とはいえ、やはり経済的な負担は免れない。お金に余裕のない年金生活者から一方的にテレビを取り上げるも同然で、迷惑以外の何物でもありません」
実際、総務省テレビ受信者支援センターが定期的に実施する「地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査」では、80歳以上の夫婦や独居老人は調査対象に含まれていない。視聴率の低迷が続く中、テレビを本当に必要としている高齢者を排除して、地デジ化は進められているのである。
政府は1月24日から、地上デジタル放送受信のための支援策として、「世帯全員が市町村民税非課税の措置を受けている世帯」を対象に、簡易デジタルチューナー(1台限り)の無償給付の受け付けを開始する。
「予算上では156万世帯の申し込みを想定しています」(総務省情報流通行政局地上放送課)
しかし、UHFアンテナの購入費や工事費用は自分で支払わなければならない。負担の軽減額はわずかに過ぎないのだ。全国消費者協会連合会事務局長(地デジ対策担当)の長見萬里野氏がこう話す。
「高齢者の方々からは、『地デジという言葉は知っているが、どうすれば見られるかわからない』『いま使っているテレビはなぜ使えなくなるのか』『費用の負担が大きい』といった声が多く寄せられています。
そもそも、ボタンの多いリモコンに戸惑う方だっているのに、地デジ対応テレビだのチューナーだのUHFアンテナだのと言われても、何のことやら、わかるはずがありません」
流行の浴室テレビもアウト
高齢者無視の政策ともいえる地デジ化により、7月にはテレビ難民の続出が危惧されるが、視聴者が被る迷惑や不都合は、年齢に関係がない。
社団法人電子情報技術産業協会によると、現在、各家庭に普及しているテレビ約1億台のうち、アナログテレビは4割程度と推計されている('10年末時点)。
ところが、地デジ化に伴って使い物にならなくなるのは、居間や寝室などに置かれている、この4000万台ものブラウン管テレビ以外にも数多く存在する。
たとえば、せっかく浴室に設置したテレビや、クルマに取り付けたカーナビも、もし地デジに対応していなければ、残念ながら「時代遅れ」となってしまう。
リンナイが過去に販売したアナログの浴室テレビの累計販売台数は、27万台強に上る。
「今後、アナログ放送しか受信できない浴室テレビで地デジを視聴するには、専用の地上デジタルチューナーを取り付ける必要があります(工事費等込みで4万4000円程度)。
もしくは、地デジ対応の浴室テレビ(5・5インチ)に取り替える場合、市場価格は工事費込みで10万円近くになることもあります」(リンナイ営業企画部・商品企画室)
電源や通信線の配線工事が物理的に不可能でない限り、地デジ化に伴ってバスルーム全体をリフォームする必要はないというが、予期せぬ出費だろう。
浴室テレビと同様、地デジ化対策をしなければ、7月以降、テレビが映らなくなるのが、アナログのカーナビだ。
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