余録

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余録:「ねじれ国会」の原点

 「国民というものはかなり複雑な性格を持っておりまして」と答弁を始めたのは1946年の帝国議会での金森徳次郎憲法担当相だ。新憲法案の衆参2院制は政局の安定を損なわぬかとの質問に答えた▲そこで金森担当相は国民の複雑な性格や欲求は一つの選挙法で選ばれた議会だけでは代表できない、と2院制の利点を主張した。占領軍の憲法草案では1院制だったのに、日本側が2院制を強く主張した背景には衆院での左翼勢力の伸長への懸念があったといわれる▲「第1院の議決と一致する第2院は無用であり、異なる第2院は有害である」。答弁で金森担当相は有名な2院制議会批判を引用した。その欠点を克服するためには、参院は衆院に対する「抑制機関」として「慎重練熟の要素を盛り込む工夫」をすべきだと強調した▲65年前に比べると国民の性格の「複雑」さも極まったというべきか。衆参ねじれ状況にあって、11年度予算関連法案成立のめどもつかないまま通常国会が開会した。菅政権にとっては対決姿勢を強める野党に加え、与党内の結束すらままならない中で迎える正念場だ▲施政方針演説で菅直人首相は税と社会保障の一体改革の与野党協議を呼びかけ、直面する難局における野党の責任分担を求めた。むろん予算関連法案で政府を追い込みたい野党をけん制し、世論の支持を期待しての発言だ▲昨秋の国会を見た今では、「熟議の国会」という言葉もむなしく響く。では2院制議会のチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)という立法者の想定した制度本来の機能は結局は絵空事か。国民の心中が複雑なのはいうまでもない。

毎日新聞 2011年1月25日 0時03分

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