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[22867] Lyrical GENERATION(SEED中心のガンダムシリーズとのクロス) A`s編開始
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2011/01/20 20:35
※この作品は自分が某所で投下していた作品を焼き直した作品になります。

※クロス元作品は“魔法少女リリカルなのはシリーズ”と“機動戦士ガンダムSEED DESTINY”を中心としたガンダムシリーズとなっております。

※最初のうちはシンとなのは達は同い年設定、DESTINY本編の7年前の話になります。

※クロスカプ要素が沢山あります。

※オリキャラありの予定(主人公ではないです)、オリジナル設定のMS、デバイスも出ます。

※かなりやりたい放題やります。





2010年11月15日 無印編終了。
2011年1月20日 A`s編開始(まったりペース)



[22867] Lyrical GENERATION 1st プロローグ「すべてが始まった日」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/02 22:18
プロローグ「すべてが始まった日」


何千何百年も前のこことは違う遠い世界……そこは今、滅びの時を迎えようとしていた。

辺りに建てられていた建物は原型を留めないほど破壊され、様々な物が燃える焦げ臭いにおいが漂っている。

そしてその廃墟の中で、一組の男女が空に浮かぶある物を見つめていた。
「オリヴィエ、あの機械人形は……。」
「あれは……私達を消そうとしているのでしょうか? この世界が愚かな戦いを続けたから……。」

その二人の視線の先には、青い胴体に白い手足、黄色い目に白い三日月の髭を携え、背中からは蝶のような光の粒子でできた羽を羽ばたかせた白いロボットがいた。

その時、空中に浮かぶロボットの足元に魔方陣が現れ、ロボットはその中に沈むように取り込まれていき、やがてこの世界から姿を消した。
「消えた……何故?」
「どうやら私達は滅びずに済んだようです……きっとあれはあなたにこの世界の未来を託したのでしょう。」
そう言って少女は男の元を去ろうとする、そんな彼女を男は引き留めようとしていた。
「待ってくださいオリヴィエ!勝負はまだ……!」
少女は立ち止まることなく、男に優しく語りかけた。
「あなたはどうか良き王として国民と共に生きてください、この大地がもう戦で枯れぬよう、青空と綺麗な花をいつまでも見られるような、そしてあの機械人形に認められるような、そんな国を……。」
「待ってください! まだです! ゆりかごは僕が……!」


オリヴィエ! 僕は―――!!





その日、栄華を誇った一つの世界が滅びの時を迎えた、月光に照らされた蝶の羽を持つ機械人形によって……。





それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が世界を平和へ導く戦士として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。




母親は願いました、普通とは違う授かり方をしてしまった自分の子供達が、平穏に暮らせる世界になる事を。



機械人形達は願いました、自分たちの主が、大切なものと共に幸せに生を全うしてくれる事を。



少年は願いました、目の前の女の子を守る力を得る事を、そしてその子が笑顔になってくれる事を。

少女は願いました、いつか母親が昔のように笑いかけてくれる事を、そして少年が……いつまでも自分のそばにいてくれる事を。



最初の物語は……やがて運命の名を持つ機械人形を駆る少年が、運命の名を持つ少女と出会い、いくつもの世界を守る心優しきヒーローに成長していく物語。


あの日2人が出会った奇跡は、誰にも想像出来ない物語のプロローグに繋がっていく。





“Lyrical GENERATION 1st” 始まります。









プロローグは終了です、掴みはOK……ですか?

次から本編開始、無印なのはの温泉回終了後の話からスタートです。
ガンダム側の主人公は数多のクロスSSでよく救済されるおなじみのあの少年、なのは側のヒロインは金髪のあの子になります。では引き続き第一話をお楽しみください。



[22867] 第一話「巡り会う運命」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/02 22:23
第一話「巡り会う運命」


昔々ある世界に、“コーディネイター”と呼ばれる遺伝子を調整した人間と、“ナチュラル”と呼ばれる普通の人間が一緒に暮らす世界がありました。


その二つの種族は時に相手を罵り、時に相手を見下し、時には殺し合いをしてしまうほど仲が悪かったのです。


初めてコーディネイターになった人は悲しみました。「僕達は殺し合いをするために生まれてきたわけじゃないのに、みんなが仲良くするための手助けをする為に生まれてきたのに」と……。


その時、彼の願いが届いたのか……その世界に“女神”が現れました。
女神はその世界を皆が泣かなくてもいい幸せな世界にするため、コーディネイターとナチュラルが仲良くなるきっかけを作ろうと考えました、その方法とは……。










CE66年、オーブと呼ばれる国のとある町、そこに一人の9歳程の少年がカバンを背負って一人で下校していた。
「はあ、やっと終わった……でも明日も学校行かなきゃいけないんだよなぁ、嫌だなぁ……。」
少年は憂鬱そうに溜息をつきながら速足で家に向かっていた、その時……彼は道端に赤く光るものがあることに気付いた。
「あれ?なんだろうアレ……?」
少年は光るものがあったほうに近づく、そしてそこで赤く光る宝石のようなものを発見した。
「宝石……? きれいだなー。」
少年はふと、まだ二歳ぐらいの幼い妹の顔を思い浮かべる。
「そうだ! これはマユにプレゼントしてあげよう、きっと喜ぶぞー。」
そう言って少年は宝石をズボンのポケットに入れようとした、その時……。

パアアアア……!

「うわ!?」
突如宝石が強い光を発し、少年は思わず目をギュッと閉じる、そしてしばらくして目を開くと宝石は少年の手から消え去ってしまっていた。
「な、なんだったんだ一体……?」
少年は不可思議に思いながらその場で首を傾げた。



そんな彼の様子を、影から見張っている二つの影があった。
「フェイト大変だよ!ジュエルシードがあの子に……!」
「わかっている、しょうがないね……。」



数分後、少年は先ほどの出来事に不思議がりながら通学路を歩いて下校していた。
「あーあ、あの石綺麗だったのになー……絶対マユにあげたら喜んでいたのに……。」
そう言って少年は道端に転がっていた石ころをつま先で蹴飛ばす、その時……。
「あれ? なんか変だな……?」
少年は違和感に気付いた、辺りは静止画のように音もなく、動きもなく静止し、彼の周りにいた通行人やハトなどが姿を消したのだ。
「ど、どうなっているのコレ……!?」
あまりの異常事態に少年は後ずさる、その時……近くに植えられていた木の陰から、金髪をツインテールにまとめ上げた赤目の少女が現れ、少年の前に立った。
「き、君……誰?」
この異常事態に普通に動いている少女に驚きながらも、少年は彼女に話しかける、すると彼女はゆっくりと口を開いた。

「ごめんなさい。」
「う!?」
突然、少年の体に電流が流れ、彼は自分の身に何が起こったかわからないまま昏倒してしまった。



「フェイトやったね! 早く封印を!」
すると少女の後ろからオレンジ色の長髪の隙間から犬耳のようなものを生やした少女が現れる。たいして少女はこくんと頷くと、倒れている少年に向かって機械でできた鉄の杖のようなものを翳した。
「そうだね、ジュエルシードシリアルナンバー……あれ?」
だが少女は違和感に気付き、詠唱を途中でやめる。
「ん? どうしたんだいフェイト?」
「ジュエルシードが出てこない?なんで……。」
「えええ!? じゃあどうするんだよ! このままにしていたら暴走するかもしれないのに……。」
「…………。」
少女は倒れている少年を前にしてどうしたものかと深く考え込む、そして……ある結論に達した。











「んんん……ここは……?」
それからどれだけの時間が経ったのだろうか、少年はとある部屋のベッドの上で目を覚ました。
「目が……覚めましたか?」
「!?」
そしてベッドの傍らには、先ほど少年に電撃を喰らわせて気絶させた金髪の少女がイスに座っていた。
「き、君は……!」
「ごめんなさい……痛かったですか? あの時はああするしかなくて……。」
「え? ああ、うん……。」
素直に謝られて困惑する少年、そして彼は少女の姿を見て首をかしげる。
(……? なんでこの子こんなところで水着着ているんだ?)
少女は体のラインがぴっちり見える黒いスクール水着のような服にマント、足にはニーソックスにゴツゴツした靴、そして腰にはベルトに何故か股の部分は隠せていないスカートという、なんというかとてもマニアックな格好をしていた。
(あのマントってバスタオルかな……この子プール好きなんだなー、いつでも入れるようにしているのかな?)
「あの……どうかしましたか?」
少女はまじまじと自分の体を見てくる少年に困惑する。
「いや、君の格好って変わっているよね。」
「ああ、確かにバリアジャケットってあなたから見たら珍しいかもしれませんね。」
「ばりあじゃけっと?」
少女の口から意味不明な単語が飛び出し少年は首をかしげる、そして少年はさらにあることに気付いた。
(よく見たらこの子……可愛いな……。)

その時、二人がいる部屋に黒いドレスを身に纏った黒髪の女性が入って来た。
「フェイト……その子、目を覚ましたのね。」
「あ……はい。」
「だ、誰ですか貴女……?」
「私はプレシア、この時の庭園の主よ、君の名前は?」
「ぼ、僕は……。」
少年はその女性から発せられる何とも威圧的な空気に恐怖を感じながらも、自分を必死に奮い立たせて自信の名前を名乗った。


「僕はシン……シン・アスカです。」


その後少年……シン・アスカはプレシアと名乗る女性からすべての事情を聴いていた。
「僕の中にあの宝石が……!?」
「私達は“ジュエルシード”と呼んでいるわ、そのジュエルシードは全部で21個あるんだけど、そのうちの一個が君の世界に落ちて偶然君の体の中に入り込んでしまったのよ。」
シンは信じられないといった様子で自分の胸元を見る、そしてプレシアは話を続けた。
「ジュエルシードは持ち主の願いを叶えるという特性を持っているの、でもそれが暴走してしまえば周辺にかなりの被害が出てしまう……一刻も争う時だったからフェイトが君をここに連れて来たのよ。」
「そうだったんですか、それでそのジュエルシードを取りだす方法ってないんですか?」
シンの質問に、プレシアは首を横に振った。
「ごめんなさい……どういうわけかジュエルシードが何らかの理由であなたの中に張り付いてしまっているの、無理に引き剥がそうとすれば命に関わるかもしれないし。」
「そんな……。」
プレシアの言葉に落胆するシン、そしてさらに彼女の口から重要な事実が突き付けられる。
「いつジュエルシードが暴走するかわからないし、このままだとあなたの家族も危険な目に遭うかもしれないわ、だから今はあなたを家に帰すことはできないの……。」
「……! そんな……!」
もしかしたら二度と家族に会えない、そんな悪い未来予想図を思い浮かべてしまったシンは目から涙を流した。
「……私もできる限り手を尽くすわ、だからしばらくの間ここにいなさい。」
そう言い残し、プレシアは金髪の少女を連れて部屋を出て行った。


そしてシンのいる部屋から大分離れた位置でプレシアは、金髪の少女に対し……。

パシン!

「うっ……!」
強烈な平手打ちをお見舞いした。
「まったく……何をしているの!?あなたがもっと早く行動していればあんな面倒なことにはならなかったのよ!」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい……!」
少女はひどく怯えた様子で何度も何度もプレシアに謝った。
「フェイト……母さん悲しいわ! なんであなたはそういつもいつも……! またおしおきされたいようね!」
「ひっ……!?」
プレシアは殺意に近い感情で鞭を取り出し、壁に向かってそれを打ち付けた、その時……。
「その辺にしておきなさい、プレシア。」
突如プレシアの背後から栗色の髪をした女性が現れ、少女を暴行しようとする彼女を制止した。
「ヴィア……これはあなたには関係のないことでしょう! 邪魔をしないで!」
「そういうわけにもいかないわ、フェイトちゃんをいじめたってジュエルシードが集まるわけでもないでしょう、少し落ち着きなさい。」
「……。」
プレシアは栗色の髪の女性……ヴィアにいさめられ鞭をしまった。
「フェイト……グズグズしていないで早く行きなさい、母さんを失望させたいの?」
「はい……ごめんなさい……。」
そう言って少女は平手打ちされ腫れあがった頬を抑えながらその場を去ろうとした、その時、
「あ、ちゃんと叩かれた痕は氷水で冷やすのよー。」
ヴィアにアドバイスされ、少女はコクンと頷いて改めて去って行った。

そしてその場に残った二人は、シンについてどうするかその場で話し合っていた。
「で? あのシンって子はどうするの? おうちに帰したほうがいいと思うけど?」
「そういうわけにはいかないわ、ジュエルシードを取り出すまで手放すわけには……管理局に横取りされたらたまらないし、最近は邪魔も入っているみたいだし……。」
「あの白い子のことか……でもそれじゃシン君が可哀相じゃないの?」
「知らないわそんな事……あなたはただ自分の研究を進めていればいいのよ。」
プレシアはそう吐き捨てると自分の研究室に戻って行った。
「まったく……さて、一応あの子と話をしてみるか。」
一方ヴィアは意を決してシンのいる部屋に向かって行った。

その頃シンは毛布に潜り、家族の名前を口にしながらぐすぐすと泣いていた。
「お父さん……お母さん……マユ……帰りたいよお……!」
「あらら、ホームシック?」
するとシンのいる部屋にヴィアが入室し、彼は慌てて涙を拭うとベッド上で正座した。
「あ、あの……どちら様ですか?」
「まあそう固くならないで、私はヴィア、プレシアの友達の研究員よ、君がシン・アスカ君ね。」
「は、はい……。」
先ほどのプレシアとは違い柔らかい雰囲気のヴィアにシンは気を緩めた。
「それにしても災難だったわね、ジュエルシードが体の中に入っちゃった上に、こんなところまで連れてこられて……ああでもフェイトちゃんのことは責めないであげて、あの子は母親の為に必死になっていたから……。」
「フェイト? あの水着の子の事?」
「水着……まあバリアジャケットのことを知らないんだったらそう勘違いしてもしょうがないわね、さあて……まずどこから話したらいいのかしら……。」
そしてヴィアはシンに対して自分たちが今いる世界について説明を始めた。
この時の方舟はいくつも次元世界の狭間にあるということ。先ほどのプレシアとフェイトはシンにとって異世界人だということ、魔法という技術が存在していること……シンにとってはあまりにも現実味のない現実を突き付けられていた。
「……まるでマンガやアニメの世界みたいですね。」
「プレシア達にとって君の世界も十分マンガよ、ちなみに私もあなたと同じ世界の出身なの、よろしくね。」
「は、はい……。」

そして説明が一通り終わった後、ヴィアは今後の行動についてシンにある提案をする。
「ねえシン君、あなたの体からジュエルシードを引き剥がす方法だけど……私にひとつ考えがあるの、ついてきてくれる?」
「わかりました……。」

シンはヴィアに言われるがまま、時の庭園内にある彼女の研究室にやってきた。
「な、何ですかコレ……!? 妖精!?」
そこで彼は50センチ程の大きさの試験管の中に入れられている、30センチ程の大きさの赤い髪に、触覚のような二本の黄色い髪の束をぴょこんと立たせた少女の妖精をヴィアに見せられた。
「妖精ね……これは私が作ったデバイス、“Gデバイス”って言う魔法を使う為の杖みたいなものなんだけどね、君にこの子を使って魔法を使ってほしいのよ。」
「僕が魔法……?」
ヴィアが言うには何らかの原因でジュエルシードを取り込んだ影響で、シンの中に魔力の根源であるリンカーコアというものが形成されているらしい。
「君の中にあるリンカーコアの魔力の流れを見ればジュエルシードを取り出す方法が解るかもしれないわ、そこでね……君にフェイトちゃんの手伝いをしてほしいの。」
「あの子の? どういう事ですか……?」
「フェイトちゃんはね……今プレシアの言いつけで残り20個のジュエルシードを集めているの、でも成果は思わしくなくてね、このままじゃあの子……潰れちゃうわ、だから傍で支える人が必要なのよ。」
「えっと……もしかして魔法を使ってですか?」
「そう、ジュエルシードを引き剥がす手段を見付けて君をお家に帰すことができるし、万が一暴走してもフェイトちゃんが傍にいるし、私達はジュエルシードを集める手伝いをして貰える……どう? 悪い話じゃないでしょう? 大丈夫、魔法の使い方は私がちゃんと教えてあげるから、この子もサポートしてくれるし……。」
そう言ってヴィアはGデバイスの入った試験管をシンに渡した。
「僕が……。」
その時、試験管の中に入っていた培養液が抜きだされ、中にいた少女の姿をしたGデバイスが目を開いた。
「お、起きた!?」
「目を覚ましたようね……“デスティニー”」
ヴィアはそう言って試験管の蓋を取り外し、Gデバイスを外に出してあげる。そしてシンは試験管から出てきたGデバイスをジッと見つめた。
「……アナタのお名前は?」
対してGデバイスは見つめてくるシンに対して名前を尋ねる。
「喋った!? ぼ、僕はシン・アスカ……。」
「シン……アスカ……!」
Gデバイスはシンの名前を聞いた途端、驚いた様子で吊り上った目の瞳孔を開かせた。
「私は……デスティニーとお呼びください、我が主シン・アスカ。」
「主……? うん、よろしくねデスティニー。」
シンは戸惑いながらも、デスティニーと名乗ったGユニゾンデバイスの小さな手を握り握手する、そしてその光景をヴィアは暖かく見守っていた。
「まあ一晩その子と一緒に考えるといいわ、私としては君を危険な目に遭わせたくないけど……最善の方法がこれしか思いつかないのよね。」


それから数分後、シンはデスティニーと共に部屋に戻り、今後のことを話し合っていた。
「なんか……今日は色々なことがあったなぁ。」
「それで? 主は今後どうするのです?」
デスティニーはテーブルの上で8等分されたリンゴを食べながらシンに質問する。
「帰る方法がそれしかないっていうなら……やるしかないよね、でも僕に魔法なんて使えるのかな?」
「それは大丈夫です、私とヴィアが手取り足取り教えますので、一週間である程度戦えるようになると思います。」
「そっか、ありがとう……。」
そう言ってシンはベッドにコロンと寝転がり、重みを感じた瞼をそのまま閉じた。
(そうだ……あのフェイトって子と一緒に戦うことになるんだよな……あの子と仲良くなれるのかな……?)


シンが寝静まったのを確認したデスティニーは、そのまま彼の枕元に立ち、とても小さな声で彼に語りかけた。
「大丈夫です……今度こそ、今度こそあなたを幸せにしてみせます。」










はい、今回はここまでです、原作を知っている人は「あれ? なんで?」って展開になっていますが、ちゃんと後で説明しますのでまずはまっさらな状態で読んでいただければ嬉しいです。

以前子供時代のシンの一人称は「僕」だという指摘を受けたので本編ではああなっております。

デバイスのデスティニーの容姿ですが、リインフォースⅡの騎士服を全体的に黒く染めて赤いラインを入れていると想像してください

次回はシンが魔法を体得する話となのは無印第6話あたりの話になります。



[22867] 第二話「交錯する閃光」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/06 20:30
第二話「交錯する閃光」


シンがプレシア達に保護(拉致?)されてから2日後、彼はフェイトに連れられて彼女達が第97管理外世界と呼んでいる世界の日本の遠見市というところにやってきていた。
「へー、街並みはオーブと変わらないんだなー……なんか意外だなー。」
「…………。」
物珍しそうに辺りを見回すシン、一方のフェイトは何も言わずツカツカと歩いて行った。
(うーん、なんかこの子とっつきにくいな……避けられているのかな?)
二人の間に重苦しい空気が流れる、そんな空気を変えるためシンはフェイトにある話題をふっかける。
「そ、そういえばフェイトちゃん……今日は普通の服装だよね、黒が好きなの?」
「この服がですか? そうですけど……それが何か?」
「あ、うん……それだけです。」
「…………。」
会話終了。
(会話が続かねえー!)
(苦労していますねえ主。)
するとシンの背負っているヴィアから支給された生活用品が入っているリュックの隙間からデスティニーが顔を覗かせた。
(デスティニー……なんでフェイトちゃん、あんなに冷たいんだろう……? 俺嫌われているのかな?)
(いや……ヴィアから聞いた話なのですが、フェイトさんは長い間自分の使い魔とプレシア、そして彼女の使い魔と4人だけで暮らしていたそうなのです、だから突然現れた主にどう接していいかわからないのでしょう、ファーストコンタクトもあんなのだったでしょう?)
(う、うん……。)
シンはオーブでフェイトと初めて出会った時、彼女に電流をお見舞いされたことを思い出した。
(でもなあ……これからどれだけ一緒にいるかわからないし、フェイトちゃんとは仲良くしたいんだよなあ、こんな調子じゃ息が詰まっちゃうよ。)
(災難でしたね……でもご安心ください、何があろうと私は主を守りますので。)
(ありがとう、デスティニー……。)





そして数分後、シン達は遠見市にあるとても高級そうなマンションにやってきた。
「ここが私たちのアジトになります……。」
「うわー、うちより高級だなー。」
シンは関心しながらフェイトに連れられて、彼女達のアジトであるマンションの一室にやってきた。そしてそこで……。
「おお! お帰りフェイト~!」
「うわあああああ!? 犬がしゃべった!?」
シン達の身の丈を軽々と越える大きさの巨大な犬らしき生き物が、人間の言葉をしゃべりながら彼らを出迎えたのだ。
「ああん!? 私はオオカミだよ! 失礼なガキだね!」
「アルフ……シンさんを怖がらせちゃだめだよ。」
「へいへい、怖がらせなきゃいいんだね。」
そう言ってアルフと呼ばれたオオカミはにやりと笑うと、自分の体を光らせ今度は犬耳をはやした16歳ぐらいのオレンジ髪の少女に変身した。
「えええええ!? 人間になった!?」
「主、あれが使い魔です、使い魔は人間と動物、両方の姿に変身することができるのですよ。」
「ああん? なんだいこのちみっちゃいの?」
リュックから出て使い魔に関する説明するデスティニーを見て、アルフは首を傾げる。
「ヴィアさんが作ったデバイスなんだって、仲良くしてあげてね。」
「ふん!」
アルフはつまらなさそうにシン達に背を向けると、そのまま寝室へ向かって行った……。
「嫌われているな……。」
「ごめんなさい、後で叱っておきますから……。」
「主、とりあえずフェイトさん達のジュエルシード探索開始までまだ時間があります、その間に魔法の使い方を勉強しましょう。」


さらに数分後、シンはデスティニーとフェイトと共にマンションの屋上にやってきた。
「それではまずバリアジャケットの装着から始めましょう、私が前に立ちますので主は『デスティニー セットアップ』と唱えてください。」
デスティニーはふよふよとシンの目の前で浮きながら彼に合図を送る。
「う、うん……『デスティニー、セットアップ』」

その瞬間シンは光に包まれ、身にまとっていたものすべてが光となって散ったあと、上から順に深紅のローブが彼の身に纏われていった。そして両腕にはロボットのように機械的な青い籠手が装着されと。

「な、なんか少女漫画の変身みたいで恥ずかしい……。」
変身を終えたシンは先ほどの変身する自分の姿を思い出し赤面する。一方その光景を傍から見ていたフェイトは少し驚いていた。
(すごい……この子、長い詠唱も無しに変身した……。)
「主、次はもっと変身ヒーローっぽく魂込めて言ってみましょうね。」
「ええー!? やだよ恥ずかしいよ!」
「んじゃバリアジャケットも着たことですし、次に魔法の使い方を勉強しましょう、そこにいるフェイトさんが使っているバルディッシュは、杖を様々な形に変形させるタイプなのですが……私のはちょっと特別なのです。」
そう言ってデスティニーは自分の目の前に魔法陣を展開し、そこから様々な武器を出してきた。
「うわ! なんだこれ!?」
「これはビームライフル、威力もそこそこの光線を出す銃です、この二対の剣はフラッシュエッジ、投げればブーメランにもなります、この深緑色の筒は大型ビーム砲、ビームライフルより太いビームが撃てます、その水色は大剣アロンダイト、主にはまだ早いかもしれませんね、そして……。」
武器の説明を一通り終えたデスティニーは、指をパチンと鳴らす、するとシンの背中に赤く光る透明な翼が生えてきた。
「うわ! 羽が生えた!?」
「その翼があれば主は自由に空を飛べますよ、試しにやってみます?」
「う、うん!」
シンはそう言って背中に生えた翼をパタパタと羽ばたかせる、するとシンの体は少しずつ空中に浮きだした。
「すごい! 僕飛んでいる!」
「このように私に言っていただければ主の望む武器を取り出すことができます、あと……主の腕に付いているその籠手のことなのですが……それはシールドとして使用すること以外お勧めできません。」
「え? なんで?」
シンは両腕に装着されている籠手を見つめながらデスティニーに質問する。
「その籠手……パルマフィオキーナは威力が高い分、その反動が腕にダイレクトに伝わってしまうのです、下手をしたら腕の骨がR-18になる可能性も……。」
「うえ!? あ、危ないねそれ! わかったよ、なるべく使わないようにするよ……。」
「それでは今度は回復魔法の勉強をしましょう、フェイトさん手伝ってください。」

そしてデスティニーの魔法講座は夕方まで続いた……。




空もすっかり暗くなった頃、シンとフェイトはバリアジャケットに身を包んでジュエルシード探索の為マンションの屋上に来ていた。
「この感じ……フェイト。」
「うん、ジュエルシードがこの近くにある。」
広域探査の魔法を発動させながら、アルフは狼形態のままフェイトと話合う。
「すげー……何言っているのか全然解んねー。」
「私達完全に蚊帳の外ですね。」
一方話について行けないシンとデスティニーは一歩離れた位置で2人のやりとりを見学していた。
「あのー……僕らに何かできる事は……。」
「ああん!? アンタらに出来る事なんて何もないよ! 大人しく後ろで見ていな!」
シンはいたたまれず協力を申し出るが、アルフに鬱陶しそうに拒否されてしまう。
「ううう……やっぱり嫌われている……。」
「とにかく急ごう、あの子が出てくる前に……。」
そう言ってフェイトはアルフと共に飛行魔法を使って夜空に飛び出していった。
「ああ待って! デスティニー翼を!」
「はいはーい。」

数分後、アルフと並行して飛翔するフェイトは彼女に話し掛ける。
「アルフ……さっきのは良くないと思うな、シン君がかわいそうだよ。」
「だって……。」
初めて会った数日前までは魔法など一切知らず、狼形態のアルフが喋ったことにとても驚いていたような子供が、この一日でフェイトに迫る程の魔法の技術を身に着けてしまい、アルフは少なからずシンに対して畏怖の気持ちを抱いていた。
「確かにこの状況になったのは私達にも責任があるよ、でもジュエルシード集めを手伝わせなくても……私達だけで十分じゃないか!」
「でも私達が集めるのが遅いのは事実だし……。」
「そんなの! あの女がわがまま言っているだけじゃないか! それに……フェイトだってあいつとはあまり話出来ていないじゃないか。」
「う……。」
痛いところを突かれフェイトは顔をしかめる。
「だって……。」
「だって?」
「私……男の人となんて話したことないんだもん、どうすればいいかわからないよ……。」
今までフェイトの周りにいた人間はフェイトが覚えているだけで女ばかりで、いわばシンはフェイトにとって初めて会う男なのだ。
しばらく沈黙したあと、二人は深くため息をつく。
「とりあえず後で謝ろう、さすがにかわいそうだよ。」
「わかったよフェイト……とにかく今はジュエルシードが最優先だ。」
そして二人は後ろからシンが付いて来ているのを確認し、ジュエルシードの反応があった方角に向かって行った。


そして数分後、三人は夜の繁華街にやってきた。
「結界が張られている……フェイト、この感じは……。」
「うん、あの子も来ている…。」
「あの子って?」
「私達と同じようにジュエルシードを集めている子がいるんだ。今近くに来ている。」
そして三人はジュエルシードを目視で確認できるところまでやって来た。
「いくよ、バルディッシュ。ジュエルシード封印!!」
ジュエルシードに向けフェイトの持つバルディッシュから黄色く細長い光が放たれる、だが、
「あの光は!?」
反対方向から何者かが桜色の光線を放ち、フェイトの放った光線とぶつかりあった。
「封印できなかった!?」
「やっぱりあの子か!?」

すると桜色の光がきた方角から白い服を着た少女が飛来してきた。
「フェイトちゃん!」
「あの子がさっき言っていた子?」
「ああ、名前は…アレ?」
「そういえば聞いてなかったね。」
「知らないの!?」
思わず2人にツッコミを入れるシン。
「なのはだよ。」
するとシン達の話を聞いていた白い服を着た少女が自ら名乗る。
「この前は自己紹介できなかったけど、私高町なのは、私立聖祥大附属小学校三年生!」
次々と自分の事を話すなのは、だがフェイトは何も応えずバルディッシュを構える。
「フェイトちゃん!?」
「シン君はジュエルシードをお願い、私達は急がなきゃいけないんだ。」
「わ、わかったよ。」
戸惑いながらもジュエルシードに向かうシン、だが突然シンは何も無いところでころんでしまう。
「うわあっ!? 何この輪っか!?」
「バインド!? アイツの使い魔か!」
シンの体に複数の光の輪が巻きついており、動きが封じられていた。
「まったく、足引っ張ってんじゃないよ!」
「ここは私にお任せを、アルフさんは術者を探してください。」
「私に命令するんじゃない!」
そう言ってシンに魔法を掛けた術者を探しに何処かへ去っていくアルフ。
「私はあの子と……。」
なのはの方へ飛んで行くフェイト
「くそっ! はずれない……!」
「落ちついてください主、どっかにペンチ無いかな……。」
地面でじたばたともがくシン、だがバインドが外れることはなかった。


「フェイトちゃん!」
上空で対峙するフェイトとなのは。
「話し合うだけじゃなにも伝わらないって言ってたけど、言葉にしなきゃきっと伝わらないこともあるよ、奪い合ったり、競い合ったりするのは、それは仕方の無い事かもしれないけど。だけど!」
フェイトに必死に訴えかけるなのは。
「何もわからないままぶつかり合うのは私、嫌だ! 私がジュエルシードを集めているのはユーノ君のお手伝いのため! でも今は自分の意思でジュエルシードを集めている、自分の周りの人達に危険が降りかかるのがいやだから!」
一呼吸おいて
「これが私の理由! フェイトちゃんは!?」
「私は……。」
なのはの言葉を受けて、フェイトの心に少しばかり迷いが生じる。
「フェイト! 答えなくていい!!」
すると二人の会話に術者を追いかけていたアルフが横槍を入れる。
「私達の最優先事項はジュエルシードの鹵獲だよ! 優しくしてくれる人達のところでぬくぬく暮らしているガキンチョになんか、何も答えなくていい!!」
フェイトはその言葉に答えるようにバルディッシュを構える、そんな彼女を、なのはは悲しそうに見つめていた。
「……ごめんなさい。」
そういってフェイトはジュエルシードへ向かう。
「やらせない!!」
後からなのはも追う。そしてなのはのレイジングハートとバルディッシュがジュエルシードの上で交差し、ヒビが入る。
「「!?」」
次の瞬間、ジュエルシードから放出された魔力の光が辺りに広がった。
「きゃあああああ~!」
「くっ……!」

「なんだよこの光……!? フェイトちゃん……!」
このままじゃフェイトが危ない、だが自分は動けずなにも出来ない、そんな歯痒さがシンをイラつかせた。
「こんなことで……こんな事でー!」
その時、シンの頭の中に種が割れるイメージが浮かんだ……。
「主……!? まさか……!?」

光が晴れ、二人は数十メートルジュエルシードから距離を置く。
「ごめんねバルディッシュ……もどって。」
フェイトは傷だらけになったバルディッシュを待機状態に戻し、今だに宙に浮くジュエルシードを目で捕える。
「ジュエルシードを……!」
フェイトはジュエルシードのもとへ飛びつき、両手でそれを包み込んだ。
「フェイト!!」
「!!」
するとフェイトの指の隙間から大量の光が漏れだした、ジュエルシードが暴走しかかっていたのだ。
「止まれ……!!」
だが光は収まらない。
「フェイト!無茶だよ!」
アルフの声が辺りに響く。
「止まって……!」
それでも光は収まらず、フェイトは膝を着いてしまう。
「止まれ……! 止まれ……! 止まれ……! 止まれ……!」
グローブが裂け、血しぶきが飛ぶ。
「くっ……!」
このままじゃフェイトの体が持たない、そう思いアルフが駆け寄ろうとしたその時、横に凄まじいスピードで何かが通り過ぎた。
「いまのは……シン!?」

「フェイトちゃん! 大丈夫!?」
「シン君!? その目は……!?」
フェイトの目の前にはバインドで縛られていたはずのシンがいた、彼は傷だらけのフェイトの手を自分の手で包み込む。そして、
「止まれーーーーー!!!」
力の限り、気持ちを込めて叫んだ、するとジュエルシードは徐々に光を弱め、やがて沈黙していった。
「や……やった……。」
息を切らしながらフェイトのほうを見るシン。
「う……。」
「シ……シン君……。」
そして二人とも力を使い果たし、その場で倒れてしまった。
「フェイト! シン!」
「アルフさん! 2人を抱えて撤退を! ジュエルシードは私が!」
デスティニーとアルフは二人の下に駆け寄り、なのはを一瞥したあと二人を抱えその場から撤退していった。


「なのは! 大丈夫!?」
そして一人その場に残ったなのはのもとに一匹の喋るフェレットが近づいてくる。
「私は大丈夫だよ、それよりもレイジングハートが……。」
「これぐらいなら自己修復機能で明日には治っているはずだよ。」
「よかった……でもあの男の子、一体なんだったの?」
なのははフェイト達と一緒にいた見知らぬ男の子のことを思い出していた。
「さあ? でも油断しないほうがいい、さっきの力……なんだか得体が知れない、魔法とは違う何かが……。」
「シン君って言っていたっけ? なんだったんだろうあの子……?」


それから数時間後、シンはアジトのベッドの上で目を覚ました。
「あれ……? 僕、いつの間に眠って……。」
「目を覚ましましたか、主。」
するとそこに絞ったタオルを持ったデスティニーがやって来た。
「デスティニー、僕は一体どうしたの?」
「あのジュエルシードが暴走した際、主とフェイトさんが力ずくで抑えたのです、そして力を使いすぎて……。」
「そうだったんだ……。」
そしてシンはふと、自分の掌を見つめながら先程の出来事を思い出す。
(さっきのあの力……何だったんだろう?あれもジュエルシードの力なのかな……?)

その時、シン達のいる部屋の扉がバンと開かれ、そこから人型のアルフとフェイトが入って来た。
「シン! 目が覚めたのかい!?」
「アルフさ……わぶっ!?」
そしてアルフはシンが起きていると解るや否や、彼に飛びついて思いっきり抱きしめたのだ。
「ありがとー! フェイトを助けてくれてありがとー! あんためっちゃいい奴だったんだね! つれない態度とってごめんよー!」
「あ、アルフさん……苦しい……!」
シンはアルフの豊満な胸に顔を覆われ、息ができない状態だった、そしてその様子に気付いたフェイトはアルフを慌ててシンから引き剥がす。
「アルフ、それじゃシン君が息出来ないよ。」
「ああ、ごめんごめん。」
「ぷはっ! 死ぬかと思った……。」
アルフの胸から開放され九死に一生を得るシン、そしてそんな彼にフェイトは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさいシンさん、私が不甲斐ないばっかりにアナタを危険な目に遭わせて……。」
「そんな、謝らなくていいよ、僕はただフェイトちゃんを助けたかっただけなんだから。」
そしてシンはフェイトの手に包帯がグルグルと巻かれている事に気付いた。
「フェイトちゃん……もしかして手を怪我しているの!?」
「あ、いや……。」
フェイトはばつが悪そうに自分の手を背中に隠した。
「どうして……どうしてそこまで無理をするの!? そこまでやる必要なんてないじゃん! ジュエルシードがどこまで重要な物か知らないけど、君がそこまでやる必要なんて……!」
「……!」
するとフェイトは少し興奮したように声を荒げてシンに反論した。
「それでも……それでも私は母さんの為にやり遂げなきゃいけないんです!」
「フェイトちゃん……。」
普段大人しいフェイトが声を荒げた事に驚くシン、一方のフェイトは何も言わず俯いてしまい、アルフはどうすればいいか解らずオロオロし、デスティニーは黙って様子を見ていた。
「…………はあ、フェイトちゃんって本当頑固なんだね。」
そう言ってシンは突如、俯いているフェイトの頭を優しく撫でた。
「し、シンさん!?」
突然の事に動揺するフェイト、そしてそんな彼女はお構いなしにシンは話を続けた。
「フェイトちゃんがそうやって我儘を言うんだったら……こっちだって無理にでも君に協力するよ。」
「で、でもそれじゃシンさんが危険な目に……。」
するとシンはフェイトの言葉を遮るように彼女の唇に自分の人差指を添えた。
「目の前で女の子が危ない目に遭っているのに、何もしないなんてカッコ悪いじゃん、だから……ね?」
「わ、わかりました……。」
そしてシンはある事を思い付いたようにフェイトにある提案をする。
「そうだ! 僕もどれだけここにいるか解らないし……お互い協力しあう仲なんだしもうお互い他人行儀で呼び合うのはやめにしない? 僕の事はシンって呼び捨てでいいよ! 僕もフェイトって呼ぶから!」
「え? えっと……。」
フェイトは完全にシンのペースに圧されていた、そして今まで2人の様子を窺っていたアルフとデスティニーからも意見される。
「いいじゃんフェイト! シンは強い子だし、仲良くしておいて損はないと思うよ!」
「私からもお願いしますフェイトさん……。」
周りからの意見で完全に逃げ場を失ったフェイトは、恥ずかしそうに顔を赤くしながら、ぼそぼそとシンの名前を呼んだ。
「そ、それじゃぁ……シン、これからもよろしくね。」
「うん! こちらこそよろしく……フェイト!」


その日、シンとフェイトとの距離が少しだけ縮まったのだった……。










本日はここまで、しかし一人称を“僕”にすると全然シンに見えませんね、まあ次回からある理由をつけて“俺”にするつもりですが。

因みにデバイス形態のデスティニーはヴィヴィオが使うセイグリットハートをイメージしています、セットアップしてもデスティニーはシンの隣でフヨフヨ浮いている感じ

次回は無印7話をベースにしたお話を、何も問題がなければ明日投稿します。それとヴィアの過去やプレシアのこの物語での目的、そしてこの作品と深く関わるもう一つのガンダム作品が出てくるのでお楽しみに。




[22867] 第三話「閉ざした過去」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/07 20:44
 第三話「閉ざした過去」


なのは達との戦闘があった次の日のこと、シンはヴィアからもらった通信機である報告を受けていた。
「一度時の庭園に来てほしい?」
『うん、昨日の戦闘の事は聞いたわ、報告のついでに検査したいからデスティニーと一緒に来てくれる? ああそれと……フェイトちゃんは連れてきちゃダメよ。』
「え? どうして?」
親元から離れて暮らしているフェイトにとってこのような機会はまたとない機会のハズ……それ故にシンはヴィアの言動が理解できなかった。
「フェイトだってプレシアさんと会いたがっているのに……どうしてそんなことを?」
『ごめんなさい、ここじゃ詳しくは話せないわ、とりあえず一度来てもらえる? そこで理由を説明するから……。』
「は、はあ……。」
シンはヴィアの言動を不可解に思いながらも一旦通信を切った。


「というわけで今日の報告は俺とデスティニーだけで来てって言われたんだけど……どうする?」
数分後、シンは広間でフェイトとおとなフォームのアルフに先ほどのヴィアとのやり取りを話した。
「ヴィアさんが……。」
「ま、まああの人が言うんだったらしょうがないよね! せっかくだし私らは公園で散歩でもしているよ!」
明らかに落胆しているフェイトとは対照的に、アルフは心底安心した様子でフェイトに抱き、子犬のようにフェイトに遊んでくれるようせがんだ。
「……わかった、それじゃシン……母さんへの報告よろしく。」
「わかったよフェイト。」

そしてそんな二人のやり取りを、デスティニーはシンのリュックサックの中から温かい目で見守っていた。
(最初はどうなる事かと思いましたけど……少しずつ仲良くなっていますね、それに……。)

ふと、フェイトはあることを思い出しシンに質問する。
「そういえばシン、さっき自分のこと“俺”って……。」
「ああ気付いた?“僕”のままじゃなんかなよなよした感じだし、思い切って自分の呼び方を変えたんだ!」
「ふーん……。」

[一人称を変えたぐらいでそれ以外の何かが変わるとは思えませんが……。]
するとデスティニーの隣に置いてあったフェイトのデバイス“バルディッシュ”が、シンの行動を不思議がっていた。
「バルディッシュ……男の子というものは可愛い女の子の前ではカッコつけたがるものなのですよ。」
[?]


その日の午後、シンは時の庭園に向かうためフェイト達と共に屋上に来ていた。
「それじゃ行ってくるよ、報告はちゃんとしておくね。」
「あ、待ってシン、これを……。」
そう言ってフェイトは二つのケーキが入った箱をシンに渡した。
「これって……ケーキ?」
「うん、母さんとヴィアさんへのお土産……。」
「わかった、ちゃんと渡しておくよ。」
そしてシンの足元に強大な魔法陣が現れ、彼は時の庭園に転移していった……。


数分後、シンはまずプレシアのいる時の庭園の王座のようなものがある広間にやってきた。
「プレシアさん……こんにちは。」
「……シン君、フェイトはどうしたの?」
シンの姿をみるや否や、プレシアは開口一番にフェイトの事を口にした。
(なんだ、プレシアさんもフェイトと会いたがっているじゃないか。)
「ヴィアさんが俺だけ来るようにって……。」
「ちっ……余計な真似を。」
「え?」
シンはプレシアの理解できない態度を不思議に思いながらも、フェイトから預かっていたケーキをプレシアに差し出した。
「あの……これフェイトからです。」
「……!!!」
するとプレシアはあろうことかケーキの入った箱をシンの手からパシンとはたき落した。
「な、何するんですか!?」
「フェイトに伝えておきなさい……! こんなことをしている暇があったらさっさとジュエルシードを集めなさいと! さもないとまた痛い目に遭わせると!!」
「……!!?」
シンはプレシアの目に殺気にも近い凄まじさが混じっていることに気付き、思わず恐怖してしまう。
「何で……なんでそこまで……。」
必死にプレシアに反論しようとするシンだが、プレシアのあまりの威圧感に口から言葉を出せずにいた、そこに……。
「ああシン君ここにいたのね、遅いわよ。」
にこやかな笑顔のヴィアがシンとプレシアの間に割って入ってきたのだ。
「ヴィ、ヴィアさん……。」
「ヴィア……邪魔をしないでくれる? 私はシン君に話があるのよ。」
「あなたがそんなんじゃ話なんてできる状態じゃないでしょう? 少し頭を冷やしなさい。それにあまり興奮すると体が……。」
そう言ってヴィアはたたき落とされたケーキと恐怖で足がすくんでいるシンの手を取ってその場を去っていった。
「あの、ヴィアさん……。」
「ごめんねシン君、プレシアには後で私がきつく言っておくから。」

「…………図に乗るんじゃないわよ。ゴホッ……!」
プレシアはただその一言だけ呟いてせき込んだ後、王座にドスンと座り二人の背中をじっと見つめていた。





「よーっし、検査終了、お疲れ様。」
一時間後、シンはヴィアの研究室で彼女から一通り検査を受け、そしてそのために脱いでいた服を着ながら彼女に質問をしていた。
「それでどうなんですか? 俺の体……。」
「俺? 一人称変えたのね……ふふふっ、似合っているわよ、そうね……。」
ヴィアはシンのデータが逐一掲載されている書類を見ながら首をかしげている。
「うーん……悪いけど安全に引きはがす方法はまだ見つからないわね、あなたの中にあるリンカーコアとは別の何かがジュエルシードと接着剤でくっつけたようにくっついているのよ、無理に引きはがそうとすれば大変なことになるわ。」
「そうですか……。」
成果が思わしくなかったことを受け、シンは少なからず落胆する。
「いっそ暴走させて誰かに倒してもらって離れたジュエルシードを封印するって手もあるけど……これは流石にお勧めできないわ、下手したら死人がでるし……。」
「うぇ!? それだけは……。」
その時、ヴィアの机の上で消しゴムのケシカスで黒い雪だるまを作って暇を潰していたデスティニーが声を掛けてくる。
「そういえば今日のプレシア……とても機嫌が悪かったですね。」
「うん、尋常じゃない怒り方だったよな、何もあそこまで言わなくても……フェイトだって頑張っているのに。」
「…………。」
するとヴィアは神妙な面持ちで近くのパソコンを操作し始める。
「二人には……知っておいてもらったほうがよさそうね、プレシアがなんであんな風になったのかを……ちょっとこっちに来なさい。」
「……?」
シンとデスティニーはヴィアに手招きされ、パソコンに映されているある部屋の様子を見せられる。
「な、なんですかコレ……!?」
そこには、巨大な円柱型の水槽に入れられたフェイトと瓜二つの少女が映し出されていた。
「この子は……“アリシア・テスタロッサ”、プレシアの……死んだ娘、そしてフェイトちゃんのオリジナルでもあるわ。」
「オリジナル……!? なんですかそれ!?」
そしてシンとデスティニーは、ヴィアから驚愕の真実を打ち明けられた。

数年前、とある企業に勤めていたプレシアは、後任スタッフの暴走と上層部のスケジュール強行により魔力動力炉の事故を起こしてしまい、一人娘のアリシアを失ってしまう、悲しみに暮れる彼女はアリシアを蘇らせる為、“プロジェクトFATE”と呼ばれる技術を使ってアリシアのクローンであるフェイトを誕生させた、しかしフェイトはアリシアの記憶等を断片的にしか引き継いでおらず、プレシアはフェイトに対し“アリシアに似た何か”として憎悪の感情を抱いてしまっているのだ。

「そして……そこで眠るアリシアを“蘇らせる術”を見つけたプレシアは、フェイトを使ってその“蘇らせる術”を完全にする為にジュエルシードを集めさせているの。」
「蘇らせる……術?」

それはほんの些細な偶然だった、プレシアは初め失われた技術があるといわれているアルハザードに向かう為、異世界に関する資料を片っ端から調べていた、そして彼女の目にある世界で研究されている細胞の研究データが入ってきたのだ。

「それがフューチャーセンチュリー……FCの世界の科学者、ライゾウ・カッシュ博士によって研究されている“アルティメット細胞”よ。」
「アルティメット細胞?」
「戦争で荒廃したFCの自然を回復するため、“自己進化” “自己再生” “自己増殖”の三大理論を元に開発されたいわば自然回復マシーンね、それが完成すれば崩れた星の生態系を短い時期で修復することが可能なの。」

そしてその研究に目を付けたプレシアはFCの世界に自ら赴き研究データを強奪し、奪ったデータを元に独自の理論でアルティメット細胞を完成させ、アリシアを蘇生しようとしたのだ。
彼女は天才だった、いや、娘と再び出会いたいという執念がそうさせたのかもしれない、ライゾウ博士ですら完成するまであと数年かかると言われたアルティメット細胞の研究を、動物や使い魔で実験し高い効果を見せるという段階まで進めていたのだ。

「でも……死者を蘇らせるまでには至らなかった、そこで彼女はある世界で発掘された願いを叶える魔石と呼ばれるジュエルシードを強奪しようと企てた、でも……強奪は失敗に終わり、20個のジュエルシードは海鳴市に、最後の一つは……。」
「俺が拾ったってことですか?」
シンの問いに、ヴィアは黙って頷いた。
「あとは君の知っての通り、プレシアはアルティメット細胞を完成させるためフェイトちゃんを酷使してジュエルシードを集めさせている……きっとすべて集まろうが集まらなかろうが彼女は捨てられるでしょうね。あの子にはアリシアしか見えていない……そして同じ顔をしたフェイトちゃんに対して憎悪に近い思いを抱いている。」
「そんなの……そんなのおかしいよ!」
あまりにもひどい現実に、シンは思わず机をドンとたたいてやりきれない怒りを露わにした。
「そうね……でもプレシアはそんなこともわからないぐらい心に重い病を抱えているの、私にできることと言えばフェイトちゃんをなるべく彼女から遠ざけることぐらいしかできない、真実を知ればフェイトちゃんはきっと心に深い傷を負ってしまうでしょう。」
「…………!」
シンの頭には先ほどのプレシアの鬼のような形相と、フェイトの寂しそうな横顔が交互に思い浮かんでいた。
「勝手に生んでおいて……拒絶するなんて……どんな理由があろうと、俺はあの人を許さない……!」
「馬鹿な事考えちゃダメよシン君、プレシアは強いんだから……あなたが挑んでも殺されるだけだわ。」
シンが何を考えているか察知したヴィアは、あらかじめ彼に釘を刺しておく。そして冷静になったシンはある疑問が浮かび、ヴィアに再び質問する。
「そういえば……なんでヴィアさんはプレシアさんと一緒にいるんですか? あの人とはどんな関係なんです?」
「私とプレシア? うーん……あれは11年前になるわね……この前私言ったでしょ?君とは同郷だって……その頃私、コズミックイラで夫と一緒にコーディネイターの研究をしていたのよ。」
「コーディネイターの……?」
「うん、それでナチュラルの人に疎ましく思われちゃって……ある日私たちがいたステーションがテロにあって、どういうわけか私はこのミッドチルダに時空漂流者として流れ着いちゃったのよね、そして管理局の人に保護されていろんな世界を何年も彷徨った末に、三か月前にプロジェクトFを実行したプレシアの噂を聞きつけて、彼女に出会ってアルティメット細胞の研究の手伝いをしているの、つまり私とプレシアは研究仲間ってわけ。」
「そうだったんですか……ヴィアさんもアルティメット細胞がほしいんですか?」
「…………。」
ヴィアは一瞬悲しそうな表情になると、一枚の写真を机の中から出した。
「私達夫婦は……これまでの研究で何人もの命を犠牲にしてきたわ、そして……この子も私たちの研究の犠牲者。」
写真には金髪の男の赤ん坊が映っていた、そして隅には「ラウ」と書かれている。
「この子もフェイトちゃんと同じクローンでね、元になったオリジナルが歳をとりすぎているせいでテロメア……寿命が極端に短いの、だから私は……。」
「アルティメット細胞を使って……その子達を救おうと?」
シンの言葉に、ヴィアは自嘲めいた笑顔で答えた。
「いまさらこんなことしたって私の罪は消えない、自分の子供すら実験台にした私は地獄すら生ぬるいわよね、でも……プレシアを放っておけないのよ、彼女は大切な友達だし、私みたいな過ちは犯してほしくないの、フェイトちゃんもできたら救ってあげたい。」
そしてヴィアはシンの手をぎゅっとつかみ、彼にお願いをした。
「お願いシン君……フェイトちゃんを支えてあげて、君ならできると思うから。」
「ヴィアさん……わかりました。」
ヴィアの願いに対し、シンは力強くこくんと頷いた。

そしてその後、ヴィアにケーキを渡して帰ろうとした時、シンは突如彼女に呼び止められた。
「まってシン君……これを持って行きなさい。」
そう言ってヴィアはロールキャベツが大量に盛りつけられた皿をシンに渡した。
「夜ごはんのおかずよ、ちゃんとしたもの食べないとね……二人とも育ちざかりなんだから。」
「ありがとうございます! それじゃ!」
そう言い残し、シンはデスティニーと共にその場を去っていった。


「……キラとカガリにもあんな弟や妹をプレゼントしてあげたかったな、考えてもしょうがないか……。」
そう独り言をつぶやいた後、ヴィアはモニターに映し出されているアルティメット細胞に関する数値データを真剣な表情で見つめた。
(ここ最近アルティメット細胞の成長が予測より早くなっている、どういう事なのかしら……。)





次の日の夕刻、シンはフェイトやアルフと共にビルの屋上でジュエルシードの探索を行っていた。
「フェイト。」
「うん、目覚める子がいる……いこうか。」
そして三人はジュエルシードの反応がした方角に飛び立った、そして飛んでいる最中の事、
「シン。」
フェイトは昨日から口数が少ないシンに話しかける。
「何?」
「シン……どうしたの? もしかして怒っているの? 母さんのところに行ってからなんか考え事しているみたいだけど?」
「別に……なんでもないよ。」
「そう? ならいいけど……。」
フェイトは首を傾げながらも、これ以上詮索せずシンより少し前を飛翔する、一方そんな彼女の後姿を見てシンは昨日ヴィアから聞いた話を思い出していた。

―――きっとすべて集まろうが集まらなかろうが彼女は捨てられるでしょうね。―――

(フェイト……母親にあんなにきつく当られているのに、それなのに……。)





「この結界……またアイツらか!!」
数分後、ジュエルシードの反応がした海鳴臨海公園にやってきたシン達、そこにはジュエルシードにとりこまれた樹木の怪物と戦っているなのはと彼女の相棒であるフェレットの姿があった。
「苦戦しているみたいだね。」
すると怪物はフェイト達に気付いたのか、こちらにも攻撃を仕掛けてきた。
「さっさと終わらせよう……デスティニー! ビームライフルだ!」
シンが放ったビームライフルの光線は怪物の根を深く抉った。
「あれはフェイトちゃん達……レイジングハート! もっと高く飛んで!」
フェイト達に気付いたなのはは上空に高く飛び桜色の羽が生えたレイジングハートを構える。
「フェイト! 今だ!!」
「うん、アーク……」
バルディッシュを構えるフェイト
「ディバイン……」
合わせてなのはも唱える。
「セイバー!!」
「バスター!!」
金色の刃と桜色の光線が同時に放たれ、怪物は断末魔と共に消滅した。そして怪物がいた所にはジュエルシードがぽつんと浮かんでいた。
「フェイト……。」
「シンは手を出さないで。」
そういってフェイトは飛び、なのはと対峙した。
「フェイトちゃん……私がただの甘ったれた子供じゃないってことを……証明してみせる!」
構えるなのは。
「フェイト。」
「シン、私は大丈夫、大丈夫だから……。」
そしてフェイトも構える。
そして両者は猛スピードで突撃していく、振り上げたデバイスがぶつかりそうになるその刹那。

「そこまでだ!」

「「!?」」
見知らぬ少年が二人の間に入りデバイスを受け止めていた。
「デスティニー! あいつは!?」
「時空管理局……やはり嗅ぎつけてきましたか。」
「ここでの戦闘は危険すぎる、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ、詳しい事情を聞かせてもらおうか。」
突然現れた少年に言われるがまま、なのはとフェイトは地上に降りる。
「まずは二人とも武器を下ろすんだ、このまま戦闘行為を続けるなら……。」
そのときアルフがクロノにめがけて炎の魔法の矢を放ち、彼の周辺で爆煙が巻き起こる。
「くっ!?」
「アルフ!? なんで!?」
突然の事に動揺するシンに対し、アルフは大声をあげて臨戦態勢をとる。
「訳は後で話すよ! それよりもフェイト!」
アルフの声に呼応してフェイトは飛び出して空中に浮かぶジュエルシードに手を伸ばす、だが突如爆煙からクロノのよる青い魔法の矢が放たれ、その何発かがフェイトに命中してしまう。
「きゃあ!」
「「フェイト!!」」
落下するフェイトをアルフが受け止め、シンは二人に駆け寄る。
「フェイトは!?」
「大丈夫、気絶しているだけだよ。」
そして魔法が放たれた方を睨むシンその先にはデバイスを構えたクロノが立っていた。
「アルフ、フェイトを連れて先に逃げて……。」
「シン!? アンタ……。」
「駄目……! シン……!」
「大丈夫、絶対もどってくるから……。」
「殿は我等に任せてください。
心配そうにするフェイトとアルフの瞳をじっと見つめるシンとデスティニー。
「……わかったよ、でも無茶はするんじゃないよ。」
そう言ってアルフはフェイトを抱え飛び去っていった。
「アルフ駄目だよ! シンを置いてなんて……!」
「アイツの行動を無駄にしちゃ駄目だ!」
「させるか!」
クロノは二人を追いかけようとする。だが、
「何!?」
シンのビームライフルによる牽制で進路を妨げられてしまう。クロノはシンを睨みつける。
「君は何をしたのか解っているのか!? 君や彼女達がしている事はれっきとした犯罪……。」
「うるさい……!!」
「!?」
クロノの警告を一蹴するシン。
「フェイトはただお母さんのためにやっているのに……どうして邪魔するんだ! もしこれ以上あの子を傷つけるなら……!」
次の瞬間、シンの右手からビームライフルが消え、かわりに背丈よりも長い大剣……アロンダイトが現れる。
「オレが……!! 薙ぎ払ってやる!!」
シンはそのまま一瞬でクロノの後ろに回りこみ、アロンダイトを彼に振り下ろす。
「早い!?」
その攻撃を自分のデバイス……S2Uで受け止めるクロノ、だがシンはそれでもお構いなしに右手に大剣をもったまま左手でクロノの襟を掴み。
「なっ!?」
一本背負いの如くクロノを力任せに地面に叩きつけた。
「ぐっ……! なんて馬鹿力……コイツ本当に子供か!?」
大の字になって倒れるクロノ、シンは大剣を逆手に持ちクロノの喉目がけて突き刺す……事はせず、寸前で止めた。
「もうやめろよ……これ以上やると大変なことになるぞ!」
「主!」
その時シンはデスティニーの警告を受けてとっさに身を屈める、すると彼の頭上をピンク色の光線が高速で飛び去って行った。
「ああ! 外れちゃった!?」
「お前! 危ないだろうが!」
シンはピンク色の光線を放ったなのはに向かってアロンダイトで切りつけるが、彼女のデバイス“レイジングハート”に防がれてしまう。
「まだまだぁ!」
シンは背中に翼を召喚するとなのはに対してヒット&アウェイで繰り返し切りつけて行った。
「きゃあ! くぅ……!」
「主、そろそろ撤退を……もう十分でしょう?」
「でも今のうちにこいつのデバイスを壊しておけば後から楽になるし……!」
その時、シンの体に鎖のようなものが巻きつき、身動きが取れなくなってしまう。
「うわっ!?」
「まずい! チェーンバインド!?」
「まったく、手間取らせてくれる……!」
クロノが隙を見てシンの動きを封じにかかってきたのだ。
「今だなのは! この前みたいな力を使われたらまずい!」
「う……うん! わかった!」
そう言ってなのはは足に桜色の羽を生やしながら空高く飛び、レイジングハートの先端に巨大な魔力を収束させていく。
「え!? ちょ! 何その魔力!? そんなもの喰らったら……!」
「あ、主―!」
そしてなのははレイジングハートの先端をシンに向け、足元に巨大な魔法陣を展開しながら叫んだ。
「ディバイン……バスター!!!!!!!!!!!」
「うわああああああああー!!!」
シンは死の恐怖に近い感情を抱きながら、そのまま桜色の光に呑まれ意識を失った……。

「主……安らかに眠ってください。」
ちゃっかり安全圏に避難していたデスティニーは、ディバインバスターの直撃を受けてクレーターの中心で気絶しているシンに対し、彼の魂に安らぎが訪れるよう手で十字架を切った。

「なのは、何もあそこまでしなくても……。」
「鬼か君は。」
「にゃははは……無我夢中で手加減するの忘れてたの。」
そう言ってなのははやりすぎたと反省しながら頭をポリポリとかいた。
「とにかく彼をアースラに運ぼう、君たちも来てもらうからな。」
「は、はい……。」

そしてシンはデスティニーやなのは達と共にアースラと呼ばれる時空航行船に収容されていった……。










本日はここまで、なのはさんマジ外道、劇場版のあれもドン引きだよ、何もあそこまでしなくても……。

ちなみにFCの世界は現在FC53……シン同様本編の7年前の設定になっています。ドモンはこの作品の時代では13歳、師匠と修行中ですね、ライゾウ博士がいつからアルティメット細胞の研究をしていたか解らないので“7年以上前から研究中だった”というのはリリカルジェネレーションオリジナル設定でございます。

次回は原作無印8話と9話をベースにした話になります、お楽しみに。



[22867] 第四話「僕が選んだ今」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/09 20:16
第四話「僕が選んだ今」


少女は夢を見ていました、内容は……悪夢でした。
彼女の母親が、見知らぬ少女を紐で磔にし、背中に何度も鞭をうっていたのです。

―――母さん? どうしてそんな事をするの? その子……痛がっているよ?―――

彼女の言葉は届かず、母親は痛さのあまり悲鳴を上げる少女に何度も鞭をうちました。

「フェイト……どうして母さんを悲しませるの!? ちゃんとしてくれなきゃ……!」
「ごめんなさい……!ごめんなさい母さん……!」

―――そうか、あの子フェイトって名前なんだ……。―――

ふと、彼女は自分の母親の顔を見ます、母親の顔はまるで悪魔が乗り移ったような恐ろしい形相をしていました。

―――お母さん、どうしてそんな怖い顔をするの? 昔のように笑ってよ、ねえ……―――

「フェイト……これ以上母さんを失望させないで頂戴。」
「はい……母さん……。」

―――お母さん……。―――

彼女は母親の姿を見て、とても悲しい思いに囚われました。そしてどうやったら母親が笑顔を取り戻してくれるか必死に考えました。

―――ああ、そうか。―――

そして彼女はある考えに達します、母はあのフェイトという子に対して怒っている、それなら……。

―――あの子が……フェイトがいなクナッチャエバイインダ―――






「う、ううう……。」
先程の戦闘でシンを管理局に捕えられジュエルシードも取れなかったフェイトは、プレシアに時の庭園に呼び出され折檻を受け、その場でぐったりと地面に倒れ込んでいた、そこに別室で待機していたアルフが駆け寄って来る。
「フェイト!フェイトォ!」
ぐったりするフェイトを、アルフは半べそをかきながら抱き起す。
「アルフ……私は大丈夫だよ……。」
「大丈夫なわけあるかい!あの鬼婆……!フェイトをこんな目に遭わせて!」
そう言ってアルフは文句を言おうとプレシアのいる部屋に行こうとする、しかしフェイトに腕を掴まれた事により制止される。
「やめてアルフ……母さんを責めないで。」
「フェイト!でも!」
「大丈夫……私がちゃんとやれば、母さんもきっと昔のように笑ってくれるよ……。」
「フェイトォ……!」
アルフはそんな母親を信じ続けるフェイトの姿に思わず涙する、するとそんな彼女の元に、救急箱を持ったヴィアが駆け寄って来た。
「フェイトちゃん!大丈夫!?」
「ヴィアさん……私は平気です……。」
「そんな訳ないでしょう!ああ、こんなに叩かれて……私の研究室に来なさい、治療してあげるから!」
「わ、わかったよ……。」
アルフはヴィアに言われるがまま、衰弱したフェイトを抱えて研究室に向かって行った……。


「ほら、ちょっとしみるわよ……ごめんね、私魔法が使えないからこんなことしかできなくて。」
「いえ、平気です……。」
ヴィアの研究室に連れてこられたフェイトは上着を脱いでプレシアに傷つけられた背中を治療してもらう。
「まったく、アナタは平気と大丈夫って言葉しか知らないの? 痛いなら痛いって言いなさい。」
「ご、ごめんなさい……。」
ヴィアに叱られ、フェイトはしゅんとしょげてしまう、そしてフェイトの為に濡れタオルを用意していたアルフはヴィアにある事を尋ねる。
「そういやシンがあの後どうなったかヴィアさんは知っているかい?」
「シン君ね……あの子は管理局に囚われてしまったわ、まああの組織なら子供に酷い事はしないと思うけど……。」
「そっか……。」
「ごめんね、何も出来なくて……プレシアも最近焦っているみたいなの、管理局に嗅ぎつけられて……もし辛くなったらいつでも私に相談するのよ?」
「は、はい……。」
フェイトはヴィアの親切に感謝の念を抱いていた……。


そして数十分後、ヴィアと別れたフェイトとアルフは2人だけでアジトに戻ってきていた。
「なんか……シン達が居なくなると、急にこの部屋も寂しくなっちまったね。」
「うん……。」
返事もそこそこに、フェイトはそのままソファーに倒れ込んだ。
「もう寝ちゃうのかい? 先に風呂入ったほうが……。」
「アルフが先に入っていいよ、もし寝ちゃっていたら……起こしてね?」
「わかったよ。」
そう言い残してアルフは浴室に向かう、そしてフェイトは座布団に顔をうずめながら管理局に囚われたシンの事を思っていた。
(私がもっとしっかりしていればシンが捕まる事なかったのに……。)
その時、フェイトは以前シンに言われたある事を思い出していた。

―――目の前で女の子が危ない目に遭っているのに、何もしないなんてカッコ悪いじゃん、だから……ね?―――

(こんなこと言ったら、きっとシンはそう言うんだろうな……。)
そしてフェイトは座布団を抱きしめながら寝返りをうった。
(大丈夫かなシン、管理局の人に酷い事されてないかな? もしかしたら元の世界に帰されているかも……。)
そう考えた途端、フェイトの心に今までに感じたことのない寂しさが襲いかかってきた。
(もし帰されたらもう会えないんだろうな……そうしたら……またアルフと二人っきりなんだ……。)
いつの間にか、フェイトの瞳には涙がうっすらと浮かんでいた。
(シン……会いたい……。)


それから数日後、時空間を航行する時空管理局の旗艦アースラ……その一室にシンは一人で閉じ込められていた。
「はあ……毎日毎日事情聴取ばっかりでもううんざりだ……デスティニーもどこかに連れてかれちゃうし。俺も刑務所行きかなあ……。」
シンは今自分を捕えている組織が先日ヴィアに説明された時空犯罪を取り締まる組織“時空管理局”だということを知っており、部屋の片隅で項垂れる、そして彼の頭にあるひらめきが浮かんだ。
(そうだ! ここから逃げよう! いつまでもこんな所にいられない!)
そしてシンは扉を破壊する為、部屋の隅に移動して助走をつける。そして……。
「うおおおおおおおお!!!!!」
扉に向かって猛突進する、その時、
「艦長がお呼びだ、出ろ。」
突如扉が開かれ、そこからクロノが顔を覗かせてきた。
「うわ!急に開けるな~!」
「え?」

ドッシ~ン!

「うわ~!」
「なぁ~!!?」
そして二人はそのまま激突し、床の上に二人重なるようにのびてしまった。
「いたたた……。」
「は、はやくどいてくれ! 重い……!」
「あーあ、何やってんだか……。」
その様子を、クロノの後ろから着いてきたアースラのオペレーター……エイミィは苦笑交じりに見ていた……。



数分後、シンはクロノに連れられてアースラの艦長室の前にやってきた。
「艦長、シン・アスカを連れてきました。」
『ええ、通して頂戴。』
中にいるアースラの艦長に指示され、クロノはシンを艦長室の中に入れる、そしてシンはそこで驚くべき光景を目にする。
「……ここって本当に艦長室?」
部屋にはししおとし(日本庭園によく置いてある竹筒のアレ)や松の木など、とても艦長室とは思えない趣味全開のコーディネイトがされていた。
「いらっしゃい、君がシン・アスカ君ね。」
すると部屋の中心に設置されている畳の上に、エメラルドグリーンの髪をした青い管理局の制服を身にまとう女性が座っていた。
「えっと、これは……。」
「まあまあ堅い話は抜きにして、ここに座りなさい。」
シンはその女性に言われるがまま、畳の上に敷かれていた座布団の上に靴を脱いで腰かける。
「私はリンディ・ハラオウン、このアースラの指揮官をしています、君のことは……事情聴取を行った局員から聞いているわ、災難だったわね、ジュエルシードを取りこんじゃうなんてね……。」
「……。」
実はシンは前日、局員達の手により身体検査を受けさせられ、秘密にしていた自分の体のことがバレてしまっていたのだ。
「俺はこれからどうなるんです? このまま刑務所行きとか?」
「ふふふっ……そう警戒しなくてもいいのよ。」
そう言ってリンディは置いてあった緑茶にコーヒーシュガーとミルクを大量に入れてかき混ぜ、それをおいしそうに飲んだ。
(あれ? あれって緑茶だよな……緑茶って砂糖とかいれるっけ?)
リンディのお茶の飲み方に疑問を持ちながら、シンはさらに彼女の話を聞く。
「あなたの中にあるジュエルシード……それがいかに危険なものかわかっているわよね?  一応取り出す方法が見つかるまではあなたの身柄を管理局で預からせてもらいます、もちろんコズミックイラの親御さん達には連絡させてもらいますけどね。それと……。」
するとそこに、デスティニーが入っている鳥かごのようなものを持ったクロノがやってくる。
「主!」
「デスティニー!……その子をそこから出してくれ! 何も悪いことはさせないから!」
「わかった……。」
シンの言葉を受けクロノはデスティニーを鳥かごから出す。
「はあよかった、解剖でもされているのかと思ったよ。」
「主……。」
そして互いに抱き合って再会を喜ぶシンとデスティニー、そんな彼らを見てリンディはある質問を投げかけてくる。
「シン君、その……デスティニーちゃんだっけ? その子を作った人がどんな人か教えてくれない?」
「ヴィアさんの事……? 俺と同じ世界の出身だって事以外はわかりません。」
シンは何となくだがヴィアの情報はリンディ達にあまり言わないほうがいいと感じて適当にはぐらかした。
「詳しくは知らないのね……それほどのオーバーテクノロジーだらけのデバイス、作った人がどんな人か知りたかったんだけど……。」
「え? こいつってそんなにすごいんですか?」
そう言ってシンはデスティニーの頭をツンツン突きながらリンディに質問する。
「ええ……クロノとの戦闘も見せてもらったけど、君のデバイスの力はあまりにも特殊で私たちにも解析できない部分が多すぎるのよ、まるで10年ぐらい先の技術を先取りしているみたい……。」
「お前……すごいやつだったんだな。」
「まあ全力を出すには主にまだまだ頑張ってもらわないといけませんが。」

そして和やかな雰囲気の中、シンは思い出したかのようにリンディに質問する。
「そういえば俺と一緒にいた女の子……フェイトとアルフはあれからどうなったかわかりますか?」
「あの子たちね……報告によればあの子たちはジュエルシードを二つ集めたみたい、なのはさんが集めた物を含めればあと6つね。」
「そうですか……。」
とりあえず二人が無事だということが解りシンは胸を撫で下ろす、するとリンディはそんなシンを見て優しい声色で問いかける。
「大切な子なのね、君にとってフェイトさんとアルフさんは……。」
「俺が……俺が守ってあげなきゃいけないんです、戦う力を持っているのは俺だけですから……。」

ビー!ビー!

その時、艦内に警報が鳴り響いた。
「何か動きがあったみたいね、一緒に来てくれる?」
「あ……はい!」
シンはリンディ達に連れられて、アースラのブリッジに向かった。



「一体何があったの!?」
ブリッジに到着したリンディはすぐさま、外の様子をモニタリングしていたエイミィに問いかける。
「捜査区域の海上で異常な魔力反応をキャッチ!!」
「スクリーンにだして!」

エイミィが出した巨大なスクリーンに映し出されたのは、嵐の中六つの突き上げる海流に翻弄されているフェイトの姿だった。
「フェイト……!」
「なんとも呆れた無茶をする子だわ!」
「あれは個人で出せる魔力の限界を超えている……このままでは自滅するぞ!」
その時、なのはと見知らぬ少年がブリッジに入ってくる。
「遅くなりました……!?」
「あ!お前は!」
シンはなのは達の姿を見つけ睨みつける。しばらく続く沈黙、だがスクリーンに映っているフェイトをみて、
「今はフェイトちゃんの所に向かうのが先だね。」
「ああ、話はそれからだ。」
意見が一致しブリッジを出ようとする。だがクロノに呼び止められてしまう。
「その必要はないよ。放っておけばあの子は自滅する、仮にそうならなくても力を使い果たしたところを叩けばいい。」
「叩くってアイツらは……。」
「局員への攻撃や今まで行っている魔法による危険行為…、逮捕の理由には十分だ。」
「た、逮捕って……!」
「今のうちに鹵獲の準備を。」
スクリーンにはボロボロになりながらも必死でジュエルシードの暴走を押さえ込もうとしているフェイトの姿が映し出されていた。
「残酷に見えるかもしれないけど私達は常に最善の選択をしなければならないの。」
リンディの言葉に俯いてしまうなのは、その時……。
「ふ……ふざけんな!」
シンの叫びに驚いてその場にいた者は全員シンに視線を向ける。
「これがあんた達の“なんとかする”なのかよ!! フェイトは……あの子はただ……!」
「彼女はすでにこちらの警告を無視している! 然るべき裁きを受けるべきだ!」
喚き散らすシンに対しクロノが諭すように反論する。だが、
「フェイトはただ母親のためにがんばっているのに……どうしてみんなフェイトを追いつめるんだよ!!」
「……!?」
シンの凄まじい威圧感に圧されてしまう、その時……。
『行って。』
「!?」
『ユーノ君!?』
先程なのはと一緒に来ていた少年がシンとなのはに念話で語りかけてきた。
『僕がゲートを開くから言ってあの子を……。』
『ユーノ君、でも私がフェイトちゃんと話をしたいのは……。』
『僕には関係の無いことかもしれない、でも僕はなのはが困っているなら助けてあげたいんだ、なのはが僕にそうしてくれたように……。』
『ユーノ君……ありがとう。』
『ど、どこの誰だか知らないけどありがとう!』
そしてなのはとシンは転移装置に向かう。
「待て! 君達は……!」
止めようと駆け出すクロノ、その時……。
「デス子フラッシュ!」

ピカッ!

「うわ! まぶし!」
突如デスティニーが手のひらから強い光を発し、引き留めようとしたクロノの動きを止める。
「今です!」
「ごめんなさい! 高町なのは命令を無視して勝手な行動をとります!」
「シン・アスカ、あんた達のやり方が気に食わないので脱走します!」
「あの子の結界内へ、転送!」
そして少年の転移魔法によりシンとなのは、そしてデスティニーはフェイト達のもとへ転送されていった。


上空、雲をかき分けるように落ちてゆく二人。
「レイジングハート! セーットアーップ!」
白いバリアジャケットに身を包むなのは。
「シン・アスカ、デスティニー、いきます!」
シンの右手に大剣アロンダイトが握られ、背中には紅の翼が現れる。





一方その頃、フェイトは六つのジュエルシードを封印するため海流相手に悪戦苦闘していた。
「きゃあ!」
「フェイト!」
ジュエルシードの暴走は激しく、フェイトは何度も何度も吹き飛ばされてしまう。
「無茶だよフェイト! こんなの私達だけじゃ…。」
「それでもやらなきゃ! それに……!」
これだけのことをすればジュエルシードが回収できるだけでなく管理局も来る、そうなればシンがあれからどうなったかあのクロノとかいう少年から聞き出せるかもしれないとフェイトは考えたのだ。
「だから……退く訳にはいかないんだ!」
そう言ってバルディッシュを強く握り直す、だが突然の突風によりバランスを崩しフェイトは海面に真っ逆さまに落ちていった
「フェイトー!!」
「くっ……!」
もう防御したり飛んだりする魔力はフェイトには残っておらず、死を覚悟した彼女は落下しながらぎゅっと目をつむった。
(シン、ごめん……!)
「フェイトーーーーー!!」
「え……!?」
その時、上空から効きなれた声がしたと思うと、フェイトは何者かによって海面に激突する直前に助け出された。フェイトは瞳を開け自分を今抱えている者……シンの顔を見る。
「シン……!」
「大丈夫か!? フェイト!」
シンはフェイトを安全なところまで連れて行き、一度降ろす。
「このバカッ! 無茶ばっかして…!?」
シンは危険な行いをしたフェイトを叱ろうとするが、突然彼女に抱きしめられたことにより固まってしまう。
「バカはシンだよ……! あんな無茶をして……! 私……すごく心配していたんだよ!!」
そう言ってフェイトはシンの胸の中で声を殺しながら泣き初めた。
「わ……悪かったよ、だから泣かないで……。」
「う……ひっく……!」
シンはフェイトの行動に驚き、とりあえずいつも妹にしているように彼女の頭を優しく撫でてあげた。
「シン! 無事だったんだねー!」
そしてそんな彼らの元にアルフが駆け寄る、だが、
「あっ! アイツら……!!」
こちらに向かってくるなのはと知らない少年の姿を見つけ、臨戦態勢をとる。
「まってくれ! 今は戦いに来たんじゃない!」
「え……!?」
「ジュエルシードをあのままにしておくと大変なことになるんだとよ。」
少年の代わりにシンが説明する。
「だから……。」
そしてなのははフェイトに近づき、レイジングハートからバルディッシュへ魔力を分け与える。
「みんなでがんばろう!」
そう言うとなのはは嵐の中へ入っていった。
その姿をぽかんとした様子で見送るフェイト。
「あの子って不思議な子だよな……。」
そんな彼女の隣にシンは立ち、語りかける。
「うん……でも悪い気はしないよ。」
「そうだな、こっちの味方だったら友達になれたかもしれないけど……。」
「……。」
そしてシンはフェイトの背中をポンと押して彼女を激励する。
「よっし! それじゃいってこい!」
「……うん……!」
シンの言葉にフェイトは頷き、なのはのもとへ飛び立っていった。
「それじゃ……! 俺達もやるか!」
「おう!」
「了解しました。」
「うん!」
シンの言葉にアルフと少年、そしてデスティニーは力強く頷いた。
「せーのでいくよ! フェイトちゃん!」
なのはとフェイトは上空で封印の準備に取り掛かっていた。
「よし……! なのは!こっちはOKだよ!」
「こっちもだ!」
「思いっきりいけー!!」
下ではシン達がバインドで突き上げる海流を抑えている。
「ディバイン……!」
「サンダー……!」
フェイトはなのはに合わせてバルディッシュを構える。
「バスターー!!」
「レイジーー!」
同時に放たれる桜色と黄色の光、そしてあたりに魔力の衝撃波が起き、それが止むと六つのジュエルシードが浮かんでいた。
なのはとフェイトはその六つのジュエルシードを見つめていた。
そしてなのははある決意をし、胸に手を当て口を開いた。
「私解ったの、私はどうしたいのか、フェイトちゃんとどうなりたいのか……。」
なのははすべてを包み込むような優しい笑顔で、フェイトに自分の手を差し出した。

「友達に……なりたいんだ。」


その言葉に驚くフェイト、その光景を見守るシン達、だが、
「あれ……? 空が……?」
上空の雲が通常ではありえない色でうなりをあげているのにシンは気付く。
「まずい! みんなにげろ!」
「えっ……!?」
「シン……!?」
だが一足遅く空から赤紫色の雷がなのはとフェイトを襲う。
「きゃあ~~!」
「母さん!?」
おびえる様にフェイトは空を見る。
「フェイト! 危ないっ!」
上空の雷がフェイトに狙いを定めていることに気付き、雷から守ろうと彼女に飛びつくシン、しかし二人とも雷の直撃を受け、力なく落下していった。
「うわあー!」
「きゃああー!」
「ちぃ!」
アルフは空中で二人を受け止め、ジュエルシードに手を伸ばすが、
「させるか!」
突然転移してきたクロノにあともう少しというところで三つ取られてしまう。
「う……うわあああーー!!」
残りの三つを手に入れたアルフは海面に力いっぱい魔力弾を打ち込み、発生した水しぶきを目くらましにその場から撤退していった。
「くそっ!逃げられたか!」
(フェイトちゃん……シン君……。)
なのははただその光景を呆然と見ているしかなかった。





「シン……シン……。」
「う……アルフ? ここは?」
数分後、シンはアルフに起こされ目をさます、彼等は時の庭園に戻って来ていた。
「……!? フェイトは!? フェイトはどうなったんだ!?」
「静かにしな……今アンタの隣で眠っているよ。」
シンはアルフに言われ隣を見てる、するとそこには寝息を立てて眠るフェイトがいた。
「はあ、よかった……。」
「まったく、フェイトったらシンを見つけるんだって聞かなくてさ、ここ数日働き詰めだったんだよ。」
「そうだったのか、ごめん……ありがとう、アルフも……。」
「よしとくれよ……なんか照れるじゃないか。」
頬を赤らめ微笑むアルフ。
「……さっきの雷はプレシアさんがやったんだな。」
「……ああ。」
そしてシンはある所に向かう為立ち上がろうとするが、アルフに腕を捕まれ止められる。
「シン、どこへ行く気だい?」
「決まっている、プレシアさんのところだ! もうこんな事許しておけない……!」
「まあ待ちなって、ちょっとアタシの話を聞きな。」
アルフは眠っているフェイトの頭を撫でながら静かに語り始めた。
「この子はね……昔から感情表現がうまくなくてね、母親があんなのだし、世話をしてくれたリニスもどこかへ行っちゃうし、どっちかというと根暗な子だったんだ……。」
「フェイトが……?」
「でもね、シンに出会ってからフェイトすごく変わったんだよ、あんなに怒ったり泣いたりするフェイト初めて見るよ。」
「……。」
「私にもよくわからないけど……私に出来なかったことをシンはやってのけたんだ。本当にありがとう。」
「そんな、お礼なんて……。」
「だからさ……これからもさ……。」

ドカッ!

「!?」
突如シンの腹部に重い衝撃が走り、彼は意識を失う、だがその直前、
「フェイトの事……守ってあげてね。」
どこか寂しげなアルフの声が聞こえた。


アルフはその場にシン達を残し、プレシアのいる王座がある部屋にやって来た。
「どうしたのフェイトの使い魔……? 私に何か用?」
アルフの姿に気付いたプレシアは彼女の方を振りむこうとする、その時……。

バキッ!

「ぐっ……!?」
予想より早いアルフの動きについて行けず、プレシアは頬を殴られ数メートル吹き飛ばされてしまう。
「今のはフェイトの分だ……! あんたって奴はシンまで巻き込んで……! なんでそこまで! あの子はアンタの為に頑張っているのに!」
そう言ってアルフはもう一発パンチをお見舞いしようとプレシアの元へ飛んでいく、しかし……。
「あの子は使い魔の作り方がなっていないわね、余分な感情が多すぎる……。」
アルフが目と鼻の先まで接近した瞬間、プレシアは彼女の腹部目がけて圧縮した魔法をお見舞いし、数メートル先まで吹き飛ばしてしまった。
「うわっ! ……ぐぐっぐ……へへへ……一発ブチ込んでやったよ、ざまあみろ……!」
アルフはボロボロの体を必死に起こしながら、満足そうににやりと笑った。
そのアルフの表情が癪に障ったのか、プレシアは彼女に向かって膨大な魔力弾を放ち彼女がいた場所ごと吹き飛ばしてしまった。
「ったく、調子に乗るんじゃないわよ……!」
プレシアは切れた口から垂れてきた血を拭う、するとそこに騒ぎを聞きつけたヴィアが駆けつけてきた。
「プレシア! 今の大きな音は何!?」
「なんでもないわ、そんな事よりあの子へのアルティメット細胞の適応経過はどうなっているの?」
「そんなことよりさっきのは……!」
するとプレシアはヴィアの足もとにに向かって魔力弾を放ち、彼女を威嚇する。
「きゃあ!?」
「そんな事ですって……!? アナタは余計な事せずに研究を進めればいいのよ! アリシアはどうなったの!?」
その、プレシアの鬼気迫る表情に圧されたヴィアは、震える声で経過を報告した。
「い、今のところ拒絶反応はないみたいだけど、流石に蘇生までは……。」
「そう……後はジュエルシードをすべて揃えるだけね。」
「でも予断を許す状況じゃないわ、今後逐一に様子を見ないと……。」
「じゃあもうアナタは用済みって訳ね。」
「え?」
ヴィアはその時初めて、自分の頭上に巨大な魔力の塊が浮いていることに気付いた。
「プレシア! アナタ!」
「ありがとうヴィア、いままで手伝ってくれて……でもこれから私とアリシアの幸せな時間を作るには……アナタは不要よ。」
そう言ってプレシアはヴィアに向かって指をさすと、そのまま下におろすジェスチャーをとり魔力の塊をヴィアに向かって降ろした。
そしてヴィアのいた場所は轟音と共に跡かたもなく消え去っていた……。
「これで邪魔者は一人消えた、後2人……ふふふふ……あはははは!」
プレシアはシンとフェイトがいる方角を見ると、狂ったように笑いだした。
「もうすぐよ! もうすぐよアリシア! 私達は失われた時間を取り戻す! あははははははは!!!!!」










―――お母さん、怖い……あんなのお母さんじゃない……。―――

―――なんで?なんでお母さん、昔のように優しく笑ってくれないの?―――

―――そうか、世界中のみんながお母さんをいじめたから、お母さんいなくなっちゃったんだね。―――

―――大丈夫だよお母さん、わたしガコンナセカイ、コワシテアゲルカラ―――










本日はここまで、次回は原作無印の最大の見せ場、最後のなのは対フェイトの話になります。一応無印編は後ニ、三話ぐらいで終われますかね? 
時間とやる気があれば他の作品でもなのはクロス書いてみたいです、ストパンとかネギまとかディケイドとか……想像するだけでも楽しいです。

雑談はこの辺にしてまた次回。



[22867] 第五話「僕達の行方」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/12 08:30
海鳴市内のとある公園……そこでヴィアはある人物と共に先に落ちて来たアルフを探す為歩き回っていた。
「それにしても助かったわ、アナタが咄嗟に庇ってくれなかったらきっと今頃私は……。」
「アナタは私の命の恩人であり、同時にフェイトやアルフをプレシアから守ってくれました、これぐらいのことは当然です。」
その人物……フードを被った女性はにこやかな笑顔をヴィアに返した。

その時、彼女達は草むらで血まみれになって倒れている狼形態のアルフを発見する。
「アルフ! ああ……酷い怪我! 早く治療してあげないと……!」
「回復魔法だけでは足りませんね、どこか整った設備がある場所に運ばないと……。」

「あの……どうかしたんですか?」
その時、彼女達の元に騒ぎを聞きつけた金髪の小学生ぐらいの女の子が近付いてきた。
「そのワンちゃん、怪我しているみたいですけど……。」
「ああちょうどよかった! あなた! この辺に動物病院ない!?」





その頃、時の庭園では……。
「う……いたたた、あれ? 俺確かアルフに……。」
「お目覚めのようね、シン君。」
シンが目覚めるとそこにはアルフはおらず、代わりにプレシアがいた。
「プレシアさん……アルフは?」
アルフがいないことに気付き、プレシアに聞いてみるシン、対してプレシアは淡々と答える。
「あの子は……アナタ達を置いて逃げ出したわ。」
シンはプレシアの表情を見てそれが嘘だとすぐわかった。
「そんな訳ないでしょ? アイツがフェイトをほったらかして逃げるはずが無い。まさか……!?」
「あら、鋭いのね……ヴィアが変な入れ知恵をしたのね、やっぱり消しておいて正解だったわ。」
「……!」
アルフの事をあっさりと認めただけでなく、ヴィアにまで手を掛けた事を暴露したプレシアの態度に、シンは今までにしたことがない程激怒する。
「なんでだよ! フェイトは……アルフやヴィアさんだってアンタのためにがんばっていたのに! それなのにどうしてこんな酷いことするんだ!? フェイトはアンタの娘だろ!?」
「黙りなさい!!」
「!?」
しかしプレシアの剣幕にシンは圧されてしまう。
「つべこべ言ってないで奴等からジュエルシードを取り戻しなさい! さもなくば……二人ともあの出来損ないの使い魔のようにするわよ!? その気になればアナタを殺してジュエルシードを無理やり引き剥がしたっていいんだからね!」
「……!!」
プレシアから殺気を感じたシンはまだ眠っているフェイトを担ぎ、
「どうして……どうしてそんな酷い事が言えるんですか? アナタがそんな事言ったらフェイトだって……アリシアだって悲しむのに……!」
捨て台詞を吐いてその場から離れていった。
「何も知らない子供のくせに……! 私達の何が解るっていうのよ……!」
その場に残ったプレシアは一人不愉快そうに呟いた。


その日の夜、遠見市のアジトにもどったシンは眠っているフェイトをベッドに寝かせ、彼女を見守っていた。
(まだ眠っている……相当疲れていたんだな……。)
彼女の寝顔を見ながらシンは頭を優しく撫でる。
「ん……シン?」
するとフェイトは頭の心地よい感触で目を覚まし、眠い目を擦りながらシンの方を見た。
「あ、ごめんね、起こしちゃった?」
「別にいいよ………あっ!」
そしてフェイトはある事を思い出し、目を見開きベットから身を起こした。
「そうだ! ジュエルシードは!?」
「ゴメン……三つしか取れなかった。」
「そう……。」
そう聞いて肩を落とすフェイト、そして
「……アルフは?」
いつも側に居るアルフがいない事に気付いた。
「アルフは……管理局に捕まっちゃったんだ。」
シンはフェイトを心配させまいととっさに嘘をつくが、
「シン……それは嘘だよね?」
すぐに見抜かれてしまった。
「あの時の雷は母さんが……それでアルフは……。」
「…………。」
何も答えられないシン、2人の間に重苦しい空気が流れる。
「ねえ、シン……ゴメンね。」
その時、部屋に流れていた沈黙をフェイトが破った。
「……なんで謝るの?」
「だって……こんな事に巻き込んじゃったんだよ?…今からでも管理局に行って理由を話せば元の世界に帰してもらえるかも……ジュエルシードを取り出す方法も解るかもしれないし、無理に私達に付き合わなくても……。」
「……。」
するとシンはフェイトの両頬に自らの両手をそえ、

ギュウ~!!!
「いひゃひゃひゃひゃ!!??」

五秒ほど思いっきり引っ張った。
「な……なにするのシン?」
フェイトは瞳を潤ませ、赤くなった両頬をさすりながらシンを見る。
「フェイト、なんでそう一人でなんでもやろうとするんだよ? そんなに俺って頼りないの?」
「え? そんな事……。」
フェイトは昨日の海での一件でシンに助けられた事を知っており、彼が決して自分の足を引っ張るような弱い人間でないことを知っていた。
「本当は……一緒にコズミックイラに逃げようって誘う事も考えたけど、フェイトはイヤだって言うんだろ?」
「うん、だって母さんを一人にしておけないから、私は母さんの願いを叶えてあげたい、母さんにもう一度微笑んでもらいたいから……。」
「…………。」
シンはプレシアが考えている事、そしてフェイトの本当の正体を知っているが故に、彼女の切なる願いが叶う事はほぼ無いと解っており、胸が張り裂けそうに苦しくなっていた。
(アルフもヴィアさんも今はもういない……じゃあ今フェイトを守れるのは俺しかいないんだ……。)
そしてシンはある事を決意し、フェイトの頭を優しく撫でてあげた。
「なら俺は……ずっとフェイトの味方になってあげるよ、たとえこれからどんなことがあろうと、どんな奴が敵になっても……君の傍にずっといる。」
「シン……。」
アルフやヴィアが居なくなってしまったフェイトにとって、シンのその心優しい言葉は彼女の心の中の支えになっていた。
「ありがとうシン……とっても嬉しいよ。」
そして彼女はとても優しい笑顔でシンの優しさに精一杯応えた。
「えへへ……なんだか照れちゃうな……。」
シンは初めて見るフェイトの笑顔を見て、体の芯が熱くなっていくのを感じていた。

ふと、シンは部屋に飾ってある時計を見る。
「ああ、もうこんな時間なんだ……どうりで眠い筈だ。」
日付が変わった時計を見てシンは大あくびをする、するとそれを見ていたフェイトは彼の服の袖を引っ張った。
「ねえシン……今夜だけでいいから、私と一緒に寝てくれない?」
「俺と? いいよ。」



シンは部屋の明かりを消すと、フェイトがいるベッドに隣り合わせで寝転んだ。
「なんか……マユと一緒に寝ているみたいだ、アイツもよく怖い夢見た時に一緒に寝てってせがんできたっけ。」
「マユちゃんって……シンの妹さんだよね? ねえ、シンの家族ってどんな人達なの?」
「俺の家族? そうだな……お父さんはモルゲンレーテって会社に勤めていて、宇宙船を作る仕事しているんだ。」
「宇宙船か……すごいんだね、シンのお父さんって。」
「それにお母さんも、たまにお父さんと喧嘩もするけどとっても優しい人……そんでマユは……。」
シンは優しく微笑むと、フェイトの髪を優しく撫でた。
「今のフェイトみたいに甘えん坊さんだな。」
「むぅ、ひどいよシン……フフフッ。」
「ふふ……。」
毛布を被りながら2人は無邪気にクスクスと笑う。そしてフェイトはシンが向こうの世界でどんなことをしていたのか聞いてみることにした。
「シンは向こうでどんなことしていたの?」
するとシンはばつが悪そうにフェイトから目線を一度逸らすと、渋々と話し始めた。
「……俺の世界ってさ、遺伝子をいじくって普通の人より健康になったり頭が良くなったりスポーツができたりする“コーディネイター”って人達がいるんだ。」
「……? その人達がどうかしたの?」
「実は……俺もコーディネイターなんだ。」
そしてシンは誰にも話した事のない、自分が心に秘めていたある事をフェイトに打ち明けた。



俺が生まれる3年前……世界中にS型インフルエンザっていう病気が流行ったんだ、それでナチュラル……普通の人達は沢山死んじゃったんだけど、免疫力のあるコーディネイターは誰ひとり死ぬことは無かったんだ、だから父さんは俺達が病気に負けない体になってくれるよう、高いお金を払ってコーディネイターにしてくれたんだ。

やさしいお父さんなんだね……。

でもそのおかげで……お陰でって言ったら駄目か、実は学校でいじめられたりしたんだ。

え!? なんで!?

俺の暮らしている国って、ナチュラルとコーディネイターが一緒にいて、お互いすごく仲が悪いんだ、違う国とかでは殺し合いまでしているし……お陰でクラスの奴ら、俺の事“空の化け物”って呼んでいじめるんだ。でもそのことを話すとお父さん達はきっと悲しむだろうし、誰にも相談できなくて……だんだん学校に行ってクラスの奴らと顔を合わせるのが嫌になっていたんだ。それと同時に俺をコーディネイターにした両親を恨んだりもしたんだ……。

…………。

だからフェイトに攫われた時……怖かった半面、これで学校に行かなくて済むって思っちゃったんだ。でも……。

でも?

フェイト達と出会って気が付いたんだ、俺がコーディネイターになったのは……きっと神様がフェイトを守る為にくれた力なんだと思う、だから俺はコーディネイターで生まれた事を……僕を産んでくれたお父さんとお母さんにすごく感謝しているよ。

私も……母さんに感謝している、だってシンと出会えたんだもん。

ありがとう……フェイト……。



そして二人が深い眠りについた頃、デスティニーはバルディッシュと共にベランダで月を見ていた。
「いやあ、今宵も月が綺麗ですねえ……まるであの二人の仲を祝福しているような美しさです。」
[…………。]
デスティニーは夜空に浮かぶ月を眺めながらバルディッシュと語り合っていた。
[デスティニー……前から聞きたかったのですが、アナタは一体何者なのですか?]
「……私はデスティニー、それ以上でもそれ以下でもありません。」
バルディッシュの問いにデスティニーは素っ気なく答える。それでもバルディッシュは質問を続けた。
[シン・アスカのあの爆発的な戦闘能力……あれは遺伝子を調整したぐらいで出せる力には思えません、何なんですかあれは? まるでバーサーカーのような……。]
「…………。」
するとデスティニーは夜空に向かってふわりと飛び立ち、月明かりをバックに満面の笑みでバルディッシュに語りかけた。
「いいじゃないですか、過去がどうだったかなんて……今と未来が幸せならそれでいいんです。」
[…………。]
バルディッシュはデスティニーの笑顔の裏にある想いをなんとなく感じ取り、それ以上詮索することはなかった……。





次の日の朝、フェイトはベッドの上で目を覚まし、隣で眠っているシンの顔を見る。
「ううん……むにゃ……。」
「ふふふ、いい気持ちで寝てるね……。」

トクン
「あ……。」

ふと、フェイトはシンの無防備な寝顔を見て胸の鼓動が高鳴るのを感じていた。
「なんでだろう……どうしてこんなに胸がドキドキするんだろう……。」
フェイトは自然と、自分の顔をシンの顔に近付ける。
(そう言えばリニスが昔……お話を聞かせてしてくれたっけ。)


それはまだフェイトが今より幼かった頃、魔法の師でもあるリニスにあるお伽噺を聞かされた時の事だった。

『こうして人魚姫は天へと昇って行き、世界中の恋人達を見守っていきました……。』
『ねえリニス……人魚姫が王子様にした“恋”ってなあに?』
『そうですね、“好き”になるってことでしょうか?』
『じゃあ私はリニスや母さんやアルフに恋しているの?』
『うーん、それとはちょっと違いますかね……家族でもない、友達でもない、自分にとって特別な男の子に抱く気持ちといえばいいでしょうか。』
『男の子に……?』
『ええ、フェイトもいつかそういう人に巡り会う時が来るでしょう……。』


とくんとくんと動く心臓の鼓動を感じながら、フェイトはじっとシンを見つめていた。
(これが……リニスの言っていた恋なのかな? 私……シンの事が好きなのかな? よく解らないけど……。)
「ううん……? ふわあああ……。」
その時、シンは眠い目を擦りながら体を起こした。
「おはようフェイト……ん? どうしたの? 俺の顔に何かついている?」
「へっ? えっ! な、何でもないよ……!」
突然話しかけられたフェイトは慌ててごまかした。

「主、よろしいでしょうか?」
するとそこにデスティニーが2人がいる部屋に入り話しかけてきた。
「どうしたの?」
「臨海公園のほうにジュエルシードの反応がします。ジュエルシードはすべて回収されているのでこれはおそらく……。」
デスティニーの報告を受けて、シンとフェイトはそれがなのは達の誘いだという事を察知する。
「なのは達か……俺達を誘い出そうとしているのか。」
「如何いたします?」
「……どうするフェイト?」
シンの問いに、フェイトは力強く頷いた。
「行こう、あの子が待っているなら私もそれに応える……!」
「決まりだな。」
そして二人はセットアップし、そのままなのは達のもとへ向かうのだった……。


海鳴臨海公園にやってきた二人、そこで2人は管理局が用意した水没して荒廃した街をイメージした異空間に入った。
「ここは……管理局の人達が用意したのか。」
「おそらく激しい戦闘を想定してこのような場所を……これなら周りの被害を気にせず戦う事ができますね。」
そして二人は荒廃したビルの最上階の、植物園のような場所にやって来た。
「植物園か……。」
「そうみたいだね……なんだか小さい頃を思い出すよ、私が暮らしていたころも緑が一杯ある所だったんだ。」
「へえ……こういう所でピクニックに行ったら気持ちいいだろうな、天気はあんなのだけど。」
そう言ってシンは灰色の空を見て溜め息をつく、するとそこに……バリアジャケットに身を包んだなのはと彼女の相棒のフェレットがやって来た。
「フェイトちゃん……。」
「お前達は……。」
なのは達の姿を見てとっさに身構えるシン、そんな彼を見てフェレットは2人に投降を呼びかける。
「二人とも、もうこんな事はやめるんだ、事情は……なのはの友達が保護したアルフとヴィアさんから聞いた。」
「よかった……2人とも無事だったのか。」
2人が無事だったことが解り、ほっと胸を撫で下ろすシンとフェイト、そして二人は改めてなのは達に宣言した。
「ごめんね……でもここで退くわけにはいかないんだ、母さんの為に……。」
ふと、フェイトはちらりとシンの方を見る。
「そうだよね…ただ捨てればいいって訳じゃないよね…逃げればいいって訳でもない!」
そう言ってなのははレイジングハートを構える。
「だから賭けよう!互いが持っているジュエルシードのすべてを!」
なのはに応えるようにフェイトはバルディッシュを構える。
「……シン。」
「わかっている、手は出さないよ。」
フェイトは頷き、なのはと共に空高く舞い上がり、そして両者は上空で対峙した。
「それからだよ……全部それから!」
「……うん。」
「だから、本当の自分を始める為に、最初で最後の本気の勝負!」


フェイトは思い出していた。広大な草原の花畑に母と二人でピクニックに出かけた幼い日のことを、
(あのころは本当に幸せだったな……。)
『さあ、できたわ。』
(そういえば母さん、あの時私に花の冠を作ってくれたっけ……。)
『おいで、アリシア。』
(…アリシア?)
『とっても綺麗よアリシア、まるで花嫁さんみたい。』
(ちがうよ母さん、私はフェイトだよ、アリシアじゃないよ。)
『わたしのかわいいアリシア。』
(…………まあいいのかな。)


目を見開くとそこにはなのはがレイジングハートをこちらに向けてかまえている。
なのははユーノの願いを叶える為に、大切な人達を守る為に、
フェイトは母の笑顔の為に、自分の味方になってくれると言ってくれたシンの為に、
互いのジュエルシードを賭け、ぶつかり合おうとしていた。
「私は負けない……母さんのためにも、アルフのためにも、そして……シンのためにも!」
そして、少女達はぶつかり合う、互いの譲れないものの為に。



―――僕たちは迷いながら たどり着く場所を探し続け―――
―――哀しくて 涙流しても いつか輝きに変えて……―――


第五話「僕達の行方」





次の瞬間、なのはとフェイトはほぼ同時に上空へ飛び立ち、激しい魔力弾の撃ち合いを繰り広げる。

ドォォォォン!!

巻き上がる爆煙、その中を掻い潜ってフェイトはサイズフォームに変形させたバルディッシュをなのはに向かって振り降ろした。
「くっ……!」
なのははそれをレイジングハートで受け止め、激しい鍔競り合いの後一旦距離をとる、するとフェイトは廃墟のビルが立ち並ぶ海の上に飛び立ち、それを盾になのはに向かってさらに魔力弾を放つ。
「ファイア!」
「くううう……!」
なのはは襲いかかる魔力弾を魔法で作りだしたシールドで防ぎ、ビルを盾にするフェイトの元へ飛びながら桜色の魔力弾を放った。
「……!」
しかしそれはすべて命中することはなかった、そしてなのはとフェイトはビルの間を摺り抜けながら魔力弾を交えた激しいドッグファイトを繰り広げる。



その様子を植物園のあるビルの屋上で見ていたシンは、心の中で神様に祈っていた。
(神様……お願いします、フェイトを勝たせてください、あの子は本当に頑張っているんです、だから……!)
するとシンの様子に気付いたデスティニーは、優しく彼の頭を撫でた。
「大丈夫ですよ……フェイトさんは必ず勝ちます、だってあの子にはバルディッシュがいます、それにアナタの……。」
するとそこに、かつてシンがアースラで出会った金髪の少年がやって来た。
「あ、お前は……。」
「僕はユーノ・スクライア、君の事もヴィアさんから聞いているよ、なんで君はあの子に協力しているの?」
ユーノと名乗る少年の質問に対し、シンはさも当たり前のようにすぐに答えた。
「決まっている、あの子の……フェイトの力になりたいからだよ。」
「どうして? だって君は無理やり連れてこられたんだろう? なんでそんな……。」
すると先程まで話を聞いていたデスティニーが代わりに答えた。
「主は……シン・アスカは優しい人間なのです、困っている人を放ってはおけない、まるで物語の主人公のような真っすぐな心を持っているのです、時にそこに付け入れられ、利用される事もありますが……。」
「デスティニー?」
何故デスティニーがそんな事を言うのかシンには解らず、ただただ首を傾げるしかなかった。



一方、なのはとフェイトの戦いは最終局面を迎えていた。

しばらくして高度を上げたなのはとフェイトは、桜色と金色の閃光となって何度も何度も何度もぶつかり合った、そしてしばらく後に二人は上空で息を切らしながら対峙していた。
(さすがフェイトちゃん……簡単にはいかないなぁ。)
(あの子、初めて出会った時よりも強くなっている……早めに勝負を決めないと!)

一気に勝負を決めようとフェイトは自分の足もとに魔法陣を出現させる。
「はっ!? えっ!?」
それを見て身構えるなのはだが、その周りを小さな魔方陣がなのはを惑わすように出現と消滅を繰り返す。
[Phalanx Shift]
バルディッシュの声と共にフェイトの周りに無数の魔力弾が形成される。魔力弾の表面から紫電がほとばしっていた。
「あっ!? くっ……!」
それを見たなのはは迎撃しようとレイジングハートをむける。しかし……。

ブォン!

「えっ!?」
なのはの両手首、足首に金色のバインドが巻きつき、両手を広げるようにしてなのはを拘束した。


「ライトニングバインド! フェイトさんも思い切った事しますねえ!」
「だ、大丈夫なのか!? あれだけの魔力をぶつけたら……。」
「なのは! 援護を!」
ユーノは居ても立っても居られずなのはを助けに行こうと飛び立とうとする、しかし……。

(駄目!)

その声に呆然としたアルフとユーノになのはの念話が響く。

(ユーノ君は手を出さないで! 全力全開の一騎打ちなんだから……私とフェイトちゃんの勝負だから!!)

「ユーノさん……ここはあの子の言うとおりにしましょう。」
そしてユーノはデスティニーに肩をポンと叩かれ、取りあえず状況を見守る事にした。

一方フェイトは目を閉じ詠唱を行っていた。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル……!」
呪文を唱え終え、目を見開くフェイト。魔力弾を纏う電撃がさらに量を増す。
「フォトンランサー・ファランクスシフト、撃ち砕け! ファイア!!」

フェイトはなのはに向かって手を振り下ろし指さす。
それを皮切りに、無数の魔力弾一つ一つからフォトンランサーがなのはに向かって放たれた。

ドォォォォン!!!

フォトンランサー全弾がなのはへと着弾し、彼女の周りを爆煙が包み込んだ。


「なのは!?」
「やったのか!?」
「いえ……!」
デスティニーの視線の先には、フェイトの攻撃を耐え抜いてバインドを解いたなのはがいた。

「……撃ち終わるとバインドってのも解けちゃうんだね」
そう言ってレイジングハートの先端をフェイトの方へむけるなのは。
「今度はこっちの……!」
[Drive]
レイジングハートの先端に桃色の魔力が集まる。
「番だよ!!!」
[buster]
なのははそのままその魔力をフェイトに向かって放った。
「うぁああああああああ!!」
それを迎撃しようとフェイトは左手に集めた魔力弾を飛ばす。だが込められている魔力が違いすぎ、砲撃は魔力弾を全くの障害にも感じさせず真っ直ぐフェイトに向かった。
「あっ!? くっ……。」
襲い掛かるなのはの砲撃をフェイトはシールドを張った。
ディバインバスターを受け止め、押し切られそうな衝撃の風に髪を揺らしながら必死に耐えるフェイト。
(直撃!?でも……耐え切る。あの子だって、耐えたんだから!!)
シールドを張るほうの手の手袋が破れ。漏れ出す衝撃に煽られマントも端から千切られていく。

「ふぇ、フェイト……!」
その光景を目の当たりにしたシンは、飛び出したい気持ちを奥歯をギリギリと噛みしめながら必死に耐える。
(俺に……俺に何かできないのか!? フェイトがあんなに必死に戦っているのに!)
今彼女を助けに行けば、一騎討ちを所望しているフェイトの気持ちを踏みにじることになる、それ故何も出来ない自分にシンは心底恨みを感じていた。
(何か俺に出来る事……できる事は……!)


「う……あ……!」
一方先程の攻撃で魔力を消費し過ぎたフェイトは、押し切られそうになりながらも自分の気持ちを奮い立たせて攻撃を耐えていた。
「う……あぁああああああああああああああ!!」

最後の力を振り絞るようにシールドに魔力を込めながら叫ぶフェイト。すると砲撃はだんだん細くなりそのまま消えていった。
(耐え切った……!)
そう思いながら疲労を隠さず顔を俯かせるフェイト。しかし頭上から桃色の光が漏れ出していることに気付き見上げる。
「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション……!」
そこにはフェイト見下ろしながら空へとレイジングハートの先端を向けるなのはの姿があった。そしてフェイトと向かい合うように魔方陣が出現する。
[Starlight Breaker]
レイジングハートの言葉と共に周りから桃色の魔力が魔方陣の中心へと集まっていく。そしてそれらは一つの大きな魔力球へと収束されていった。
「くっ……!」
苦々しい顔で前方の光景を見ながらフェイトは動こうとする。だが……。

ブォン!!

「えっ!? バインド!!」
先程自分がなのはにしたように、両手首と足首を拘束され動けなくされたフェイト。
何とか抜け出そうともがくが魔力を消費しすぎ、疲労しきった体では叶わなかった。
そんなフェイトになのははレイジングハートを振り下ろす。
「これが私の全力全開!スターライト……ブレイカー!!」
ディバインバスターなど比べ物にならないほどの大威力砲撃がフェイトへ襲い掛かる、そしてそれは愕然とする彼女を飲み込みながら海上に叩きつけられ巨大な水飛沫を立ち上がらせた。

「ッッッッッッ……!!!」
「……決着だ。」
なのはの勝利を確信したユーノはフェイトを助けに行こうと身を乗り出す、すると……。
「待って。」
目の前にデスティニーが現われ行く手を遮られた。
「な、何をしているんだ!? 早くしないと!」
「まだ終わっていません、彼女も……彼も。」



スターライトブレイカ―の直撃を受けたフェイトは、身に纏っていたバリアジャケットをボロボロにしながら海に向かって真っ逆さまに落ちていた。
(ああ、そうか……私は負けたんだ。)
ふと、フェイトは落下しながらシン達のいるビルを見る。
(ごめんね、負けちゃった……母さんもこれで私の事……。)
そう考えた途端、フェイトの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

結局私は一生懸命やったけど……母さんの笑顔を取り戻す事ができなかった、シンになにもしてあげられなかった、この後はどうなるんだろう? 集めたジュエルシードは全部没収されて、私は管理局の人達に捕えられちゃうのかな? 色々悪い事してきたし、きっと死ぬまで牢獄の中で暮らすんだろうな……。


ごめんね母さん、願いを叶えてあげられなくて。
ごめんねアルフ、私のせいで一杯イヤな想いをさせて。
ごめんねバルディッシュ、こんなにボロボロにしちゃって。

ごめんねシン、アナタにもお母さんやお父さん、それに妹がいるのに……私のせいで引き離しちゃった。

でももし離れ離れになっても、私の事忘れないでね……。


「フェイトォォォーーーーーー!!!!!」


その時、シンの悲痛な叫びが薄れゆく私の意識を少しだけ呼び覚ました。
ごめんね、心配かけて、でも私は大丈夫だから……。

「フェイト! フェイト! フェイトォーーーーーー!!!!!」

泣かないでシン、私は平気だよ、だから……。

「フェイト……!!!」




「フェイト! 負けんなああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


!!!!


次の瞬間、落下していたフェイトは体勢を立て直し、足もとに魔法陣を展開してその場に踏み留まった。
「えっ!?」
「なっ!?」
九割方勝利を確信してフェイトを助けに行こうとしていたなのはとユーノは、その光景を見て目を見開いて驚いた。そしてそれは踏み留まったフェイト自身も同じことだった。
「私……まだ立てる……?」
信じられないといった様子で自分のボロボロの体を見るフェイト、するとビルにいるシンが彼女へさらに応援の言葉を送った。
「フェイトなら勝てる! だって……あんなに頑張ったじゃないか! だから負けんなーーーーー!!!!」
「シン……。」
すると普段物静かなデスティニーも大声で、ボロボロのバルディッシュにエールを送った。
「バルディッシュ! アナタにならできます……! 限界を超えることが! 相棒を幸せな未来へ導くことが!! あなたにはリニスさんの想いも込められているのでしょう!?」


「バルディッシュ……。」
[はい]
シンとデスティニーのエールを受け、フェイトはバルディッシュに静かに語りかけた。
「私……あの子に負けたくない。」
[はい]
「だってシンがあんなに応援してくれるんだもん、なんか疲れも痛みもどっかにいっちゃった。」
[はい]
「だからもうちょっと……頑張ろっか。」
[…………はい!]

フェイトは心の中に熱いものが溢れ出してくるのを感じながら、上空で茫然としているなのはに向かってつぶやいた。
「そっちが二発ならこっちも二発……!」
その瞬間、バルディッシュは一度分解し、そして大剣の柄のような形に変形して行く。
[Zamber Form]
バルディッシュアサルト・ザンバーフォーム……それが今のバルディッシュの名前だった。
「バルディッシュザンバー……“エクストリームバースト”!!!!」
その瞬間、バルディッシュザンバーから金色の刃が、遥か上空にいるなのはに届くぐらいまで伸びた。
「えええええ!? 何それ!!?」
あまりにも常識外れな長さになのはは驚愕する。
「バルディッシュ、限界を……超えるよ!!」
そしてフェイトは最後の力を……否、沸き上がってきた力をすべて使ってバルディッシュザンバーの常識外れな刃をなのはに向かって振った。
「だあああああああ!!!!!!!」

ガキンッッッ!!!!!

「わあああああああ!!!?」
なのはは突然の事にその剣撃を避けることができず、とっさに出した魔力シールドで防いだ。
「はぁ! くっ……ううう……!」
必死に耐えるなのは、普段の彼女なら耐えきることができたかもしれない、しかし今の彼女は全力全快の魔法をつかったばかりだった、つまり……。

ピシピシッ!

「あああ!?」
先程のスターライトブレイカ―を受けたフェイトのように、彼女の全力全快、全身全霊、そしてシン達の願いが付加した攻撃に耐えきる事はできなかった。
「ああああああーーーー!!!」
そしてフェイトが振り抜いた刃はなのはの体を引き裂いた、といっても非殺傷設定が掛けられているのでなのはの体が物理的に真っ二つになることはなかった、しかし彼女の中にあるリンカーコアは大きなダメージを受け、そのまま気絶して海に真っ逆さまに落ちて行った。

「か……った……。」
その光景を目の当たりにしたフェイトは、糸が切れたマリオネットのように意識を失い、なのはとは少しずれたタイミングで海の中に落ちて行った……。


深い海の中、フェイトは自身の体が沈んでいくのを感じていた。
すると何者かが彼女の体を抱え、そのままフェイトは海の上に顔を出す事ができた。
「フェイト! フェイト……! ああよかった! 無事だったんだな!」
フェイトは自分を助け出した人物……シンの海水と涙で濡れた顔を見る。
「シン……あの子は?」
「なのはなら今……。」
するとそこに、ボロボロになって気絶しているなのはを背負ったユーノがやって来る。
「そっちは大丈夫かい? まったく……なのはが負けたなんて信じられないよ。」
「へへん! フェイトが本気になればこんなもんだ!」
「なんで主が自慢げなんですか?」

「……。」
その時、フェイトは何を思ったのかシンの体をギュウッと抱きしめる。
「フェイト……?」
「ありがとうシン、シンが応援してくれたおかげで私……頑張れたよ。」
「そんな、俺なんて全然……。」
フェイトは首を横に振り、顔をシンの胸に埋めた。
「ありがとうシン……私の傍にいてくれて……。」
「……。」
シンは何も言わないまま、彼女を抱きしめ頭を撫でてあげた……。

ふと、シンはあることに気付き、顔を真っ赤にしてフェイトに語りかける。
「な、なあフェイト、そろそろ海から上がらないか? その恰好じゃ風邪ひくと思うし……。」
「?」
顔を赤らめるシンに指摘され自分の今の恰好を見るフェイト、今の彼女の恰好はただでさえ水着のように面積の狭いバリアジャケットがなのはとの戦闘でボロボロになっており、かーなり際どい姿になっていた。
「!!!!! きゃああ!!!」
それに気付いたフェイトは慌ててシンに背中を向け、両腕で自分の胸を隠した。
それを見ていたデスティニーは心底むかつく笑顔でフェイトをからかいだした。
「おやおやー? フェイトさん、どうして赤くなっているんですかー?」
「へ!? え!? いや!? あれはその……!」
「どうしたのフェイト!? 顔がトマトみたいに真っ赤だよ!」
「なななななななんでもないよ! シンはあっち向いてて!」
「は、はい!!」
フェイトに言われて慌てて背中を向けるシン、その光景を呆れながら見ていたユーノは、あることを思い出しレイジングハートに指示を出した。
「レイジングハート……彼らにジュエルシードを……。」
[はい]
そしてレイジングハートに封印されていたジュエルシードがシンとフェイトの目の前に放出される。
「約束は約束だからね……。」
「フェイト、ついにやったんだな。」
「そうだね……。」
宙に浮かぶジュエルシードを、二人は感慨深げに見つめる。

異変はその直後に起こった、シンとフェイトの周りに突如、転移魔法用の魔法陣が出現したのだ。
「うぇっ!? なんだこれ!?」
「まさか……母さん!?」
「二人とも!?」
ユーノは二人を引き留めようとするが間に合わず、シンとフェイトはジュエルシードやデスティニーと共に何処かへ……時の庭園へ転送されてしまった。
するとすぐさま、ユーノの耳にクロノから念話が入ってきた。
(ユーノ! なのはを連れてアースラに戻ってくれ! さっきので彼女達の本拠地がわかった! これから向かうぞ!)
「う、うん! わかった……!」
そしてユーノは気絶したなのはを抱えてアースラに戻っていった……。





なのはとの決着の後、シンとフェイトはそのままプレシアによって時の庭園の王座の部屋に転送された。
「プレシア……さん……。」
「ふふふ……よくやってくれたわフェイト、これでジュエルシードは……。」
そう言ってプレシアは先程の戦闘で満身創痍のフェイトからバルディッシュを奪い、その中に封印されていたジュエルシードを総て取り出した。
そしてバルディッシュを投げ捨てると、プレシアは一緒に回収したなのはの分を合わせて20個のジュエルシードを自分の周りに浮遊させる。
「ば、バルディッシュ!」
フェイトは慌てて投げ捨てられたバルディッシュを回収する、そしてそれを見ていたプレシアは冷ややかな目で彼女に冷たく言い放った。
「……あら? まだそこにいたのフェイト? アナタにはもう用はないわ、早く出て行きなさい。」
「えっ……!?」
プレシアの言葉に固まってしまうフェイト、その様子を見ていたシンは思わず声を荒げてしまう。
「な、なんでだよ……なんでそういう事言うんだよ!? フェイトはアンタの為にジュエルシードを集めたんだぞ!」
「ええ、その点は感謝しているわ、でもその子は一つだけミスを犯した……。」
プレシアはそう言ってシンを一瞥した後、近くにあった端末を操作しだした。
「やっぱりアナタは欠陥品ね、顔だけはあの子に似ているのに、それ以外は何も似ていない……まったく、煩わしいったらありゃしない。」
「あの子……!?」
フェイトはプレシアが何を言っているのか解らず、ただその場でオロオロしていた。
すると王座の後ろにある壁がせり上がり、巨大な円柱型の水槽が現われる、そしてそこには……。
「フェイト! 見ちゃ駄目だ!」
シンは慌ててフェイトを抱きしめ水槽の中身を見せないようにするが、彼女の目にはしっかりと映っていた。
「わ……私……!?」
水槽の中に、自分そっくりの少女が死んだように眠っているのを。
「その様子を見るとアナタはその子に何も話していないのね……フェイト、アナタはこのアリシアのできそこないのクローンなのよ。」
「…………!!!?」
フェイトは何も言葉を発する事が出来ず、目の瞳孔を開かせる。
「アリシアはもっと私に優しく笑いかけてくれた……偽者であるあなたにアリシアの記憶を植え付けてもやはり偽者でしかったわね。」
「……!! お前ぇぇぇ!!!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたシンはアロンダイトを手にプレシアに斬りかかる。
「主! 無茶です!」
デスティニーはシンを止めようとしたが、間に合う事は無かった。
「鬱陶しい! 跪きなさい!」
プレシアは襲いかかって来たシンを右手に溜めこんだ魔力で吹き飛ばした。
「うわああああ!!!!」
「し、シン!」
「主!」
「う……ぐぐぐ……!」
腹部に激痛が走り起き上がる事ができないシン、そして彼の元に駆けつけるデスティニー、そんな彼等を見てニヤリと笑ったプレシアは、茫然とするフェイトに言い放った。
「フェイト、その子のジュエルシードをリンカーコアごと取り出しなさい、弱っている今がチャンスよ。」
「え!? そんな事したら……!」
「死ぬかもしれないわね……でもアナタが悪いのよ? アナタがもっと早くジュエルシードを見付けていればこんな事はならなかった、さあ早くしなさい、母さんを悲しませたいの?」
「……!」
フェイトは震える手でバルディッシュをサイズフォームに変形させると、立ち上がる事ができないシンの前に立った。
「ふぇ、フェイト……!」
「フェイトさん。」
「……。」
フェイトはそのままシンに向かってバルディッシュを振り上げる、しかし……。
「……ごめんなさい……!」
バルディッシュから手を放してそのままシンを抱き上げた。
「フェイト!!! 母さんの言う事が聞けないの!!?」
そのプレシアの発言に、デスティニーは心底あきれ果てた様子で言い放った。
「アナタから拒絶したくせに、どこまで自己中心的なんですか?」
「ごめんなさい……! でもシンだけは……! シンだけは裏切りたくない……!」
それはフェイトがプレシアに行った初めての反抗だった、そしてそれに腹を立てたプレシアは、先程よりも大きな魔力を右手に集束させた。
「まったく最後まで役に立たない子……! いいわ! そんなにその子がいいのなら一緒に消してあげる!」
「フェイト……逃げて……!」
「ごめんね、ごめんねシン……!」
フェイトは逃げようとせず、シンを守る様に強く抱きしめた。

バリンッ!

「!?」
その時、アリシアの眠る水槽のほうからガラスが砕ける音が響き、プレシアは攻撃を中断して水槽の方を見る。

そこには水槽を中から素手で破壊して這い出て来る死んでいる筈のアリシアの姿があった。
「アリ……シア!?」
「な、なんで!? あの子は死んでいるってヴィアさんが……!」
「まさか……!」
培養液が割れた水槽の間からどんどん漏れて地面に広がって行く、そしてそれに構うことなくアリシアは裸のままプレシアの元に近付いていった。
「あ……あははははははは!!!! すごいわ! まさかアルティメット細胞がここまでの効果を示すなんて! 始めからジュエルシードなんていらなかったのね!」
プレシアは半狂乱の状態でアリシアに近付き、自分のマントを彼女に羽織らせた。
「アリシア! 私が解る? プレシアよ! アナタの母さんよ!」
「母さん……?」
アリシアは涙を流して喜ぶプレシアの顔をじっと見つめる。
「さあアリシア……昔みたいに私に笑いかけて! 私の事を母さんって呼んで!」
「……。」
その時、2人の様子をシン達と共に見ていたデスティニーがある事に気付き声をあげる。
「プレシア! 逃げて!」
「え?」
次の瞬間、プレシアはアリシアの手によって天井辺りまで吹き飛ばされて、そのまま地面に落下した。
「ガフッ……!!」
「母さん!?」
「な、何だよ!? 何がどうなっているんだよ!?」
アリシアは地面でのた打ち回るプレシアを、まるで汚物を見ているような目で見ていた。
「アナタは母さんじゃない……母さんは私にもっと優しく笑いかけてくれた、そんな化け物みたいな顔してない……。」
「ば、化け物!? アリシア! 私のことが解らないの!?」
プレシアは豹変してしまったアリシアの姿が信じられず、何度も彼女に訴えかけた。しかしアリシアはそれに耳を貸すことなく、茫然としているフェイトを睨んだ。
「お前が……お前が母さんの笑顔を奪ったんだ! 殺してやる……殺してやる!」
「え……え?」
次の瞬間、アリシアは常識では考えられない程のスピードでフェイトとの距離を詰め、彼女の心臓目がけて手刀を突き刺そうとした。

ガキィィィン!

「す、素手なのにガキンっていった……!」
しかし手刀はシンのアロンダイトによって弾かれた。
「邪魔をしないで……! 私はそいつを殺さなきゃいけないの!」
「そんな事させるか! フェイト! プレシアさんを連れて逃げろ。」
「う……うん!」
フェイトはシンに言われるがまま、ショックで放心状態のプレシアの元に赴き彼女に肩を貸した。
「なんで……なんでなのアリシア……。」
「母さん! しっかりしてください!」

「デスティニー! フェイト達が逃げる時間を稼ぐぞ!」
「はい!」
シンはそう言って背中から翼を出現させ、片腕でアロンダイトを抑えるアリシアを押し出していく。
「邪魔をするな……!」
しかしアリシアは驚異的な脚力で踏ん張り、握力でアロンダイトを握りつぶしていった。
「何なんだコレ……!? この子のどこにこんな力が!?」
「恐らくこれは元々自然の回復を目的に作られたアルティメット細胞の副作用……! 自己進化を繰り返してアリシアさんを蘇らせたアルティメット細胞が、変貌したプレシアさんを見て判断してしまったのでしょう……自分の母親がああなったのはフェイトさんのせいだと……異物を排除する白血球みたいなものですね。」
「なんだよそれ……ふざけんな!」
デスティニーの説明を聞いて頭に血を登らせたシンは、サマーソルトキックでアリシアから距離を取る。
「デスティニー! ビームライフルとビーム砲を!」
「はい。」
そして出現したビームライフルを手に彼女に向かってビームを何発も放つ。
「甘い……!」
アリシアはそれを右に、左にと瞬間移動しながら避け、シンとの距離を縮めて行く。
「よし……もうちょっとだ、もうちょい……!」
だがシンは焦ることなく、ひそかに抱えていたビーム砲をアリシアが移動する予測位置に標準を合わせていた。
「今だ!」
そしてタイミングを見計らって引き金を引き、ビーム砲から極太の光線が放つ、しかし……。
「ふんっ!」
アリシアはそれを素手で受け止め、そのままかき消してしまった。
「なんだよアレ!? もう次元が違いすぎる!」
「アルティメット細胞を甘く見すぎていましたね、まさか戦闘力をあそこまで向上させる力を持つとは……!」
そしてシンの攻撃を受けきったアリシアは、プレシアにかけてもらったマントを掛けなおしながら不敵に笑う。
「もう終わり……? あんまり私の邪魔をしないで。」
その時、彼女の背後からフェイトに支えられたプレシアが叫んだ。
「お願いアリシア目を覚まして! あなたはそんなことをするような子じゃ……!」
「か、母さん危ないよ!」
フェイトはアリシアのもとに行こうとするプレシアを必死に引き留めるが……。
「ええい邪魔よ! この人形が!」
「あ!」
頬をぶたれその場に倒れこんでしまう、そしてその様子を見ていたアリシアは、鬼の形相でプレシアをにらみつけた。
「やっぱりお前はお母さんじゃない……! 母さんはそんなことしない!」
「ち、違うのよアリシア! これは……!」
プレシアは慌てて弁明するが、アリシアはそれに意を返すことなく足元に落ちていた水槽のガラス片を手に取り、
「死ね! 偽物が!」
プレシアに向かって投げつけた。
ガラス片は高速に移動しながらプレシアに向かって飛んでくる、そのことに気づいたフェイトは……。
「母さん!」
プレシアを力一杯突き飛ばした。フェイトはそのまま飛んでくるガラスのほうを見る。

それが悲劇に繋がってしまった。


グサッ!!!

「あ……が……!」
「ふぇ、フェイトォーーーーーー!!!!!」
ガラス片はフェイトの心臓あたりに深く突き刺さってしまい、彼女はそのまま仰向けに倒れた。
「あ、あなた一体何をして……?」
プレシアはフェイトの行動が理解できずに呆然としていた、するとそこにシンとデスティニーが慌てて駆けつけフェイトを抱き起こす。
「フェイト! フェイトしっかりしろ!」
「シ……ン……。」
「なんて無茶なマネを! このままでは……!」
デスティニーはフェイトに治癒魔法を使って応急処置を施すが、効果は著しくなかった。
(くっ……! こんなことなら戦闘面ばかり強化してもらうんじゃなかった……!)
「かあ……さん……かはっ!」
するとフェイトは血を吐きながら呆然とするプレシアに語りかけた。
「フェイト! もうしゃべるんじゃない!」
「ごめん……なさい……私は……人形で……。」
「フェイトさん!」
フェイトは力を振り絞りながら、シンとプレシアに向かって優しく微笑む。
「それでも……私は……貴女に生み出して……くれた……あなたの娘……。」
「やめて……やめて!」
「だいすきだよ……かあさん…………シ……………。」
その瞬間、フェイトの瞳から光が失われ、体からは温もりが消え去っていた。
「フェイト……!? 嘘だよね!? ねえ起きてくれよフェイト!」
シンは必死になって彼女の体をゆするが、デスティニーに止められる。
「落ち着いてください主! 今回復魔法が効いて意識を失っているだけです!」
「そうなのか!? よかった……。」
するとプレシアは訳がわからないといった様子でフェイトを見つめていた。
「なん……で? なんでそこまでするのよ……!? 私はあなたを拒絶したのよ!!」
するとシンは奥歯をギリギリと噛み締めながらプレシアに言い放った。
「この子にとって……あんたは世界でたった一人の母親なんだ……! 愛されたいって思うのは当然だろう!」
「く、くだらない! 所詮は植えつけられた記憶で……! アリシアの偽物であるこの子にあげる愛情なんて一片も……!」
「くだらなくなんかない!!!!」
シンの叫びに、プレシアは何も言えなくなってしまう、そしてシンは涙を流しながら語り始めた。
「フェイトは……本当は大声で涙を流して泣きたいのに、頑張らなきゃって思って我慢して泣かないんだ……! だから心の中で泣いていたんだ!! お母さんに愛されたいって泣いていたんだ!!」
シンはフェイトの立場を自分に置き換えて、フェイトとアリシアがどんな思いをしているのか理解しようとしていた、そしてその答えは……とても悲しいものだった。
「俺にも母さんと妹がいるんだ、もし……母さんがマユをいじめたら、拒絶したら……やっぱり俺はどうしようもなく悲しい、心が苦しい、何もできない弱い自分が大嫌いになって、世界の何もかもが大嫌いになって、きっとあんな風になっちゃうよ……!」
シンの視線の先には、先ほどからブツブツとつぶやいて俯いているアリシアの姿があった。
「自分だけ愛されたってちっとも嬉しくない、だって俺は……フェイトは……アリシアは家族みんなで幸せになりたかったんだ!!!」
「あ……! う……!」
何も言い返す事ができないプレシア、そしてシンは冷たくなっていくフェイトを抱きしめながら、呆然とするプレシアに自分が今思っている気持ちをぶつけた。

「なんで……なんで拒絶したの? 手を離したの? この子アリシアじゃなくフェイトで、貴女の娘で、アリシアにとってたった一人の妹なのに、みんなで……皆一緒に幸せになれたはずなのに!!」



プレシアの頭の中に、アリシアがまだ生きていた頃の思い出が浮かんでくる、その日プレシアは久しぶりの休日を使ってアリシアとピクニックに出かけていた。
『そういえばもうすぐお誕生日ね、アリシアは何が欲しいの?』
『欲しいもの? んっとねー……私、弟か妹がほしー!』
『えええ!?』
『だって弟か妹がいれば留守番していても寂しくないもん! ねえお母さんいいでしょー?』
『あ、あははは……そうね、ちょっと頑張ってみましょうか……。』

そして思い出の世界から帰ってきたプレシアは、今度はアリシアのほうを見る。
「ねえお母さん、リニス……どこにいるの?私を一人ぼっちにしないで……!」



そしてプレシアはすべてを悟った、自分はもう心の傷を埋める程の宝物を手に入れていたこと、それなのにその宝物を自分で傷つけていたこと、そして自身が昔のように笑わなくなり、この世のものとは思えない醜い何かに変わり果ててしまったこと、そのせいで取り戻したはずの宝物に拒絶されてしまったこと。

すべて自分が悪いんだ。

自分の愚かな行いで、すべてを壊してしまったんだ。

ヴィア達が過ちを指摘してくれたのに自分はそれを頭から否定して。

すべて手に入れていた筈なのに、すべて取り戻していた筈なのに。


全部自分が……跡形もなく吹き飛ばしたんだ。


「い……いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
プレシアは悲鳴とも、嘆きともとれる狂ったような叫びをあげ、意識のないフェイトにすがった。
「ごめんなさい! ごめんなさいアリシア! フェイト……!! ごめんなさい……!」

シンはもうプレシアに対し怒りは感じていなかった、代わりになんでこんなことになってしまったんだろう、助けてあげたかった、こんなことになる前に何とかしてあげたかった、そんな彼女に対する憐れみと自分の無力さに対するやるせない気持ちで一杯になり、泣かないフェイトの分まで涙を流した。

その時、シンたちのすぐそばに転移魔法用の魔法陣が出現し、そこからユーノとクロノが現れた。
「シン! 早くここから離れるんだ!」
「ユーノ!? フェイトが……!」
「うっわ! ひどい怪我……アースラ! 受け入れの準備を!」
するとユーノとクロノに気付いたアリシアは、突如二本の触手を床から出現させて彼等と一緒に逃げようとするシンとフェイトを襲わせる。
「逃がすかぁ!!」
「!! 危ない!」
それに気付いたプレシアはフェイトを抱えるシンをクロノ達の元へ突き飛ばし、自分はその触手に捕まってしまう。
「プレシアさん!?」
「プレシア・テスタロッサ!」
「は……早く逃げなさい! 早くしないと……!」
するとシン達を取り囲むように触手が地面から次々と這い出てきた。
「クロノ! このままじゃ……!」
「仕方ない……転移する。」
「ま、待って! プレシアさあああん!!!」
シンは絶叫しながら、クロノ達と共に触手で埋め尽くされていく王座のある部屋から転移して行った……。



そして気絶したプレシアと共にその場に残ったアリシアは、憎しみと狂気がこもった目で天を仰いだ。
「まだだ……まだ足りない……! 母さんを奪ったあいつらを……世界を!」
そしてアリシアはふと、プレシアが忘れていった20個のジュエルシードを見つめた。









次回予告

それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。

それは、誰にも想像できない物語のプロローグとして語られる、ちょっと変わった“恋”のお話。

どこかの誰かが願いました、誰も守れなかった少年と、母親に愛してもらえなかった少女、二人が幸せになってくれますようにと、いっぱいいっぱい泣いて悲しい気持ちを洗い流してくれるようにと。

大丈夫……二人ならきっと、終わらせることができる。



次回Lyrical GENERATION 1st 最終回「君は僕に似ている」



悲しみの運命を、撃ち抜け! ガンダム!










今日はここまで、次回で最終回となっております。その後にエピローグもありますが。

シンのコーディネイターになった経緯やいじめられていたという話は完全に自分の憶測で公式設定じゃありません、ただリアルの子供ってニュースやテレビ番組に影響されて自分達より弱い立場の子や容姿が明らかに違う子を見つけるといじめちゃいますよね、自分も昔そういう子を何人も見たことがありますし、そういうのを考えるとシンにもこういうことがあったのかもなーって妄想して付け加えてみました。


さあ次回は今週土曜日投稿、いよいよクライマックスです、シンは、フェイトは、プレシアは、そしてアリシアはどうなるのか、かなりやりたい放題に作りましたので皆さん次回をお楽しみに。



[22867] 最終話「君は僕に似ている。」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2011/01/20 09:47
ユーノとクロノによってアースラに連れてこられたシン達は、すぐさま重傷を負ったフェイトを医務室に運んでもらう。
「お願いです! フェイトを助けてください!」
「解っている……後は我々に任せて。」
シンは医療班の人々にフェイトを預け、運ばれていく彼女ただただじっと見送った。するとそこに……。
「シン!」
「シン君!」
先にアースラによって保護されていたアルフとヴィアがやって来た。
「アルフ! ヴィアさん! 無事だったんだな!」
「うん……! シン、時の庭園で一体何があったんだい!?」
「それは後で説明するよ、それより2人はフェイトに付いていてあげて……。」
「う、うん……わかった。」
アルフはシンに言われるがまま、フェイトが運び込まれた医務室に向かっていった。
「シン君……一体何があったの?」
そしてその場に残ったシンはヴィアに対し、時の庭園で起こった事をすべて話した。

「そう……まさかプレシアとアリシアが……。」
「ヴィアさん、アリシアはどうなるんですか? このままじゃ……!」
「……。」
するとそんな二人の元に、クロノが神妙な面持ちでやって来た。
「君達、ブリッジの方に来てくれないか? 艦長から話がある。」
「リンディさんが?」

そしてシン達はクロノに言われるがまま、アースラのブリッジの方にやって来た。
「シン君……色々と大変だったわね。」
「いえ……俺達に用って何なんですか?」
「コレを見て欲しいの、エイミィ、スクリーンに出して。」
「はい!」
リンディはエイミィに指示を出し先程時の庭園内で撮影したある映像をシン達に見せる。
「これは……。」
「アナタ達を保護した後、アリシアちゃんとジュエルシードを確保しようと武装局員を向かわせたの、でも……。」
映像にはアリシアの素手の攻撃で手も足も出ずに負傷して撤退していく武装局員達の姿が映っていた。
「これは……!」
「十分に訓練された局員がここまでやられるなんてね……ヴィアさん、あれはどういう事なんですか?」
「多分……アルティメット細胞の副作用ね、あの細胞にはどうやら人間を武術の達人に変える効果もあるみたい、ホント誤算だらけだわ。」
「まったく、アナタ達はなんて厄介な物をこの世界に持ちこんでくれたのですか?!」
「面目ない……。」
クロノの指摘にヴィアは何も言い返すことができなかった、しかしシンはそんな彼女の行いを必死に弁護する。
「ヴィアさんを怒らないでくれよ! この人はただ救いたい子達の為にアルティメット細胞の研究をしていただけなんだ!」
「異世界からわざわざデータ盗み出してか? ご苦労な事だな。」
「その辺にしなさいクロノ、それにしてもどうしたものかしらね……このままじゃ彼女もジュエルシードも回収できないわ。」
「応援を呼びますか? このままにしておく訳には……。」


ビー!!! ビー!!!


その時、アースラ中に非常事態を告げる警報が鳴り響いた。
「!!? 何かあったの!?」
「時の庭園中心部に正体不明のエネルギー反応! な、何これ……!?」
そしてその場にいた一同はスクリーンを見て驚愕する、スクリーンには時の庭園が正体不明の機械のような物に浸食され、みるみるうちに魔人のようなおぞましい姿を変わっていく様子が映し出されていた。
「艦長! 時の庭園の目の前に時空震反応!」
「まさかあの質量を転移させるつもり!!?」
そして時の庭園はある世界に繋がる巨大な魔法陣を出現させ、その場から消え去ってしまった……。

「一体……何が起こったっていうの? あの時の庭園の形状は……。」
先ほどの時の庭園の様子を見てリンディを始めとしたアースラクルーは茫然としていた。すると何かに気付いたヴィアは近くにいたエイミィが操作していた端末を自分で操作し始める。
「ちょ、ちょっと!? どうしたんですか!?」
「このエネルギー量……! アリシアはジュエルシードの力を使って自分の中のアルティメット細胞の成長を速めたんだわ!」
ヴィアのその言葉を聞いて一同は一斉に彼女を見る。
「成長を速めた……!? そんなことをして何になるっていうんですか?」
「アリシアは恐らく、母親の笑顔を奪った原因を全て排除するつもりなのよ、彼女の記憶を照らし合わせれば恐らく……。」


一方何処かの世界に転移した時の庭園は、とある研究所らしき場所の上に転移していた。
「ここだ……母さんを無理やり働かせて、私から母さんを奪った悪い奴等がいる建物……!」
そう言ってアリシアは、角がついた巨大な触手のようなものを研究所に何本も突き刺していく、すると研究所はものすごいスピードで枯れるようにボロボロになっていった。


「艦長! 時の庭園の居場所が解りました……! 例のプレシアが働いていたミッドの研究所です!」
「確かあの研究所って……。」
エイミィの報告を受けて、シンはかつてヴィアから聞いたアリシアが死んだ原因であるプレシアが起こした魔力動力炉の事故の事を思い出していた。
「今スクリーンに出します!」
ブリッジに巨大なスクリーンが現れ、ミッドチルダで暴れる時の庭園の様子が映し出される、その姿を見た一同はあまりの凄惨な光景に戦慄した。
「うわぁ、なんか生気を吸い取っている……!」
「これじゃまるで“悪魔”だな。」
そこには研究所を中心に枯れ果てていく周辺の町の姿と、逃げまどう住人や研究員の姿があった。そしてその様子をヴィアはただ一人冷静に解析していく。
「急がないと大変なことになるわね……あそこはいろんな動力炉があるからエネルギーが吸い放題だし、あの研究所だけでなく数日もしないうちにミッド全域が人の住めない地になるわ。」
「なんだって……何か手はないのか!!?」
クロノの問いに、ヴィアは少し難しい顔をする。
「今実行できるプランで最適なのは二つ、誰かが再びあの庭園の中に入ってコアであるアリシアちゃんを説得するか、息の根を止める事ぐらいしかないわね。」
「なんだ、実質一つしかないじゃないですか。」
ヴィアの言葉を聞きにやりと笑ったリンディは、スクリーンを見ていたクロノに指示を出す。
「クロノ、今から時の庭園に再突入してもらえる? そこであの子を説得してほしいの。」
「無茶苦茶ですね、でもそれしか方法が無いのなら……。」
そんな命の犠牲無く皆を救おうとする二人の姿勢を見て、ヴィアは心の底から二人に感謝した。
(ほんと、こういう人たちが昔の私の周りにもいたらどれだけよかったか……。)
すると、リンディ達の会話にシンとユーノが割って入ってきた。
「あの……その突入作戦、俺にも参加させてください!」
「僕もお願いします!」
「ダメだ、君達は民間人じゃないか……これはジュエルシードの取り合いとはレベルが違うんだぞ、命を失うことだって……。」
するとシンはリンディ達に深く頭を下げてさらに懇願する。
「お願いします……! 俺はアリシアを助けたいんです! もうフェイトの悲しむ顔は見たくない……!」


「おっと、その作戦……。」
「私達にも参加させてください!」
すると入口のほうから声がして一同は視線を一点に集める、そこには医務室でフェイトに付き添っていた筈のアルフと、先ほどのフェイトとの戦いの傷を治療し終えたなのはの姿があった。
「アルフ!? フェイトは……。」
「容体は安定しているみたいだ、それよりも話は聞いたよ……私も一緒に行かせておくれ、またアンタを一人で行かせるとフェイトに怒られるからねえ。」
「私もフェイトちゃんの為に戦いたいんだ、抜け駆けは許さないよ。」
そしてシン、なのは、アルフは無言のままリンディを見つめ彼女の返答を待つ、そしてリンディはエイミィとアイコンタクトをとると、根負けしたかのようにふぅとため息をついた。
「まったくしょうがない子達ね、それじゃお願いしちゃおうかしら?」
「今アースラにいる武装局員は先程の任務で全員負傷して動けない、今周辺地域にいる局員にも応援を頼んでいるから、みんな無茶しちゃだめだよ?」
するとシンやなのはは満面の笑みでリンディにお礼を言う。
「ありがとうリンディさん!」
「アリシアは絶対に助け出して見せます!」
「よし、そうと決まればグズグズしている暇はない、急いであの中に行こう。」
そう言ってクロノはなのは、ユーノ、アルフ、そしてシンと共に転移装置に移動した。
「なんかジャミングが掛けられているみたいだから入口付近に転移させるよ!」
「みんな……気をつけてね。」
そしてシン達はそのまま時の庭園の入口付近に転送されていった……。

(フェイト……ちゃんとアリシアを連れ戻してくるからな、早く目を覚ませよ……。)















フェイト・テスタロッサは今、深い闇の中にいた。



私……どうなったんだろう? もしかして死んじゃったのかな?

母さん……最後の私の言葉、聞いてくれたかな?

……きっと聞いてくれないよね、だって私はアリシアじゃない、あの子じゃないんだから、母さんに嫌われているから……。


……どうして私は生まれてきたんだろう? 私は紛い物で、沢山の人に迷惑をかけて、愛されたかった人にも拒絶されて……。


こんな辛い思いをするのならもう消えてしまいたい、どうせ誰も私がいなくなったって悲しまないんだ、もう動きたくない、もう何も見たくない、もう何も考えたくない、もうなにも…………いらない。


「そんな悲しい事……言わないでください。」


……? あなたは……誰?


「消えたいなんて言わないでください、そんなの……悲しすぎます。」


でも私が生きたいと思ったのは母さんに認められたかったから、それができなかったのに……。


「そんな事ありません、アナタにはアナタに生きていてほしいと思っている人が沢山いるのです、思い出してください……。」


―――私は……私はフェイトに幸せになってもらいたいんだよ!―――

―――私……ようやくわかったの、私はフェイトちゃんと……友達になりたいんだ。―――


…………!


「少なくともアナタはひとりぼっちじゃない、こんなにも、そしてこれからもアナタを愛してくれる人が沢山います、その人達の為にも……生きてください。」


でも……でも私は……! その人達すら傷つけて……!


「彼女達だけじゃありません、ヴィアも、私も、そしてあの人も、アナタの幸せを願っているのです……それがとても幸せなことだって、なんで気付かないんですか?」


私に幸せになる権利なんて……。


「大丈夫です、だってアナタには……ずっと傍にいてあげると、守ってあげるとあの人が約束してくれたでしょう?」


あ……。


―――なら俺は……ずっとフェイトの味方になってあげるよ、たとえこれからどんなことがあろうと、どんな奴が敵になっても……君の傍にずっといる。―――


「あの人は掛け替えのないものをアナタにくれた筈です、それはこれから生きていくうえで……とても大切で、とても愛おしくて、アナタがフェイト・テスタロッサという一つの命である証明なのです。」


うん……うん……。


確かに私はアリシアの劣化したクローンで、一つの命としては劣る所が沢山あるのかもしれない、でも……私が彼を大切に想う気持ちは……きっと誰にも負けない、だって私は……私を大切に想ってくれるシンが……大好き。私もシンの事が大切だよ。


「それだけ分かればもう十分でしょう、さあ……アナタを待っている人達の元に戻りましょう……。」





気が付くとフェイトは、アースラの医務室で一人で眠っていた。そして身を起こして自分の胸に包帯が巻かれている事に気付く。
「そっか、私母さんを守って……。」
そして辺りを見回し、すぐ近くにボロボロになったバルディッシュを見付けて拾い上げ、そっと囁いた。
「ごめんねバルディッシュ……もうちょっとだけ頑張れる?」
[問題ありません。]
バルディッシュは自己修復で新品のような姿に戻り、それと同時にフェイトのボロボロだったバリアジャケットも元の姿に修復された。
「それじゃ行こう……今までの私を終わらせて、これからの私を始めるために。」




そして少女は深い闇の中から羽撃いていく、自分の大切なものの為に、自分を大切にしてくれる人達の元に。










一方その頃、時の庭園内部に転送されたシン達は、アリシアによって操られた傀儡兵達によって道を阻まれていた。
「ディバイン……バスター!」
「うおおおおお!!!!」
なのはのディバインバスターの掃射と狼型に変身したアルフの豪快な攻撃で数を減らしていく、しかし次から次へと傀儡兵は数を増やしていった。
「あーん! 全然減らないよ~!」
「泣き事言っている暇はないぞ! 次が来る!」
すると傀儡兵の一つが攻撃を掻い潜ってなのはに急接近してくる。
「はわわわわ!? やばっ……!」
「な、なのはー!」
なのはの危機を察知し助けに入ろうとするユーノ、すると……。
「デスティニー! フラッシュエッジ!」
「はいはーい。」
ブーメランのように投擲された二本のフラッシュエッジがなのはに襲いかかって来た傀儡兵をバラバラにする。
「大丈夫かなのは。」
「う、うん! ありがとうシン君!」
その様子を見ていたユーノはとても複雑な顔をする。
「あれ? 何この空気……。」
「コレが主人公補正です。」
「何言ってんだデスティニー? それにしてもこの数……奴さん、どうしてもここを通したくないみたいだな……。」
そう言ってシンは傀儡兵達の背後にあるアリシアのいる部屋に通じる通路を見る。
「人手があれば何人かを向こうに送ることができるんだけどね……。」
「もうちょっと持ちこたえてくれ! 今近くの局員がここに応援に向かっている!」
「わかった!」
そしてシン達は再び傀儡兵達を激しい戦闘を繰り広げる、

その様子をアリシアは時の庭園の最深部でモニターで監視していた。
「どうやら新しいおもちゃが必要みたいね……私の邪魔はさせない。」

するとシン達の元に、騎士のような格好をした傀儡兵達とは違う、顔に大きな一つ目があり手には金棒をもった20m程の黄色いロボットが現われた。
「なんだアレ!?」
『デスアーミー! そいつを排除しなさい!』
アリシアの声を聞き、デスアーミーと呼ばれたロボットは一か所に集まって戦っていたシン達に向かって金棒を振り降ろす。
「きゃあああ!!?」
「うわっ!!」
シン達は辛うじてその攻撃をかわし、魔力弾等で反撃を試みる、しかし……。
「駄目だ! 全然効いていない……!」
「もっと攻撃力のある攻撃をしないと!」
するとデスアーミーは金棒の先端をシン達に向けると、そこからビームを何発も発射してきた。
「んな!? あんなものまで……!」
「なのは! アタシの後ろに!」
アルフはなのはを自分の背後に移動させると、シールドを張って飛んできたビームを防いだ。そしてシンとユーノとクロノも襲い掛かるビームをひょいひょい避けていく、しかし……。
「うわっ!?」
その内の一発がシンの背中に直撃し、彼はそのまま地面に落下して行った。
「しまった!」
「シン!」
アルフ達はすぐさまシンを助けようとするが、デスアーミーが彼を叩きつぶそうとするのが早かった。
(やられる!?)
「主!」
思わず目をつむって身構えるシン。
[Thunder rage]
「!?」
突然飛来した雷が轟音と共にデスアーミーの動きを止める。
[Get set]
シンが上を見るとそこにはバルディッシュを構えたフェイトがいた。
「サンダー……レイジーー!」
フェイトはサンダーレイジでデスアーミーをバラバラに破壊してシン達の窮地を救った。
「フェイト?!」
アルフが上を見上げ驚く、それを見たフェイトはシンと彼に駆け寄ってきたなのは達のところまで下りてくる。
「フェイトちゃん!」
「フェイト!」
「……。」
フェイトを嬉しそうに見つめるなのはと恥ずかしさからかそれを正面から見られないフェイト。
すると、壁を突き破りさっきの傀儡兵の倍以上の大きさの傀儡兵が現れ、両肩の砲台がシン達を狙う。
「大型だ! バリアが強い!」
「うん、それにあの背中の……!」
「だけど……二人でなら!」
その言葉にフェイトを見るなのはの顔が笑顔になって首をたてに振る。
「うん! うんうん!」
「いくよ! バルディッシュ!」
フェイトがバルディッシュを構える。
[Get set]
「こっちもだよ! レイジングハート!」
なのはもレイジングハートを構える。
[Stand by. Ready]
「サンダーーー! レイジーーーー!!」
「ディバイン! バスターーーー!!」
「「せーーのっ!!」」
その瞬間、二人の攻撃が大型の傀儡兵のバリアを破り、傀儡兵を粉砕し、時の庭園に大穴を開ける。
「フェイトちゃん!」
「フェイト! フェイト! フェイトー!」
そして二人が地上に降りるとアルフがフェイトに泣きながら抱きついてきた。そしてその後ろではデスティニーが心底ほっとした様子でフェイトを見つめていた。
「来てくれると信じていました。」
「うん、デスティニーの声……私にちゃんと届いたよ。」
「怪我の方は大丈夫なのか?」
「うん、今は平気……。」
クロノの問いに答えながら、フェイトはダメージを受けたシンに肩を貸した。
「シンは平気?」
「うん……ちょっと飛べなくなっちゃった、あはは……カッコ悪いなぁ。」
「そんなことないよ、シンのお陰で私は私を始める事ができたんだから……。」
そう言って見つめあうシンとフェイト、その様子をなのは達はニヤニヤと見つめていた。
「あー? フェイトちゃんもしかしてシン君の事……。」
「君達、今は戦闘中なんだが?」

その時、シン達のいる広場にすぐさま増援の傀儡兵やデスアーミーが集まってくる。
「うわっ! また出てきた!」
「空気が読めないポンコツですね!」
そう言ってシン達が臨戦態勢をとろうとした時……。
「ディバイン……バスター!!!!」
突如どこからかなのはのものとは違うディバインバスターが発射され、傀儡兵達を飲み込んだ。
「え!? 何今の!?」
「私じゃないよ!」
するとシン達の元に大きな槍を持った男と、ピンク色と青い長髪の女性が近付いてきた。
「君達がアースラの部隊か!? 我々は応援要請を受けてやってきたゼスト隊だ。」
「応援感謝します、アースラのクロノ・ハラオウン執務官です。」
そう言ってゼスト隊と名乗った男に敬礼するクロノ、そうしている間にも傀儡兵達はどんどん増えていた。
「ぼやぼやしている暇はないみたいだね……。」
「早く奥の方へ行かないと……!」
するとデスティニーはある作戦を思い付いたのか、先程ディバインバスターを撃った青い長髪の女性に声を掛ける。
「そこのアナタ、先程のディバインバスターをもう一発撃てますか?」
「もちろん! 十発でも百発でも撃っちゃうよ!」
(豪快な人だな……。)
シンはその青い髪の女性の威勢のよさを見て思わず感心してしまう。
「ではなのはさんと共にあの最深部に通じる扉に向かってディバインバスターを撃って道を塞いでいる奴らを退けてくださいください、その隙に私と主……そしてフェイトさんが中へ突入します。」
「私達が……。」
「でもデスティニー……俺……。」
そう言ってシンは左側が折れてしまった自分の翼を見せる。
「うーん、修復には時間が掛かりますね……。」
「それなら……。」
すると大型狼形態のアルフはシンの首根っこを掴み、彼を自分の背中に乗せた。
「うわっと!」
「これなら早く動けるだろ?」
「十分です、それではお二人とも……お願いします。」
デスティニーの言葉にコクンと頷くなのはと青髪の女性、そして二人は迫りくる傀儡兵達の目の前に堂々と立った。
「じゃあせーのでいくよ、えっと……。」
「私はなのは……高町なのはです!」
「よっし !じゃあなのはちゃん、私と一緒に撃ってね!」
「はい!」
そしてレイジングハートの先端と、女性が装備しているギアが巻かれたような籠手に膨大な魔力が集束して行く。
「「ディバイン……バスター!!!!!!!」」
そして2人はほぼ同じタイミングで魔力を傀儡兵達に向かって放った。
桜色と蒼色の光に呑まれ消滅していく傀儡兵達。
「今です!」
その隙にフェイトとシンを乗せたアルフは真っすぐに最深部に繋がる扉に駆けて行った……。

「気を付けてねフェイトちゃん……アルフさん……シン君……!」
「よし!僕達はこの場の敵を殲滅しつつフェイト達の後を追うぞ!」
「わかった!」

「我々も負けていられないぞ、クイント! メガーヌ! 援護してくれ!」
「「了解!!」」



そしてシン達はアリシアのいる時の庭園の最深部に到着する、そこで彼等は信じられない光景を目の当たりにする。
『フェイト……ここまで辿り着いたのね……。』
広間には辺り一面禍々しい植物のような物が壁一面にひしめき合い、中心には銀色の鉄のような何かを全身に纏ったアリシアが、巨大な球根のような物体の中にある赤い水晶に腰から下を取りこませていた。そしてすぐ傍にはプレシアが取り込まれていた。
「母さん!」
「プレシア!」
「あの水晶は……ジュエルシードですか。」
「アリシア……もうこんな事やめてくれよ! こんな事したってプレシアさんは……!」
アリシアを説得しようとシンは必死になって彼女に訴えかける。
『アナタに私の何が解るの? 私から母さんを奪った奴らをどうしようと勝手じゃない。』
しかしアリシアはクスクス笑いながらシンの言葉を拒絶し巨大な触手のような物を幾つも出現させ、それらにシン達を襲わせる。
「うわっ!」
「きゃ!」
シン達はそれを分散して回避し、さらに襲いかかって来る触手を各個迎撃していく。
「フォトンランサー! ファイア!」
「デスティニー! フラッシュエッジ!」
「そりゃー!!!」
しかし攻撃の勢いは衰えることなく、シン達の表情に次第に焦りの色が見え始めていた。
「次から次へと……本当にキリが無い……!」
「やっぱりコアであるアリシアさんを止めないといけませんね。」
「ならアタシに任せろー!」
デスティニーの分析を聞いてアルフは無理やりアリシアに近付こうとする、しかし……。
「わあああああ!!!?」
「アルフー!」
足もとから現れた触手のようなものに絡め取られてしまう。
『無駄無駄……犬ッコロごときが私に触れる事なんてできないわ、そこで大人しくしていなさい。』
「くそう! 力が出ない……!」
アルフは全身から力が抜けていくのを感じ、そのまま意識を失ってしまう。
「いけない! アレは生命力を吸っています! 早く止めないと!」
「待ってろアルフ! うおおおおお!!」
そう言ってシンは地上から、フェイトは空中から迫りくる幾つもの触手を撃ち落としていく。その様子を見ていたアリシアは不敵に笑うと……。
『ふふふ……それじゃレベルアップするかな?』
天井から岩の塊のような物を彼等に向かって落としていった。
「だああ!! そんなの反則すぎるだろ!」
「くっ……!」
顔を顰めながら落下してくる岩を回避するシンとフェイト、その様子を見てアリシアはまたも不敵に笑う。
『かかったわね……まずはお前から!』
すると赤い水晶の中心に魔力が集束され、そこからシンに向かって赤い光線が放たれた。
「うわああああ!!!!」
「シーン!」
フェイトはすぐさま飛べないシンを抱えて空に退避して事なきを得る。
『ちっ……もうちょっとで消し炭にできたのに。』
「た、助かったよフェイト。」
「う、うん……(うわあ、シンと密着してる……)」
フェイトは頬を赤く染めながら地上にいるアリシアを見据える。
「どうしようシン……なんとかしてアリシアに近付かないと……。」
「あのウネウネ邪魔だな……なんとかしてあそこまで辿り着かないと……あそうだ! フェイト耳貸して! ごにょごにょ……。」
そしてフェイトはシンが提案したプランを聞いて目を見開いて驚く。
「そ、それは流石に無茶なんじゃ……。」
「でもこれしか方法がないよ! 俺は大丈夫だから!」
「ここは主を信じてくださいフェイトさん。」
「う、うん……。」
フェイトは今だに承服しかねていたが、取りあえずシンが提案した作戦を採用することにした。

『うふふ……何をしても無駄よ無駄無駄、大人しく私の養分になりなさい。』
「そんなの……!」
「お断りだ!」
そう言ってシンはフェイトに抱えられながらアリシアに向かって猛スピードで突撃して行く。
『なあに? 特攻?』
「シン! 本当にいいんだね!?」
「思いっきりやってくれ!」
フェイトはもうヤケクソ気味にシンを支えていた手を放す、するとシンは慣性の法則に従ってアリシアに向かって弾丸の如く飛んで行った。
「名付けて“シルエットシステムアタック”!!!」
「しるえっとしすてむ?」
デスティニーのネーミングに首を傾げるフェイト、一方シンは襲いかかる触手をはねのけながらアリシアに向かって飛んで行った。
「おりゃあああああ!!!!」
『な!!?』
そしてシンはアリシアに取り付くことに成功する。
「主、アリシアさんをこのジュエルシードの塊から剥がせば時の庭園は機能を停止します。」
「わかった! ふんぬぬぬ……!」
シンはアリシアの体を掴み力任せに引っこ抜こうとする。
『どこ触ってんのよスケベ!』
衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。
「わあああああ!!!!」
「シン!」
すぐさま助けに入ろうとするフェイト、しかしその隙をアリシアは見逃さなかった。
『くくく……! 捕まえたわよ!』
「きゃ!!」
フェイトは後方から襲いかかって来る触手に気付かず、そのまま全身を絡め取られてしまった。
『このまま……バラバラにしてらる!』
「ああああ……!!!」
縛る力が少しずつ強まり苦悶の表情を浮かべるフェイト。
「フェイト……今助ける!」
その様子を見てシンは痛む体をこらえながらフェイトに絡みついた触手をフラッシュエッジで切っていく。
『敵に背を向けるなんて……油断しすぎじゃない?』
「!! 主!」
デスティニーは危険を察知しシンに警告する、しかし気付いた時にはもう遅く、アリシアはシン達に向かってビーム砲を放った。
「シン逃げて! 私の事はいいから!」
「…………!!!」
そのままビームの中に呑まれていく2人、巻き上がる爆煙、それを見たアリシアは勝利を確信していた。
『ふふふ……これで邪魔者はいなくなった、後は……。』
しかしアリシアはある気配に気付き、自分がビームを放った方角を見る、そこにはボロボロになりながら身動きができないフェイトを体を張って守ったシンの姿があった。
「うぐぐ……いってぇ……!」
「シン! なんて無茶を!」
『な、なんでよ……なんでそいつの為にそこまでするのよ!』
シンの行動を理解できずに喚くアリシア、それに対してシンは何てことないといった様子で答える。
「約束したから……! ずっと傍にいるって、守ってあげるって……!」
「シン……!」
フェイトはそのシンの言葉を嬉しく思いながら、触手から脱出しようと必死にもがいた。
そしてシンはボロボロの姿のままアリシアに語りかける。
「なあアリシア……もうやめてくれよ! こんなの悲しすぎるよ!」
『悲しい? 私の行動に口出さないでほしいわね、何も知らないくせに……。』
「確かに俺はアリシアがどういう思いをしているかは解らない、でも……。」
そう言ってシンはフェイトの方を一瞥すると、とても悲しい目でアリシアの方を見る。
「アリシアが今やっている事は……プレシアさんを悲しませているんだぞ。」
『母さん……が……!?』
その瞬間、アリシアは動きを止め、フェイトは触手から脱出することに成功する。
「プレシアさん……泣いていたよ? 君がこんなことをするのは自分のせいだって……プレシアさんを大切に思うならもうこんな事やめようよ!」
『……!』
動揺するアリシアへ、一歩一歩近付いて行くシン。
「もういいだろう? 下にいる人達だって十分懲らしめた、一緒に帰ろう……フェイトやアルフと一緒に、アリシアには帰る所があるんだ!」
そしてシンは手を差し伸べた、その手をアリシアは迷いながらもとろうとする、その時……。
『……!! あああああああ!!!』
突如アリシアは苦しそうに暴れ出し、手当たりしだいに攻撃を始めた。
「アリシア!!?」
「アルティメット細胞とジュエルシードがアリシアさんの制御を受け付けなくなっています!このままでは……!」
「そんな! どうすれば……!」
その時、シンとフェイトの頭の中にリンディの念話が聞こえてくる。
(シン君! フェイトさん! 聞こえる!?)
「リンディさん!?」
(ヴィアさんの解析が終わったわ!! アリシアさんを取りこんでいるジュエルシードの塊……あれを破壊すれば時の庭園は機能を停止するはずよ!)
「ジュエルシードの塊……あれか!」
そう言ってシンとフェイトはアリシアの下半身を取りこんでいる巨大な赤い塊を見る。
(でも気を付けてね、あれは高威力の攻撃じゃないと破壊できないから……。)
「高威力……!」
シンはふと、自分がデスティニーから魔法を教わっていた時に聞いた“切り札”の事を思い出し、自分の両腕に装着してある傷だらけの青い籠手を見つめる。
「どうします主? 翼の修復はたった今終了しましたが……。」
「なのは達が来るのを待ってはいられないな。」
そう言ってシンは決意を固めて右手に魔力を込める、すると突然フェイトがその手を自分の左手で掴んできた。
「シン、私も一緒にやるよ、二人なら……。」
「フェイト……うん、わかった。」
そして二人は繋いだ手から優しい温もりを感じながら、決意に満ちた目でアリシアを見据えた。


「「二人なら、終わらせることができる」」





最終話「君は僕に似ている。」





「ウオオオオオオオオン!!」
次の瞬間、雄たけびと共に触手の先端に牙とアンテナのような二本の角が生え、シンとフェイトに向かって一斉に襲い掛かってくる、二人はそれを真上に飛翔して回避した。
「デスティニー!」
「薙ぎ払います!」
「バルディッシュ!サンダーレイジ!」
[Get set]
そのまま二人はそれぞれビーム砲とバルディッシュの先端を下の触手達に向け、ぐるぐる回転しながら、豪快に触手をビームで薙ぎ払っていった。
『うああ、うわあああああ!!!!』
もがき苦しむアリシアはビーム砲をシン達に向かって放つ、それに対してシンは左手にため込んだ魔力を迫ってくるビーム砲にぶつけた。
「うおおおおおおおおおおおおー!!!!」
そしてシンはフェイトと手を繋いだまま、ビーム砲を縦に引き裂きながらアリシアに急接近する。
そしてジュエルシードで出来た水晶をパルマフィオキーナの射程圏内に入れたシンは、先ほどからチャージしておいた右手の魔力を、フェイトと一緒に掌を合わせて撃ち出した。
「フェイト!」
「うん!」
「「ダブル! パルマ……フィオキーナあああああ!!!!!!」」
シンとフェイト、二人の思いが籠った攻撃は、ジュエルシードの塊にヒビを入れ破壊するのに十分の威力を持っていた。まさに二人で勝利を掴み取る技、この技の前にはどんなものであろうと耐えきることは不可能だった。
「グオオオオオオオオオン!!!!!」

そして触手達は断末魔をあげて消滅していく、勝利者は……シンとフェイトだ。

「アリシア!」
そして勝利の余韻に浸る間もなく、シンはフェイトと一緒にアリシアをジュエルシードから引き剥がした。

「あ……ぐ……!」
「ふぎゃ!」
その瞬間、取り込まれていたアルフとプレシアも開放され、意識を取り戻し起き上がった。
「アルフ! 母さん!」
「あいたたたた……あ、あれ? もしかしてもう終わっている!?」
「アリシア……フェイト……!」
プレシアとアルフはすぐさまシンとフェイトの元に駆け寄り、2人に抱えられているアリシアの安否を確認する。
「アリシアは?」
「生きてはいるみたいですが……意識を失っているようです。」
「そう……!」
デスティニーの言葉を聞いてプレシアは思わずアリシアをフェイトと一緒に力強く抱きしめる。
「か、母さん……?」
「ごめんなさい……! アナタの大切さに気付かずに、私はなんてひどい事を……!」
そこには今までのフェイトをいじめていた鬼のようなプレシアはおらず、ただただ自分の罪を悔いて娘に許しをこう母親の姿があった。
「ごめんなさい……! ごめんなさいフェイト……!」
「母さん……私怒ってないよ、だからもう泣かないで。」
そう言ってフェイトはプレシアの頬を流れる涙を手で掬った。
「私……私はもうアナタ達に母と呼んでもらう資格なんか……! 私は憎まれても当然の事をしたのに……!」
「そんな事言わないでください、私は……母さんが昔みたいに笑ってくれればそれで……。」
「フェイトぉぉ……!!」

シンはそんなフェイト達の様子をすぐ傍で優しく見守っていた。
(フェイト……よかったな、プレシアさんと仲直りできて……。)
「…………主。」
その時、デスティニーが神妙な面持ちでシンに語りかける。
「どうしたのデスティニー? 早くなのは達の元に戻ろう。」
「それが……先程からイヤな空気が晴れないのです。」
「え?」

するとシン達の背後で主を失ったアルティメット細胞の塊が、うねりをあげて再生を始めていた。
「な、なんでだい!? アレはフェイト達が壊したんじゃ……!?」
「生命力が半端ないですね……私達の火力じゃ完全に破壊できませんか、今度は私達の誰かをコアにするつもりですね。」
「このままじゃみんなが……!」
「…………。」
するとプレシアは足もとに魔法陣を出現させ、詠唱を始めた。
「母さん!? 何を……。」
「皆、アリシアを連れて逃げて頂戴。」
「プレシアさん!?」
すると今度はシン達の足もとに魔法陣が出現する。
「転移魔法!? プレシア! これは一体何の真似です!?」
「アイツの中にあるジュエルシードを使って虚数空間の中に転移するわ、いくらアイツでもそこに落とせば何も出来ない筈……。」
「プレシアさんはどうするんだよ!? 逃げるなら一緒に……!」
「誰かがここでこいつを引き止める必要があるわ、それに……ゴフッ!」
するとプレシアは突然咳き込む、そして咳き込んだ口を抑えた手には血が付いていた。
「母さん……!?」
「もう私は長くはないの……ふふふ、本当に愚かよね……。」
「そんな……そんなのあんまりだよ! 折角一緒になれる筈だったのに……! 解りあえたのに!」
魔法陣の中に閉じ込められているシンは必死になってプレシアを説得する、対してプレシアは優しい顔でシン達に語りかける。
「私にはあなた達の母親を名乗る資格なんてない……でも最後くらい母親らしいことはさせて。」
次の瞬間、シン達の足もとの魔法陣が強く光り、彼等は時の庭園の外へと転移していった。
「母さん! いやだ! いやだよぉ!!」
「プレシアさん!」
「プレシア!」
「…………。」

「ごめんなさい……アリシア、フェイト……ヴィアにありがとうって伝えて……。」
それが、シン達が見たプレシアの最後の姿だった。

そして一人その場に残ったプレシアは猛スピードで回復していくアルティメット細胞の塊を睨みつける。
「さあ来なさい……! あの子達には指一本触れさせない!」



一方アースラでは、時の庭園の動きに気付いたアースラのクルーが慌ただしく状況を確認していた。
「上空に次元震の発生を確認! 中規模以上!」
「時の庭園が吸い寄せられています!」
「一体何が……!?」
そんな中、ブリッジにいたヴィアは猛烈に不安を感じていた。
(プレシア……!? まさか!?)
するとブリッジでオペレートをしていたエイミィの元にクロノ達から通信が入って来た。
『エイミィ! 何が起こっている!? フェイト達の援護に行こうとしたらみんな強制的に外へ転移させられて……!』
「えええ!?」
「シン君達は!?」
「待ってください……シン君とフェイトちゃん達の反応を確認しました! 地上に転移したようです!」



その頃地上に転移したシン達は、虚数空間に吸い込まれていく時の庭園を地上から見ていた。
「母さん! 母さん!」
「駄目だよフェイト! もう間に合わない!」
フェイトは時の庭園の元に飛んで行こうとするが、アルフに止められていた。
「アルフ離してよ! 母さんを一人にさせられない!」
「その言う事だけは聞けない!」
そして時の庭園は虚数空間に吸い込まれていき、そのまま跡形も無く消えてしまった。
「あ……ああああ……あああああああー!!!!!!」
その光景を目の当たりにしたフェイトはショックのあまり狂ったような叫び声をあげ、泣き崩れてしまった。そしてその彼女の様子をアリシアを抱えていたシンは悔し涙を流して見つめていた。
「くそっ……! なんで! なんでこんな事に……!」













後にP・T事件(時の庭園事件とも呼ばれている)と呼ばれる出来事はこれで終わりを告げた。
首謀者であるプレシア・テスタロッサは時の庭園とアルティメット細胞と共に行方不明となり、書類上では死亡扱いとなる。

彼女の協力者であるヴィア・ヒビキ博士とフェイト・テスタロッサについても近々裁判が行われる予定ではあるが、リンディ提督らアースラクルーの弁護により刑に執行猶予が付くと見込まれている、
意識の戻らないアリシア・テスタロッサについては、ヴィア博士の指示でしばらく管理局の監視下に置いておくことになっている、もっともアリシア・テスタロッサの中のアルティメット細胞はほぼ消失しており、彼女が再び暴走することはあり得ないということで、アリシア・テスタロッサは近いうちに妹の元に帰ることができるだろう。

最後にシン・アスカについて、彼は管理外世界からフェイト・テスタロッサにやむ負えない事情があったとはいえ誘拐された身であり、事件後間もなく彼の住む世界にいる親元に返された。(リンディ提督による説明も済ませてある。)
彼の中にあるジュエルシードについてはいまだ引き離す方法が見つかっておらず、現在対策を模索中である。



追加報告:ジュエルシードについて。
20個あったジュエルシードは戦いのドサクサで所在が分からなくなっている。
現在も捜索を進めているが発見は絶望的であり、近いうちに捜索が打ち切られる予定である。

一説によれば消失した20個のジュエルシードは他世界に転移した可能性もあるとのこと。引き続き調査の必要がある。










本日はここまで、次回は後日談的なエピローグを月曜日にお送りいたします。

ちなみに作中に出てきたデスアーミーは人間をコアにしておらず、ジュエルシードの魔力で動いている不完全なものとなっております。しかしガンダム作品扱っているのに最初に出てきたMSがデスアーミーって……。

ゼスト隊を出したのはサービス的な意味もありますが、実は彼らの存在は今後の話の展開の重要なカギを握っています。まあとりあえずはそういえばこういうこともあったんだと頭の隅に留めておいてください。



[22867] エピローグ「私は笑顔でいます、元気です。」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/15 20:49
―――PT事件から一か月後―――

オーブのとある学校、そこでシンは花壇の花に水をあげながらフェイト達の事を思い出していた。
「フェイトやデスティニー達元気かな……あれからどうしたんだろう?」
事件後、シンは管理局による軽い事情聴取の後、オーブにいる両親の元に帰されていた。
デスティニーは管理局により没収されており、彼女は現在裁判を受けているヴィアと行動を共にしている。

因みにシンがいない間家族や学校は大騒ぎしたらしく、いじめを苦に家出したとか、いじめっ子が何かとんでもない事をやらかしたとか、とある反コーディネイター組織に攫われたとか、そりゃもう沢山の人が疑われるちょっとした大事件になっていた。
(フェイトが知ったらきっと落ち込むんだろうな……。)
その為なのかシンをいじめていた子達は周囲に皆に疑いの目を掛けられ色々酷い目にあい、彼が無事に帰って来た時はもういじめを行うことはなくなっていた。
「まあそれだけはラッキーかな? 学校の勉強遅れちゃったけど……。」
そして花壇の整備を終えたシンはカバンを背負ってそのまま家に帰るのだった。



数分後、帰宅してきたシンを彼の母親と妹のマユが出迎えた。
「あ、お帰りなさいシン。」
「ただいまー母さん。」
「おにいちゃーん、あそんでー。」
まだ幼稚園の年少程度のマユはシンがしばらく家にいなかった反動か、最近彼によく甘えるようになっていた。
「ちょっと待っていろよー、今うがいと手洗いしてくるからー。」
「うんー。」
そんなシンの様子を、シンの母は嬉しそうに見つめていた。
「ふふふ……なんだかシン、あの事件から随分としっかりしてきたわね。」

プルルルル

その時、家にある電話が鳴り響き、シンの母は受話器を取った。
「はいアスカです……ええ?……ああ、はい……。」

その頃シンは居間でマユの遊び相手をしていた。
「ねえねえおにいちゃーん、またまほうみせてー。」
「またかよ? しょうがないなー。」
そう言ってシンは指先に魔力を溜めると、そこから綺麗な光を放った。
「わ~! きれい~!」
「ほーらほら、字も書けるぞー。『マユマジプリティ』っと……。」
「おにいちゃん、じがうらがえしだよー。」
「あちゃー、間違えちゃったかー。」
シンは今もジュエルシードがリンカーコアを形成している影響か、デスティニーがいなくても簡単な魔法を使う事ができた。
「おにいちゃーん、マユもまほうつかいたいー。」
「うーん……こういうのは適正があるかどうかだからなー、今度リンディさんに頼んで検査してもらうかな?」

するとそこに、電話に出ていたシンの母が彼等の元にやって来た。
「シンー、リンディさんからお電話よー。」
「リンディさんから!?」
そう言って母はシンに受話器を渡す。
「もしもしシンです……はいお久しぶりです……ええ!? フェイトが!? わ、解りました……父さんにも伝えておきます……。」
シンは話を終えると受話器の通話ボタンを切る。
「おにいちゃん、さっきのおでんわなーに?」
「うん……リンディさんから、フェイトが今度うちに来るんだって……。」


数日後の土曜日の夕方、アスカ家は来客の準備の為掃除や料理の準備等でバタバタしていた。
「かあさーん、この唐揚げ持ってくよー。」
「うん、おねがいー。」
そう言ってシンは母親に指示されながら料理をテーブルに並べていく。するとそこに買い物を終えたシンの父親が帰ってきた。
「ただいまー……お! 母さん今日は気合入っているな。」
「ええ、だって今日はシンがお世話になった子が遊びに来るんですもの、精一杯おもてなししなきゃね。」
そう言って嬉しそうに準備を進める母に対し、シンは心から感謝する。
「母さん……ありがとう。」


その時、家の中にピンポーンとインターホンの音が鳴り響いた。
「あ、もしかして……!」
シンはすぐさま玄関に駆けつけ扉を開く、そこには……。
「はーいシン君、こんにちは。」
「久しぶりねシン君……。」
「シン……。」
軽くおめかししたリンディとヴィアそしてフェイトとおとなフォームのアルフが立っていた。
「フェイト! それにアルフも久しぶり! ヴィアさんとリンディさんもこんにちは! かあさーん! フェイト達が来たよー!」


数分後、シンはフェイト達を御馳走が置かれているテーブルがある居間に案内した。
「お久しぶりですねリンディさん、息子がお世話になりました。」
「こちらこそ、シン君には一杯助けてもらいましたから。」
そう言ってシンの両親とリンディは軽く挨拶を交わす、その時ふと、二人はリンディの後ろにいるフェイトとアルフと目を合わせる。
「君がフェイトちゃんにアルフちゃんか……シンから話は聞いているよ。」
「ささ、立ち話はなんだし座って座って、フェイトちゃんとアルフちゃんはオレンジジュースでいい?」
「は、はい……。」
そして一同はテーブルを囲むようにして座る、するとフェイトはシンの両親に対して深く頭を下げてきた。
「あの……今日はリンディさんに頼んで謝りに来たんです……本当にすみませんでした。」
「謝る? 何を?」
シンの両親はフェイトの行動を不思議がって互いに目を合わせる。
「だって私がちゃんとしなかったせいでシン君や貴方達に多大な迷惑を掛けて……。」
「違う……! フェイトだけが悪いんじゃないんだ! 怒るなら私も一緒に……!」
「いいえ、大人の私に責任があるわ、この子達を責めないでやってください。」
そう言ってアルフとヴィアも頭を下げる、するとシンの母は優しい声で三人に語りかけてきた。
「三人とも頭をあげてください……私たちはもう怒ってなんていませんよ。」
「え?」
フェイトは涙ぐみながら驚いた様子でシンの母の顔を見る。
「まあ最初は怒りもしましたよ、大事な息子を誘拐したうえに危ない目に遭わせたのですから……でもシンやそこにいるリンディさんが全部事情を聞かせてくれたんです、あなた達にはやむ負えない事情があったうえに、シンを助けるためにああするしかなかったのでしょう?」
「怒るどころかむしろ感謝しているぐらいですよ、だから……。」
「で、でも……私は……。」
するとシンの父はフェイトのもとに近づき、彼女の頭を優しく撫でてあげた。
「それに……君も色々大変だったのだろう? もし辛いことがあったら私たちにも相談してくれ、君は息子の恩人なのだから。」
「……! はい、ありがとうございます……!」
フェイトはその優しさに触れ思わず泣きそうになる、だがその時、マユが父の服の袖を引っ張ってきた。
「おとうさんおはなしながいよー、はやくごはんたべよーよー。」
そのマユの行動に、リンディやシンの母は思わずぷっと噴き出してしまう。
「そうね……それじゃ堅苦しい話はこれぐらいにして……。」
「お料理食べちゃいますか、今日は腕によりをかけて作ったんですよー。」


一時間後、アスカ家の食卓には和やかな空気と楽しそうな大人たちの話声が聞こえていた。
「ほほう、ヴィアさんはもともとこの世界の人だったのですか、そういえば貴女のお名前をどこかで……。」
「あはは……昔の話ですよ。」
「では息子さんも一緒の職場で働いているのですか? 立派ですねー。」
「ええ、真面目すぎるのが玉にキズですけど。」

そんな中シンはフェイトとアルフからこの一カ月何があったのか色々と聞いていた。
「そっか、なのはとも会ったんだ。」
「うん、今は離れているけどお手紙のやり取りはしているんだ。この前はなのはが友達と撮ったビデオレターが届いて……。」
ふと、シンはフェイトが髪を結んでいるリボンを見る、それは前に彼女がしていた黒い紐状のリボンではなく、なのはがつけていた白のリボンだった。
「フェイト……なのはのこと名前で呼ぶようになったんだな。」
「うん、私たち友達になったから……。」
フェイトはなのはの名前を呼ぶ度び嬉しそうに笑い、それを見たシンも思わず嬉しくなって笑っていた。

「なあシン……。」
するとそこに疲れ切った様子のアルフがシンに声を掛けてくる。
「どうしたの?」
「アンタの妹……どうにかならないのかい? さっきから……。」
「わーい! ふにふにおみみー!」
よく見るとマユがアルフの頭に生えている犬耳を指でふにふにと揉んでいた。
「感触が気に入ったみたいだね……しばらく相手してやってくれ。」
「そんな~!?」
シンは助けを求めるアルフをほっといてフェイトと話を続ける。
「そういえば……アリシアはどうなったんだ?」
「うん、あの子は……。」
フェイトは少し悲しい顔をすると、アリシアの近況とこれからをシンに教えた。

「アリシアは今管理局の病院にいるよ、意識はまだ戻っていないの……あの子の中のアルティメット細胞が殆ど消滅して、今後の生活に影響がないか検査しているんだって、もう数カ月で退院できるってヴィアさんが言ってた。」
「そっか……早く目を覚ませばいいのに……。」
そしてシンは一番気になっていた事……フェイトとアルフがこれからどうなるのか、そしてどうするのか本人に聞いた。
「私達も今裁判を受けているんだ、でもそんなに重い刑は課せられないってクロノが……それに……。」
「それに?」
「私……今執務官を目指しているの。」
「執務官って……クロノの?」
「うん、裁判後に管理局に従事すれば罪を軽くしてくれるんだって、ヴィアさんもアルティメット細胞の研究を管理局員の人たちと一緒にするって条件で罪を軽くしてもらうんだって。」
「そうなんだ……。」
フェイトとアルフ、そして恩人であるヴィアがそんなに重い罰を課せられないと知ったシンはほっと胸をなでおろした。そして彼は意を決してフェイトにある事を打ち明けようとしていた。
「なあフェイト……実は俺、フェイトやリンディさんに聞いてほしいことがあるんだ。」
「聞いてほしい事?」
「あら? 私も?」
突然名指しされおしゃべりを中断しシンのほうを見るリンディ、いや、それだけでなくその場にいた全員がシンに視線を集中させた。
「俺……あの事件を体験してわかったんだ……この世界ってプレシアさんやフェイトみたいに悲しい思いをしている人がたくさんいるんだって、そう考えると俺も何か出来ないかなって思ったんだ。」
「……。」
そしてシンはリンディのほうを見ると、自分の頭を下げて彼女にある事を懇願した。
「リンディさん……俺も時空管理局に入れてください!」
「「シン!?」」
シンの予想外の行動に、フェイトとアルフは面喰ってしまう、しかし頼まれたリンディ本人はまるですべてお見通しと言わんばかりにニコニコしていた。
「ふーん……シン君も管理局に入りたいんだ、でも御両親には言ったの?」
「父さんと母さんには前から相談していました。」
「シンが決めた事なら、私は何も言わんよ。」
「本当は危ない目に遭うだろうから反対したいけど……。」
「俺……ずっと考えていたんです、なんで自分はコーディネイターなんだろうって、この力をどう使えばいいんだろうって、そして……。」
シンは一度、呆然としているフェイトを一瞥する。
「そして……この力でフェイトみたいに悲しい思いをする子を無くしたいって思ったんです、だから……管理局に入れてください!」
シンは先ほどよりも深く頭を下げて懇願する。それを見ていたリンディはふふふと笑うと、ヴィアと軽くアイコンタクトをとった。
「そっか、あなたの気持ちは解ったわ、ヴィアさん。」
「さあ、出てきなさい……。」
そう言ってヴィアは持ち歩いていたバスケットの蓋を開く、するとそこからシンにとって見覚えのある人物(?)が飛び出してきた。
「主……お久しぶりです!」
「デスティニー!?」
「わあ! ようせいさんだー!」
「これがデバイス……思ったより精巧にできているな。」
デスティニーはそのままシンの懐に飛び込む。
「デスティニー! 元気にしていたか?」
「はい、主も元気そうでなによりです。」
「リンディさん、まさか初めから……?」
フェイトの問いにリンディとヴィアは顔を見合わせてほほ笑む。
「ふふふ、なんとなく予感はしていたの、その子はあなたに返還するわね。」
「今度ミッドでカリキュラムを受けるといいわ、管理局員と言っても色々な役職があるから、自分に合ったものを探してみるといいわね。」
「は、はい! ありがとうございます!」





そして夜もふけった頃、フェイト達は帰る時間になったのでアスカ一家と共に家の外に出ていた。
「アルフもフェイトおねーちゃんもかえっちゃうの? マユさみしい……。」
「あーあ、ほら泣くんじゃないよ……また遊びに来てやるから。」
「わーい! またおみみさわらせてねー!」
「あ、あははは……。」


「それでは……面白いお話が聞けました。」
「今後とも息子をよろしくお願いします。」
「いえいえこちらこそ……。」
「本日はありがとうございます。」


別れ際、シンはフェイトと見つめあいながら別れの言葉を交わしていた。
「お別れだね……シン。」
「また近いうちに会えるさ、フェイトも頑張れよ……今度会う時は管理局でね。」
「うん……。」
ふと、シンはフェイトが顔を真っ赤にしながらもじもじしている事に気づく。
「どうしたのフェイト? 風邪?」
「あのね……私ね……シンのこと……。」
フェイトは自分の胸の中に秘めていた思いをシンに伝えようとしていた、しかし……。
(……やっぱりまだ早いかな……意気地なしだなぁ、私……。)
「フェイト?」
そしてフェイトはあることを思いつき、シンにある指示を出す。
「ねえシン……目を閉じて。」
「え? わかった……。」
シンは指示に従い両目を閉じてじっとしていた。



すると彼の頬に一瞬、何かしっとりしたものが触れた。



「あら。」
「まあ。」
「うふふふ……。」
「んな!? なんつう羨ましい奴……母さん足踏まないで。」
「ふぇふぇふぇフェイト!?」
「おー! フェイトおねえちゃんほほチューした!!!!!」
「ぬっふっふ……なかなかやりますねフェイトさん……!」


「フェイト……!?」
突然の出来事に困惑するシン、一方のフェイトは顔を真っ赤にして震えていた。
「ししししシンにはたくさん助けてもらったしなんかお礼したいなーって思ったけどこれぐらいしか思いつかなくててて!」
[マスター落ち着いて!]
バルディッシュの突っ込みを受けたフェイトは、そのまま恥ずかしそうに猛ダッシュでシンの元を去っていった。
「そそそそれじゃシン! また会おうねー!」
「まっとくれよフェイト~!」
「それじゃ私たちも帰ります。」
「体にお気をつけて、では……。」
そう言ってヴィア達もアスカ一家に一礼した後、その場を去っていった。

「ど、どうしたんだろうフェイト……。」
今だ困惑しているシン、それを彼の両親はにやにやと見つめていた。
「お父さん、これはもしかしてもしかするとですよ……!」
「ああ、こんなにも早く嫁候補が現れるとは……やさしそうな子だしこりゃ将来が楽しみだ、グッフッフ……!」

するとマユはぼーっとしているシンの服の袖を引っ張った。
「おにいちゃんもまほうつかいになるのー? じゃあマユもまほうつかいになるー。」
「あ、ああそうだな……デスティニーもいることだし、マユにも本格的に教えてあげるか。」
「これからもよろしくお願いします、マユさん。」

そしてデスティニーという新しい家族を迎えたアスカ一家はそのまま家の中に入っていった……。





エピローグ「私は笑顔でいます、元気です。」





海鳴市にあるなのはの実家で喫茶店でもある“翠屋”、そこになのはは友達と共に学校から帰ってきた。
「ただいまーお母さん!」
「おかえりなのは、フェイトちゃんからお手紙来ているわよー。」
「フェイトちゃんから!? わかったー!」
「フェイトって確かなのはの外国の友達よね?」
「私も見たいなー。」
「うん! いいよー!」
そう言ってなのははフェイトからもらった黒いリボンを揺らしながら、母親である桃子から小包を受取った。



ミッドチルダのとある医療施設、そこでクロノとエイミィは集中治療室で眠っているアリシアを観察しながら今後の事について話し合っていた。
「経過の方は……特に問題ないようだな。」
「うん、でも予断は許さない状態みたい。」
「ああ、いつかあの細胞を作ったカッシュ博士とやらに会って意見を聞きたいと言っていたがな……彼のいる世界には色々と問題があるらしい、中々許可が下りないそうだ。」
「問題?」
「FCの世界は現在、戦争が起こる可能性があるらしい……そんな危険な世界に上層部は関わりたくないようだ、まあその内許可を取り付けてみせるさ、あの子の為にもね……。」
「ふふふ……もしかしたらクロノ君、あの子のお兄ちゃんになるかもしれないもんね。」



アースラにあるフェイトの自室、そこでフェイトはアルフと共にビデオレターの撮影を行っていた。
「じゃあフェイト、スイッチ押すよー。」
「うん……。」
フェイトはアルフがスイッチを押したのを確認すると、緊張した様子で喋り始めた。
「えっと……久しぶりだねシン、そっちはうみゃ……うにゃ……。」
「はい駄目ー、カミカミじゃないかー。」
そう言ってアルフはビデオの録画ボタンを切る。
「うーん、なのはの時は緊張しないのになー……ちょっと休憩してからにしよっか。」
「わかったよー。」

ふと、フェイトは机の上に飾られている写真立てを見る、そこにはプレシアと幼い日のアリシアが映っている写真が入っていた。
「あ、そうだ……。」
フェイトはある事を思い出し、先日買っておいた新品の写真立てにとある写真を入れ、プレシア達の写真立ての隣に置く。
その新しい写真立ての中には、先日オーブに行った時に撮ったシンとフェイトが一緒に映った写真が入っていた。
(シン……私これからも頑張るよ、どれだけ離れていても……アナタと一緒だから。)





オーブのとある公園、そこにシンはデスティニーとマユと一緒に来ていた。(マユに魔法を見せてとせがまれたので)
「それじゃ今からセットアップするからな、よーっく見てろよマユー!」
「がんばれー!おにいちゃーん!」
「周りに人の気配はありません、いつでもどうぞ。」

そしてシンは背中に大きな翼を生やして、大空へと飛び立った。
「シン・アスカ! デスティニー行きます!」





それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。


それは……本来少年が辿る筈だった悲しい運命が、一人の少女との出会いにより大きく変わって行く物語。


やがて少年は少女に守りたいものを守る黄金の剣を貰い、数多の世界を守る“ストライカー”へと成長していく……。




















海鳴市のとある海沿いの遊歩道……そこで車いすの少女が少し年上の少年と共に散歩をしていた。
「もう六月なんやな、どうりで最近暖かくなってきた筈や。」
「そうだな……。」
「花火大会今年はできるんやろうか……去年は雨で何回も順延しとったから……。」
「その前に誕生日だろう? プレゼントは何がいいんだ?」
「えー? そんな気を使わなくてええよー。」
「そうか……。」
その時、先程まで晴れ模様だった空が急に曇り空に変わっていった。
「ん? これはひと雨来るな……はやて、そろそろ家に帰ろう。」
「うん、それじゃ帰ろか……スウェン。」





Next Stage “Lyrical GENERATION STARGAZER”















これにて無印編エピローグ&A’s編の予告的な物を投下させていただきました。
これで書き溜めは全部出したのでまたしばらくROMっています。


それでは一区切りついたことですし、今作の主人公格であるシンについて語ってみましょうか。
放送終了から5年、彼の事はいろんなところで話題になっています、シンは脚本の被害者だとも、別に擁護する価値もないクズだとも、アイツのせいでベルリンがあんな事になったとも言われており様々な見方をされています。
自分は“超重神グラヴィオン”がきっかけで鈴村さんのファンになっていたので、放送当時は本当にワクワクしながら毎週録画しつつリアルタイムで見ていました。それ故に後半の展開はぽかーんでしたよ……。

シンはなんというか……キラにも言える事ですがいい大人に恵まれてなかったなーって思います、ブライトやバニングやシュバルツやジャミルみたいに悪い事をした子供を叱れる大人があの世界にはいなさすぎなんですよね。アスランは未熟すぎ。ハイネが生きていればあるいは……。
誰かを守りたいという気持ちはきっと他のガンダム作品の主人公達に負けていないと思うんですが……。

でも現実でもシンやフェイトやプレシアみたいに理不尽な理由で不幸な目に逢っている人が沢山いますよね、外国ではテロで傷つく人が日に日に増えていますし、日本でもこの前ストーカーに殺された人の母親のことがニュースで放送されていましたし……。
そういう意味ではSEEDや無印なのははどの作品よりも理不尽でリアルと言えるのでしょうか? その二作品を視聴した後は良くその事を考えてしまいます。

僕はこれからも色んな作品を作って行くつもりです、そしてこういった悲しい思いをする人を少しでも減らせるような作品が書ける努力をしたいと思っています。



これからもこの物語の中のシンには様々な困難が待ち受けています、でもきっとフェイトや仲間達と手を繋いで乗り越えていくでしょう。彼はもうひとりぼっちになることも、道を間違えて進む事もないんですから……。



[22867] TIPS:とある局員のプライベートメール
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/21 23:45

TIPS:とある局員のプライベートメール




65/06/08

ゼスト、この前の庭園事件の援護任務御苦労さん、まさか任務中にあんな事件に遭遇するとは夢にも思わなかったよな。
でもお前達のおかげであの会社が行っていた悪行……どうやら明らかにすることができそうだ。

やはりアイツ等、開発した魔力動力炉をコズミックイラの反コーディネイター組織に法外の値で売り飛ばしていたらしい。
あの世界への干渉は禁止されているし、次元世界の秩序を守る管理局に喧嘩売る行為だからな……近々業務停止命令が下るだろう、プレシア・テスタロッサの事もあるし自業自得って奴だ。

それにしてもCEの組織……詳細は解らないがあの世界では“死の商人”と呼ばれているぐらいだ、そんな奴らが次元を移動できる力を手に入れたらどうなるか見当もつかん、何人か局員を送りこんで随時監視させる必要があるな。

全く最近は忙しいよなぁ、ある世界で深刻な次元湾曲が確認されたって言うし……シン・アスカのジュエルシードが第101管理外世界“コズミックイラ”に飛んでいったのもそれが原因かもしれないな。


そんじゃ、今度暇な時に酒でも飲みにいこうや、最近娘が2人もできてクイントも忙しくてご無沙汰だったからな……たまには愚痴でも聞いてくれ。







65/08/03


最近PT事件なんて大きな事件があったが、その事件を調べていくうちに面白い事実が判ったんだ。
例のプレシア・テスタロッサが使っていたアルティメット細胞の作られた第98管理外世界“フューチャーセンチュリー”……そこで“ガンダム”の存在が確認されたそうだ。

そう……二年前、ロストロギアと違って魔力を使わない“サテライトシステム”が原因で100億人近い人間が死んじまった第100管理外世界“アフターウォー”の世界で用いられた機動兵器と名前が同じだ。
さらによくよく調べてみると、その二つの世界のガンダムはデザインにも共通するものが多い、FCとAWは直接的な繋がりはない筈なのに……これは偶然と呼ぶには出来すぎていると思わないか?

まあAWは兵器として用いられたのに対し、FCじゃ“ガンダムファイト”っつうコロニーの覇者を決めるとんでもない大会で使われているだけだがな。噂じゃFCの世界では魔法を用いずにSSクラスの魔導師と互角に渡り合う武術の達人がいるって噂もあるがさすがにそれはないだろ、普通の人間が魔導師と戦うなんて常識外れもいいところだ。

ともかく“ガンダム”はロストロギアとはまた別の、人類の未来を脅かす存在なのかもしれない、他にも使っている世界がないか、はたまた”ガンダム”が生まれるかもしれない世界がないか、少し調べてみる必要がある……AWの世界みたいになるのは御免だからな。



[22867] りりじぇね! その1「壊れあうから動けないリターンズ」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/12/17 23:35
 Lyrical GENERATION外伝 りりじぇね!


“りりじぇね!”とは、本編の合間に投下されるほのぼの番外編のことである!
本編と話が繋がっていたり、まったく繋がっていなかったりする。
人気でれば独立させます。では記念すべきその1どうぞ。










りりじぇね! その1「壊れあうから動けないリターンズ」


それはシンがフェイト達のジュエルシード集めに協力していた頃のお話です。

その日、シンとフェイトとアルフはジュエルシードの反応がしたとある海上へやって来ていた。相手はイカに憑依したジュエルシードである。
「フェイト! そっちにいったよ!」
「うん!」
海中の中を潜航してシン達を襲おうとする巨大イカ、すると突然、海の中から黒い墨のような物が吐き出され、フェイトの視界を奪ってしまった。
「きゃあ! ま、前が……!」
「フェイト!」
そして墨が吐き出された場所から今度は白い触手が現われ、フェイトの右足に絡みつき彼女を海中に引き摺りこんでしまった。
「しまった!」
「主、ビーム兵器は水中で威力が半減します。」
「なら直接行くしかないね!」
シンとアルフは迷わず海の中に飛び込み、海中の巨大イカに対して攻撃を加える。
(フェイトを離せ!)
まずアルフが巨大イカにバインドを掛け、
(このイカヤロー!)
シンが眉間にアロンダイトを突き刺す。
「ゲソオオオオオオオオオ!!」
すると巨大イカはみるみると縮んでいき、そこにはジュエルシードと小さなイカ、そして触手から開放されたフェイトが浮かんでいた。
(アルフはフェイトを頼む、俺がジュエルシードを封印しておくよ。)
(わかった!)
アルフは念話を受けてフェイトを抱えて海上に浮かんで行き、シンはそのままジュエルシードをデスティニーの中に封印した。
(よーっし、それじゃ早く上に戻ろう。)
(解りました……ところでコレどうします? 今晩のおかずにしますか?)
そう言ってデスティニーはジュエルシードに取り付かれていたイカをシンに手渡す。
(うーん……こいつもジュエルシードに操られていただけだし逃がしてあげよう、もう捕まるんじゃないぞー。)
そう言ってシンは手を放す、するとイカはすーっとシン達の元を離れて行った。
(それにしてもなんでジュエルシードはあのイカに取り付いたんだろう?)
(もしかしてあのイカ地上を侵略しようとしていたとか? そこでジュエルシードを見付けて自ら怪人に……。)
(はっはっは、そんな訳ないじゃなイカ。)
(主、このSSは削除しないかぎり何年も残るのです、時事ネタはどうかと思うでゲソ。)


何かに侵略された2人は息が続かなくなっている事に気付き海上に出る、するとそこにはアルフと彼女に抱えられたフェイトがいた。
「フェイト! 大丈夫だったか?」
「うん、びっくりしたけど怪我もないし……くしゅん!」
「あーあ、みんなびしょ濡れだ……今日はこれぐらいにしてアジトに戻ろうか。」
「さんせー。」

そんな訳でシン達は封印したジュエルシードを持ってアジトに帰って行った……。



異変は次の日の朝に起こった。
「シンシンシンシンー! 大変だよーーー!!!」
シンとデスティニーが眠る寝室に、突如アルフが掛け込んできたのだ。
「んにゅう……なんだよアルフ、もっと寝かせてよ……。」
「それどころじゃないんだよー! フェイトが! フェイトがー!」
「フェイト……? フェイトがどうしたの?」
「フェイトがすごい熱出して倒れちゃったんだよー!」
「えっ!?」


~数分後、フェイトの寝室~
「38.8分……完っ全に風邪ですね。」
デスティニーはフェイトの腋に挟んでおいた体温計の数値を読みあげてを見て憂鬱そうに溜め息をつく。
「どどどどどどどどうしようシン!! フェイトが死んじゃうよ!」
「お、落ち着きなよ……ホントどうしよう、取りあえず病院に……。」
「身元を証明できる物を持っていない私達が治療を受けられるでしょうか?」
「そ、そっか……なら俺達でなんとかするしかないなあ、取りあえず……風邪薬とか無いの?」
「そ、そういえばここには無い……! アタシ買いに行ってくる!」
アルフはそう言ってアジトを飛び出していった……。
「あ、あいつ大丈夫かな……狼の姿のままだったぞ。」
「街が大騒ぎになりますね……とりあえず私達はフェイトさんの看病をしましょう。」
そう言ってデスティニーはベッドで苦しそうにしているフェイトの上に毛布を掛ける。
「うーん、うーん……。」
「フェイト苦しそう……。」
「主は濡れタオルを持ってきてください、うんと冷たいので。」
「わ、わかったよ。」


それからさらに数分後、濡れタオルを額に乗せたフェイトは汗だくになりながらベッドの上で呻いていた。
「うーん……熱いよー。」
「ああ、今毛布よけてやるよ。」
「駄目です主、風邪をひいた時は汗を一杯かかせて悪い菌を外に出させるのです。」
「そ、そうなの?」
デスティニーに注意されて思わず萎縮するシン。
「こういう時は水を沢山飲ませて代謝を促進させるのです、ちょっとお茶作ってきますねー。」
そう言ってデスティニーはシンを残して台所へと向かった。
「うーん、風邪なんてひいた事無いし風邪ひいた人見た事もないからどうすればいいかわからないなー。」
シンは自分の不甲斐なさにすっかり落ち込んでしまう、するとその時、フェイトが何かつぶやき始めた……。
「し、シン……。」
「ん? どうしたのフェイト。」
「わ、私どうなっちゃうのかな……すごく苦しいよ、もしかして死んじゃうのかな……。」
「バカだなあ、そんな訳ないじゃん。」
フェイトは風邪をひいてすっかり弱気になってしまい、目にうっすら涙を浮かべて弱音を吐いていた。
「やだよ……私死にたくないよぉ……だって母さんに笑って貰ってないし、あの子とまだ仲直りしてないし、シンのジュエルシードもまだ取ってないのに……。」
「……。」
するとシンは何も言わず、フェイトの手をぎゅっと握った。
「シン……?」
「大丈夫、君は死なないよ、だからゆっくりお休み。」
「う、うん……。」
そしてフェイトは安心したのか、瞳を閉じてすうすうと寝息をたてて眠り始めた。
(いやー……なんつうか今のフェイト、すごく可愛かったな……不謹慎か。)
するとそこにお茶が入ったポットを抱えたデスティニーが戻ってきた。
「あら? フェイトさん寝ちゃったんですか。」
「うん、ついさっきね。」
「うふふふ……主ったらがっちり手なんて握っちゃって……もしかしてお邪魔でした?」
「……! なんでもねえ!」
シンは顔を真っ赤にして自分の手を背中に回す、そしてデスティニーはフェイトの様子を見てある事に気付く。
「お、随分と汗が出ていますね、そろそろ着換えさせたほうがいいでしょう。」
「着替え?」
するとデスティニーはフェイトに掛けられた毛布を剥がし、フェイトのパジャマのボタンを一つずつ外し始めた。
「主も手伝ってください、フェイトさんの服を取り換えて体を拭かなければ……。」
「えええええええええ!!!!!? 俺が!!!?」
突然の指示にシンは面喰ってしまう。
「何をしているのです、このままではフェイトさんの風邪が悪化してしまいます、ハリーハリーハリーハリー!!」
「で、でも女の子の服を脱がすなんて……。」
「今彼女を救えるのはアナタしかいないんですよっっ!!!!」
「は、はいいいい!!!」
デスティニーの迫力に押されたシンは、顔を真っ赤にしながらフェイトの体を起こした。
ちなみにデスティニーはシンに見えない所で「計画通り」という某マンガの主人公みたいな悪い笑みをこぼしていた。
「じゃ、じゃあ脱がすぞ……。」
シンは今にも鼻血を吹きそうになりながら、フェイトが着ていたパジャマを後ろから脱がす。するとフェイトの胸には白いスポーツブラが付けられていた。
「ああ、下着も着替えさせなければ……。」
「お、おう……。」
次に汗でびしょびしょになったスポーツブラを両腕をあげて脱がせる、その間にデスティニーは下の部分をさっさと脱がしていった。
「ぐっ……!」
初めて見る家族以外の女の子の一糸まとわぬ姿を見て、シンは思わずフェイトから視線を背ける。
「では主、体を拭くので体を支えていてください。」
「わわわ……解った。」
そしてデスティニーは30cmしかない小さな体を目一杯使ってフェイトの体の前部分をくまなく拭いていった。
「まあまあ、ゆで卵みたいにプルプルした肌をお持ちで……あら、こんなところにホクロが。」
「いいいいいから早くしろよ!」

それから数分後、体を拭き終えて新しいパジャマに着替えさせたフェイトを再びベッドに寝かせたシンは、部屋の隅で額にヤカンを乗せれば中の水が湧き上がるぐらい赤くなっていた。
「やばい……さっきの思い出したら顔が熱くなってきた、風邪うつったのか?」
「いやー堪能しました、それでは主、次はおかゆを作りましょうか。」

さらに数十分後、シンとデスティニーは台所で作った卵粥を持ってフェイトの寝室に戻ってきた。
「あ……二人ともおはよう。」
「フェイト、もう起きても大丈夫なのか?」
「うん、ちょっと楽になったよ……。」
そう言ってフェイトは節々に痛みを感じながらも自分の体を起こした。
「あんまり無茶をしちゃダメですよ、病み上がりが一番危ないんですから……。」
そう言ってデスティニーはシンにスプーンを手渡す。
「それじゃ主、フェイトさんに卵粥を食べさせてあげてください。」
「わかったよ。」
シンは卵粥をスプーンで一口分掬い、フェイトに差し出した。
「フェイト、あーんしろあーん。」
「あーん。」
それに対してフェイトは素直に口を開き、スプーンの上のお粥を美味しそうに食べた。
「どう? 美味しい?」
「うん、おいしいよ。」
「おー、よかったなデスティニー、美味しいってさ。」
「え? これデスティニーが作ったの?」
「ええ、私は味加減のほうを……コンロの火とかは主にやってもらいましたが。」
「そっか、ありがとう二人とも……。」
そう言ってフェイトはデスティニーの頭をやさしく撫でた。
「ささ、まだ一杯あるからな、一杯食べて早くよくなれよ。」
「うん。」


それから一時間後、卵粥を食べ終えたフェイトは再びすうすうと寝息を立てて眠ってしまった。
「いやー、また眠っちゃったね。」
「たくさん食べましたからね……これならすぐに良くなるでしょう。」
「でもなんで急に熱だしちゃったんだろうな、俺たちは平気なのに……。」
「おそらく昨日水をかぶったのと……今までの頑張りで蓄積した疲れがドッと出てしまったのでしょう、いくらフェイトさんに魔力があるからといってその他は普通の9歳の女の子と変わりませんから。」
「そっか……。」
シンは複雑な思いを抱きながら、寝息を立てて眠るフェイトの頬を撫でてあげた。
「俺たちがもっと支えてあげないとな……。」
「……ですね。」

その時、玄関から来客を告げるインターホンの音が鳴り響いてきた。
「あれ? 誰か来ましたね。」
「俺見てくるよ。」

そしてシンは玄関に赴き扉を開く。
「あ、あなたは……。」
するとそこには意外な人物が立っていた。


フェイトは朦朧とする意識の中、自分の額に誰かが手を乗せていることに気付いた。
(誰だろう? 温かい手……もしかして母さん?)
フェイトはゆっくりと自分の額に手を乗せている人物を見る、その人物とは……。
「ヴィア……さん?」
「あら、ごめんね……起こしちゃったみたいね。」
そう言ってヴィアは水で濡れたタオルを絞ってフェイトの額に乗せる。
「ヴィアさん、どうしてここに……。」
「風邪薬探し回っていたアルフから連絡があったのよ、“フェイトが熱出したんだけどどんな薬を買えばいいのかー”って。」
「それでわざわざここに……。」
「別にいいのよ、研究の合間の息抜きになるし……アナタはゆっくりと休んでいなさい。」
「…………。」
フェイトはふと、ある人物の姿を探す為部屋を見回す、しかし部屋にはフェイト自身とヴィアしかいなかった。
「ごめんねフェイトちゃん、プレシアはここには来ていないわ。」
「……そうですか。」
その言葉を聞いたフェイトは少し落胆したかのように毛布の中に顔を埋めた。
「ごめんね、私も誘ったんだけど断られて……でもその代わり……。」

「ヴィアさーん! リンゴすりおろしてきたよー。」
するとそこにすりおろしりんごが盛り付けられたお椀を持ったシンとデスティニーと、大量の風邪薬を抱えたアルフが部屋に入って来た。
「ほらフェイト! これだけ飲めばすぐによくなるよ!」
「アルフさん、風邪薬は大量に飲めばいいというものでは……。」
「ヴィアさんの分も切っておいたよ、皆で食べよう。」
「ありがとう、それじゃフェイトちゃん……。」
そう言ってヴィアはすりおろしたリンゴを乗せたスプーンをフェイトの前に差し出す。
「そ、それじゃ……。」
フェイトはそれをパクリと口の中に入れる、そして……ある事に気付いた。
「あ……このリンゴ、もしかして……。」
「そうよ、アナタの生まれ故郷の森で取れたリンゴをプレシアが持ってきた物よ、彼女は“腐るといけないからあの子にでもあげなさい”なんて言っていたけど……何だかんだ言ってアナタの事が心配なのよ。」
(あの女が~?)
アルフはヴィアの“プレシアがフェイトを心配している”というのがいまいち信用出来ずに首を傾げる。
「えへへ……母さんが……。」
だがフェイトのとても嬉しそうな顔を見て声に出す事はなかった。
(まいっか、フェイト嬉しそうだし……。)
「ほわー! このリンゴおいしいね! フェイトとアルフって毎日こんなおいしいリンゴ食べていたんだ!」
一方自分で切ったリンゴをデスティニーと一緒に食べていたシンは、あまりのおいしさに笑みをこぼしていた。
「沢山貰ってきたからね、冷蔵庫に入れて大事に食べなさい。」
「はーい。」
「…………。」
フェイトはそんなヴィアを見て、思わずこんな言葉を洩らした。

「ヴィアさんって……なんだか優しかった頃の母さんみたい。」


その数日後、フェイトの体はすっかりよくなり、無事ジュエルシード探索を再開できたそうな……。





おまけ、数日後の時の庭園にて……。
「げほげほげほ!!!」
ヴィアはマスクをして鼻水をすすりながらカプセルの前でキーボードを叩いていた。
そんな彼女の様子を見ていたプレシアは、呆れたように溜め息をついた。
「……あの子にうつされたのね。」
「あははは、面目な……くしゅん!!!(ポチッ) あ、変なトコ押しちゃった。」
「ちょ、ちょっと!? 装置から煙出ているけどアナタ何のボタン押しt

チュド―――――――――――――ン!!!!

その瞬間時の庭園に大きな爆発音が鳴り響き、ヴィアとプレシアは数日の間チリチリヘアーで過ごしたという……。










はい、爆発オチですいませんね。次回は今結果待ちの企業の連絡が来たらまたその内……。



[22867] りりじぇね! その2「アリサのメル友」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:f02fd322
Date: 2010/12/31 15:53
りりじぇね! その2「アリサのメル友」


7月のある日、なのはは友人であるアリサとすずかと共に昼休みの学校の屋上で談笑していた。
「そういえばなのは、この前フェイトからビデオレター来たんだよね?」
「今度見せてー、ついでにフェイトちゃんへお返事送ろうね。」
「うん! フェイトちゃんもきっと喜ぶよー。」
その時、なのはがいつも所有している携帯電話から着信音が鳴り響く。
「あれ? 誰からだろ……おお? シン君からだー。」
「シンって……確かフェイトちゃんの彼氏さんよね?」
「フェイトちゃんは顔真っ赤にして否定してるけどねー、どれどれ……。」
なのははメールに添付されていた写真を見る、そこには小鉢に植えられた一輪の花を手に持ったシンとマユが映し出されていた。
「おおー、これがシン君の妹さんかー。」
「カワイイ子だね、幼稚園ぐらいの子かな?」
「それにしてもこのシンって奴なんかバカっぽいわね、騙されやすそうな顔してるわ。」
「あ、アリサちゃん厳しいね……。」
アリサのストレートすぎる感想になのはは乾いた笑いがこみ上げてくる。その時すずかは何かを思い出したかのように手をぽんと叩いた。
「そうだ! 確かアリサちゃんも新しいメル友が出来たっ言ってたよね? ちょっとメールしてみたら?」
「え? そうなの? どんな人?」
「あそっか、確かあの頃なのはってリンディさんて人のところにいたから知らなかったのね、あれは確か……。」





それは約2ヵ月前、ちょうどなのはがフェイトやシンとジュエルシードの争奪戦に集中する為アースラに滞在していた時の事、アリサは両親の仕事の都合である実業家が開いたパーティーに出席するためスペインのあるホテルにやってきていた。

華やかな衣装を身にまとい、豪華な食事に舌鼓をうつパーティーの出席者、そんな中アリサは一人物陰で日本にいる友人達にメールを送っていた。
「“こっちは退屈でたまらないわ、早く日本に帰って遊びたいわ”……っと。」
メールを打ち終えて携帯電話をパタンと閉じ、そのまま辺りを見回したアリサは、深く溜め息をついた。
「はー……ホント退屈、なんでパパ私をこんな所に連れてきたのかしら? なんかテレビで見たことあるような人もいるし……。」

その時ふと、アリサの視界に自分と同い年ぐらいの金髪の女の子がキョロキョロと辺りを見回しながら何かを探している様子が映し出された。
(どうしたんだろうあの子……?)
気になったアリサは意を決して彼女に話しかけてみた。
「どうかしたの? 何か探しているの?」
「あ、あの……私のお人形が……。」
「お人形?」
女の子の言葉を受けて辺りを見回すアリサ、すると彼女はテーブルの下にドレスを着た女の子の人形が落ちているのを発見する。
「もしかして……これ?」
アリサはその人形を拾い上げて女の子に渡す。すると女の子は先程の沈んだ表情とは打って変わって花が咲いたかのようにぱあっと笑った。
「そうこれよこれ! ありがとう! 貴女って優しいのね!」
「それほどでもないわよ、私はアリサ・バニングス、あなたは?」
「私はルイス・ハレヴィ! よろしくね!」

数分後、すっかり仲良くなったアリサとルイスと名乗った女の子は親睦を深めるため互いの事を語り合っていた。
「へえ! じゃあアリサって日本で暮らしているんだ! 日本ってどんなところ!? 確かユニオン領だよね!」
「そーね……他の国と比べると治安が良くて食べ物が美味しいのがいいかな?」
「いいなー! 私も日本で暮らしたーい! いいよね日本! 将来私日本に留学したいなー!」
(なんだか押しが強いというか典型的なわがままお嬢様って感じね……。)
アリサはルイスに対してそんな印象を持っていた。
「あのね!私今日パパとママに頼んでパーティーに来たの! だって今日のパーティーはあの人が来るんだよ!」
「あの人?」

その時、辺りのパーティー出席者がざわめいた後、ある一点に視線を向けていた。
「? もうあの人が来たのかな……?」
「あれって確か……。」
皆の視線の先にはたくさんの黒服ガードマンに囲まれたアリサ達と同い年に見えるチャイナ服風のドレスにお団子ヘアーの少女が歩いてきた。
(あの子……確か革新連盟の有力者である王家の次期当主と目されている王家の長女の留美様よ。)
(あの若さでなんて貫禄だ、利発そうなお方だ。)
(確か王家には男児も居た筈だが? あの子が当主になるのか?)
出席者達はその少女を見ながらひそひそと内緒話を始める。
「アリサー、あの子って有名人なんだねー。」
「うん、私もパパからよく話を聞いて……あれ?」
その時、アリサの姿を確認した留美が彼女の元にスタスタと歩み寄ってきた。
「これはこれは……アリサ・バニングスさんではないですか、ごきげんよう。」
「え? 私の事知ってるの?」
「はい、貴女の父と私の父が知り合いでして……よくあなたのことも聞かされていますの、それでそちらの方は?」
「私? 私はルイス・ハレヴィです!」
「ルイスさんですか……よろしくお願いします。」
(この子ってなんか固ッ苦しい感じね……相当無理しているのかしら?)
アリサは留美とのやり取りで彼女に対して固い印象を受けていた。そして留美との挨拶もそこそこに、ルイスは時計を見て何やらソワソワしていた。
「それにしてもまだかなー、ママは今日のパーティーにあの人が歌いに来るって言っていたのに……。」
「あら? ルイスさんももしかしてそれがお目当てで? なかなか御目が高い。」
「あの人?さっきから何の話?」
アリサは二人が何を言っているか解らずに首を傾げる?」
「えー? まさかアリサ知らないの!? 今日のパーティーはあの世界的に有名な歌手! フィアッセ・クリステラさんが来るんだよ!」
「あのお方は平和のために数々の戦地に赴いてはその美声を披露しているのです、ああ、一度でいいからお話を……いえ、せめてサインだけでも頂きたい……!」
そういってルイスと留美はいつの間にか取り出していた色紙とペンを持って瞳を炎で燃やしていた。
「フィアッセさん? そっか二人ともあの人のファンなんだ。」

その時、タキシードを着た男がマイクを持ってパーティー会場のステージ上に立ってアナウンスを始めた。
『皆さんお待たせいたしました、只今よりフィアッセ・クリステラ様による歌の披露が御座います、どうぞ御静聴のほうをよろしくお願いします。』
そういってタキシードの男は舞台袖に移動し、代わりに白いドレスを身にまとった二本の触覚のような前髪が印象的な美しい女性が、予め立てられておいたマイクスタンドの前に立った。
「来るよ来るよ……! フィアッセさんの歌が!」
「しっ! 静かに!」
(そっか……そういうこと。)

そしてフィアッセは美しく透き通るような歌声でパーティー会場にいる人々を魅了していった。
(すごい……! かっこいい……!)
(フィアッセ様の生歌……! ああもう死んでもいいですわ……!)
(へー、まえより大分上達しているみたいねー。)


そして歌が終わると、フィアッセ・クリステラは頭をぺこりと下げて舞台袖のほうへ去って行った。
「あああ! 行っちゃう!」
「そんなー! またサインを貰いそびれてしまいましたわー!」
そういってタイミングを逃したルイスと留美は色紙を抱えて深く落ち込んだ。するとアリサはそんな二人の肩をぽんと叩いて慰めた。
「まあまあ二人とも、そんなに落ち込まなくても私が頼んであげるから……。」
「は?」
「貴女何言って……。」

その時会場の片隅でざわめきが起こる、その中心にいたには金髪ポニーテールのボディーガードを連れたフィアッセだった。
「アリサちゃーん、ひさしぶ……。」
その時、彼女の行く手を軍服を着た男が遮った。
「これはこれはフィアッセ・クリステラ様、どうです今夜はこの俺未来のAEUのエースパトリック・コーラサワーと過ごしませんか? いい酒出す店知っt


ドカッ!
バキッ!
ガコッ!
ゴキッ!
メコッ!


次の瞬間、フィアッセをナンパしようとした若き軍人風の男はボロ雑巾と化していた。
「エリス、やりすぎだよー。」
「は……。」
そういってポニーテールのボディーガードはボロ雑巾と化した男を担いでどこかに去って行った。それを確認したフィアッセは改めてアリサ達の下に駆け寄った。
「さてと……久しぶりねアリサちゃん!」
「ええ、フィアッセさんも相変わらず元気そうですね。」
「ちょ!? アリサ!?」
「も、もしかしてフィアッセ様とお知り合いですの!?」
憧れの人と親しく話すアリサを見て目を見開いて驚くルイスと留美。
「知り合いっていうか……友達だよー。」
「フィアッセさんわねー、昔日本に暮らしていてなのはのお店でアルバイトしていた事があるの、その時に知り合ってねー、私も最初はビックリしちゃった。」
「「えええええ!!?」」
アリサとフィアッセの意外な関係にまたも驚く二人。
「そういえば恭也や士郎さんや翠屋のみんなは元気?」
「ええ、士郎さんなんていっつも桃子さんといちゃいちゃしていますよー。」
「そーなんだー、相変わらずなんだねー……よかった。」
そしてアリサとフィアッセは呆気に取られているルイスと留美に昔の出来事を色々と話してあげた、フィアッセが小さい頃、ボディーガードであるなのはの父士郎がテロリストの爆弾から身を挺して彼女を守った事、日本に留学した際士郎の息子恭也に出会い恋に落ちるが、結局同じく彼に恋心を抱いていた忍に譲ってしまった事、今でも高町家とはメールのやり取りをしている事などを……。
「きっとパパもフィアッセさんが来るから私を連れてきたのね。」
「久々に会えて嬉しいよアリサちゃん、なのはちゃんとは仲良くやってる?」
「ええ、この前ちょっとケンカしちゃいましたけど……あの子なんか隠し事しているみたいなんですよねー。」
和気藹々と会話するアリサとフィアッセを見て、ルイスと留美はただただ呆然としていた。
「そうだ! フィアッセさん、この二人フィアッセさんのファンなんだけどよかったらサイン書いてくれません?」
「うん、いいよー、何に書けばいいのかな?」
「じゃじゃじゃ! これに書いてください!」
「わわわわわ私もお願いします!」
そういってルイスと留美は半ば興奮気味にフィアッセに色紙を渡す。
「はいはいっと……これでいいかな?」
フィアッセはキュキュキュと二枚の色紙にサインを書いてルイス達に渡す。そしてその光景を見守っていたアリサは彼女達にある提案をする。
「ねえねえ、ついでだからメールアドレス交換してくれません? 折角知り合ったんですし。」
「私は別に構わないよー。」
アリサの提案にフィアッセはあっさりと頷く、対してルイスと留美は……。
「え!? ホントにいいの!? やたー!」
「そそそそそそそんな恐れ多い! ででででも折角なので……!」
鼻息を荒くして自分達の携帯電話を差し出した。
「よしっと……これでいいかな?」
「それじゃ私はこれで……また連絡頂戴ねー。」
ルイスと留美とのアドレス交換を終えたフィアッセはそのまま次の仕事のためパーティー会場から去って行った。
「忙しいのねフィアッセさん……。」
「やたー♪ フィアッセさんとメル友になるなんて夢みたいー♪」
「アリサさんありがとうございます! まさかフィアッセさんとあそこまで親しくなれるなんて……夢みたいですわ! このご恩は一生忘れません!」
「あはは、大げさよー。」
そしてアリサは今度は自分の携帯電話をルイスと留美に差し出した。
「ねえ、今度は私とメルアド交換しない? 私もあなた達ともっと仲良くなりたいんだー。」
「いいよ! もっと日本の話聞きたいし!」
「私も構いませんわ。」
こうしてアリサもルイスと留美のメルアドを交換してもらい、三人は国境を越えた友人同士となったのだった……。





「へえ、じゃあそのメル友さんも凄いお金持ちなんだー。」
アリサからルイスと留美の話を聞いたなのはとすずかは彼女の交友関係の特殊さに驚いていた。
「そーだ、折角だし二人もルイスと留美に紹介しよっと、ちょっと写真撮るからそこに並びなさい。」
「うん! いいよー。」
「折角だし私達にもルイスちゃんたちのアドレス教えてね。」





それから数分後、スペインのとある豪邸、そこでルイスは自分の部屋ですうすうと寝息をたてて眠っていた。
「んにゅう……?」
そして彼女は自分の携帯電話が振動する音で目を覚ました。
「誰……?まだ朝の六時じゃない……あ!アリサからのメールだ!」


一方その頃、中国大陸にあるとある豪邸、そこで留美はテラスで午後のお茶を楽しんでいた。
「はぁ……フィアッセ様やアリサは元気にしてるのかしら……。」
その時、留美の手元に置いてあった携帯電話が振動し、彼女はそれを手に取る。
「まあ! うわさをすればアリサからだわ! どれどれ……。」



アリサが二人に送ったメールには、なのはとすずかが写った写真が添付されていた。
そしてメールには“いつか再会して皆一緒に遊びましょうね。”というアリサのメッセージも添えられていた……。










本日はここまで、第97管理外世界を“そういった設定”にするかどうかはこの作品の投下を始める前から考えてはいたのですが、それを本当に実行していいのかどうか判断できず今まで複線が張れないでいました、まあ結局当初の予定通りに行こうと決めましたが。

というわけで第97管理外世界は現在西暦2300年、ルイスや留美はなのは達の一個上になります、彼女達は後々重要な役割を担いさせますのでお楽しみに

年が明けたらもう一本短編を投下する予定です。では皆様よいお年を



[22867] りりじぇね! その3「ちょこっと!Vivid!  ~ヴィヴィオの家出~」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:f02fd322
Date: 2011/01/03 22:26
 りりじぇね! その3「ちょこっと!Vivid!  ~ヴィヴィオの家出~」


※この短編は現在展開中の本編から14年経った後のお話です、今後の話の展開のネタバレもちょこっと含まれているので注意してください。















新暦79年、なんやかんやあってシンとフェイトは様々な困難を乗り越えて結ばれ、子供も生まれて海鳴の翠屋の隣に花屋を開業して幸せに暮らしていた。
「ただいまー。」
「お帰りー、今日も沢山仕入れてきたねー。」
「うん、店に並べるから手伝ってくれよ。」
そう言ってバンダナにエプロン姿のシンはトラックから先程仕入れてきた沢山の花を自分と同じような格好のフェイトと共に店に並べていった。
「いやー、今日もいい天気だよなー、ホント海鳴は平和だー。」
「そうだね、何年か前までは外国で大変な事になっていたけど……。」
「まあな……。」
そう言ってシンは手に持ったアロエの花を見つめながら何やら考え事を始める、すると彼の様子を察したフェイトが後ろから抱き締めてきた。
「シン……やっぱりみんなと戦いたいの?」
「うん、少しね……でもそういうわけにもいかないだろう、それじゃ何のために皆が俺達を戦いから遠ざけてくれたのか解らないから。」
そしてシンはフェイトの方を向き、彼女を正面から強く抱き締めた。
「世界を守るのは皆に任せるよ、俺は……フェイトとあの子達を守る。」
「シン……。」
シンとフェイトは互いに抱き合いながら見つめあう、そしてゆっくりと互いの唇を近づけ……。
「おかーさん、ただいまー。」
「まーたアンタ達イチャイチャしてたのかい?」
「うおおおおおおおお!!!?」
「ひにゃああああああ!!!?」
するとそこに金髪に赤い目をした三歳ぐらいの少年と、アルフ(ようじょフォーム)が公園から帰ってきた。
「あ、二人ともおかえりー! いやー花の手入れは大変ダー。」
「私お昼ご飯つくるねー!」
シンとフェイトは必死にごまかそうと先程まで作業をしていたフリをする。
「はっはっは、毎度毎度飽きないねアンタ達―。」
その時、金髪の少年はその場を凍りつかせる信じられない言葉を発する。
「おとーさんとおかーさんまたプロレスごっこしてたの? 今お昼なのに……。」
「「「ッッッ!?」」」


数分後、シンとフェイトは少年にお昼ご飯の食パンを食べさせながら深く落ち込んでいた。そんな二人をアルフは苦笑いしながら見つめている。
「まさか昨晩のアレを見られていたとは……消えたい……。」
「ううう、今度からラウが寝てないかもっとちゃんと確認しないとね……。」
「ラウ、二人がプロレスごっこしてた事は誰にも言いふらすんじゃないよ、自分の胸の中にしまっておくんだ。」
「うん、わかったー、ふたりがばーりとぅーどやっていたのだまってるー。」
そう言ってラウという名の少年は焼いてあるパンに自分でジャムを塗っていた。
「……ラウももう三歳なんだねー、月日が経つのって早いもんだ。」
「来年は幼稚園だもんね、今のうちにどこがいいか調べないと……。」
シンとフェイトは自分達の大切な一人息子であるラウの成長を喜びながら彼を優しく見守っていた。
「一杯食べて早く大きくなれよー。」
「でも食べ過ぎてお腹壊しちゃだめよ。」
「? どっち?」
「好き嫌いするなってことさ。」
その時、彼等の背後に置いてあったベビーベッドから赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
「ふええええええん!! ふええええええん!」
「あらあら、ホリィもお腹空いたんだね。」
「んじゃ俺哺乳瓶持ってくるよ。」
フェイトはベビーベッドからホリィという名前の黒髪の女の赤ん坊を抱き上げる。
「おーよしよし、もうちょっと待っててねー。」
「ほーれホリィー、ミルクだぞー。」
シンは台所から持ってきたミルクの入った哺乳瓶をフェイトに渡しホリィに飲ませる。するとホリィは哺乳瓶の先端にむしゃぶりつき、ピタリと泣き止んだ。
「んく、んく……。」
「おーおー、いい飲みっぷりだ。」
「ふふふ、元気一杯だね……。」
「三年前まではラウもあのベビーベッドを使っていたんだよ。」
「そーなの? 全然覚えてないよー。」
そういいながらラウは妹のホリィのほっぺをプニプニとつついた。

「ごめんくださーい、シン君いますー?」
するとそこに店先のほうからシンを呼ぶ声が響いてきた。
「あの声……美由希さんだな。」
「どうしたんだろ?」
シンとフェイトは不思議に思いながら売り場にやってくる、するとそこには翠屋のエプロンをつけたなのはの姉、美由希と……。
「あれ!? ヴィヴィオ!?」
「お前!? なんでここに!?」
「フェイトママ……シンパパ……。」
ミッドチルダでなのは達と共に暮らしている筈のヴィヴィオがリュックサックを背負って立っていた。
「いやー、それが大変な事になっちゃっててねー。」
「私……家出してきたの。」
「「家出~!!?」」


それから数分後、美由希とヴィヴィオを家の中に招き入れたシンとフェイトは彼女達から事情を聞いていた。
「そっか……じゃあヴィヴィオ、なのは達とケンカしちゃったんだ。」
「うん……。」
出されたお茶をずずずと啜りながらヴィヴィオは元気なく下を向いていた。
「学校のテストで悪い点取っちゃって……それを隠していたらママ達に見つかっちゃって……それで言い争いになってそのまま……。」
「それで次元航行船に乗って海鳴まで? いくらなんでも無茶苦茶だぞ。この世界の連邦政府がコズミックイラ政府と連合条約を結んだのはつい最近だっていうのに……。」
「だってティアナやスバルやエリオやキャロ達はお仕事で忙しいし、八神家の皆はお仕事でドモンさん達のところに行っているし、チンク達の所や聖王教会だとすぐに連れ戻されるだろうし……。」
「なるほど、それで私達のところに来たのね。」
話を一通り聞いたところで、シンとフェイトははぁっとため息をつく。
「一応母さんがなのはの所に連絡を入れておいたから、明日には向かえに来ると思うよ。」
「それじゃ今日はどこかに泊めてあげないと……しょうがない、今日はうちに泊まっていくか?」
「はい……お願いします……。」

こうしてヴィヴィオはなのは達が迎えに来る明日まで、シン達の家に泊まる事になった。





とある学校の校庭、そこに肩にオコジョを乗せた赤髪眼鏡っ子女子中学生が、人間の骨のような模様がプリントされた黒タイツの戦闘員に取り囲まれていた。
「くっくっく……追い詰めたぞ魔法ライダー! 今日でお前も年貢の納め時だ!」
「「「「「イー!!!」」」」」
「やっべえぞ姉御! コイツは罠だったんだ!」
オコジョはおろおろした様子で眼鏡っ子に言葉をかける、すると眼鏡っ子はにやりと口元を吊り上げて笑った。
「大体わかった……つまりいつもどおり変身してコイツ等をぶっ飛ばせばいいってわけね!」
「ああ! 大体いつもどおりだ!」
「おにょれ~! そうやすやすといつもどおりやられてたまるか! お前達! やれー!」
頭に一本角を生やした隊長格の男が部下達に指示を送る、対して眼鏡っ子は腰にベルトを巻きつけ、へその部分にあるバックルに“魔”とかかれたカードを装填する。
「魔法変身!」
[チェンジ ハリセンフォーム]
すると眼鏡っ子は光に包まれ、フリフリしつつも動きやすそうなマゼンタのドレスに身を包み、手には自分の身長よりも大きいハリセンが握られていた。
「魔法ライダーツカサ! さあ……お婆ちゃんの名に懸けてあなた達を倒します!」
そう言って眼鏡っ子はハリセンを振り回し、戦闘員達を次々と吹き飛ばしお星様にしていく。
「今日こそ決着をつけるわ! 諸悪の根源闇魔法評議会! おんどりゃああああ!!!!」





「……ラウ君、何見てるの?」
ヴィヴィオはテレビに映る夜七時に放送されているアニメをかじりつくように見ているラウに声をかける。
「おねーちゃん、このアニメ知らないの?」
「うん、ミッドではやってないよ。」
「これはねー、“魔法ライダーツカサ!”って言ってねー、普段は中学生の女の子が行方不明のおかーさんを探すため魔法ライダーに変身して数々の次元世界の征服をたくらむ悪の組織と戦うって話なんだよー、面白いよー。」
「そ、そうなんだ……。」
「でねでね、魔法ライダーは31種類のフォームに変身できるんだよー、さっきのハリセンフォームでしょ? くのいちフォームでしょ? ジャーナリストフォームでしょ? 漫画家フォームでしょ? 吸血鬼フォームでしょー!」
「す、すごいねー。」
目の前のヒーローを熱く語るラウの気迫にヴィヴィオは少々気圧されていた。
するとそこに閉店作業を終えたシンが二人の下にやって来た。
「こらラウ、おもちゃを散らかしちゃダメじゃないか、ちゃんと片付けるんだぞ。」
「はーい。」
そう言ってラウは先程テレビに映っていたヒーローのソフビ人形をおもちゃ箱に入れていく。
「よしよし、良く出来たぞ、いい子だ。」
「えへへー。」
言う事をちゃんと守りおもちゃを片付けたラウの頭をシンは優しく撫でてあげた。
「…………。」
ふと、シンはヴィヴィオが寂しそうな目でこちらを見ていることに気付き、彼女に話しかける。
「……? どうしたヴィヴィオ?」
「う、ううん、なんでもないよシンパパ。」
「たーうー。」
するとそこに今度はおしゃぶりを銜えたホリィがハイハイしながらヴィヴィオ達の下に近付いてきた。
「あああ! ダメだよホリィ! これからお風呂に入るんだから!」
すると今度は体にバスタオルを巻いただけの姿のフェイトが駆け寄ってきた。
「だー。」
「もう、逃げちゃダメだよ。」
そして息も切れ切れにホリィの首根っこを掴み上げて捕らえる、その様子をシンは苦笑いしながら見つめていた。
「はははは、ホリィも元気一杯だ、そうだ、ついでだからヴィヴィオも一緒に入ったらどうだ?」
「えっと……じゃあお言葉に甘えて……。」


それから数分後、ヴィヴィオはフェイトとアルフとホリィと共に浴室で湯船のお湯に浸かっていた。勿論裸で。
「ヴィヴィオと一緒に入るのって久しぶりだね、前よりちょっと大きくなったんじゃない?」
「そうかなー? 自分じゃ全然解らないけど……。」
「だぁー。」
「ほれほれ、こうやってネジを回すと……ほーら泳いだー。」
フェイトとヴィヴィオが世間話をしている間、ホリィはアルフと共に湯船の上に浮かぶアヒルのおもちゃと戯れていた。
「…………。」ブクブクブク……
「? どうしたのヴィヴィオ? 湯船に顔なんて沈めちゃって……。」
ふと、フェイトはヴィヴィオの様子がおかしい事に気付き、彼女に話しかける。
「……フェイトママ、私……なのはママに嫌われちゃったのかな?」
ヴィヴィオは胸の内に溜まったものを吐き出すかのように思い切ってフェイトに自分の悩みを打ち明けた、それは……ケンカをしたなのはのことだった。
「どうして? なのはがヴィヴィオの事キライになるはずないよ。」
「でも……私悪い点のテスト隠して、あまつさえケンカしちゃって、挙句には家出しちゃったんだよ? 嫌われちゃったに決まってるよ……。」
「……。」
「ちゃー。」
フェイトは何も言わず、ホリィはアルフに任せてヴィヴィオの話を聞いていた。
「ホントはね……私が全部悪いの、ママ私に『子供だからまだ早い』ってデバイスもくれないし、実は学校でも友達とケンカしてちょっとイライラしていて……それで怒られた時にカッとなって言い争いになった時つい言っちゃったの、『本当のママじゃないくせに偉そうなこと言わないで!』って、そしたらママ……泣き出しちゃって……。」
「あらら……。」
「それで……ママの泣き顔みたら私も悲しくなっちゃって……その場に居辛くなって家を飛び出しちゃったの……。」
一部始終を話し終えたヴィヴィオはいつの間にか嗚咽交じりに泣いていた。
「どうしよぉ、私ママに酷い事言っちゃったよぉ……もう私ママの子じゃ無くなっちゃったよぉ……。」
「……はぁ、しょうがないね。」
するとフェイトは泣きじゃくるヴィヴォオをそっと優しく抱き締めた。
「フェイトママ……?」
フェイトの豊満な胸(子共産んだ事により普段よりさらに増量)に顔を半分埋めたヴィヴィオは涙目でフェイトを見上げる。
「なのはがヴィヴィオのこと嫌いになるはずないよ、だってなのははヴィヴィオの事大好きなんだよ。」
「でも……私……。」
「それにね、ヴィヴィオは知らないかもしれないけど……昔ヴィヴィオがスカリエッティに攫われた時、なのは自分を責めて私の前で泣いちゃったことがあるんだ、それだけ……ヴィヴィオのこと大切に思っているんだよ。もちろん私も、シンも、それに他のみんなもヴィヴィオを助けるために必死に戦ったんだよ。」
「そうなのかな……?」
「絶対そうだよ、家族の絆は血が繋がっているかどうかだけじゃない、そんな簡単に壊れるものじゃないんだよ、私はそんな人達と沢山出会ってきたから解る。」
「うん……。」
「私も謝るの手伝ってあげるから、ね?」
そしてヴィヴィオはフェイトの背中に手を回しぎゅっと彼女を抱き締めた。
「ありがとう、フェイトママ……。」


その頃シンは携帯電話で電話をかけていた。相手はなのはの旦那さんである。
『それじゃヴィヴィオはそっちで元気にしているんだね?』
「ああ、今フェイトと風呂に入ってる、しっかしまあ大変だったなあ。」
『うん、僕はその時仕事で家にいなくて……帰ったらヴィヴィオがいないしなのはには泣き付かれるしもうてんやわんやだったよ。』
「まったく……しっかりしてくれよ、お父さん。」
『はは……君には敵わないなあ、でも懐かしいね、ケンカといえば僕等が機動六課にいた頃、君もフェイトもヴィヴィオの教育方針を巡って大喧嘩したよねー。』
「ううっ!? そんな昔の話蒸し返さないでくれよ……。」
『でもそれから十ヶ月ぐらいだっけ……ラウ君が生まれたの、いやーヴィヴィオはまさにコウノトリさんだよね。』
「すみませんマジ勘弁してください。」
『ふふふ、じゃあ明日、なのはと一緒に迎えに行くから。』
「ああ……桃子さん達と一緒に待っているよ。」


その日の夜、夕飯を終えて就寝時間を迎えたアスカ一家はヴィヴィオと共に川の字で寝ようとしていた、ちなみに左からフェイト、ホリィ、アルフ、ヴィヴィオ、ラウ、シンの順番である。
「ヴィヴィオと一緒に寝るの久しぶりだね。」
「だねー、機動六課にいたとき以来かなー。」
「たーうー。」
「ほらほら、ホリィももう寝ような。」
その時、ラウは隣いるヴィヴィオの目がちょっと腫れている事に気付いた。
「……? ヴィヴィオおねーちゃんどうしたの? 泣いたの?」
「う、うん……お風呂場でちょっと……。」
「そうなんだ……おーよしよし。」
そう言ってラウは自分がいつもシンやフェイトにされているようにヴィヴィオの頭を優しく撫でてあげた。
「もう泣くのはおよし、僕が守ってあげるからねー。」
「あ、ありがとうラウ君……。」
頭を撫でられたヴィヴィオの顔は心なしか赤くなっていた。
「さっそく六つ上の子とフラグ立てているねぇ、さすがシンの子だ。」
「おいおい人をプレイボーイみたいに言うな、俺は昔からフェイト一筋だ。」
「それに気付くまで随分と時間かけたよね……それまで私がどんな思いをしてどれだけの女の子を泣かせたと思ってるの?」ゴゴゴゴ
「お母さんなんかこわーい。」
「ふえーん!」

そんなこんなでアスカ一家+ヴィヴィオの夜は更けていった……。



次の日の朝、アスカ家の花屋の前に一台の車が止まり、その助手席からなのはが飛び出してきた。
「し、シン君いるー!? ごめんくださーい!」ドンドンドンドン
「落ち着け! 近所迷惑だろうが!」
シャッターをドンドン叩くなのはを店の方から出てきたシンが諌める。
「しししシン君! ヴィヴィオはどこ! ヴィヴィオは!?」ブンブンブン
なのははシンの姿を見るや否や彼の首根っこを掴み縦にブンブンと揺らした。
「あばばばば! お、落ち着けー!」
シンはいい具合に頭の中の脳みそがシェイクされて気を失いそうになるが、ぎりぎりのところで留まっていた。
「ヴィヴィオならこっちだよ、なのは。」
するとシンの後ろからホリィを抱いたフェイトがやってくる、そして彼女の背後には……ヴィヴィオが顔をのぞかせていた。
「ヴィ、ヴィヴィオ……。」
「ママ……。」
ヴィヴィオはモジモジしながらなのはの前に立つ、彼女の目には沢山の涙が溢れていた。
「ママ……ごめんなさい、酷い事言っちゃって……ヴィヴィオ、ママのこと大好きだよ!」
そしてそのままヴィヴィオはなのはに抱きついた、対してなのはもヴィヴィオをギュッと抱き締めてあげた。
「いいの、もういいのヴィヴィオ、私は怒ってないよ、ごめんね……私も言いすぎたよね……。」
「ママ! うわーん!」

そんな二人の様子をシンやフェイト、そして後から来たアルフやラウは暖かく見守っていた。
「ヴィヴィオおねーちゃん仲直りできたんだね!よかったー。」
「そうだね、よかったよかった……。」
すると車の中から今度はなのはの旦那さん、つまりヴィヴィオの父親が出てきてシンの元に近づいてくる。
「ありがとう……ごめんね、ヴィヴィオを預かってもらって。」
「別にいいんですよ、それよりアンタも二人の下に行ってあげたらどうです?」
「うん、そうさせてもらうよ。」
そしてなのはの旦那さんも、大泣きしている二人の下に向かっていきそのまま抱き締めてあげた。
「……あの2人も親らしくなったなぁ。」
「そうだね、なのは達ならこの先どんな困難でも乗り越えられるよ、勿論……私達もね。」
そう言ってフェイトはシンと額同士をコツンとくっつけて互いの絆の再確認の儀式のようなものを行った。

するとそこに翠屋のほうから士郎、桃子、美由希がエプロン姿で現れる。
「どうやらちゃんと仲直りできたみたいだね。」
「それじゃ仲直りの印に……みんなで焼きたてのケーキを食べましょうか。」
「シン君たちもどう? 沢山作ったんだよー。」
「それじゃお言葉に甘えて……。」
「わーいケーキだー! ヴィヴィオおねーちゃん早くいこー!」
「う……うん。」
そう言ってラウは涙を拭ってるヴィヴィオの手を取り翠屋に入っていった。
「それじゃ……俺達も行きますか、久しぶりに色々話を聞きたいし……。」
「そうだね、それじゃ行こうか。」
そして二人の親達もまた、思い出が沢山詰まっている翠屋に入っていくのだった……。










本日はここまで、正月帰省中に家族の顔を見て思いついて書いたネタです。原作Vivid第一話のちょっと前くらいの話になるでしょうか。
なのはの旦那さんは一応まだ秘密です、大体察知している人もいるでしょうが……。




[22867] Lyrical GENERATION STARGAZER プロローグ「霙空の星」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/20 20:32
※Lyrical GENERATION 1st の続編です。基本的なルールは前作と変わりません。
それではプロローグからどうぞ。





プロローグ「霙空の星」


海鳴市で暮らす八神はやてはその日、図書館で何冊か本を借りた後に車いすに乗って帰宅しようとしていた。
「うーん……借り過ぎてしもうたかな、ちょっと重いなぁ……。」
膝に乗せている何冊もの本の重みに耐えながらはやては車いすを押す、そして彼女は海沿いにある遊歩道に通りかかっていた。
「もう五月なんやな……まだ海では泳げへんか。」
そう言ってなんとなくはやては海のほうを見る、そして……ある異変に気付いた。
「あれ……? なにしているんやあの人……?」
彼女の視線の先には、波打ち際でぐったりとしている黒いシャツに迷彩柄のズボン、そして銀髪を坊主刈りにした12、3歳ぐらい少年がいた。
「ま、まさか溺れて……!? こらアカン!」
はやてはすぐさま彼のもとへ自分が乗っている車いすを動かし、意識があるかの確認の為声をかける。
「(外人さんかな?)どないしたんやあんさん! 大丈夫かいな!?」
「…………。」
少年は返事を返さなかった、よく見ると彼の体にはいたるところに血痕が付着していた。
「うわわ!? 早く救急車よばへんと……!」
少年の命の危機を察知したはやてはすぐさま携帯電話で救急車を呼んだ……。




数分後、はやては救急車に乗せられた少年に付き添い、自分が通っている海鳴大学病院にやって来ていた、そして彼が眠る病室で知り合いの石田医師から彼の容体について聞いていた。
「石田先生……あの人どうなったんですか?」
「安心して、命に別条はないみたい……はやてちゃんが見つけてなかったら大変なことになっていたわね。」
「そうですか、よかった……。」
ほっと胸を撫で下ろすはやて、その時……ベッドに横たわっていた少年が目を覚ました。
「う……ううう……?」
「あ、目を覚ましたのね。」
「大丈夫ですか……?」
少年は目を覚ましてはやてと石田の姿を見ると、首を傾げて彼女たちに質問する。
「あんた達は一体……ここはどこだ……?」
「ここは海鳴大学病院、君……海辺で倒れていたんだって、はやてちゃんに感謝しなさいよ、彼女が救急車呼んでくれたんだから。」
「はやて……?」
少年は自分の傍らにいる車いすの少女を見つめる。
「海で倒れていた……? それは本当なのか?」
「え、ええ……そうですけど。」
「君、自分の名前はわかる? ご両親に連絡しないと……。」
すると少年は頭を抱えて必死に何かを思い出そうとする、そして……汗を垂らしながら石田に向かって答えた。
「俺の名前はスウェン・カル・バヤン……だと思う、家族はわからない……。」










それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が世界を平和へ導く戦士として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。


少女は願いました、今ここにある幸せが、いつまでも続いてほしいと。

騎士たちは願いました、自分たちに温もりをくれた少女が、いつまでもいつまでも幸せになってくれることを。

魔導書は願いました、いつか……自分も少女や騎士達と一緒に、幸せな時を過ごすことを。



少年は願いました……彼女達の切なる願いを叶える為の力を得ることを。



君たちに聞かせてあげよう……二番目の物語は、やがて黒き機械人形を駆る少年が、心優しい少女たちと出会い、幼い頃失ってしまった宝物を取り戻す物語。





“Lyrical GENERATION STARGAZER” 始まります。










本日はここまで、次回はヴォルケンズ登場までの話を描く予定です。
ストライクノワールはガンダムの中でもトップクラスに入るほどのカッコよさ、異論は認めない。
なんでエクストリームVSやガンダム無双3に出ないんだ……あと第二次Zも……。



[22867] 序章1「新しい生活」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/23 19:47
序章1「新しい生活」


はやてがスウェンと出会った数日後、彼女は彼を自分の家に招き入れていた。
「ここが私の家や、二階に空き部屋があるから好きに使ってええよ」
「ああ、すまない……」
スウェン・カル・バヤンは自分の名前以外の記憶を失っていた、故郷のことも、家族のことも、自分自身のことも……。
一応石田医師が警察に彼の身元の割り出しを頼んでいるのだが成果は上げられず、スウェンの帰るところは見つかることはなかった。
「それなら私のうちに来ます? 記憶が戻るか家の人が見つかるまで居てもええですよ」
そんなスウェンの状態を見かねて、はやては彼を自分の家に招き入れたのだ。怪我が治っているうえに無一文なのにいつまでも病院に世話になる訳にもいかない、そう考えたスウェンは石田医師の勧めもあり彼女の申し出を受け入れた。

(こんな得体のしれない奴を簡単に受け入れるとはな)
そんなことを考えながら、スウェンは空き部屋にポツンと置かれていたベッドに寝転がった。
一体自分は何者なのか? なぜ海辺で倒れていたのか? そんな考えがスウェンの頭を駆け巡っていた。
「スウェンさーん、ちょっとええか?」
するとそこにメジャーを持ったはやてがスウェンのいる部屋に入ってきた。
「どうかしたか?」
「スウェンさん服それしか持ってへんやろ? これから着替え買いに行くからちょっと測らせてー」
「いや、そこまでしなくても……」
「ええんよ、それ一着じゃ今後いろいろと不便やろ? ほら腕をあげて」
「……」
スウェンは言われるがまま両腕を上げ、はやてに自分のスリーサイズを測らせる。
「うわっ、スウェンさんってがっちりしとるなー、なんかスポーツでもやってたんかいな?」
「さあ……思い出せん」
そしてはやては測り終えると、車いすに座りなおして部屋を出ようとする。
「それじゃ私、買い物に行って……あれ?」
ふと、はやては車いすの車輪を壁にひっかけてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってえな……んしょ、おいしょ……」
「……」
脱出に悪戦苦闘するはやて、その姿をみたスウェンはすっと彼女の車椅子に手をかけた。
「スウェンさん?」
「スウェンでいい、買い物に行くんだったな、俺も一緒に行こう……自分の服は自分で選ぶ」
「ふふふ……それもそうやな」



数時間後、買い物を終えて帰宅したはやては、買ってきた食材で夕飯の支度を始める。
「それじゃスウェンは待っててえな、今支度するから……」
「ああ」
夕飯の準備ははやてに任せ、スウェンは居間に置いてあるテレビのスィッチを点ける、そしてテレビに映る画面をぼーっと見ながら、先日石田医師に言われたある言葉を思い出していた。

『はやてちゃんはね……幼いころ両親が亡くなって、今は父親の友人のグレアムさんって人からの援助を受けながら一人で暮らしているのよ』

(あの齢で一人暮らしか……)
自分より少し年下であるはやての普通じゃない身の上を知って、スウェンは半ば複雑な思いをしていた。

『だからこんなことあなたに頼むのもおかしいかもしれないけど……しばらく彼女と一緒にいてほしいのよ、ほんとはあの子も誰かに甘えたい年頃だろうし……』

(俺にそんな役が務まるのか? 自分のことすらわからないのに……)

『私の勘じゃあなたは悪い人じゃなさそうだしね、でもはやてちゃんに変な事したら……後はわかるな?』
(…………。)
その時の石田医師の周りには、なぜかゴゴゴゴゴという威圧感たっぷりの効果音が鳴っていた。

(まあ記憶が戻るまでの辛抱か……)

「スウェン、ごはんできたでー」
するとスウェンのもとに二人分の食事を乗せたトレイを持ったはやてがやってくる。
「ああ、ありがとうはやて」
「冷めないうちに食べよかー、スウェンに合うかなー?」



それからスウェンははやてと共に、心穏やかな生活を毎日満喫していた。二人の間には初めて出会ったときのタドタドしさは無くなり、何年も前から一緒にいる家族のような関係になっていた。


そして6月3日、二人が出会ってから10日程経った頃に事件は起こった。

その日、スウェンはケーキが美味しいと巷で噂の喫茶店に一人で向かっていた。
「ここか……喫茶店翠屋というのは」
一言つぶやいた後スウェンは店の扉を開く、するとカウンターにいた店のマスターとその妻らしき女性がスウェンに気付いた。
「いらっしゃいませー」
「すみません、バースデーケーキが欲しいんですけど……後ロウソクも」
「はいはいちょっとお待ちを……ロウソクは何本にします?」
「9本で……」
スウェンは以前、石田医師から6月3日がはやての誕生日だということを教わっており、世話になっている礼の意味も込めてバースデーケーキを買いにきたのだ。
そしてマスターがバースデーケーキを用意している間、その妻らしき女性がスウェンに声を掛けてきた。
「弟さんか妹さんのお誕生日ですか? 9歳ってことはうちの一番下の娘と同い年なんですよー」
「妹……確かにそんな感じですね」
それ以外にどう見えるんだろう? 恋人か? まあどうでもいいかとかスウェンが考えているうちに、可愛くラッピングされたバースデーケーキが彼に手渡された。
「はい、3150円になります」
「じゃあこれ……ありがとうございました」
スウェンはお金を払って一礼し、そのまま翠屋を出て八神家に帰っていった……。


「……あの子、ずいぶんと鋭い空気を纏っていたな、軍人か?」
「やだ貴方ったら、そんなわけないでしょう……それよりもうすぐなのはが帰ってくる時間だし、お昼ごはんの準備をしましょう」


その日の夕方、スウェンは先程翠屋で買ったケーキを冷蔵庫に入れる。
「スウェン、さっきのケーキはもしかして……」
「ああ、バースデーケーキだ、はやての誕生日は明日だろう?」
「ありがとう……明日は御馳走作ったるでー」
そう言ってはやては鼻息をふんと鳴らして夕飯の支度を始めた……。


数時間後、スウェンは自室のベッドで寝転がりながらはやてから借りたファンタジーものの本を読み耽っていた。
「ふむ……まあこれも面白くはあるが……それだけだな」
スウェンは本をポンと放り出すと、天井を仰ぎながら考え事を始めた。
(一体俺は何者なんだ? なんであんな所で倒れていたんだ? わからん……)
そうしてグルグルと頭の中で考え事をしていたスウェンは、ふと部屋に掛けている時計の針がもうすぐ夜中の12時を指そうとしている事に気付く。
「もうこんな時間か、もう寝るか……」


ドクンッ


「!?」
その時スウェンは自分の胸で何かが蠢くのを感じ、ベッドから起き上がった。
「なんだ今の感じは……!? はやて!」
イヤな予感がしたスウェンは考えるより早くはやての部屋に向かった。

「はやて! ……?」
そしてはやての部屋に駆け込んだスウェンが見たものは、ベッドの上で困惑しているはやてと、彼女に向かって跪いている黒い衣服を見に纏った妙な四人の男女の姿だった。
(なんだこいつら? 強盗か?)
その時、四人の男女のうちの一人……ピンク色の髪をポニーテールで纏めた女性がスウェンの存在に気付く。
「むっ……!? 貴様何者だ? 主の関係者か?」
「主……? お前らこそ何者だ? 強盗か何かか?」
スウェンはとっさに鉛筆をポケットに忍ばせながらいつでも戦えるよう構える、その姿を見て女性や後ろにいた金髪の女性と犬耳を付けた男性は心の中で感心していた。
(ほう、この少年中々できる……)
(油断しちゃ駄目よ、あの子隙を見て私達に攻撃を仕掛けるつもりよ……)

部屋に立ちこめる緊張感、その時……四人組の最後の一人、赤い髪を二本の三つ編みで纏めた少女がはやてのベッドの上に乗って話しかけてきた。
「おい……こいつ気絶してるぞ」
「「「「は?」」」」
見るとはやては突然現れた四人組に驚いたのか、目を回して気絶していた。
「はやて!!?」
スウェンはすぐさまはやてに駆け寄り、彼女に意識があるかどうか確認する。
「いかんな……すぐに病院に連れていかないと」
「お、おい……」
「話なら後にしろ!」
そう言ってスウェンは気絶しているはやてを抱えて部屋を出て行った。四人組はとりあえず放置して……。
「……なあどうする?」
「とりあえず私達も付いて行ったほうがいいかな……?」



それから一時間後、スウェンとはやて、そしてあの四人組は海鳴大学病院の病室にいた。
「よかったわはやてちゃん……なんともなくて」
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
スウェンはお礼の意を込めて石田医師に深く頭を下げる。
「ううんいいのよ……それよりあの人達は? 6月とはいえあんな格好で……」
石田医師の視線の先には、先程突然現れた背格好に関してはバラエティー豊かな四人の男女が立っていた。
「俺にもよく……」
「ああ、あの子達ですか? 実は私の外国に住んでいる親戚で……私の誕生日の為にサプライズで来てくれはったんですよ」
はやてのとっさの説明に石田医師とスウェンは首を傾げる。
(親戚……? そんな話聞いた事がないが……)
「そうなの? そこのアナタ?」
石田医師は確認の為ピンクのポニーテールの女性に話しかける、すると女性は真顔で
「はい、その通りです」
と答えた。


次の日、特に異常は見られなかったのですぐに退院したはやては、早速連れ帰った四人から事情を聞く。
「闇の書の主? 私が?」
「はい、闇の書の完成……それが我らヴォルケンリッターに課せられた使命なのです」
そう言って四人組のリーダー格、ピンクのポニーテールの女性……シグナムははやてに向かって跪いた。彼女の話でははやては“闇の書”と呼ばれる魔導書の主に選ばれ
「あかんあかん、闇の書ってアレなんやろ? 他人のリンカーコアを奪わなきゃアカンのやろ?」
「え? あ、まあ……」
「そんな人様に迷惑掛けるような事したらあかん、それにしてもそうやなあ……アンタら目覚めたばっかで行くところが無いんやろ? ならアンタらの衣食住のお世話をするのがマスターである私の役目やー」
「「「「は?」」」」
はやての予想だにしない発言に、ヴォルケンリッターの面々は目を点にする。
「そうと決まればスウェン、私が寸法測るからメモってー」
「俺が測る方がいいんじゃ……? 車いすに乗りながらじゃやりにくいだろ」
「やんエッチ、女の子に触りたいん?」

んでもって数時間後、ヴォルケンリッターの面々は先程買って来た服を着てはやてに見せていた。
「これで外に出ても怪しまれずに済むな」
「似合っとる似合っとる、それじゃ私夕飯の準備しとるからー」
そう言ってはやては台所に向かう、そしてその場に取り残されたヴォルケンズは一か所に集まって話し合いを始めた。
「なあ……今回の主をどう思う?」
「どうって言われてもねえ……こんなリアクションされたの初めてだから……」
シグナムの言葉に金髪の女性……シャマルは困惑した様子で溜息をついていた。
「なんだお前ら、はやてのどこが嫌なんだ?」
「お前……普通に私達の会話に入ってくんなよ」
そう言って三つ編みの少女……ヴィータは狼形態に変身している犬耳の男……ザフィーラの顎をモフモフしながら会話に入って来たスウェンにツッコミを入れる。
「俺もはやての行動には少し驚かされたが……悪い気はしない、お前達だってそうなんだろう?」
「まあ……そうだけど」
「我々はずっと戦い続けていたからな、平和な暮らしに馴染めるかどうか……」
「戦い続けて……。」
スウェンは何か心に引っ掛かる事があったのか深く考え込む、その様子に気付いたザフィーラは彼に気遣いの言葉を掛ける。
「どうした? そんな難しい顔をして……」
「いや、何か思い出せそうだったんだが……まだ何か足りないみたいだ。」
「思い出す? なんだ、記憶喪失か何かか?」
「まあそんな所だ、俺にもよくわからんが」

するとそこに夕ご飯を作り終えたはやてがやってくる。
「ご飯やでー、今日はみんなの歓迎会やから腕によりをかけたでー」
「お前の誕生日でもあるだろう……ホラ行くぞ、ケーキも買ってある、ちょうど六等分できるな」
「ケーキ!?」
スウェンが言い放った“ケーキ”と言う単語に、ヴィータは目をギラつかせる。





その日はやては人生で最も楽しくて賑やかな誕生日をすごしたそうな……。










はい、今日はここまで、今回は全三回の序章の一本目をお送りいたしました、次回はリメイク前の作品を知っている人ならお馴染みの、あのオリキャラが登場する予定です。



[22867] 序章2「再会する運命」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/24 20:32
序章2「再会する運命」


スウェンやヴォルケンリッターの面々がはやての家にやって来てから一か月以上経ったある日、スウェンはヴィータと狼形態のザフィーラと共に海鳴の街を散歩していた。
「いやー、最近暑くなってきたなー」
「そうだな、俺達がここに来た時より暑い」
スウェンはザフィーラを繋ぐ綱を握りしめながら汗で濡れる顔を腕で拭った。
「それで今日は何買えば良かったんだっけ?」
「確かカレーと言っていたな……」
「カレーかー!はやての作るカレーはギガうまだから楽しみだー!」
そう言ってヴィータは空の買い物かごをブンブン振って喜びを露わにする。それを見たスウェンはヴィータと初めて会った時の事を思い出していた。
(初めて出会った時は無愛想な奴だと思ったが……年相応の顔も出来るんだな)
そんな事を考えていると、そのスウェンの視線に気付いたヴィータが睨みつけて来た。
「なんだよ、私の顔に何か付いているか?」
「いや……可愛い奴だなと思って……」
「可愛い!?」
その瞬間ヴィータは顔を真っ赤に染め、スウェンに近付き膝の裏に向かってローキックを繰り出す。
「てめえ! そういう恥ずかしい事言うな!」

ヒョイ

「コラ避けるな! くっそー! すずしい顔しやがって!」
そしてヴィータはプンプン怒りながら再びスウェンの前を歩き始める。
「……? 何でヴィータは怒っているんだ?」
「アレは照れ隠しだろう、気にするな」
「そうか……」
ザフィーラに言われて納得したスウェンははやてから貰ったメモを取り出し、まずどこへ買い物に行くか確認し始めた……。


それから一時間後、買い物を終えた三人は公園へ行き一旦別行動をとる事にした。
「私らここでじいちゃん達とゲートボールして帰るから、先帰ってはやてに買った食材を渡しておいてくれ」
「わかった、夢中になりすぎて遅くなるなよ?」
そう言ってスウェンは公園にヴィータとザフィーラを置いて一足先に家路についた、この一カ月弱の間、ヴォルケンリッターの面々は近所の住人達とすっかり仲良くなっており、ヴィータは近所の老人たちとゲートボールに興じる程の仲になっていた。

そしてスウェンが一人で帰宅途中でのこと……。

「フー! シャー!!」
「うわ~! やめろッス~!」

「ん? なんだ今の声は……」
スウェンは誰かが叫び声をあげているのに気付き、気になって声がした路地裏を覗き込む、そこには……。

「にゃー! ふしゃー!」
「これはオイラのパンッス! 誰にもやらねえー!」

「……妖精?」
体長30センチほどの黒いボサボサの髪に褐色の肌、そして金色の瞳をした少年が数匹の猫とコッペパンの取り合いをしていた。
(どう見ても妖精……だよな? しゃべる犬もいるしこの世界では珍しくないのか?)

「にゃー!」
「お、お前ら! 大勢で寄ってたかって卑怯ッス! ああダメそこだけはー!」
「ペロペロぺロ」
「く、悔しい……! 猫なんかに! でも(ry」

「なんかよくわからんが助けるか……」
スウェンは近くに落ちていた空き缶を拾いあげ、妖精っぽい何かを襲っている猫達に軽く投げつけた。
「ふにゃーん!」
「その辺にしとけ、毛皮にするぞ」
すると猫達は蜘蛛の子を散らすように逃げていき、後には妖精っぽい何かがぐったりして倒れていた。
「おいお前、大丈夫か?」
「も、もうお婿に行けない……ガクッ」
「……なんか頭のほうが重症らしい、さてどうするか……このままにしておくのも寝ざめが悪いしな」
そう言うとスウェンは妖精っぽい何かをつまみあげた。


数十分後、スウェンは買い物袋を引っ提げて八神家に帰ってきた。
「おかえりースウェン」
「はやて……シグナムとシャマルは今どこに?」
「居間でテレビ見とるよー」
家の中の観葉植物の手入れをしているはやてに教わった通り、居間にいるシグナム達のもとに向かうスウェン。
「二人とも……実は相談があるのだが……」
「ん? どうした?」
「スウェンが頼みごとなんて珍しいわねー」
そう言ってシグナムは剣の形をしたデバイス……レヴァンティンの手入れをしながら、シャマルはそのレヴァンティン用の使い捨て強化パーツであるカートリッジを作成しながらスウェンのほうを見る。
「これ……なんだかわかるか?」
スウェンの差し出した手には先ほど確保した妖精っぽい何かが乗っていた。
「うーんむにゃむにゃ……もうスッカラカンだよう……」
「ぬわっ!? なんだこのナマモノは!?」
「人型のユニゾンデバイスかしら……? スウェン、これをどこで?」
「路地裏で猫の唾液まみれになっているところを……」
「何? 何の話―?」
すると騒ぎを聞きつけたはやてがスウェン達の話に入ってくる、そして彼女の視界に妖精っぽいなにかが入ってきた。
「何コレフィギュア? スウェンにそんな趣味が……。」
「いや、一応生物だぞコレ」
そういうとスウェンは妖精っぽい何かの頬を指でツンツンつつく、すると妖精っぽい何かは目を覚ました。
「ううん……? ここはどこ? オイラは佐○健?」
「何言ってんのこの子?」
「うわー! ホンマもんの妖精や!」
はやてはまるで子犬を見るような眼で妖精っぽい何かの頭を撫でる。
「……? あんた等誰?」
「お前の命の恩人と……まあ同居人だ」
「んー?」
妖精っぽい何かは頭を傾げるとスウェンのほうを向く、そして……目を見開いて驚いていた。
「……………………マジかよ」
「何がマジなんだ?」
「あ、いや……なんでもないッス~」
「お前はいったい何者だ? 見たところデバイスのようだが……」
「デバイスってアレかいな? シグナムが持っているソレ?」
はやての疑問にシャマルが代わりに答える。
「はやてちゃん、デバイスって言っても色々あるのよ、この子はそうね……ユニゾンデバイス……かな?」
「我々もあまり見たことがないタイプですね……」
「うーん……オイラもそこんところはわからないッス、生まれたばっかりなんで……」
「「「「?」」」」
その妖精っぽい何かの言葉に、スウェン達は頭に?マークを浮かべる。
「オイラ生まれてからずっと眠っていたんス、それで最近目が覚めて、気付いたらこの町にいて、とりあえず生きるために今日までがむしゃらに生きてきたッス……だから自分のことはさっぱりわからないッス、“ノワール”っていう名前以外は……」
「ノワール……」
「うーん、それやと自分の家もわからんのか?」
「へい……」
そう言ってスウェンの手の上でシュンとするノワールを見て、はやてはある決意を固める。
「しゃあない、ノワールがスウェンに助けられたのも何かの縁や、帰る家が見つかるまで私らがノワールの面倒を見たる」
「主!?」
「はやてちゃん!?」
はやての発言に驚くシグナムとシャマル、対してはやては改めてノワールの頭をなでた。
「生まれてすぐに一人ぼっちなんて寂しすぎるやろ? 遠慮せんでええよ」
「……いいんスか?」
「はやてならそう言うと思った……少なくとも俺に反対する理由はない」
スウェンの言葉に、シグナムとシャマルもうなずく、するとノワールはふわりと飛び上がると、はやて達にぺこりと頭を下げた。
「それじゃ……しばらく厄介になるッス! スウェンのアニキ! はやて姐さん!」
「姐さんて……」
「変わった奴だな、お前は……」



こうして八神家にまた新たな家族が加わった、ちなみにザフィーラと共に後から帰宅してきたヴィータはノワールを見て「何だコイツ? ポケットモンキーか何かか?」なんて感想をもらしたそうな……。



おまけ

ある日、はやてはテーブルの上で今月分の家計簿をつけていた。
「うーん、急に家族が増えたから出費が増えたなぁ、でもこれ以上グレアムさんに援助増やしてもらう訳にもいかんし……」
するとそこにコーヒーの入ったマグカップを二つ持ったスウェンがやってくる。
「はやて、コーヒー持ってきたぞ」
「うん、ありがとうなスウェン」
「ところで……さっきのグレアムとは何者だ?」
スウェンは先ほどはやてが口にした人物のことが気になり彼女に質問する。
「うん、私の死んだ両親の友達でな……毎月私の生活費を送ってくれる人なんよ」
「資金援助を……なるほど、どおりではやて一人で暮らしていけたわけだ、それにしても……」
スウェンはふと、そのグレアムという人物に対し疑問を感じていた。
(そこまでするのならなぜはやてを引き取らないのだ? そうすればいくらか安上がりだし、はやてが寂しい思いをせずに済んだのに……何か家庭的な事情でもあるのだろうか?)
その時、はやてはあることを思い出しスウェンに質問する。
「そうや、もうすぐグレアムさんの支援が届くころなんやけど……スウェンは何か欲しい物あるん? ひとつだけなら買ってもええで」
「おれか? そうだな……」
スウェンはしばらく考え込んだ後、自分が欲しいある物が頭に浮かんだ。
「……星座の本を頼めるか?」
「星座? ええけど……図書館でも借りられへん?」
「この前本屋で新しいのが出ていたんだ……2千円ぐらいの」
「星が好きなんやなスウェンは、ええで」
快く承諾してもらい、スウェンの表情はどこか嬉しそうだった。










今日はここまで、これで八神家全員集合ですね。なんでノワールがここにいるかは後々明かしていきます。あとグレアム達も原作とは違う運命を辿らせる予定です。

次回はAs第一話の前日談を投稿します、それでは。



[22867] 序章3「12月1日」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/26 22:21
スウェンが八神家の一員になってから数ヶ月、季節は秋に移ってから大分経っていた。
とある日の朝。
「アニキ~朝ッスよ~」
はやてに与えられた二階の寝室で、スウェンはノワールに起こされて目を覚ます。
「おはようございます!アニキ!」
ノワールが元気に挨拶してくる、ちなみにノワールは今黒を基調とした騎士服(はやてデザイン)を着ている。
「……ああ、おはよう」
スウェンは眠い目を擦りながらもノワールに挨拶する。枕元には、星に関する本が開いたまま置いてあった。
「また読みながら寝ちゃったんッスか~?風邪ひくッスよ~?」
「……ああ、以後気をつける」
「そうッスか!そろそろ下に降りましょう!はやて姐さんが朝食作ってくれていますッス!」
「ああ」

台所でははやてとシャマルが朝食の準備をしていた。
「あ、おはようなスウェン、ノワール」
「おはよう」
「おはようございます!はやて姐さん! シャマル姐さん!」
「元気ええなーノワールは、もうちょっとで終わるから二人とも先に顔洗ってきいやー。」
「ああ」
二人は洗面所に行き顔を洗って寝癖を直す。すると、
「ふう……いい湯だった。」
浴室からシグナムが出てくる。お風呂に入っていたらしく、当然なにも着ていない。
『あースウェンー? 言うの忘れとったけど今シグナム風呂入っとるから気いつけやー』
遠くではやての声が聞こえる。なにもかも遅すぎだった。
これがどっかのラッキースケベなら一瞬でサンダーレイジで黒コゲなのだが、スウェンの場合は違っていた。
「な……!? 何をしとるんだ貴様らはー!!?」
「え、あ、スマン」
シグナムが投げた石鹸をクールに横にずれて避けるスウェン。
「さすがシグ姐さん、ダイナマイツなバディッ!!!」
「ちょ! 貴様ぁ!」
片っ端から浴室にあった物をスウェン達に投げるシグナム。
「だからスマンて……」
それらを軽やかにかわしていくスウェン。
「のほほ~絶景絶景~ちょっとアニキ! あんまり素早く動かんでくださいよ! 画像がブレるでしょ!」
ノワールはスウェンの肩でシグナムの体をしっかり観察していた。(ハンディカメラ持って)
「何の騒ぎだ?」
そこにザフィーラ(人型)が様子を見にやってくる。
「どおおおおお!!!? 貴様まで入ってくるな!!」
シグナムはシャンプーが満タンに入って重さ、威力十分の容器をザフィーラに投げ、見事彼の顔面に直撃させる。
「おごっ!?」
そしてザフィーラは容器を顔面にめり込ませたまま床に倒れた。

「もうあかんでシグナム~? 朝っぱらからはしゃいじゃ」
朝食が食卓に並べられていくなか、はやては先ほどのシグナムの暴れっぷりを注意する。
「も、申し訳ございません……」
(半分ははやてが原因だと思うが……)
そこに、今起きたばかりのヴィータがやってくる。
「ねむ~……ん? どうしたんだザフィーラ? その顔」
「…………ちょっとな」
ザフィーラの眉間にはバッテン印に絆創膏が貼られていた。


そしてはやては何気なくチャンネルを操作しテレビの電源を入れる、すると丁度朝のニュースが放送されていた。
『おはようございます、12月1日の朝のニュースをお伝えいたします、まずは先月アイルランドで起こったKPSAの自爆テロの続報から……』
「おっかないなあ、自爆テロやて……たくさんの人が死んだんやってなあ、しかも実行犯は私と齢変わらないそうやないか」
「ええ……まったくひどいものです」
『これに対しAEU協議会はテロ防止の為警備体制を強めると発表し……』
そのニュースにはやて達は真剣に耳を傾ける、そんな中スウェンはキャスターが読み上げていた記事の内容の中に引っかかるものを感じていた。
(テロ……たくさんの人が……)
するとスウェンの様子に気づいたザフィーラが彼に話しかける。
「ん? どうしたスウェン? 箸が止まっているぞ」
「い、いや……ひどい話だなと思って……行方不明者も一人いるんだろう?」
「……………」
ノワールはただただ、少し動揺している様子のスウェンを真剣な表情で見つめていた……。



その日の昼前のこと、やることのないスウェンは部屋にこもって星の勉強を始めていた。
「アニキも好きッスね~、星」
「ああ……なぜだか興味が沸くんだ、もしかしたら俺は記憶をなくす前は天体学者を目指していたのかもしれない……」
はやてのもとにやってきてから半年近くたち、スウェンにもいつの間にか天体観測という趣味ができていた。そして彼は昼間の暇なときはこうやって図書館から借りてきた資料を漁りながら独学で勉強をしていた。
「スウェンー、ノワール、入るでー」
するとそこにクッキーとコーヒーの乗ったトレイをもったはやてがやってきた。
「はやてか……ありがとう」
スウェンははやてからトレイをを受け取ると、クッキーを小さく砕きそれをノワールに渡した。
「いやー、はやて姐さんの作ったクッキーは格別ッス!」
「ふふふ……ありがとうノワール、スウェンは勉強捗っとる?」
「ああ、あの図書館にはいろいろな本があるんだな……勉強になるよ」
「ほんなら明日は私と一緒に図書館で本探しでもしよか、ほかにもいろいろあると思うで、今日は午後から病院やから行けへんけど」
「そうだな……」


数時間後、昼食の時間にその事件は起こった。
「う……ぐおおおお……!!!!」
「ブクブクブク……」
「はひっ! ひへっ! わふっ!」
テーブルでシグナム、ヴィータ、ザフィーラが泡を吹いて倒れたのだ。
「ひ、ひどい……! なんで! なんでこんなことに!?」
あまりの惨状を目の当たりにしたはやては車いすの上で泣きわめく、そんな彼女の肩にスウェンはそっと手を置く。
「落ち着くんだはやて……泣いたってもうみんなは……それよりもなんでこんなことになったのか調べよう!」
そう言ってスウェン達は勇ましく台所に向かう、するとそこには様々な材料が散乱していた。
「これは……カレールーか、そしてこれは鯛……それにネギとヨーグルトだと!? ここにはパピ粉にフリスク(オレンジ味)……一体何を作ろうとしていたんだ!?」
スウェンはあまりの惨状に戦慄を覚える、そして紫色の怪しいオーラを放つ鍋を見つける。
「よし……ノワール、味見してくれ」
「嫌」
スウェンの肩に乗るノワールは彼の要望を即座に断る、その間実に0.002秒。ニュー○イプも裸足で逃げ出す反応速度だ。
「そうか……ならしょうがない、俺が味見をしよう」
「いや! スウェンにそんな危険なことはさせへん! ここは一家の主たる私が!」
そう言ってスウェンとはやては勇敢にも挙手しながら味見に立候補する。そんな二人をみてノワールは魂が震えるのを感じていた。
「(そんな……! みんな自分の身の危険を顧みずに……それなのにオイラは……!)仕方ねえ! やっぱオイラが味見を!」
「「どうぞどうぞ」」
「謀ったな八神ぃぃぃ!!!!」
味見の座を即座に譲られたノワールは木馬に特攻する時のザ○家の末っ子のような顔でスウェンに取り押さえられる。そしてはやては鍋の中身の生物兵器をスプーンですくい上げてノワールに差し出す。
「はいノワール、あーん」

ギョエアアアアア

「なんか鳴いてる! スプーンの上でなんか鳴いて……! ムグッ!」
突っ込んでいるうちにスプーンを口の中に入れられるノワール、そして……。
「へああああ! メガァァァァァ!!!」
口の中の劇物を飲み込んだ途端目を押さえながら床でのた打ち回った。
「ノワール! 犠牲は無駄にせえへんで……!」
「シグナム達もこれを食べてああなったのか……つまり犯人はこれを作った人物……」
その時、台所にとある人物が神妙な面持ちでやってきた。
「犯人は……すりっとまるっとお見通しや、シャマル」
はやてに指をさされ、観念したかのようにがっくりと項垂れるシャマル。
「すべて……ばれてしまったんですね……」
「何故だ……!? 何故こんな危険なものを作ったんだ!?」
「今朝のリベンジと……あと昨日見たキュ○ピー三分間クッキングにおいしそうな料理が紹介されていて、私だけで作ってみんなをびっくりさせようと……でも材料のメモを取るのを忘れていて、仕方なく記憶を頼りに(見た目が)似ている食材を使って……!」
そしてシャマルはその場で崩れおち、顔を手のひらで覆って泣き始めた。
「ごめんなさい……! まさかこんなことになるなんて……! 私はなんてことを……!」
「どうして……! どうしてこんなものをシグナム達に食べさせたんだ!?」
「だって……使った食材がもったいなかったの!」
そしてはやては泣き続けるシャマルに優しくそっと囁いた。
「……自首しようか、私たちもついてったる……」
「はい……!」
そしてシャマルはコートを被せられ、はやてによってどこかへ連行されていった。
「嫌な事件だったな……」

こうしてのちに「八神家集団食中毒事件」は多くの犠牲者を出して終わりを迎えた、ちなみにスウェン達は何故無事なのかというと、先ほどクッキーを食べたため昼食の時間を遅らせた為難を逃れたからだった。

「……なんだコレ?」





その日の夜、八神家の食卓
「ぁあ? ふざけんな! アタシは飛び出せ!科○くん見るんだよ!!」
「何を言っている!! 今日は世界衝○映像社の日だろうが!!」
シグナムとヴィータがチャンネル争いをしていた。
「上等だよ……! ここで白黒つけるか!?」
「おもしろい! レヴァンティンの錆にしてくれる!!」
「コラ~!! ケンカしたらアカン~!」
「そうよ! ケンカする子はテレビ見せないわよー!?」
「それよりも俺は中○生日記見たいんだが……」
一触即発(一匹空気を読んでいないが)の中、
「あ、天才志○動物園が始まる」
「どうでもいい話ッスけどザフィーラのアニキをこの番組に出演させたら大儲けできると思いません?」
たくあんをボリボリ食べながらスウェンはチャンネルを変えた。
「こら貴様!! なに勝手に変えている!?」
「舐めた真似してっとギガントすんぞ!?」
「ふたりとも……ええかげんにせんと一週間アイスと風呂抜き、それにシャマルの料理食わせ続けるで」
「「ゴメンナサイ」」
光の速さでDOGEZAするシグナム&ヴィータ
「はっやっ! そこまでイヤなの!?」
「中○生日記……」
「今日はパンダの赤ちゃん特集か」
「なんで動物の赤ちゃんってみんなキャワイイんやろうな」
「あ、次め○ゃイケみていいッスか? メンバー増えてからどうもあの番組の行く末が気になる」



お風呂上りの時間帯に今日二度目の事件は起こった。
「さて、ウチが名前付けてまで大事にとっといたプリン(生クリーム付き)が食べられとったんやけど……誰?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
全員床に正座(背の順で)
「怒らないから言うてみ~?」
顔は笑っているけど目が全然笑っていないはやてを見て、それを見た全員は蛇に睨まれた蛙の如く萎縮してしまう。
(絶対怒るな……)
(絶対怒る……)
(絶対怒るわね……)
(絶対怒るワン……)
(絶対怒るッス……)
「小腹が空いていて……」
その時、スウェンが空気に耐えられず観念して手を上げて自白した。
「「「「「お前かい!!!!!」」」」」
意外な犯人に他の五人分のツッコミが見事ハモる。
「コルァァァ―――――!!!」
そんな彼に対し大激怒するはやて。
「「「「「やっぱり怒った!! めっちゃ巻き舌!」」」」」
「何故だ? 正直に言えば怒らないと……」
スウェンは小首を傾げながらはやての説教を小一時間受け続けたという……。

皆が寝静まった夜、スウェンはベランダで一人星を見ていた。
「今日も綺麗だ……」
スウェンは瞳を閉じ今までの八神家の生活を思い出していた。
騒がしくもどこか穏やかな日常、怒られたり、失敗したり、辛い思いをすることもあったが、それを帳消しにするくらい幸せだった。
「あとは……はやての体か」
「ウチがどうかしたん?」
するとベランダに車椅子に乗ったはやてがやってきた。
「はやて……星を見にきたのか?」
「正確には星を見ているスウェンを見に来ました。」
「そうか……」
車椅子を自分ごとスウェンの隣に移動させるはやて、二人はしばらく星空を見上げていた。
「……なあ、はやて」
スウェンは隣にいたはやてに話しかける。
「どないしたん?」
「なぜ……見ず知らずの俺を八神家に招いてくれたんだ?俺は何者なのか自分でも判らないんだぞ?」
「そうやなあ……」
はやては再び星空を見上げて考える。そして、
「スウェンが…昔のウチみたいに…寂しそうやったからかなあ……」
「寂しい?」
「ウチな、スウェンや守護騎士のみんなが来るまではこのだだっ広い家で一人でくらしてたんよ。この体で病院通いで学校にも全然行ってへんかったし……今思えばホンマ考えられへん生活してたんや……」
幼い頃両親が死に、自宅と病院を行き来する生活、担当の石田先生との交流はあったが、それでもとても寂しい思いをしていたのだ。
「………」
スウェンは何も言わず、ただ黙って聞いていた。
「ほんでな、そんな時私はスウェンに出逢ったんよ。そんでスウェン見て……『この人なんて寂しい目をしているんやろう』と思ったんよ」
「………」
「これはウチの勘なんやけどな……スウェンってきっとここにく来るまでは…とっても寂しい思いをしていたんやと思う……。だからウチ、スウェンのこと放っておけなかったんや。同情やないで? まあ……一人ぼっちで生きて行くのが辛かったから拠り所を探していたんだと思う」
「ああ……それはわかる」
スウェンはそれがはやての優しさだということは、これまでの八神家の生活を通じて解っていた。
「今はホンマ幸せやで、シグナムがいて、ヴィータがいて、シャマルがいて、ザフィーラがいて、ノワールがいて、スウェンがいて……。皆が居てくれるだけで幸せや。たとえ……近い未来……ウチが死ぬ事になっても……」
「!!」
はやては、近いうち自分が今患っている病気で死ぬということに、なんとなく気付いていたのだ。
「でも……本当は死ぬのが怖い……皆と離れとうない……」
いつのまにかはやては泣きじゃくっていた。その姿はいつもの気丈な様子はなく、歳相応の弱々しい少女になっていた。
「みんなと……ずっと……一緒にいたい……離れたく……一人ぼっちになりたくないよぉ……」
今まで自分はこのまま一人寂しく死んでゆくのだと思っていた、だが今は一緒に居てくれる家族がいる。だからもっと生きていたいのだ。
今まで溜め込んでいた想いが、ここに来てどっと溢れ出てきた。
「はやて……」
スウェンは泣いているはやての後ろに回りこみ、
「……」
「え?」
彼女を優しく抱きしめた。はやては何が起こったか解らず泣き止む。
「スマン、こういう時どうしたらいいか解らないから……コレしか思いつかなかった。」
それは精一杯考えたすえに出てきた彼なりの慰め方だった。
「ふふっ、ガラにも無い事して……でもありがとう」
いつのまにかはやては笑っていた。その笑顔は星の光に照らされて、普段とはまた違った輝きを放っている。
「……そろそろ寝よう、これ以上いると風邪を引く」
「そうやなあ、もう十二月やもんな……」
「あ、ちょっとまて」
そう言うとスウェンは車椅子に乗っていたはやてを抱き抱え上げた。
「なっ!? なななななっなにを!?」
突然スウェンに抱き抱えられ、近い歳の男性の耐性があまりないはやては混乱していた。
「いや、車椅子から一人でベッドに移動するのは辛いだろうと思って……嫌だったか?」
「そっ……そんなことあらへんよ……!」
(これってお姫様抱っこやん……おまけに顔近っ! ……かっこええな……いやそうじゃなくて!)
「どうした顔が赤いぞ……? しかも体温が上がっているようだが……」
「なっ……なんでもございません!!」
そして二人は中に入っていった、その間ずっとはやては顔を赤く染め小声でなにやらブツブツ言っており、スウェンは首を傾げていた。

はやてを寝室に送り届け、スウェンは自分の寝室に戻ろうとしていた。
ふと、掛けてあった時計が目に入る、時刻はちょうど夜十二時を指していた。
「日付が変わった……今日は12月2日か」
季節は秋から冬に移っていった。

そして……物語も動き出す。










本日はここまで、この話は以前投稿したものを書き直したものとなっております。
さあ次回より本編開始、無印編より大分登場人物が増えててんやわんやですが頑張ります。


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