菅政権による負担増とセーフティネット破壊 - 消費税だけではない
昨日（1/24）、通常国会が召集され、初日から菅直人の施政方針演説が行われた。国会開会に先立って、民主党は午前中に両院議員総会を開き、そこでまた内紛の騒動が起きていたようだが、夜の各局のニュース番組では一切紹介されなかった。本日（1/25）の朝日の紙面でも記事になっていない。テレビと新聞は、演説の中の「国民の皆様に、ある程度の負担をお願いすることは避けられないと考えます」の部分を切り出し、特に強調する報道に徹している。NHKの7時のニュースでは、わざわざ、この増税要請に賛同する「街の声」を拾って放送していた。また、菅直人が演説の中で自公両党に対して協議を呼びかけた点に着目し、協議に応じて責任野党たれと注文をつけている。各紙の社説もそればかりだ。「増税の前に無駄の削減」と言っていた嘗てのマスコミの常套句は全く出ない。菅直人は同じ演説を何度も何度も繰り返している。中身のない、単に消費税とTPPと小沢斬りの宣伝扇動を果てもなく繰り返し、マスコミの拡声器でガーガー流し続けている。国民の脳を漬け込んでいる。その政権に対して、批判はおろか皮肉の一つも言う報道がない。ファシズムの国のようだ。1年前の景色はこうではなかった。平田オリザが書いた鳩山由紀夫の施政方針演説は素晴らしかった。ガンジーの「七つの社会的大罪」を引用して施政方針の基調に据えた構成は見事で、後世に語り継がれる格調高い中身を持ち、政権交代を実感させる光彩を放っていた。
菅直人が政権に就いて以降、ずっと国民負担が増える政策ばかりが執拗に打ち出されている。暗鬱だった小泉改革の時代を思い出すが、具体的に一つ一つ確認してみよう。消費税だけではないのだ。こうした国民にとってネガティブな政策は、菅直人や官邸が正面から表明するのではなく、官僚が裏のリークで新聞記事にして既成事実を作る姑息なやり方をする。最初に新聞で国民に情報を投じ、次にそれをテレビと政治が追いかけて議論し、地均しとガス抜きの後に世論調査で固め、法案化へと日程を進めるのである。列挙すると、�＼験菠欷遒了拿亳此↓�年金支給年齢の引き上げ、�９駝鰻鮃�保険負担の1.8倍増、��B型肝炎救済への増税、�ゴ超�自動車税、がある。他にも見落としているものがあるかもしれない。第一の生活保護だが、これは1/22の朝日の1面に記事として大きく出た。具体的には、小泉・竹中時代の「水際作戦」の復活である。記事によれば、被保護世帯の増加とともに生活保護の費用が3兆円を超し、自治体財政が火の車となっているため、働ける年齢の被保護者には支給期間を3-5年と制限し、期限を越えても自立できない者は保護打ち切りにすると言う。「水際作戦」の復活と法制化を衒いもなく言う官僚も官僚だが、そのリークを1面記事にして平然と布告する朝日の冷酷にも慄然とさせられる。この記事は、全国の福祉窓口の業務態度にも影響を及ぼす。
政権交代による政策転換があり、おそらく、全国の福祉事務所では一昨年から窓口対応が改善されていたに違いないが、現在はそれが急速に冷え戻っていて、小泉時代の原状に回帰しつつあるはずだ。「まだ働けるだろう」とか、「職探しの努力が足らない」と罵倒して追い返す応答マニュアルが復活し、申請書の不受理で自治体の生活保護予算を縮減する行政手法が再び定着するのだ。こうした憲法違反の非人道行政が問題になり、テレビの取材と報道で告発され、世論の非難を浴びた結果、小泉路線を弾劾する民主党政権が誕生したのではなかったか。自民党政権の当時は、不正受給者を論ってマスコミに宣伝させ、「水際作戦」を正当化する狡猾な世論工作をやっていた。現在は、消費税増税の世論固めのため、「水際作戦」復活の牽制球を動員している。生活保護のセーフティネットが欲しかったら、おとなしく消費税を払え、という論理だ。しかし、消費税増税が成った暁には、間髪を置かず法改正して、「生活保護の支給期間制限」を制度化するだろう。ここで思い浮かぶ顔は、内閣府で参与を務めている反貧困運動のリーダーの人である。このように、着々と「聖域なき構造改革」が復活し、セーフティネット切り崩しの布石が打たれているのに、批判者として正義の声を上げない。政権と官僚が政策を小泉路線に戻し、その延長上を突っ走っているのに、政権と官僚の側に身を置いたまま、座視と傍観を続けている。
第二の年金支給年齢の引き上げ、これは入閣した与謝野馨の口から改造と同時に披瀝され、テレビと新聞で大きく報道されて誰もが知る情報となっている。菅政権の手口は、こうやって与謝野馨の剛腕から挨拶代わりの一発を国民の顔面にぶち込み、戦々恐々とさせ、まずは消費税増税への白旗を確実にするところから始めることだ。「4年間は消費税を上げない」などという甘い約束を忘れさせるべく、この恐怖の一撃を入れて震え上がらせるのである。そして、首尾よく国民が白旗を揚げた後は、年金支給開始を70歳に遅らせるか、それとも現状の支給金額を切り下げるか、それが嫌なら保険料を引き上げるか、どれかを選べと国民に迫るのだ。そうして、年金問題を周到に世代間対立の問題に誘導し、老若間の利益争奪戦の図式に持ち込むのだ。「そっちが払え、そっちが我慢しろ」の応酬に仕立てるのである。豆殻をもって豆を煮る。NHKの「日本の、これから」で、三宅民夫が嬉しそうに討論を仕切るだろう。官僚は漁夫の利を得て、現行水準を減額すると同時に、支給年齢を70歳に遅らせる。民主党の09年マニフェストは「最低保障年金」を謳っているが、与謝野馨はこれを否定していて、増税した消費税分を年金に充当する気は毛頭ない。他の一般歳出に回し、さらなる法人税減税の分に回すからだ。これは財務省の意向であり、民主党は夏までに「税方式」を撤回するだろう。与謝野馨に誰かが抵抗しているように見せているのは、菅直人の巧妙な芝居に過ぎない。
第三の国保の負担増。これは、赤旗新聞の記事がネット上に伝播しているもので、ネットでは周知の事柄だが、マスコミの報道では表に出ていない。政府内で制度改悪を検討している途中で、共産党に情報が漏れたということだろうか。いずれ、リークが朝日の1面に載るだろう。情報によると、国保の計算方式を全国で一本化し、低所得者に負担が重くなり、保険料が1.8倍に増えると言う。これも恐ろしい話だ。また、自治体が低所得者向けに独自に保険料負担の軽減措置を実施する場合、財源を国の一般会計からではなく、国保の会計から出すよう制度改定するともある。国はその面倒を見ないということであり、保険料を払えない貧困者の医療費は、自治体が赤字でやりくりするか切り捨てろと言っているのだ。政権交代の前、保険料を滞納して保険証を取り上げられ、病院に行けずに困窮している者たちの惨状がテレビで報道され、民主党に解決の期待が寄せられた焦眉の政治課題となっていた。ネットを検索していたら、2008年の9月に「子どもの無保険問題」で、民主党が健保法改正の議員立法を提起した記事が見つかった。長妻昭が、「無保険で、子どもが医療を受けられず、亡くなったり、障害者になってしまったら、厚労省の責任ではないか」と追及。山井和則も、「子どもには罪はない」と言っている。これから1年後の総選挙で民主党は政権を奪取、長妻昭は厚労大臣に、山井和則は厚労政務官に就く。思えば、やはり長妻昭の存在は大きく、長妻昭の追放は象徴的な政治事件なのだ。
第四のB型肝炎救済の増税。これは、1/21に突然に菅政権が言い出し、マスコミ報道で大きく取り上げられた。地裁の和解案を受け入れた場合、感染患者の救済に3兆円が必要で、その財源確保のために増税を実施すると言う。その増税の具体案については、所得税に一律の％を上乗せする策と、国民から等しく一定額を徴収する策の二つがあり、検討を今後進めるという説明になっている。3兆円を人頭税にすると、1人当たり2万3千円、4人家族で9万2千円の負担となる。B型肝炎は薬害の中でも規模が大きいのだろうが、薬害対策で特別に国民に新税を課すという話は初めてで、しかも人頭税の導入とは驚かされる。これは、過去の幾度かの薬害禍と同じく、医療行政の失政によって生じた損害賠償で、責任は政府（厚生官僚）にあるのに、天下り法人の整理もせず、退職金の削減もせず、低所得者も含めた国民に一律負担をさせて収束させようとしている。国民に責任をつけ回ししようとしている。おそらく、人頭税に反発する世論を掻き立てて、この議論を暗礁に乗り上げさせ、国民の「増税反対論」をタテに肝炎患者側を意地悪く脅し、救済金額を値切るか、問題解決を曖昧にして逃げる気だろう。財源の問題にスリカエる官僚の手口は卑劣だ。自民党時代でも、ここまではやらなかった。そもそも、国の借金は誰が積み上げたのか。その返済に失敗したのは誰で、財政破綻を招いた直接の責任者は誰なのだ。財務官僚ではないか。今後、同じような薬害、病害、災害の救済でも、政府の対策を新税で賄おうとするだろう。「財源新税」の前例になる。
第五の環境自動車税。これは、軽自動車と小型自動車の税体系を一本化するもので、昨年9月、この情報がマスコミに出たとき、軽自動車の税負担が4倍になると物議を醸したものである。その後の税制調査会の議論で、導入が先送りされる経緯になったが、いずれ必ず復活するだろう。この新税は地方税である。軽自動車の比率は地方の方が高い。4月の地方選が終わり、6月の中期財政フレームから8月の概算要求の時期になったとき、財務官僚は、今年は地方交付金の削減を持ち出すだろうと、私はそう睨んでいる。つまり、小泉時代の「三位一体改革」の復活だ。「聖域なき構造改革」だけでなく、「三位一体改革」も姿を変えて復活する。要するに、民主党が台頭して政権を取るまでの間に変えられた流れを、また小泉・竹中の「改革」の原型に戻すのである。小泉・竹中のときに活躍し、この2年ほど雌伏していた新自由主義官僚たちが、昨年から猛々しく一線にカムバックし、菅直人と凌雲会の権力の下で政策と予算の実権を握り直している。以上、「税と社会保障」に関わるところで五つの懸案事項をリストアップしたが、他にも弱者の生活に襲いかかる鞭の音が聞こえていて、その一つはTPPと農家戸別保障の問題である。この夏にマニフェストを見直すと言っている政権は、顔が菅直人でも他の誰かでも、民主党が導入を試みた目玉政策の一つである戸別保障を放棄するのではあるまいか。口実は、例によって「財源問題」。マスコミ報道を見ていると、どうやらそういう流れになっていて、小規模農家には経営をやめろと迫り、その廃業補償を政府はする必要はないと言っている。菅直人を報ステに生出演させたとき、古舘伊知郎は明確にそう言い切り、菅直人に決断を迫った。勇気をもって農家を切り捨てろと、生放送でハッキリそう言ったのである。目撃していた視聴者は多いだろう。
