ベーシック・インカム(BI)理論
概説
当方の提唱するベーシック・インカム(BI)理論は、生活保護等に最たる行政の裁量による個別の対策としての社会保障制度ではなく、国民生活における最低限度の収入を一律に配給しようとする政策の構想である。
その内容は、簡単に、主に日本国民(日本国内居住者に限る)の全員に一定の流通貨幣を給付するというものである。原則として、現行の社会保障制度は全廃とする。
21世紀初頭、我が国のプライマリー・バランスは極度の不均衡状態にある。現状を脱するためには、その主要なコストとなる社会保障制度は単純明瞭で、その運用コストは極小化されなくてはならない。国家の一機能である社会保障が、国庫全体のキャッシュ・フローを悪戯に妨げるものであってはならない。
しかしながら、現状における日本の税制、財政は複雑に過ぎ、不要な中間コストを膨大に膿出している。様々に乱立された社会保障制度は膨張し続け、利権化し、組織は自己目的化している。その運用(ミーンズ・テスト)も、多くの場合に恣意的である。
『役人の、役人による、役人のための仕事』をつくり出すための装置と化した社会保障制度の内容は、国家財政の危機的状況にある今こそ革新されなければならない。
そこで、階級闘争を回避しつつ、この危機からソフトランディングする極めて有効な方法がベーシック・インカムであるものと考えるところである。
現状において莫大な社会保障コストを抱える日本だからこそ、世界の中で唯一日本だけが実現可能な政策構想であるというものである。
財源は、現行の社会保障制度に付随するあらゆるコストを算出するところからはじまる。それをゼロサムで組み替えるのが、基本的なやり方である。
ただ一律に配ることによる運用コストの削減効果は、小さくないはずだ。
例えば、生活保護一人にかかる職員コストだけでも生活保護費の数倍という現状を逆算しただけでも、ベーシック・インカムの財源は膨らむ。
民間の労働市場においても同様だ。公共事業も然り。
月20万円の給料の対価としての仕事がある。しかし、実はその労働をつくり出すのに月30万円のコストを費やしているといった事例は多い。
そんななれ合いを続け、日本丸という泥船を沈むまでこぎ続けるよりも、「直接20万円を給付してしまえ」というのが、ベーシック・インカムの観念的なモチベーションであろう。
現行の社会保障財源の総量を算出し、組み替えるだけの財源論は、かなり簡単に、かつ正確に算定が可能である。問題は、資金が余剰するか、不足するか、である。
いずれにしても給付の総量は膨大なものになる。現行の社会保障制度にかかるあらゆるコストの総量が膨大であればあるほど、ベーシック・インカムの実現可能性は高くなるという算段だ。
然るに、代替としてのベーシック・インカムの仕組みは、簡単でなくてはならない。そして、より『小さな政府』実現のためのスキームとして設計されるべきものである。
故に、今この日本でベーシック・インカム理論を現実の政策課題として検討することには意味があるといえよう。
今、行政コストの無駄を圧縮しなければならない事は誰でも知っている、しかしどうすることもできない『ぬるま湯の中の蛙』が日本の中の国民であり、政治家であり、役人である。
問題意識は共有されている今だからこそ、一度熱いお湯を注いでしまえば、社会的立場を超えた相互理解が急速に進む公算は大なるところである。
他方、このベーシック・インカムは、国民に機会の均等を施し、言い訳をさせず、『結果の平等』を指向する悪平等の主義から脱する絶好の契機となる公算大なるところである。
一億総カルト『平等教』からの脱却が、「出る杭を打たない」、「先行者の足を引っ張らない」、自律的な日本社会の実現の一助となり得るものと思量する。
財源案
・現行社会保障制度にかかる総費用(現行社会保障制度にかかる人員コストの削減費用を給付財源に組み替える)
・現行の年金原資を政府ファンドに移管
・消費税20%(41兆円)
・特定目的宝くじ 公営ブックメーカー カジノ等
競争力の源泉
□ 少子化対策
ベーシック・インカムの政策構想は、今のところ具体的な財源論の段階にないため、給付単位を世帯ではなく個人として想定している。このため、子供の数が増えれば世帯収入が増えるため、少子化対策として機能する。
□ 地方活性化 地価の平準化
ベーシック・インカムの給付額は、注@地域通貨の為替水準によって差異は生じるものの、基本的には全国一律である。このため、物価水準の低い地方に移住するインセンティブが働き、人口の一極集中を緩和する効果を発揮する。
需要を分散し、大都市の地価を押し下げる(地価の全国平準化)。地価の平準化は、全体として全国地価の平均を押し下げる。
※注@当方の提唱するベーシック・インカム理論は、地方分権を前提としている。この場合、道州制を想定し、それぞれの道州単位の地域通貨(地方政府紙幣)を発行する。地域通貨はそれぞれの為替を前提として、為替市場のシステムを構築する。
各地域通貨の為替水準は、各地方政府への信用・評価に依存する。地域通貨の自由な為替市場は、地方分権時代における各地方政府の自己責任を担保するものであると同時に、それぞれの地域通貨の流動性を担保するものである。
ベーシック・インカムの給付は、一度円通貨の換算によって建てられた原資を、居住地の地域通貨に交換され、住民に配給される。
この地域通貨はヘリコプター・マネーの一種であるが、インフレ抑制のためにその原資はあくまで国税であり、円建ての債券である。
円通貨から換算して、評価の低いA地域通貨には多く交換され、評価の高いB地域通貨には少なく交換される。この結果、原則としてA地域の可処分所得は為替格差分だけ増加する。
この様にして、ベーシック・インカムは、地域バランスを保つスタビライザーとしての自動調節機能を有する。
□ 雇用の流動性
ベーシック・インカムが雇用の流動性を担保するため、景気の調整弁としての雇用調整を容易にし、企業の競争力を高める。
景気刺激
多くの場合、低所得者ほど消費性向が高いため、ベーシック・インカムの全国一律のヘリコプター・マネーとしての特性を鑑みれば、ピラミッドの中間より下に広がる低中所得者の旺盛な消費需要は長期継続的に喚起されるはずであり、ベーシック・インカムの持続的な景気刺激効果を認める。
ベーシック・インカムの財源を消費税に求めた場合、低所得者の消費性向が抑制されるため、品目別課税のあり方が問われるだろう。
しかしながら、低所得者の旺盛な消費性向の対象となる品目を非課税とした場合、ベーシック・インカムの財源としての消費税収の総額は縮小するというジレンマに陥る。
高所得者への給付制限は、財源の節約に役立つが、制限水準に近しい2点の所得層間においてモラルハザードがおこるため、難しい。
但し、行政コストに比して特段の有用性を認めない限り、ベーシック・インカムの本来的な趣旨に鑑みれば、行政の裁量は極力排除されるべきであるといえよう。つまり、無条件の一律給付である。
日本人の高い貯蓄性向は、依然として日本銀行の発行する円通貨によって行われるはずである。これは、主に信用度、外国為替等の汎用性に起因した予測である。
低中所得者の旺盛な消費性向は配給される地域通貨によって充足され、不足分はその他所得によって補完される。余剰した所得は円通貨建てとして貯蓄や投資にまわるだろう。
つまり、ベーシック・インカムによって給付された地域通貨は、多くが消費や投資に費やされる公算大なりというところであって、消費券としての使用期限の定めは特に必要ないものと解される。
就農支援
ベーシック・インカムが就農希望者の地方移住を担保し、農業労働者の若返りに寄与する。
様々な生き方 文化 芸術 海外からの観光客
ベーシック・インカムが様々な生き方を許容し、文化人や芸術家を育む。日本発のサブカルチャー等が海外に発信され、日本のファンを獲得し、海外からの観光客の誘致に寄与する。
特定加算
多くのベーシック・インカム理論は、現行憲法下における国民の勤労義務を前提としている。多分に補完的な公的収入保証制度であるといえる。
従って、その前提となる勤労(所得)が期待できない一定のセグメントについては、その程度に応じた収入加算を行う必要があろう。
収入加算により、その給付される流通貨幣の総量を分母とする巨大な産業が現れるだろう。
当該産業は、国民の将来見通し(マインド)に強く影響する極めて重要なインフラとなるが、ここに公務を関与させてはならない。
その巨大な産業組織が利権と化し、自己目的化しても、社会全体のキャッシュフローの妨げにだけはならないようマネージされなければならない。
超大な需要が余剰し、不足した供給分の担い手は、主に東南アジアから出稼ぎにやってくる外国人になるだろう。
この海外からの出稼ぎ労働者の取り扱いをどうするか、米国式か、ヨーロッパ式か、あるいはシンガポールのように徹底した管理体制を敷くか、
いずれにしても、数百万人規模の海外からの労働者の流入は、日本の国の姿を大きく変化させる事になろう。
但し、この巨大な産業は、過大な需要の見通しとして、つまり所謂『団塊の世代』がすべて寿命を迎える頃、大幅に縮小し続ける事は想像に難くない。
数百万人規模の外国人が職を失う時、そんな遠くない未来のために、次の備えるべき政策を準備しておかなくてはならない訳だ。
犯罪の増加
ベーシック・インカムが国内のブルーワーカーを外国人に求める傾向を促進すると、外国人による犯罪件数が増加するだろう。
この場合、警察予算が増加するか、治安が悪化するかのいずれかが想定される。
懸念
日本国民としての地位が特権化し、ナショナリズムが高揚する。
特に、物価水準の低い地方では、かなりの割合で高等遊民(ニート)化を促進する。
単純労働の担い手としての外国人に対する優越意識が芽生える。
出稼ぎ外国人による犯罪が増加し、外国人に対する差別意識が醸成される。
優秀なビジネス・エリートは、特定の大都市か、あるいはシェルター(特区)を形成して偏在する。
高所得者に対する給付制限を実施した場合、能力による階級社会化が進む。
ベーシック・インカムの給付は日本国内の居住者に限定されるため、日本人の海外進出を阻害する。
海外駐在員に対するBI相当の補完的な所得を、企業が負担する。
内向きの価値観が蔓延し、鎖国状態のモンロー主義に陥る。
平成20年2月11日
町田正(MACHIDA, Tadashi)
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