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社説:ロシア空港テロ 国際社会への挑戦だ

 モスクワ郊外の国際空港で大規模な爆弾テロ事件が起きた。どんな理由があろうと決して容認できない無差別テロだ。死傷者には欧州などの外国人が含まれている。日本人の犠牲者が出ても不思議ではない状況だった。ロシア国内だけでなく、国際社会への挑戦と言うべきだろう。

 特に、所持品チェックなしで出入りできる到着ロビーが犯行現場に選ばれた事実は深刻だ。安全対策の弱点を突いた卑劣な行為であり、どの国にとっても対岸の火事ではあるまい。海外に出かける時だけでなく、日本国内にいてもテロの脅威と完全に無縁なわけではないという不快な現実を、改めて認識したい。

 惨劇の舞台となったドモジェドボ空港はロシア最大の空港だ。もともと国内線専用だったのを整備して多数の外国航空会社を受け入れ、世界に向けた空の玄関口の役割を果たしている。ロシア政府を国際的に辱め、揺さぶろうというテロリストの狙いが透けて見える。

 メドベージェフ大統領はスイスのダボスで26日に始まる世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で開幕演説を行う予定だったが、延期を余儀なくされた。ロシアの産業構造改善のため技術と投資の導入を図るもくろみへの影響が懸念される。

 テロを抑え込めなければ今年末のロシア下院選や来年の大統領選に向けた揺さぶり、3年後に開催予定のソチ冬季五輪に対する脅威まで心配せねばならなくなるだろう。

 今回の事件の背景は明確でないが、ロシアではここ10年ほど大型テロが相次いでいる。大勢の死傷者を出したモスクワでの劇場占拠事件や北オセチア共和国の学校人質事件、地下鉄や列車、路線バスを狙った爆弾テロなどだ。

 これらはロシア南部・北カフカスのチェチェン共和国独立を目指す武装勢力がロシア軍の掃討作戦に追い詰められ、チェチェン周辺に逃れながらイスラム原理主義過激派の手法を採用した結果だとされている。ロシア当局は今回も同種の事件と見ているようだ。

 ただ、以前はロシア軍の作戦を欧米諸国が非難していたという経緯もある。01年の米同時多発テロを受けてロシアはチェチェン独立派掃討を「テロとの戦争」だと正当化し、欧米は黙認した。過剰な武力行使が恨みを買い、状況を複雑にしてきたという側面は否定できまい。

 今回事件の真相解明とテロ集団の摘発、断罪は必要だが、並行して憎しみを和らげる対策も必要だろう。

 今年は同時多発テロから10年を迎える。これまでの「テロとの戦い」の進め方を複眼的に再検討する試みがあっても良いのではないか。

毎日新聞 2011年1月26日 2時32分

 

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