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沖縄の救急医療:病院「患者を廊下に」 軽症受診、救急車“タクシー”

 「非常事態」「災害時と同じだ」。これまでほとんどなかった消防からの救急搬送受け入れ要請拒否が大幅に増加し、「断らない救急」を誇ってきた県内の医療体制に赤信号が点滅し始めている。病床が足りず、「患者を廊下に寝かさざるを得ない」と窮状を訴える病院も。軽症にもかかわらず救急病院に頼る患者も多く、関係者からは県民に対して昼間の受診やかかりつけ医の受診、救急車の適正利用を求める意見が相次いだ。

 患者数の増加で、救急搬送の受け入れが困難となる状況は急激に冷え込んだ昨年末から起きている。沖縄気象台によると昨年12月下旬の平均気温は16・1度で例年の17・7度を1・6度下回った。今月に入ってからも例年の平均気温を1・5~2・3度下回る状態が続いている。

 患者は主に高齢者。肺炎や脳卒中などが増加している。通常でも満床に近い状態を退院調整でやりくりしている現場に、患者数の急増があり「災害のような状態」(県医務課)という。病院側は「夜間救急は待ち時間が長くなる。自覚症状がある場合は昼間に受診してほしい」と一様に要望した。

 県防災危機管理課は「救急車の適正利用をお願いしたい」と呼び掛ける。2009年に病気で救急搬送された例のうち、53%は入院に至らない軽症患者だった。琉球新報の取材に対して各消防本部からは救急車をタクシーのように利用する“常連”の存在や、病気でないのに救急車を呼ぶ人がいる実態を明らかにした。

 一方、搬送受け入れ拒否がほとんどなかった中部地区も病床に余裕があるわけではない。ある病院は「救急室の廊下に患者があふれ、入院できずに廊下で寝かさざるを得ない状況。断っていないが限界に近づいている」と現状を説明。「中部は病床数が足りていない。後方施設も患者がいっぱい。一つの病院で対応できる問題ではなく、地域の問題として医療行政が何とかしてほしい。救急病院や連携する後方施設を中心に病床数を増やしてほしい」と要望した。

 ◇<解説>高齢者長期入院も背景

 救急搬送患者の受け入れが難しくなっている背景には、緊急でないのに救急車を利用したり、救急病院を受診する人の多さに加え、高齢者を中心とした救急病院の長期入院患者が多いことがある。

 国は入院医療から在宅医療への転換を進めるが、県民所得が全国一低く、共働きが多い県内は家族の介護力は低い。訪問診療をしている医師も少なく、訪問看護も充足しているとは言えない。在宅医療、介護は難しく、現状は施設や病院頼みだ。

 医療機関は緊急性が高く症状が安定しない「急性期」、状態の安定した「慢性期」で機能を分担しているが、近年は国の療養病床の削減もあり、慢性期を担う病床が不足している。急性期病院が状態の落ち着いた患者を慢性期病院に転院させようにもできない事態が発生している。県内の救急病院の中には30日以上入院している長期入院患者が全入院患者の3~4割を占める病院もある。

 救急病院に働く医師からは老人保健施設などでみとりができないため、終末期の高齢者が救急搬送され、延命治療をしているという指摘もある。ただ施設側も本人や家族の明確な意思表示がなければ、救急搬送せざるを得ない。高齢社会の中で限りある医療資源をどう有効活用するか、老いをどう支えていくかが問われている。(玉城江梨子)

(琉球新報)

2011年1月26日

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