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社説:B型肝炎和解へ 国民全体で財源負担を

 生活保護の母子加算復活、障害者自立支援法廃止など国を提訴した人々の主張をマニフェストに満載した民主党だったが、なぜかB型肝炎救済については触れていなかった。提訴していない患者や未発症者を含む43万人を救済すると最大約3兆2000億円(厚生労働省試算)が必要になる。ただでさえ財政危機の中でどうやって捻出できるのか。ためらうのもわからなくはない。それでも国と原告が和解に向かうのは、札幌地裁が幅広い救済を強く求めて和解協議を主導したことが大きい。

 裁判所がB型肝炎について判断を示したのは今回が初めてではない。06年に最高裁は患者側の勝訴判決を出した。それにもかかわらず国は他の患者は救済せず放置した。患者側は改めて08年から各地で訴訟を起こしてきたが、すでに原告12人が死亡した。病状が悪化して苦しんでいる原告も多い。そうした現実を黙殺してきた政治や行政への怒りが裁判所の背を押したようにも思える。

 和解を実行するためには財源を確保しなければならず、そのために政府内では増税論が出ている。社会保障や財政再建のために消費税を含む増税が避けられない現実に直面しているのが今の政府だ。B型肝炎救済が増税の口実に使われ、国民の批判が患者側に向けられることを懸念する声もある。

 誤解を招かないために指摘しておきたい。集団接種で注射器の使い回しの危険が指摘されてからも国が適切な措置を取らなかったのが被害拡大の原因だ。患者数は多いが一人一人の救済額はC型肝炎などに比べて大きいわけではない。むしろ未発症者への救済は十分とは言えず、2次感染者は対象からはずされた。財政負担が大きいからといって患者に厳しい目を向けるのは間違っている。

 予防接種は国民個々の健康を守るというよりも社会防衛のために始められた歴史を持つ。国民には予防接種を受ける義務があり、76年までは違反すると罰金が科された。多数の人が副作用によって命を落とし、重い後遺症を引きずりながらも、当初は救済されることもなかった。B型肝炎の被害者も94年の法改正で任意接種になるまで義務で受けた接種で感染した人々だ。国家的不作為の延長線上に放置しておくことはもはや許されないだろう。

 一方、集団接種は天然痘やポリオなどの感染症を根絶したり流行を阻止してきた。現在の国民がその恩恵の上に立って生活をしているのだと考えれば、集団接種による被害救済を国民全体で引き受けるのは当然ではないのか。たしかに負担は重いが、社会への信頼や公正を取り戻すための痛みと受け止めたい。

毎日新聞 2011年1月24日 2時31分

 

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