しらかば帳

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しらかば帳:1年を振り返って 「真実」はどこに /長野

 今年は感慨深い「事件」が節目を迎えた。単独機の事故としては世界最悪の520人の犠牲者を出した日航ジャンボ機墜落事故だ。1985年8月、羽田を離陸した123便は、相模湾上空で異常が発生。操縦不能に陥り、県境の群馬・御巣鷹の尾根に墜落した。当時、「長野県北相木村付近」など墜落位置が錯綜(さくそう)し、「とにかく、行け!」と命じられた先輩記者は多い。

 その後、旧運輸省の航空事故調査委員会は事故原因を(1)不適切な修理により後部圧力隔壁の金属疲労が進行(2)客室の与圧・減圧の繰り返しに耐え切れず隔壁が破壊(3)破壊部分から客室内の空気が機体後部に流入し、内部から垂直尾翼と油圧パイプなどを破壊--と結論付け、われわれマスコミも報道した。

 しかし、この「推論」を疑問視する声は四半世紀を経過した今も強い。

 尾翼を破壊したのが客室の空気なら、一気に空気が抜けた客室はどうなるかという指摘だ。高度約7000メートルで客室の空気が抜ければ、機内の気圧は数秒で外気圧と等しくなり(急減圧)、乗客・乗員は意識を失う。だが、生存者の証言や客室内の写真からは、その様子をうかがえない。

 また、ボイスレコーダーについて、事故調は操縦室内の音声を文章にした「スクリプト」を公表し、音声そのものは明かさなかった。後年、「ドーン」という音で始まり、機長の絶叫で終わる31分間のボイスレコーダーを私は入手した。録音状態は良くなかったが、実際の音声記録とスクリプトは複数箇所に違いがあり、「どこをどう聞けば、そんな会話になるのか」とさえ感じる部分もあった。

 年の瀬を迎え、間もなく「1年間の出来事」が紙面に掲載される。ニュースの大小を問わず、私たちは事実関係をどこまで正確に把握し、事実を積み重ねて「真実」に迫ったか、迫ろうと努力したか。毎年この時期になると、忸怩(じくじ)たる思いにとらわれる。【金塚祐司】

毎日新聞 2010年12月25日 地方版

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