして神宮司軍曹に敬語を使うな――と懇願したんです?」
 「――ッ!?ゲホゲホゲホ・・・・・・・・」

思いっきり咽(むせ)た。

 「大丈夫か?白銀」
 「「・・・・・・・」」

うげ~~~~変なとこ入ったじゃねぇか。
隣に座っていた伊隅大尉が背中を摩ってくれた。ありがたや、ありがたや。

 「「・・・・・・・・・・・・」」
 「う、お・・・・?」

視線を上げると全員からの無言のプレッシャーを感じる。
危険だ――俺の何かが告げている。このままではマズイ。非常にマズイ。逃げろ――と。
だが、現実はそう上手くはいかないらしい。
背中を摩ってくれていた伊隅大尉の手に、いつの間にか力が入っているのに気付いてしまった・・・・

 「い、いやほら――みんなと同じ理由ですよ?」
 「「・・・・・・・・・・・・」」

くっ――何故に無言だ!?
ここは正直に言うしかないか。

 「・・・・・実は――昔凄くお世話になった人に似ていたんですよ。神宮司軍曹が」
 「ほう――」
 「それで敬語を使われるとむず痒くて」
 「「・・・・・・・・・・・・」」

納得してもらえたか・・・?

 「そうでしたか。すみません、変なことを聞いてしまって――」
 「い、いえ――」

ほ・・・なんとか納得してもらえたみたいだ。助かった~~~~。
解決した安心からホッと一息。お茶を一口・・・・

 「――それで、大尉はその人と只ならぬ関係だったというわけですか」
 「――ブフゥッ!?」

どう解釈したら、そういう結論になるんだよ!?

 「ゲホゲホゲホ・・・・な、なんでそういうことになるんですか!?」
 「いえ――神宮司教官に似ていて、お世話になったということは、おそらく大尉よりも年上。それだけなら別に、たとえ教官が似ていたとしても敬語を使うな、とは言わないと思いまして」

なるほど――って納得しないでくれよ、速瀬中尉。
他の連中も宗像中尉の推理に感心したように、おぉ~~~~とか言うなっての。

 「教官に懇願までしたということは、大尉にとってその人は余程特別な存在だったのでは――と思っただけですので、気にしないで下さい」
 「そっすか・・・」
 「ふふ――」

わざとだ、この人。絶対面白がってるよ・・・・
まぁ特別ってのは間違ってないけど、もう余計なことは言わない。絶対に言わない。言うもんか。

 「さ――お前たちも早く食事を済ませてしまえよ。この後も訓練があるんだからな」
 「「は~~~い!」」

今度こそ終わった。ふぃ~~~助かったぜ。伊隅大尉には助けてもらってばっかりだな。
命の恩人に感謝――

 「面白い話は後でも出来るんだからな――」
 「いぃぃ――!?」
 「「了解!!」」

マジかよ。伊隅大尉そりゃないって・・・・・
この後の訓練は、少し厳しくしておいた。これくらいの反撃は許されると思うんだ。



10月26日 (金) 午前 ◇横浜基地・教室◇ 《Side of 冥夜》


火器整備の訓練中、香月博士の使いだという社に呼ばれ、鑑が行ってしまった。
鑑が訓練に参加するようになってから数日しか経っていないが、このような事が頻繁にある。
一体、何者なのか・・・・この207Bに配属されたということは、一般市民である可能性は低い。それにタケルとは幼い頃からの仲だという。
この事実こそが、私が最も危惧していることだ。
――鑑と過ごすようになって数日だが、彼女は信じられる人物だと判断しているので、他の事は言ってしまえばどうでも良い。

 「――副司令に呼ばれるなんて、鑑さん凄いよね~~~」
 「凄いけど不思議・・・・」
 「鑑も貴女には言われたく無いんじゃない?」

不思議か。普段の鑑を見ていると、確かにそう思わなくも無い。
鑑は極めて明るい性格で、いつも笑顔を絶やさない。訓練後にバテている事もしばしばある。
特に突出した能力があるわけでも無かった。そんな彼女は初対面のときに、自分は少し特別だから――と言っていたが、こういう意味だったのだろうか?

 「お喋りはそのくらいにしておけ――今は訓練に集中しなさい」
 「「はい――!」」

神宮司教官に叱られてしまった。今は訓練に集中しよう。
このような所で躓いているわけにはいかぬ――タケルがこの先で待っているのだ。何があろうとも私は先へ進んでみせる。



◇夕呼執務室◇ 《Side of 夕呼》


 「――悪いわね~~~、頻繁に呼び出して」
 「あはは。大丈夫ですよ~」

ここのところ、鑑をXM3関係のことで頻繁に呼び出していた。
まぁ、本来は訓練兵に混じっての訓練なんて必要ないのだから、あまり気にしてはいないのだけど。

 「それで今度はなんですか~~?」
 「凄乃皇のことよ」
 「――?」

なんでこの時期に――って顔ね。思考をリーディングすれば済むはずだけど、いつも読んでるわけじゃないみたいね。

 「せっかくアンタっていう切り札があるんだから、やれることはさっさとやった方が良いでしょう?白銀から聞いたけど、満身創痍だったみたいじゃない。オリジナルハイヴを落とす直前なんて酷かったって言ってたわよ?」
 「あ~~~・・・・確かに酷かったですね」
 「四型も不完全な状態で出撃したそうだから、今回は出来るだけ万全な状態にしよう――って決めたのよ」
 「分っかりました~~!じゃぁ私は何をすれば良いんですか?」
 「各種機関、装備の小型化、及び強化よ」
 「小型化と強化ですか?」

えぇ――と短く返答する。
先日、白銀から聞いた話によると、佐渡島での弐型には機体の問題は無かったが、あ号での四型には、多数問題があったそうだ。
まず弾薬の問題。想定していたよりも消費が激しくメインホールに到達する頃には、残弾がほとんど無い状態だったらしい。
他にも武装のほとんどを排除するしかなかったりと、凄乃皇・四型は本来の能力を出せなかったようだ。なので、小型化できる部分は小型化して容量を増やしたりと、それなりに大掛かりな改修をする予定だ。
だが・・・・その前にもやることは山積みになっている。
実際、凄乃皇本体の受け渡しも難航しているのだ。さっさと現物を搬入してしまいたい。
白銀が言うところの“今回”も、“前回”と同じでは仕方ない。

 「現時点で可能なだけで良いわ。すぐにとは言わないから、可能かどうか検討してみてちょうだい。可能ならデータにして送ってもらえると助かるわ」
 「了解!!やってみま~~す――」
 「じゃ、任せたわね」

元気良く返事をして鑑は訓練に戻っていった。
私は、いくら量子電導脳を持つ鑑であっても1週間以上はかかると思っていた。
なので鑑が、この5日後に可能だという報せと、そのデータを送ってきたのには、さすがの私も驚いた。



10月28日 (日) 午後 ◇シミュレータールーム◇ 《Side of まりも》


今日は207BもA-01も訓練は休みだが、私はシミュレーター使用の許可を取り自主訓練をしている。
私は数日前、近々A-01に配属すると宣告された。
過去に実戦に出た経験があるとはいえ、一度実戦から離れてしまった今の私では、彼女たちと比べると腕も勘も鈍っている。

それを実戦部隊の訓練に参加させてもらって痛感した。A-01の訓練に参加したくらいでは、足手まといになるだけだろう。なので、こうして休日も訓練に当てることにしたのだ。
白銀大尉のデータを拝借して訓練をしているが、やはり一筋縄ではいかない。
簡単にやれるとは思っていなかったけど、ここまで滅茶苦茶だと何をどうすれば良いのかも分からない・・・・
彼は一体どういう訓練をしてきたのか、彼を鍛え上げた人はどういう人なのかも興味がある。出来ることなら、彼の教官に会って教えを請いたいくらいだ。

 「――悔しいけど、教官を交換するのは仕方ないわね・・・・・」

あの娘たちが総戦技演習を突破するのは、そう遠くないはずだ。
彼女たちの能力には問題は無い。そして鑑の加入により、彼女たちの結束は強まりつつあるようだ。あとは鎧衣の復帰を待つばかりか。
何かとしがらみの多い娘たちだけど、大切な教え子であることに変わりは無い。
出来ることなら最後まで指導してあげたい。しかし私の実力では、このOSを完全に使いこなすことは、今はまだ無理だ。

XM3を使えるようになっておけば、白銀大尉の変わりを任せてもらえるかもしれない。
A-01に合流しても恥ずかしくないようにしておかなければ気がすまないし、そういう意味で、この自主訓練は一石二鳥といえるかもしれない。
しかし本音を言うと、

まだまだ教え子には負けていられない――

という気持ちが大きい。



◇ブリーフィングルーム◇ 《Side of 宗像美冴》


何度見ても凄い――
私は祷子と、この間の模擬戦の記録映像を見ているのだが、何度見ても凄い。
いや、オカシイと言ったほうが良いだろう・・・・彼の動きは。
XM3を与えられてから、連日の猛特訓もあり、ようやく白銀大尉の動きが見えるようになってきたので、幾度となく見直した先日の模擬戦の映像を再び見てみたのだが・・・・・
なまじXM3を使えるようになってしまったので、彼の凄さを理解できてしまった。

 「さすが開発者というか何というか・・・・・恐ろしいな。XM3も白銀も」
 「はい・・・・」

最初に映像を見ながら白銀大尉の機動パターンと操作ログを見比べたときは、不可解な点がいくつかあったが、一通り教導されている今なら理解できる。
以前、操作ログの不可解な点を白銀に聞いてみたところ、彼はただのクセだと言っていたが、実際にはXM3を最大限に活用する技術なのだろう。

速瀬中尉を撃墜したシーンでは、XM3の効果が最大限に発揮されていると思う。
壁面に着地した白銀機は、そこから再び飛び上がるような操作を入力していたが、飛び上がる前にビルが倒壊して体制を崩した。
従来のOSなら、ここで速瀬中尉に撃墜されてしまうだろうが、彼は体制を崩したままで機体を制御し、速瀬中尉の撃墜に繋げている。
OSがあれば誰でも簡単に出来る――
そう思っていた自分が恥ずかしい。そんな甘いもではなかった。白銀大尉の衛士としての実力を侮っていた。

 「美冴さん。参考になりそうな部分は纏めておきましたわ」
 「ありがとう祷子。それじゃ今日はこのくらいにしておこうか。そうだ――せっかくの休みだし、久しぶりに聴かせてくれないか?」
 「はい――私の部屋でよろしいですか?」

たまの休日、休まないと勿体無い。
私は頷き、祷子と共にブリーフィングルームを出る。
久々の演奏だ。楽しもうじゃないか――



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