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天声人語

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2011年1月25日(火)付

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 詩人のサトウハチローや作家佐藤愛子さんの父、佐藤紅緑(こうろく)はおならにうるさかった。「屁(へ)は人生を象徴する。屁に勢いのない奴(やつ)はダメだ」と。「兄たちはおならをしては父に(勢いがないと)叱られていた」。愛子さんの随筆にある▼おならの音量はともかく、気力の有無を外からうかがう材料は多い。顔色、肌のつや、声の張り、背中の丸さ。どれも、時々の心の持ちようで変わる。体は正直だ▼さて、正直者とおぼしき菅首相の施政方針演説である。声や表情には悲壮な覚悟が見えた。この通常国会、日本の政治が更生する最後の機会かもしれない。「今年こそ舵(かじ)を切る」「よろしくお願いします」。決意の言葉を、もどかしげな誘いが追いかけた▼片や自民党の谷垣総裁。党大会で「政権を解散・総選挙に追い込む」と額に青筋を浮かべ、演台をたたいたそうだ。その勢いの先は政局にらみの党略か、熟議に応じる責任野党か。両論あるやに聞くが、ここは与党と熟しぶりを競う時だろう▼本家、英国の議場は狭く、議員が密集している。大声でやり合うと知恵が飛んでしまうからだと、外山滋比古さんの著作に教わった。冷静な議論と、実のある妥協に導く工夫らしい。翻ってわが国会、すでにかなりの知恵が蒸発している▼外山さんは「思い切ってゆっくり話すと案外たくさんのことが言える」と、早口も戒める。内外の国難を思えばまくし立てたくもなろうが、どうか賢く熱くなって、密度の高い論戦にしてほしい。国民の採点基準はおならの、いや声の大きさではない。

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