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社説:オバマ演説 米国再生へ力強さを

 これがオバマ流なのか、それとも超大国の分裂、停滞を物語るのか。米議会で行われたオバマ米大統領の一般教書演説は、今年も内政問題に多くの時間が割かれた。それ自体が悪いのではない。「内向き」という批判もあるが、米国経済の立て直しは国際的にも重要だ。むしろ大統領の演説は、政治的パフォーマンスを抑えた、謙虚で冷静な見解の表明だったと評価することもできよう。

 しかし、明らかな問題点は、昨年と比べて大統領の足場が格段に弱まったことだ。米議会では昨秋の中間選挙で大統領与党の民主党が大幅に議席を減らした。昨年の演説では民主党の下院議長がオバマ氏の背後に座っていたが、今回その席に座ったのは「反オバマ」の陣頭に立つベイナー下院議長(共和党)だ。

 オバマ氏が大統領に当選した時の「チェンジ」の熱はうせた。時に与野党議員が総立ちで拍手しても熱気に欠け、どこか空々しい印象が付きまとう。オバマ氏が「米国という家族の一員」として団結を求めたことには共感するが、来年の大統領選をにらんで党派的対立はむしろ強まるだろう。国家的、国際的な連帯を演出しうる一般教書演説は、米国政治の混乱を予感させる場になった。

 興味深いのは、大統領が「未来は贈り物ではなく達成するもの」という故ロバート・ケネディ元司法長官の言葉を引用し、米経済の国際競争力低下を「スプートニク・ショック」に例えながら「未来の勝利」を説いたことだ。50年代に旧ソ連が世界初の人工衛星を打ち上げ、米国は宇宙開発での遅れを思い知らされたが、その後は米国が追い付き追い越したではないかという理屈である。

 高い失業率などで不満が募る米国社会に向かって忍耐と団結、そして暗に自助努力を訴えたのだろう。中国やインドの経済発展に言及しつつ、米国をあえて「追いかける立場」に置いたのも、ある意味では謙虚な姿勢と言うべきである。

 しかし、イラクとアフガニスタンでの戦争をはじめ、多くの国際問題に米国は主導的に対処する責任がある。外交面では問題解決への強い意欲を感じさせず、物足りなさが残った。特に北朝鮮の核問題について韓国との連携を尊重しつつ、日本との協力に言及しなかったのは気になる。ロシアとの新核軍縮条約(新START)の締結を誇りつつ、「核兵器のない世界」という言葉を使わなかったことも残念だ。

 変革を進めるために、大統領再選のためにも、オバマ氏は共和党との協調や妥協が必要だろう。しかし、あちこちに気配りが過ぎれば、大統領の指導力を自ら損ねる。力強く米国の再生に努めてほしい。

毎日新聞 2011年1月27日 2時30分

 

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