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社説:鳥インフル 防疫対策の再点検を

 A型インフルエンザのウイルスは、元をただせば野生の水鳥が持っている。これが、ニワトリに感染したり、種の壁を越えて人に感染するようになると病原性が問題になる。

 宮崎県の養鶏場でニワトリへの感染が明らかになった高病原性のH5型鳥インフルエンザウイルスは、ここ何年もアジアを中心に家きん類で流行を繰り返してきた。昨年1年をみても、バングラデシュ、ネパール、ベトナム、イスラエル、韓国など、多数の国で流行している。

 いつ、日本で流行が起きても不思議はない状況で、実際、昨年も島根の養鶏場で発生した。今年に入り、宮崎市佐土原町で発生した後、同県新富町で感染が確認された。今後も、他の地域に飛び火したり、新たに感染が発生する恐れは否めず、全国的に警戒が必要だ。

 感染ルートのひとつとして考えられるのは渡り鳥だ。昨年10月には北海道稚内市で野生のカモのふんからH5N1型ウイルスが見つかった。その後も、鳥取県のコハクチョウや、鹿児島県の出水平野のツル、福島県の渡り鳥などから強毒のH5N1型が検出されている。

 渡り鳥の営巣地が強毒のH5型ウイルスで汚染されている可能性もあり、養鶏場の防鳥ネットのチェックなどを怠らないようにしたい。野鳥が入り込めない鶏舎への切り替えも検討課題だ。

 ウイルスは人間や乗り物などに付着して運ばれていくこともある。大量の人が世界を移動する現代では、海外の流行地からウイルスが運ばれてくる恐れは常にある。国内の流行地から人がウイルスを運んでしまうこともありうる。

 養鶏農家が注意していても、他の人々が不注意だと感染を広げかねない。農家に出入りする人や車の消毒徹底など地域が一体となった感染防止対策が欠かせない。

 インフルエンザウイルスは撲滅できるような病原体ではない。しかも、大量のニワトリを限られたスペースで飼う大規模養鶏場が増えるほど、感染拡大の機会が増える。大量殺処分による被害も甚大だ。こうした現状を念頭に置いた上で、防疫対策が今のままで万全か、再点検する必要がある。

 鳥インフルエンザは人間にとっても懸念材料だ。鳥のH5型ウイルスの人への感染は限られているが、なくなったわけではない。

 さらに、豚は人と鳥の両方のインフルエンザウイルスに感染するため、体内で組み換えウイルスができることがある。その結果、病原性が強い人型のインフルエンザウイルスが出現する恐れは否定できない。ニワトリだけでなく、豚の監視も忘れないようにしたい。

毎日新聞 2011年1月25日 2時30分

 

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