国際テロ:流出情報、出版差し止め 東京地裁が仮処分決定

2010年11月29日 21時36分 更新:11月30日 0時38分

 国際テロに関する警視庁公安部外事3課などの内部資料とみられる文書がインターネット上に流出した問題で、文書を収録した書籍を出版した「第三書館」(東京都新宿区)に対し、東京地裁(田代雅彦裁判長)は29日、出版や販売の差し止めを命じる仮処分決定を出した。個人情報を掲載されたイスラム教徒数人による28日の申し立てに基づくもので、プライバシーの侵害を認め、個人情報掲載の公益目的を否定した。

 代理人弁護士によると、決定は「個人情報の公開は公益目的ではなく、テロに関する犯罪の容疑者であるかのような記述もあり、公開されれば回復不可能な損害を受ける恐れがある」と指摘。問題箇所を削除しないままの販売などを禁じた。

 書籍は「流出『公安テロ情報』全データ」(480ページ)。申立人らの国籍、氏名、旅券番号、顔写真、家族構成などがそのまま掲載されている。2000部が出版され、店頭で扱う書店もある。【和田武士】

 ◇「裁判所が適切に」警視庁幹部ら

 流出文書について警視庁は「内部資料かどうか調査中」との立場を崩していない。仮処分決定について、幹部らは「報道を通じてしか承知していないが、事案に即し裁判所が適切に判断したのだろう」などと述べ、直接的なコメントを避けた。

 ◇解説 地裁、異例の決定 記載内容の公益性否定

 インターネット上に流出した警視庁の内部資料とみられる文書を収録した書籍を巡る29日の東京地裁の仮処分決定は、個人情報掲載の公益性を否定し、申し立てからわずか1日で出版差し止めの結論を導き出した。

 出版物に取り上げられたり、モデルになった人が、名誉毀損(きそん)やプライバシー侵害を主張して出版の差し止めを求めた訴訟や仮処分申し立ては過去にもあるが、実際に司法が認めた例は決して多くはない。

 最高裁大法廷は86年、北海道知事選を巡る月刊誌の中傷記事が問題となった「北方ジャーナル訴訟」で「内容が真実でなかったり、公益を図る目的でないことが明白で、被害者が重大で著しく回復困難な損害を被る恐れがある場合、事前差し止めが許される」との判断を示し、差し止め請求を認めた。

 柳美里さんのデビュー小説「石に泳ぐ魚」を巡っても、最高裁は02年に「公的立場にないモデルの名誉が侵害され、回復困難な損害を被る恐れがある」と述べ、出版差し止めを支持している。

 地裁もこうした判例を踏まえ「公的立場にない申立人の詳細な個人情報だ」として記載内容の公益性を否定。「申立人らがテロに関する何らかの犯罪の容疑者であるかのような記述がある」とも指摘し、出版で回復不可能な損害を受ける恐れがあると結論付けた。

 29日に非公開で双方から主張を聞く「審尋」があったが、出版した第三書館は欠席したとされ、同社の今後の対応は不透明だ。情報はネット上で拡散しており、販売中止が根本的解決につながるわけでもない。今回のケースは、ネット社会における従来の司法手続きの限界を示しているとも言えそうだ。【和田武士、北村和巳】

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