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社説:エジプトのデモ 強圧的な鎮圧策やめよ

 エジプト情勢が不穏だ。ムバラク長期政権に反発する群衆が25日、全土で数万人規模の抗議行動を繰り広げ、その後も政府機関に放火するなど行動が先鋭化している。北アフリカの小国チュニジアで「ジャスミン革命」を起こした民衆運動が、「アラブの盟主」エジプトにも飛び火したことを重大に受け止めたい。

 まず懸念されるのは死傷者の増加である。治安部隊との衝突でデモ参加者の死亡も伝えられているが、多くのイスラム教徒がモスクで礼拝する28日の金曜日は、さらに大規模な衝突が起きる恐れもある。クリントン米国務長官が要望したように、エジプト当局は強硬な鎮圧策を取るべきではない。日本政府も邦人の安全に十分注意を払ってほしい。

 エジプトにはピラミッドやナイル川など、日本人にも人気の観光スポットが多い。政治的には中東随一の親米国家であり、アラブ諸国の中で79年に真っ先にイスラエルと和平を結んだ。91年の湾岸戦争では米国の求めにより「アラブ合同軍」を組織してイラクと戦った。米国の中東政策には、なくてはならない国だ。

 だが、対イスラエル和平を選んだサダト大統領の暗殺(81年)以来、もう30年もムバラク政権が続き、暗殺事件に伴う非常事態令も解除されていない。今年の大統領選では82歳のムバラク氏に代わって次男が出馬するとの観測もあるが、ムバラク王朝とも呼ばれる権力の独占状態は決して望ましいものではない。

 確かにムバラク氏は選挙によって政権を維持してきた。だが、エジプトでは政治不信も手伝って投票率が低く、人民議会(国会)では与党・国民民主党(NDP)が圧倒的多数を占める。大統領選出馬には人民議会や地方議会の議員多数の支持が必要とされ、立候補自体が難しい。こうした選挙規定や非常事態令は、少なくとも見直すべきである。

 エジプトの抗議行動もネットを通じて連帯する若者が中心とされているが、同国ではイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」が庶民の支持を得て、他のアラブ諸国にも根を張っている。パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスも同胞団系の組織だ。仮にムバラク政権が衰えれば、弾圧されていたイスラム勢力の発言力が増し、対米、対イスラエル関係の見直しも課題になるかもしれない。中東全体への影響は大きい。

 中東民主化の必要性は認めつつイスラム勢力の台頭は望まない。それが欧米諸国の本音だろうが、そう都合よく運ぶかどうか。アラブ世界に広がる民衆運動は、世界秩序の大きな変化を生む可能性を秘めている。私たちは、そのことを再認識して事態を見守るべきだろう。

毎日新聞 2011年1月28日 2時31分

 

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