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【コラム】「iPhoneを使いこなさない」

連日流れるiPhoneのCM。あのCMを見ると、本当に様々な機能やアプリが備わっており、出来ないことは無いんじゃないかと思えてくる。このコラムではそんなiPhoneを持っていながらあえて“使いこなさない”方法を紹介……?

 

 

 

 先日のこと。東京駅にて携帯電話を持っていない友人と待ち合わせることとなった。地方在住者にとっては不思議のダンジョンに等しい東京駅にて、携帯電話を持たないレアな人と朝6時半に待ち合わせというベリーハードな難易度だ。時間になっても待ち合わせ場所に姿を現さない友人。友人が遅れているのか、それとも僕が待ち合わせ場所を間違ったか。さて、このまま待つか、それとも……。その葛藤は『風来のシレン』でお腹が減ってしまい、いったん戻るか、それとも次の小部屋のアイテムに期待するかの二択を迫られた歯軋りしたくなるような感覚に似ていた。

 

 特に必要と感じていないから。それが彼が携帯電話を持っていない理由だ。きっぱりといさぎよく、まことに漢らしい理由だ。

 

 さて、そんな風に携帯電話を必要としない人もいるってのに、日進月歩で進化を続けていく携帯電話。そんな携帯電話のヒエラルキーを一気に登り詰めたのがスマートフォンだ。スマートフォンとは、簡単に言うと単体での音声通信やネットワーク機能に加え、ソフトウェアのインストールによる自由なカスタマイズが可能な個人情報端末(PDA)機能がついたやたら高性能な携帯電話のことだ。

 

 もっと解りやすく『ロックマン』的に説明してみる。十字キーでの移動が持ち歩きできる携帯性。ボタンでのショット攻撃が通話機能、ジャンプがメール機能。これが通常の携帯電話だ。そして各ボスを倒した時に得られる新武器こそが、まさにスマートフォンの高機能性だ。それぞれの場面に適した武器を選択し装備することで困難な局面をクリアしていく。さまざまなアプリケーションをダウンロードして利便性を高め、理想の携帯端末として求める機能を充実させていく。まさにロックマンの正しい姿ではないか。

 

 

 そのスマートフォンの代表格と言えば、いわずもがなiPhoneである。無駄を削りまくった洗練されたデザインの格好良さは、ボンダイブルーのiMacの再来か、と僕は勝手に思っている。それにツルツルサラサラとしたボディの撫で心地は他の携帯電話にはない癖になる手触りだ。まだ未体験の人はぜひ撫で回してもらいたいものだ。

 

 僕自身も、人を惑わす撫で心地に誘われるがままiPhoneを手に入れた者の一人な訳だが、いざ使ってみると、いろいろと思うところのある機械だな、と感じた。

 

 ワンセグなし。おサイフケータイなし。着うたなし。携帯電話として考えるとなんとも味気なく頼りない。装備していた武器をいきなり取り上げられて基本ショットで難解ステージに挑むような感じだ。

 

 

 ぽっと出のiPhoneユーザーとして、最先端のスマートフォンヘビーユーザーがどんな使い方をしているのか、その使いこなし術が気になって仕方なかった。iPhone紹介系の雑誌を読んでみても、何やら小難しい専門用語が並び、さまざまなアプリが紹介されていてはいるが毎日の生活のどんな局面でiPhoneのパワーが炸裂するのか、ちっともイメージが沸かない。調べれば調べるほど「宝の持ち腐れ」感が膨れ上がる。しかし不思議なもので、次第にこの「宝の持ち腐れ」感をどんどん突き詰めてやろうという気持ちになってくる。こうなったら、とことんiPhoneを使いこなさいでみよう。

 

 

 

iPhoneを使いこなさない。さて、どうしよう。

 iPhoneの強みとしてまず思い浮かぶのがやはり豊富なアプリ群だ。仕事効率化系アプリをダウンロードすれば、Excel、Wordファイルの閲覧や編集はもちろんのこと、本体の内蔵メモリーをファイルサーバーにしたり、PCとの共有ファイルの同期、サーバー上での履歴管理からのバックアップも可能だ。

 

 でもやらない。iPhoneのメモ機能にアイディアを思いついた端から書き込んでいき、後で家に帰ってからそのメモを見ながら原稿を書けばいいだけだ。

 

かなり有能なデフォルト機能のメモ。これだけで何もかもまかなえる気がする

 

 

 電話機能においても、アプリとしてSkypeをダウンロードすればSkype同士の通話料金はもちろん無料になり、他の携帯電話への通話料もお得になる。

 

 でもやらない。そもそも僕には電話で話すという習慣がほとんどないので使わなくてもいい。ほら、友達から電話かかってくることも滅多にないし。先月の電話代はホワイトプランの基本料980円に通話料が140円。パケット定額フルプランは使い切ることなく約2,300円だった。バッテリーも最大で5日もった。使いこなさないとけっこう安くなるな、iPhone。

 

 

 旅先での電車乗換や時刻表チェックだって、時刻表アプリを使えば一瞬で自分が行くべき最寄り駅が地図上で検索できる。

 

 でもやらない。事前に時刻表案内やロードマップで下調べをして、それをiPhoneのカメラ機能で撮影しておけばいつでもどこでも画像で確認できる。最新デジタル機器をアナログ的に使ったっていいじゃないか。

 

 

 ブログの更新やツイッターへの投稿も、写真アプリを使えば撮影した画像や動画をタップするだけですぐにツイッター上で公開できる。

 

カメラアプリの中にはTwitterと連動しているのも多い。撮影から即投稿できる

 

 

 でもやらない。あえてアプリは使用せず、いちいち手作業でやる。いい写真が撮れたら、早速家に帰ってiPhoneとPCを繋いで、必要な画像を吸い出してPC上で画像の大きさを調整する。それからブログを更新したりツイッターへ書き込んだり。無駄に手順が多い作業になる。

 

 だが、それがいい。

 

 インターフェイスが優秀過ぎ操作が最適化されてシンプルになったゲームよりも、かゆいところに手が届かない少し不便な操作感があるレトロゲームの方がぐりぐり動かしていて気持ちいいし。

 

 

 携帯電話を必要としていない友人は、結局待ち合わせ時間に15分遅れて現れた。それでも僕はiPhoneがあったから問題なく彼を待ち続けることができた。何か時間を潰せるおもしろいゲームをダウンロードしていたから? いやいや、サラサラしたボディを撫で回して心の安寧を保っていたからだ。

 

 スマートフォンとして優秀な端末であるiPhoneも、雑誌でおすすめしているようないかにもビジネスライクな画一化された使い方も悪くないけど、ポケットに入る「撫で回して気持ちを落ち着かせる機械」という使い方もあるはずだ。

 

 要はiPhoneが何ができる機械か、ではなく、iPhoneという機械に何を求めるか、ってことだ。

 

 ところで、iPadってあるじゃないですか。あのでっかいiPhoneみたいな奴。あの機械で何ができるのかわからないけど、あれだけでかかったらさぞや素晴らしい撫で心地なんだろうな。使いこなせなくたっていいから、撫で回したくてたまらないと思う今日この頃です。

 

 


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