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社説:論調観測 税と社会保障改革 党内合意はどうなるか

 老いても医療や介護が充実し住居があって家族や友だちがいれば、金がなくてもさほど不安は感じないだろう。国民の関心が年金に集まるのはそういうものがないためではないか。が、年金に財源を集中させると医療や介護に金が回らなくなる。少子化や子育てにも回らないと、年金財政を支える層は先細りしていく。これが第一の矛盾だ。

 お年寄りは選挙に行く人が多いので、野党が選挙に勝とうと思えば年金不安をあおるのは効果的だ。現役世代にとっては国が基礎年金の半分を負担するので年金を払っていた方が将来得をするが、不安をあおられると年金を払いたくなくなる人が増える。これが第二の矛盾だ。

 つまり、財源がないのに年金を充実させても生活不安はおさまらず、年金問題を選挙に利用すると社会の危機を招く。そのことを菅政権は学んだのだろう。与野党が長期的視点で税と社会保障の改革に取り組む必要があるのはそのためだ。

 「肝心の民主党の年金改革案があやふやでは、話が始まらないのではないか」「まずは党内の議論を整理して、国民に民主党案とは何なのかを明らかにすることが先決だろう」(朝日)との主張は各紙社説に共通している。民主党はマニフェストで「年金制度の一元化」「消費税による最低保障年金」をうたっていたが、詳細な制度設計は説明したことがなく、菅政権になってからは次第に内容が変容している。自民や公明の案とどう違うのか示されなければ議論のしようがない。

 ところが何かにつけて党内の意見がまとまらないのが民主党だ。与謝野馨氏があえて入閣に踏み切ったのは、そうした民主党の欠陥や時間の余裕がないことを熟知している故だろう。

 「与謝野氏の入閣に対して、与野党双方から反発が出ている。与謝野氏は、迅速かつ着実に成果をあげることで応えるしかない。起用した菅首相もここは腹をくくって、与謝野氏が思いきった仕事のできる環境を作るべきだ」と読売は指摘する。

 現行制度と民主党案は具体的に内容を詰めていくと必ずしも対立点ばかりではないことがわかる。むしろ重なり合う部分が多いことを知っている議員は与野党にいる。

 「明確なのは、自公も実は改革の必要性を認識していること、与謝野氏が相当の覚悟で成案作りに臨んでいること、最後は菅直人首相の指導力が成否を分けること」(毎日)。各紙論調も危機感がにじむ点は共通している。【論説委員・野沢和弘】

毎日新聞 2011年1月23日 2時30分

 

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