社説
性犯罪GPS監視/宮城から始めるべきことか
なぜ、この宮城から始めようというのだろう? 地元はそう思い、他県では、「なぜ、あそこで?」といぶかっている。 宮城県が打ち出した性犯罪の再犯防止対策が戸惑いを広げている。前歴者の行動を衛星利用測位システム(GPS)を使って監視しようという国内初の試みだからだ。 被害者、特に幼児とその家族の憤り、不安を思えば、再犯はなんとしてでも防ぎたい。韓国など既に実施している外国の事例もある。思い立った心情と論拠の幾つかには共感を覚える。 しかしそこから、条例による一地域での具体化という答えが真っすぐに導き出されるわけではない。地域の特性に見合った切迫した課題でもない。 監視対象の選別、解除を誰が、どんな基準で決定するのか。刑罰の延長と見なせば、司法手続きが不可欠ではないか。常時監視の体制を自治体が担えるのか、人員・経費はどう見込むのか。戸惑いの中から疑問が次々に湧いてくる。やはりこれは、国の仕事ではないか。 宮城県が検討を始めたのは、条例を制定して性犯罪前歴者やドメスティックバイオレンス(DV)加害者にGPS端末の携帯を義務付け、警察が常時監視する仕組み。対象者は「審査委員会」の判定に基づき知事の行政処分で決める。 性犯罪前歴者の量刑はもちろん刑事裁判で決まる。DV加害者への接近禁止命令は家庭裁判所の審理を経ている。これらに付加するGPSによる日常行動の監視という重い制約を、司法判断の介在なしで決めていいとは思えない。 性犯罪に対する現在の刑罰の在り方は被害感情の大きさにそぐわず、再犯防止の観点からも不十分だ。そう考えるのであれば、法律を改正して解決すべきことだ。家裁の命令の実効性に疑問があるのであれば、DV防止法の運用課題として問い直されなければならない。 韓国では2008年、性犯罪前歴者にGPSを内蔵した「電子足輪」を装着させる法律が施行された。刑期終了から5年以内の再犯だったこと、被害者が13歳未満だったことなどが適用の基準で、検察官が裁判所に装着命令を請求するという。 法務省は08年、米、英、独、仏の性犯罪対策の研究を始め、現在、法務総合研究所が韓国などを加えた7カ国のGPS監視制度を調査している。対象者の罪種や使用する電子機器、監視の運用状況、抑止効果などの実情を11年度にまとめる予定だ。 外国の事例は既に少なくはない。米国では一部の州で1980年代に類似の監視装置が導入された歴史もある。しかし、国の研究機関が各国の実態を見極める材料を集約しようとしているいま、一つの地方自治体がなぜ、宮城でなぜ、国情の違いも踏まえた先行制度の検討にエネルギーを割こうとするのか。 条例は法律の枠組みを超えてはならない、というのが憲法の規定である。村井嘉浩知事も県庁の法務担当者たちも知らないはずはないのに…。やはり、疑問は尽きない。
2011年01月28日金曜日
|
|