口蹄疫:進歩なき防疫対策(下)
(2)右往左往する防疫当局
京畿道北部で最初に口蹄疫の疑いがあるとの通報が入ったのは昨年12月14日だった。しかし、口蹄疫ウイルスに汚染された糞尿運搬車が坡州に立ち入ったのは11月17日と26日だ。安東市で指定されていた口蹄疫防疫網(発生農場から20キロ以内)が完全に崩壊していたにもかかわらず、政府が口蹄疫ワクチンの接種を開始したのは12月23日だった。それも李明博(イ・ミョンバク)大統領が前日の国務会議(閣議)で「過去と同じような対策では解決しない。専門家と相談してより根本的な対策を取りまとめよ」と指示した後だった。
口蹄疫ウイルスを完全に制圧するには、殺処分が最善の方法だ。英国では2001年に2030件の口蹄疫が発生したが、1084万頭を殺処分することで感染の拡大を防いだ。しかし韓国では全国に感染が拡大するペースが速く、殺処分だけでは不十分だった。農林水産食品部も、どの時点で予防ワクチンを接種するかという基準を事前に定めていなかった。
一時は豚肉の輸出を続けるために予防ワクチンの接種をためらったという話もある。いったんワクチン接種を開始すれば、継続して接種を行わなければならない可能性が高いからだ。しかし韓国からの豚肉輸出はわずかで、牛は一切輸出していない。口蹄疫がほぼ放置された状態にある中国やベトナムとの交流が増えた結果、韓国はウイルスに対してすでに無防備な状態に置かれているが、その対策として実利のない殺処分にこだわりすぎた。つまり、グローバル化という環境の変化に防疫対策が追い付いていないということだ。
(3)一部農家の無責任な態度
口蹄疫の感染拡大には一部農家の無責任な行動も大きく影響した。今回、口蹄疫が最初に発生した慶尚北道安東市の養豚地域では、複数の養豚業者が定期的にベトナム旅行に出掛けていた。しかも、帰国の際に空港でしっかりと消毒を行っていなかったことも分かった。
感染対策が出遅れた影響で、非常に多くの畜産農家で被害が相次いでいる。これまで苦労して育ててきた家畜を地中に埋める心情は尋常ではないはずだ。ところが一部の農家では、少しでも補償金を多く受け取るため、被害状況を水増しするといったモラルハザード現象も起きている。
最近は豚肉価格が1頭当たり60万ウォン(約4万4000円)前後と、昨年の30万ウォン(約2万2000円)に比べ2倍近くに跳ね上がっている。その影響で、一部の養豚業者は殺処分に伴う補償金目当てに消毒を怠っているとのケースも農林水産食品部に報告されている。この報告を受けて農林水産食品部は26日、豚に対する殺処分の補償金を、前年度平均価格の130%を上回らないよう規定を変更した。このように口蹄疫が韓国畜産業の根幹を揺るがすほどに大きな問題となっている中、畜産業従事者の一部では相変わらず海外旅行に出掛けているケースもあるという。
方顕哲(パン・ヒョンチョル)記者