【萬物相】消防官の平均寿命は58歳!?
「どんなに過酷な炎の中でも、人の命を救える力をわたしにください。神の命令に従い、わたしが命を失うことになった場合は、神の恩寵(おんちょう)により、わたしの妻と家族の面倒を見てください」。これは、最近終了したドラマ『シークレット・ガーデン』に登場した消防士が、神に祈るときに語ったセリフだ。閉所恐怖症の男性主人公がエレベーターに閉じ込められた際、救助しようとして殉職した消防士のナレーションとして登場した。このセリフは1950年代末、米国のエルビン・ウイリアム・リンという消防士が、火災が発生した建物から3人の子どもを助け出せなかったことを嘆いたものだという。
消防官の主な任務は火災を消し止めることだが、最近は「万能お助けマン」へと変貌(へんぼう)している。「軒下にあるハチの巣を取ってほしい」「鍵が掛かったドアを開けてくれないか」「家出した子どもを探してほしい」といった通報が寄せられたかと思えば、息絶えた状態で電話を掛けてきた人のもとに救急車が駆けつけたところ、「タクシーが捕まらないから、家まで送ってくれ」という酔っ払いだった、という話もある。また、厳しい寒さが続く中、水が出なくなったとして給水支援を求める人までいるため、消防官たちの疲労はピークに達している。
公務員年金管理公団の資料によると、消防官の平均寿命は58.8歳となっている。韓国人男性の平均寿命の77歳より18年以上も短い。これは火災現場で有毒ガスを吸い込むことが原因だとされる。また、30キロを超える装備を身に着けるため、椎間板ヘルニアを患うケースが多く、さらに凄惨(せいさん)な現場を目の当たりにすることで、相当なストレスを抱えるという。嶺南大医学部が、大邱市の消防官たちを対象に調査を行った結果、消防官の21.5%が心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しめられていることが分かった。
先週末には、光州市の高層マンションの外壁に付着した危険なつららを除去してほしいという通報を受け、消防官たちが出動した。ところが作業中に、高層用はしご車のリフトのワイヤーが切れ、ワイヤーが36メートル下に落下した。この事故で、消防官一人が死亡、一人が重傷を負った。事故を起こしたはしご車は、使用期限(15年)が3年以上も超過し、老朽化したものだった。全国に195台ある高層用はしご車のうち、11%(22台)は使用期限を超過しているという。
2004年に消防防災庁が発足して以降、5年間で31人の消防官が殉職し、負傷した消防官は1560人に上る。どんなに大きなけがを負っても、国家が治療費を負担する期間は一般の公務員と同じ3年間にすぎない。老朽化した装備に命を委ねるしかない消防官たちに、月5万ウォン(約3700円)の手当を支給するだけで、自負心や矜持(きょうじ)を持てというのはあまりにも無理がある。
趙正薫(チョ・ジョンフン)論説委員