余録

文字サイズ変更

余録:資源開発と同時に

 お正月のテレビ番組ではNHKの「南米大陸一周165日の旅」が面白かった。大型のトラックをバスに改造したのに乗って南米の自然に突入する。英国の旅行会社が世界中で展開する冒険旅行の南米版だ▲イグアスの滝、マチュピチュ遺跡、ギアナ高地などなどをめぐる旅である。参加者の人間模様も織り込んで飽きさせなかった。その中でことに印象的だったのがボリビアのウユニ塩湖。希少金属リチウムの世界埋蔵量の半分が埋まっている白一色の世界である▲リチウムは電気自動車に不可欠のリチウムイオン電池の原料。世界中から開発の申し出がきている。日本、中国、韓国、ロシア、米欧諸国。南米の中でも貧しいボリビアにとって貴重な財産。慎重に比較考量しているようだ▲電気自動車は各国がしのぎを削る。ことに中国の力の入れ方がすごい。中国はリチウムとともに電気自動車造りに必須のレアアース(希土類)の95%を握っており、それを生かして電気自動車で世界の先頭に躍り出る戦略だ▲日本では日産自動車が電気自動車に社運をかけている。その日産と電気自動車を共同開発している仏ルノーで産業スパイ事件が起きた。仏紙によれば当局は中国に技術が渡った可能性があるとみているという▲ボリビアの塩湖でもまた、清浄な風景と裏腹のどす黒い欲望と思惑が渦巻いているに違いない。日本はこの湖の資源獲得競争に負けるわけにいかないという。だが、ビジネスにも風格が必要。日本は勝ちさえすればいいという国ではないはずだ。資源開発と同時に現地の環境保全と経済の自立に役立つ提案をしてもらいたい。

毎日新聞 2011年1月24日 0時40分

PR情報

余録 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド