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2011年1月26日(水)付

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ロシア空港テロ―暴力拡大を深く懸念する

ロシアの表玄関のひとつ、首都モスクワのドモジェドボ空港の国際線到着ロビーで爆弾テロが起き、200人以上の死傷者を出す大惨事となった。犠牲者には、英国人やドイツ人といった[記事全文]

鳥インフル―力をあわせ、封じ込めを

高病原性インフルエンザウイルスのニワトリへの感染が広がっている。宮崎県の2カ所の養鶏場で見つかって約42万羽が殺処分されることになったのに続き、鹿児島県出水市でもその疑[記事全文]

ロシア空港テロ―暴力拡大を深く懸念する

 ロシアの表玄関のひとつ、首都モスクワのドモジェドボ空港の国際線到着ロビーで爆弾テロが起き、200人以上の死傷者を出す大惨事となった。

 犠牲者には、英国人やドイツ人といった多くの外国人も含まれている。ロシアの捜査当局は、同国南部の北カフカスを拠点とする武装勢力のメンバー3人をテロ容疑で指名手配した。

 モスクワでは昨年3月にも、40人の死者を出した地下鉄爆破テロが起きたばかりだ。この時も、北カフカスでイスラム統一国家の樹立を目指す武装勢力が犯行声明を出している。

 ロシア政府は10年におよぶ軍事作戦の末、北カフカスのチェチェン共和国で独立を目指した武装勢力を抑え込んだと、一昨年4月に宣言した。だが二つのテロで、武装勢力がなお首都で大がかりな破壊工作を行う力を持つことが、浮き彫りにされた形である。

 ロシアでは今年末に下院選、来年3月に大統領選がある。この政治の季節に向け、武装勢力はテロ攻勢を続ける方針を打ち出していた。また武装勢力の一部には、2014年に北カフカスに位置するソチで開かれる冬季五輪をテロの標的とする動きもある。

 むろん、どんな理由があろうとテロは許されることではない。

 だが、イスラム系の住民が多い北カフカスは、帝政時代からロシアの支配に激しく抵抗してきた歴史を持つ。それがソ連崩壊後に、チェチェン共和国の独立をめぐる軍事紛争となった。

 そこで、ロシア政府は北カフカスで独立派への強硬な政策を進め、住民に大きな犠牲を強いた。その結果が憎悪と報復を増幅させる悪循環を招き、テロの土壌となってきた。

 懸念されるのは、イスラム武装勢力が、イングーシやダゲスタンなど北カフカスのほかの共和国にも広がり、テロ攻勢を強めていることだ。背景に、ロシア政府が押しつけた首長らの無能や腐敗、さらに目立った産業がないことからの深刻な貧困や失業から生みだされる住民の不満がある。

 この不満はロシアの都市部に住む北カフカス出身の若者にも伝わり、スラブ民族主義を叫ぶロシア人の若者らとの衝突事件を、首都や各地で繰り返すようになっている。社会の安定を大きく損ないかねない事態だ。

 テロやこうした暴力の拡大傾向にロシア政府が有効な手だてをとれないなら、ソチ五輪も、18年のロシア開催が決まったばかりのサッカー・ワールドカップも、実施に向けて大きな不安を抱え込むことになろう。

 強硬一本やりの北カフカス政策は限界である。ロシア政府は、北カフカスの経済の底上げや社会政策の実施などを着実に実施しつつ、可能な限り大きな自治を与える方向で住民の理解を得て、安定化を図るほかはない。

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鳥インフル―力をあわせ、封じ込めを

 高病原性インフルエンザウイルスのニワトリへの感染が広がっている。

 宮崎県の2カ所の養鶏場で見つかって約42万羽が殺処分されることになったのに続き、鹿児島県出水市でもその疑いが出てきた。国内最大のツルの越冬地である出水市では昨年12月、絶滅危惧種のナベヅルがこのウイルスに感染したのが見つかっており、ニワトリへの感染が心配されていた。

 同じ昨年12月には、島根県でも感染が見つかって約2万羽のニワトリが殺処分された。宮崎県で口蹄疫(こうていえき)の流行を食い止めるために30万頭近い牛や豚が殺処分されたことも記憶に新しい。

 家畜の大量処分は、精神的にも経済的にも、大きな痛手となる。感染防止策を再点検することはもちろん、これ以上の広がりを防ぐために万全の対策を取ってほしい。

 ほかの地域も決して油断できない。シベリアから渡ってくる野生のカモが運んでくるとみられるウイルスは昨年秋以来、北海道や鳥取県など全国各地の野生の鳥で確認されている。宮崎のウイルスの遺伝子を調べたところ、これらとほぼ同一で、ウイルスはかなり広がっているといっていい。

 感染があった養鶏場では、野鳥の侵入を防ぐ網に穴があったり、鶏舎に入る際の消毒が徹底されていなかったりといった問題もあったようだ。野鳥が入り込まないよう工夫するとともに、フンなどに触れた人や物から感染が広がらないよう、厳重な防疫策がいる。

 このウイルスは、家畜の世話などで濃厚な接触をした人の感染例がアジア各国で少数あるが、普通は人に感染しない。ただし、人のウイルスと混ざったり変異したりすると、人に感染しやすくて毒性の強いウイルスが生まれる可能性があり、警戒を要する。

 一昨年に新型の豚インフルエンザが現れて世界的に流行したが、それまで新型として警戒されていたのは、この鳥のウイルスの変異だった。アジア各国では、ニワトリでの流行が続いており、変異の可能性は依然としてある。

 ただしウイルスは熱に弱く、加熱すれば、仮に肉や卵を食べてもまず問題はない。消費者は冷静に対応したい。

 強い毒性を持つウイルスは本来、広がりにくい。宿主を次々に殺してしまっては、自分も生き延びることができないからだ。ニワトリの大量飼育が、毒性の強いウイルスが広がる環境を生み出した側面もある。私たちの食を支える仕組みと社会の安全を、力をあわせて守らなくてはいけない。

 同じウイルスでも、野鳥に感染すれば環境省、ニワトリなら農林水産省、人なら厚生労働省、また、研究なら文部科学省と、それぞれ担当が分かれている。こんな縦割りでは脅威に対抗できない。野鳥の監視からウイルス研究まで、連携して当たってゆきたい。

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