殺人やら自殺やら。あまりの事の重大さに気づいた時、人はこういった行動をとったりする。それは生死に関わる感じで表れる。決しておかしいなどと批判できない。それらは元々の形がそこにあったのならば、それらはいずれ消えてなくなってしまうものなのだから。
自分で言うのもなんだが、僕は大した考えを持っていると思う。正論かは分からないが、僕の中ではちゃんと成立している。のにも関わらず、僕は死ねない。自殺未遂なんて名前の死にきれない渦の中にいる。
なぜだと思う。知らないよ、そんなのこっちが聞きたいさ。僕は十分事の重大さに気づいている。親友を殺したのだ。重大じゃないわけがない。死ぬべきなのだ。死ななければいけない。僕にはそれを行動に移せるだけの理由があるのだから。よし、自殺をしよう。
毎日磨いているピカピカのナイフを手にとって、それを手首の血管に押し付ける。食い込んだナイフの周りから血が滲み出す。もっとだ、もっと出ろ。ナイフを持つ手に力を加える。いけ、いけ、いけ。血が床に落ちる音が聞こえた時、僕の右手はナイフを捨てて準備してあったハンカチで止血を行う。
やめて、そんなことするな。また僕の中にある自己防衛本能が働いたのだ。みるみるうちに出血は止まった。
人の体というものは、必ずしも意思と平行してくれるとは限らないわけである。頭できちんと成立しているものたちのせいで、僕は今日も有限実行には至らないわけだ。
「ごめんよ」
もうこの世にいない親友に向けたその一言は、幽霊を立証できない僕にとって成立することのないものだった。
それなのに目尻から流れる涙に乗せて、
「こんな僕でごめん」ともう一度謝った。乾燥した血でナイフがくすんで見えた。