1月12~14日の日程で来日したゲーツ米国防長官は、菅首相らとの会談で「日米同盟の深化」を優先し、普天間基地問題を先送りすることで一致した。
しかし、先送りに合意したとはいえ、決してアメリカは基地の移設をあきらめたわけではないという。1月24日に『日米同盟崩壊』(集英社)を出版した、日本生まれの元アメリカ軍陸軍大尉・飯柴智亮氏が次のように語る。
「結論から言うと、この問題の解決策は辺野古沖への移設しかありません。迅速な対応が求められる海兵隊の足となる基地は、沖縄になければ意味がない。当初、県外移設を言い出した民主党政権に対して米国側は『おまえら、何言ってんだ?』と思ったことでしょう。テニアン島に移すなどという社民党の提案に至っては支離滅裂です」
ゲーツ長官来日により、米軍・嘉手納基地でF-15戦闘機が行なう訓練の一部グアム移転も決まった。菅政権は沖縄の負担が減ったと自慢しているが、飯柴氏は「自慢している場合ではない」と一喝する。
「この移転は将来的に米軍の沖縄からの撤退と結びつく恐れがあります。中国軍の攻撃力が拡大し、沖縄が安全でないと判断されれば、米軍は躊躇なく撤退する。米軍の沖縄撤退=米軍が日本を見捨てるということ。これは有事の際、安全保障で米国に依存する日本の“消滅”を意味します」
昨年の漁船衝突事件の後に、クリントン国務長官は「尖閣は日米安保に該当する」と発言した。しかし、飯柴氏によれば、この発言は日本を助けるためではなく、グローバルな対中戦略で牽制が必要と判断されたためだという。
「米中関係が好転したり、あるいは逆に米軍の軍事的優位が揺らいだりすれば、米軍が中国の尖閣侵攻を黙認する事態もゼロではない。いつでも無条件で米国が日本を助けてくれると思ったら大間違いです」
巨大な軍事力を背景に、常に日本の領土を狙っている中国。菅政権は、ゲーツ米国防長官との会談で安心しきっている場合ではない。
(取材協力/小峯隆生)
■飯柴智亮(いいしば・ともあき)
1973年生まれ、東京都出身。99年に米陸軍入隊。精鋭の第82空挺師団に所属し、アフガニスタンなどで戦う。2004年、少尉任官。06年に中尉、08年に大尉に昇進し、09年除隊。現在はトロイ大学大学院で国際問題を研究する。
日本の安全保障に危機を抱いた著者が、日米同盟の最前線で体験したアメリカの本音、自衛隊の実態を明かす。このままでは日本は危ない。「中国の属国」にならないために何をすべきなのか? 日本国民への警告の書(集英社/税込定価1260円)