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社説:施政方針演説 野党頼みでは危うい

 海図なき論戦の幕開けである。第177通常国会が召集され、菅直人首相の施政方針演説が行われた。

 首相は税制・社会保障改革をめぐる政府基本方針や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の結論を6月までに取りまとめる考えを表明、自民党などを名指しして与野党協議の開始を強い調子で呼びかけた。

 例年、内閣にとって正念場となる通常国会だが、これほど視界不良なケースもまれなのではないか。

 「ねじれ国会」の下、野党は菅再改造内閣に対決色を強めている。11年度予算案の関連法案も含め、あらゆる案件の行方が見えない。予算審議が山場を迎える春ごろの「政権危機説」が決して、誇張とは言えない客観情勢だろう。

 それだけに、首相の覚悟が問われる。演説で「平成の開国」「最小不幸社会」など3理念を掲げ、消費増税を念頭にある程度の負担増は避けられない、と言い切った。

 首相はこれまで明確な政権の目標を打ち出せずにいた。TPPに加え、税制・社会保障改革を持論の「最小不幸社会」に結びつけ、旗印にしようとした意欲は評価できる。

 これらの課題で首相が協議を呼びかけたことを野党は重く受け止めるべきだ。だが、政府・与党方針の期限を「6月」としつつ、協議を呼びかけるだけでは迫力を欠く。「野党への責任転嫁」との批判をはねつけるためにも、できるだけ速やかに政府・与党の方針を大筋で固め、国会で説明すべきだ。

 何にも増して、予算審議という関門をまずは、越えねばならない。たとえば与野党攻防の焦点である「子ども手当」について首相はさきの党大会で、政権交代のシンボルとして成果を力説したばかりだ。

 仮に政府が予算の修正に踏み切るのであれば民主党公約のどの部分を堅持し、修正するか、それに伴う政治責任をどう判断するか、いずれ腹を固めねばなるまい。

 3理念のひとつ「不条理をただす政治」について、首相は年頭の記者会見で「政治とカネ」のけじめを強調、小沢一郎民主党元代表の出処進退にまで言及した。ところが、演説では政治改革について、あっさりとふれるだけに終わってしまった。

 さきの臨時国会で掲げた「有言実行内閣」のスローガンも早々に消えた。状況次第で政権の力点が揺れ動く感をなお、ぬぐえない。

 首相が言う通りの「熟議の国会」の実現には、野党が建設的な議論に応じることが必要だ。だからといって、すべて「野党任せ」の論法では逆に足元をみられよう。国民に信を問うほどの気概で自ら指針を示さねば、到底乗り切れぬ局面である。

毎日新聞 2011年1月25日 2時31分

 

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