現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2011年1月27日(木)付

印刷

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

オバマ演説―寛容と品位を求めた

米国の硬貨には、ラテン語で「エ・プルリブス・ウヌム(多から生まれる一つ)」という標語が刻まれている。13の植民地が結束して独立を達成したことに由来するが、現在ではもっと広く、多様な人種、宗教[記事全文]

谷垣質問―「解散が条件」理はあるか

谷垣禎一自民党総裁が衆院の代表質問で、消費税を含む税制の抜本改革について、菅直人首相が衆院解散・総選挙に踏み切らなければ与野党協議には応じないという考えを示した。「今年[記事全文]

オバマ演説―寛容と品位を求めた

 米国の硬貨には、ラテン語で「エ・プルリブス・ウヌム(多から生まれる一つ)」という標語が刻まれている。13の植民地が結束して独立を達成したことに由来するが、現在ではもっと広く、多様な人種、宗教からなる米国が統合されていることを指す。

 25日の米連邦議会で一般教書演説をしたオバマ大統領の念頭には、この国家理念の再生があったのではないか。

 「チェンジ」の合言葉とともに2年前に誕生したオバマ政権は、折り返し点を迎えた。昨年の中間選挙で与党の民主党は大敗。下院の主導権を共和党に奪われた。

 内政・外交の基本方針を示す一般教書演説で、大統領は改めて超党派路線を呼びかけた。それは、両党の歩み寄り以外に現実に可能な選択肢がないことを意味しているのだが、歴史に照らすと、単なる政治的便宜主義を超えた意味がある。

 1960年代以降の米社会は、公民権運動、反戦運動、女性解放をめぐるフェミニズムの動きなどに、保守層が激しく反発し、文化戦争の様相を呈してきた。保守とリベラルに二極化した社会の亀裂は深まるばかりで、党派を超えた歩み寄りが当たり前だった議会は今や、原理主義の戦場となった。各地で草の根保守の茶会旋風が吹き、ラジオのトークショーやインターネットの言論が憎しみを増長させている。

 白人女性とアフリカ人男性の間に生まれた大統領は、単に黒人の立場を主張するのではなく、異なる主義や文化をつなぐ「ブリッジ」を目指して政権に就いた。しかし、政権の命運をかけた医療保険法は「社会主義」のレッテルを貼られ、かろうじて修正成立したものの分極化は止まらない。先のアリゾナ州トゥーソンの民主党議員狙撃事件で、対立は頂点に達した。リベラル派は保守派の過激な言論が背景だと言い、保守派は精神病患者の犯罪を政治利用しているとなじった。

 この難しい局面を打開したのが、大統領の追悼演説だった。凶弾に倒れた一人ひとりのかけがえのない人生の物語を紡ぎながら、党派を超えて犠牲者たちの願いにふさわしい品位を社会に取り戻そうと訴えた。就任以来最も優れた演説だと評価されている。

 歩み寄りは、法人税率の引き下げなど政策でも表れた。大統領が昨年末に受け入れた富裕層に対する優遇税制の延長は、共和党への妥協である。その取引の中で、米ロの核軍縮条約の承認を勝ち取るしたたかさも見せた。

 政治のレトリックが激化、そして劣化し、妥協の技術が失われているのは米国だけではない。不寛容は先進民主主義国共通の病であり、社会を自壊させかねぬ病理である。多様でありながら一つである、という米国の理念をめぐる格闘は我々の課題でもある。

検索フォーム

谷垣質問―「解散が条件」理はあるか

 谷垣禎一自民党総裁が衆院の代表質問で、消費税を含む税制の抜本改革について、菅直人首相が衆院解散・総選挙に踏み切らなければ与野党協議には応じないという考えを示した。

 「今年は解散に追い込む」としていたこれまでより、対決姿勢を厳しくした発言だ。首相は「解散はまったく考えていない」とはねつけたから、協議に入るめどは立たないままである。

 結果として問題が先送りされ、財政や社会保障の危機を深めることにならないか。論戦を聞いて、そんな懸念を強く抱く。

 谷垣氏の主張はこうだ。抜本改革にあたっては国民の信を問うと、首相自ら述べていたではないか。無駄の排除で財源を賄えるという主張を覆し、消費税を引き上げるなら、成案を得る前に解散すべきだ――。

 首相がその言葉を守るべきなのは当然である。きのうも「消費税の引き上げを実施する際には、国民の審判を仰ぐ方針に変更はない」と答弁したことを覚えておこう。

 しかし、協議にも入らず、改革の姿も示さないまま総選挙を急ぐことに、どんな意味があるだろうか。

 税制抜本改革のため、2011年度までに法を整備するという改正所得税法を成立させたのは自公政権であり、菅政権もこれに沿って対応するとしている。この問題で、2大政党の違いがどこにあるかは見えにくい。いまのまま総選挙を迎えれば、有権者はどう判断すべきか戸惑うだろう。

 まず与野党が協議し、論点を煮詰めることである。合意を得られればそれでよし。仮に得られなかったとしても違いが明確になる。それを避けたままの総選挙は、政策で争い、改革の中身を審判する機会にはなりえない。

 民主党政権が思うように財源を捻出できず、マニフェスト(政権公約)をそのまま実現できていないのは事実である。率直に認め、謝るべきだろう。

 だからといって、それがただちに「政権選択」をやり直さなければならない理由になるかどうかは疑わしい。前回の総選挙から1年半にもならず、衆院議員の任期半ばに満たない。

 頻繁な国政選挙は政治に深刻な副作用をもたらしかねないことに留意すべきだ。総選挙、参院選、それに与党の党首選。日本では首相をすげ替える力を持つ機会が目まぐるしく訪れる。

 その弊害は、このところの短命政権続きを見れば明らかだろう。政治が「選挙目当て」に傾き、腰を据えた政策遂行を難しくしてもいる。

 有権者が十分に考え、判断するには一定の期間が必要だ。その間に争点を明確にし、投票の材料を提供するのが与野党の役割である。それを怠れば、民主主義が時々の空気や感情に流される浅薄なものになりかねない。

検索フォーム

PR情報