京都府舞鶴市で女子高校生が殺害されたとする事件で7日朝、マスコミ各社が一斉に「60歳の男性を逮捕へ」とする記事やニュースを流し、夕刊では逮捕されたことを実名で報道した。この男性は殺人事件とは関係の無い窃盗容疑で逮捕され有罪となって服役中という。殺人事件への関与を示す証拠は防犯カメラに「よく似た男」が女子高生と共に映っていたことと、現場付近で男性を見たという目撃証言だけだ。
5月から始まる裁判員制度を控え、報道機関の間では裁判員に事件についての予断を与えることがなよう事件記事を見直す動きが広まっている。それとは正反対の今回の報道ぶりには強い違和感を覚える。
京都府警察本部
NHKは朝のニュースで「去年5月、京都府舞鶴市で女子高校生が殺害された事件で、京都府警察本部は、遺体が見つかった現場近くに住む60歳の無職の男が事件直前に女子高校生といっしょにいて、事件にかかわっていた疑いが強まったとして7日にも殺人と死体遺棄の疑いで逮捕する方針です」と報じた。朝日新聞大阪本社版では「舞鶴高1殺害容疑 逮捕へ 京都府警60歳きょうにも」の見出しで1面トップ記事で報じた。読売、毎日、産経の各紙も1面トップ扱いだった。
この事件については京都府警が昨年11月に連続6日間で40時間を超える異例の捜索をした。押収物は2千点にも上ったというが、証拠は似た男性が映っていた防犯ビデオのみというのは、あまりにも希薄な根拠である。NHKは「現場近くで男とみられる人物が小杉さんとみられる女性と一緒にいるところを見たという証言が新たに得られたということです」と目撃証言もあったとしているが、これが殺人とどう結びつくのか不明だ。
5月から刑事裁判の審理に市民が参加する裁判員制度が始まる。これに伴い、マスコミ各社は事件記事の表現の見直しに取り組んでいる。朝日新聞は3月22付の紙面で「裁判員時代の事件報道へ」として検討チームで固めた新しい指針を発表した。毎日や読売新聞、共同通信など大手マスコミも同様の事件報道記事の見直しを進めている。
朝日新聞の4月4日付1面記事
朝日新聞の新しい指針によると、「事件・事故報道の意義を再確認」「『公正な裁判を受ける権利』と報道の調整・調和」などを基本的な考えに据え、情報の出所を明示することや、当事者や弁護側への取材など対等報道の徹底などについて改善していくとしている。これらは「『事前の報道内容が裁判員に予断を与えないか』という指摘を踏まえ、『公正な裁判を受ける権利』と『報道の自由』との調整・調和を図る」という。
まだ逮捕もされていない段階で「きょうにも逮捕へ」とした7日の記事は、こうした考えとは著しく矛盾する。朝日だけでなくマスコミ各社が一斉に同様の報道をしているため、市民は強く印象に残ったことだろう。市民から選ばれる裁判員が逮捕報道の中に示された証拠が、事件と結びつけるにはあまりに乏しい材料であることをしっかりと判断できるのか不安が残る。
今回の事件は裁判員制度の下で裁かれるか微妙なタイミングにあるが、制度開始までもう1カ月余りとなった。2度とこうした報道は繰りかえさないよう強くマスコミ各社に求めたい。
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